ママとドラゴンさんが見てる。
どうしてこんな事になっているのか。
希望なんてなかった。
絶望の中で、ただ待つだけなんだと思っていた。
でも、君に出会えた。
君は俺の希望だったよ。
同い年の君が、俺には太陽みたいに思えた。
世界中の誰よりも君に幸せになって欲しいと願った。
叶わない願いと知りつつも毎晩毎晩心が壊れそうな程に祈った。
ねー、
名前を口に出そうとして目が覚めた。
懐かしい夢を見た。
流れていた涙を拭き、身体を起こす、そして気付くと懐かしいと思った夢は一欠片も自分の中に残ってはいなかった。
その懐かしさは自分にとって凄く大切な気持ちだった気がするのに、想い出すことは出来なかった。
「誰、だった?・・・?」
動かした手のひらに何とも言えぬ柔らかさが・・・無防備な姿で寝ているエルクさんの胸だった。
・・・そして、自分はと言えば男子の朝の生理現象。
俺はこっそり静かに中腰で、エルクさんティウちゃんの寝る寝室から逃げ出した。
「ふー。」
そのまま家の外まで出てゆっくり息を吐く。
思春期の俺には刺激が強すぎるぜ。
危なかった。
もし、あそこでエルクさんが目を覚ましていたらどうなっていたか・・・、いや、もしかしたらエッチな展開にもなっていた可能性も・・・。
「・・・うーむ。」
「もう起きたのか、人間。」
声をかけられ振り向くとそこには牛位の大きさのドラゴン、小さくなった王竜ルビア・サンデットさんがいた。
「おはよー、ルビアさん。人間じゃなくて、ふみひろとわだよ。」
俺が言うとルビアさんは鼻で笑った。
「なら私もルビアでいいぞ。・・・とわ。」
「・・・分かった。昨日はありがとう。ルビア。」
言いながらルビアの頭を撫でてみる。
鱗は硬いのに、生き物の暖かみがあってなんだか変な感じ。
「私は何もしていないがな。」
「そんな事ないよ、ありがとう。」
ルビアは一言「目障りだ。去れ。」そう言っただけで盗賊達は逃げ出した。
エルクさんも凄い驚いてたな。
村の人達の反応も凄かった。
俺とエルクさんはそんな村の人達を無視してティウちゃんを迎えに行って、なぜかそのまま一緒に寝たんだよな・・・はー、凄い幸せな時間だったな。
ルビアに凄いお礼を言って、何かお返しをしたいとエルクさんが聞くと、人間の家庭料理を食べたいって言うからルビアも今ここにいるんだ。
「ねー。なんでルビアは助けてくれたの?」
ルビアの横に腰掛けて聞いてみる。
「・・・暇つぶしだ。」
「そうなんだ。・・・じゃあ、今までも結構人を助けてあげてきたの?」
空を見ていたルビアが半眼で俺を見てくる。
「そんな訳ないだろ。私が人間にどれだけ恐れられていると・・・そうか、お前、とわは転生者か。」
「うん、そうだよ。」
そうか、転生者だとあんまり王竜の事を知らないから恐れないのか。
「ふん。なるほどな、ならあの程度の相手、私の力を求める必要などなかったろう。」
「ああ、いや俺そういう特殊な能力をもらってないみたい。最近は少し強くなってきたけどね。」
笑って力こぶを作ってみる。
服に隠れて見えないけどなかなかの固さなんだよ。
ルビアは何故か目を丸くしている、器用に表情変えるんだな。
「なぜだ!?なんで私を恐れなかった?」
「!!・・・いや、恐かったよ。っていうか、本当は今もちょっと恐いし、」
急に目の前で口を大きく開かれたから凄いビビった。
「・・・そうか。ふん。お前は変な奴なんだな。」
ルビアが笑う。
ドラゴンも笑顔は優しく見えるんだな。
エルクさんは凄い悩んだ結果唐揚げとシチューをルビアに作っていた。
ルビアは気にいったみたいでいっぱい食べていた。
私は洗濯物を干しながらチラリと横目で大きなあくびをしている王竜ルビアを見た。
助けにこの王竜が現れた時はそれはもう驚いた。
何よりも恐ろしかった。
正直私はとわ君が王竜に乗っているという状況でなければ正気を保てなかった自信がある。
助けに来たと言われても、私は自分の事よりも王竜に乗ってるとわ君の方が心配でしょうがなかった。
結果それが私に私を保たせてくれたのだけど。
とりあえず、あの存在としての威圧感と恐怖は忘れられないだろう。
お礼に家庭料理が食べたいと言われた時も焦った。
家庭料理って・・・
なんとか気に入ってもらえて良かった。
だが何故にあんなにもとわ君は王竜に馴れ馴れしく、ティウは王竜に唐揚げを手で食べさせていたのか。
取り繕った表情のまま私は汗ダラダラだったよ。
だって王竜だよ。
伝説になる最強の一体だよ。
何故その王竜ルビア・サンデットが未だにうちにいるのか。
いや、助けてもらった恩はあるし、あれなんだけどね。
毎食ご飯を考える私のストレス。機嫌を損ねたら私達が食べられるんじゃないかという恐怖ね。
なんでとわ君はモンスターにやたら好かれるんだろう。
フォレストベアーに始まりゴブリンとまで仲良くなったと思ったら、次には王竜。
本当あの子は驚きも感心も通り越して、ただただ呆れてしまう。
転生者ってこんなのだっけ?
いや、私の知ってる転生者はこんなのじゃなかった。
私もすぐにとわ君に影響されてルビアに馴れてしまうんだろうと思うと笑ってしまう。
実際、ルビアはいつも美味しそうにご飯を食べてくれるしね。
想像以上に知能が高く大人しいし。
「ねー、ルビアさん。今日は何食べたい?」
思い切って聞いてみた。
「ん。なんでもいいぞ、お前の作るものは美味いからな。・・・だが、そうだな、オムライスが食べたいかな。」
私は王竜の前だというのに吹きだしてしまった。
オムライスが食べたいってそんなティウみたいな事を王竜が言うなんて。
「どうしたんだ?」
王竜が首を傾げる姿が不思議とかわいく見える。
「なんでもないわ。じゃあお昼はオムライスにしますよ。」
「ふん。期待してる。美味く作るのだろう?」
笑顔を見せる王竜に私も笑顔を返した。
まさか、こんな日が来るなんてね。
「本当、とわ君は不思議。」
「ふん。本当だな。あんな人間私も初めてだぞ。」
私の呟きにルビアも乗ってくる。
「ね。」
「まさか私が人間に頼み事をされる事などあるとは思わなかった。」
くくく、とルビアが笑う。
「それも何の力もない弱い人間だからな。」
本当に。
力が無くともとわ君はこの恐ろしい王竜に立ち向かったんだよね。
・・・私のために。
命がけ、そんな言葉では表せない位の勇気だろう。
嬉しさと申し訳なさで胸の中がくしゃくしゃした。
弱くても他人の為に戦える。
きっとそれは本当の強さだね、とわ君。
「どうした?気分でも悪いか?」
私はとわ君が私の元から旅立つのをなんとなく予感した。
1ヶ月くらいなのに、すっかり家族なんだよね。
あーあ、寂しいな。
「ルビアさん、とわ君の事お願いしますね。」
「ん?・・・ああ。任せておけ。」
はー、すっかり気に入られてるんだね。
始まりは妙な気配に気付いた事だった。
強い圧力を確かに感じた。
何かに興味を持つことすら久しかった。
私はすぐにそこに向かった。
そこにいたのはただの人間だった。
私に怯えるだけのただの人間。
興味は一瞬でなくなった。
去ろうとした所に声をかけられた。
助けて欲しいと。
明らかに怯え萎縮しているのに、この私にそんな言葉を向ける。
面白いとは思った。
だがそれでも聞いてやる筋合いはない。
そこに現れたのは熊種のモンスターだった。
その人間を自分の息子と呼ぶおかしなモンスター、人間をどう思おうと構わないがそれで私の前に出るという事が信じられなかった。
何があっても埋められない力の差がある事は分かっているだろうに。
更にはゴブリンまで姿を見せた。
何が起きているのか理解に苦しんだ。
睨めば死ぬような下等なモンスターが私の前に立つのだ。
その人間を兄弟と呼んで。
いったいその人間に何があるというのか、見れば言葉も通じていない人間とモンスターが。
人間はモンスターを庇う為に声を上げ、モンスターは人間を助けて欲しいと鳴く。
人間に狩られる側の、人間を敵と憎む弱いモンスターが、この人間はモンスターだからと区別しないから助けて欲しいと言う。
何を考えてこんな事になったのやら。
ふん、だが別にいいかと私は思う。
暇だしな。
興味はあった。
熊のモンスターが言っていた言葉、この子がくれる笑顔が愛しくてたまらない。
モンスターのセリフじゃないと思いつつ、長い時を生きても見た事のないものに、私の胸は確かに揺れた。
「ルビア、オムライス美味しいね。」
外で一緒にご飯を食べるとわが無防備な笑顔を見せる。
「ふん、美味いな。さすがはとわの母だな。」
あの女の作るオムライスは予想以上だった。
この巨大な卵はどうやって焼いたのか、そして見事なふわふわっぷりだ。
「だからエルクさんは俺のお母さんじゃないんだって。」
とわが笑う。
本当だな。
モンスターである自分を許すような笑顔を、愛しいと感じてしまうよ。




