どこもかしこも傷だらけ うずくまって泣いてても始まらないから
猫耳眼鏡っ娘リュネットの素早い事、素早い事、もうね、コンストリクターVSPを構えて撃った時にはそこに居ない。
どうにも嫌な状態だ。
猫耳眼鏡っ娘は、素早くなる、分身する、影から影に隠れて移動する……色々と多彩な技を使っている。
変幻自在だ。
おかげで僕は自分の影に怯えなくてはならなくなった。
かといって、猫耳眼鏡っ娘リュネット以外にも脅威はあるわけで。
怪力無双っぽい豚顔巨漢のグレイブは瞬間接着魔法【インスタントエードヘイシヴ】を破壊して動き出すし、老魔法師ジョフクは支援に攻撃にと先読みして多彩な魔法で援護をする……。
このままじゃ本当に3つの下僕を生贄に差し出さないといけなくなる。
だから猫耳眼鏡っ娘リュネットと豚顔巨漢グレイブを瞬間接着魔法【インスタントエードヘイシヴ】で固めた、この千載一遇のチャンスを見逃すわけにはいかない。
僕は赤スライムを回収し、左肩及び首の後ろを守らせる。
ドラコニーと並ぶと、僕は老魔法師ジョフクの元に向って一直線に走りだす。
向こうは慌てた様子が無い。
多分、2000年と言う長い時間を生きて、何度も敵に接近されて攻撃を受けた事があるんだろう。
どんな生物でも経験すれば学習する。
それが2000年なら……。
老魔法師ジョフクは、魔法より何よりも、その経験から来る対処能力が恐ろしい人物と見て良い。
ごくっ
つばを飲み込み、今の内に幾つかの仕込みをしておく。
特にコンストリクターVSPのシリンダーを廻して、こまめに魔力素を補充しておかないと。
まぁ、ここまで言っといてナンだけど、実は40mを一気に走るのは辛い。
また貧血をおこした。
くらっとする。
その隙を逃す魔法師ではない。
「がぉんっ!!」
僕の眼前に出現した氷の竜巻を、僕が突っ込む寸前で、ドラコニーが吼えて魔法を掻き消す。
もう何度もコレに助けられている。
ドラコニーさん優秀やでェ。
スタミナ不足。
たいした魔法が使えない。
僕の現在の状態は正しくジョフクに伝わっている。
だからか、あっちは手の内を見せない。
力を誇示するわけではなく、最低限の力で、一度見せた技を効果的に使い分けてくる。
今まで見せた魔法は、たった4種類。
身体強化、明かり、竜巻、魔法の光の矢だ。
コレだけで僕を倒す事が出来ると踏んだんだろう。
ああ、当たってるよ、ご明察だよ、くそぅ。
老魔法師ジョフクは、魔法【フリージングトルネード】で僕達の動きが止まった瞬間を見逃さずに、2手3手先を読み行動している。
というか、高難度で威力の強そうなこの魔法を、ただのフェイント、時間稼ぎに使ってくる。
今だって、魔法の光の矢の魔法【マジックミサイル】で時間差攻撃をって……まずいっ!!
今度のは、魔法の光の矢ではなく、弾体に矢を使っている!!
魔法の光をまとった矢だ!
【マジックミサイル】の亜種か、変成魔法 → 移送魔法にしたのか、同じに見えるが実際は全然違う魔法だ。
ドラコニーの特殊能力【咆哮】は氷の竜巻を消すのに使ってしまって今は使えない。
この間、僕を守るのが4つの黒い球体、対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】だ。
この魔法はヴラドのオリジナルで、当然のごとく地球に来てから創った魔法だ。
大半が僕と知識共有して得た地球の知識を活かしているのだが、この魔法は573というゲーム会社が創り、一世を風靡した横スクロールのシューティングゲームシリーズ・セミスパタのバリアーからとった物だ。
この魔法の問題点を挙げるなら、大きく分けると3つか。
第一に、純粋な魔法にしか効果が無い。
だからマジックアイテム化していたり、魔法の効果の結果として起こった出来事には効果が無い。
例えば【インスタントエードヘイシヴ】が弾着した後に硬化した白濁液などだ。
第二に、発動中のどんな魔法でも吸い込むという事。
これは良い事に思える。
が、例えば僕の怪我を治す為に、遠距離から投射された回復や支援魔法も吸い込んでしまう。
それどころかコンストリクターVSPの攻撃すら吸収する。
第三に、僕の左側面に展開している事。
これは、上記のどんな魔法でも吸収するという特性を受けて、全方位吸収をやめて盾の様に吸収に方向性を持たせて使用する様に仕様変更した事に起因している。
当然、反対側である右側は弱点になる。
さて以上の状態で【マジックミサイル】の亜種を、いつも通り対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】で迎撃するとどうなるか。
【マジックミサイル】のターゲットは僕だ。
だから矢は僕に向かってくる。
これに【マジックイーター】で【マジックミサイル】を吸収したら、魔法の光をまとった矢の誘導効果は消える。
しかし、弾体の矢は残るし、慣性も消せない。
その上、魔法の光を吸収する時に矢が加速する。
うん、僕はハリネズミになるだろう。
左からだけでそんな感じだ。まして正面や右側面からも【マジックミサイル】が来ていたら、回避する手段は無い。
じゃあ、コレならどうだっ!!
むぎゅぅぅぅ。
僕は、赤いスライムを掴む。
更に被害を抑える為に、ドラコニーから離れて、赤いスライムを前面に放り投げる。
赤スライムに出した指示は、細胞密度を強固にしてもらうこと。
現在の赤スライムは、外側の硬さがゼリー → 果汁グミレベルになっている。
流石に粘土レベルは無理か。
僕は矢を加速させない為に左腕を後ろに引くと、それを待ちかねていたかのように【マジックミサイル】が多方向から僕に襲い掛かってくる。
赤スライムの身体を【マジックミサイル】が貫いた瞬間、僕は物理防御の魔法【プロテクト】を展開する。
自身の身体を覆うように、全方位に不可視の物理防御の膜が出現する。
だが、その時間は僅か3秒ほどだ。
これでヴラドが僕に圧縮封印[メモリー]してくれた魔法は残り2つになった……!!
ぶにゅんっばにゅんっ!がしゅっがしゅっ!みにゅん、ぴゅにゅんっ!
矢は次々とスライムのゼリー状の身体を貫く。
スライムに突き刺さったままだったり、そのままの勢いを保つ事が出来なくなった矢は、僕に刺さる事無く魔法【プロテクト】によって作られた見えない壁に阻まれて落ちていく。
正面は赤スライムのおかげで助かったみたいだ。
まぁ、スライムは切っても突いても死なない丈夫な身体だから、死ぬ事は無いだろう。
……魔法によるダメージもあるはずだから、そう何回も使える技じゃ無いけど。
問題は左右から押し寄せてくる【マジックミサイル】だ!!
展開した【プロテクト】に突き刺さるが、その威力を抑える事が出来たのは半分ほど。
僕の身体に次々と矢が突き刺さる。
「あああああああっ!」
声にならない声をあげる。刺さったのは全部で7本ほどだ。
右が3本、左が4本。
不幸中の幸いなのは、多少なりとも威力を減衰できたので致命傷には至らない。
一番酷いので左肩に深々と刺さった物だ。
簡単なチェックを済ませる。
右腕は動かせる、矢は可動の邪魔にならない。
いける。
しかし、この行動もジョフクの計算の内なのだろう。
老魔法師らしい狡猾さで、僕達が後手に回っている間に、既に次の魔法を発動していたのだ。
ドゴォンッ、ドンッ!ドンッ!!ドンッ!!!
紅い絨毯と平行して部屋を2分する様に、僕とドラコニーの間に巨大な岩塊による壁が次々と出来上がる。
召還?
創造?
何も無い空間から、いきなり現れる岩の壁。
ラパ・ヌイの魔法理論に従って考察するなら、何処からか岩の壁を移送してきたのか、この城の岩を変成して壁にしたのか、それとも岩壁を創造したのか……。
以前、ヴラドの記憶で見たラパ・ヌイ対ラプラドルの戦いが思い浮かぶ。
魔導【アンチマジックフィールド】結界による絶対魔法行使不可能領域に対して、移送魔法による岩塊の瞬間移動 → 落下による圧殺コンボだ。
ああ、うん。
目の前のコレは、移送魔法だろうなぁ。
だとしたら召還した時点で魔法の効果は終了しているから、ドラコニーの特殊能力【咆哮】も【マジックイーター】も効かない。
どちらの効果も消せるのは発動中の魔法だけで、発動終了した魔法はもう無理だ。
やられた。
ドラコニーと分断された。
玉座近くまで戻れば、岩の壁の切れ目が見えるので、そこで合流も出来るけど……。
それではムザムザと相手に時間を与えるだけだ。
かといって赤スライムと僕だけで、老魔法師の魔法に耐えきれるかというのも、かなり微妙だ。
それに【マジックイーター】だって元ネタ同様、長い間、敵の魔法を止めておく事はできない。
回数制限つきだ。
迷ったのは一瞬。
やる事は1つ。
ずっと攻撃を続け、魔法を使用する為の時間を与えない。
飽和攻撃しかない。
「弾種【パーカッションウェイヴ】!!」
声にならない声で弾種を変更する。
飽和攻撃をする以上は、重要なのは消費する魔力素だ。
少なければ少ないほど良い、長く続けれる。
要はMP消費の少ない弾を使用する事で、ずっと俺のターン!
その為に選択したのが弾種【パーカッションウェイヴ】だ。
敵を傷つける威力の総てを衝撃に変換している。
ゴム弾や、モヒカン店員さんの中の人・テクノネレイスの使った振動波と似た様な効果を出す魔法だ。
弾着すると、すべて衝撃波に変わる。
コンストリクターVSPを構えてファニングショット!!
ただ先程までとは違い、今回は速射性より連射の継続性を重視している。
だから、ハンマーが落ちるたびに手の平を使って煽ぐ様にコッキングするスタイル、本来の意味でのファニングショットだ。
これならゆっくりとだが、移動しながらでもできる。
3発撃った後に、老魔法師を中心に円を描くように右へと走る。
もちろん、ファニングショットは続ける。
ゴンッガンッ
魔法の弾丸は、老魔法師に当たる前に空中で霧散する。
多分、魔法防御の魔法で阻まれたんだろう。
ちょうど物理防御の魔法【プロテクト】の魔法防御版と考えれば良い。
だがそこで、この弾の利点が発揮される。
この弾種【パーカッションウェイヴ】は、弾着もしくは消失する時に、それまでの移動エネルギーを振動波として放出する。
だから、この弾の効果を消そうとするなら、物理防御の魔法【プロテクト】も同時併用しなければならない。
お安い割りに優秀だな、弾種【パーカッションウェイヴ】
まぁ衝撃波といっても非常に微々たるモノで、最大でも、すれ違いざまに肩と肩がぶつかった程度の衝撃だ。
魔法の効果としても褒められたものではなく、ヴラドに言わせると普通に考えれば失敗作なんだそうだ。
だけど、それが続けて2発、3発なら……。
6発を打ち込むと、老魔法師はたたらを踏み、僕を睨む。
老魔法師は、この弾丸を脅威と思ったのか、少し手を見せ始めた。
先程までの魔法防御と同時に、物理防御の魔法【プロテクト】を発動した。
俗に言う魔法の2重詠唱とか、合体魔法に分類されるタイプの物だろう。
魔法の同時発動だ。
物理防御の魔法【プロテクト】と魔法防御で、流石に弾種【パーカッションウェイヴ】も効果を発揮しなくなる。
やるなぁ。
2000歳オーバーは伊達じゃない……か。
だけど、ここまでは僕が読み勝ちをしている。
こんなこともあろうかと!!
「弾種【アグリームコンプレッション】!!」
声にならない声で弾種を変更する。
まだまだいくよーっ!
この魔法は、光を増幅して収束する魔法。
正確には魔導学の応用で、光を収束するレンズの役割をし、更に増幅して指向性も持たせる魔法と、一瞬だけの強力な閃光の魔法、この2種類の魔法の効果を1つに纏めている。
簡単に言うと殺人光線、一種のレーザーだ。
この弾丸は5種類中、魔力素消費量が一番高いのだが、使うだけの価値はある。
今、老魔法師ジョフクは魔法攻撃と物理攻撃を防ぐ魔法を使っている。
老魔法師の相手がラパ・ヌイ人なら、物理的な攻撃と魔法(魔力素の反応)による攻撃の2種類だけを考えていれば良いだろう。
実際、攻撃は物理か魔法かの2種類で事足りる、というかラパ・ヌイではそれしかない。
完全な防御を破ろうとするなら、レベルを上げて物理で殴るか、魔法で打ち抜くの2択しか無いだろう。
だけど僕は地球人で、この城の中では地球の世界法則[リアリティ]を使う事が出来る。
弾種【アグリームコンプレッション】の原理は全ての現象を数式で表せる地球の物理法則に頼っている。
ラパ・ヌイ人はレーザーと良く似た光線は、魔法で創る事ができるが、レーザーは作る事は出来ない。
原理が判らない、いや理解できないからだ。
レーザーはラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]をオーバーした科学の産物で、その効果には魔力素が全く関与していない。
だからレーザーによる攻撃は、魔力素を使用しないただの熱で、ラパ・ヌイ人にとっては物理攻撃でも魔法攻撃でも無い特殊な攻撃と言う事になる。
だから、老魔法師が防御魔法を同時発動しても防ぐ事はできない。
今の段階では、まだ対応はできないだろう。
一旦、ファニングショットを止め、コンストリクターVSPを構えなおす。
【アグリームコンプレッション】は先程言った通りレーザーの原理を応用した兵器を作り出す魔法だ。
これは地球では、トールのような車載兵器クラスや実験段階だが大型ライフルクラスまで小型化に成功したレーザー兵器を、魔法の力を使って手の平サイズまでコンパクト化したという事だ。
普通に原理は地球で、それ以外の部分は物理法則を無視できるファンタジーに頼った、良いとこ取りな結果だが、これだけで勝てるほど目の前の老魔法師は甘くは無いだろう。
ちなみに話は変わってレーザーとくれば当然、男の子の浪漫、荷電粒子砲と繋がってくるわけですが……。
残念な事にヴラドがその理論を理解できなかったのか魔法化できなかった。
むむぅ……。
まぁ、地球の世界法則[リアリティ]は所得してるんだし、いつかは理解するさ。
焦らず地道に教えていけば、その内に追加弾種として開発してくれるだろう。
うん。
ヴラドには名物整備師[アストナージ]という二つ名を送ろう。
(お主様の申し出、嬉しく思うが結構じゃ)
あらら。
とりあえず今は生き残ることだけを考えておかないと。
僕は、老魔法師の服の裾を狙って撃つ。
まちがっても目や皮膚に当たらないように祈りながら。
音も無い。
光も無い。
ただ、熱で穴を穿つ。
老魔法師の漢服に黒く穴が空く。
2発、3発、4発、5発目。
「……?」
怪訝そうな顔をしていた老魔法師だが、何かが焦げる臭いで気づいた様だ。
「な―――!!」
老魔法師の顔が驚愕に歪んでいる。
彼の目は、自分の漢服についた幾つもの焦げ穴をみている。
リロードならぬリチャージ。
今の間にリチャージ。
ヒマならリチャージ。
「ふぉふぉふぉ……やりおるわぃ」
驚愕から立ち直ったのか、老魔法師ジョフクは嬉々として話しかけてくる。
「よもやこの様な所で、この様な面妖な術式と出会おうとは思わなんだのぉ……
長生きはするものじゃなぁ」
2000歳オーバーはロック・ザ・ズーパーマン程ではないにしろ長生きしすぎだよ。
人間なら人間らしくして欲しいなぁ。
だけど、コレはミスったか?
「良いぞ良いぞ、天下万民の為にその術式を頂こうかのぉ」
やっぱり、少し早まったみたいだ……。
本気を出されても困るんだ。
指先1つでダウンさぁ~な展開は充分にあるんだから、
とはいえ、こちらはあと1手だ。
やるしかない。
時間稼ぎをしていれば、最終的にはこちらが有利になるけど、その前に豚顔巨漢が復活する。
うぉおおおおおおっ!!
僕は接近戦を挑む。
狡猾で強力な魔法師でも、すでにその身体は衰えた老人の物だ。
魔法を使えるだけの精神的な余裕を与えなければ、こちらにも勝機はある。
弾種【インスタントエードヘイシヴ】を1発撃ち込むと、すぐに親指でコッキング。
老魔法師に当たったと思った次には、弾丸はその身体を素通りして、謁見の間を支える柱にべちゃっっと接着する。
猫耳眼鏡っ娘が使っていた魔法と同じ物だ。
「ふぉふぉふぉ」
バルタン聖人みたいな笑い声を上げる老魔法師、まずい!!
また弾体に普通の矢を使った魔法【マジックミサイル】の亜種が十数本と飛んでくる。
右から、左から、前から、真上から!!
オールレンジアタックだ。
矢の量が少ないのは前面だ、反対に右側が一番多い。
後方に下がって回避しようにも石壁が邪魔だ。
前に向かって突破口を開くしか……。
つっこめっ!!
ぐっっと足に力を入れた瞬間。
あっ――――!!
天啓にも似た閃き、いや危険感知。
単純にオールレンジアタック → ファンネル → 企業戦士ガソダムという流れなんだけどね。
初代企業戦士ガソダムにドレン大尉という軍人が登場するんだけど、その彼の最後の活躍シーン。
「ガソダムがいないそうです」
「馬鹿な……ではどこにいるんだ?ガソダムは……」
「ドレン大尉!ゼロ方向から接近する物があります。
モ、モビルスーツらしき物、高熱源体接近!」
→ で、どかーんで終了。
という部下とのやり取り。
僕は右方向に対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】を構えて円を描くように走り出す。
自分から魔法【マジックミサイル】に当たりに行く。
あの狡猾そうな人物がコレだけで終わるとは思えない。
はたして咄嗟の判断は正しかった。
足元から跳ねる様に十数本の矢が飛び出したのだ!
うわっ
猫耳眼鏡っ娘リュネットの使っていた影から影へと短距離瞬間移動する魔法【シャドーハイド】から、魔法【マジックミサイル】亜種のコンボ。
くそ。
流石に全て回避は出来なかったが、致命傷に至るような物はなく、色々と掠ったぐらいですんだ。
ホッとする暇もなく、今度は前方の【マジックミサイル】だ。
【マジックイーター】の魔法吸収効果で矢を誘導操作している魔法の光を消失させる。
だが加速した矢は魔法【プロテクト】を打ち抜いてくる。
それ以上に、圧縮封印[メモリー]された魔法【プロテクト】は後1つしかない。
こんな事で使うわけにはいかない。
僕はタイミングを合わせて、自分の左腕に弾種【インスタントエードヘイシヴ】を撃つ。
ガンッ
べシャッ
【マジックイーター】の吸収方向とは反対側から、左腕に【インスタントエードヘイシヴ】はあたる。
軽い衝撃と共に、蜘蛛の巣の様に白濁とした液体が広がり、硬化する。
そこに向かってきていた矢は、絡み取られるか、あたって落ちた。
わずかに即席の盾を貫いて僕の身体に突き刺さったのは8本中2本だ。
矢は深く脇腹に刺さっているが、内臓は傷ついていないと思う、多分。
大丈夫だろう。きっと大丈夫だろう。うん、大丈夫なはず……。
再びコッキングしながら、残る【マジックミサイル】から逃げる為、老魔法師ジョフクを中心に円を描くように、右に右にと走る。
が
再び僕を貧血が襲う。
あっ!!
くらっとした次の瞬間には、目の前が暗くなる。
聴覚にノイズがはしる。
その一瞬が明暗を別けた。
今まで掠っていただけだった【マジックミサイル】にとうとう捕まった。
トストストスっ!!
右足に6本がつきささる。
そのまま前のめりになって倒れるのを踏ん張ろうとして、さらに背中に3本。
うがぁあっ!!
声にならない叫びを上げるが、これ以上はまずい。
圧縮封印[メモリー]された魔法【プロテクト】を使用し、その上で空中の【マジックミサイル】に【インスタントエードヘイシヴ】を撃って矢をからめとる。
おかげで、これ以上の負傷はしないですんだ。
だが、これでもう魔法【プロテクト】は使えない。
残っているのは、念動の魔法【インヴィジブルハンド】だけだ。
本当は対カラス戦に使おうと思って、次元回廊【コレダー】内でヴラドにかけてもらった魔法なんだけど……。
状況の確認。
全身に刺さっている矢の内、やばいのはさっきの右足の6本と、脇腹、左肩か。
特に右足のうち、矢の1本が膝の裏から入ってる。
もう右足はダメだ、使い物にならない。
くそ、痛みで立つ事もおぼつかない。
とあるFPSの笑い話で、全ての門番が膝に矢を受け引退した冒険者ってのがあったけど、それ判るわぁ。
尋常じゃない痛みだ。
脳内の別の思考場所で、伊織、雲雀、ヴラドが叫んでいる。
が、ここは放置で。
大丈夫。
まだ死ぬつもりもなければ、負けるつもりも無い。
「ふぉふぉふぉ、どうやら形勢逆転のようじゃの?」
いやいや、最初から僕が一方的に不利なままの殺し合いだったはず。
「油断大敵ってね」
声を出す事はできないが、唇の動きで……って無理か。
あっちは多分、英語かラテン語を元に発達した言語、こっちは日本語だ。
「おや?声を出す事ができなくなっておるようじゃのぉ。
最後の遺言ぐらい聞いてやりたいと思っておったが無理なら仕方あるまい。
このまま死ぬしかないのぉ……」
はん。
誰が死ぬもんか。
うぅ、声を出せないと締まらないなぁ。
どうすれば話し合いまで持っていく事が出来るだろう。
何かが、引っかかってるんだけどなぁ……、
なんだろう、何を見落としているんだろう?
ふぅ。
やはり話し合いをするには、こちらが勝たないといけない。
こちらに有利な状況を作っておかないと、弱い奴の命乞いとしかとってもらえない。
そんな状態じゃ、話も聞いてもらえないだろう。
歩くどころか膝を曲げる事も出来ないが、僕は立ち上がる。
耐え難い痛みは我慢だ。
今、僕の位置は玉座に対して、直角になっている。
丁度、紅い絨毯を挟んで、老魔法師ジョフクと睨みあう感じだ。
僕の後ろには石の壁、老魔法師ジョフクの後ろには柱がそそり立っている。
今までの攻防から少し判った事は、何らかの理由があるのか、老魔法師は全力を出していない。
わざわざ僕のレベルに合わせているような気がする。
遊んでいるというわけでも無さそうだけど……。
むぅ。
一旦思考を止めて、僕はコンストリクターVSPを構える。
「ふむ、まだヤル気の様じゃのぉ。
ふぉふぉふぉ、不老不死を求めて生き長らえていると、どんどん感情が磨耗してのぉ。
久々にたぎってきたわい。若い頃に戻ったようじゃ」
この老魔法師、もしかして元はバトルジャンキーだったとか?
僕と老魔法師は睨みあう。
僕は満身創痍だ。
しかし、実は老魔法師も息が上がっているみたいだ。
もしかして、全力を出さないのは、体力的なものという事だろうか?
出さないのではなく、出せない。
よる年波には勝てない。
そういう事だろうか?
いや、そんな事は魔法で何とでもできそうだし……。
……ォォーーーン
「?」
……オオォーーーン
何だろう?
どこからかエコーがかかった様な、風の音みたいな……
あっ――――!!
これ、狼の遠吠えだ。
それが石の通路を反響して伝わって来ている。
ヴォータンの本命キターッ!!
まずい、まずい。
かなり数が多そうだ。
見ると、目の前の老魔法師にも聞こえていた様だ。
少しばかり、僕から気がそれている。
もう一刻の猶予も無い。
決着をつけるべく僕は動き出した。




