27話 ○ートと代償。
「髪の毛切ろうよ、とわ君。」
輝く笑顔でエルクさんがそう言った。
「えっ?なんで急に!?」
戸惑う俺をエルクさんは無理やり椅子に座らせる。
「いいからいいから。私が切ってあげるからね!」
なんでこんなにテンション高いのエルクさん。
俺の上から布を被せエルクさんが髪を切り始める。
「ティウの髪の毛も私が切ってるんだよ。」
「そ、そうなんですか。」
急な展開について行けず困る俺。
「あのね、内緒だよ。」
えへへって、見たことない笑顔でエルクさんが笑う。
「ルビアと合体してね。前髪を上げてるとわ君格好良かったんだ。」
突然のエルクさんの言葉に顔が赤くなるのが自分で分かった。
・・・下半身が元気になってしまうのも。
涙?
つい昨日の出来事を夢に見た。
自分が涙を流しているみたいだが意味が分からない。
腕を動かそうとして全身に激痛が走った。内側から燃やされてるような尋常じゃない痛み。
なんだ、これ!?
体が全然動かない、焦りから一気に頭が覚醒する、そのまま頭の中がぐるって回る。
腹の中身を吐き出した所で意識が落ちた。
リハビリ室で彼女に出会った。
入院着の上からカーディガンを羽織った同い年の女の子。
蒼空めぐる。
「文広君か、よろしくね。」
肩くらいまでの髪を小さな赤いリボンで束ねたその子は明るく笑った。
俺は何も言葉を返せなかった。
高校に行かなくなってから女の子と話す機会なんてなかったからな。
俺は自分は何もせず、ただ体力を落とさないようにと体を動かず彼女を見ていた。
幸せそうに夢を語る彼女が俺には理解出来なかった。
同じ境遇で、絶望する俺と希望に向かって進む彼女。
いつからか、彼女の夢が俺の願いになった。
ただ彼女の幸せを願った。
彼女の様に俺も何かしたいと思って小説を書き始めた。
彼女の苗字をもらって主人公の名前をそらにした。
彼女は俺の憧れだった。
恋ではなく、希望。
目が覚めた時、夢の中身は一切自分の中になくて、ただ恐怖と不安がいっぱいだった。
「エルクさん!!エルクさん!!エルクさん!!」
体は依然動かなくて毎秒襲ってくる吐き気と戦いながら、ただエルクさんの名前を呼んだ。
そうしないと何故か不安に押しつぶされてしまいそうで叫び続けた。
エルクさん体が凄く痛いんだよ、気持ち悪いんだよ。
優しくしてよ。
お粥とか作って食べさせてくれたら嬉しいな。
ああ、知ってるよ。
エルクさんはもういないんだよ。
俺が弱いから、俺にはなんの力もないから。
「えるくさーーん!!」
「とわくん!!」
とてとて走ってきたティウちゃんが寝たまま動けない俺に飛びついてくる。
うぎぃーー!!
痛い!!
むりー!!
やめてー!!俺の首に腕を回さないで!!
ちぎれそう!!
なんか、内側から痛みでもげそう!!
「とわっ!!?ティウ、やめろ!なんかとわの様子がおかしい!!」
現れたルビアが俺の異変に気付いてティウちゃんを掴んで俺から引き離す。
もっと優しくして!!
体が少し動くだけで死にそう。
いや、もうだめむり。
首を横にした体勢のまま俺は息絶えた感じに脱力する。
「とわくん。だいじょうぶだから!ティウがいるから!だいじょぶだよ!」
ルビアにつまみ上げられてるティウちゃんが必死に叫ぶ。
一番辛い筈なのに、俺のことを励まそうとしてくれてるんだ。
俺は閉じかけた目を一生懸命開いてティウちゃんを見る。
ごめん。ってそのまま弱い言葉を吐きそうになるのを堪えて飲み込む。
「ありがと。・・・てぃうちゃんにはおれがいるからね、」
声は弱々しくしか出なかった。
どうなってるんだろ、俺の体。
「とわ、大丈夫か?何か食べるか?水飲むか?」
優しく問いかけてくれるルビアだけど答える力がない。
ほんの小さく首を振ってまた激痛に苦しめられる。
「うぐぅうっ!」
「とわ!!・・・ゆっくり休め。ここは安全だからな。」
ありがとルビア。
・・・ここは洞窟の中?
エルクマさんの家か。
ルビアがここまで連れてきてくれたのかな。
「まだ、体は治らないのか・・・とわ、もう1週間も寝てたんだぞ。」
1週間!?
なんでそんなに。
エルクさんの事がショックで?じゃあ、体の痛みは騎士達に?
・・・あれ、じゃあどうやって騎士から逃げたんだ?
・・・あれ?
・・・俺が殺した?
なんだ、この記憶・・・俺が殺した!?
そうだ。
俺が殺したんだ。
じゃあ、この痛みは自分を燃やした代償か。
なんなんだろ、あの魔法の使い方は。
炎で自分の中を燃やして力に変えるイメージ、・・・そりゃあんな使い方をすれば体もおかしくなるか。
なんでだろ、どうしてあの力をエルクさんを守るために使えなかったかな。
「とわくん、だいじょぶなの?」
ルビアの手を放れてティウちゃんが俺の顔をのぞき込む。
「だいじょぶだよ。・・・ティウちゃん、は?」
「だいじょぶ。るびあも、えるくまさんも、おっちゃんたちもいるから。」
大丈夫な訳がないよな。
ティウちゃんは途中流れる涙を慌てて拭いた。
俺はそれを見ていられなくて目を閉じて、そのまま寝てしまった。




