誰かの幸せ守る為 倒れたら立ち上がり 前よりも強くなれ
「僕は、宝物庫でロボを迎え撃ちます!!」
(ロボでロボを迎え撃つ?)
伊織の言葉に、動けばね、と僕は答えて宝物庫へと移動する。
(今のは、労働の為の自動機械と狼の王の名をかけたギャグで……)
いつも思うんだが、伊織は何でギャグ(?)の説明をするんだろう?
宗教的な意味合いだろうか?
いや、でも皇國代理天に宗教なんて存在しない。
拝金とか企業とかいった信仰対象になりそうなものはあるが、宗教は存在しない、いや、できない。
むむむ……。
(説明するのは当然だ。
相手に対して話した以上、説明責任は果たさねばならない。
相手に判る様に説明する義務だ)
あ。
あー、はいはい……。
……。
そーですか。
話している間にも宝物庫についた。
ココまで来るのに隠し通路から奥の部屋に移動して
竪穴の様な高さ8m、直径6mの円形の部屋を上から下まで移動(本来なら螺旋階段を使う所だが、見えない触手でショートカット)して
魔法陣の描かれた転送装置を起動するという手順をとっている。
コレだけで既に1分は過ぎている。
まだ冒険者達3人とドラコニー、フギンとムニンは頑張っているみたいだ。
僕も、痛みと寒気と吐き気をこらえ、すぐに眩暈と息切れする身体に鞭打って何とかたどり着いた。
距離にして50mも無いけど、ココまでがとても遠く感じられた。
さて、来る時も通った宝物庫だが、室内は円形状で直径が50mを軽く越える造りだ。
天井は半球状のドーム型になっており、中央の高さは20mをこえる。
灯りは、天井の光り輝く白い球が室内全体を照らし、円形状の壁の何箇所かが、柔らかな光を出し、陰になっている場所を照らしている。
今、僕は部屋の中央に居る。
ここは、まわりの床より10cm程高くなっており、その中に直径3mほどの魔法陣が書かれている。
この部屋に入るには、この転送装置を使わなければならない。
そう。
今、僕が居る直径3mの魔法陣の内側を必ず通ってくるわけだ。
グレイブさんも魔狼も、ブランカもロボも。
そこを狙い撃つ。
卑怯結構。
ロボ対ロボも燃えるけど、僕は何よりも安全策が好きなんだ。
ヴラドとの知識共有からココの宝物庫に置いてある物はだいだい把握している。
急がないと……準備にかける事のできる時間は殆どない。
転送装置、判りやすく言えば、物体を瞬間的に遠隔地に移送する装置だ。
原理は様々だが、結果だけを抽出すると、概ねあっていると思う。
で、この手の瞬間転移には面白い話がある。
その結果の部分に、何か別の物体を置いたらどうなるか、という話だ。
転送された先に、もし異物があったら?
古典的ロールプレイングゲームでの話で、瞬間転移を使って失敗した時の話だ。
“*いしのなかにいる*”という簡潔な文章で、せっかく育て上げたパーティを全滅させ、プレイヤーのヤル気をゼロにする素晴らしい言葉はとても有名だ。
他にも、りある魔術の禁書目録という小説で、転移能力者同士での戦いでも似たような描写があった。
そこで、僕も魔狼達が出て来る瞬間を狙って、直径3mの魔法陣を覆うように何かを置こうと思う。
ただし問題が1つ。
実は、どのような結果になるか判らない。
転移先に物があった場合、どのような結果が起こるのかは、ヴラドの知識にはなかった。
僕が狙っているのは融合という効果だが、上記のりある魔術の禁書目録や“*いしのなかにいる*”という効果は融合ではななく、後述する全く別の効果だ。
推測ではあるが、融合しない場合の可能性がある。
というかそっちの方が高い。
これは、僕の考えている転送装置と原理が違う場合だ。
科学と魔法じゃ原理からして違う。
ましてやココは異世界、世界法則[リアリティ]からして違うんだ。
さて、転移先に物があった場合の結果、どうなるか?
1、そもそも発動しない。
危険がある場合のセーフティだ。
2、こちらとあちらの空間ごと交換するタイプは、何も問題は起こらない。
この場合、魔法陣からはみ出ていると大惨事になる。
転移しそこなった部位がボトンっと落ちるわけだ。
3、転移先の物質をはじく、押しのけて転移するタイプ。
*いしのなかにいる*やりある魔術の禁書目録が、このタイプだ。
石の中に突如転送して、失敗を悟る → 意識のあるまま窒息死という状態だ。
転移の結果が融合ではなく、1~3のどれかだったら、魔法陣の上に物を置いても仕方がない。
3だった場合は直径5mぐらいの鉄板を高さ50cmぐらいの所に置いておけば、足止めにはなるだろうが、その様な物は無い。
いや、あるにはあるが、やりたくない。
せっかくのロボットをそんな事に使うわけには……!
まぁ、もしも転移の実験して、結果が3だった場合はやっちゃうかもしれないけど、試している時間は無いからぶっつけ本番だ。
僕は念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】の見えない触手を伸ばす。
5本中2本は、僕の移動補助をしてもらって、3本はそれぞれ作業用に振り分ける。
同時に全ての作業を行う。
まず僕自身の移動だ。
足の指がなくなった事でマトモに歩けなくなった。
痛いのも事実だが、息があがる、遅いなどの理由により、念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】に頼った移動をしている。
ああ、楽チンだ。
目指すは、ヴラドがラプラドルで使用していたという魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)ではなく、雲雀がご執心だった作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)だ。
うう、僕だってできれば、魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)に乗りたいッ!
無骨なリベット打ち、下半身のキャタピラ、機能美を追求したシルエット、幾多の戦場を駆け巡って付着した泥と錆びと汚れ。
はぁはぁ。
いかん、ヨダレが。
でも残念な事に、僕は乗る事ができない。
あれはヴラド専用機だ。
そう、ヴラド専用機なのだ。
大事な事なので2回言いました。
赤くて角突きなのだ。3倍早いのだ。
僕には、あの魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)に乗れる資格が無い。
魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)にとって僕はその他大勢、有象無象、ただのデブなんだ。
くそう。
見てろ、いつか必ず、コクピットに馬乗りになって、隅から隅まで蹂躙し尽くし、操縦桿を握ってヒィヒィ言わせてヤる。
絶対だ。
まぁ簡単な説明をするなら、ラプラドルの魔導機は車みたいにキーはない。
その代わり生体認証みたいな、個人データを登録する事で搭乗者確認を行なっている。
その為、魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)はヴラドの認証が無いと動かせないのだ。
要は登録さえすれば、魔導機獣ウサ耳ゴリラ(仮)をなめつくす事ができるようになるわけだ。
閑話休題。
さて、今までの話から作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)も生体認証無しじゃ動かせないんじゃ……?と思うかもしれないが、実は作業用というのがミソ。
誰が乗っても自由に動かせる様にするため、認証コード確認機能自体が設定されていないのだ。
最初から搭乗するロボットに選択肢がなかったんだ。
さて時間が無いとはいっても焦りは禁物だ。
1つずつ問題点を解決していこうか。
ここにあるラプラドルの作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)は動かす事が出来ない。
この作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)のエンジン部分に積んであるのが、元素転換機関[エーテルリアクター]でなく、元素転換機関[マナリアクター]だったら問題なく動かす事ができた。
しかし、残念な事に積んであるエンジンが違った為に動かす事ができない。
要するにガス欠だ。
動かすのに必要な万物構成物質[エーテル]が、どこにもないのだ。
万物構成物質[マナ]で代用できないの?と思うかもしれないが、同じ万物構成物質でもマナ=エーテルでは無い。
パンが無ければブリオッシュ食べればいーじゃん、というわけにはいかないのだ。
だから動かせない。
……というわけでもない。
ガス欠は事実だ。
この作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)……長いな、この名前。
取りあえず、以後ドリル&シザー(仮)で。
ドリル&シザー(仮)は確かに元素転換機関[エーテルリアクター]を積んでいて、万物構成物質[エーテル]がなければ動かせない。
いわゆるガス欠だ。
しかし、元素転換機関[エーテルリアクター] の役割=エンジンであっても、元素転換機関[エーテルリアクター] の機構=エンジンではない。
元素転換機関[エーテルリアクター]の構造は発電機と同じだ。
軽油を入れて、発電機をまわし、電気を作るのが発電機だ。
万物構成物質[エーテル]を、元素転換機関[エーテルリアクター]に通して、魔力素を得る、それが元素転換機関[エーテルリアクター]の機構だ。
だから実際の所、ラプラドルの魔導機を動かしているのは魔力素だ。
従って魔力素があればドリル&シザー(仮)を動かせる可能性がある。
そこで必要となるのが、ヴラド曰くノーベル賞ものの発明だ。
僕は、ヒップホルスターから壊れたコンストリクターVSPを抜く。
持続時間が過ぎた為に、魔法を使う為の魔法【ハンマーコック】は使えなくなっている。
だが別に構わない。
今、欲しいのは、万物構成物質[マナ]から魔力素を生み出す変成魔法【ファーミングチャンバー】だ。
この魔法はシリンダーを廻せば良いだけなので、念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】を使ってコンストリクターVSPを応急修理する。
見えない触手の1本を細く延ばして、シリンダーの中央の穴へ入れる。
お亡くなりになったエジェクターロッドの代わりとするわけだが、上手くいくか?
廻す。
シリンダーを廻す。
上手いこと廻っている。
……。
…………。
「―――!!」
たまった!!
クララがたまった!!
……。
…………。
すいません。
誰もツッコミが無いと寂しい。
そうだ、説明責任を果たさないと……。
「そんな事より、勇者よ!」
「はい、何です?グレイブさん」
「逃げるにゃ!」
向こうに置いてきたフギンとムニンから心話を通して撤退宣言。
こうしている暇はなかった。
「いいですよ。次の部屋、螺旋階段なんで、気をつけて下さい。
あと必ずスプレーは散布してくださいね」
ーーーん?
“そんな事より”……?
グレイブの言葉だ。
フギンとムニン?
(何だ?マスターよ)
えっと、今までの事は喋ってた?
(もちろんダ!)
……。
…………。
何で喋るかな?
うう、恥ずかしい。
(喋るナと言われなかっタかラ!)
むか。
(冗談ダ、喋って欲しイという命令だったのでナ。ずっと中継していタ)
え?
(大丈夫だ。魔狼ドモにマスターの、ゲスな作戦を伝えなイ様にすル為に、風の結界を張って音が漏れなイ様にしてあル)
ああ、それはアリガトウ……。
ゲスですカー。
僕の考える事ゲスですカー。
(あの者達にも気晴らしにはなったダロ。
殿とは辛いものなのでナ)
ーーあ。
そっか。
確かに殿はキツイもんね。
まぁ、僕のギャグが少しでも気晴らしに、役に立つんなら、それでいいか。
(マスターがゲスなのは変わらンがナ!)
はいはい。
どうせ僕は、勇者でゲスでデブで強面ブサメンで毛が濃くてゲロ吐きでHENTAIで魔法も使えないお荷物ですよ、ぐすん。
うう。
へこむなぁ。
気を取り直してコンストリクターVSPに魔力素を溜める事が可能となったので、次に進む。
もう1つ、僕はポケットからコンストリクターVSPのシリンダーを取り出す。
そう、もう1つ。
なんじゃそりゃ?と思われるかもしれないが、ある物は仕方が無い。
でかくてごつくて銃身のぶっとい無骨な黒鉄色のリボルバー、コンストリクターアンフィニの2つ目のシリンダーだ。
正確に言うと、ヴラドに魔改造されるコンストリクターアンフィニを不憫に思った僕が、本来の姿を楽しむ為に買った2丁目の哀れな姿といえばいいだろうか?
そう、可哀相な2丁目は、ヴラドの新魔法【ファーミングチャンバー】の実験台としてバラバラに分解されてしまっていた。
だが、だからこそ、コンストリクターVSPは、ヴラドに魔改造されたとはいっても元の姿を残している。
僕は、この手に握ることすらなかった2丁目の事を忘れないっ!
まぁ、なにはともあれ、このコンストリクターというリボルバー、かこいいなぁ、
素晴らしい。
ぐー、です。
まぁ、そんな事より僕は、コンストリクターVSPをスイングアウトの状態にする。
この状態で、2つ目のシリンダーにも触手を通して直列繋ぎの状態にして廻す。
後は廻す。
ひたすら廻す。
必要なのは魔力素だ。
チャージッ!
―――チャージなどさせるものか。
……。
…………。
うん、名言だけどこんな時に思い出したくなかったよ……。
フギンとムニン?
(何だ?マスター)
今のも喋っているとか無いよね?
(残念だガ、喋っていなイ。
だが、気にする必要は無イ。
ゲスがどんなに良い事を言っても、ゲスである事に変わりは無イのだかラ)
うう。
精神的なダメージがキツイ。
でも、やっぱり誰もツッコミが無いと寂しい。
はぁ。
くだらない事で若干テンションが下がったけど、2つ目にも、魔力素が溜まり始めた。
実験は成功だ。
この間にも別の所では、見えない触手を使って僕は仕度をしていた。
先程言った通り、ドリル&シザー(仮)は魔力素さえあれば動かせる可能性がある。
その可能性の部分、元素転換機関[エーテルリアクター]の魔力素チャンバー部分に用がある。
これがあるのが、腹部から背中、ちょうど胸部と腹部にまたがっているコクピットの下あたりか。
僕はコクピットの中に入ると、邪魔な座席を倒して、その下にある蓋を開ける。
ヴラドの知識が正しいなら、ここが丁度、魔力素チャンバーのある場所だ。
ここからドリル&シザー(仮)全身へと魔力素を配給するのだが、やはりチャンバー自体に蓋は無い。
仕方ない、壊すか。
少しばかりコクピットの座席が邪魔で見づらいので、倒した座席を更に前に移動して、中が見える位置からチャンバーの蓋を開ける作業をする。
ナイフで穴を開け、そこからコンストリクターVSPを中にいれる。
もちろん触手でずっとシリンダーを回転させ続けてだ。
上手くシリンダー内の魔力素を吸収してくれるといいんだけど……、
コクピット内、座席の両側にあるレバー付きの水晶球に触れる。
起動の為の言葉を唱える。
正確には、水晶球を意識して思うだけだが。
「起動ッ!」
ゴゥン。
ゴッ……
ゴッゴッゴッ……
ゴッゴッゴゴゴゴゴゴゴッ
動いた……。
動いたッ!!
ピーッピーッピーッピーッ
「?」
えーっと……
ああ、エネルギー切れの警告だ。
やはり、シリンダー2個から得る事のできる魔力素は少ないらしい。
量産化の暁には、V型16祈祷とか4縦星型とか……
仕方ない、シリンダーを廻すのを早めよう。
触手3本を使ってシリンダーの右側面を叩いた後に左側面を叩いて回転数を一定に保つ。
まさしくエンジンのように廻す。
残るは、宝物庫内で使えそうな武器を探す。
剣とか盾の類だ。
魔狼たちの目的が地球ならば、この部屋で僕達と戦うよりも異界門[ゲイト]を目指すだろう。
だから、グレイブさん達がここまで逃走してきたら、取り敢えずの武器と防具を持たせて魔狼の攻撃のこない所に逃がす。
なに、あと5分以内だ。
やれる事はやった。
ふぅ。
一息つく。
僕の目は、フギンとムニンに同調させる。
現在は、隠し通路を放棄して、魔法陣の部屋だ。
スプレーの足止めが効いたのか、追いかけてくる魔狼はいない。
螺旋階段を壁ぞいに慎重な足取りで下りてくる豚顔巨漢グレイブさん。
ジョフクさんを背負って荒い息をしながら、ロープを使って下りる猫耳眼鏡っ娘リュネットさん。
飛べないながらも、螺旋階段の端から端へと跳躍、ショートカットするドラコニー、全員何とか無事みたいだ。
全員が魔法陣に到着、無事に転移する。
しかし、そこにフギンとムニンは入っていない。
向こうの様子を知りたいから、ギリギリまでフギンとムニンにはその場に残ってもらう。
問題は、撤退のタイミングだが……
フギンとムニンって何かステルス系の魔法って使えるの?
(得意ダ。例え火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あの娘のスカートの中、どこでも隠れて覗けルぞ。
マスターは風呂場を除きたイのか?)
あー。
そうでなくて……。
(冗談ダ。相変わらず馬鹿ダナ)
はいはい。
じゃあ、ステルスして状況を伝えて。
……あ、そうだ。
(なんだ?ゲスの勘ぐりか?)
うん、まぁそんなところ。
ココの魔法陣で転移後に異物があると、転移した人と異物がどうなるのか判る?
知っていたら教えて?
(それは命令カ?)
もちろん。
(判っタ。この魔法陣は空間交換型ダ。
地球の住人であルマスターに判リ易く言うなラ、魔法陣に触れていル物と同じだケの質量を交換スル。
その際に転移後に邪魔になル物があル場合、一緒に交換されル)
ふむ。
ありがとう。
転移妨害作戦は失敗と……
予定通り、転移後を急襲するしかないか。
ゲスい事できなくなっちゃったよ。
ていうか、さっきからこっちの事を中継していたなら、僕のしようとしていた作戦は判っているはずじゃん!?
教えてくれても良いじゃないっ!?
(ゴア!聞かれなかったカラ!)
はぁ~~~。
(考える事と行動は別ダ。
勇者がゲスい事をすレば、それは勇者では無いダロ?
二つ名が勇者なラ、勇者たれ)
ゲスい事をせずに、大言壮語を吐きまくれ……と?
(言うのはただダ。ゲスい行動は品性そのものを貶めるゾ)
うわ。
品性下劣なカラスに言われた。
(ごあ!ごあ!)
ちなみになんで転移中への攻撃がゲスな行いになるの?
(いや、ゲスでは無いぞ?)
だって、さっきゲスな作戦って!
(いや、なんとなク、言ってみただケ)
はぁ~~。
どうにもつかめんなぁ、このカラスの性格は。
僕は作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)を中央に歩かせていく。
10m級のロボット(先程、正確な高さを調べたら890cmでした)にとっては、ほんの数歩だが、それでも今まで溜めた魔力素がごそっと減った。
動かした感動もフギンとムニンとのお喋りで霧散してしまっていた。
まぁ、怒ったからかもしれないけど、眠気とか寒気とか吐き気とか痛いとか全部忘れていたよ。
僕が乗っている機体には首がなく、埴輪を思わせる無表情な顔と兜が、そのまま胴体に繋がっている。
胸部と腹部はコクピットとなっており、コクピットハッチはそのまま3枚の装甲板を重ね合わせて搭乗者を守るハズだった。
だが、残念ながらコクピットハッチ=装甲版は開けっぱなしだ。
外界を見る為のモニターすら魔力素を使うのだ。
ここは省エネ、マシュマーさんとガルスJを見習って風通しが良くなったと強がる。
コクピットの下、腰にあたる部分は、関節が集中しており、股関節のすぐ上に上半身をまわす関節が設置してある。
本来なら厳重に装甲でカバーして欲しい所だが、人間同様の動作をさせる為に可動域を大きく取り、前面と側面の独立した装甲以外は布で覆っているだけだ。
そして右腕の先端部分から伸びたドリル。
全体で3mほどだろうか、螺旋状の溝の掘られた武装だ。
反対側の左腕には右腕のドリルと対になるようにあるシザー。
シャベルを2枚、表面を重ね合わせたような形をしている。
ハサミとしての効果は望めないがクローとしてならば使えそうだ。
僕はドリル&シザー(仮)のコクピットに設置されている座席に座ることなく、この機体を操作している。
座らないのではなく、座れないのだ。
未だに座席は、チャンバーの蓋を壊す際に倒した時と同じ状態だ。
これにはワケがある。
それは念動の魔法【インヴィジブルテンタクルス】が僕の認識外に行くと効果を発揮しないからだ。
柱の裏とか、僕の背中を叩くぐらいならば、まだ大丈夫なんだろうけど、さすがにチャンバーの中でコンストリクターVSPのシリンダーを廻す作業は、直接視認ができないと効果を発揮しない。
おかげで倒した座席の裏にまわって、座席の両側にある行動指示用の水晶球に中腰の状態で、触っていないといけない。
武器は、ドリル&シザーのみだ。
ドリルの回転にはもちろん魔力素を使う。
極力使わないようにしないと。
となると残るはシザー、シャベルみたいなシザーだ。
魔法陣が光り輝くと、第一陣がついた。
冒険者3人とドラコニーだ。
「あーおお、あーおあーおあー」
あ、しまった。
“そこから、早く逃げてくださーい”って言ったつもりだったんだけど、フギンとムニンがいないから言葉になってないや。
「うわ!ナニコレ!!お宝いっぱいっ!
ちょっとグレイブ、凄いにゃココ!!」
「そー言われてもなぁ、見えんぞ。早く失明治してくれ」
「あー、そうだったにゃ……こほん、だったわね」
「お~~~」
どうしよう、会話ができない。
僕の言葉は発声しても、息が漏れるだけで意味の無い状態だ。
余った2本の触手を使って、少々強引だが部屋の角に移動させる。
異界門[ゲイト]に向かう通路とは反対側だ。
それから待つことしばし、
魔法陣が輝きだし、魔狼が姿を現した。
3頭1組だ。
先手必勝!!
僕は魔狼に襲い掛かる。
ゴォォン
10m級のロボットが、体高1m強(全長で3mぐらいだ)の狼に襲い掛かる。
実は結構しんどい。
何故か?
それはこの作業用魔導機人ドリル&シザー(仮)が人型をしている事にある。
コクピットは腹部から胸部にかけて設置、ハッチは開いている。
そんな状況で、自分の足元を攻撃するには?
立ったまま攻撃するならば、腰を曲げて上半身を下に向けて攻撃する事になる。
当然、僕は落下する。
そこで着座姿勢をとらせるわけだが、人型というのは只でさえ弱い。
ロボットは総じて関節が弱点となるのだが、純然たる人型を取らせると、この関節部分が数多くなりすぎる。
そしてどこか1箇所の故障で、すぐに行動に支障が出るのだ。
だから、なるべく関節に負担をかけない、敵の攻撃にさらさせない事が重要となる。
僕はドリル&シザー(仮)に正座をさせる。
もちろん自重の重量制御をさせてだ。
関節の問題上、完全な正座ではなく、膝立ちと正座の中間形態となってしまっているが、攻撃する分にはコレが良い。
ブゥウン!
腰と腹部にある関節を半回転させて横から魔狼を攻撃。
ザシュザシュッ!!
転移してきた瞬間の隙をついて魔狼の腹部にシザーを突き立てる。
凄いぞシャベル、最強の兵器!!
アレだけ倒すのに苦労していた魔狼を一撃!
だが、それから残った2頭の対応は素早かった。
1頭はドリル&シザー(仮)に果敢に飛びつき、1頭は再び魔法陣を起動、報告するために帰還した。
ちょっと喜びすぎた。
残った1頭を屠った頃には、6頭の魔狼が魔法陣から出てきていたのだ。
くそっ
僕は急いでコクピットハッチを閉じる。
ただし、完全に閉めるとモニター無しでは見れないので、半分だけだ。
先程も言ったが、ハッチは装甲を兼ねており、完全に閉じるとコクピットは3重の装甲で守られる。
最初に開いている状態だと足場となる腹部装甲、曲線で丸みを帯びた装甲を閉じる。
次に左右に分かれて開いてる胸部装甲、どういう理由でかは不明だが、ハニカム式の複合装甲みたいだ。
これは閉じない、開けっ放しだ。
最後の装甲が、上部に展開している前垂れみたいな装甲だ。胸部と腹部の中央部分を守る堅牢な装甲で、何箇所かでその重さをささえている。
かなり見づらくなるがコレを閉じて、視界の確保と防御の両立を目指す。
6頭の魔狼はそのまま散開し、2頭は左右から衝撃波、残り4頭はそれぞれ前後左右に分かれて攻撃をしてくる。
こっちは膝立ちの姿勢を崩すと、攻撃が当てづらいし魔力素を使うし、僕がコクピットから落ちてしまうので崩すわけにはいかない。
要するに回避ができない。
やすやすと鋼を切り裂くような爪が相手では、このドリル&シザー(仮)の装甲もどれだけ持ちこたえる事ができるか。
しかも背中には元素転換機関[エーテルリアクター]をはじめ重要な物がある。
できれば攻撃されるのは避けたい。
囲まれたのはまずいなぁ。
時間差で衝撃波が放たれる。
グラグラッと揺れる機体を制御しながら、上半身を半回転、シザーの餌食にって……外れ。
その間にも、フギンとムニンから映像が届く。
次の魔狼は6頭、その後に魔狼王ロボとブランカ……っと続く。
だいたい30秒ぐらいか……。
僕は、ドリル&シザー(仮)を立ち上がらせる。
さすがに作業用というだけあって、対歩兵用の武装も無い。
魔狼どもの好きにさせておくしかない。
こっちは、魔狼王ロボを確実にしとめる為にシリンダーを廻して、牙突の姿勢を取らせる。
魔法陣に向かって左腕・シザーを斜め上に構え、右手・ドリルを前に突き出す。
これは、新撰組3番隊組長、斉藤 一が得意としていたという平突きを、むしゅくに剣心という漫画で必殺技として描写した時のスタイルだ。
非常に洗練されたかっこよいスタイルで、切って良し、叩いて良し、刺して良し、と3拍子そろった究極兵装シャベルを持って戦うには最高のポーズだ。
魔法陣が光り輝く。
第3波、6頭の魔狼が、転移してきた。
次だ。
ブランカとロボ。
意識を集中する。
転移して意識がしっかりとしない、その瞬間を狙う。
一度しかチャンスは無い。
ドリル&シザー(仮)の周りを12頭の魔狼がウロチョロしているが、今は無視だ。
無駄な魔力素を使うわけにはいかない。
僕はフギンとムニンとの視覚共有を強め、その時を待つ。




