神様が見てる③
『神様にいてほしい。』
その言葉は私の胸に強く響く。
私は私の価値がよく分からない。
高い能力も美しいと呼ばれる容姿も、神としての高い地位も。
それを持っていても何の価値があるのかよく分からなかった。
『ずっと見てくれた神様がいて、よく頑張ったねって言ってくれたらさ、少しだけどさ、それで救われる事もあると思うから。』
ただ、それだけでいいのか。
それだけで救われるのか?
地位も力も姿でもなく?
ただ、見続け認めるだけで?
だったら私は君を見続けよう。
きっと、そんなに上手くはいかないだろう。
欲望を求め人は変わってしまう。
ただの言葉だけで救われはしないだろう。
それでも、もしかしたら、
そのもしかしてを求めて私は彼を見届ける。
・・・他でもない私が彼に救われたいのかもしれない。
私が自分では見つけられなかった私の価値を、彼はくれるのではないかと。
本当はリアルタイムで見たかったが、それは天使達に却下された。
私にも仕事があるから、仕方がない。
代わりに週に一度の鑑賞会を用意してもらった。
それが今日、楽しみで仕方なかった。
天使達には彼の良さが分からないようだ。
それでいいよ。
他の転生者には人を超えた力が与えられてる、それを知ってもなお、彼はそれを妬み、自身もと求めたりはしない。
それだけで素晴らしい。
臆病でもいいじゃないか。
そんな彼が一人で戦いに行こうとしてる。
変わりたいのだろうか?
閉じられた門に諦めてくれたら良かったが、彼はそうしてはくれなかった。
力を与えなかった私が言うのもなんだが、この世界は危険だ。
出来れば危ないことなどして欲しくはない。
それでも彼は走る。
物音に驚き、蜘蛛に怯え、それでも前に進む。
天使達は彼を笑うが、私は弱くとも進もうとするとわくんを愛おしく思う。
そんな彼の前に現れるゴブリン。
「とわくん!逃げて!」
私は思わず声を上げた。
走り出すとわくん、だが逃げ切る事が出来るのか?
ゴブリンは個体数の多いモンスターだ、すぐに他のゴブリンも現れるだろう。
ここは正直逃げるよりも戦うべきだ。
とわくんも同じ結論に到ったのか、剣を抜く。
勢い良く振り返りゴブリンへと向かう。
大きく振りかぶった剣を振るう!
これは決まる!
そう思った瞬間だった、とわくんのバックステップ。
なんだ!?遠距離攻撃を避けた?でも、そんなもの見えなかった・・・
ああ、そうか、その表情・・・斬れなかったんだね。
「バカ。」
体勢を崩したとわくんに襲いかかるゴブリン、とわくんの髪を掴み顔を地面に叩きつける。
「とわくん!!」
とわくんが殺されちゃう!
助けに行かなきゃ!・・・違う、これはもう起こった事なんだ・・・。
倒されたままのとわくんが上に向かって剣を振るった。
胸の所をかすった!?
ゴブリンの体勢が少し崩れる、腕で地面を押してとわくんがゴブリンに頭から突っ込む。
ゴブリンを吹っ飛ばした!
やった!
起き上がるとわくんは両手で剣を握る。
その四肢は震え、顔が緊張と恐らくは精神の葛藤でガチガチに歪む。
・・・もう、戦えないんだね。
倒れたゴブリンがゆっくりと起き上がる。
帰れ!帰れ帰れ!!
私は心の中で必死に願う。
私の願いが通じた訳じゃない、それでもゴブリンは逃げ去った。
ほっと息を吐く。
その場にしゃがみ込むとわくんは泣き出した。
恐かったんだよね。
自分が暴力によって殺される事も、暴力によって奪うことも。
・・・これは私の罪だ。
何も説明もせず、能力も与えずに異世界に放り出した。
私が背負うべきもの。
もしも、君が望むなら、いつでも他の転生者と同じように力を与えよう。
他の転生者と同じように・・・。
泣いていたとわくんが顔を上げる。
何かの音か?
ゴブリンの鳴き声、何かを襲っている!
とわくんは剣を握り走り出した。
バカ!そんな事、君が行かなくていいのに。
小さな子熊が、ゴブリンに襲われている。
子熊といってもモンスターであることに変わりはない、だがまだ戦う力は無いようだった。
三体のゴブリンと子熊、逃げようとしてそれすらも阻まれて叶わない子熊の未来は決まっているのだろう。
『やめろ!!』
彼はその未来に抵抗する。
どうして、臆病なくせにすぐに泣くくせに、戦うことを選んじゃうの。
彼は剣を鞘に納め、素手の拳でゴブリンを殴った。
怯むゴブリンに続けて蹴りを入れ、子熊の前に道を開く。
『くまさん!逃げるよ!!』
子熊に対し呼びかけ、導くように手を伸ばす。
その言葉に従いとわくんの方へと駆け出す子熊、だが、とわくんはそれを裏切るように逆に走り出す。
『くまさんはそのまま行って!!』
剣の入った鞘をベルトごと外したとわくん、子熊を追おうとしたゴブリンをそれで殴りつける。
判断は正しい、今のまま一緒に走ってもすぐに追いつかれるから、時間を稼がなくちゃいけなかった。
鞘付きの剣ととわくんの腕力ではゴブリンを倒すには至らない。それでも、動きを止めることは出来た。
すぐに自身も離脱しようとするが、最初に蹴りを入れたゴブリンに横から背中を殴られる。
『ぐっ!』
体を沈ませるがなんとか耐え走る。
腕を伸ばしてくるゴブリンに横なぎに振った剣を当て距離を開く。
『くまさん!・・だいじょぶ!?』
子熊に追いついたとわくんが聞くと走る子熊が『ぐるぅ。』って頷いた。
『そっか、じゃあ一人で平気だね。・・・お母さんの所に早く帰りな。』
とわくんは足を止める。
すぐにとわくんが追いついたように子熊の足は遅い、とわくんは見捨てる事じゃなく、自分が盾になる事を選んだ。
・・・こんなにバカだと思わなかったよ。
けして剣は抜かずに、鞘のままでゴブリンに挑む。
どれだけ殴ろうがゴブリンは倒れず、とわくんは爪で裂かれ何度も地面を転がり、体当たりを受け、噛みつかれ、涙を流しながら恐怖の中で戦い続ける。
いつのまにか、ゴブリンは六体に増えている。
その絶望的な状況の中でとわくんはやはり剣を抜かない。
「君は本当にバカだ。」
さっき、たった一体のゴブリンとの戦いですら疲れきって泣いていたのに。
どうして・・・
そんな勝ち目のない戦いに挑んでしまったんだ。
「本当にバカだよ。」
その姿を見ながら気付けば私は涙を流していた。
そんなのいつぶりだろう?
少なくとも、ここ30年は覚えがなかった。
ふざけていた天使達もいつしか真剣に見入り、とわくんを応援するようになっていた。
そうだな、私も応援しなきゃな。
「とわくん頑張れ!」
頑張れ!頑張れ!
泥と血で全身を汚しながらそれでも必死に戦い続けるとわくん。
それでも、限界は訪れる。
足を絡ませ、地面に手をついたとわくんにゴブリンが一斉に襲いかかる。
「とわくん!!!」
『グルラーーー!!』
空気を震わすような叫び、大きな腕がゴブリン達を一気に吹き飛ばす。
さっきの子熊の親?
『・・・くまさん?』
熊の巨体を見上げながらとわくんは呟き意識を手放した。
寄ってきた子熊がとわくんの顔を舐めて汚れを取る。
親熊はとわくんをそのでっかい腕で器用に自分の肩に乗せて歩き出す。
その雰囲気は優しく熊が慈愛に満ちた親であり、とわくんの危機が去った事を私は悟る。
目を覚ましたとわくんは意外にも熊とすぐ馴染んだ。
意外と人懐っこいんだな、とわくん・・・名前まで付けてるし。
その後はあのとわくんを誘惑する子持ち女が迎えに来てとわくんの初めての冒険は終わった。
私のとわくん鑑賞会も今日はこれで終わっちゃうみたいだ。
とわくんは、私の想像以上に頑張ってた。
「また、見るから。頑張ってね。」
君は私との事なんて覚えていない。
きっと、この先会うこともないだろう。
それでいい、ただ私は君を見ていたい。
それだけでいいんだ、とわくん。




