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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第01話 僕にこの手を怪我せぃというのか
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電波女と鬼畜男


戸隠さんが封筒から出した書類は、帰り支度をしていた級友達の、HR前の浮ついた雰囲気を粉々にする爆弾だった。

爆弾に、いち早く興味を示したのは、やはり、武居一茶と新田小悟朗の2人だった。


「こ、これは、婚姻届では……

 コゴローさん、どー思います?」

「ええ、ええ、イッサくぅん。

 コリは由々しき事態ですねぇ。

 もう、やっちゃったって事DEATHね」


「やっちゃった……

 というと、まさかっ!!!」

「そうでぇす、そーでぇす。

 その、ま・さ・か、でぇす」


場内騒然。

HR前に飛び出た爆弾は、瞬く間にクラスをかけた。

基本的に、この2人のコントは、武居は聞き手、新田は話し手で送る事が多い。

しかし、実際のところ、武居が狂言回しであることが多く、話が変な方向に行くときは大抵、武居が方向を決定づけている。


「では、感想を聞いてみましょう!

 戸隠さん、どうぞー」

武居が戸隠さんに近づく。


「?」

「戸隠さん、昨日はドワーフの家で、イきました?

 アレ、痛かった?」


親指を人差し指と中指の間に入れて、新田が聞く。

下品だ。


「昨日?……ん、(時雨の家に)いった。(時雨の家に)いたかった」


新田が誘導したのか、戸隠さんが天然なのか……


「!!」ハッ


呆けている場合じゃない!

早く何とかしないと、外堀からどんどん埋められていくぞ!


「い、いや、これは……」


悲しいかな、口下手な人間に、2人のコント以上の事など……

何も良い案が浮かばない。

何か、何か……。

そうだ!

何か漫画からヒントを!

強引に話をあさっての方向に持っていけば!!


取り敢えず、注目だけでも集めなければ……!


「聞いてくれ!みんな!

 君達は、とんでもない思い違いをしているようだ」


「「「思い違い?」」」


「これを見てくれっ!」


ばさっ


「「これは……?」」


「そう、婚姻届だ……!」


「この婚姻届には、妻の欄に戸隠伊織の名が書いてあるが、夫の欄は何も書いてない……」


ごくっ


「つまり!!

 戦って奪い取れという事だったんだよ!!」

「「な、なんだってェーー!!」」


ノリ良いな、2人とも……。

満足した瞬間、パンチが飛んできた。


「ちょ、何を!」

「いや、ドワーフが“俺を殴れ”と懇願するから……。

 仕方ないよな、変な性癖をもった奴だが、友達だしな」てれっ


「ちょ、有段者のは、洒落にならないって!」

「うらやましいからな!」


ぶぉん。

ぱしっ


武居の拳が、戸隠さんの左手で止められる。


「おっ!?」

「……」

ぐぐっ


「……コイビトだから、守る」


はっきりと、恋人宣言。

固唾と成り行きを見守っていた、教室中が、今度こそ、騒ぎに巻き込まれる。






結局、その後、叱られました。


「戸隠、恋愛はするな……とは言わんが、婚姻届はなぁ、気が早すぎると思うぞ。先生は」

「?」


「それから八代。

 その……そういった間違いは犯してないんだな?」

「は、はい!全然!」


「その顔で脅した、とかそういった訳ではないんだな?」

そこまで信用ないですかぁ……


進路指導室で、担任に有難いお説教。

これが生徒指導室だと、反省文とか、面倒臭い事になるんだけど、武居と新田が「冗談が過ぎました。すいません」と半分ほど罪を被る様な事をしてくれたお蔭で、今回は、たちの悪い悪戯で事無きを得たようだ。


だが、まぁ。


僕と戸隠さんは、クラス公認の初カップルで

僕は、戸隠さんの本気(婚姻届)を、友達との笑いに使う鬼畜ドワーフに、ランクアップ。

戸隠さんは、無口だが一途で情熱的なクールビューティに、ジョブチェンジ。


なんだかなぁ。


すでに夕方、部活も終わり、僕たち2人はトボトボと校内を出る。


「ふぅ」

「……すまない。

 どうも、迷惑をかけた様だ。」

「ははは、いや、いいよ。うん」


「恥をかいたのか?」

「え?いや、恥ってほどじゃ」


「腹切りは必要ない?」

「ちょ、なんで、そ−なるのっ!?」


そして、静寂。

ふと気づく。

戸隠さんの微妙におかしかったイントネーションが直っている。


「あー」

その事を言おうと思ったけど、先に戸隠さんが話しだした。


「空気を読めない事は重罪。

 その上、共犯者[コイビト]に恥をかかせた。

 充分、死罪に値する裏切り行為だ。

 君は、私に復讐する義務が発生している」


相変わらず、エキセントリックな思考だ。


「あー。気にしないで良いから」

「義務を放棄するというのか?」


「うん。当然でしょ」

「そうか、感謝」ほっ


「これは、借り。

 返すまで裏切る事は無いと誓おう」


本当に、時々、予想のナナメ上の返しをしてくるなぁ。

戸隠さんは……


「あ、そうだ。

 今日、漫画を持ってきたけど、どうする?

 もって帰る?」


「……」こくこくこくっ


「あと、もう遅いけど、今日も家に来る?

 食事ぐらいなら用意するし……」


「2度目!ほ、本気!?」かぁっ



あれぇ?

やっぱり食事の話になると、なんで、こんな反応?

「あ、やっぱり、食事って嫌だった?」

「……」ふるふる


「その……食事に誘ってもらうのは凄く、うれしい。

 でも、今日は、調査があるから。

 このまま帰る……」



そして再び、静寂。

妙な空気のまま、校門を出ようとすると

「よっ。お2人さん」

「ひさしぶりだね~」

校門の影から武居と新田が現れる。


「お前等が騒ぎさえしなければ、こんな事には……」

「ちょ、待てって!

 だから、謝りにきてるじゃん」

「その顔は怖いよ!」


「そうそう、イッサが迷惑かけたみたいで、御免ね?」

と新田


「悪かったな。

 コゴローも基本は良い奴なんだが、悪ふざけが過ぎてな。

 俺がきつく言っておくよ」

と武居


こいつら……


「だけどさ、鬼畜ドワーフ……略して、鬼畜ん?」

「そうそう、キチーフ。

 何で、昨日の今日でこんな状態になったんだ?」

「あー。色々と言いたいけど、僕にも何が何やら……」

と戸隠さんを見る。


「……?」


黙して語らず、ですか……


「まぁ良いか。

 ところで、戸隠ってさ、何か武道とかやってんの?」

「あー。そういえばイッサの拳、止めてたもんねぇ」


「……」

戸隠さんは、暫く何か考えていたけど。

人差し指を唇に持っていく。

ウィンク。

「企業秘密」

とだけ


あー。


どっかで、なんかのポーズで見た記憶が……

鈴宮八ルヒの憂鬱だっけ?




「ふーん。ま、いっか。

 俺は武居一茶、空手と抜刀術をやっている、

 6月24日生まれの蟹座で、好きな色は赤。

 キチーフの名付け親だ。よろしくな」

「じゃあ、改めて、僕は、新田小悟郎。

 自分で言うのもなんだけど超絶イケメン。

 あ、でも惚れるなよ?

 3度の飯よりロリータが好きです」


「……」

じっ


「な、なにかな?」

珍しく、新田がうろたえる


「……あまり、趣味が良くない」


プッ


いかん、何か壷にはまった。

僕は、思わず噴き出していた。



「確かに、子供の肉は筋肉質でなく、柔らかいので適しているが、人間本来の臭味とは無縁ではない。

 嗜好は認めるが、ココは非人を買うことを勧める」


「「は?」」

「……」

また、電波な事を……


「非人本来の、労働力という使い方からは外れるが、豚の遺伝子を使っているので、非常時の食用としても優秀……

 それで飢えを凌ぎ、生還した部隊の話を何度か聞いた」


「「……」」

凄い、武居と新田を黙らせた……


「キチーフ」ぽんっ

「キチくん」ぽんっ


「「あの娘をくれ!!」」


「ちょっと高度だが、見事なボケっぷり!

 あの娘は俺のパートナーに相応しい!

 キチーフ、新田をお前にくれてやる。

 好きに使え!」


「あそこで引かずにボケ返すなんて……!!

 非常に興味深い人材ダヨ!

 キチクン、気に入った。

 武居の尻をファックしていい!!」


「いや、お前らな……戸隠さんもあわせてボケんでも良いから……」はぁ


すると、珍しく戸隠さんが反応する。


「ボケる?……若年性痴呆症?武居と新田が?」


「「戸隠伊織……恐ろしい子!」」


「そもそも、いつの間に、こんな話になったんだよ」


時雨は話を元に戻すべく、話題をふる。


「えーと、自己紹介で」

「人肉喰らい[マンイーター]な話」と戸隠さんがフォロー




時間が、止まった。

目の前が暗くなる。

顔が強張っていくのが判る。


うぁ、しまった。

トラウマ直撃だ!

考えないようにしてたのに!

自分で地雷を撒き散らして、踏ませてしまった……


過去の思い出したくない記憶が!

視界がぶれる。

焼けるっ、身体が!!醜くただれる!

声が、どこからか、声が聞こえるっ


「気持ち悪い」

「化け物」

「人肉喰らい[マンイーター]」

「両親喰って生き延びたんだって」

「あさましいっ」

「あはは、死んじゃえ、ブタ!」


叫びだしたい!

吐き気がする。いや、吐きたい!思う存分!


まずい!やばい!


口を押さえて、校門から校内へ逆戻り。


「おい、どーした!」

とか声が聞こえるが、構ってられない。


トイレに駆け込むと、吐き、一息ついて、再び吐く。

繰り返し、繰り返し、中身がなくなっても吐き続ける。


「ヒトデナシには相応しい姿だ」

「こいつは、くせぇーっ!

 外道の臭いがプンプンしやがるっ!」

「ぎゃははっ、趣味ワルっ」


攻め立てる言葉が脳内で鳴り響く。

過去、どこかで聞いた言葉だ。

人間としての道徳を破った自身、人外となった自分に向けられる、人間からの罵倒の台詞。

未だに鮮明に聞こえてくる。



うー。

しばらくして、やっと治まる。

頭痛がする。

胃もムカムカするし、咽喉はイガイガだし、口の中は嫌な感じだ……。


鏡を見る。

自分を責め続けて満足した暗い顔だ。


3人は僕の態度の急変に驚いていたようだけど、駅に向かう交差点につく頃には、時雨にツワリが始まった(!?)という事で納得してくれたみたいだ。

どこまで本気なのか判らないけど、それでも根掘り葉掘り訊かないのは、彼らの優しさなんだろう、きっと。


交差点で3人と別れると、1人帰路に着く。


油断した。


心を強く持ってないと、ちょっとした事で、あんな状態になる。

あれは僕の罪に対する、罰なんだろう。

あまり使用してはいけないと言われているが、今日は抗不安薬のお世話になろう、うん、そうしよう。

耐えられそうに無い……。


好きな子に「人肉喰らい[マンイーター]」と蔑まれた記憶と、戸隠さんの顔が、何故かダブる。






そんな事を考えていたからだろうか、電車を下りて、駅前ロータリーを自転車置き場に向かって移動している時、その人物を見かけてしまったのは……


何処からか、声が聞こえてくる。


……神は、我々を新天地へと誘うのです。常に幸せに満ちた……


……幸せは義務であります。人は全ての苦しみから……


昨日、戸隠さんが睨んでいた新興宗教の人達。

その中に1人の少女がいた。


月見里雲雀(やまなしひばり)は、中学生の時の級友だ。

身長は、時雨より8cm高い165cm。

圧倒的存在感の胸を隠すように、白いコートを着込んだ、グラマラスな美女。

軽くカールした茶髪のくせ毛をシャギーにし、どことなく、ボ−イッシュな雰囲気だが、昔の面影の活発さは、今はなく、憂いを秘めた疲れたような顔をしている。

その身体つきと、ボ−イッシュな雰囲気、表情のアンニュイさのアンバランスが合さって、彼女に、大人びたエロさを持たせている。


そんな彼女に、時雨は2ヶ月ほど前に、告白して振られている。


元々ダメ元での告白だったから、ふられた事そのものにダメージはない。

ただ、取り巻きのいる中での告白は、今、考えると、やはり、不味かった。

そこらへんの空気の読めなさは、きっと、戸隠さんに言わせれば、切腹モノなのだろう。


「!」

見つめすぎていたみたいだ。

ビラ配りみたいな事をしている月見里さんと目が合った。

彼女は、一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに目をそらし、他の方を向いてしまった。


いけない、いけない。

今朝もストーカー呼ばわりされていたからなぁ。

あまり、人を見つめすぎないようにしないと。


急いで帰る事にした。






食事の用意をし、祖父と2人で食べる。

あまり会話は無かった。

風呂から出て、寝室へと向かう。

その途中、父の書斎に人の気配を感じ、室内に入る。


「戸隠さん!」がちゃっ

「!?」びくっ


時刻は夜遅く10時

僕は、この人の両親がどのような教育を施したのか、聞いてみたい……

彼女は、人の家に勝手に上がりこみ、漫画本を返却していた。


はぁ……


「あの、か、借りた物を返すと言う行為は、非常にうれしく思います」

角が立たないように説得を試みる。


「ただ、その、ですね。

 できれば勝手に上がって、漫画を持って行くんでなくですね……

 一言言ってくれれば手伝うし、前もって言ってくれれば、用意しておくぐらいはしておくから……」

「……」


「あー、せめて、メアドを交換して、それで、その、借りたい物をメールしてくれるとか……あ、いや、べ、別に嫌ならいいんだk……」


戸隠さんは、一心不乱に選んでる。

きっと、僕の話なんて、聞いていないのだろう。


彼女は、昨日と同じ様に、床に漫画本を山のように置いていた。

なーす・すてーしょん、コミックで判る心療内科、おだんごナース、JIN-人-、ブラックジャンク、BJにようこそ、女医レーカ、ナースを彼女にする方法論、など、多分、今日借りる物だろう。


今日もまた多いなぁ。

というか、ジャンルが昨日と変わっている。

医療関係ばっかりだ。

僕は、ナースを彼女にする方法論を、そっと成年漫画の棚に戻しながら、彼女に聞いてみる。


「昨日と全くジャンルが違うけど、どうして?」

「……」


へんじはない。ただのしかとのようだ。


「……夕方」

「ん?」

「気分を悪くしたようだった……

 戦闘心的防衛反応か、PTSDと呼ばれるモノと判断」


彼女は、漫画の山に、Dr,ティディベアを置きながら、ポソリと答え始める。


「……私の言った言葉に反応したと感じた」

「あ……」

「私は……本当に……空気が読めない」

「いや、それは戸隠さんのせいじゃなくて……」

「切腹する」

「止めて!そこは空気読もうよ!

 僕が気にしてない事は判って!」


「判った……何となく、言うと思っていた……」フッ


少し微笑んだ戸隠さんは、自分の携帯を見せる。

いつも使用しているのとは別のものだ。

携帯の画像には、時雨の家の裏庭が写っており、そこには大穴を掘った戸隠さんが移っていた。


「な、なに、これ?」

「ん。この世界の風習に従った」

と言いつつ、藤子不二男というマンガ家のジャングル黒んぼという、かなり古い漫画を見せる。


「時雨から受けた借りは、この大穴と同じ。

 借りを返す度に、この穴に返した分の借りの量を入れる」

「は?」

満足そうに、戸隠さんは携帯をしまおうとする。


「え、ちょっと待って?」

「?」

「えと、さっきの大穴は何?」

「受けた借り」

「で、借りを返す度に?」

「小指ぐらいの小石を入れていく」


はぁぁぁぁ~。


「いや、そんな事しないで良いから」

「では、どうすれば……」


「貸し借りなんて考えなくて良いから。

 い、一応、その、僕達は、恋人同士なんだし?」

「……それでは、信用とやらは育たないぞ?」

「貸しとか、借りとか、そんな事を言ってる間は、そんなもんは、育ちません!!」

異論は認めるっ!

「――――!!」


あ、戸隠さん、ショック受けてる……


どーしようかな……


「あ、そうだ!!」

「?」

「あ、その、嫌でなければ、携帯の番号を教えて欲しいな……なんて」

「何故?」

「信用を育てるためだよ!」

「育つの?」


うぐっ


彼女は、成年漫画の棚から、ナースを彼女にする方法論を抜き出す。

「あ、いや、ほら。今後も漫画を借りるつもりなら、連絡を入れて欲しいな……と思って……」

「……教えるのは構わない。

 だけど、私が敵に捕まった場合を考慮に入れるべき。

 共犯者[コイビト]である事がばれ、そこから、敵の追撃がそちらに及ぶ可能性が高い。危険」

と、漫画を山の上に置きながら答える。


また、電波が入りました。

何処から送信して来るんだろ?


「あ、うん。それは構わないよ。

 大丈夫。へっちゃら」

「自己の過大評価は、事故の元。

 あまり感心しない」

「……」


「ちなみに、今のは、自己と事故をかけた高度なギャg」

「いや、ギャグでもなんでもないから!寒いよ!」

「まだ4月。仕方が無い」

「もう春だってば!」


凄いよ。

僕、段々、つっこみを覚えてきている!

ありがとう、戸隠さん。

貴方のボケで、僕は、漢になれそうです!


じゃなくて!!


ここはもう強引に行ってもいいんじゃないか?

拒否ってる態度だけど、そうでもない気がするし。

いやいや、それで、昨日、失敗してるじゃん。

機を見るにビンビンって!


「あ、うー。えーと。

 ……アドレス、こ、交換していい?」

「敵の攻撃が……」

「構わない」

「……ん」


やっと、了承した。


いそいそと携帯を操作する。


「じゃあ、送って。

 こっちも送るから」

「判った」ピローン


戸隠さんの携帯と、自分の携帯とアドレス交換する。


携帯を操作して、繋がるか、チェックする。

「こっちは良いよ。

 次は、戸隠さんからかけて?」


戸隠さんは携帯を操作すると、僕の携帯がブルブルッと震えた。

「ん。ばっちりだね」


そのまま、チェック終了とばかりに切ろうとした。

だけど、戸隠さんは、何か言いたそうに携帯を耳に持っている。


「?……もしもし」

僕は、携帯をとる。


「……」

「?」

「……………………うれしい」

「?」

「信用されている」

「……」

「初めての気持ち」


「あ、あー、そう、なんだ?」


何だろう。

何で、アドレス交換だけで、こんなにドキドキするんだ?

しかし、少し、はにかんだ笑顔の戸隠さんを見て、何となく悟ってしまった。

ああ、戸隠さんの感覚は、多分、僕が4月、入学したての頭に感じた気持ちと一緒だ。

武居一茶と新田小悟朗という、僕の過去を知らない、気にかけない、2人の友人を得た時の、あの感覚と。


「戸隠さん……」

「ん?」

「これから、よろしくね?」

「ん」

それで、やっと僕は、戸隠さんとアドレス交換を終えた。






「ねぇ、戸隠さん。漫画運ぶの手伝えって言うから、持ってきたけど、この車、なに?」


家の前に、ごつい自動車が止まっていた。

スズキ・ジムニーという車種で、紺色の、角張った箱っぽいデザインの車だ。


「私の車」

「えーと……高校生だよね?」


「運転中は21歳」

免許証を見せる。


そこには、少し大人びた風貌の女性、戸隠さおりという人物が書かれていた。


「それ、偽造っていう犯罪だよ!!」


「この世界の、社会システムを騙すのなんて……」

にっ


「ちょろい」


「えー」



やばい。

色々と考え直したくなってきた……。


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