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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06裏話
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NEVER ENDING ROAD どこまでも続く道

「俺達は“爺さん”と呼べばいいんだな」

「おぉ、そうしてくれると嬉しいのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」

「まぁ、そうよね。

 暗黒大陸で探索者やっているんだから、後ろ暗い事ぐらいあるわよ」

「ふぉっふぉっふぉっ。耳に痛いのぉ」



どっこらしょ、と爺さんは腰を下ろす。

「すまんのぉ。ワシの依頼が終わったので、少しばかり休憩していっても良いかの?

 なに、この遅れは後で挽回するから大丈夫じゃ」


「ウチは別に構わないけど……」チラ

リュネットが俺を見る。


「俺も構わんぜ。腹へってきたしなぁ……

 コレ、食っても腹こわれんよな?」

俺は樹の根っこをしげしげと見る。

何となく胃に悪そうな気がするんだが、いけそうな気もするんだよな。

……食ってみれば判るか。



「止めた方が良いがのぉ。

 形は植物じゃが、れっきとした魔法物[マジックアイテム]じゃ。

 それも、かなり強力な力を秘めた遺失技術品[アーティファクト]じゃな」

「え?これがかよ?」


「うむ、先程から調査した結果だけを伝えるなら、ある目的を持って作り出された、意思のある魔法物[インテリジェントデバイス]じゃ」

「うわぁ。意思のある魔法物[インテリジェントデバイス]で、遺失技術品[アーティファクト]って……

 呪詛[カース]が、かかってるとかじゃないでしょうね?」


「ふぉっふぉっふぉっ、そこが面白いところでのぉ。

 この意思のある魔法物[インテリジェントデバイス]な、呪詛[カース]が形を成しておるのじゃよ」

「げ」

「うわ。怨霊[スペクター]化しない?大丈夫?

 あ、もしかしてそれを利用したアンデット作成装置じゃないでしょうね?」


「そこなんじゃが、どのような術か判らぬが、呪詛[カース]を巧みに使っておってのぉ。

 怨霊[スペクター]化やアンデットといった、物騒な物が出ない様になっておる」

「なら、危険は無いのね?」

「今は、まだ大丈夫じゃ」

「へぇ……今は……ね」

「そうじゃ。今はまだ、大丈夫じゃ」


「……」

2人して難しい事を考えているようだな。

ま、いいか

リュネットが判ってれば。


俺は腹も減ったので、携帯食料を取り出し、食べる事にする。

相変わらず、魔法の味がする不味い食い物だが、腹だけは膨れる。

はぁ、本物のベーコン食いてぇな。

「なぁ、爺さん。

 さっき言っていた歴史の真実って何だ?」くっちゃくっちゃ

「グレイブ。話しながら食べない」

「……」くっちゃくっちゃ

くっちゃくっちゃ……

くっちゃくっちゃ……ごっくん


「すまんな、続けてくれ」

麦酒できゅーっとやりてぇなぁ……。




「そうじゃのぉ……

 ワシが今から語るのは、イプセプスとラパ・ヌイの戦争、そしてこの悪魔城に関する見解……。

 どうじゃ、少しは興味はわいたかの?」

「お、なんだ爺さん、人心掌握術がたけているじゃねぇか。

 興味がありすぎる話題だろ、俺にしろ、リュネットだって」

「そうね、ウチも是非この悪魔城については聞きたいわね」

俺は自分のご先祖様、リュネットにしてみれば、この悪魔城の来歴に関する事だ。

それに、悪魔城に関する事は、命を左右する場合だってある。

聞いておいて損は無ェだろう。


「では……そうじゃな、順を追って説明しておくかのぉ。

 グレイブ、お主、イプセプスとラパ・ヌイの戦いが、どの様に行なわれたか知っておるかの?」

「おう、あったりめぇよ。知ってるぜ」

有名な話だ。

それこそ俺達は寝物語で、ずっと聞かせられて育つんだからな。





次元回廊[ラビリンス]を巡って一進一退の攻防の最中、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の後方を断つ為に、首都を攻め落とす作戦が立てられた。

それは、異界門[ゲイト]で戦っている味方を囮とした電撃作戦で、生きて帰ってこれる可能性は皆無。

その為、志願兵でのみ成り立っており、決死隊と呼ばれた。

彼らはその名の通り、生きて帰る事を諦め、イプセプスの為に殉ずる覚悟の英雄中の英雄。


決死隊の果敢な戦いにより、電撃作戦は成功する。

ラパ・ヌイ首都アレキサンドリアは陥落。

決死隊は敵から奪った浮遊城で、後方連絡線の遮断を行なった。


魔法による大量輸送が出来なくなり、ジリ貧となっていくラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]

3日目にして、浮き足立つ軍をまとめ、将軍[ジェネラル]チャンドラグプタは撤退、その間にイプセプス側は次元回廊[ラビリンス]の制圧を完了する。

役目を終えた決死隊は首都アレキサンドリアと浮遊城に立て篭もり、最後まで徹底抗戦して、その命を散らしたと言う。


その後、イプセプス側は次元回廊[ラビリンス]を破壊、2つの世界は再び別の道を歩む事となった。


「ってぇ、話よ。

 で、俺達の御先祖様は、次元回廊[ラビリンス]を破壊する時に、ラパ・ヌイ側に残って異界門[ゲイト]を守っていた一族ってぇわけだ。

 決死隊の次に英雄だったわけだな!」


「うむ、専門の教育機関でも、大体そんな感じじゃのぉ」


「お、そーかい、うれしいねぇ。

 ご先祖様が褒められるのは」

「え?ほめて無いような気がするけど……?」

「ご先祖様のやった事が正しく後世に伝わっている、それだけで良いんだ。

 それが俺達イプセプス・ハイ・オークの名を高める事に繋がるってぇわけだ、勇猛果敢で忠義に篤いってな。

 そうすると仕事が来る、仕事をすると名があがる。

 そんな奴らが1人、2人……ドンドン増えて俺達の部族に対する周りの評価はうなぎ登りってぇわけだ」


「へぇ~、ウチにはわからん感情だなぁ」

「ふぉふぉっ……」

「……」




7つ手のリュネット。

コイツとコンビを組みだして、かれこれ2年だ。

気が会う奴だけど、まだ知らない事は多い。

獣人[テリアントローペ]と人間のハーフって事は一目瞭然だから、こいつが子供の頃から苦労しているってのも判る。

種族単位で暮らす中に異分子が1つだ。

当然、疎まれるだろうし、自分を守るには自分の力しか頼れるものはなかったんだろうって事は、俺でも判る。


コイツの性根が悪い奴じゃねぇって事は判っている。

信頼に足る仲間だからこそ、ずっとやってこれたんだ。


7つ手という二つ名……ダンジョンランナーにとっては、腕が良いって意味だ。

それが、普通のダンジョンランナーなら……だが。

裏の意味合いとしては

手が多い =取引相手が多い、手癖が悪い、信用ならない。

見せている腕は2本だけ =裏で何をしているのか判らない。

てな所だろう。


リュネットの二つ名に、他のダンジョンランナーのやっかみが入ってる事は確かだ。

だが、俺と同じで自分の二つ名を恥じている、払拭したいってぇのはコイツも同じ。


7つ手……この場合なら、裏切りや敵との二重契約、機密情報を不特定多数に流すとか……

色々あらぁな。

ま、どんな理由にせよ、二つ名になるだけの事実と結果があったわけだ。


だからこそ、二つ名を払拭できるチャンスは逃すわけには行かネェ。

悪魔城攻略で、富を得て、二つなの上書きができるんなら、一石二鳥だ。

必ずやり遂げてやる。




「さて、歴史の裏についてでも話そうかのぉ」

「おぅ、待ってたぜ。 

 で、さっきの話とどう繋がるんでぇ?」

「この悪魔城が奇妙な事は、判っておるじゃろう?

 そっちの娘さんは、色々と物知りじゃからの」

「おう、リュネットは頭脳労働担当!

 で、俺は肉体労働、荒事専門だ!

 依頼金の交渉もコイツに任せて置けばバッチシよ!」

「自分の馬鹿さ加減を、自慢してどーするのよ……グレイブ」


「ふぉふぉふぉ。

 この悪魔城じゃがの、その戦争の時にイプセプスに取られた浮遊城じゃよ」

「ほー、そいつは……取り戻したら金になりそうだな」

「え?ちょっと待って、それ、おかしくない?」


「これは確証があっての。

 ワシが裏道を知っておった理由というのがソレじゃ。

 というのもな、昔、この浮遊城の設計図を見た事があるからなんじゃよ」

「でも設計図って……機密なんじゃ」

「ま、ある伝手での。

 それに盗難された浮遊城じゃしの」

「それもそうだな」

「え~~。まぁ金になるから、どっかの馬鹿が持ち出して売ったんだろうけど……」


「けどよぉ、これがその時の戦いで、失われた浮遊城だってのは判ったけどよ」

「今までの戦いで、何隻か沈められているのも知ってるけど……」


俺でも気付いた疑問点だ。

リュネットが気付かないわけはない。


「こんな魔力素の塊みたいな物がどうやって、500年以上も感知魔法から隠す事ができたの?

 この城、死んでないから、それなりに感知魔法には反応すると思うんだけど……」

「うむうむ、さすがリュネットじゃ」

「おぅ、どう考えても、これは過去見にも魔力感知にだって引っ掛かるぜ。

 大結界を越えてココまで移動してくるのは無理なんじゃねぇか?」

「ふぉっふぉっふぉっ。良いぞ良いぞ」

爺さんは、我が意を得たりとばかりに笑う。




「これじゃ」とんとん

爺さんは樹の根っこを叩く。


「これじゃよ」

そしてもう1回、樹を叩く。

大事な事なので2回言ったらしい。


「この樹が感知魔法による探索を妨害しておる。

 それどころか、異世界の(ことわり)を植え付けてラパ・ヌイの魔法阻害まで行なっているんじゃ」

「え、異世界?感知魔法の妨害……?」

「……おぅ」


「この悪魔城が世界各地で発見されては消失するのは、移動しておるからじゃろう」

「でもこんな樹を生やした浮遊城が動いていたら、すぐにばれるわよ?」

「お……おぅ」


「うむ、移動方法については、実際に飛び回っておるのか、転移しておるのかは判らんのぉ」

「ほうほう」

「移動しているのを見た人がいないなら、転移じゃないの?」


「ふむぅ、じゃが仮に転移だとしたら、こんな大質量のが転移したら、辺り一面は酷い事になるじゃろ?」

「うーん、そうよね。

 空間湾曲型じゃ、こんな巨大な物が通る道を作ること自体難しいし、かといって空間転移型だと……

 じゃあ、やっぱり浮遊かしら。浮遊城全体を幻影で覆って……」

「ほうほう」


「だとしても。コレだけの大物なら大結界を越える時に、反発がおこるじゃろ?」

「そうよねぇ。確かに浮遊して行ったらそうなるわね」

「ほうほう」

「いやいや、ちょっと待って。

 それじゃ、最初に戻っちゃうじゃない」

「ふぉっふぉっふぉっ」

「ほうほう」


「それで感知魔法の妨害って説ね?」

「……」

「でも、大結界に負けない対魔法処理なんて、そんな大規模魔法を使えるの、超人ジョフクぐらいじゃない……」

「いや~~多分、超人ジョフクでも無理じゃと思うぞぉ、ワシは……」

「じゃあ、いったい……?」

「ほうほう」


「今までの仮定は全て、対魔法処理が成されているならば……の話じゃろ?」

「?」

「ほうほう」

「じゃが、対魔法処理でなければ……」

「ん……?じゃあ、さっき言った感知魔法の妨害と、対魔法処理とは意味が違うって事なの?」

「そうじゃ」


「それが樹の特性って事?」

「いや、正確には異世界の(ことわり)じゃな」


「さっきから言っている、異世界の(ことわり)って?」

「うむ。誰が言っておったか忘れてしまったが、世界法則[リアリティ]と言ってな。

 世界にはそれぞれ(ことわり)がある」

「ほうほう」


「この(ことわり)は絶対でな、異世界に行った者は必ず守らされるルールじゃ。

 陸の者が、水中に行って呼吸が出来ないのと同じ感覚じゃな。

 遺失技術品[アーティファクト]が遺失技術品[アーティファクト]たる所以もそこにあってのぉ」

「うぅん?」

「ほうほう」


「難しいわね」

「ほうほう」


「……グレイブ」

「ほうほう」


「フクロウは?」

「ほうほう」

「……」

「……」


「あんたも少しくらいは頭を働かせたら?」

「ほうほう」

「……」「……」


「……」

「ふぅぅぅむ」


「……」

「……おう、リュネット」

「なに?」

「パス。お前に任せた」

「はぁ?」

取り合えずワカラン。

難しそうな話なのでリュネットに噛み砕いてもらう。

頑張れ、頭脳労働!



とりあえず判った事は、この樹の形をした遺失技術品[アーティファクト]が、取り込んだ世界法則[リアリティ]とやらを、任意に放出するらしいという事だ。

世界法則[リアリティ]って言うのは、世界が決めたルールで、1つの世界に1つのルールがあるんだって話。


で、この世界法則[リアリティ]に対して逆らう様な行動は、その世界に住む者は許可されないという事みたいだが、ここら辺が随分、要領を得ない話だ。

俺達は別に世界にやる事を決められているわけじゃねぇしなぁ……。



「いや、今まさに、グレイブの言った事が行われておるのじゃよ。

 気付かないのも無理はないがのぉ」

「お?そりゃ、なんでだ?」

「うむ。この世界のルールを無視できる存在が居るのじゃよ。体現者[コマリ]と言ってのぉ」

「お、それなら知ってるぜ」

「ウチも聞いた事ある」


「そうか」


「確か、異世界に攻め込む時に、先鋒を任される勇猛果敢な戦士だ」

「うん、確かそういった話よね?」


「ちなみに、グレイブとリュネット、おぬし達もそうじゃぞ」

「俺たちもか?」

「へぇぇ」

「信じてないようじゃのぉ……まぁ道々語るとしようかの

 話を続けるが良いかの?」


正直、俺には良く判らん話だからいいや。

別に困っているわけじゃねぇしな。

世界が俺の邪魔をするんなら、世界法則[リアリティ]とか言う、ルールごと叩っ切ってやれば良いだけだ。



「今から話すのは、イプセプスとラパ・ヌイの戦争の裏で行なわれていた事実じゃ。

 推測も混じるが、まぁ仮説じゃからのぉ。まだ立証されたわけではない」

「構わんぜ」

「そこら辺はほら、話半分で聞いてるから大丈夫よ」

「ふぉふぉっ……それはそれで哀しいのぉ。

 さて、この城の事についてじゃが、先程、浮遊城だと言ったじゃろ?」

「ええ」

「おう」

「この城の本来の名前はのぉ……」



さて、爺さんの話をリュネットが噛み砕いた所、この城は決死隊だった御先祖様が、持ち逃げした物らしい。

本来の名前は、2番浮遊城・ドゥーンエンガスと言って、フィルヴォルグ族が自らの大地を切り離し、ムー帝国攻略戦に加わった由緒ある城だとか。


で、こっからが爺さんの話のキモだったわけだが、御先祖様の中でも決死隊というのは、イプセプス王直属の騎士や魔法師などエリートが多数参加していたらしい。

その力たるや、当時のアレキサンドリアの守りについていた浮遊城の4隻で、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]を圧倒したという。


ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]にとって災いだったのは、補給がまったくない状態での戦闘が行われたという事。

早期決着をつけたいラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]だが、人質と共に篭城され、1日1日と引き伸ばしにかかられては、思うように打って出る事ができなかった。

あわやラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]が逃走か、といった所で転機が訪れる。

決死隊から裏切り者が出たのだ。


この裏切り者の力を借りて、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は攻勢にでる。

ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の完全敗北という状態から、戦局はいっきに逆転し、王族の無事救出、決死隊を捕らえる事に成功したという。


その後、決死隊は全員、処刑されたという話。




「うぅむ。結果は同じだが、釈然としねぇ話だなぁ」

「ウチもそう思う。

 たかが数十人の戦士に何万と言うラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]が圧倒されるって事が、まゆつばっぽいよ」

「ふぉっふぉっふぉっ……そうじゃな」

「そうじゃな、って……」

「だが、できたんじゃよ」

「どうやって?」


「これじゃ」とんとん

爺さんは再び樹の根っこを叩く。


「「?」」

「この遺失技術品[アーティファクト]の特性を利用したのじゃ」

「特性?」


「簡単に言うと、この遺失技術品[アーティファクト]には、強力な場[フィールド]を創造する能力があっての」

「強力な場[フィールド]ねぇ。防御や回復系?」

「いや、そういった物ではなくてのぉ。

 それこそ、正に最初の話に戻るんじゃよ。世界法則[リアリティ]じゃ」

「世界の(ことわり)ね……」

「言ったじゃろ?

 ラパ・ヌイにはラパ・ヌイの、アーラムにはアーラムの、ラプラドルにはラプラドルの、固有の世界法則[リアリティ]がある」

「要するに世界法則[リアリティ]が、行動の成否ではなく是非を問うって事でしょ?」

「そうじゃ、この樹は、それができるんじゃよ。

 自らの取り込んだ世界法則[リアリティ]に従ってのぉ」


「うぅ~~んと……」

「ほうほう」


「ふぉっふぉっふぉっ……

 イプセプスの世界法則[リアリティ]はのぉ、ラパ・ヌイの魔法を使う事を許可しないのじゃ」

「え?」

「簡単な魔法や魔術、もしくはルーンを使っておるなら、ある程度は良いがの。

 ところが、ラパ・ヌイ固有の魔法文字ロンゴロンゴは使う事ができなくなるのじゃ」

「それじゃ、もしかして……」

「そう、ロンゴロンゴを使用した魔法の発動は、できなくなるのぉ」

「うわ、それは悲惨。

 確かルーンが創られたのは、この戦争の後の話よね?

 だとしたら、魔法師全滅じゃない」


「そうじゃな……ではルーンについて語ろうかのぉ」



再び爺さんは、昔の事を語りだした。

老いた魔法師ってぇのは、体力が無い代わりに様々な事柄を熟知している事が多いが、それにしても爺さん、博学だな。

まぁ、老人ってぇのは痴呆でなけりゃ、頑固で融通が効かなく怒りっぽいのが難点だけどな。



今度は、ルーンについてだ。

このルーンって奴は、数ある魔法を使う際に用いられる言語の1つで、現在、最もポピュラーな魔法文字だ。

標準的な魔法は全部コレでできていると思って良い。


さて、爺さんの話をリュネットが噛み砕いた所、ルーンってのは、俺のご先祖様が居た異世界イプセプスで使われていた魔術的な文字らしい。


さすがご先祖様だ。

で、これが伝わった経緯というのが面白い。

先程のアレキサンドリア市の攻防戦に出てきた裏切り者が、この世界に伝えたらしい。


「なんと言うか、自分で志願しておきながら裏切るってぇのは、どんなノーミソしてんだ?最悪だな」

「そうじゃのぉ、様々な二つ名を持っておるみたいじゃしのぉ」

「でも。ま、大昔の人なんだし、そいつがルーンを残してくれた御蔭で、今の魔法の発展があるんだから、いーんじゃない?」






魔法ってのは、誰にでも使う事の出来る力だ。

少なくともラパ・ヌイの常識では、赤子から年寄りまで誰でも使える。

何しろイメージするだけだからな、簡単なもんだ。

火種やそよ風を作る、物を湿らせると言った弱い魔法なら、それで充分だ。


だけど《存在の力》を崩しかねない様な、強力な魔法になってくると、話は別だ。

あーっと《存在の力》ってのはなんだ、物のかく有るべきという形、とか言われても判んねぇよなぁ、俺もあんま、理解してるわけじゃネェからな。


一応、俺は見たマンマの形だと思っている。

で、その《存在の力》が魔法の「あーしろ、こーしろ」って言う《強制力》に対して「うぜぇよ」って《反発》をしてくる。

この《反発》をどれだけ押さえ込むかが、魔法を使う奴の腕の見せ所だ。


言っても判らん奴には、殴って言う事を効かせるのと同じだな。


この《反発》ってぇのを、様々な方法で押さえ込む為に、開発された手法の1つが魔法言語だ。

魔法言語以外にも色々と種類がある。

専門用語でアプローチとか言うらしいが、歌う、踊る、語る、書く等を基本として無茶苦茶な量がある。

基本となるパターンってぇのが、詠唱[チャント]、舞踏[ダンス]、真言[パワーワード] 、結印[シンボル]だったっけか。

他にも有るらしいが、俺は知らねぇ。

これらを組み合わせてルーンやロンゴロンゴなどの魔法文字、呪文、指パッチンなどのかっこいいアプローチを開発する。

ちょっと特殊なのに、圧縮封印[メモリー]と儀式[リチュアル]、永続化[パーマネンス]があるが、これも俺はよく知らん。

俺の知っているのはたった1つ、ルーンだ。

現在最もポピュラーな魔法文字だな。



今の小難しい説明を簡単にするとだ。

《存在の力》が《反発》できねぇぐらい、ボコボコにしてやるってぇ話だ。

何も拳で殴る必要はネェ、《強制力》に剣や斧と言った得物を持たせてやるんだな。

その剣や斧が、アプローチって言う代物だ。




魔法はイメージって言ったが、強力になればなるほど《強制力》を強めないといけネェ。

でないと《反発》で殺されるからな。


そこで一般の人は、あらかじめ構築された魔法を買う。

高名な魔法師や売れっ子デザイナーがデザインした物、お婆ちゃんの知恵袋を元にした物、異世界の新技術を取り入れた物など色々と種類がある。

だが、どれも一貫して羊皮紙にかかれ、封印されて販売されている。


販売されている魔法のメリットは、その場その場で魔法を構築するよりも、強力な魔法が素早く使えるという事だ。


この羊皮紙を買って自分の魔法書に、備え付けの書き写す移送魔法【ペースト】を使用して転写する。

転写された魔法は、構築された魔法を理解する感知魔法【リードマジック】で読める様になるので、後は読むだけだ。


まぁ、実際には読むと言う言い方はおかしいが。

自分の脳内に同じ魔法を構築済みの状態で格納しておく……とでも言えば良いのかな。


当然、記憶できる量ってぇのは限られる。ソイツ次第だ。

俺は8つも格納すると頭が痛くなるので、いつも7つで留めている。

それ以上使わないといけない時は、戦闘中だろうが何だろうが魔法書を開く。

最初のページに書かれた魔法【リードマジック】を読み上げれば準備完了だ。


あ、そうそう、魔法【リードマジック】を使うのに魔法【リードマジック】は必要ないぜ。

簡単な魔法だからな。


「俺は読める!」と気合を入れただけで魔法【リードマジック】は使える。

他人の魔法書に書かれている【リードマジック】でも同じだ。

ただ、相手の魔法書を見たければ、相手の魔法書の【リードマジック】を使わないといけない。

自分のじゃ、代用できないんだよな。

めんどくせぇが仕方ない。

自己の安全のためだし、これのおかげで、魔法書を他人に横から覗かれても大丈夫だ。

魔法書を複数持つ様な奴になると魔法【リードマジック】だけを集めた魔法書ってのを創っておいて安全管理しているって話もあるぐらいだ。



まぁ、でもよ。

魔法書は大事だ。


魔法書さえ破壊しちまえば、魔法は使えなくなるってワケだからな。

だから魔法書ってぇのは命より大事だ。


魔法書を相手に見せる、預けるってぇのは、自分の手の内を晒す事だ。

魔法書には自分の人生その物がある。

自分の行動した結果が二つ名なら、魔法書は自分の生き様を表している。


ちなみに俺の場合、最初のページは、鎧を強化する魔法、次に瞬発力をあげる魔法だった。

最近、買った魔法だと、人に好かれる魔法、幸運になる魔法、指先から水の出る魔法とかだ。



特に指先から水の出る魔法ってのは、デザイナーがかなりハイセンスなキレっぷりだった。

説明書には“指先から水を出して尻を拭け”って書いてあって、その通りにすると……

水を出して尻を拭いても、濡れるだけだ。



「なんじゃ、こりゃ」

コレ作った奴、馬鹿だろ。

一番最初の感想だ。


時々あるんだ。

ハズレと言うか、何の役にも立たない魔法を販売したり、魔法構築時の欠陥を仕様ですって売ったり、明らかな失敗作を次の資金稼ぎの為に騙して売るようなのがよぉ。


思わず羊皮紙を床に叩きつけて、ストンピングしていたら、リュネットに怒鳴られたんでワケを話したのよ。


ところが、ところが。


リュネットに聞いたら、どうも隠喩表現らしい。

尻って言うのは、割れた顎の事を指し、そこに指を向けて水流調節したら、上手い具合に目潰しになる。


恐ろしいのはココからだ。

水流を細く早くしていったら、軟らかい物なら吹き飛ばす事ができる威力となった。

近くでそれを当てると、人間の肉ですら削り取るって魔法だ。


組織ごとふっとばすから、軽度の外傷治癒魔法【ヒール】じゃ治らんぞ、これ。

しかも、顎の下は首だ。

要は、接近戦用の首刈り魔法なワケだ。

“尻洗い”なんてネーミングの癖に、おっかねぇ。


いざと言う時の俺の必殺の魔法だ。





「で、ルーンを広めたのは裏切り者ってのは判るけど、その後、裏切り者はどうなったの?

 名前なんて聞かないから、ラパ・ヌイで重宝されたってわけでもなさそうだけど……」

「うむ、そこなんじゃよ。

 この人物の足跡を辿ると、少しばかり変わった行動をしておる」


理由は判らないが、と前置きして爺さんは裏切り者の事を語る。


わざわざ志願した決死隊を裏切り、敵についた……要するに自分の世界を裏切ったこいつは、2番浮遊城・ドゥーンエンガスを乗っ取り、アレキサンドリアを脱出した。

この間に将軍[ジェネラル]チャンドラグプタ率いるラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]別働隊は、アレキサンドリアを取り戻すと、敵イプセプスの決死隊を捕らえる事に成功している。


「判らんなぁ。裏切りは赦された事じゃねぇが、少なくともタイミングは最高だろう。

 一番効果的なタイミングだ。

 何で逃げるんだ?褒美はいらねぇのかよ?」

「そうね。何が目的かも判らないわね」

「おう、少なくとも裏切る以上は、ラパ・ヌイと何らかの取引があったんだと思うぜ?

 まさか、浮遊城が欲しくてやったってワケじゃねぇだろうしな」

「ところがのぉ、どうもそれっぽいのじゃ」

「え、そーなの?」

「どー言う事だ?」

「うむ、この裏切り者はのぉ、その後、アレキサンドリアへと戻って来ておる」

「お、金の話をしに戻ったのか?」

「いやいや」

「じゃあ、ホントに浮遊城が欲しかっただけなんだ」



その後、戻ってきた裏切り者は、捕虜となった元・仲間達の処刑人[エクスキューショナー]となる事を望んだ。

裏切り者は元・仲間達を、ラパ・ヌイとイプセプスの技術の混じった新たな魔法の実験台として嬉々として処刑していったと言う。


「最悪だな、この裏切り者……」

「胸糞悪いって言うか、なにか恨みでもあったのかしら?」


「それは判らんのぉ。

 じゃが、その時に発表された物の1つがルーンじゃ」

「んー、あれ?

 確かその処刑人[エクスキューショナー]って悪名高い……」

「お、良く知っておるのぉ」

「何だ?知ってるのかよリュネット」


「あんただって知ってるハズよ。

 子供の時に聞いてる筈なんだから」

「お、おう?」


「串刺す者[ツェペシュ]って聞いたこと無い?」

「お、知ってるぜ。俺も小さい頃、よく聞いたからな。

 戦場において千人の将を串刺し、城においては万人の捕虜を串刺す、ひとたび外に出れば、市井において億人の民を串刺す。

 そのもの、串刺す者[ツェペシュ]悪鬼羅刹の類なり……て言うのだろ?」

「そう、それ」

「実在人物だってんだから、おっかねぇ」

「詳しいのぉ、リュネットは……。まさにその話じゃ」


「てぇ事は、何だ。その裏切り者が串刺す者[ツェペシュ]だってぇのかい?」

「うむ、そうじゃ」

「あわわ……って確か、今も存命よね?」

「種族は不明じゃが、今も生きておるはずじゃ。

 最近だと10年以上前じゃが、平和的にデモ行進していたアンデッド人権団体を壊滅させておるのぉ」


「そうか、裏切り者が串刺す者[ツェペシュ]かよ。

 思わず納得しちまうぜ。

 情もなければ慈悲もない、理性も無くて傍若無人に振舞う奴だ。

 知性もあれば理非もある、勇気もあって義理人情に篤い俺とは正反対だな」

「はいはい」


「と、まぁ、この裏切り者についたは、ココまでしか判っておらん」

「お、何だよ爺さん、いい所なのに止めるのは酷いぜ?」

「尻すぼみぃ~~」

「ふぉっふぉっふぉっ、喜んでもらえて何よりじゃ」


「でもよぉ、疑うわけじゃネェが、爺さん。

 今の話が本当だとすると、悪魔城の持主ってぇのは……」

「いや、それは早計じゃろう」

「そーなの?」

「何だよ、知っているなら言えよ」

「いや、ココから先は串刺す者[ツェペシュ]とは違う話じゃ」

「ほうほう?」

「……」


「ではのぉ、今度は別の視点から見た悪魔城のダンジョンマスターを推測してみようかのぉ」

「別の視点?」

「今のは、悪魔城が歴史の舞台から姿を消した時の状況じゃ。

 いったん、串刺す者[ツェペシュ]の事は脇においておくのじゃ」

「おぅ」

「判ったわ」






「反逆の魔女という二つ名を知っておるかの?」

そう言って爺さんは語りだした。


今度の話は裏切り者の話や、串刺す者[ツェペシュ]の話ではなかった。


反逆の魔女と言う、これもまた俺達みたいな便利屋家業の人間とは、切っても切れない関係の人物の二つ名だ。


俺達の属しているギルド《便利屋イザヴェル》ってぇのは、特殊な例を除いて、どんな依頼でも受けるギルドだ。

だから他のギルドとイザコザがしょっちゅう起こる。

本来なら、こういった無茶苦茶なのは、ギルドと言うより犯罪結社だ。

だが、ある1点に置いて、このギルドは異彩を放っている。

設立に王家が絡んでいるという点だ。


表向きは、そんな事実は無いという話だが、それが嘘だって言う事は、そこそこギルドでの位階の高い連中なら誰もが知っている。

何しろ王家は未だに、このギルドに様々な影響を与えている。

言ってしまえば、正規で無い汚れた仕事は全てココに下りてくる。

王家とはまったく関係ない依頼人が持って来るのだが、最終的には何故か王家が得をしている事から、何となくだがカラクリが見えてしまう。


ただ、一応の分別はある。

何でも屋をうたっているが、盗みや暗殺には加担しないし、ましてや国家反逆などを行なえば粛清される。

と、まぁギルド《便利屋イザヴェル》ってぇのは、一番新しく出来た異色のギルドなワケだが、これの元となったギルドがある。


《便利屋イザヴェル》に先駆ける事1年、業界でもライバルとして認知されているギルド《テピト・オ・ヘヌア》だ。


こっちは《便利屋イザヴェル》と違って後ろだてが無い。

その代わりに実力さえ見せれば、人間でなくてもギルド員にするってぇ程の、完全実力主義で荒れくれ者ぞろい。

仕事内容も過激で、金さえ出すなら暗殺、盗掘、国家反逆なんでもござれだ。


当然、他のギルドと激しい軋轢を生む。


ところが、このギルドの設立目的ってぇのが“既存ギルドの破壊”だ。

最初ッから喧嘩上等なわけだ。

やられたらやり返す、目には目を、の精神で確実に相手を潰す。


そんな無茶苦茶なギルドの創始者[プロジェネター]が反逆の魔女という二つ名を持つ謎の人物だ。



「そんな大人物が裏切り者ってぇのかい?」

「さっき関係ないって爺さんが言ってたでしょ!」

「……おぅ」


「ふぉっふぉっふぉっ。

 次の話にいこうかのぉ」

「グレイブ、話は最後まで聞くのよ~~?」

「お、おう」


「異世界アーラムとの戦争時に、ギルド《テピト・オ・ヘヌア》の者から、アーラム側についた者が居る事は知っておるじゃろ?」

「ああ、アーラムに雇われたんだっけな。

 実は俺の村からも、何人かそっちに着いたのが居るってぇ話だぜ」

「売国奴の話?」

「おう、それそれ。

 次のラプラドル戦でも確か《テピト・オ・ヘヌア》の傭兵がいたろ?」

「あー、もしかして」

「俺の直接のご先祖様も参加したらしくてな。

 その時に作ってもらった鎧と武器を俺の兄貴が継いでいる」

「へぇ~~」


「ふぉっふぉっふぉっ、そういう事じゃ」

「うん?どーいう事なんだ?爺さん」

「あ、もしかして……」

「お、さすが頭脳労働、判ったのか。

 じゃあ、説明してくれ」


「要するに、この悪魔城の罠[トラップ]を造ったのは《テピト・オ・ヘヌア》に関係した人物だって事ね。

 確かに、あそこなら遺失技術品[アーティファクト]として、知識を秘匿している可能性は高いもの……」

「おー!そういう事か!!

 じゃあ、もしかしてコレって《テピト・オ・ヘヌア》の研究施設とかだったりするのかよ!?」

「ふぉふぉっ。それは判らん。あくまでも推測じゃ」


「そういえば、ほら、あの噂……」

「なんか、あったっけ?」

「アーラム戦の時、殺戮のメリジェーヌって魔女の話を聞いた事ない?」

「あるぜ。一騎当千の女傑だろ」


「じゃあ、ラプラドル戦の時の、血塗れの戦乙女も聞いたことあるでしょ?」

「おう、神算鬼謀、機知奇策、万物に見通せぬもの無しの軍師様だろ」

「実は同一人物だって噂が……」

「そりゃあ……長生きだな。どんなババァだよ」

「特殊能力持ちのエルフや、アンデット……ヴァンパイアロードとか?」

「お、そりゃ、確かにありうるなぁ」


「ふぉっふぉっふぉっ、リュネットは頭脳労働と言われておるだけあって頭の回転が速いのぉ」

「おだてても何も出ないわよ?」


「ふぉっふぉっふぉっ、で、その人物達じゃがの。

 実は反逆の魔女と同一人物であるらしいと言う話じゃ。

 もしくは同じ血脈かも知れんがの」

「反逆の魔女の系譜ね……故郷ラパ・ヌイを裏切る……裏切りや反逆が趣味とか?」

「そんな一族殺しちまえ」

「ふぉっふぉっふぉっ」


「でも良く判ったわね?

 そんな噂なんて全然聞いたこと無いよ?」

「うむ。リュネットの様に博学なら知っておるかもしれんが、100年前のラプラドル侵攻をきっかけに、異世界の魔法以外の文明にも価値を見出そうとした動きがあるのは知っておるじゃろ?」

「おおっ、俺も知ってるぜぇ。

 遺失技術品[アーティファクト]の事だろ、金になるんだ、あれが!」

「そうじゃ、ワシはそれを色々と調査しておってのぉ。

 その時に、その噂を聞いたのじゃよ」

「もしかして爺さん、探索者とか神なる知識ギルドの人なの?」

「いや、何処にも属しておらんよ」

「ええ!?じゃあ、普段どうしてるのよ!」


普段ってぇのか、あれだ。

どこかのギルドに属してないと、当然バックアップを受ける事は出来無ェ。

依頼がないから金は入らない、渡航費用とか情報が全然もらえないし、ギルドに併設されている書物庫などの重要拠点も使用できない。

魔法や知識を売ろうにも、おおっぴらに出来ない。

よほどの実力がないと宝や遺失技術品[アーティファクト]の売買だって難しいんじゃねぇのか?


「爺さん、苦労してんじゃねぇか?

 なんなら口利きぐらい……」

「ふぉっふぉっ、大丈夫じゃよ、そこはアレじゃ。

 無駄に歳を重ねれば、横の繋がりが出来るのでのぉ」


闇に手を染めた人間なのか、属していないと嘘を言っているのかは不明だが、ココは深入りしない方がよさそうな気がするぜ。

得体のしれない爺さんなのは間違いないが、今までフリーランスでやってきたんだ。

コレからも、やっていくつもりなんだろう。

実力は俺達を凌ぐしな。



「まぁ。爺さんがいいって言うなら、俺達が口出しする事じゃねぇしな」

「あー、うん。まぁ、そうだけど……」

「リュネットもグレイブもやさしいのぉ。

 ふぉふぉっ、じゃが大丈夫じゃよ、フリーの方が動きやすい場合が多くてのぉ」

「ああー、それはあるかもねぇ」


「まぁ、暗黒大陸まで来るってぇんだ。

 よっぽど秘匿されるような難しい知識を求めているんだな、爺さんは」

「ふぉっふぉっ、ワシはのぉ、不老不死を研究しておるのじゃ。

 不老[エイジレス]や不死身[インヴァルネラビリティ]、長寿[ロンジェビティ]でもない。

 不滅存在[イモータル]への道じゃ」

「へぇ、そりゃまた……

 超人ジョフクや将軍[ジェネラル]チャンドラグプタでも目指そうってぇのかい?」

「ふぉふぉっ、残念な事に彼らは不滅存在[イモータル]ではないよ。

 不滅存在[イモータル]とはアレキサンダーとか、国王[スルターン]の事じゃな」

「そうなの?」

「俺にしてみれば、どっちも同じだぜ。

 エルフ100年、竜200年、トレントでも300年だ。500年を超えるならアンデットだ」

「ふぉふぉっ、そうじゃな」




「で、結局よ。この悪魔城のダンジョンマスターってぇのは、どんなやつなんだろうな……」

「ワシの考えでは《テピト・オ・ヘヌア》の研究施設なんじゃが……腑に落ちない事があってのぉ」

「そーよねー、一番しっくり来る説は研究施設なんだけど……」

「おう、俺もそう思うぜ。

 この城の罠[トラップ]にしても、使われている魔法体系に巨大な遺失技術品[アーティファクト]……。

 これらを国王[スルターン]に売り払ったら、凄い事になりそうじゃねぇか」

「はぁ……」

「それは止めた方がいいと思うぞい」

「なんでだよ?一攫千金のチャンスなのによぉ」


俺の不満にはリュネットが答えた。

「まず、この悪魔城を動かせないと、魔法体系以外は無理ね。

 遺失技術品[アーティファクト]の根っこぐらいなら持っていけるでしょうけど、何が起こるか判らないからウチは嫌よ。

 それに、もしこれが研究施設だったら《テピト・オ・ヘヌア》の猛者を返り討ちに出来る実力も必要になるわよ?」

「お、言われてみりゃあ確かにな。じゃあ諦めるのか?」

「それがね……」

「そうじゃのぉ、ここが研究施設なら言った通りじゃ」

「うん……」


「あん?どー言うこった」

まわりくどくて判らんぞ。


「串刺す者[ツェペシュ]は、今も存命じゃからの。

 そうやすやすと、この城を手放すとも思えないんじゃよ……」

「そう、それに今まで戦った敵って、全部コンストラクト型の奴ばっかでしょ?」

「ん?おう。確かにリビング系やゴーレム、スライムばっかだな」


「研究所にしては警備がザルすぎるのよ。

 人を使っていないなんて、おかしいのよね」

「確かになぁ。誓約の魔法【ギアス】を使えば裏切りなんてないしなぁ……」

「ま、どちらかの説で当たりのような気はするけどね。

 串刺す者[ツェペシュ]か《テピト・オ・ヘヌア》か」




「でもよぉ、もしもだぞ、もしも俺達の考えが、全部、違っていたらどうするんだ?」

「例えば?」


「例えばよぉ、食いすぎで脂肪たっぷりと蓄えた魔法師が、金にあかせてこの城で魔法作成しているって事もあるんじゃねぇか?」

「えぇ~~?」

「無いとは言いきれんのぉ。

 串刺す者[ツェペシュ]説も《テピト・オ・ヘヌア》説も推測を重ねたに過ぎん」

「まぁね、罠[トラップ]だって斬新だけどワンパターンだし、敵だってコンストラクトモンスターばっかりだから、対策さえとっておけば危険なんてないしね~~」

「串刺す者[ツェペシュ]がダンジョンマスターだとしたら、身軽すぎるしのぉ。

 悪魔城をほったらかしにして、色々な所に出没しておるしの」

「場合によっては知識を溜め込んだアンデットかもしれねぇしな……リッチとかヴァンパイアみたいな」

「もしかしたら、低級アンデットで、前のダンジョンマスターの真似をしていただけとかね」






「ふむ、やはり、会いたいとは思わんかのぉ?」

「結局そこに行くわけね?」

「ココまで聞いたからには、確かめてぇんだが……」

「どちらにしろ、宝を奪うつもりなら、この後もやりおうじゃろ。

 早いか遅いかの違いじゃな」

「あーまーそうだなぁ。

 宝に変な追跡用の魔法を仕込んでそうだぜ」

「盗んでも、すぐに面なんて割れるでしょ」

「うげ、ありそうだな」

その気になれば、過去見で1発だ。

対抗するには、感知阻害魔法を使うわけだが、過去見ができるくらいの実力者なら難易度高くなるし、そもそも高価だし、まぁ無茶振りだぁな。



「めんどくせぇ……やっちまうか。

 おう、爺さん、魔法の腕は期待していいか?」

「え!?ちょっとグレイブ!

 脳筋な事、言わないでよ!」


「ふぉっふぉっふぉっ。

 齢を重ねて肉体は衰えておるが、生涯現役じゃ。

 魔法による攻撃と補助は任せてもらおうかの。

 何じゃったら、そこらのコンストラクトモンスターで試してくれても良いしの」

「爺さんも、自信満々に言わないでよ。

 相手はどっちに転んでも最悪よ!?」


「ふぉっふぉっふぉっ。

 つらつらと自説を展開して“会いに行こう”と言うのじゃ。

 最悪の場合を想定して行動すべきじゃろ?」

「お。言うじゃねぇか!

 いいぜ!俺も爺さんに乗った!!」


「あー!もう!!」


「ほら、リュネット気合いれるぜ!」



「はぁぁ、判った。ボス戦を想定して行きましょう。

 ただし、爺さんと連携を取れる様にしたいから、休憩が終わり次第、どこかの部屋で慣らしをするわよ?」

「そうしてくれると助かるのぉ。

 臨時とは言っても部隊[クラン]を組むのならば、実力を知っておいた方がいいじゃろ?」





こうして俺とリュネットは得体の知れない爺さんと一時的に部隊[クラン]を組む事にした。

だがやはり、この爺さんは只者じゃなかった。


数回、組んで戦うだけで、俺とリュネットにあわせて適確な魔法を飛ばしてくる。

直接的な魔法の攻撃力もあるが、それ以上に爺さんの補助魔法が、痒い所に手が届く。

鎧の強化に始まり、対コンストラクトモンスター用に、俺達の武器の硬度と耐久性を高め、敵の構造強度を落とすなど、多彩な魔法を使いこなす。


「これなら、いけるかもな」

「確かにそうだけど、それでも油断しすぎよ」

「ふぉっふぉっふぉっ」


「おう、ダンジョンマスターがどんな奴か掛けねぇか?」

「ふぅん、グレイブは何よ?」


「じゃあ、デブのヴァンパイア」


「あはははっ、じゃあ、いいよ~。負けた奴は帰ったら奢る事。

 私は、串刺す者[ツェペシュ]説にするわ」


「ではワシは残った《テピト・オ・ヘヌア》説でいこうかの?」


「よし、じゃあ次の部屋に行こうぜ」






「チッ、開かねぇ」

明らかに今までとは違った両開きの扉が目の前にある。


「ダメ。これはマジックロック。ウチじゃ無理」

リュネットの実力でも空ける事の出来ない扉とは厄介だな。

俺とリュネットは爺さんを見る。


「ココで最後なんだ。爺さん、頼んだ!!」

「ふぉっふぉっふぉっ」

爺さんが、抑揚のない歌を歌い、魔法【ディスペルマジック】を発動させる。


ガゴォン


開いた。

さぁ。

ボスは、どんな奴だ!!



俺達は45ヤードぐらい先の玉座を見る。


男が1人。

まだ子供だと?

太っている。

変わった服だが、鎧を着ていないという事は魔法師。


これは俺の勝ちか?

しまりのない顔だ。

アンデット……ヴァンアパイアにはみえない。

もっと低級そうな……

まぁいい。ココまで来たらヤる事は1つだけだ。



――― へっ、景気付けに威勢良く言ってやるぜ。


「へっっ!!こいつがこの迷宮[ダンジョン]の親玉かよ。

 楽勝そうじゃねぇか」

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