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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第01話 僕にこの手を怪我せぃというのか
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僕と戸隠伊織

戸隠さんに、ボケた事をいったら、ボケ返されたでござる。


取り合えず、謝ることにした。


「すいませんっ!ほんっと、調子こいてましたっ。

 じょ、冗談だったんです!」ちら

デブの土下座、カコワルイ。


「……コイビトになる。そう、きめた。

 契約書が必要?それとも血判?」

「ひーん。御免なさい、御免なさいっ!

 漫画は貸します、今日、泊まってもらっても結構です。

 大丈夫、綺麗な布団も用意しますっ!」

「むぅ。布団はいらない」

「ああああ、じゃ、じゃあ、食事も出します、夜食つきで!」

「え?」

「?」

「夜食って……」

「?」

「……しょ、しょくじっ!?」かぁ

「?」


おや、何か様子が…


「そ、そんな破廉恥な……。

 ま、まだ、も、もう少し、お互いを利用しあってから……

 い、いきなりすぎ……」テレっ

「は?」

いや、それはおかしい。

どーしてそういう話になる?

「あ、あの……それは、いったい?」

「……きょ、今日は帰る……。

 ま、また明日、学校で……」


戸隠さんは、顔を上気させながらフラフラと立ち上がると、あれほど執心していた漫画を置いて出て行こうとする。


「あ、うん。漫画は?」

「あとで、取りに来る」ふらっ

「だ、大丈夫?」

僕は彼女を見上げ、その上気した顔を見る。

あれぇ?

一緒に食事って、何か勘違いしている?

いや、もしかして、これは「一緒に帰って友達に噂されると恥ずかしいし」的な話?

いったん引いてくれるのはありがたいけど。

うーん。

どうにも腑に落ちないなぁ。


取りあえず。

「あ、明日、学校に何冊か持って行くから」

「……ん」

行って、玄関を出たかと思うと、一陣の風の後、彼女の姿は掻き消えていた。


「えーと」

何が起きたんだろう?

常識が覆されたような、夢でも見ていたような……狐に化かされた?


「今日は、もう寝よう。うん」


食事と風呂の支度をすると、離れにすむ祖父に挨拶をして寝室へ。

この間、2時間ほどだったが、途中にある書斎から、貸し出すハズの漫画本が何故か消えていた。

僕も大概、変な人生を送っているけども、今日は人生で2番目に常識外れな日だった。






次の日、噂になっていました。



「よう、ドワーフ」

左肩に手を置かれ、アクセサリー過多だが、筋肉質な身体つきの男が、話しかけてくる。

「ん?用事かい、武居」

僕は、爽やかスポーツメンなオカルトマニア、武居一茶(たけすえいっさ)に返事をする。


「ちょっと、話をしよう」

今度は反対側に、甘いマスクで女性を虜にする、長身でしなやかな身体つきの男が現れ、肩に手を置く。

「な、なんだよ。新田」

僕は、残念なイケメンであるロリコン、新田小悟朗(にったこごろう)に返事をする。


この2人は、僕の学校生活において、いや、私生活においても、現在、唯一の友人である。

まぁ、好き好んで、強面ブサメンのヤクザ野郎と友達になりたがる人物は、なにかしらの変わり者である事は確かだ。



「実はな。昨日、不思議な夢を見た。

 不思議と言うのはだな……

 それは、俺が起きている時に見た夢だったんだ」

と武居。


「奇遇だね、イッサ。

 僕も昨日、不思議体験をしてね。

 帰宅途中の話さ」

と新田。


「おお、お前もか!強敵(とも)よ」

「気が合うね、親友!」

時雨を挟んで握手する。


「あー、何のコントですか?」

「シャラップ!!その夢にはな。

 1人の可憐な美少女が出ていた」

「僕の見た夢だと、このクラスでも難攻不落と噂される人物だね」

武居と新田は交互に喋る。


「えぇっと……?」

「聴け!その美少女はな、あろう事か、ドナドナされていたんだよ!」ぐっ

「相手は、金に物を言わせて、全てを奪い去ろうとする、悪逆非道の権化として有名な男だよ!」ばんっ

「俺はその時、誓ったね!

 彼女を守る盾となる!」

「あの男の非道を許してよいものだろうか!いや、良くない!

 かっこはんごかっことじ!」


「「とーいうわけで何があった?」」


こいつら、幼稚園からツルんでるだけ合って、凄い息ぴったりだなぁ。

少し羨ましい。

多分、戸隠さんと帰った所を見られたんだろうな。

それで、その事を聞いてきたんだろう。

「何もなかったよ」と無難に答えておく。


「そうか……。

 では、1ーCの新田リポーターさん聞こえますか~~?」

「はい、こちら現場の新田です。

 悪玉ドワーフの知人という人物に来て貰っております。

 早速インタヴューしてみましょう!」

すると、物差しで目元を隠した武居が、答える。


「え、えーと、ボ、ボク、

 彼は、()る時は()る奴だって、思ってましたっ!」

「はい、以上、現場からでしたー!」

「スタジオにはロリータ評論家のニッタ・コゴローさんに来て貰ってます。

 おはようございます」

「おはようございます。

 Yes ロリータ、No タッチのニッタ・コゴローです」

いつまで、続くんだろうか……


「犯人の少年についてですが、いったい、動機は何なんでしょうか?」

「若さゆえの暴発と考えられます」

「ええっ!それは恐ろしい!」


「彼は普段から、HR終了後に被害者の少女に、ストーカー行為をしているのを目撃されておりまして……」

「我が取材班独自の調査でも、放課後、図書室で被害者の少女をつけねらっている、少年の目撃情報がよせられていますが……」


い!?


わ、わーーーーっ!!

ちょ、ちょっと待て!!

と言おうとするが、武居に口を塞がれ

「被害者の少女が、今日、学校に来ていないのが気になります」

「アレは痛いらしいですからね。

 昨日の今日なら、休みでも仕方ありません……被害者の少女の安否が、気づかわれます」


「「……で、本当のところはどーなん?」」


彼らのコントは10分休憩の出し物としては、充分に周りの目を集め、隣や後ろの席の女子や男子から、生暖かい眼とクスクスという笑い声を頂戴していた。


「あ~……」

観念した僕は、昨日の事をかいつまんで話し出す。

もちろん、色々な事は伏して、戸隠伊織が漫画好きな少女であるという事だけを。


「……で昨日、読みたそうにしてたんだけど、諦めた本を貸そうと思って持ってきたんだけど……」

といってカバンの中を見せる。

賭博黙示録カインだけを全巻詰め込んである。

「カインかよ。何だな、あの娘、妙な趣味だな。

 ラブふるっちぇぐらいを薦めとけよ」

と武居。


「うーん。殆どが題名で選んでる感じだったけど、ビジネスとか金融関係モノが好きなのかな、と思って」

「カインは毛色が違うんじゃない?

 読んだこと無いけど」

と新田。


「一応、メインでヤクザが絡んでくるものだし……

 駆け引きの話だし……」

「絵にはあまりこだわりがないみたいだね」

「お前が、こだわりすぎなんだよ。コゴロー」

「美幼女以外に、何の価値があるんだい?この世に。

 えるおう系コミック以外は買わないよ」

うわぁ。

世の中には他にもいっぱい美幼女物があるのに……

他のは、雑誌としては消えるの早いけど、作者では買わないのかな?

親父とは違った価値観なのかな。


話が変になる前に強引に戻す事にしよう。

新田と一緒にいると、警察のお世話になりかねん。

強面ブサメンだしね。

「何か、別の意図があるのかも……」

「「例えば?」」

「うーん。例えば……」


僕が、考えて話すよりも先に、話をふった2人が答える。


「うむ、例えば、クラスで気になるあの人の目を釘づけにしたい!

 そう思って占うと、今日のラッキーアイテムはビジネス漫画!!

 全体運は、積極的な行動をとりましょうと書かれている!

 無口っ娘が、俺の前でだけ、たどたどしく一所懸命に話す!

 ズッギューーン!!」

「そう、例えばだねぇ。超絶イケメンを落としたい!

 でも、私は15歳を超えて既にババァ!!

 存在の価値すらないッ!

 でも、何とかして振り向かせたいっ!

 それで、まずはその友人から落とすべき!と。

 愚策だねぇ。美幼女以外に用はないのに」ふぅ


「いや、それはない」


「おっ。強気だな、ドワーフ」

「あはは。切り捨てたねぇ。何か確信があるの?」


「そりゃ、昨日のを見ればね。純粋に漫画が読みたいんだよ。

 色恋は関係ないよ、多分」

「そうか。俺のラッキーアイテムは今日も不作か」

「ふーん。まぁ、ドワーフが言うんだから間違いないね」


しばらくすると予鈴がなり、雲の子を散らすように全員が自分の席へと戻っていく。


このクラスでは僕には、ドワーフという渾名がついていた。

昔、小学校の頃、僕についていた(らしい)渾名で、まぁ、僕の身体的特徴からつけられたというのは一目瞭然だ。


このクラスでの自己紹介時に笑いを誘うために言ったのか功をそうして、今回もそう呼ばれる事になったのだ。

中学校時代の渾名、人肉喰らい[マンイーター]はトラウマでもあるので伏せておきたかったしね。






八代時雨は、太っている。

自身の事を、実際は100kgを越えていないが100kgオーバーのデブ、ブサメンと自虐的に笑いを誘うように言う彼にとって、デブである事は別段普通の事で、他人にデブとか言われても嫌ではあるが、怒るような事、傷つく事ではない。


それ以上に、彼には知られたくないコンプレックスがあった。

それは、体毛が濃い事。

子供の頃は毛深いだけだったが、第2時成長の辺りから、体毛が濃くなり始め、胸毛と陰毛、尻毛の境目などなく、全身がまるで軍隊アリに覆われているかのような状態になっていった。


それが、水泳の時間に

「うわ、何アレ、キモっ!」

「あはは、キモぉ~~。バケモンだ」www

と知らない人に指さされて笑われるという経験がトラウマとして根付いてしまっている。

それだけなら、毛をそればよかっただろう。

全身の永久脱毛や、どんなに濃くなっても夏場の一時期に剃れば、コンプレックスを払拭する事はできないが、自身の身体を指差されて笑われるという事は無くなる。

それで、問題は、ほとんどない。


しかし、数年前の飛行機事故が、それを困難にしていた。

本来なら、火傷で死んでいるはずだった。

死んでない方がおかしかった。

それだけの怪我だった。

今でも、彼の身体にはケロイド状の皮膚や、移植した際のミスなのか、同じ自分の肌なのに妙に黄色く目立つ肌があり、毛を剃る事で、今度はそちらが嫌なほど目立ってしまう。


気持ち悪いのだ。

自身の身体が。

醜さが。

どうしようもないほどに。

コンプレックスである、毛深い事に守ってもらわなければならない程に。


しかし、そんな身体でも、今は無き両親が命を捨ててまで庇った結果だ。

今、ココに八代時雨がいるのは、全て両親のおかげだ。


時雨にとっては、彼の身体も両親の遺品だ。

自由にして良い物ではない、と思っている。

だから自害もせず、自傷も許さず、両親が望んでいたであろう未来へと自分の進路を決定している。

その為の努力をしている。

そこに自分の意思は無い。

だからなのか、何処か第三者的な視点で自分自身を見下した自分がいる。


無様で醜い奴、と。

そいつがいつも自虐的な発言を垂れ流している。

脳内で。

最近は、薬で落ち着いているが、前はもっと酷かった。






「ふぅ」

授業中なのに溜息が出る。


戸隠さんは、どうしたんだろうか?

何故、今日は休んでいるんだろう?

大丈夫だろうか?

昨日、真夜中、人の家を勝手に漁って漫画を持って行ったようだが、帰宅はできたんだろうか?

この事を、彼女の両親は知っているんだろうか?

もしかして、昨日、調子こいて言ってしまったのを、否、いつものストーカーじみた行為を、怖いとか感じて引きこもったとか……






そんな、僕の葛藤を笑い飛ばすかのように、戸隠さんは登校してくる。


帰りのHR直前に。


戸隠さんは、周りの視線を気にすることなく、颯爽と僕の前まで歩いて来る。



「お」

「姫の登場ですね!」

目聡く見つけた武居と新田が時雨の近くの席まで移動する。

かぶりつきで見るつもりだ。



「来た」


「あ?えと……おはよう?」


「ん」

手を差し出す。

「……?」


差し出された手には、幾つかの書類の入ったとおぼしき、A4判ほどの封筒があった。


「これは、何?」

「あの後、調査してみた。

 この世界の社会ネットワークは、皇國代理天ほどではないが、かなり高度。

 色々と難しい事が多い。時間が掛かってしまった」


ゴソゴソと封筒から書類を出す。


「取り合えずコイビトとは、♂と♀のツガイが行う契約である事が判ったので、申請することにした……

 君と私の絆」


パサッ

「え?」



婚姻届……?



「……あとは、時雨が書き込むだけ」


「大丈夫、私の偽装はバッチリ」




どや?



少し、胸を反らし、満面の笑顔で、彼女は時雨を見た。

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