14話 ○ートと大地に立つ。
いやだ、いやだ。
胸の中で全力で叫びながらそれでもただ走り続けた。
「・・・っぐ!!」
木の根に足を取られ身体を地面に叩きつけた。とっさに持ち上げティウちゃんを庇えたのはファインプレーだったと思う。
身体の痛みが余計に心の痛みを強く認識させる。
心臓が異常な速さで脈打つ、森の中まで一度も休まずただ必死に走ってきた。
いや、逃げてきた。
頭の中で何度エルクさんが斬られる姿を想像したか分からない。
「いやだ、いやだよー、」
地面に顔を押し付けたまま嗚咽を繰り返す。
でも俺は弱い。
エルクさんが逃げて欲しいって言ったんだ。
疲れてもう動けない。
きっとエルクさんなら大丈夫だ。
俺が行っても何の役にも立たない。
嫌だって言葉と、逃げ出す言い訳が今でも頭の中を暴れ回る。
その中で誰かの姿が見えた。
全身を黒に包んだ男、いや少年だった。
現実ではない。
それは自分の中にいた。
それに気付いた時、暴れ狂った心は静かになっていた、まるで台風の目の中の様に。
自分がその少年のなにかを待っている。
そう思った。
そして、少年が叫ぶ。
『明日の後悔なんて知らないっ!!今!嫌だって思うことが全てだ!!』
そして少年は戦いに行く。
遠い遠い記憶の先にある姿。
それは俺が考えた主人公だった。
無謀だって分かっていて、それでも戦って、願いは叶わず、守っても守ろうとしても失うものばっかりで、それでも戦って、そして最後には自分の命も散らす、そんな主人公。
気付けば俺はティウちゃんを地面に置いて立ち上がっていた。
「行かなくちゃ。」
言い訳は言い訳でしかなくて理由にはならない、弱くてもなんでも、嫌だと思うなら戦わなきゃいけない。
違う。
願いがあるなら前に進まなくちゃいけないんだ。
それが俺の憧れた生き方だから。
少年の姿に被るように一瞬別の人影が見えた、酷く弱々しく感じるそれが何だったのか、俺には思い出せなかった。
ただ、胸が熱く動き始める。
「エルクさんがいなくなるなんて嫌だ!だから、俺は戦うんだ!!」
決意を言葉にして叫ぶ。
まずは戻ろう、弱くたって出来ることはきっとある、戻りながらそれを考えよう。
きっと何とかなる。
そんな幻想の感覚で胸がいっぱいになっていた。
だから、気付くのに遅れてしまった、自分を見ている目がある事に。
気付いて反射的に上を見上げ、後悔した。
自分を見る目は六階建てのデパートの屋上程の高さにあった。
大きな真紅の瞳、それが感情を映さずに俺を見ていた。
俺はそれが自分を見ていると気付いた時に、自分が命ある生き物だと言うことを忘れた。
例えば命宿らぬマネキンだろうと人間だろうと、鉛筆やドングリだったとしても何の変わりもないと思えた。
王竜、最強と言われる一体。
名前は忘れたがその赤黒い例えようもない程大きな身体の生き物は、俺がこの世界に来て初めて見たモンスター、エルクさんが教えてくれた最強のドラゴンだった。
なんで、こうして目の前にいるのか分からない。
そもそももう何も分からない、何も考えられない。
ただ、運命に身を任せるしか。
・・・違う、忘れられはしない。
俺はエルクさんを守りたいんだ。
ドラゴンの目が、俺になんか興味がないと言うように離れようとする。
助かった。
反射的に思いそうになってそれを消した。
違う、そうじゃない。
止まりかけていた胸の熱が再び高まる。
「ドラゴンさん!!俺の言葉は分かりますか?」
離れようとする目を自分に戻そうと俺は叫んだ。
そして願い通りにその目はもう一度俺を映す。
全身を潰そうとするような恐怖に俺はすぐに後悔した。
それでいい、後悔したって構わない!
だから、願え!
自分に言い聞かせなんとか立ち続ける。
「ドラゴンさんは、凄いドラゴンなんですよね?助けて貰えませんか!!」
ドラゴンの大きな口が笑うように開く。
「人間よ。それは私に言ったのか?人間如きがこの私に?」
耳に流れてくる声は今までに聞いたことがない程に力に溢れ、その空気の震えだけで俺を潰そうとしている。
それでも、実際に潰れる訳じゃない。ただ、怖いだけだ。
まだ、俺はここで生きている。
だから、叫ぶ。
「あなたに言いました!!力を貸して貰えませんか!?」
沈黙が流れる。
無謀だろうか?
だけど、もし助けてもらえたなら、きっとエルクさんを救える筈だ。
お読み頂いてる方ありがとうございます。
ようやく少し物語が動き出す筈です。
コメント、感想などいただければ嬉しいです。




