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 26話 ○ート崩れる。



どうして、こんな事になっているんだろう。


夢なら早く覚めて欲しい。



自分の上で槍に胸を貫かれたエルクを呆然と見ながら、とわは現実逃避気味にゆっくりと考える。


とわを庇おうとしたエルクにもう息はない。


地面に仰向けのとわも、家の前でティウを背に立つルビアも武装した男達に囲まれていた。


それは盗賊などではなく、見るからに騎士だった。


「・・・愚かだな。人に害なす王竜とその契約者、そんなものを守るために死ぬとはな。それが人の親だと言うのだから愚かとしか言いようがない。」


白銀の鎧、白銀の剣、金色の髪を風になびかせ1人の騎士が前に出た。


光をなくしたとわの目はその騎士を見てはいるものの怒りはない。


そこに怒りを感じてしまっては認めることになるから、認めたくないと自分を無にする。


きっと自分も刺されて目を覚ますんだ。


そうだ、起きればみんなでまたエルクさんの朝ご飯を食べて、平和な一日を過ごすんだ。


見たくない現実から逃げて、とわは早くこの悪夢を終わらせて欲しいとボンヤリと考える。


とわとルビアの旅立ちは明日の筈だった。


ティウがまた泣き、エルクはとわに大金を渡しこのお金で宿では絶対にルビアと部屋を別にするように強く言い、何故かルビアはとわを風呂に誘う。

三者がそれぞれにとわを困らせている時に騎士団が訪ねて来た。


目的はルビアととわの命。


話し合いでは解決が出来ずエルクは死んだ。


ルビアとの融合、プラスハートは使用期限がまだの為に使えない、敵わない事は分かっていたのにとわは挑もうとしてエルクに守られた。


ティウが泣き叫び、ルビアが必死にとわを呼ぶ、騎士達も何かを言っているが、とわの耳には雑音にしか聞こえない。


もう何もいらない、必要ないと世界を閉ざそうとしていた。



「あーあ。出遅れちゃったね。王竜と契約したやつ、まだ生きてる?」


雑音の中、その声だけは意味を伴ってとわに届く。


それは少女の声だった。


「まー、王竜がこんな奴らにやられる訳ないか。ねーねー、今どういう状況?私に教えて。」


とわの視界に入ったのは普通の女の子だった。


可愛くない訳でもないが、可愛すぎる訳ではない、そう普通の、肩ぐらいの長さの黒髪の少女。


「ところで、この死んでる女は?」


息絶えたエルクをつまらなそうに見た少女の目がとわを見て大きく開いていく。


「・・・ふみひろ、とわ?」


少女に名前を呼ばれただけで何かに握られたようにとわの胸が締め付けられた。


「・・・えっ?」


「久しぶり。文広君もこっち来てたんだね。まー、当然と言えば当然か。覚えてるよね?蒼空めぐる。」


そらめぐる?


知り合い?転生者?


記憶を探っても何も出て来ない。


ただ、胸の気持ち悪さだけが強くなっていく。


「えうっ!、」


吐き気をもよおし口を抑える。


騎士がそらに何かを言っているがとわにはそれはもう感じ取れない。


「文広君、どうしたの?・・・まー、いいか。そうか、あっちの赤髪が王竜・・・契約した転生者って、文広君か。」


困ったと言いたそうにそらは長く息を吐く。


「さー、どうしよっかな。」



ああ、そうだ。

そらって、俺の考えていた主人公の名前だ。


苦しみに意識を飲まれながらとわは思う。意識が違う方向に行き考えがおかしく歪む。


きっと、悲劇の主人公だった。


似たような状況あったな。


最愛の姉が自分を庇って死ぬんだ。


そうか、こういう気持ちだったのか。


ボンヤリとした頭でとわはエルクの死を受け入れていく。


もう、全部がどうでも良くなるな。


それでも、殺した相手は許せない。

何より守れなかった自分が許せない。


じゃあ、燃えてなくなってしまえ。


エルクさんを殺したあいつらも、弱い弱い自分もなにもかも


「文広君?」


ゆらりとエルクの下から這い出たとわが立ち上がる。


「燃えてなくなれ。」


開かれた目に光はなく、映るのはただ敵の姿のみ。


獣を思わせる踏み込みから爆発的な加速、一瞬で少女を通り過ぎ、全身を込めて打ち出したとわの拳は騎士の顔を捉え・・・破裂させた。


「・・・へえ。」


とわを目で追うそらは面白そうな笑みを出す。

その普通の少女の顔立ちには似合わない仄暗い笑みを。


「とわ!!」


ティウを両腕で包みながらルビアが声を上げる。


まただ、またアレだ。


とわがとわで無くなるナニか。


目の前でエルクを殺された自分の非力さに対する悔しさで強く握っていた手からは血が垂れる。


とわとの契約でこんなにも力をなくしてしまうとは、そして、それでもとわと一緒にいれるならいいと思ってしまった自分の甘さを悔やんでも悔やみきれない。


契約者をあんな風にして何も出来ないなんて。



とわの姿は暴走していると表現するのが正しい。


獣じみた動きとただ暴力として振るわれる腕、平凡な身体能力しか持たない筈のとわが高い能力を有する騎士を圧倒する。


騎士の武器で傷つけられようと全く怯むことなく突き進む、その拳は素手で騎士の鎧を砕き破壊する。


強くなりたいって言う癖に弱々しく甘い、臆病なとわがルビアのお気に入りだ。


虫が出ただけでルビアの背中に隠れて、でも自分が何とかするって意気込んで、覚悟を決めるのに時間がかかりすぎて結局ティウに助けて貰って、シュンってへこむ。

そんな情けないとわがいい。


なのに、何なんだろうアレは。


守るための、戦うための力。今自分の命も危ないこんな状況ですらルビアはそんな言葉では割り切れなかった。


「くそっ!!なんなんだ!あいつは!!王竜だ!こいつを先に殺すぞ!!」


一時呆気に取られていた騎士達が改めてルビアに向かって剣を構える。


今のルビアでは騎士の1人でも相手にもならない。


守らねばならないティウを抱いたまま憎しみと悔しさを込めて騎士を睨む。


ルビアが睨んだ騎士が突然に炎に包まれた。


「なんだ?・・・っ!!」


ルビアは自分に王竜としての力が戻っている事に気付き、反射的にとわを見る。


とわの力が上がったから、自分の使える力も増えた。

そういう事なら納得出来る。

だが、これはそういう感じではない。


契約そのものが揺らぎ力が戻っているのだ。


「あり得ない!」


声に出しながら腕を振るうルビア、放たれた炎が周りの騎士達を一掃した。


王竜の自分を縛る契約が人間の力でどうにかなるなど考えられない。


「とわ、なんなんだ、お前は・・・。」


ルビアが見つめる先で最後の騎士を倒したとわの体が地面に崩れる。



気付けば近くに少女の姿はなかった。




「・・・今日は見逃してあげる、文広君。一緒に絶望を歩んだ仲間だもんね。」


蒼空めぐるは自分が刀で刺し殺した金髪の騎士団長を地面に放り歩き出す。


「王竜殺しか・・・楽しみ。」


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