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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第07話 非日常な常識と非常識な日常
98/169

お前によし、俺によし、皆によし、みたいな?

それは5日前のテレビ番組だった。

ニュースキャスターが言った言葉は、僕の頭をハンマーで殴ったかの様に衝撃を与えた。


「現在行方不明中の月見里雲雀(15)さん、八代時雨(15)さん、八代秋霖(87)さんの安否が気づかわれます」


ええーっ!?


「死者28名、重傷者15名……初戦にしては、被害は少なかった様じゃ」


「ひ、雲雀の御両親は!?」

「残念ながら、私の家の両親は2人ともピンピンよ。

 きっとホテルで不倫相手と、TV見て笑ってたんでしょ」

「そ、それは良かった……」

どんなに嫌っていても、死なれるよりかは良いだろう。





画面には死亡した人の名前がテロップで出されていたが、行方不明者になった途端、顔写真がだされた。

雲雀、祖父……。

そして僕の顔。



「……っ」

胸を押さえる。

はぁはぁと、ちょっと息が荒くなっている。


胸の動悸が激しい。


強面ブサメン。

自分で言うのもなんだけど、すっげぇ悪人顔。

あれ?

行方不明者の顔写真って勝手に流して良いんだっけ?

だれか捜索願いだしたのかな?


は、ははは…………

勝手に笑い声が出てる。



怖い。


嫌な汗がドッと溢れ出てくる。

不安と恐怖。


理由はわかっている、ただのトラウマだ。こんなの。

でも……

嫌だ。

マスコミは嫌だ。怖い。

怖い。怖い。怖い。


歯がガチガチ鳴っている。


「時雨?」

「ど、どうしたのじゃ、お主様?

 何ぞ治療で失敗があったのかや?」

「あ、もしかして……」

「メディーック!」

医者は君だよ、109。

ダメだ、突っ込みも出来ない。



「だ、大丈夫だよ」


ゲロは吐かない、大丈夫とアピール。

はぁ~~はぁ~~と胸を押さえて、女の子達と一緒のコタツに入る強面デブ……

これは、犯罪者と呼ばれても仕方ないなぁ。

犯罪者……

「……っ」

そうだ犯罪者。

それで痴漢と訴えられて、お金を巻き上げられて、TVにさらされ、笑われて、常識人からは罪人と唾を吐かれ、知らない人に罰を受けろと叩かれ、償えと首を絞められる。なんで?なんで?なんで?

違う、知っている。忘れてはダメだ。

僕は人肉喰らい[マンイーター]だ。怖い、黒電話が鳴ってる、怖い、助けて。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイ

まずい、吐くっ

薬っ、薬が欲しい!って家じゃなかった。

どうしようどうしようどうしようドウシヨウ。

ーーーリセット。

そうだリセット、気分をリセット。

気絶だ、リセットしよう。

気絶。


コタツの角めがけて、顔面を叩きつけるっ!!


「ダメッ!!」

気がついたら、後ろから雲雀が僕を抱きしめていた。


「大丈夫、大丈夫……次は守るから、絶対守るから……」

胃がムカムカする。吐きそう。


「もう自分を傷つけなくても良いから」

どいて、汚れる。


「ヤシロを傷つける奴は、みんなブチ殺すから……だから大丈夫」

咽喉まで苦いモノがせり上がってきた。

トイレに行こうとするが、雲雀が放してくれない。


「んー!」放してぇぇっ

「大丈夫……」

「んー!」雲雀が汚れるんだってば!!

「大丈夫……気にしないで?」

「んぐっ」

空を見上げて込み上げた胃液を飲み込む。

胃の中が空っぽでないと出来ない芸当だ。


はぁ~~。

はぁ~~。

息が荒いけど、なんとか峠は越えた。


雲雀は後ろから僕を抱きしめている。

ヴラドは僕を見つめている、うぅ、情けない所を見られてしまった。

伊織は、スタンプ型の注射器を取り出してスタンバイ。

109は「メディーック!」を連呼している。


いつのまにか嵐の様な不安な気持ちは消え去っていた。

雲雀の胸は、精神安定剤[トランキライザー]より性能が良いらしい。

それでもまだ震えている。

たかが僕の顔写真がテレビで流されただけだってのに……。

情けない。



「心配かけてゴメン、ちょっとした持病の発作で……」

「妾達には嘘は通じぬぞ。お主様の心の動きぐらい把握しておる」

「う」

ヴラドの叱責。

「一応、持病の発作は嘘ではないんだけどなぁ」

本当に情けない……。


109以外は、全員ある程度は知っているみたいだし、良い機会なので話しておく事にする。

3年前の事故から始まる騒動とその顛末、そこから来るトラウマを……


「要するに見世物として、お主様を辱めていたというわけじゃ。

 マスコミとやらは……

 やはり地球は滅んだ方が良いのではないかや?」

「あー、それは僕が困る」

「なに、お主様には何1つ不自由はさせんよ。

 妾が100年ぐらいは遊んで暮らせる程の財を造ろうぞ?」

「いきなり、ひもだっ!」


「まぁ地球なんかは、どーでもいいけど」

雲雀は良いんだ……。

「お願いだから自傷は止めて。

 その前に敵は片付けるから……」ぎゅ

「いや、あれは……」

「中学の頃は、自傷してなかったはずなんだけど……何かあったの?」

雲雀は僕にぎゅむっと、身体を押し付けてくる。

耳元では雲雀の息遣いが聞こえ、僕の背中では、強烈な存在感を放つ胸が、押しつぶされている。


不安が押し消されていくのを感じる。

手の震えが止まった。

安堵。

長く息を吐く。


もう、大丈夫だ。


「その~、あれは自傷と言うか、考える事をやめるには気絶するのが一番かなぁと思って、無我夢中で……それで……」

「考えるのをやめる?」

「うん、ウィザードリィの強制リセットみたいな感じ」

「はぁ~~」

「なに?」

何でそんな溜息?


「とりあえず殴るね?」

「僕、怪我人だよっ!?」

「雲雀、お主の馬鹿力で殴ったら、主様の首がもげてしまうじゃろ。

 自重せよ」

「ええ~~?

 でも御主人様は、痛い目を見ないと覚えないよ?」

「そ、それは酷いよ。雲雀……」

「確かにのぅ」

「ん」

全員肯定!?ひどっっ


「しかしのぅ、お主様。

 雲雀の言う事、しごくもっともじゃ。

 リセットは妾も止めてくれぬかや?

 あれは心臓に悪い」

「いや、でもn」

「止めてくれぬなら仕方ないのぅ。

 雲雀を止める枷が無くなってしもうた。

 子供は叩いて教えるしかあるまい」

「ええっ!?」

「じゃ、遠慮なく」ぐっ


しかし、雲雀が動くより先に伊織が動いた。

「時雨、今は落ち着いた?」

「あ、うん……」

「精神安定剤[トランキライザー]は使う?」

「いや、今は良さそう、何とか大丈夫。

 皆と馬鹿な話をしたら治った」


「そう……?」じっ

窺うように伊織は僕を見つめる。


「ば、馬鹿な話……?」がーん

「妾達の心配がか……?」Orz


「あ」


「ゴ、ゴメン!今のは言葉のあやだよ!!

 決して馬鹿にしてるとか、聴いてないってワケじゃないよ!!」


うわぁ、まずった。

雲雀とかが殴るとか言ってるもんだから、いつものじゃれあいの気分で言っちゃってた。

うわわ、どうs

「時雨、それより続き……」

「え?」

「画面に注目。大事なのはこれから。

 今はヴラドも雲雀も必要ない」ギロ

珍しく伊織が強引に……。

「あ、うん……」



伊織は、雲雀を強引に僕から引き剥がすと、一時停止を解除した。

僕は再びテレビを見る。


ここ1週間の動きとして、村の住民に対して避難指示、付近住民への避難勧告と自衛隊の災害派遣が迅速に決定され、大規模な山狩りが行なわれた。

しかし、村人を殺戮した動物はただの1匹も見つからず、今を迎えていると言う。

尚、この山狩りは広範囲に渡った為に、自衛隊以外にも、付近のハンターや、ニューエルサレム教団の人たちが参加している。





「それで1つ問題あってのぅ」

「ん?」

「八代邸から魔狼が出てきた証拠を消す為に、異界門[ゲイト]の位置を変更したんじゃ。

 事後承諾となって申し訳ないが、許してもらえると助かる」


え?


「……あー、そもそも異界門[ゲイト]って移動できたんだ?」

「持ち運ぶだけなら簡単じゃ、1人でもできるしの。

 それに妾が異界門[ゲイト]の外枠は、一部壊してしまっておったからの。

 持ち運びに支障が無い大きさまで、折ってたたんで、移動するだけじゃ」

「な、なかなか、豪快だね……」


魔狼とマスコミやその他の勢力対策の為に、ヴラドは異界門[ゲイト]を八代家の秘庭(世界樹[ユグドラシル]が置いてある所)に移したと言う。



驚いたのは、異界門[ゲイト]を動かす事が出来ると言う事なんだけども。

いや、だって、あれって簡単に言うと次元回廊[コレダー]の出口、要するに空間の割れ目なワケで……。

そんな物が、なんで移動できるのかなぁっと不思議に思ったんだけど……。


でも、よくよく考えたら、異界門[ゲイト]っていうのは、移動できないとおかしい。


何故か?

それは、空間の割れ目が常に移動し続けているから。


忘れがちだけど、地球は自転してる。

ついでに太陽を中心に公転もしてる。

もう1つオマケに、宇宙自体も膨張している。

宇宙から見れば、僕の家の内蔵(うちくら)は、常に移動し続けているわけだ、1つの所に留まることなく。


だけど、空間の割れ目が宇宙の、太陽系の、地球の都合で動く必要は無い。

必然的に、その場所に留まり続ける。

本来ならば、宇宙にぽっかりと浮かんでいるという事だ。

だけど、そうはなっていない。

蔵の中にずっとあったというのがその証拠。

1週間もたっているのに、ずっと繋がっている。


逆説的に考えるなら、空間の割れ目の移動を規定するのが異界門[ゲイト]なんだろう。

異界門[ゲイト]と一緒に空間の割れ目、次元回廊[コレダー]の出口もついて来るって事だ。

ただ、地球に住む僕達の目には、変わらない毎日が続いている様に見えるだけ……と。


という事は、次元回廊[コレダー]を破壊しないでも、どちらかの異界門[ゲイト]を破壊してしまえば、宇宙に置き去りに出来るんじゃあ……?


「無理じゃな。異界門[ゲイト]の外枠は破壊できても、内枠を破壊するには次元回廊[コレダー]そのものの破壊が必要じゃ」

「うーん、そっか、やっぱり駄目か……」

「こう考えると良いのじゃ。

 外枠で異界門[ゲイト]の大きさを決定し、内枠で異界門[ゲイト]の位置を固定する、とのぅ」

僕の心を読んでいたのか、ヴラドは答えてくれる。


「うーん。やっぱり異界門[ゲイト]そのものは、自然の理[ベースリアリティ]に縛られるって事なのかな?」

「それよりも、妾は“宇宙”というものを知らん。

 お主様が、何故、異界門[ゲイト]が動き続けていると言う見解に至ったのかが、理解できないのじゃ。

 その理解できない物を、理解できておる、お主様のほうが気になる……」

「え?どういう事?」

「のぅ、お主様、ここは地球ではないぞぇ」

ヴラドの言葉に、心の中で何かひっかかった。

だけど……


「あ、うん。皇國代理天だよね?」

何を言いたいのかが判らない。

どうしたんだろう?


「のぅ、お主様、何ぞ変わった事はあるかや?

 どんな些細な事でも良いのじゃ」

ヴラドが、(さぐ)る様に僕を見つめてくる。

しかし、何だろうと思う暇なく、体面に座ったヴラドの真紅の瞳に僕は(から)めとられて、ドキドキしてくる。

ヴラドが僕をジッと見ている。

吸い込まれそうな真紅の瞳だ。


ほしい。

今すぐヴラドを抱いてしまいたい。

えろい事したい。

いかん。

もんもんとしてきた。


「あの戦いの後、お主様に何か酷い影響が出てはいないかと、心配したのじゃ。

 重度の外傷治癒魔法【リカバリィ】と四肢欠損の蘇生魔法【コンステテューション】を使い分け、それでも眼球再生は、魔法の構成上、使用できんのでどうしようかと……」

「ヴラド……」

「頭部に四肢欠損の蘇生魔法【コンステテューション】を使うのは、脳に悪影響が出るのじゃ。

 あれは、魔法の構造上、一時的に時間を巻き戻しておる。

 伊織がおらねばどうなっておった事かや……」はぁぁぁっ

「ありがとう、ヴラド。無茶させてゴメンね」

「うむ?気にする必要なぞないぞ。

 お主様が助かれば、それで良いのじゃ」

「うん……」

「そうじゃ、ならば、お礼に綺麗な夜景を見ながらデーt」

「あーーっ、もうっ!しめっぽいのやめッ!

 見詰め合うの禁止ぃーーッ!!」

雲雀が吼える、僕とヴラドの視線上に割って入ってくる。


「む、せっかく良い雰囲気じゃったのに……

 メイド風情は脇に控えて置くが良いぞ」

「くぅぅぅぅ、ヴらえもんの癖に生意気だっ!」

ココ1週間で2人はかなり仲が良くなったみたい。


うらやましい。

特に、雲雀の誰とでもすぐに友達になれる能力、そうだなぁ……名付けて特殊能力【フレンドシップ】は。

僕も、そんな特殊能力が欲しいです。





ぎゅっ


隣から手を握られた。

伊織だ。

「ん」

「あ、ありがとう……」てれ

コタツの中で寄り添うように手を握る。

そうだよね。

きっと頑張れば、友達だって作れるよ。

頑張る。


「時雨は……」

「うん?」

「時雨は、もっと凄い特殊能力を持っている……」

「うん、ありがとう……」

慰めてくれるのは、やはりうれしい。

褒められて伸びる子なので。


「時雨は、高い生態環境情報適応能力を持っている。

 それに記憶力も……誰も真似が出来ない時雨だけの宝物」

「あははは、そ、そーかなぁ……」


「信じられない?」

「え?」

僕をジッと見ながら伊織が言う。



生態環境情報適応能力……確かJ・ギブソンって言う人が提唱したアフォーダンスという言葉の日本語訳だ。

生態心理学の用語だったっけ?

簡単に説明すると、環境に対して自分に何が出来るか知覚する能力。

コレが高いとその場の状況で最適解に近い答えを見つける事が出来る。

かなり意訳が入っているけど。


例えば、目の前にタンスがある。

このタンスには取っ手があって、僕は取っ手を使ってタンスを開ける事が出来る。

この取っ手が放っているメッセージ「僕と契約してタンスを開けてよ」がアフォーダンス。

コレを使って僕はタンスを開けて、ご褒美に雲雀の下着をくんかくんかしたり、頭に被ったりできるわけだ。


ところが、このアフォーダンスの知覚、受け手である僕の能力が高いと、僕の後ろに雲雀が立っていて、くんかくんかできても、その後に恐ろしい目に遭うという事が知覚できるわけだ。

雲雀と言うファクターが放つメッセージ「特定条件下で僕を殴る」というのが判るから。


そうだなぁ、攻めと受けが違うけど……特殊能力【アフォーダンス】とでも名付けるかな。

究極的には、高橋監督の最高作品・アニメ最低野郎に出て来る特殊能力【異能生存体】に近い物だろうか?

受動的か能動的かの違いはあるけど。


そんなのが僕にあるとは思えないけどなぁ。

でも……


「信じられない?」

雲雀が再度、問うてくる。


「……」

ううん、と僕は首を振る。

雲雀がそう信じてくれるなら、僕にも、そんな特殊能力があっても良いだろう。

いや、ある。

僕は自分を信じられないけど。

僕を信じる3人の事は、何よりも、誰よりも信じるから。




「むぅぅ~~」

「おのれぇい……」


「やっぱり女狐よね。漁夫の利を……」

「普段は何も話さんのに、ここぞと言う時は、ちゃっかりとしておるのぅ」




「「いちゃつくの禁止」じゃっ!」

2人にハモって言われました。

仲が良いなぁ。



「話を戻すがの、異界門[ゲイト]を八代家の秘庭に移したついでに、試して見たい事があったので、やってみたのじゃが……」

「なにを?」

「うむ。以前、有線で地球と皇國代理天をつなげたら、携帯電話が通じたという話があったじゃろ」

「あったね」

「それでのぅ、地球とラパ・ヌイの世界樹[ユグドラシル]を1つにしようと思って、根を繋げる事ににしたのじゃ。

 あっちとこっちから、次元回廊[コレダー]内に根を伸ばしてのぅ。

 まだ実験段階じゃから上手く出来るか判らん。

 しかし、うまくいけば、ラパ・ヌイ⇔地球間は呪いの件を無効化できるかも知れんと思っての」

「あー、確かに条件は満たすねぇ」

「凄いじゃない!さすが、ヴらえもんねッ!」

「ん」


「でもヴラド、ラパ・ヌイの方は良いの?

 次は、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]が来るんじゃ……」

「うぅむ。それなんじゃが、暫くは大丈夫そうなんじゃ……ワケは後で説明するがのぅ。

 フギンとムニンの帰還を待ってもらって良いかや」

「あ、うん。みんな、この後はどうするの?」

「山狩りは16時で終了予定。それから八代邸に帰宅」

「うん、判った」





「時雨」

「ん?なに」

「雲雀と私、時雨は、北海道に旅行をした事になっている」

そう言って伊織は、写真のフィルムを僕に渡す。


「婚前旅行ねっ!!」むふーっ

鼻息荒く雲雀が言う。


「えーと……」

「判った、婚前旅行。時雨もそれで良い?」

「ええっと?良くない事は無くないけど、その前に色々と大事なことを、はしょっている気がするんだ」

皆、かなり飛ばしてるなぁ。

「ぶー!!私の独断ッ!婚前旅行で、けってぇ~~いっ!!」

「ん、メイド同伴の婚前旅行」

伊織がにやりと笑う。

「何故か、子供は私のおなかに……」ぽっ

オチは109が。

引きずるね。そのネタ。

「話が進まんので、次に行くが良いかや?」怒

愛人は蚊帳の外。




「婚前旅行中に取った写真は、風景と人物写真だ。

 宿泊した施設は、ペンション五十鈴。

 何かあったら証拠として使用して欲しい」

「あ、ありがと……」

「アンタ、手馴れているわねぇ……」

「偽装工作は初歩中の初歩」


「あ、そういえば、みんな、僕の携帯を知らない?」

「あ、あ~~……」

「うぅむ……」

「ん……」

意外な所から答えは来た。

「ぺしゃんこだから捨てた」

「なんで109が?」

「ちなみに、ここに来た当初の服も捨てた」

「……あー、そっかぁ、そうだよねぇ、しょうがないか……はぁ」

「嘘です」

「え?」


「貴方を想って臭いをかいでいます」

「血だらけだよっ!!」

「嘘です」

「まったく……」


「……106、こんな感じにすれば、患者2号は簡単に怒る。

 効果的な情報収集と、効率的なアプローチが足りない」

「ん。不徳の致す限り。ボケも大事」

「違うよっ!」

「むむっ!早速、効果が!」





その後、話は尽きなかったが、帰還の時間が近づいた為に、僕達は伊織のジムニーに、ブルーレイやTV、ディスクを詰め込んだ。

「忘れ物ない?」

「妾はないのぅ」

「雲雀は?」

「ちょおっと待ってぇ……うん、いいみたい」

「伊織はー?」

「ん。問題ない」


僕達は急いでジムニーに乗る。

「じゃあね、桃ちゃんっ!

 おなかの子供は想像妊娠だから、大丈夫だよっ!」

「嘘です」

「ホントだってば!」

思わず僕も雲雀を応援する。

「いやマジでマジで」


「世話になったのぅ」

「気にしない。貰う物の方が多かった」

「ほぅ」ギロ

「できれば、下水に流したミュータントを、持って帰ってくれるとありがたいが?」

「なに友好の証じゃ、アレも、お主の子供と思って育てるが良い」

「ふふ……」めら

「くふふふ」めららっ


「109.いくつある?」

「結合成功数は5個」

「欲しい」

「現在は様子見。失敗時は廃棄処分。そっちに流す?」

「暴走確率30%までなら欲しい」

「判った。偽装はこっちで」


「今の会話なに?」

「時雨の子供を融通してもらう」

「は?」

「楽しみ」

「いやいや、待って、ちょっと待って!」


「ではな、ぱ・ぱ♪」

「最後までそれかい!」

「つれない……」

「同じネタを引きずるからだよ」


「ネタではないのだが、仕方ない。話を変える。

 眼球の完成まで少し時間がかかる」

「うん、面倒かけてゴメン。

 それと、ありがとうね」

「できたら呼ぶ、それまでは義眼を楽しめ」

「なんだかなぁ」

「計算上では、地球の世界法則[リアリティ]でも、ギリギリ稼働可能。

 その他のマニュアルは106に譲渡した。閲覧はそちら」

「色々と出来るんだね?」

「ん」





「イツマデ喋ッテイル!!オ前達ノ口ノ中ニ俺ノくそヲブチ込ムゾ!

 ソンナニふぁっくシタケレバ、俺ガまんこカラくちマデ貫イテヤル!!」

伊織の車、ジムニーモドキの中の人?であるコソボイが叫ぶ。

時間が押しているらしい。


「コソボイ、下品だってば」

「ム!」

「もう少し司令官らしく、冷静っぽさをアピールするのよっ!」

「ハッハッハ。尻ノ青イがきガ何ヲ言ッテヤガル」

「じゃあ、アンタが一杯ぶって赤くしてよ。

 それなら良いでしょ?ああん、いいーっ」

「ダメっ!!そのお尻は僕のですっ!」

「御主人様ぁ……」ぽっ

「くふふ、言う様になったのぅ。お主様」

「NTR展開は許可できないってば!

 するのは好物だけど、されるのは嫌だっ!」

「男2人が、私を巡って恋のバトルだなんて、女冥利に尽きるわね」

「いや、まぁ奥が深いのぅ。地球は……」

「HAHAHAHA、判ッタ、判ッタ」


「ではお別れ?」

「うん、また来るね109」

「お土産ヨロシク」

「あ、そうだ」

「?」

「お土産の話で思い出したけど。眼鏡ってアンティークだったよね?

 僕の眼鏡を直してくれているのって、坂崎さんなの?

 次回のお土産に、優秀な遺伝子を使った牛の肉でも持って来ようかと思うんだけど……」

「ん、坂崎?……あれは死んだ」

「ええっ!?なんでっ」

「嘘です」

「ああ、よかった。

 あんな人でも、一応、ヴラドを助けてくれた恩もあるし」

「海に行ったら帰って来なかった。

 優秀な海の男の遺伝子だった」くくくっ

「……え?

 えぇっと……?」

「マジ」

「あ~~、そうなんだ……」

合掌。


眼鏡、誰がなおしてくれるんだろう?






こうして僕達は、皇國代理天を後にした。

伊織のジムニーは、一路、八代邸へ向かう。

道中、変な落語を喋ったり、鼻歌でクラシックを流したりという事はなかった。

その代わりにアメリカさんの海兵隊ランニングケイデンスが、延々と垂れ流されえていた。

アレですアレ。

ハートマン軍曹のマラソンソング。父の世代ならファミコムウォーズの宣伝歌。

お前によし、俺によし、んん~よしって感じの。






「あれ?」


それは地球について、五十鈴マンションからでた直後だった。


ヴラドの手酷いドラゴンブレスで、駅前のロータリーが壊滅したのは1週間とちょっと前の話。

破壊されたのはロータリーの中央部分、石畳、アスファルトと付近のショーウィンドゥ、街路樹ぐらいだ。

デパートや駅、商店街など建築物そのものには、ダメージは無かった筈だけど……。



道路を含む至る所で、工事中を示すトラサクや赤コーン、看板が建っている。

それどころかデパートは解体工事してるみたいに……。


「これはいったい……?」

「……管理人の計画が軌道に乗った」

伊織が答える。


「えーっと?」

「この辺り一帯を再開発する」

「え?まだ1週間だよ、早すぎない?

 行政に計画書とか、見積もりとか……」

「違う、根回しは2年以上も前から。

 管理人の息のかかった企業ニンジャを使って、各組織の動向調査、議員に対する根回し、ヤクザウォーリャアを使った地上げと嫌がらせなどをしていた」

「うわ……」

「もちろん強情な者は、不幸な事故にあってもらったし、御高齢な方には格安の姥捨て山を提供している。

 見込みのある商店には、低い金利で融資する代わりに、都市部に飛んでもらっている」

「……」

「今まではニューエルサレムの動向もあり、密かに行なっていた。

 ……だが、計画を早めた可能性がある」

「ニューエルサレムの動向?計画を早めた?なんで?」

コレは純粋な僕の疑問だったが、横から雲雀も話に加わる。

「2回の爆発騒ぎの所為?

 でも、あのマンション壊した時の話……

 片方のガス爆発は犯人がいる事にするって五十鈴さんは言ってなかったっけ?」

「いや、そうではない。

 多分、ニューエルサレム側に見過ごせないアクションがあって、それに対抗する為だと思う……」



「皇國代理天が侵略を開始したって事は、ニューエルサレム側も何らかの侵略を開始したってことなのかな?」

「え~~、なんかあったっけ?

 私、そんな話、聞いて無いよ?

 っていうか、明日から授業じゃん!

 あ~~黄金週間のお休み、今日までだよ、もう~~」


「ごめんなさい」

車内で土下座。

みんなと色々やりたかった事、したかった事、遊び倒そうとした雲雀の計画が台無し。


「本当にごめんなさい」

「土下座する時は、相手の目を見て、いっきに5歩下がる」

雲雀から厳しい叱責、けど無理。

それやったら車外です。


ニューエルサレム側のアクションね……。

初老のロリコンで枢機卿なら何か知っているかも。

「バチカンのバカチン?」

「それ、ないす!」

心を見ていたらしい伊織からの素晴らしいお言葉。

今までの駄洒落に比べて、とてもマーベラス。


「む、怒ってくれない。109、私は失敗してばかりです」





皇國代理天の急ぎすぎる土地買収……。

「魔狼の事が呼び水となって、色々な所に波及したって事はありそう?」

「無いとは言えんのぅ……」

「カオス理論、バタフライ効果……?」

「なにそれ?エビフライの方が良いわよ」

「全然違うよ雲雀……ところで五十鈴さんは、こんな田舎の駅前を再開発してどうするつもりなの?」


「ココから少し行った所に、既に工場が建設中。

 将来的には兵器生産の予定」

「兵器生産……?

 でも秘匿産業の系列は、信頼と実績のある国内メーカーが牛耳ってるよ?いくら皇國代理天でも……」


「多分、管理人は皇國代理天からサイバー技術を持ち込み、パテントを取るつもり」

「え?でも五十鈴さんは僕と話をしていた時……そんな技術のブレイクスルーは起こさないって……」

「時雨、きちんと言質は取った?

 誓約書と言う形にしていないなら、それはブラフ。

 あの女は、寝言を言っただけ」

「あ……」


「もちろん、嘘では無い可能性もある。

 現在の地球の技術で出来るギリギリ限界の技術を格安で提供。

 皇國代理天にとって、使い古された、まさにローテクを後進国に与えるだけの話」

「それは、まるで中国に出かけて行った日本企業みたいな……」

「時雨の義眼もテストケース。だから無料」

「ええっ?」

「私の義眼の5世代前……おそろい」てれっ

頬を染める伊織。

おお。

凄いレア表情。


「ずるい!私も義眼にするっ!!」

「いや、義眼でおそろいになっても仕方ないでしょう?」

「むーーっ」

雲雀は頬を膨らませると、プイッと外へと向いてしまう。

かわいいなぁ。

思わずニマニマしてしまう。

キモイね。






「ねぇ」

しばらく唸って外を見ていた雲雀だったが、唐突に皆に声をかける。


「なんじゃ?」

「なに?」

「ん?」


「結局、魔狼って何処に消えたんだろ?

 村の人達って嫌いだったけど、それでもちょっと、むかっ腹がたつわ」


「縄張りが荒らされた?」

「そう!それっ!」

伊織の言葉に、雲雀は我が意を得たりと叫ぶ。


「魔狼ねぇ、確かに……」

何処に消えたんだろう。

魔法で隠れている、もっと山の奥の方に移動した、ラパ・ヌイに帰った……

「ヴラドは心当たりある?」

「残念じゃが……考えられるとするならば、地球の世界法則[リアリティ]に馴染めず死亡じゃが、あの白いのは生存しておるはずじゃ」

「ニンジャとして伊織の意見は?」

「木を隠すには森……」

「それが通用しないから困っているんだよね。

 日本にあんな動物はいないし、似てるのは絶滅したし」

「ふむぅ……」





そうこうしている内に村へとつく。

山の裾にある小さな村だ。


犯罪や事件とは無縁そうな、小さい田んぼと畑がひしめき合う、のどかな田園風景。

しかし、そんな中に破壊された家屋や車両が放置され、直されたばかりのアスファルトが、この村を襲った悲劇が尋常でない事を物語っていた。

居残っていたのか帰還したのかは判らないが、何ヶ所かの無事だった家屋には、所々に明かりがつき、村に生存者がいる事を知らせてくれている。


時間にして夕方だが、撤収に時間がかかっているのか、何名か自衛隊関係者も残っているみたいだ。

道の端や、空き地にある特殊な車両の脇、生存者のいる家屋の庭先に、迷彩服を来た人や、明らかに村人でないスーツ姿の人を見かける。



「……もしかしたら」伊織が呟く。

「ん?」

「木を隠すには森……」

魔狼の話を引きずっているのか、もう一度、伊織がつぶやく。

だが、その言葉が僕の胸の内深くに沈んで行った時、想像は翼を生やして僕の脳内花畑を飛び回った。


「あ……」

それは、凄く嫌な想像だった。

「うぅっむ、しかし、それは……」

ヴラドも難色を示す。


「どしたの~~?」

「いや、先程の魔狼の話じゃ……」

「なんだっけ?」


「……」

「……」


「いや、他事に興味がいっているのは判るけど……」

「はぁぁっ、お主じゃろぅ、魔狼が何処にどこに行ったんだろうって話を振ったのは!」


「あ、あはは、そーだったそーだった。

 で、それがどーしたの?」

「あ、うむ……」


「木を隠すには森……」


「そうだねぇ……伊織の言う可能性が無いとは言い切れないモンねぇ」

「そうじゃな……ここまで手がかりがないとのぅ」

「ん……」


「あによー!3人して判ったふりしてぇっ!!」


「木を隠すには森……」

「え?」


「狼を隠すには野犬……」


「侵略者を隠すには侵略者……」



「え?」

きょとんとする雲雀。


八代の秘庭に1つ。

ニューエルサレム教団の敷地内に1つ。

五十鈴マンションの地下に1つ。

この付近には、最低でも異界門[ゲイト]は3つある。


もしかしたら……どこかが本当に……手を繋いでる?

いや、まだ僕達の知らない勢力が、隠れている可能性だってある。


「村ノ中ニ居ルすーつ姿ノ奴等ハ皇國代理天ノガ混ザッテイルナ」

「土地買収?」

「ダロウナ。コノ土地ハ押サエテオイテ損ハ無イ」


「……皇國代理天の人がいるって事?」

「ん。企業ニンジャ。面識は無いが、馬鹿車が知っていた」

「何度カ見テイルカラナ。

 チナミニ馬鹿車デモこんぼいデモナイ。にこら・てすらダ」

「総書記コソボイの方がカッコイイよ!

 それとも破戒大帝オメガトロンにする?」


「……」

ニコラ・テスラって、またなんで、そんな名前……?

そもそもイメージが違うよ。

突っ込もうと思ったけど、皇國代理天の方が気になるのでそっちを優先する。


「何の為にココに居るんだろ?」

「目的は土地の買収、ココには八代家と異界門[ゲイト]がある。

 ニューエルサレムの観測拠点としては最高の立地条件」

「ああ、そういう事かぁ……」

「うむ?どういう事じゃ?」

「ニューエルサレムを観測しつつ、八代の観測もできる」

伊織が僕の代わりに答えた。


「嫌だなぁ、目とか耳を仕掛けられないだろうね?」

「大丈夫、私が全部外す。

 時雨をストーキングしていいのは、私だけ」

「そうですか……」

伊織も変な方向に走っている感じだ。





すっかり寂れた村の中を抜け、僕達は八代邸につく。

久しぶりの我が家だ。

「ただいま~~」


無駄に広い車庫から仏間へ。


あれ?

裏の駐車場から、板張りの仏間へと来ると違和感を覚える。

直っている。

雲雀VS伊織、2大怪獣・難解な大決闘跡が綺麗さっぱり。


祖父が帰って来たんだろうか?

世界樹[ユグドラシル]の同じ世界にいないといけないという呪いで、1週間、雲雀、伊織、ヴラドは、僕に付き合って皇國代理天に居た。

その間の事はグレイブさんとリュネットさんに任せていたらしいけど。


ドタドタドタドタッ


本宅の台所&リビングの方から騒々しい足音がする。

こちらに向かって来ている。

軽い。

僕の知らない足音だ。

リュネットさんだろうか?




「オネーサマっ!お帰りなさいですぅ~~!」


奥からシスターが走って来ると、雲雀に飛びついた。


「えぇ!?ちょっと、なんでココに居るのよ、イルゼ!?」



……。


とりあえず。


「誰だ、お前?」


僕はシスター・イルゼに暴言をぶつける事にした。

NTRを許すほど、特殊な性癖じゃないんだ。

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