今日は無礼講、みたいな?
「オネーサマっ!お帰りなさいですぅ~~!」
奥から現れた恋のライバル。
僕から雲雀を奪おうとする悪の手先だ。
「誰だ、お前?」
「何処のデブですぅ?」
「「ふふふふ……」」メラッ
「良かったの、雲雀、幸せにな?」
「時雨の事は任せて」
「えぇ~~っ!?待ってよ2人ともっ!
そもそも、なんでココに居るのよ、イルゼ!?」
雲雀は、僕と睨み合いをしているイルゼの耳を引っ張り事情聴取。
結果、判った事は、複数の事情が重なって最終的にイルゼがココに居るらしい。
きっかけは、魔狼による村人の惨殺。
行方不明者に雲雀の名があがると、イルゼは休みを申請するが、ソレがきっかけとなって恐ろしいモンスターがニューエルサレムミュンスターの付近に隠れ潜んでいるのは、看過できないとして、ミュンスター全体が山狩りに参加するという流れになった。
その後、一時避難して戻ってくる村人の心の安らぎと安寧を願うのも、シスターの務めとして、こちらに教会を建設する事を決定した。
同時に、行方不明となった雲雀を捜索する為に少人数の聖職者を派遣。
自衛隊が撤収するのと入れ替わりで、山狩りと行方不明者の捜索を継続するのを決定した。
(これは……明らかに……)
(ん、監視……)
(じゃろうのぅ)
多分、ニューエルサレム側からの監視者だろう。
監視対象は、月見里雲雀を含んだ八代家及び、異界門[ゲイト]と世界樹[ユグドラシル]、皇國代理天の動向って所だろうか?
学院側からは、雲雀が戻ってきた場合、寮ではなく家から通う様にとも行ってきている。
「と、ゆーわけで、私がオネーサマ含むココラ辺の監視をしまぁ~~す」
雲雀の腕に自身の腕を絡めながら、シスター・イルゼは、堂々と目的を明かす。
人選ミスっぽい気もするけど?
(監視する事を公言されてはのぅ)
(本命に対する囮の可能性……)
(ありうるのぅ)
「でも、だからと言って、勝手に人の家に上がるのはどうよ?」
「オネーサマのお世話は、上から下までイルゼがしますぅ。
デブは引っ込んでろですぅ」( ̄o ̄)凸
そうですか。
「でも、僕の家だよ?ココ」もう一度念を押すように。
「オネーサマと私は一心同体なのが幸せですぅ!
片時も離れる事はありませんよぅっだ!」
あー。
面白い物体だ。
人間としての躾を受けた事がない人なんだ……。
「離れると幸せでなくなる?」
伊織が横から質問をする。
「そうですぅ」
「えっと、じゃあ、上に素行調査やら色々報告すのが、シスター・イルゼの役目なの?」
「そうでぇす。オネーサマのあんな事やこんな事、もしオネーサマが、シスターにあるまじき行いをするようでしたら、ある事ない事を上に報告するですぅ」
「いや、ない事を報告しないでよ!」
「大丈夫ですぅ、私はいつでもオネーサマの味方ですぅ。魚心水心ですぅ」
「……」
「……」
「うわぁ、破戒シスターですぅ」
「真似するなぁ!キモデブ!」
「心にグサリと来るですぅ。
シスターの言葉じゃないですぅ。
ですぅですぅですぅ~~」
「殺す、このデブぅ~~!!」
ガッ
ヴラドが動いた。
ですぅの額を鷲掴み、アイアンクローだ。
背伸びしている所が、かわいいね。
「いい加減にするのじゃ、育ちの悪い牝豚が。
引き裂いてくれようぞ?」
「うっ、くっこの……っ!」
「お主、誰の許しを得て、ココに入った?
何を目的としておる?
誰の使いじゃ?」
僕はヴラドとイルゼの険悪な状況を止めようと思ったが止めた。
ヴラドは何か別の意図があるみたいだ。
雲雀の方を見ると、僕と同じみたい。
友達思いの雲雀が、この状況でイルゼを見放すはずないのに、何故かヴラドを止めようとしていない。
「う、がぁあぁ……」
「誰の差し金じゃ?」
ヴラドの紅い眼が、妖しく黄金に輝いている。
金縛りや魅了といった催眠術みたいな事をしている時の目だ。
吸血鬼ってのは、色々な能力があって良いなぁ。
「……」
「……」
ふぅ。
「キサマの罵詈雑言、許し難いが、雲雀の顔を立ててココまでにしといてやろうぞ」
突然、ヴラドはイルゼの額から手を離す。
(ダメじゃ。精神的な防御を抜ける事が出来ぬ)
そんなに凄いの?
(硬いのぅ。ココに潜入させるわけじゃ……)
「こ、このぉ~~」
「躾のなっていない御主に作法を教えてやったのじゃ、
ありがたく思うが良いぞ」
ゴホッゴホッと咳き込む、シスター・イルゼを雲雀に任せる。
「そういえば、グレイブさんやリュネットさんは?」
「八代の秘庭の方じゃろ」
台所に移動しつつ、僕は心でヴラドと話す。
ヴラド、幾らなんでもアイアンクローはやらなくても……
(躾の問題じゃ。
あそこまで暴言を吐く聖職者なぞ、見たこと無いわ!)
あはは、仕方ないよ。
一応は唯一神とやらを信仰する以上は、異端審問と異教弾圧で屍山血河を築いてきた、最強の世界宗教に連なる系譜なワケで……。
同じ信仰を持つ隣人なら愛せるけど、そうでなければ殺しちゃうって物騒な思考だからねぇ。
いつも上から目線で、欺瞞に満ち、洗脳を施す。
神に赦しを請うても、人には請わない。
神に感謝をしても、人には感謝しない。
まぁ、これはイスラーム系もコダヤも、唯一神を信仰する物は全て同じなんだけど。
「あ、ああ、うむぅ……
妾もイスラームならある程度は判るのじゃが……
なかなか歪んでいるというか、そのぅ……」
「どうしたの?」
「あ、いや、実はお主様は、宗教関係者は全部嫌いなのかの?」
「うん、嫌い。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いので、唯一神関係は嫌い。
……その中でもカルトは最悪」
「カルト?」
「新興宗教だね。
わざわざ玄関まで押しかけてきて、ワケの判らない事を延々と……。
やんわりと断ろうとすると居残るし、睨むとそそくさと引き返すけど、そんなに僕の顔が怖かったのかと自己嫌悪になるし……」
ちなみにカソリックやイスラーム、コダヤは、こういった嫌な事をしないのでまだマシだ。
僕は、途中のスーパーで買ってきた食材を手早く別けて、冷蔵庫に放り込む。
反対に、冷蔵庫の中の食材は、殆どが使えないだろうと思っていたら、色々といじったあとがある。
「誰か、この冷蔵庫使ってる?」
「ん?あの猫と豚の2人組ではないかの?」
「あー、かもしれないなぁ」
缶ビールと紙パックの焼酎、安ワイン、安酒(純米~とつかない日本酒は、ただのアルコールで良いと思うんだ)が所狭しと置いてある。
もちろんそれ以外にも野菜や果物、肉もあるけど……。
「よくお金があったね?どうしたの?」
「確か伊織が、両替しておったぞ」
「そうなんだ。これ勝手に使って良いのかな?」
「良いのではないかの?
使った分は宿泊費の代わりとでも言っておけば良いのじゃ」
「ふぅん、じゃあそうするか」
僕は食事の仕度を始める。
僕、ヴラド、雲雀、伊織、グレイブさんにリュネットさん、嫌だけどシスター・イルゼ。
今日は多そうだ。
「嫌なら作らねば良いではないか。あの様な無作法者」
「あー、でも、そうはいかないよ。
雲雀の友達だし、罵詈雑言って言ってもそんなに酷い物でないし、まぁ、ヴラドもそうカッカしないでさ」
「むぅ、しかしのぅ、妾が嫌なのじゃ」
「あはは、ありがとう、ヴラド。いつも立ててくれて」
「そもそもおかしいじゃろ?この家は、お主様の城じゃ。
城の中に客人として招き入れてもおらんのに、勝手に入ってやりたい放題、お主様に挨拶すらせぬとは……どこの野良犬か」
「あ~~」
「妾は、そのような輩にはキチンと罠[トラップ]とモンスターで教育を施しておる」
「まぁ、そのね、田舎には田舎なりの、地方独特の信じられない作法があってですね……」
若干2名ほど、この屋敷には、勝手に入ってくる人が居るんです。
まぁ、その2人には常に「うぇるかむ」で、それ以外の人には「ごーあうぇい」なんだけど。
あ、水道や電気と灯油、プロパンなど生活に関る人達は別。
あの人達がいないと文明的な生活がおくれません。
そんな食事の用意をしてしばらく。
「もしもーし、グレイブさんか、八代家の方いらっしゃいますかー?」
インターホンも鳴らさずに、本宅の玄関をガラガラって開けて、声が響く。
都会じゃ見られない、田舎の日常のひとコマだ。
インターホンを使って欲しいなぁ。
先程カルトの話をしただけに、宗教関係者、マスコミは勘弁して欲しい。
ついでに新聞、地域住民、訪問販売もお断りだ。
「すいませぇ~~ん」
はぁ。
食事時には来て欲しくないんだよなぁ。
「妾が出るかや?」
「んー。いや。いいよ」
僕はコンロの火を消して、圧力釜についてヴラドに少し説明した後、玄関にむかう。
雲雀達が仏間に居ないという事は、離れの雲雀の部屋に行ったんだろう。
そういえば、伊織も居ない。
着替えかなぁ?
今度、服を買いに行かないと……明日の帰りぐらいで良いかな?
僕は玄関へと向かうと、2人の男性が玄関に立っていた。
「こんにちはー」
1人は初老のロリコン・沖津 文郎、まごう事無き教会関係者。
悪の総本山出身の手強い敵。
最悪だ。
「ぶぶ漬け食べていって下さい」
「え?いいんですか?
いやー話せますねぇ、時雨くんは」
「は?いえ、ぶぶ漬けです」
「お茶漬けですよね?ありがとう!
この出会いを与えてくれた神に感謝を」
ダメだコイツ、比喩表現が通じない……なんて強敵!!これだからキリスト教徒はっ!
(いや、今のはお主様の言い方が不味かった気がするぞぇ、妾は)
「それから時雨くん」
「なんですか?」怒
「紹介しますね。こちら……」
そう言って、沖津さんは隣の男性を指し示す。
身長180cm、ビルダーではなくレスラー型の筋肉質な身体つきの男性だ。
年齢は30代から40台前後で、迷彩服を着ている。
自衛官だろう、常識的に考えて。
豊川駐屯所の方かな?
「あ、ご、ご苦労様です。勇者シグレと言います」
「は?あ、これは御丁寧な挨拶ありがとうございます。
自分は高科 勇治と言います。
こんな成りですが、自衛官ではありません」
「え?」
「沖津さんの友人であります」(^_^)ゝ
「……」
「……」
「……ソ、ソウデスカ」
「は!よろしくお願いします!」
「えーっと……。
で、では、あなたもロリコンで?」
「子供は世界の宝であります!」
「……あー」
「……」
「……ぶぶ漬け食べます?」
「は!喜んで、ご相伴に預からせてもらいます!」
はぁぁぁ。
これだからっ……!!
急遽、食事を取る人が増えた為に台所にあるテーブルではなく、仏間にテーブルを出して、鍋にする事にした。
沖津さんはグレイブの事を知っている感じなので、顔をあわせても大丈夫だろう。
残るはシスター・イルゼについてだけど、異界門[ゲイト]の事は、ばれていると見て良い。
むしろ、逆に伊織がイルゼを堕とすぐらいの勢いで、やってくれないかな?
ニューエルサレム側のダブルスパイに仕立て上げて欲しい。
(時雨……)
伊織から心話だ。
(今から、そちらに雲雀とイルゼが向かう。謝りたいそうだ)
うん、判った。
それから、グレイブさんとリュネットさんを呼んできてもらって良い?
(ん、判った)
僕は1人離れへと向かう。
離れのリビングではシスター・イルゼと雲雀が居た。
土下座をしている。
とても綺麗な姿勢で。
「何を教えたの?雲雀……」
「日本の形、土下座よ!!」
うわぁ……。
その後、僕はシスター・イルゼの形だけの謝罪を受け入れた。
納得はしていない感じだったが仕方ない。
恋のライバルなだけあって、手強い人やでぇ。
取り合えず、ヴラドの前では暴言は吐かないでという事にした。
「そうよー、聖書にも悪口は吐いたらNGって書いてあるじゃん。
いい?幸せは義務よ?だけど、貴方の幸せは私と一緒に居る事でしょ?」
「はいですぅ!」
「じゃあ、それ以上は望んだらダメじゃん。
さぁ、もう食事にするわよ。
料理できる人が抜けたら、食事が遅くなるだけなんだから」
「食事っ!オネーサマの手料理っ!!」
ああ、おいしい食事は万民を幸せにするなぁ……。
そんなわけで、八代邸から逃走を図った、伊織の両脚に同調・入力して食卓へ向かわせる。
大所帯だった。
最初の予定7人+2人。
どうせ、ここまで増えるんなら、武居や新田も呼びたかったな。
だが、残念な事に携帯が壊れて、連絡すら取れない。
おっとっと。
溜息をついている暇なんて無いので急いで仕度をする。
雲雀には離れの台所を使って、別の料理を用意してもらっている。
今、本宅の台所には僕1人だ。
土鍋が1つでは足りないので2つ用意して、キムチとちゃんこっぽい鍋にする。
その他に、焼肉や玉子焼き、サラダといった物も大皿にそれぞれ盛り付け完成。
アレだけあった食材がカラに近い状態に。
「では僭越ながら!私、月見里雲雀が音頭を取らさせてもらいますっ!」
「八代時雨の快気祝いと、成果は出なかったものの山狩りに犠牲者が出なかった事を祝して!!」
「プロージットっ!!」
「「「「「かんぱぁ~~いっ」」」」じゃ」
「アーメン」
「板、抱きます」
「いただきます」
僕も手を合わせて、七草粥を細々と食べる事にする。
せっかくの料理だけども、内蔵機能を安定させる為に、馬鹿食いはできないのだ。
「えー、ドラコニーさん来てないんですか?
彼は非常に話の合う人物だったんですが……」
「どんな方ですか?」
「僕と同じで子供が好きな方でしてね、確か牛の子供が大好きと言ってましたねぇ」
「その猫耳ちょうだいっ!!」
「これは自前にゃあっっ」
「うめぇ、肉うめぇっ!
もう魔法味なんて食う事が出来ねぇっ!
おめぇも食えよ、こっちの世界はうめぇモンが多いぞ」
「うむ?いや妾は、生の方が好きなんじゃ」
「生か!!確かにな!
ごきゅっごきゅっ、ぷはぁっ。
このドライってのが旨くてなぁ!!
だけどな、生じゃないがラガーってのもいけるぜ?
まぁ飲めよ、ビールうめぇ!」
「オネーサマの手料理おいしい……!」ぱくぱく
「その玉子焼きは時雨製……」がつがつ
「……」ぱくぱく
「……」がつがつ
「……ふんっ」ぱくぱく
ある程度、場が和んだのを見計らって、僕は今回の経緯を説明する事にする。
高科さんも自衛官としてココに来ているわけでは無さそうだし、シスター・イルゼをこちらに引き込むためにも、嘘はつかないでおいた方が良い。
ロリコンな人も話を聞く限りはそれなりの発言力のある人だ。話をしておいて損はないだろう。
特に異界門[ゲイト]が移動できる、という事が判った以上、問題を自衛隊に丸投げできる、というかするつもりだ。
「はい、では、ご歓談の所、申し訳ありませんが、今回、僕が入院する事になった経緯と、周辺事情についてお知らせしたいと思います」
「つっかえずに言えたじゃ~~ん。御主人様ステキ~~抱いてぇっ!」
「オネーサマっ!私が代わりに抱きますぅ~~」
「な、なんだこれ、こんな旨い物を飲んだらワンカップが飲めなくなるだろぅが!?
どうするんだ、旨すぎるだろう!」
「では、もっと飲むべきですな。
ワンカップにはワンカップの、純米大吟醸には純米大吟醸の良い所があります。
どんなに豪華で旨い物を食べていても、たまにはチープな物を食べたくなる時があります」
「沖津さん、司祭ともあろう人が、そんな旨い物しか食べてないみたいな事を言ってしまっては……」
「ふふ、ここにおるのは沖津文郎、ただのロリコンという事かや?」
「……」ぱくぱく
「……」がつがつ
僕の言葉が伝わったのを見て、僕は今回のあらましを話し始める。
ヴラドの事、ラパ・ヌイの事、魔狼の事。
ただ、世界樹[ユグドラシル]の事は黙っておいた、というか僕にも判らない事が多いので説明できない。
それを聞いた人達の反応も様々だった。
特に高科さんは呆然としている。
まぁ、当然だろうけど。
ヴラドから後で色々と話しておいて貰おう。
僕の言葉の真偽を問う言葉は無かった。
皆はそれぞれ酒を飲みながら、食事に舌鼓を打ちながら忌憚無く意見を述べ始める。
「は!質問であります。
ラパ・ヌイ側からの侵略の可能性と、それについての備えについてであります!」
「それについては妾が答えよう。
現在、居城を動かしておらぬから、今後、似たようなケースが発生するのは確かじゃ。
現状で行なったのは、魔狼の屍骸を使ったゴーレムの増産と、ギルドでの情報収集じゃ」
「俺の方からも一応、情報があるぜ。
ラパ・ヌイについてだが、北の極地に異世界からの侵略者が現れてな。当面はそっちの対策に追われるんじゃねぇかと思うんだが?」
「それを含めて、調査中じゃ。
現在わかっておるのは名前じゃな。
エジソンズエンジニアリングエンパイア、長いの、エジソンの技術帝国とでも訳すかの?」
「んー、3Eで」
僕が命名する。
「ではそれで」
「「安直ぅ」ですぅ」
約2名からネーミングセンスの欠片が無いといわれた。
「えろい、えぐい、えげつない……」
それは別になってるよ、伊織。
「エジソンの技術帝国からの侵略じゃな。
自己顕示欲の強い人物がリーダーシップを取っておってのぅ。
名前は発明皇帝エジソンと言うらしいの」
「技術……地球や皇國代理天に近い異世界?」
「魔法が無いって事かな?」
「ん」
「それも不明じゃ。
もしかしたら魔導学みたいなものかもしれんしのぅ」
「けっ!どっちにしろ異なる世界法則[リアリティ]なんだ。
理解なんてできるわけねぇぜ」
「それはそれで哀しい話じゃが、事実ではあるのぅ」
「さて、それらを踏まえた上での話じゃが、浮遊城ラピュタの主としては、今後は次元回廊[コレダー]の破壊で動いていこうと思っておる」
「え?」
寝耳に水。
ヴォータンに復讐するつもりじゃなかったんだろうか?
何故……?
「今すぐは無理じゃが、浮遊城を地球に移築したら、次元回廊[コレダー]の破壊を行なうつもりじゃ」
「え?ラパ・ヌイから出て行くって事かよ?」
「うむ。生涯の伴侶も見つかったのでの。
その時には、お主達2人には充分な謝礼をもって報いようぞ」
「あ、そんならウチ、宝物庫にあったアーラム王族の服が欲しいにゃ」
女性は宝の話に惹かれたのか、ヴラドの宝物庫の話を聞き始める。
「じゃあ、魔狼の話なんですけど……」
「は!それについては自分から述べます!」
高科さんは、事件が起こった全容を暗記しているらしく、村の中で殺された人物を時系列順に死因と状況からの推測を交えて話しだした。
「~~以上が月曜日深夜から火曜日早朝に起こった事件であります!」
「お主、よく覚えておったのぅ」
「は!自分は記憶力にだけは自信があります!」
「それはそれで凄い話にゃあ……よね。
グレイブ、見習ったら?」
「俺は肉体労働、お前は頭脳労働」
「では、次に、今回の山狩りで行われた……」
その後、今回の山狩りで明らかになった事柄を交えて、明らかになった事を話し出す。
「え?えーっと山狩りって失敗に終わったんじゃあ……」
「は!確かに捜索は空振りに終わりましたが、手がかりとも言える物品を相当量、発見しました。
今後は他の部署に管轄が移行すると思いますが、迅速な対応が出来るものと踏んでおります」
「へぇ……さすが自衛隊」
「シスター・イルゼ」
「……」ぱくぱく
「イルゼ?」
「……」ぱくぱく
「おーい」
「ん?」ぬぐっ
咽喉に餅を詰まらせたらしい彼女が、落ち着くのを待って質問する。
「ちょっと質問なんだけど?」
「オネーサマのスリーサイズですかぁ?
残念でしたぁ、教えませんよぅ」
「魅力的な話だけど、自分で測るから良いよ。
周期情報はお互いに知っておいた方が良さそうだけど?」
「共有するんですかぁ~~?
仕方ないですねぇ♪
いいですぅ、何でも答えるですぅ」
「じゃあ……」
交渉が簡単に済んだので僕はイルゼに質問する。
「ぶっちゃけると、ニューエルサレムって魔狼を囲ってない?」
「ないですぅ……。
正確には私は知らないですぅ」
「噂でも?」
「聞いてないですぅ」
「そういえば、ニューエルサレムですけど……」
ロリコンの沖津さんが話し始める。
「近々、永世教皇パパ・アドルフがご降臨するという噂話があるんですが、そこらへん聞いてますか?」
「降臨かどうかは知りませんけどぉ、なんかぁ偉い人が来るって上の人達は騒いでいたですぅ……」
「そうですか」
こうして夜はふけていった。
沖津さんと高科さんは、お開きになると車に乗って(あれ?お酒が入っていた様な気がしたんだけど……)帰路に着き、リュネットさんとグレイブさんは八代の秘庭にある家屋に移動した。
そこで寝泊りしているみたいだ。
伊織には、昔、僕が使っていた離れの空き部屋を使ってもらっている。
雲雀は、今も昔も雲雀部屋だ。
ヴラドはどうしよう?
離れの空き部屋はあと1つ、本宅の客間は昔からのが2つ、新築に2つ。
本当にただ広いだけの屋敷だなぁ。
置く物なんてほとんど無いのに……。
「私はオネーサマの部屋が良いですぅ!」
「あれ?シスター・イルゼ?帰ったんじゃあ?」
「だから、今から帰るですぅ」
「送ろうか?」
「デブは結構ですぅ」
「キサマっ!!」
「ああ、ほらほら、ヴラドも押さえて」
「私が帰る所は、常にオネーサマの胸の中だけですぅ」
「そんなの許さないですぅ」
「真似するな、キモデブ!」
「コロス!キサマはコロス!!」
「あー、はいはい、どーどー」
まずい。
ヴラドの沸点が非常に低い。
理由は判っているだけに、強くも言えないというか、正直うれしい。
話を進めておくか。
「えーと、じゃあ、シスター・イルゼも泊まっていくの?」
「当然ですぅ」
「雲雀はそれでいい?」
「うーん、まぁ……御主人様がいいなら、それでいいよ?」
「じゃあ、離れに1つ空き部屋があるから、そこを使って?
ヴラドは本宅の空き部屋で」
僕は取り合えず部屋の指示をする。
まだ掃除もしていないから、今から簡単に掃除だ。
だが……
「妾はお主様と寝食を共にするものじゃ。部屋なぞ必要は無いぞぇ?」
「それはダメッ」
「ん。認められない」
「む?伊織、雲雀……なんじゃ、2人とも……」
「そうよね……うかつだったわ」
「ん。ヴラドが本宅で寝るのは反対。離れで寝るべき」
「なんじゃとっ!?」
「私も賛成よ。ヴラドは離れを使うべきね!」
「し、しかしじゃな……」
「そんなの酷いですぅ!ヴラドさんが本宅で寝るのを、認めてあげて欲しいですぅ」
「お主……実は良い奴じゃな」
「じゃあ、私が本宅で寝るから、で、ヴラドは私の部屋使って?」
「うん?どういう事じゃ、雲雀?」
「決まっているじゃない!!
誰がっ、今日っ、御主人様の夜の営みをするかという事よっ!!」
はぁぁぁ。それか。
うれしいけど。
たまっているけど。
「はい!皆には悪いけど、僕は病み上がりです!
明日も早いので頑張るつもりはありません!
今日はゆっくり休みたいと思います!」
「そんなっ!!私の初夜がおあづけじゃないっ!
もう1週間もだよ!明日からまた学園だよっ!?」
「横暴じゃぞ、お主様っ!!
妾に愛人としての勤めをさせぬつもりかや!?」
「調教……放置プレイ?」
「みんなの気持ちは嬉しいけど、今日はマジ勘弁。お願い、寝させて下さい」
亡くなった村の人達には悪いけど、僕は何とも思っていない。
魔狼の事も、ラパ・ヌイの事も、地球が侵略されるという事も2の次だ。
この家と、家族、恋人、友達……僕の過去を知って、それでも友達で居てくれそうな人達、これから友達になれそうな人達、その人達が居ればそれでいい。
だから、明日は学校だ。
必ず出かける。
まだ友達は、2人しか居ないんだ。
まずは、武居と新田に携帯の事を話して、メールを送れなかった事を謝って……
あとは、ヴラドのやっている事が終わったら、今までどおりの生活、いや、今まで以上の普通の生活に戻ろう。
結局、その日はシスター・イルゼを本宅の客間に泊める事で事なきを得た。




