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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
87/169

海を、山を、故郷(ふるさと)を、5つの腕で守る


「名乗りは貰った、ならば我も名乗ろう!」


「我が名は、混沌と夜を統べし魔王ドラキュラ!」

伊織はそう言った筈だった。

だが実際は

「我が名は勇者っ!!

 ―――勇者シグレ!!」

え、あれ?


(……?)

(勇者じゃとっ!?)

(ださ~いっ!!もっと、こう、かっこいい名乗りを!

 爆発とか、見得を切るとか……。

 ほら、冒険者達もポカーンとしてるじゃない!)


見ると確かに豚顔巨漢、猫耳眼鏡っ娘、老魔法師それぞれが唖然とした顔をしている。


おかしいな。

そんなに変な事は言って無いはずだけど……。

ヴラドの事と言い、何かあるのかな……“勇者”に?




「む?あー、あー。

 我が名は……勇者シグレ!!」

再び伊織は、自分の事を混沌と夜を統べし魔王ドラキュラと言おうとしたみたいだったが、結果は勇者シグレだった。

「……おかしい」

僕の身体を操って伊織は首にある元・変声機を弄る。

「誤動作ではない……?」


(1つ質問じゃが、お主様?)

うん、なに?


(ヴォータンより、お主様は勇者の二つ名をもらったと聞いたが……?)

うん。

僕はその時の事を手短に話す。

もちろん幾つか恥ずかしい部分は伏せたが。


(合点が言ったのじゃ。

 お主様はヴォータンに呪われておる)

え?


(フギンとムニンと呪法【隷属の誓い】を行った時に呪われたのじゃ。

 というより、ワンセットにしたのじゃな……呪いと誓いを。

 相変わらず薄汚い手を……)

(対策を……)

少し焦った感じのする伊織の声。


少し考えたヴラドの答えは

(誓約[ヴァーラル]を破棄させるしかあるまい)

というものだった。


ちょっと待って、質問なんだけど。

(なんじゃ、お主様)

呪いの効果って?

(詳しく調べねば判らぬが、自ら名乗る時に必ず勇者という二つ名を名乗る事と、偽名を使えぬ事であろうな)


うーん。

それなら今の所、問題は無いのかな?

(……)

(……お主様に一言、告げて起きたい事があるのじゃ)

「?」

(それは勇者についてじゃ……)

あ、うん。

それは教えて欲しい。



今はヴラドの説明が欲しい。


目の前の事に対処するのは当然だけど、それでは後手に回り続けるだけだ。

きっちりと現状の把握もしておかないと、こっちがジリ貧になる。


そして何より冒険者達の勇者と聞いたときの態度が、僕は気になったからだ。


僕が勇者と名乗った時、今まで緊張感を孕んでいた冒険者達の若い2人が、苦笑というか笑い出したのだ。

なんというか、こう、シリアスしている最中にとても下らない事を言って、その場の雰囲気を台無しにしたような……。

次の瞬間には怒りだしそうな……。



その後の変化は劇的だった。


グレイブという豚顔巨漢と猫耳で眼鏡っ娘のリュネットがリビングアーマーに切りかかったのだ。

正に電光石火。

瞬きする暇もなく、今度は老魔法師ジョフクが魔法を発動、2人の身体が淡い光に覆われる。


「まぁ、確かに勇者って、言うだけあって弱い敵だけどなぁ」

「油断を誘っているのか、馬鹿にしているのか」


僕の名乗りによって、戦端は開かれてしまっていた。






(勇者とはの、ラパ・ヌイにおいては蔑称じゃ)

ええっ?


(意味合いとしては“勇気ある者”ではなく“口先だけ勇ましい者”じゃな。

 転じて大言壮語する者を嘲る言葉じゃ)

あー、それでさっきの態度なワケね。

冒険者の態度も納得。

馬鹿にされたと思ったんだろう。


(むむむ、納得できーーんっ!!)

雲雀が怒り出す。


(そうは言ってものぅ。

 理屈で語ろうと思えば語れるが……)

(言ってみなさいよ!

 地球じゃ勇者は、唯一無二、最強の鉄砲玉よ!!)

(それと同じじゃ、要は二つ名が関係しておる)

(二つ名?)


僕は雲雀に心話で説明する。

二つ名、別名とか通称、異名の事だよ。

例えば、僕だったら……は止めておいて……雲雀なら……も止めておいて、えーと……。

企業戦士ガソダムの赤い水性シャアとか、テニヌの玉子様の「~」と呼ばれているとか、弁・闘の狼の名前とかロリきゅ~ぶ!の先生の発言とか……


(あー。だいたい判った。

 要はアレでしょ“妾の名は銀髪ロリのヴラド!”とか“我が名は漆黒の女狐・伊織”とか)

(雲雀、私は狐より猫が好き。鼠はダメ)

(雲雀、御主はホントに喧嘩売るのが好きじゃのぅ……)

(じゃあ、今度は目の前の敵を何人掃討するかで勝負よ!!)

視覚同調しているヴラドの目の前で、カラーギャング達を指差してハッスルする雲雀。


(はぁ……断る)

(あっ、私に負けるのが嫌なんだ!)

(妾がすぐに勝つからじゃ。

 まだ多弾頭系の魔法をテストしておらんのでな)

(あ、そっか……)


(そもそも妾には祖龍喰らい[ドラコエド]という、それはそれは立派な二つ名があってのぅ……)

(あれ?串刺す者[ツェペシュ]は?)

(雲雀、口を閉じる。

 今のでカラーギャングが怯え始めた。

 掃討戦は的を1箇所に集める事が重要)

(むぅ、何よ、串刺す者[ツェペシュ]で怯え始めるって……

 逃げなくてもいいんじゃない?)

(いや、違うのじゃっ!!

 妾は祖龍喰らい[ドラコエド]であって、串刺す者[ツェペシュ]ではっ!!)


(……)

(……)

(あー。御免。

 今回の勝負、私の負けね。

 まさか名前だけで敵を掃討するとは思わなかったわ)

(凄い……これが魔法)


(ううう……ちがうのじゃぁぁぁぁ)



はぁ、と僕は溜息。

3人寄らば文殊の知恵、されど女3人寄れば姦しい。


人の脳内で井戸端会議&戦闘実況を始めた3人を並列思考で別室に追いやって、僕はヴラドのみを呼び出す事にした。






ヴラド、ヴラド。

心話で呼びかける。


(串刺す者[ツェペシュ]は皆が勝手に呼んでいるだけじゃっ。

 妾の真実の、魂のっ、二つ名は祖龍喰らい[ドラコエド]じゃっ、誰も信じないだけで!!)

そっか、僕との初体験の時のアレは自虐ギャグだったのか……。


じゃなくて。

ヴラド、ヴラド?


(待つのじゃ、チンピラども!!

 正々堂々と戦うのじゃ!)

むぅ。

カラーギャングとの方にばかり注力してこっちに気づかないか。

感覚同調・入力。

僕はヴラドの左手を操ると、持っている槍で額を叩く。

ゴンッ

(ぐぬっ!)


ヴラド、目は覚めた?

(イタタ、いや、これがなかなか、痛くて……)


急いで勇者という二つ名について教えてほしんだけど。

(教えるも何も蔑称と言うだけじゃ……)


まず、その理屈から。



(むむぅ、例えばじゃ。

 二つ名はどんな時につくと思う?)

そりゃ何か偉業をした時とか、普段からの行いで何かすごい事をしているとか……。


(うむ、そんな所じゃ。

 ならば、魔王を退治した者には、どんな二つ名が相応しいかの?)

そりゃあ、勇者!!


(ぶっぶー!!ハズレっ!!)

むっ。

雲雀が割り込んできた。


(2人だけの心話は認められない……)

伊織も再度ログイン。




ええっと、勇者がハズレって事だけど。

じゃあ、雲雀は何だと思うだい?

(答えは英雄!!)

(はぁ。雲雀、御主が来ると、急ぎの話も終わらなくなるのぅ……)


当たりなの、ヴラド?

(見事じゃ)

(ふふん、どぅよ!

 漢なら誰かの為に強くなれ!

 歯を食い縛って思いっきり守り抜け!

 転んでも、また立ち上がればいい!

 ただそれだけできれば英雄よっ!!)ぐっ

あー、うん、そうだね。

世の中、その簡単な事が難しいんです……。






ガシャアアッ!!

グレイブはリビングアーマーを一刀の下に切り伏せると、僕に向かって走り出す。


「うおおぉぉぉっ!(たま)とったるぅ!!」


「発動、魔法【フリージングトルネード】~♪」


そのグレイブを隠すように、突如として竜巻が僕とグレイブの間に起こる。

真言[パワーワード]と詠唱[チャント]、結印[シンボル]を組み合わせてジョフクが魔法を発動したのだ。

ジョフクの放った竜巻の魔法は、内部でカッターの刃の様に薄く鋭利な氷が渦巻いている。あれに捉えられたらズタズタに引き裂かれる事が、見ればすぐに判る凶悪な物だ。


竜巻は進路上にある全ての物を飲み込み、引き裂き、凍らせ砕き割り一直線に僕の方に寄って来る。

「わわっ」

さすがに声が出た。


「がぉんっ!!」

あわや間一髪という所で、ドラコニーが吼えて魔法は掻き消される。

発動中の魔法を意志の力で捻じ伏せる特殊能力【咆哮】だ。

た、助かった……。


だが、その間を狙ってグレイブは走りこんで来てる。

「見た事の無い魔獣だが、まさか竜族との合成とは、何処の生まれだ!?」

玉座に居る僕に放たれた、答えを期待していない問いかけ。

その距離は10mも無い。


慌てず、眼を逸らさず、深呼吸を一回。

僕の頭は、状況を冷静に分析し始める。

もう戦端は開かれてしまっている。


今、必要な行動は何だ?


今回の戦闘の最終目標は、生き延びる事。

敵に対して、此方の状況を教えない事。

最悪の場合、スライムやドラコニー、フギンとムニンを犠牲にしてでも時間稼ぎに徹する事。

そして重要案件、目の前の人物達の目的……本当に敵か?


なんとか会話を再開しないと……時間を稼がないと……。





(二つ名とは、竜を退治すれば竜殺し[ドラゴンスレイヤー]、人跡未踏の地を踏破すれば踏破者[エクスプローラー]といった様に偉業達成でつく事が多いのぅ。

 もちろん不名誉な偉業や、小さい偉業もある。

 戦場で1人だけで生還を続けておると仲間から魂喰らい[ソウルイーター]とか、ラパ・ヌイでは存在しないが死神[グリムリーパー]と言われるじゃろうし、小さい偉業ならば10人殺しや街のマドンナと言ったモノもあろう)

僕の脳内で繰り広げられるヴラド先生のハチミツ授業ならぬ、井戸端会議。

(それ以外じゃと、普段の行いからつく物じゃな。

 喧嘩っ早いと血まみれ[ブラッディ]とか、心清い天然ボケや慈愛に満ちておると聖女[ラ・ピュセル]といった感じじゃな)


(ねぇ、ラパ・ヌイ人って皆、渾名をつけるのが好きなの?)

(ラパ・ヌイ人は二つ名をつける事、つけられる事をとても神聖な事として扱ってのぅ)

(……偽名や詐称ではダメ?)

通名でもいいかもね。

(ラパ・ヌイにおいて二つ名というのは、己の行動の証、魂の導きの結果じゃ。

 これを偽る事は恥となるのじゃ。

 それこそ名前を偽った方がマシという話があるぐらいじゃからな)


あれ?

という事は“混沌と夜を統べし魔王ドラキュラ”と名乗れなかったのは、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]の所為なの?


(いや、嘘は普通に吐けるじゃろ。

 身分査証もじゃ。

 あくまでも恥という事じゃな)

(恥……切腹もの?)

(うぅむ。

 伊織のその感覚が判らんので難しいのぅ)





脳内での井戸端会議は。僕の聞きたい事をそっちのけにして、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと紆余曲折している。

ふぅ。

とってものんびりで牧歌的お花畑な脳内と違って、僕の現実、目の前の世界は絶体絶命だ。


ドラコニーに魔法を消されたジョフクは、更に魔法を使う。

今度のは、即効性に重点を置いたらしく、真言[パワーワード]も使っていない。

数本の光の矢が宙に出現し、弧を描きながら僕に襲い掛かってくる。

「がぉんっ!!」

しかし、今度もドラコニーが特殊能力【咆哮】で光の矢を消し去る。

だが敵の方が上手(うわて)だった様だ。

消されるのを見越して、弧を描いていた光の矢の内、最もドラコニーから遠い3本が消されずに生き残り、僕に向かってくる。


ん?

もしかしてこの攻撃は、特殊能力【咆哮】が何処までの効果範囲を持つか調べる為の……

思った瞬間、本命である【咆哮】対策をした魔法を使ってきた。


「発動、魔法【マジックミサイル】!!」


老魔法師は、真言【パワーワード】を発すると同時に、十数本の魔法の光の矢を生み出す。

光り輝く矢の形をした魔法の光は、複雑な軌道を描いて様々な方向から僕に襲いかかる。

微妙に時間差をつけてくる辺りに、老魔法師の狡猾さが伺える。


ドラコニーは特殊能力【咆哮】を連続して使えないのか、黙ったままだ。

確かに息を吸い込んだり、気合を入れたりと、連続で使用できそうな技じゃないからなぁ。


「展開!魔法【マジックイーター】!!」


そのまま魔法の光の矢が突き刺さる寸前に、僕はヴラドが圧縮封印[メモリー]してくれた対魔法攻撃用防御魔法【マジックイーター】を使う。

色々と自慢していたが、この魔法、ヴラドのオリジナルらしい。

僕の目の前に黒い球体が4つほど出現すると、次々と魔法の光の矢の軌道が変更され、黒い球体に飲み込まれていく。


しかし、ホッとしたのもつかの間だった。

もう1つの脅威、目の前に230cmの巨漢が走りこみ、グレイブを振りかざす。


「うらぁっ!!死ねやゴラァ!!」ヒュゴッ


ぼとっ


「な、なんじゃ、こりゃあっ!!」

ドガァァァッ!!

少しだけ身体をずらした所に深々とグレイブが突き刺さる。


えくせれんと!

相変わらず良い仕事をしてくれる赤いスライム。

豚顔巨漢グレイブの顔に、赤スライムがへばりつき、視界を奪ったのだ。




次々と此方の手の内がばれていくが、出し惜しみをしていたら殺される。


「【ハンマーコック】展開!!」

僕は、ヒップホルスターからコンストリクターVSPを抜くと同時に圧縮封印[メモリー]された魔法【ハンマーコック】を発動する。

右腕に幾何学模様の刺青が現れ、僕の脳内に5種類の魔法の構造式が浮かび上がる。

今から15分間だけ、僕は5種類の魔法が無制限に使える。

ヴラドに圧縮封印[メモリー]された回数制限付きの魔法を含めれば、それなりにやれるはずだ。


「弾種【インスタントエードヘイシヴ】」

連続してトリガーを引く。

狙い通りに魔法が発動し、グレイブの足元に蜘蛛の巣の様な、粘着質でありながらも強靭な糸が、幾重にも絡みつき硬化を始める。

コレでグレイブは暫くは抑えられるはず。

次はジョフクを黙らせないt

(ゴアッ!)

「――――!!」

背筋を寒気が襲う。


僕がそこから真横に転がるのと同時に白銀が閃いた。


「ぐっ」

首筋が熱い。

少し切られたみたいだ。


「ウチの攻撃をかわすなんてやるね。

 さすが真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]」

いつの間に現れたのか、先程まで僕が居た場所に、リュネットと名乗った猫耳眼鏡っ娘がいた。

フギンとムニンの泣き声と共に、回避行動をとっていなかったら死んでいた。



「……」

僕は首筋を撫でる。

ヌメッとした感触があるが、まだ大丈夫、軽傷d

ティンッ

と音がしたかと思うと、僕の首から何かが床に落ちる。

「?」

何だろう?

見たいけど、今は目の前の猫耳眼鏡っ娘から目を離す事が出来ない。

今、相手を見失うと今度は首を切られる。


……。


あ。


僕はもう一回、首筋を撫でる。


ない。

……首輪が無い。


まずい、これでは喋れないっ!!





ジリ貧になっていく中、ヴラド先生のハチミツ授業か今日も絶賛脱線中だ。

ああ、もう。

お願いだから本題に入って下さい。

このままだと死んでしまう。


(あ~すまん。

 お主様……で、勇者じゃが……)

やっと本題に入った。

長かった。

聞く前に死ぬかと思った。


(のぅ、今までの様な状況下で勇者の二つ名を得るには、どうすれば良いとおもうかや?)

(今までの状況下って?)

おおーい、雲雀~。

今までの前振り忘れないでよぉ。

(あ、あはは、ごめ~ん)

(偉業をなすか、普段の行いから勇者という二つ名を得る場合、という事)

突っ込む僕に変わって、伊織がフォローする。


(そんなの簡単じゃん。

 普段から勇気がある事を示せばいいのよ!!)

(ふむ、例えば?)

(強い奴を倒しまくったり、困ってる村人を助けたり、悪代官に立ち向かったり……)

(それらをすると、勇者の二つ名はつかんのぅ。

 他の二つ名がつくのじゃ)


(なんで?)

(む……確かに)

ああ、そっか。


(お主様と伊織は判ったかや。

 そうじゃの、強い奴を倒せばスレイヤーとかキラー、喧嘩屋とか血まみれ[ブラッディ]もあるのぅ)

(あ……もしかして……)

(そうじゃ、困っている人物を助けるなら、聖人[バギオス]や救世主[メシア]じゃ。

 権力者と戦うなら、反逆者[トレイター]や義賊[クレフテス]というのもあるのぅ)


勇者たらんとして行動すると、その結果によって他の二つ名がつくんだ……。


(では、もう一度問うぞ?

 勇者として二つ名を得るにはどうすれば良いかや?)

(んんぅ~~わっかんなぁいっ!!

 ヒント、ヒント!!)

(……)

(ならば、どの時点までは勇者でいる事ができるかや?)

(あ……)

(――!)


……結果を出すまで。

逆説的には、結果を出さなければ勇者で居続ける事ができる。


(判ったかや?

 他の異世界ではどうかは知らぬが、少なくともラパ・ヌイでは勇者は蔑称じゃ。

 口先だけは威勢の良い事を言って、結果は出さない大言壮語する者、それ即ち勇者……)


(むむむ……)

(……)

理には適ってはいる……のかな?


(ムキーーッ、納得したけど納得できーーんっ!

 何でヤシロがそんな事、言われるのよっ!

 許せーーん!!)

ああ、それで怒ってくれていたんだ……。


(ん、時雨はもっと怒るべき。

 口頭とは言え、正当な契約の上での騙し討ち!

 時雨には復讐の義務が発生している!!)わくわく

あまり感情を表に出さない伊織が、珍しく嬉しそうな声を出している。


(時雨、復讐に付き合わせて欲しい。

 ヴォータンを毒殺、刺殺、斬殺、暗殺、絞殺、射殺、銃殺、圧殺、轢殺、爆殺、溺殺……時雨の望み通りに必殺する)

あ、うん、ありがとう。

でもちょっと引いちゃうなぁ。それは。





脳内授業で決着がついた。

しかし、現実では決着どころか僕は押されまくっていた。


「うおぉぉぉーーーっ!!」

豚顔巨漢のグレイブが雄叫びを上げてブチブチっと硬化していた粘着液を引きちぎる。

あー、もう!!

そうはさせじと、僕は再びトリガーを引き【インスタントエードヘイシヴ】でグレイブを固める。

「あ、またかよ、くそっ!!

 真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]なら正々堂々勝負しろ!!

 この勇者めっ!!」

グレイブの悪態を聞いているヒマは無い。

僕は自分の背後、影から逃げ出す。



間に合うかっ!!


声にならない声で叫ぶ。

実際は空気の漏れる音だけが聞こえるんだろう。


間一髪、僕が立っていた場所に白刃が閃く。

いつの間にか、猫耳眼鏡っ娘リュネットが現れていた。

トリガーを引いた瞬間から回避動作を行なっていたから助かった。


くそっ。

無駄かもしれないが、万に1つでも当たる可能性があるならば、と僕はトリガーを引く。

しかし、当たったかと思った瞬間、本体だけ残して残像が消える。

ヴラドの知識だと創造魔法【プランク】の亜種らしい。


そして再び猫耳眼鏡っ娘リュネットは、陰の中へとチャポンっと音をたてるかのように沈んでいく。

同じくヴラドの知識から移送魔法【シャドーハイド】の一種と見当つけるが、これが厄介すぎる。

影と影を使った短距離テレポートらしい。

老魔法師ジョフクが明かりの魔法を強めて室内全体を照らすようにしていたのは、この為の布石だったんだと改めて実感。

反対に影を無くせば、この魔法は使用条件を覆す事が出来る。


少しずつでも解決の糸口を見つけないと……。

さっきから動きっぱなしで正直辛い。

血が足りない、二日酔いがキツイ、眩暈がする。

死ねない。

楽になれない。

あー。

ダイエットより筋肉つけよう。

うん。



周りを見る。


ドラコニーにはかなり無理をさせている。

毎回、老魔法師の魔法を打ち消してもらっているんだから。

それでも取りこぼしが発生している。

それらは全部、ドラコニー自身が盾として受け止めてくれている。

戦えなくなるのも時間の問題だ。


赤スライムは出自がペンキなだけに長時間、強力な酸を分泌できない。

今はグレイブの目潰しをしているだけだ。

グレイブは僕の足止めである【インスタントエードヘイシヴ】の解除を優先しているが、もし優先順位を変更して目潰しを先に解除する事にしたら、赤スライムは引きちぎられて細切れにされるだろう。


フギンとムニンは役に立つ前に前線に出したら死んでしまう。

飛べないカラスは鳥じゃない、ただの食材だ。

食べた事無いけど。



まずい。

どうにも、嫌な状態だ。


グレイブを人質にしてもリュネットの攻撃が来たら終わりだし……。

弾種変更して弾種【マジックアロー】で殺害ってのも有りだけど、多分何十発と当てないと無理だろうしなぁ。

魔力素の消費を抑える為だから弾種【マジックアロー】の殺傷力が低いのは仕方が無い。

その分は手数を増やしすしかない。

当たり所次第だけど、正直当たってもスタンガンを押し付けられるのと同じくらいじゃないのかな?

まぁ、それに後の事を考えると、まだ殺すのはまずい。

ここはまだ一か八かの勝負どころではないんだ。


一旦、ここを放棄して宝物庫まで下がるか……?

だめだ、途中で追いつかれる。





ふぅ。

実はかなり手詰まり感。


このままじゃ本当に3つの下僕を生贄に差し出さないといけなくなる。

それに何よりも喋れないのが痛い。


この世界に白旗の概念ってあるかなぁ?



……。


とりあえず、現状でのマイナス要因を取り除くか……。


血が足りないのか仕方ないけど。

二日酔い……は何とか成るかもしれない。

解毒の魔法【デトックス】だ。

二日酔いは、体内にアルコールから分解されたアセトアルデヒドという物質が残っている事により起こる症状だ。

それを魔法【デトックス】で解毒する。

まぁ移送魔法だから、解毒というよりゲロとして出す事になるんだけど……。


僕は早速ヴラドに、ちょっときつくなってきたので、雲雀の二日酔いを治してくださいと、連絡する。

(判った。じゃが勝てぬなら、降参するのも手じゃぞ?)

うん……判った。


(ええっ!?

 今ここでゲロ吐けって……

 む、御主人様、ピンチなの?)

うぃ。

その通りです、雲雀。


(うーん、仕方ない。

 ここは新たな趣味に目覚めてしまった御主人様の為にも、実況生中継で……)


いえ、これから突撃なんです。

マジ勘弁してください。


(ゲロの話は冗談としても、まだ早まらないでよ!

 あと10分もすればそっちにつくから!)

雲雀の叱咤激励だ。

まぁ、なんとかなるでしょ。きっと。




僕は、コンストリクターVSPのシリンダーを回転させる。

こまめに魔力素の補給をしておかないと肝心な時にきれてしまう。

予備のシリンダーが1つあるけど物理的に交換ができないし、魔力素をチャージする役目の弾丸はスピ-ドローターが無いから、交換に手間取る。

どちらにしても今みたいな戦闘中では無理だ。


僕は特殊脳力【ダメージ転写】を打ち切り、雲雀の二日酔いを肩代わりする事を止める。

頭の芯にかかっていた靄の様な物が消え、胃のムカつき、胸の中でとぐろを巻いていたような気持ち悪さが消える。 

鈍かった頭もようやく回復へと向かう。

本当は最後まで引き受けていたかったけど、そうも言っていられなくなった。

情け無い、ふがいない、そして何より悔しい。




僕は、コンストリクターVSPを構えなおして、走り出す。


魔法【シャドーハイド】の脅威から逃れる方法としては、走り回る、光を背にして移動する、の2択ぐらいしか思い浮かばなかった。

かといって、このまま老魔法師ジョフクをフリーにしておくと後で痛い目を見そうだ。

挟撃される可能性が高いが、各個撃破される前に、力を1箇所に集中運用する。

一番の脅威、老魔法師ジョフクを最初に黙らせる。

猫耳眼鏡っ娘リュネットの次の行動が僕を狙うのか、豚顔巨漢のグレイブ救出かで少し行動は変わるが、どっちにしろ目指すは老魔法師ジョフクだ。



「くそぉ!!うっとうしぃっ!!」

あ。まずい。


グレイブは優先順位を赤スライムに変更したようだ。

掴んで引き剥がしにかかっている。

僕は進路を変更する。


銃を構えて……来たっ!!

猫耳眼鏡っ娘リュネットの今度の攻撃は、玉座の影から現れての短刀の投擲。

横っ飛びにかわす。

正確にはゴロゴロ横に転がる、だが。


「グレイブ。気をつけてっ!!

 ソイツ、アンタを狙ってる!」

「はんっ!たかが勇者如きに!!」

吠えたなグレイブ!

僕は、回転の勢いから立ち上がり、一路グレイブの元へ。


ガクン。

え!?


足に力が入らない。

あ、目が回ってる。

こんなときに貧血か?力が抜けていくっ!!

まずい、まずい。


くそっ。

血が足りないぃっ!!

いつぞやの戦いの時と同じ様に、グルグルと回転してグレイブの元へと向かう。


「させるかっ!!」

移送魔法【シャドーハイド】を使って、玉座の影からグレイブの影に移動した猫耳眼鏡っ娘リュネットは出現するや否や、僕めがけて短剣を振り下ろしてくる。


「……♪」

「――!!しまっt」

リュネットは僕が笑っているのを見逃さなかった様だ。


ああ、その通りだ!

この瞬間を待っていた!


今の僕には、ヴラドのかけてくれた感情の波がより大きく感じられる感知魔法【ディティクトエモーション】がかかっている。

この猫耳眼鏡っ娘が、この豚顔巨漢をどれだけ心配しているかなんて、喋れば喋るほど判る様になる。



だから今回の移動はブラフだ。


助けに来るのはさっきの台詞で予想済み!


【シャドーハイド】の移動場所も、グレイブの影と重なっていれば、予想可能だ!!



そう、出現位置さえ予想できれば!!

射撃の腕が下手でもコレだけ近ければ!!


くらえっ!

弾種【インスタントエードヘイシヴ】

ファニングショット!!


ガガガガガガッ!

「ふにゃっ!!」


今回は動き回らないで良いので、コンストリクターVSPを持った腕をしっかりと腰にあててホールド。

トリガーは引きっぱなしだ。

ハンマーが落ちるたびに、左手の親指と小指で素早くコッキングする。

西部劇で良く見るファニングと呼ばれる撃ち方だ。

しかも弾数の上限は魔力素が続く限りという外道撃ち。


「うそっ、何よそれ!?

 魔法の高速連続発動!?」



残像が消え、本体に魔法のバレットが命中するたびに、ネバネバっと白濁した粘液がヌチャっとつく。

腕に、足に、服に。

胸に、髪に、眼鏡に。

グレイブにはなんとも思わなかったけど、こっちは凄い。

次々と弾着。

白く白くなっていく、ぬらっと、ぬめっと。

白濁と。


なんてエロいんだ。

MGSのオセロットには遠くおよばないが、弾の気持ちが判る。

もっとぶっかけろ、と言っている!!

判っているとも!!


ぬちゃ、ぬめっ、ぬとっ。

うむ。エロっ。


まぁ、攻撃受けてる本人はそれどころじゃないんだけど。



「高速でっ!連続でなんて、そんな馬鹿にゃ!?

 ありえにゃい!!

 にゃ、にゃああああっ!」


“にゃ”付き!!

ありがとうございます!!

ありがとうございます!!

エクセレント!

ブラーヴォ!!

マーヴェラス!!


しかもすっごくエロイ!!

まっしろはくだく。


ヴラド、ありがとう!!

ヴラドに100万の感謝を!!

ひゃっほう。

これでもう思い残す事h

(やっすい人生じゃな!!お主様!!)怒

(そうよ!猫耳つけて“にゃ”なら私といおりんがやってあげるわよ!)

(え!?)

(ピンチだ、まずいと言ってる割には、エロい事ばっか妄想して元気だしっ!!御主人様はっ!!)

(そうじゃっ!!

 こんな下らん事の為に、創った魔法ではないのじゃ。

 聞いておるかや?お主様!!)

雲雀とヴラドからのお怒りの心話が次々と迷惑メールの様に送られてくる。

いや、まぁ、それだけ心配をかけてしまってたんだけど。


いや、ピンチなのは相変わらずなんです。ホント。


(うぅむ。

 お主様がそこまで特殊な性癖の持主ならば仕方ない。

 前は咽喉の奥や髪だけじゃったからのぅ……

 うむ、次回は好きなだけ好きなところに出すが良いぞ。

 妾も拒むつもりは無い)

(な!ちょっと、なに抜け駆けしてのよ!!

 次は私なんだからっ!

 ぶっかけられるのは、わーったーっしっ!!)

(時雨は、蝋で人間を固めるのが好きなのか?

 ……確か以前の調査でマダム・ダッソーと言う人物が、蝋人形の館というのを経営していたが……)

(はいはーい、怖い話はもーいーから)

(ん?いや、別に怖い話ではなく、ビジネスの……)

(コレも地球の世界法則[リアリティ]なのかのぅ?

 死体を蝋化させるのは判るが、人間に蝋をかけても仕方ないと思うんじゃが?)


いや、話がずれてるって。

そもそもリキッドが違うってば。


【インスタントエードヘイシヴ】はヴラドのオリジナル魔法だ。

しかもできたてホヤホヤの。

地球に来て瞬間接着剤を見て創った魔法らしい。

ただ単にネバネバする魔法というのは【スティッキー】や【ライクスライム】と色々とあるみたい。

だけど、粘着 → 硬化という性質が変わる2段構えの魔法は、一般では売ってないと言って自慢していた。


でも、まぁ何とか、豚顔巨漢グレイブと猫耳眼鏡っ娘リュネットの行動を封じる事に、性交じゃなかった、成功した!!

残るは老魔法師ジョフク!



僕は、脇腹が痛いのと頭がふらつくのを無理矢理こらえて立ち上がる。


脳内で五月蝿くする皆に助けられた。


僕の状況を判ってて軽口を叩いてくれる。


ありがとう。

お礼を言って再び走り出す。




僕は、グレイブの横を駆け抜けざまに、グレイブの得物に手をかけて真上に跳躍する。

そうしないと230cmの巨漢の顔にへばりついている赤スライムに手が届かない。

僕は赤スライムに接触する事で、指示を出す事ができる。


こっちだ!!


赤スライムを回収、僕の左肩及び首の後ろを守らせる。


僕はドラコニーと並ぶと、一直線に老魔法師ジョフクの元へと向かう。


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