廻せ廻せ地球を廻せ、レッツチャージ!!
今日は月曜日。
時間は朝の9時をすぎている。
場所は八代邸の離れ、リビング。
初老のロリコン、沖津さんはどこだったかに用があるとかで、祖父によろしくと僕に言伝を頼むと帰っていった。
ドラコニーは仏間で昼寝をしている。
離れのリビング、ここは八代家では生活空間の中心となっているので、八代家に住む人々は必然的にココに集まる事となる。
しかし、今の所ここにに居るのは僕とヴラドだけだ。
雲雀は、自室と祖父の部屋に行っている。
自室!そう、実は、この家には雲雀の部屋がある。
誰が作ったのかは知らないが、僕が気づいた時には既にあった。
掃除は僕の担当なので、そんなに汚れてはいないはず。
フラれてから暫くは入るのを躊躇ったけどね。
主にコスプレ衣装とか、小説やBL本……要は雲雀が自分の家に置けない物を置いてある。
更に驚いた事に祖父の書斎……というより魔窟に何があるのか、雲雀はある程度把握しているらしい。
掃除する気になれないので、ほったらかしの僕とは年季が違うようだ。
「必要な装備を発掘してくる」
とだけ言って魔窟へと旅立っていった。
お願いだから、キチンとした物を持ってきて下さい。
間違っても法律に引っかかるような物は見せないで下さい。
そんな物があるという事を僕に教えないで下さい。
伊織は、自分が使用する部屋にいる。
本来なら今からやることよりも先に、服や下着の替えを買っておくべきなんだろう。
だけど、僕達がラパ・ヌイに関する早期情報入手を望んでいる事を知って、服は後回しで良いと言ってくれたので、好意に甘える事にした。
当然買い物には付き合うつもり。
和服は当然として、黒のレースの下着にベビードール、スキニーやジーンズにキャミソール……デニムもあうなぁ。
いやいや意表をついて、白や青のワンピースはどうだろう?
むむむ。
でも、まずはセーラー服。
何が何でもセーラー服。
刀にはセーラー服。
譲る事の出来ない一線だ。
もちろん異論は認める。
着物だって巫女だってメイド服もトレンチコートもチャイナにウェディングドレス、正直スク水以外なら何でも合いそうな雰囲気だ。
閑話休題。
伊織は自室で武装整備をしている。
流石に武器を整備している最中は1人が良いらしい。
信用されていないのかと思ったんだけど、そうではなく気が散るからというのが本音らしい。
また様々な暗器を仕込んでいるんだろうな。
ちょっと楽しみ。
さて、今日は月曜日だから本来なら学校があった。
もちろん休んだ。
「(2日酔いで)気分が優れないので休みます」
と連絡済みだ。
今の今まで、ヴラドに数種類の魔法を圧縮封印[メモリー]してもらっていた僕だが、それから解放されて、右手にはリボルバーのモデルガンがある。
ヴラドに魔改造された一品だ。
どこがどう変わったのかは、今からレクチャーされるわけだが。
「実はのぅ、ラパ・ヌイでは銃器が使用できんのじゃ。
科学技術がそこまでの世界法則[リアリティ]ではないのじゃな」
「どういう事?」
「火薬という概念がないので、火薬が発火せぬ……といえば良いかの?」
「……酸化反応が起きないという事?」
「さての、正直妾にも判らん。
以前ラプラドルという異世界の事を話したと思うが、そこで火薬を使った兵器の事が研究されておってな。
戦争が始まってその兵器を戦線投入したら、ラパ・ヌイ本国に入った途端に使用できなくなっての。
そこでラパ・ヌイでは火薬の爆発は世界法則[リアリティ]によって存在否定されるというのが判ったのじゃ」
「うへぇ」
「こっちの火薬は作動せず、あっちからはファイヤーボ-ルの雨じゃ」
「やっぱり、戦闘は体現者[シュトゥルム]の人数で決まるの?」
「侵略側、特に序盤戦はそうじゃな。
どんなに有効な兵器、技、術法を持っておっても使えねば仕方あるまい?」
「……そうだね」
僕は、モデルガンをぎゅっと握る。
そう、僕は皆と違って体現者[シュトゥルム]じゃない。
はっきりと足手纏いだ。
肉体的ポテンシャルが高いわけではない。
優れた技術を持っているわけでもない。
魔法なんて妄想でしか使えない。
そんな弱い奴が飛びつく物が銃器だ。
銃さえあれば、僕でも少しは戦う事はできるだろう。
だが、ラパ・ヌイでは銃器は使えない。
「だから、ガス圧によるモデルガンって事?」
「いや違う。コレを見るのじゃ」
そう言ってヴラドはリビングの一角にある祖父の趣味の民族工芸品を手に取る。
それは、以前ヴラドが興味深げにいじっていた小さいトーテムポールだ。
大きさは高さ2m、直径20cm程で、外側の装飾が心棒から独立して削りだされており、くるくると廻す事ができる。
「そのトーテムポールがどうしたの?」
「これな、由来を知っておるかや?」
「うんにゃ。祖父に聞かないと判らないと思うよ」
「そうかや……まァ、良い。
では使用方法じゃが」
ヴラドはトーテムポールの上部の飾りを、くるくるっと1回転させる。
「?」
「何が起きたか、判るかや?」
「……」ふるふる
首を横に振る。
「では、説明しようかの」ふふん
そして再びトーテムポールの上部の飾りを、くるくるっと1回転。
「これはの、この飾りを1回転させる事により、魔力素をこの柱に集めさせる事が出来るのじゃっ!!」どや
「素晴らしいじゃろう!
この柱の内側には、術法の構造式らしき物が書かれておっての。
特定の方向に回す事で発動し、効果終了と共に発動待機状態へとループするのじゃ!」
「ふーん。そうなんだ」
「いや、魔力素を集めさせる事が出来るのじゃぞ?」
「うん。判った」
「えと、これは凄いのじゃぞ?」
「うん」
「この部分を1回、廻してじゃな、そうすると魔力素が集まっての……」
「うん、聞いたよ?」
「えと……」
「?」
「ううう」
「ど、どうしたの?ヴラド」
「この革命的新発見を誰かと共に分ち合いたかっただけじゃ……。
うう、地球の世界法則[リアリティ]に期待した、妾が愚かだったというのかや……」
「あー御免、言っている意味が全然判らないよ……。
取り合えず、今言っている事は革命的で新発見で凄い事なんだね?」
「うう、そうじゃ。
お主様の知識で言うとノーベル賞ものじゃ」
「そうなんだ、あー、御免」
「ううう」
「このトーテムポールに描かれた仕組みを解読しての、魔法の構造式に変換して作ったのがそのリボルバーじゃ」
「これ?」
「うむ」
僕は繁々とモデルガンを見る。
変わった所は無さそうなんだけど……。
「魔力素を収集する魔法の構造式本体はこのシリンダー部分に鋳込んであるのじゃ。
発動は先程も言った様に廻す事じゃ。
そうすると、自動的に回り続け、魔力素を収集し続ける様になる」
「うん」
「その後、お主様は妾が圧縮封印[メモリー]した魔法を使えば良いのじゃ」
こうして僕は魔改造されたリボルバー、コンストリクターアンフィニ・ヴラドSP……長いな。
そうだなぁ。コンストリクターVSPでいいや。
そのモデルガンのレクチャーを受けた。
そして判った事がある。
ヴラドのこの魔法の構造式は、ラパ・ヌイの元素転換機関[マナリアクター]の代わりをする事のできる物だという事だ。
ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]では、全ての物質は万物構成物質[マナ]から作られているのだという。
それが分子なのか陽子なのかは判らないが、物質の最小の単位として存在するのが、万物構成物質[マナ]という事だ。
ラプラドルよりもたらされた元素転換機関[マナリアクター]とは、色々な種類があるが究極的な役割として、万物構成物質[マナ]を取り入れ、内部で魔力素に変換する装置だ。
これは、一度、起動すれば術者の介添えが無くても魔力素を集め続ける事のできる優れ物だ。
まぁ、ぶっちゃけると元素転換機関[マナリアクター]は地球で言うエンジンに該当する物なんだろう。
要するに、ヴラドのこの魔法の構造式は、地球で言うエンジンを作り出したという事。
僕はリボルバーのシリンダー部分をクルクルと回転させる。
これだけで魔力素が溜まる。
凄いね。
でも、なんだろう……これ、どこかで……。
くるくる。
廻す。
くるくるくるくる
廻す廻す。
……。
あ、そうだ!!
これ、マニコロだ!
チベット仏教の摩尼車や、そのルーツの1つボン教で見られる転経器と呼ばれる仏具だ。
既定の方向に1回転廻すとお経一回分の徳があるという、ありがたーいおもちゃだ。
となると、あのトーテムポールはネイティブなアメリカンのじゃなくて、チベットの民族工芸品だろうか?
そう思って見ると、成る程、手に持つ形ではなく、柱として置いてあるマニ車と似ている。
回転部分にある動物もサンスクリット語を動物に見えるようにディフォルメした物だと思えば、見えないこともない、か。
まぁ、民族工芸品はいつか祖父に聞けばいいだろう。
コンストリクターVSPのシリンダー部分に魔力素が堪ってきたらしい。
見た目は変わっていないけど、何となくだが感じる。
上手く言葉に出来ない。
撃鉄を引く。
シリンダーの回転が止まる。
コッキングした状態では蒐集した魔力素を自由に使えるようになる。
もちろん自由に使用できるといっても、使用する為の能力、例えば魔法や特殊能力といった物は自前で用意しなければならない。
だから、残念ながら僕自身では魔力素を使用できない。
そこで
「魔法が使えないのなら、無理矢理にでも魔法を使える状態にしてしまうのじゃっ!!」
という荒っぽいヴラドの考えで、あらかじめコンストリクターVSP本体にヴラドが魔法で鋳込んでおいた構造式と、僕の身体に鋳込んだ特殊な魔法の構造式を合わせて、数種類の魔法を使用できる状態にする。
現在の僕の右腕には電子回路のような幾何学模様の刺青が描かれている。
これが、その特殊な魔法の構造式だ。
簡単に言うと、僕の肌そのものを魔法物品[マジックアイテム]化した者らしい。
これに僕の脳内に圧縮封印[メモリー]された専用の魔法を発動させると、この肌は魔法の設計図である構造式として活性化した状態になる。
これが活性化している15分間だけ、コンストリクターVSPを使用して僕は数種類の魔法が使える。
これら全て、ラプラドルの魔導学を魔法に応用した物らしい。
シリンダーに鋳込まれた、周辺の万物構成物質[マナ]から魔力素を生み出す変成魔法【ファーミングチャンバー】
僕の腕に鋳込まれた5種類の魔法の構造式を活性化させて、僕の任意でコンストリクターVSP本体に送り出す、圧縮封印[メモリー]された移送魔法【ハンマーコック】
僕から送られた魔法の構造式をシリンダーの魔力素を消費して魔力に転換、発動させる感知魔法【トリガーハッピー】
この3つの魔法があわさって初めて僕は魔法が使える。
「取り合えず、お主様。
そのモデルガンはなるべく人には触らせぬようにして欲しいのじゃ」
「判った。機密保持……だね?」
「そうじゃ。
特に魔法【ファーミングチャンバー】は、誰にも教えるつもりはないのじゃ」
「でも、ラパ・ヌイが侵略してきたら、いつかは気づくかもしれないよ?」
「その時はその時じゃな。
現状では……という事じゃよ」
「判った、死んでも渡さない……有難う、ヴラド」
僕はヒップホルスターにコンストリクターVSPをしまう。
「いや流石に死ぬぐらいなら、ソレを取引材料にして欲しいのじゃが……」
指貫グローブをはめながら、僕はヴラドに微笑む。
冗談だよという意味合いを込めて。
「ぷっ」
リビングに下りてきた雲雀が笑った。
「ナニソレ?ださい」
「う」
現在の僕の格好は、森林迷彩の服、ジャングルブーツに緑色の帽子、迷彩模様のバックパックに指貫グローブだ。
ちなみに黒いバンダナを巻こうとした瞬間だ。
「でも、コレは由緒正しい戦闘服だと……」
「そうじゃ、妾のコーディネイトじゃ!
カッコ悪いわけあるかや!」
「はぁぁぁぁ、銀髪ロリ……アンタか……」
雲雀はやおら走り出して離れから本宅、僕の部屋へ。
暫くすると戻ってきて。
「こっちのほうが良いに決まってるじゃない!!」
デニム生地の上下に、赤いTシャツ、赤いバンダナを出す。
唯一許されたのは、指貫グローブだ。
ヴラド、雲雀……五十歩百歩です。
そうこうしてる間に、いつの間にリビングに来ていたのか、伊織に黒いTシャツを渡された。
「着るの?」
「ん」
いそいそと着替える。
恥ずかしいので、部屋の隅で隠れて。
いや、見られたくないんだ、気味の悪い肌なんて。
お前の肌は醜くないと、ヴラドに言われた事は、とても嬉しいけど……。
でも、ソレはソレ、コレはコレ。
人前で着替える、肌を人目に晒すのが恥ずかしいのは仕方がないじゃない。
「これでどう?」
「ん」
ヴラドと伊織が舌戦を繰り広げているのを横目に見ながら、色々と着る。
革ジャンを渡される。
春だから、少し薄手の方がいいけど、着るだけなので物は試し。
革ジャンを着た。
後ろから伊織が首に赤いスカーフを巻く。
「なかなか良いのぅ」
雲雀との言い合いを途中で止めてヴラドが僕を見る。
「んー、一味足りない」
舌戦を中断して、唸る雲雀。
これ以上、僕に何を望んでいるんだ?
「ん、判っている」
しかし、伊織には通じたみたいだ。
伊織は雲雀に答えた後に、僕の後ろから頭に布をかぶせる。
「え?」
覆面だ。
黒い忍者用の。
「「かっこいい!!」」
雲雀とヴラドがハモった。
うん。
もう君達のセンスは信用しない。
幾らなんでもワルノリしすぎ。
僕はカーキ色のカーゴパンツとジャングルブーツ、黒のTシャツにジーンズというそれぞれの意見を取り入れた格好にした。
「「「ださい」」」
もういいよぅ。
リビングで少し話した後、ヴラドのアドバイスもあり伊織と雲雀の2人は再度、装備の点検をする事にした。
ヴラド自身も自分の装備の確認に行っている。
次は内蔵に集合との事なので、僕は戸締り、火元の確認を行ったら、準備は終了だ。
離れから内蔵へと移動する。
僕が一番乗りみたいだ。
いつきてもこの内蔵の蔵書量は圧巻だ。
天井まで高く高く積み上げられた棚に、所狭しと詰められた連載終了した物、大判や一定年齢に到達しないと読めない物、短編集。
これら全てが父の残した遺品、数々の漫画の単行本だ。
落ち着くなぁ。
僕の鼻孔を、古い本独特の匂いがくすぐる。
僕はこの匂いが大好きだ。
正体はカビらしいけど、気にしない。
ん?
あれ?
僕の視界に妙な物が映る。
床に落ちているソレを僕は拾い上げる。
なんだろう、これ?
黒い羽だ。
カラスかなぁ?
んー?こんな中にカラスはないだろう。
鳩……だろうな。
もしかして天井かどこかに侵入経路があるのかもしれない。
ふぅ、今度点検しないとな。
スズメバチの巣が出来ていたなんて勘弁して欲しいよ。
僕は、羽をゴミ箱に捨てる。
丁度雲雀と伊織がやってきた。
僕は、左腰に母の形見のサバイバルナイフ、ヒップにコンストリクターVSPを隠し持っている。
サバイバルナイフは、ただ単に離れのリビングの壁に飾ってあった刃渡り25cmほどの物だが、実は母の形見だと雲雀が由来を教えてくれるまで知りもしなかった。
そんな雲雀はメイド服だ……。
うむ、素敵だ。綺麗だ。美しい。
「メイド服というのはね、由緒正しい戦闘服なのよ!」
昔、僕にジーンズにデニム、赤いTシャツ、指貫グローブを勧めた時も言っていたよね、そんな事。
ついでに「男は徒手空拳で指貫グローブよっ!メリケン邪道ッ!!」って。
そしたら今日の第一声で「ださい」ですよ。
もうね。
雲雀は腰の後ろにマチェットという刃渡り50cm以上はある黒塗りの山刀を持ち、左右の腰にホルスター……
「って、どこからその拳銃持ってきたの?」
「これ?発掘品」
祖父の部屋からか……。
中の拳銃はワルサーP99、グレッグ17同様ポリマーフレーム製の大型の自動拳銃で、ガンアクションのあるアニメなら良く見かける拳銃だ。
「エアガンだよね?」
「それは、ひ・み・つ」
人差し指を唇に当て、芝居がかった口調で答える。
「それよりヴラえもん、ラパ・ヌイにドラゴンスレイヤーってない?」
「はぁ?なんじゃ、やぶからぼうに」
「うーんとね、剣というにはあまりにも大きすぎて、ぶ厚く、重く、そして大雑把過ぎて、正に鉄塊だったって感じの剣」
「探せばあるやも知れんがのぅ……。
何故、そんな武器が欲しいのじゃ?」
「メイドさんと大きな剣は切っても切れない武器なのよ。
同じくらいに2丁拳銃やスローイングナイフもね」
えーっと。
色々と混ざりすぎていて……まぁ、いいや。
伊織を見る。
伊織は艶やかな黒髪をポニーテールに結えている。
やはり、戦闘時には長い髪は邪魔なんだろうな。
むむ、髪の毛束ねて鞭の様に使うというのは、どうだろう?
「あまり意味がない」
僕の心を覗いていたのか、伊織が答える。
「そっか」
「ウィッグに接触性の毒を仕込むのは可」
「え?」
「ポニーテールは暗器を隠しておく為」
「あ、そうなんだ……」
再度、伊織を見る。
伊織の格好は、セーラー服と忍者刀だ。
うむ、素晴らしい。正に至高の美。
伊織の格好は、セーラー服と忍者刀だ。
大事な事なので2回いいまs
おや?
布製の手甲みたいな物をつけている。
黒い指貫グローブと一体化し下腕部外側を同じ材質の物が覆っている。
「これは何?」
伊織に聞く。
「これ?」
手甲を指差す伊織。
「うん」こくこく
「これはカーボンナノチューブ製の手甲」
こんこんと手甲を叩き
「それなりに硬い」
一言区切って、少し考えた後に
「……色々と仕込んでる。便利」
にやっと笑う。
ああ、そうか、眼鏡があるから、仕込んだ暗器の事をばらす訳にはいかないんだ。
「お主様、もう準備は良いのかや?」
ヴラドがこちらに来る。
自身も出発の準備は整ったらしくヴラドは、ここに来た時の衣装に戻っている。
一部を除いて。
目の洗い簡素な布服だったのが、いつの間にか僕の厚手のトレーナーに変わり、ズボンも、僕の愛用していた綿パンに変わっている。
その上から革の胸当てとケープを着込み、背中には背嚢と右手に短槍、左手に指を出した青銅の篭手をつけている。
背嚢の中には、色々とこちらで仕入れた新兵器?があるが、ライターだけはポケットに入れているみたいだ。
ヴラドの後ろからはドラコニーがついて来ている。
これで、全員揃った。
「もう一度確認するが、伊織と雲雀はその装備で良いのじゃな?
その……奇抜な服で」
「いいわよ?
後はラパ・ヌイでドラゴンスレイヤーを入手するだけで、御主人様をお守りする護衛メイドにランクアップ!」
「メイドの頂点であるアナザー・ワンじゃないんだ?」
メイド道をひた走る雲雀に質問する。
「ちっちっちっ、まずはC級からよ」
というか、色物メイド作品全部網羅するつもりか?
「……これしか服がない」
奇抜な服だけど雲雀と違って切実な理由の伊織。
「御免、伊織」
「気にしない」
「では、確認じゃ。
今回ラパ・ヌイへ赴く目的は敵情視察と情報収集じゃ」
「ん」
「オッケーよ」
「判った」
「まずは世界樹[ユグドラシル]の呪いについて実験を行うが、ポジションの確認じゃ。
実験は次元回廊[コレダー]内で、妾と伊織、雲雀が待機。
主様は地球側で待機してもらう……で良いかや?」
皆はそれぞれ相槌を打つ。
「取り合えずそれで何かあるのか様子を見る。
主様は、何かあったら困るので、ドラコニーの背に乗っていて欲しいのじゃ」
それから、暫く作戦説明を行う。
まぁ作戦と言っても、僕以外はラパ・ヌイの首都アレキサンドリアへと赴き、何が起こっているのか情報収集するだけなんだけども。
ちなみに、僕はお留守番。
ドラコニーや赤いスライムと一緒に異界門[ゲイト]を守るだけの簡単な仕事です。
ぐすん。
異界門[ゲイト]周りは地球の世界法則[リアリティ]が混ざっている可能性が高いので、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]の支配下に入らない為にも、あまり出歩くなという事らしいです。
「いや、出歩いても構わんが、周りは湖と森林……というよりジャングルなのじゃ。
遭難しないでくれると妾としては嬉しいし、何より助けを求めては殿方として示しがつかぬであろ?」
「あー、まぁねぇ」
「どっかと玉座にでも座っておけばよかろ」
「あるの?」
「上の階にの……
ん?言っておらなんだかや?」
「うん、全然」
「うむ?そうであったかのぅ……
異界門[ゲイト]の先は、妾の居城じゃ」
「居城?」
「え、お城なの?」
「トラップハウス……」
「あー、雲雀、御主勘違いしておるな。
イメージでは伊織が一番近いかのぅ」
トラップハウスですか……。
あ、何か伊織がげっそりとしている。
「見た目は廃墟じゃしの、冒険者どもに荒らされるのが嫌なのじゃ」
ああ、
穴があったら入りたい人達用か。
「でもそれなら、そのお城はヴラドの物って言えば良いじゃない?」
雲雀が問う
「それが、そうもいかなくての。
元々が、昔奪った浮遊城なのじゃ」
「かっぱらった物だから公に出来ないってワケ?」
「そういう事じゃ。
ただ別に妾が住むわけではないしの。
だから侵入者防止用の罠を張り巡らせてあるんじゃ」
「吸血鬼の持ち物としては、これ以上ぴったりな物はないわね。
悪魔城とでも名付けたら?」
「な、なんで、それを知っておるのじゃ!?」
「え?」
「は?」
「い、いやいやこほんこほんっ」
「うむ、名前は、主様の記憶の中にそっくりな城を見つけておってな。
ソレを新たにつけようと思っておるのじゃ」
「僕の?」
「うむ、浮遊城に世界樹[ユグドラシル]を植えて湖の真ん中に着水させただけの代物なんじゃが、これが大空の城ラピュタそっくりでのぅ」
ああ、何となくイメージできた。
確かに廃墟だ。
それも冒険者好みの。
ああ、そういう事か。
冒険者を引き付けて止まない難攻不落のデストラップダンジョン。
しかし、挑戦して帰ってきた者は居ない、悪魔の城……。
まさしく悪魔城。
そんな感じか。
「そろそろ出発」
伊織がボソリと口にする。
「そうだね、時間が勿体無い」
「そうじゃな。ではまずは世界樹[ユグドラシル]の呪いの実験からじゃな
どれだけの影響が出るのか、妾にも判らん。気をつけるのじゃ、お主様」
「判った」
「じゃ、御主人様、先に行って来るね!」
「いってらっしゃい」
「無理はダメ」
「ん、伊織も」
「……」こく
そして僕達は、分かれた。




