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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第06話 異世界の中心で I と叫ぶ
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火の中 水の中 草の中 森の中 土の中 雲の中必ずGETだぜ!


―――チッ、開かねぇ。

―――ダメ。これはマジックロック。ウチじゃ無理。

―――ココで最後なんだ。爺さん、頼んだ!!

―――ふぉっふぉっふぉっ


扉の向こうには、人狼[ヴェアウルフ]がいる。

声からすると3人だが、正確に言うなら最低でも3人だ。

明らかに僕にとって非友好的な人達だ。


「さらばだ!勇者よッ!!

 見事、(おの)が運命、切り開いて見せよッ!!」

言うが早いかヴォータンはカラスとの感覚同調を止めたらしい。

「ゴアッ」

スライムの中で暴れ始めるカラス。


僕は赤スライムに離してやる様に伝える。




ふぅ。

どうしようか思案する僕にカラスが語りかけてくる。

「新たな主ヨ、契約ヲ」


ん?


「これヨリ、お前を新たな主として仕えヨとの命令が下されタ。

 お前との呪法【隷属の誓い】によっテ、主の最後の命令が遂行されル」

「あ、そっか……」


そういえば、カラスの声帯って喋る事が出来たっけ。


自然と僕は、咽喉元の首輪へと手をやる。

今、僕が話す事ができるのは、伊織が造ってくれたこの首輪と、地球の世界法則[リアリティ]のおかげだ。

そうだ、僕自身の力なんて、たかがしれてる。

ふぅ……。

今、僕にある武器で、ここを切り抜ける事は不可能だ。

やはり皆に頼るしかない。



「どうしタ?

 何を呆けてイル?」

「あ、ああっと」


ボーとしすぎていたみたい。


そうだ、まだ一難去ってまた一難だ。

弛緩している暇は無い。

気を引き締めないと!


「えぇっと、どうすれば良いのかな?」


「お前の血を以って、ヴォータンの血を上書きする。

 要するに血をよこセ」ゴアッ

「あ、うん。

 どれぐらい必要なのかな?」

「一口で良イ」

「そっか」


僕は左手の薬指に傷をつけ、滲み出た血をカラスに与える。


「コレで良いかな?」

「ゴアッ」

カラスは溶けた羽根で不恰好にも滑空し、バサバサッと僕の肩にとまる。


「我が名はフギンとムニン、二羽一対の烏なり。

 今この日この時より、

 古の誓約に従いて、

 血の絆結びし者との新たなる誓約を結ばん」


僕の指を、嘴で挟むとレロレロと舌で血を舐める。


「この血を以って

 我が身、

 我が意思、

 我が未来、

 我の総てを捧ぐ。

 そは未来永劫、魂魄枯れる時までの誓いなり」


レロレロレロレロレロレロ……

レロレロレロレロレロレロ……

レロレロレロレロレロレロ……


「えっと……」

レロレロレロレロレロレロ……


「誓約[ヴァーラル]は終わり?」

レロレロレロレロレロレロ……


このカラス、ジョジョのカキョーインみたいだ。

舐めているのは、チェリーじゃなくて僕の血だけど。


「もうそろそろ良いかな?」

レロレロレロレロレロレロ……


「……」

レロレロレロレロレロレロ……


「えっと……あの」

僕はそっと指を外そうとする。


レロレロr「ゴア!」

睨まれました。


でも、僕の方も限界近くヴラドに血を上げちゃったので、かなり天国が近いんです。

僕は一旦カラスの嘴を押さえ、指を外す。

「も、もう良いだろう?」

「ゴアッ!ゴアッ!」

「?」


「もうちょっト!

 ちょっとだけだかカラ!!」

「……」

「先っちょダケ!

 先っちょだけだカラ!」

「えっと、それはココで使うべき言葉じゃないなぁ」





―――♪~~~。



扉の外からは歌の様な、祝詞の様な声が聞こえてくる。


「ああ、もう急がないと!」

「先っちょ2インチでいいカラ!」

「馬鹿な事を言ってないで、契約はコレで完了だな?」

「ゴアッ!」


「血ならコレが終わった時に、ある程度はくれてやる。

 だから働け。

 働かざる者は喰うべからず、だ」

「カ、カァ」


「その羽根だと飛べないだろう?

 取り合えず、今は隠れていて」

僕は羽根が溶けて飛べないフギンとムニンは奥へ行くように指示を出し、更に矢継ぎ早に赤スライムには天井で擬態、ドラコニーは玉座の横で待機してもらう様にお願いする。





僕はカラスと話をしている最中、並列思考でヴラドとも話をする。


(お主様、暫く妾らに内緒で何かしておったようじゃが、大丈夫かや?)

少し怒気と緊張を孕んだヴラドの声。


御免と心話で謝り、僕は今までの経過をかなりざっくりと説明する。


ヴォータンと口喧嘩

カラス入手

敵が扉の外 ← 今ココ


って感じに。

もちろん状況説明だけで内容は言わない。




ちなみにヴラド達の方は現在、カラーギャング・ルトゥムカンケルの後始末中だ。


僕は急いでヴラドに感覚同調してもらう様にお願いする。

ヴラドは僕より遥かに魔法に詳しい専門家だし、ラパ・ヌイがどういった世界か知っている。

いちいち僕がヴラドの記憶をあさって対策を試行錯誤するよりも、ヴラドがその場の状況を見て判断した方が、的確な答えを出すだろう。


だから、これからの戦闘は、ヴラドの指示に従った方がy

(だからと言って頼られても、何もできんわぁぁぁぁッ!!)


そこを何とか。


(むしがよすぎじゃろぅ!)

いや、カラスの1匹ぐらいなら何とかなると思ったんだよ。

スライムとドラコニーも居るし。


はぁぁぁとヴラドが盛大に溜息をついている。

(今の今まで、妾等が心配しておらんと思っておったのかや?)


え?


(急に思考の組み換えを行えば、何かあったかと疑いぐらいはするわ、うつけ!!

 その上、感覚同調、記憶同調しようとすればブロックするしの!

 何かまずい事が起こっているという事ぐらい、雲雀でも気づくじゃろぅが!!)

あ、そっか……。


(ちょっと~、私を引き合いに出すって、それ、酷くない?)

(事実だから仕方がない)

(ほほ-ぅ。

 言うじゃない、いおりんも)

雲雀と伊織もログインしました。


(でも、まぁ、御主人様の並列思考って結構バレバレよ?)

うそっ!?


(本当じゃ。

 どの様な仕組みか知らぬが、少しだけお主様の雰囲気が変わるんじゃ)

(ん。情熱的、押しが強い、強引なのもよし)


うぅ~ん……そうかなぁ。


(何よ、いおりん、あっちが好みなの)

(好きなのは怒った顔)てれてれ

(そもそもデートの時に使った技じゃろ、それ。

 慣れるとな、違和感があるんじゃ)


そしてみんなは、僕の脳内で井戸端会議を開始する……。





あー、もう。

僕は正直にぶっちゃける。


はいはい、ヴラド、伊織、雲雀、先程までは御免。

実はさっきまで、カラスを介してヴォータンと、ちょっと、男同士の会話と言うか、あまり聞かれたくない会話をしていました。

信頼している、していないの問題でなく、単純に好きな人に聞かれたく無い下種な話だったからです。


そんなワケで、カラスと勇者という称号をヴォータンから貰ったよ。


(な!?勇者じゃとッ!!)

ヴラドの反応には怒気が含まれていた。


「ん?」

何か悪い事言ったっけ?






そんな僕の思考が現実へと戻される。



―――発動じゃ。魔法【ディスペルマジック】



扉の外側の人物が、魔法を破壊する魔法【ディスペルマジック】を使用した。


扉を開かない様にする魔法は、ポピュラーなだけあって色々とバリエーションが存在するみたいだが、僕の目の前にある両開きの扉には、接着剤の様にまわりの壁に扉を固定する移送魔法【クローズドドア】がかかっている。


しかし、その魔法はいとも簡単に破壊されてしまった。

扉の外側の人物が使った魔法は、発動中の魔法なら総て破壊するという魔法【ディスペルマジック】だからだ。

僕にはあまり違いが判らないが、ヴラドやドラコニーの使う特殊能力【咆哮】の魔法版みたいなものだろうか?

まぁ、どちらにしろ術者の力の差がモノを言う魔法だ。


要は単純に言うと、外側で魔法を使った人物はヴラドより強いと言う事。


うわぁ……これは、まずいなぁ。





ゴォォォン。


扉が開く。



今まで、両開きの扉と石壁を強固に結び付け、動く事を禁じていた移送魔法【クローズドドア】が切れた今、もはや、進入を阻む物はなかった。



ガゴォン



扉の向こうに立っていた侵入者は3人だった。


1人は、230cmの豚顔の大男。

1人は、白髪、白髭の老人。

1人は、150cmの猫耳少女。




ヴラドは勇者の事で何か言いたそうだったが、目の前の脅威の方が先だ。

伊織と雲雀も視覚同調し、自分達の得意分野での分析を始めている。



230cmの大男は、ゼルダの伝承に出て来る魔王ガノンみたいな豚顔のヒューマノイドだ。

非常に筋肉質な身体つきで、厚手の革の服の上から鉄製の胸当てを着込み、肩、腰、太ももなどの要所を同じ様に鉄の鎧で護っている。

得物はサーベルのような刃のついた棹状武器だ。一見すると薙刀に見える。

(あれは、グレイブって言うんだよ、御主人様)

(ほほぅ。詳しいの、伊織。

 ちなみに種族はイプセプス・ハイ・オークじゃ。

 多分、傭兵か冒険者じゃな)

(武装は、他に両刃の斧を腰に1つ、足に投擲用短剣がある。

 どれも使い込まれているから、きっと凄腕……近接攻撃は必ず逃げて)



白髪、白髭の老人は、(よわい)80を超えた感じの東南系、多分モンゴロイド系の人間で、いかにも魔法使いと言った感じの出で立ちをした人物だ。

灰色のローブを身にまとっているが、その下の服は、着物……いや漢服に似ている。

三国志に出て来る宦官が身につけていたような服装だが、材質は麻、作りはずっと雑だ。

和洋折衷ならぬ華洋折衷みたいな。

得物は東洋の龍をかたどった2mほどの長さの木の杖を持っており、その先端は光り輝いている。

防具らしきものは全く身につけていない。

年齢、肉体的なものもあるのかもしれないが、ちょっと不自然な気がする。

(妾の魔法を破壊した事といい、あの出で立ち。

 よほど魔法の腕に自信があるらしいのぅ……。

 というか、どこかで見た気が……

 はて?どこじゃったか……)

(時雨、龍の杖は持ち方からすると木製より重量があると思われる。

 仕込み杖の考慮をすべき。

 魔法の事は知らないが格闘戦でも勝てると判断)

(かっこいいー!!

 多分あれ、明かりの魔法だよ!

 ロミルワかな、ルーモスも捨てがたいよね、幻の呪文レミーラか……

 ココは意表をついてただの明かり(ライティング)とかかもっ!)

雲雀……

今現在の状況を考えてね?

思わずホロリと来ちゃう……。



150cmの猫耳少女。

ああっ猫耳っ!猫耳っ!本物だっ!!

確かめたいっ!

どういう頭蓋骨なんだろう、猫に似ているのかな、耳の穴はどこだろ、脳の構造はどうなってるんだろう、ああああ、知りたいッ!

ガンっっっ!!

殴られた、思いっきり。

周りを見渡すが、ドラコニーしかいない。

あ、痛覚同調・入力か。

(フーンだっ!!目ぇ醒めた?)

(知識欲があるのは良いが、時と場所をじゃな……)

(痛い……)

どうやら発生源・伊織、発案・雲雀、その他・ヴラドらしい。

猫耳少女は、ポケットが多目の作業服みたいな麻製の服の上に、要所を護る革製の鎧に身を包んでいる。

左肩には作業用ロープ、背には大きなナップサックを背負っている。

特徴は眼鏡だ。

地球の物と違って、形状は眼鏡だが、耳の位置が人間とは違う為に、ヒモを結んで鼻と後頭部で支えている。

どっちかって言うと、ゴーグルみたいだ。

(左腰と尻には短剣、両足首近くに投擲用短刀、多分、暗器は左腕の袖と背中……)

(あざといまでの猫耳眼鏡っ娘よね!ムカツク!!)

(ふむぅ……おそらく、こやつはダンジョンランナーじゃな。

 狡猾で器用で逃げ足も速そうじゃ。

 妾のトラップの数々を交わしてきただけの事はあるのぅ……。

 くふふふふ、生かしては帰さぬぞ……)

あの、ヴラドさん!?


僕が並列思考で雲雀、伊織、ヴラドと楽しく心話している間も、状況は進行している。





3人は40m先の僕を眺めて笑みを浮かべている。


「へっっ!!こいつがこの迷宮[ダンジョン]の親玉かよ。

 楽勝そうじゃねぇか」

ブンと豚顔巨漢がグレイブを構える。


「気をつけて!悪魔城の最奥なんだから!

 あれだって幻覚の魔法……じゃなさそう、だけど……

 きっと何かあるはず」

眼鏡を掛け直しつつ、僕をジッと見る猫耳眼鏡っ娘。


「ふぉふぉふぉ。

 なに、コレをクリアーすれば、悪魔城の迷宮踏破者[ダンジョンエクスプローラー]の二つ名じゃ。

 気張って行くが良いぞ。グレイブ、リュネット」


「おうとも、爺さん!」

「ウチに任せて!」

2人をたきつける老魔法師。

ヤル気満々。




さてさて、どうしようか……

命乞いしても無駄だろうなぁ、ヴォータンの送り込んだ人狼[ヴェアウルフ]だ。

精鋭に違いないだろう。


(お主様、すぐに助けに向かう……

 20分、いや15分で駆けつけようぞ。

 だから時間稼ぎをするのじゃ)


うう、情け無い……。

コレで僕は本格的に足手まとい決定だ。

でも明らかに目の前の敵は僕の手に余る。


カラス1匹とはワケが違う。

グレイブの1撃、魔法の1発、投げ短剣の毒で僕は簡単に死ねる。

何より、身体を動かせば2日酔いで目が回るし、すぐに貧血をおこす。


(う、すまぬ。

 ちと吸いすぎたのじゃ……

 今後は気をつける)

お願い。

本気で輸血パック必要かも。


(あ、あはは、ごめぇん。御主人様。

 あとで、い~っぱい良い事してあげるから、許して?)

はぁ~。雲雀、後があるならね。


(時雨……逃走も1つの手)

まぁ、僕の鈍足でどこまでもつかは判らないけど、やってみるよ。




うん、ありがとう、みんな。

少し元気が出た。


さって、みんなが来るまで、時間稼ぎだ。


約15分かぁ。

それでもやるしかない。

僕の死が3人の死に直結してしまう以上、生き続けないといけない。


死ねない。


僕はまだ安らぐわけにはいかない。






「こんにちは」


僕は大声で声をかける。

相手は40m先、機先を制する。



「ん?アンデットじゃねぇぞ!?」

「多分そいつは高位アンデット、真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]よ!!」

武器を構えなおす豚顔巨漢と猫耳眼鏡っ娘の2人。


え、ええー。

そうきますかぁ。


突撃しようとする2人に、両開きの扉の陰に隠れていたリビングアーマーを出して牽制する。

ガション、ガション。

「なっ!」

「こんな簡単なトラップに!?」


「こんにちは、だ」


僕は、魔王と勇者の経済学から学んだ挨拶をする。

うん、最初から敵対はまずい。

友好的な雰囲気d

「くそっ!!

 なめやがって!!」

「こっちのリビングアーマーはウチらが相手するから、グレイブはあいつを!!」

「ワシ年寄りじゃから、ちときついぞぃ……」


ああああ。

「ま、待つんだ、人狼[ヴェアウルフ]!

 話をしようっ!」


「誰が人狼[ヴェアウルフ]だ!この野郎っ!!

 どこまでも馬鹿にしやがって、もう許せんっ!!」

え、えぇぇ~。


じゃ、なんて呼べばいいんだよぅ。

く、くそぅ。



ここは定番の……


「まずは自己紹介といこう。

 君達とて、名前ぐらいあるだろう?」

威厳、威厳。


「はっ!最近のアンデットってのは常識を知らんらしいな!」

「ふぉふぉふぉっ、その様じゃな。

 名を聞くなら、そちらから名乗ったらどうじゃ?」

グレイブをぶん回す豚顔巨漢と、明かりの魔法を更に強めて室内全体を明るくする老魔法師。

アー言えばコー言うなぁ……もぅ。


「まずはウチらが倒す前に、名前を言う時間と命乞いをする時間は与えてあげる」


「あ、くれるの?」


「「「は?」」」


やさしいなぁ、猫耳眼鏡っ娘は。

いや、助かった。

僕は、長く喋っていられそうなスピ-チ集を、記憶から適当にほじくりだす。


「えー、本日はお日柄もよく、皆様におかれましてはますますご健勝の事とお喜び申し上げます」


「すまん、爺さん。

 高尚過ぎて俺の脳ミソじゃ判らん。

 通訳たのまぁ」

「……意味の無い言葉の羅列じゃな。

 そうじゃな……

 ご機嫌いかが?かの」

「ちょ、グレイブ……!

 それに爺さんもっ!!なにやってんのよ!!

 そんな事よりもあの吸血鬼[ヴァンパイア]に接敵してよ!」

「いや、だってよ、お前があいつの名前と命乞いは聞いてやるって……」


「そうです!僕の自己紹介を聞いて下さい!!」


「ほら、な?」

「ほうほう」

「何て緊張感の無いっ!!」



じゃあ、もう一回最初から。

「平素は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。

 このたび、図らずも悪魔城……

 こほん、所有者曰くラピュタが本当の名前だそうですが、この城の全統括を任されました、わたくし、名前をy」

「ふむ。今のを翻訳すると……

 いつも有難う。この城の名前はラピュタ、今回この城の全権限を命ぜられた……」

「なに!?」

「ええっ!?」


「チッ、マジかよ。

 まだ上が居るのか!」

「こいつはあくまでも代理って事ね!」

あ、しまった。

変な情報与えちゃった。





どうしようか。

取り合えず、並列思考を元に戻して、みんなに相談する。


(大声で名乗るのっ!!見得は必要よ!)


(お主様、今までで幾つか確認したい事があるのじゃが……)


(時雨、少し身体を借りる)

あ、勝手に入力された。




僕の口が勝手に動く。


「ふははははっ!!

 よくぞ悪魔城最下層、謁見の間までたどり着いたな、冒険者達よっ!!」

い、伊織っ!?


「見事だ!褒めてやろう!!」ばっ



「なんだぁ?急に態度が変わったぞ?」

「ふぅむ、二重人格か?それとも憑依かのぉ……」

「みんな、気をつけて!

 こいつ、絶対何か仕掛けてくるよ!!」


「お前達が、我が城を踏破しようとしている事は判った。

 だが、まずは名乗れ!!

 ここで我に殺されるにしろ、お前達が我を倒し、この玉座に新たな主として君臨するにしろ、最低の礼儀は護れ」

わわ、伊織、なんて喧嘩腰な……。


芝居がかった口調になると、途端に伊織は多弁になるなぁ。

ちょっと羨ましい。


(おおー、やるねぇ。いおりん)

(伊織、ついでに確認したい事があるのじゃ。

 彼奴等(あやつら)に訊いて欲しいのじゃが……)

(ん、判った)



「ふむ、アンデットに人の道を説かれるとはのぉ」


「ふはははは、お前達は招かねざる客なのだ。

 だが、だからといって礼を失して良い訳ではあるまい!

 客である以上は礼を持ってあたろう!」


「うぉい、こいつ、アンデットの癖に人格者だぞ!」

「まさか、この真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]って300人委員会の生き残りなの?」

「あの、ムー滅亡の時のか!?

 なんでそんな大物が」

うぉう、勝手に勘違い有難うございます。


「ふはははは!その賢さが我のトラップを潜り抜けてきた武器か。

 もし生き延びてここを出れるならば、大事にするが良い!」


「あ、はい……」てれ

「いや、そこ照れる所じゃねぇだろっ!!」


「さぁ。招かねざる客よ!!

 お前達が名乗らんのならば人狼[ヴェアウルフ]と見なすが、それで良いな!!」

ん?


「なんでそーなるっ!!」

「ぶーっ!!馬鹿にしてぇっ!!」

「……」

え?

あれ?


「では、聞いてやろう、お前達の名を。

 安心しろ、墓石にはキチンと彫ってやる」


人狼[ヴェアウルフ]じゃない?

じゃあ、狼?

いや、あれ、どう見ても人間だし。

だけどヴォータンは“狼どもの遠吠え”って言ってたし……。


(お主様、今は考えても仕方あるまい)

(そーよ!馬鹿の考え休むに似たりって言うでしょっ!)


うわぁぁん、雲雀に馬鹿って言われたぁ。


(事実じゃない。ばーかばーか)


馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞっ。

ばーかばーか。

(ん、時雨はもっと怒って良い)

(お主等なぁ……)






そんな僕達の葛藤を余所に、侵入者達も名乗る事にした様だった。

実は時間稼ぎで別に名前なんてどうでも良かったんだが、相手は色々と勘ぐっていたみたいだ。

「まぁいいぜ、名前ぐらいならよ。

 第一、300人委員会の真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]を倒したんなら、堂々と吸血鬼殺し[ヴァンパイアキラー]の二つ名を名乗れるってもんだ」


豚顔巨漢が1歩前に出る。


「俺の名は血風のグレイブ!!

 世界で最も名高い便利屋イザヴェルに、その人有りと言われたイプセプス・ハイ・オークだ!」

自分を指差し名乗りを上げる。


「ウチはリュネット、七つ手のリュネット。

 同じくイザヴェルに属すダンジョンランナーよ」

リビングアーマーに向けて1歩動く、あと1歩踏み込んだら、彼女の短剣の間合いだ。


「ふぉふぉふぉ。

 ワシは無所属じゃが、縁あってこの者達と共に行動しておる流れの魔法師でのぉ。

 名前は……そうじゃなぁ」

キョロキョロと辺りを見回し

「ふむ。デブのうすら馬鹿じゃ」


う~ん、あれは僕を挑発しているんだろうね、きっと。

(時雨はもっと怒って良い……)

う~ん。

ここは伊織に任せるよ。

僕よりも時間稼ぎが上手そうだしね。

(ん、判った)

(あ、済まぬが、伊織、妾も確かめたい事がある。

 少し交代して欲しいのじゃ)

(ん……)


完全にお荷物だなぁ、涙でてきちゃう、よよよ……。




「あいわかった、グレイブ、リュネット、ジョフクよ!!」

ん……?


今度はヴラドが入力して話し出した。

しかし、今の言葉はギルドの2人に衝撃を与える。



「「ジョフク!?」」



2人の冒険者は自分達の後ろに居る老魔法師を振り返り、まじまじと見つめる。

「ちょ、ジョフクって、マジかよ?」

「あの伝説の魔法師……

 数千年のときを生きる超人……」


言われた魔法師は、皺だらけの顔に更に眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰した顔で答える。

「知っておったか、小僧……。

 ムー帝国滅亡時の300人委員会では見かけん顔だったのでのぉ……

 ハッタリかと思っておったが……

 よもや、滅ぼしたはずの真なる吸血鬼[ヴァンパイアロード]が他人の身体に憑依してまで、生き延びているとは思わなんだわ」

え?

今、かなり斜め上に勘違いしてなかったか?




「ふはははは。

 礼には礼を、悪意には悪意を以って答えたまで!」

再び伊織が僕の身体を使って話し出す。


(やはり、ジョフクじゃったか……

 ファーブニルの記憶にあったのでもしやと思うたのじゃが、まずいぞ。

 あの者、ラパ・ヌイで1,2を争う魔法師じゃ。

 妾では立ち打ちできん)


(ジョフクって、大昔の仙人?

 子供使って日本に来たって言う……)

(地球での伝説は知らんが、2000歳以上の化け物よ。

 あやつ本当に人間かや?

 もしや不滅存在[イモータル]ではあるまいな)

(2000年も生きてれば、充分に不滅存在[イモータル]でしょ?)

(そうではないのじゃ。

 不滅存在[イモータル]と不老[エイジレス]や不死身[インヴァルネラビリティ]、長寿[ロンジェビティ]は同義語ではないのじゃ)

(う……。

 哲学的な話も、学術的な話も、科学的な話もパースっ!

 今北産業でっ!)

(な、何を言っておるのじゃ?)

はぁ……。

馬鹿はほかっておこうよー。

(それもそうじゃな)

(また馬鹿って言ったぁ!ムキーッ!!)


(冗談はさておきじゃ、雲雀)

(あによーっ!!)

(ちと、手を貸せ)


ん?どうかしたの?

僕は、ヴラドの目に感覚同調する。





見ると、ヴラド達の方もまずい状況だった。


別のカラーギャングに周りを取り囲まれている。



えーと、なんで?

(お主様と雲雀が言い合っていた時な……)

うん。

(誰かさんが、また口を開けていて、考えている事が筒抜けでのぅ……)


あ、もしかしてさっき言ってた雲雀の“ばーかばーか”って聞かれていた?

(うむ。まぁ、目の前で言われれば、誰しも自分の事と思うじゃろぅて……)


ヴラド、雲雀、伊織の目の前には、顔を真っ赤に怒り狂っている豹頭の獣人[テリアントローペ]がいた。

うわぁ。

この人、3Dゲーム・古の巻物に出て来るハイウェイマンみたいだ。

もうちょっとカッコイイと3D格闘ゲーム・アイアンフィストに出て来る豹頭のキャラ、鎧王にそっくりなんだけど。



周りは、3階建てのビルっぽい建物群が作り出す路地裏。

問題は、豹頭のハイウェイマンの後ろには10人ほど同じ様に獣人[テリアントローペ]が控えており、更に奥からワラワラと何人も駆けつけてくる。

その上、建物の上の階の木戸は押し上げられ、中から短弓を構えた奴が姿を見せている。

ざっとあわせて50人って……。


っていうか、何でこんな貧民街か暗黒街みたいな所を通ろうとしてるの?

(方向的に一番の近道)

(つい急いでおってな。

 この2人ならば問題が起こらなければ、容易く抜けれると思ったんじゃ……)

(まーったく、銀髪ロリはトラブルメーカーよね!)


(……)

(……)

……。


確実に援軍は遅れるっぽい……。

さて、どうしよう。




伊織から心話が入る。

(時雨、重要案件だ。

 今度はこちらが名乗る番だが、名前は何と名乗る?)

あ、そうだっけ?

じゃあ……


(混沌と夜を統べし魔王ドラキュラでっ!)

(ん、判った)

え、ええっ!?

ちょ、雲雀っ


(かっこいいでしょ!)

あ。

う~……。


僕の身体は伊織の指示に従って勝手に動き出す。

立ち上がって左手を前に突き出す。


「名乗りは貰った。

 ならば我も名乗ろう!

 我が名は―――」


(混沌と夜を統べし魔王ドラキュラ!)

伊織はそう言った筈だった。



「我が名は勇者っ!!

 ―――勇者シグレ!!」



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