隠される始まり。
手のひらサイズの光の玉が浮かぶ。
それ以外は何もない場所だった。
本当に何もない、足場も無ければ空も無い空
間。
唐突に光の玉の手前が歪む。
現れる女神と呼ばれる存在。
女神は光の玉の奥、深い深い心の奥に問いかける。
隠すことの出来ない、真実の思いを問う。
「あなたはもし、願いが叶えられるとしたら何を願う?」
自分で口にしながら女神は歪んだ願いを覚悟する。
それは仕方の無いことだ。
まだ若い、女神からしてみれば幼い子供に、隠しごとの出来ないむき出しの願いを語らせるのだから。
身勝手で醜くても、むしろそれが当たり前だろう。
そして、女神の知るその子供の過去ならば、想像もしないおぞましい願いを言葉にされても驚かない。
目の前にある魂は神を呪った少年のものなのだから。
だか問わねばならなかった。
願いを聞き、出来る限りそれを叶えられる能力を与える。
それが彼女の神としての役割だから。
神様に、いてほしい。
かすれるような細い声が頭に直接響く。
「・・・えっ!?」
数秒の間を置いても女神には理解出来なかった。
女神のその整った表情が僅かに厳しくなる。
「どういう意味?」
・・・うーんとさ。俺は頑張れないで終わっちゃったけどさ。世の中にはさ、本当に頑張ってる人がいっぱいいるんだろうね。
「え、ええ、そうでしょうね。」
女神は何を言いたいのか分からず適当に頷くしかない。
うん。それでさ、どんなに頑張ってもさ。幸せになれない、救われない人達はいっぱいいるんだろうね。
「・・・神に、その全てを救って欲しいと?」
この状態で人の事を願えると言うのは素晴らしいと女神も思わなくはない。
だが、なんと傲慢な事だろう。
努力だけでは幸せにはなれない。それが世の常だ。
その現実を歪めたいと、それも自分にではなく他人に対して。
頑張った分だけ誰もが幸せになる世界、素晴らしいのかもしれないがそんなものは知恵の足りない者の空想に過ぎない。
そうじゃなくて。
目を冷たくする女神の頭に否定の言葉が響く。
それじゃきっとズルになるから。
頑張ってもさ、報われずにそれでも頑張り続けた人が、人生を終えた時にさ。
ずっと見てくれた神様がいて、よく頑張ったねって言ってくれたらさ、少しだけどさ、それで救われる事もあると思うから。
そんな願い聞いた事がなかった。
その願いのどこに欲望がある?
この少年は誰より自分の無力を嘆いていた筈だ。
誰より自分に価値を求めていた筈だ。
なのに、何故それを求めない?
疑問を感じつつ、少年の静かな心の音を聞いていた女神は答えに思い当たる。
そうか、何度も心を折り、諦めて受け入れてしまったのか。
静かに問う。
「もっと、頑張ってみたかった?」
・・・うん、頑張ってみたかった。
答える少年の声は静かで、少年が受け入れ諦めている事を改めて感じ取る。
女神は一歩近付くと、そのむき出しの魂、光の玉を優しく抱き締める。
「君は頑張った。私がそれを認めるよ。」
腕の中で小さく魂が震える。
これは女神の記憶にしか残らない、隠される出来事。
魂だった少年は女神の腕の中、少しずつ肉を持ち始めて遂には完全な人型をとる。
目を閉じ自分に寄りかかる意識のない少年の頭を優しく撫でる。
「これからもずっと見てるよ。だから、頑張ってね。」




