訪問者・カーディナル -その男、ロリコンにつき-
玄関に訪問者だ。
僕は急いで受話器を取って返答する。
「はい、八代ですが?」
インターホンを押して用件を言う様な訪問者は初めてだ。
どれだけ八代邸に人が来ないか判ると言う物だ。
まずこの近くの住人ではない。
「失礼ですが、どの様な御用件でしょうか?」
新聞、地域住民、訪問販売お断り。
TV関係者、キリスト関係者は絶対に嫌だ。
「その声は、時雨君ですか?」
ん?
用件を言わずに、こちらの事情を窺おうと言うのか?
怪しいなぁ。
いや、だけど僕の名前を知っている。
誰かの知り合いか?
……いやいや、それこそ思うツボ。
表札とか調べれば直に判る話さ。
「はい、僕の名前は八代時雨と言います。
失礼ですが、どなたでしょうか?」
「はい。私、ヴァチカンの方から来ました」
「は?」
今なんて言った?
バチカン……?
いや、まさか。
聴き間違いだろう。
じゃあ……。
「THE・痴漢の方から?」
「いえ、ヴァチカンです」
そうか。
読めたぞ。
だとしたら、良くある手口さ。
NTTの方から~、消防署~、銀行~、エトセトラ。
押し売りなどでよく使われる古い手だ。
「宗教や押売りは間に合っていますので」
切r
「あー、待って下さい、待って下さい。
勧誘ではありません」
「……そうですか」
僕の知る限り、初めての訪問者が、こんな宗教関係者だとは……本当についてない。
しかも、よりにもよってキリスト教関係者。
「えぇと失礼ですが、バチカンの方がどのような御用で?」
バチカンといえば、悪逆非道の限りを尽くす唯一神の系譜に連なる悪の総本山じゃないか。
「すいません。要らぬ警戒心を抱かせてしまった様ですね」
む。
……用件は言わないつもりか。
「私の名前は沖津 文郎と言います」
聞いてません。
「それで?」怒
まずっ。
ちょっとイラついているのが、態度にまで出てしまった。
気持ちをニュートラルにしておかないと……。
この手の奴らは、人の神経を逆撫でして揚げ足取りをしてくるのが常套手段だ。
これは敵の攻撃だ。
そして焦らすのは、敵の攻撃技巧の1つだ。
「はい、用件と言うのh」
「すいません。
こちらも今取り込んでまして、後日と言う事でお引き取りください。
申し訳ありません、では」
ガチャ
一方的に切る。
ふぅ。
戦いはいつもむなしい。
だが、この手の敵と相対した時は、玄関まで出た時点で、僕は負ける。
敗北してしまう。
奴らの口の巧みさには、僕如きが太刀打ちできるわけがない。
取れる手段はただ1つ。
後回しだ。
受話器を置いて、鉄板焼きに戻る。
「どうしたの~、ご主人様ぁ~」
雲雀が、しな垂れかかって来る。
左腕をとられた。
「あ、うん。敵が来た」
「敵?」
「敵じゃとっ!?」がたっ
「……ん」かちゃ
ヴラドと伊織が立ち上がる。
「あ、大丈夫、大丈夫。そっちじゃないから。
安らぎの時間を邪魔する、訪問販売か宗教勧誘のどっちかだから気にしないで」
「なんじゃ、ラパ・ヌイかと思ったではないかや」
「……訪問販売?」
伊織が興味深そうに聞いてくる。
「訪問販売って言うのはね……」
伊織に説明をしようとするが、その前に食材を追加する。
ドラコニーと雲雀と伊織が良く食べるので、結局、僕は焼く係となってしまっているのだ。
ん?
ドラコニー?
「あれ?ヴラド、ドラコニーは?」
「ごっめぇ~ん。
ヤシロが敵って言うから、殲滅頼んじゃった。
テヘペロ」
ヴラドの代わりに何故か伊織が答える。
え?
「うぉいっ!御主、妾の従属魔を勝手に使うでないっ!
というか、何をした!?
どうやって手なづけたのじゃ!?」
……。
殲滅?
がたっ
流石にまずいと思って、立ち上がって追いかけようとする。
しかし、全てが遅すぎた。
「ぎゃあぁぁぁぁーーっ!!」
夕闇に暮れる村中に響き渡る、男の断末魔。
「うわあああぁぁぁっ、やばい、まずいっ」
「ふむ、殺したらまずかったのかや?」
「と、当然でしょーがっ!」
「でも、敵なんでしょ?じゃあ、いーじゃない。
あれだけヤシロが憎んでるんだから、死んで当然」
「……」
こくこくと頷く伊織。
憎んでる?
「心の中が荒れ狂ってたよ?珍しく」
「やさしいのは結構じゃがの。
敵は殺れる時に殺っておかぬと、死ぬのは自分の方じゃぞ?」
う、そりゃ、そうだけど。
今回の場合は……えと……
「大丈夫だよ。ヤシロ。
殺したのはドラコニーなんだから、私達じゃないし」
ケタケタを笑う雲雀。
一応、それも殺人罪になるはずだからね?
酒癖悪いなぁ、もぉ。
「それが問題じゃ。
雲雀、御主、どうやって手なづけたのじゃ?
曲がりなりにも従属魔じゃ。
妾以外の命令を聞くのですらおかしいのに、ましてや……」
「あの、みんな、そんな事よりも……」
割り込んで話しかける。
「ん?どうしたのじゃ?お主様」
「どったの?御主人様」
「殺すのはまずいので、こっちに連れてきてくれない?
ま、前に言ったじゃないか」
「?」
「加害者になるには、まず被害者にならないと世間では、その行為を認めてくれないって!」
コダヤ人然り、特定アジア人然り、米国9.11事件、太平洋戦争、枚挙に暇がない。
「ふむ、確かにそうじゃったな」
「……事件捏造。
仏間破壊の犯人にする」
「わぁお、それ、ナイスアイディ~ア♪」
壊した張本人達が、黒い相談をし始めた。
っと、そんな事より、今は起こった事に対処しないと。
「ヴラド、蘇生の魔法か呪術をお願い」
「まだ、ドラコニーが死体をこちらに搬送中じゃ。
まぁ、相手に恩を売って置くのも悪くはなかろぅがの」
「あ、うん……」
「それよりも、お主様も気楽に言うのぅ。
死亡の回復……出来ぬ事はないが、蘇生の魔法は構築時に、時間の逆行を使っているので、難易度が高くなるのじゃ」
「そうなの?」
「時間が経過しすぎても、失敗の確率は高まるのぅ。
魔法を、万能じゃからといってアテにしすぎると手痛い目にあうぞえ」
「でも、今なら別に死にたてのほやほや……」
「あ、そっちの事は良いんじゃ」
「?」
「今後の話じゃ。
妾は、お主様を置いていくつもりだったのじゃ。
体現者[シュトゥルム]でない限り、魔法の使えない者にラパ・ヌイは厳しい」
「でも……」
「呪いが発動するのであれば、仕方あるまい。
ラパ・ヌイに行くのは決定じゃが、その時に、生き汚くなっていてらわねばならぬ。
死んだら蘇生すれば良いという考えは捨てるべきじゃ」
「……」
「何よりも、お主様が死なぬように努力するのが肝心じゃ。
生きる為ならば、床に這いつくばって、ゴキブリの様に悪し様に笑われても罵られても耐えよ」
魔法が使えないだけで、そこまで厳しいのか……。
ゴクリ。
咽喉がなる。
「わ、判った……」
「ラパ・ヌイに行く?」
伊織が聞いてくる。
「うむ、奴らが侵攻してくる前に、先手を打っておきたいのでな」
「でも花見……」
「うむ、本来なら今日ぐらいには、侵略してくるはずなんじゃがのぅ……
昨日の段階で影も形も無かったどころか、侵略の気配すらない。
向こうで、何か起こっていると考える方が妥当じゃな。
じゃから、この後、向こうに偵察に行くつもりじゃ」
「それは、私達もって事だよね?」
伊織が入ってくる。
「そうなるの。
思ったより厄介な呪法じゃ」
「……別に構わない」
伊織の口の端が少し笑っている。
「御主人様が行くんなら、当然、有能なメイドは着いて行きますよ?」
ムンと胸を張ると、たわわに実った果実が揺れる。
暫くすると首をダランとした死体を加えて、ドラコニーが帰ってくる。
「一応、死んだ段階で、死体保存用の魔法【エンバーミング】をドラコニーに使わせておいた。
記憶障害は発生しておらんはずじゃ」
そうですか。
ゴロンと死体が転がされる。
咽喉が噛み千切られ、ダランとしている。
僕のいる位置からは顔は見えない。
何だろう、
とっても異常な状態なのに、死体が目の前に転がっているのに……。
僕達は焼肉を食べている。
のどかに。
笑顔で。
団欒している。
とってもシュール。
のそっ
ドラコニーが僕の近くに来ると、左肩に頭を乗せる。
ふんっふっ、と鼻息荒く僕に肉を催促してくる。
一仕事終えたから、報酬の催促ですね?判ります。
僕は、焼けたばかりの雲雀の秘伝ダレにつけたヒレ肉を与える。
「はい、あ~ん」
ドラコニーは、男の鮮血にまみれた口で、鉄錆の臭いを撒き散らしながら、肉を頬張る。
猫科なのに猫舌じゃないんだ?
ドネルケバブの時もそうだったけど、旨そうに食べている。
というか、正確に言うと、ヴラドとの感覚共有から、ドラコニーが旨そうに食べているのが判る。
むむ、あれか、自分と他人の感覚の垣根が薄まってくる……これが自我崩壊の第一歩か?
さて、そんな状況です。
異分子1つ。
そう、死体が目の前にあるのに……。
何だろう。
何とも思っていない。
そう、別に何とも思っていないんだ。
本来なら、ココは大慌てで「死体が~」「殺人が~」「どうしよう」となっているはずなんだ。
少なくとも僕の記憶では“そうすべきである”となっている。
ヴラドや伊織は元々の世界法則[リアリティ]が違うから、慌てていないのは仕方ない。
だけど雲雀は地球出身、僕と同じ世界法則[リアリティ]だ。
なのに顔色1つ変えずに、サザエのつぼ焼きを食べている。
そうだ、雲雀は人を殺す事に躊躇いがない。
水曜日の時もそうだ。
雲雀は新田に躊躇無く拳銃を撃っていた。
(何を悩んでいるのよ、御主人様?)
んー。
実は何故、人が死んだのに僕と雲雀は冷静なのかって……ね。
それとも、今の状態が異常だと思っている僕がおかしいのか?
「ど~なんだろうねぇ」
少し顔の赤い雲雀は、遠くを見ながら答える。
「私と御主人様は違う理由だと思うけど?
私は人間を止めちゃったから、別に何とも思わなくなっただけだもん」
……。
えーと……?
そうだ、きっと僕がおかしいんだ。
駅前の大惨事といい、ドネルケバブの店員さんを僕は殺害している。
あの時は、何とも思っていなかったじゃないか。
今、ここで人が死んだ。
実際、ここで殺したらダメだといっている事すら、ポーズだ。
実は何とも思っていない。
感情が動かないと言うか、その部分の心の動きがバッサリと切り取られた様な……。
「お主様?
思索にふけるのも良いがのぅ。
今は、この男をどうにかするんではなかったかの?」
「あ、そうだった」
(あーっ、銀髪ロリが御主人様との愛の語らいを邪魔したぁ)
「五月蝿いのぅ」
「むきー!五月蝿いって言うな!!」
「考えるのも結構じゃが、先にお主様の悩みの正体を告げておくぞぇ。
悩んでも仕方ない事というのは往々にしてあるのでな」
「?」
「それがラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]じゃ」
――!!
しゅーーりょーーーっ!!
僕の悩みは解決しました。
世界法則[リアリティ]じゃ、しょうがないよね。
体現者[シュトゥルム]ならぬこの身じゃ、手の出しようがない。
3人がうらやましいです。
「もう、ここまで影響が出ている?」
意外そうな顔で伊織がヴラドに聞く。
「そうなるのぅ。
こちらの異界門[ゲイト]を破壊したのがまずかった様じゃ。
ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]が駄々漏れでの。
まぁ、その内に地球の世界法則[リアリティ]が押し返すじゃろ」
悩みも解決したし、僕は男を観察する。
ヴァチカンから来たと言う男はスーツ姿だった。
髪は白髪で、口元にも白髭を蓄えている。
初老の紳士と言う風体だ。
どうにもキリスト教関係の人には見えない。
ん?
何だ?
どこかであった事があるぞ?
誰だっけ?
(ん、覚えておらんのかや?)
誰だっけ?
「ほら、金曜日のデートの時の話じゃ」
「やっぱりデートしてたっ!!」
「デート……」
雲雀と伊織の2人が変な所で食いついた。
「そのデートで、妾に色目を使っておった初老の男が居たじゃろう」
……。
あ。
「アーっ!!そうだ、思い出したっ!!
ヴラドに、ちょっかいかけていたロリコンだっ!!」
よし殺そう。
もう死んでる。
「あれ?」
雲雀がちょっと考え込む。
「この人……えぇと」
「知り合いなの?名前は……
確か、沖津文郎って言っていたけど」
「ああ、うん、そう、思い出した。
多分この人、秋霖さんのお客さんだよ。
ヴァチカンからってのも間違ってないと思うよ。
確か、この近くの教会の偉い人だったはず」
「へぇ」
死体を見る。
祖父の知り合いらしい。
もしかしたら、地球の守護者[ガーディアン]とか八代家の事を知っているかも……
どうしたものか。
「まぁ、取り合えず死体遺棄は無しの方向で。
ヴラド、蘇生をお願いしてもいい?」
「仕方あるまいの」
「待ってました、ヴらえも~ん」
茶化す雲雀。
「雲雀」
取り合えず窘めておく。
「むー。フンだ」
「何ですねるかなぁ……」
「だって、ヴラド、ヴラドって」
「ふふん、信頼の証じゃな」
「時雨」
伊織が話しかけてくる。
「うん、なに?」
「血痕を消すべき」
「あ、そうか」
でも、どうやって?
……水をまくか。
どうやら完全な生命停止状態から蘇生するには、ヴラドも幾つかの手順が必要な様だった。
時間が欲しいとの事だったので、腹ごなしがてら僕と雲雀、伊織は、血痕を落とす作業を行う事にした。
あれほどの悲鳴だったのに、誰もこの家の様子を窺おうとする者は居なかったらしい。
さすが村八分だ。
今はそれがありがたい。
夕闇の中、アスファルトに点々とついた血痕を洗い落としていると、ヴラドから蘇生完了の合図があった。
僕達は、花見の二次会を始める事にした。
でもその前に。
「申し訳ありませんでした」
誠意をもって謝罪。
今回の事で判った事は、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]では、人の命を取るという事に、殆ど罪悪感を感じないと言う事だ。
正確には“魔法を使えない人には、人としての価値はない”という事。
殺人ダメ、絶対。
という価値観の地球とは大きく異なる。
充分、気をつけよう。
「あはは、良いんですよ、時雨君。
仕方ありません」
初老のロリコン、沖津 文郎と名乗った人物は、笑いながらヴラドの隣に腰をおろす。
むか。
近い、近いよ。
手と手が触れ合うほどの距離だ。
「それに、そのおかげで八代家の秘庭に入れて貰える事が出来たんですから、コレは怪我の功名という物でしょう」
え?
八代家の秘庭?
話の内容からすると、ココの事だよな。
その目が、ヴラドの抱える純米大吟醸へと向かう。
「お、これは確か、夕立さんが愛飲していたお酒ですね?
一度飲ませて頂きましたが、すっきりとして善い味ですねぇ」
紙コップを持って、ヴラドに差し出す。
注いで、という事なのだろう。
「まずは、かけつけ1杯って……
相変わらずの腐れ坊主っぷりね~」
「あはは、雲雀さんも相変わらず厳しいですねぇ」
あれぇ?
駆けつけ3杯じゃなかったっけ?
まぁ、いいや。
「お、大アサリですか……旨いっ」
食べ始めている。
居座る気満々だ。
「普段、質素な物を食べていると、こういったお祭りみたいな時に食べる物が、おいしくておいしくて、つい食べ過ぎてしまうんですよ。
信徒としては、自制しないといけないんですが、まぁ郷に入りては郷に従えと言う事で……」
「あ~、ソレ判る、焼肉うめぇっ」ごくごく
「お、雲雀さんもいけますねぇ」
「ふむ、確かにのぅ。
こんな旨い物はラパ・ヌイでは食べる事なぞできん。
もう、魔法味はこりごりじゃ……」
食欲旺盛なヴラドは何処に入るのか不思議なぐらい生に近い肉を食べている。
「……」がつがつ、むしゃむしゃ。
ヴラドの隣で、一心不乱に食べる伊織。
「がう」
僕によこせと催促するドラコニー。
「おいしいですねぇ」
遠い眼をして肉を頬張る初老の男。
食べる人が1人増えました。
うう。
僕は肉と野菜と海産物を投入する。
1人増えても大丈夫な食材の量を驚くべきだろうか?
っていうか、用件ってなんだよ、ロリコンの腐れ坊主。
じろっと睨む。
「おや、どうしました、時雨君?」
「いや、何でもありませんよ?」
むむぅ。
殺してしまった手前、流石に強気に出るわけにはいかない。
仕方ない。
何事も楽しまないと。
僕は、沖津さんに雲雀、伊織、ヴラド、ついでに自分自身を紹介する。
「これは、ご親切に。あ、私、こういう者です」
沖津さんは名刺を配るが、ソレを見た伊織が、一瞬、びくっと身構えた。
「?」
心を覗いたら、皇國代理天の暗器で、名刺型の手裏剣があるらしい。
その概念、地球にもあるよ。
怪盗モノで良く使われているよね。
名刺を見る。
沖津文郎、職業はフリーのジャーナリストらしい……
あれ?
「バチカンは?」
「あ、それ、秘密です」
「え?」
「元々、ニューエルサレムの動向を探る為に、この地に潜伏しているんですよ」
「え、そうだったの?」
雲雀が驚いている。
「ええ、そうなんですよ。
地球にとって異世界の未知の力は警戒しておいて損はありません」
「な~んだ。
私、てっきり司祭やって若い子食べちゃうぜぇってのかと思っていた。
確か、教区って近くに小学校あったよね?」
「ロリコンは不治の病」と伊織。
「はっはっはっ、違いますよ。
子供が好きなんです」
「がう」
横から賛成の声。
「お、あなたも判りますか?」
「がう」
何故か、意思疎通もバッチリ。
「確かに、そやつは子牛などの魔法肉は良く喰らうが……肉が柔らかいしのぅ」
「そうなんですよ、あのプニプニ感、すべすべな肌、たまりませんね。
正に子供は世界の宝ですよ」
ダメダコイツハヤクナントカシナイト。
「でも、何でローマ法王が警戒なんかするの?
侵略者って言っても、たかがカルト宗教でしょ?」
「お、其処に喰らいつきましたか。
実は預言があったんですよ。終末の」
「予言?」
またオカルトめいた事を……。
あれ?
そういえば雲雀は、ニューエルサレムが異世界からの侵略者っていつ知ったんだろう?
「ニューエルサレムは、ココの政府と裏取引していているはず……」
伊織がぼそっとつぶやく。
流石に慣れていない人の前では恥ずかしいのか、食事は控え始めた様だ。
「良く知ってますねぇ。ええ、その通りです。
日本政府とは、不可侵条約を結んでいます」
ん?
「あ、そうか。
日本政府とだけ、だからか」
「そうです、それに加えて、終末預言……
何も起こらないというのが嘘と言う物です」
「はぁ……前者は判りますが、後者はその、胡散臭い話で信用に足るとは思えませんが……?」
僕の素朴な疑問。
「あはは、預言を舐めちゃあいけませんよ?時雨君。
ヴァチカンにも情報や諜報を担当する部署は存在します。
それで世界中から送られてくる幾つかの預言は、キチンと状況の真偽確認をした後で、解析に務めているんです」
「そうなんですか?」
「はい。
そもそも黙示録が預言そのものじゃないですか」
「あ、そういえば」
「で、まぁ非公開文書の終末預言に、ニューエルサレムではないかという物がありまして……」
「それで、ここ来たんですか……失礼ですが、実は左遷とか?」
少し突っ込んだ話をしてみる。
だって、どう考えても予言1つでって……。
いや、ロリコンだからか。
とてもじゃないけど聖職者には見えん。
「……聖職者の生殖」くすくす
伊織が1人笑っている。
「左遷って」
流石に初老のロリコンも絶句している。
「あはは、でも沖津さんって、左遷するほど偉く無さそう~」
雲雀も割りとズケズケ言うなぁ。
友達に近い知り合いなんだろうか?
「これでも、ヴァチカンに帰ると枢機卿[カーディナル]という身分なんですよ。
誰にも、信じてもらえませんが……」
「え?嘘?枢機卿[カーディナル]なの?」
驚く雲雀。
「その称号って何?」
「あれ?御主人様、知らないんですかぁ?」にま
うう、その通りです。
僕にキリスト教は鬼門です。
知りたくもない。
「ふふん、それでは……」コホン
「?」
「説明しようっ!!」
「あ、結構です」
心を覗き見る。
枢機卿[カーディナル]というのは、簡単に言うとカトリック教会においての位階の1つで、法王に次ぐ高位聖職者。
法王が各国の司教位から自由に任命でき、法王が死去した場合の次の法王選挙権を有する。
「へぇ~凄いなぁ……」
「あ?……あーっ!!
覗いたっ!さては今、覗いたわね!!ヤシロッ!!」
「うんにゃ?そんな事ないよ」
「覗いたッ!スケベッ!」
じゃれあう。
「質問」
伊織が初老のロリコンに手を上げ質問している。
「予言とは、状況証拠から見た的中率の高い未来の推測?」
皇國代理天の世界法則[リアリティ]では、予言が存在否定されるから、伊織は予言がどのような物か判らないみたいだ。
ただ、地球の世界法則[リアリティ]も入手しているはずなので、聞けば理解はできるんだろう。
「いえ、根本から違います」
初老のロリコンは口調を改め、律儀に答える。
「預言とは、主が私達に下された御言葉なのです。
ですので、未来予知である必要はありません」
「?」
「ですが、多くの場合、未来に対する警告が含まれています。
私達はそれを真摯に受け止め、実行しなければなりません」
「……余計に判らない」
「予言ってのは、でっちあげた未来予想よ!
当たれば大儲け、外れれば人間の努力で回避した!」
雲雀が助け舟を出す。
「ああ、そういう事か。納得した。
未来に対する不安を掻き立て、こちらに有利な商品を買わせる心理状態に持っていく……」
それ違う。
「群集心理を使った集団統率術の1つ。
資本をあまり必要としない商業戦略だ。
それを研究、解析……」
伊織は尊敬の目で、初老のロリコンを見ている。
違う。
伊織、君は騙されているよぉ。
「……ま、まぁ、そう取ってもらっても構いませんよ」
苦笑しながら、初老のロリコンは答える。
「実際に、そういった商法はありますからね。
終末予言なんてゴロゴロ道端に転がっているんです。
犬も歩けば、終末予言に当たります。
マヤ暦、ノストラダムスとその研究者達、オメガ心理教、ピラミッド終末論、聖徳太子の未来記、エドガーさん的超能力、その他の超能力や天文学的に見て~な人々、グランドクロス最強論、変り種にアドルフ・ヒトラーですね」
「えーと、そんなにあるんですか?」
「もっとありますよ。
今のは、教会に関する物を省きましたので」
「アドルフ・ヒトラーって、WW2のですよね?
オカルトにハマっていたと言う話は良く聞くけど……」
「ヒトラーの終末予言というのは、他のとは毛色が少し違うんですよ」
「?」
「厳密には終末予言というよりも未来予想図ですね。
彼が超人思想に傾倒していた事はあまり知られていませんが、その様な事に関する台詞を方々に残しています」
「超人……新人類[ニュータイプ]ですか?ガソダムの」
「そんな物です。
彼の論によると人類は、支配者と被支配者に二極化するそうです。
この二極化の中で今の人類は滅亡し、2種類の新人類が誕生するというのが、話の骨子でして」
あー。
そういう事ね。
現生人類が進化して、旧人類になってしまう=現生人類の終末っていう……。
でも……
「2種類?」
「はい。被支配者層は、ただ操られて働いたり楽しんだりするだけの受動的な人間で、ロボットの様な人間に進化するという話ですね」
「あれ?」
突如、雲雀が声を出す。
「それって、どこかで聞いたなぁ……」
「そうですか?
オカルト好きな御友人でも?」
「んー?」
「それで、もう片方、支配者層の進化ですが、支配者層から超人[ユ-ベルメンヒュ]が誕生し、人類全てを導きます。
更に、その超z」
「あー!それ!」
雲雀がまた声をあげて話の腰をおる。
「「?」」
「超人[ユ-ベルメンヒュ]って、あれでしょ。
教団の授業で習った……!」
「――!!」
「え?教団」
何でニュ-エルサレム教団が?
飛びついたのは、初老のロリコン。
「もしかして、話の続きはこんな感じですか?
超人[ユ-ベルメンヒュ]の中から、神に近い生物に進化する者が現れる。
それが……」
「「神人[ゴッドメンヒュ]」」
2人がハモる。
「ふむ、面白いのぅ」
今まで黙って牛刺しを食べていたヴラドが笑う。
「のぅ、お主様」
「ん?」
「単純な話じゃよ。
言葉というのは、場所が変われば意味も変わる。
ただそれだけじゃが、その逆も真なり」
「?」
「雲雀、御主は超人[ユ-ベルメンヒュ]だと言われておるじゃろ?」
「あれ、良く判ったわね。
……というか学園内の人は、殆どが超人[ユ-ベルメンヒュ]認定された人だよ?」
「ふむ、では神人[ゴッドメンヒュ]に進化した者は誰ぞ、おるのかや?」
「それなら、メンヒ達がいつも言ってるよ。
永世教皇のパパ・アドルフこそが神人[ゴッドメンヒュ]だって」
「ふふ、なるほど……の」
「あによ?」
(お主様、ただ単に使っている言葉が違うだけじゃ。
超人[ユ-ベルメンヒュ]→体現者[ユ-ベルメンヒュ]、
神人[ゴッドメンヒュ]→不滅存在[ゴッドメンヒュ]とすれば判りやすいかの?)
あ、そういう事かぁ。
て言う事は……
ニューエルサレムの不滅存在[イモータル]は永世教皇アドルフって事?
「そういう事じゃな」
「ちょ、何がそういう事よ、ちゃんと説明……って……。
あー!!心話してたな、今、ズルイッ!!」
「悔しければ、御主もやるがよかろ?」
(ヘローヘロー、ヤシロ聞こえるぅ?こちらは、ひばr)
(同じ意味の言葉。体現者[ビジネスマン]はある……
不滅存在[イモータル]にあたる言葉が見当らない)
伊織がログインしました。
(ふむ。ならばその存在を秘密にしておるのじゃろぅな)
「永世教皇アドルフ……いや、まさか」
初老のロリコンが、う~んと唸っている。
「どうしました?」
「いえ、ニューエルサレムの筆頭の方は、ヘルマン大司祭だと思っていましたので……」
「あ、学園の校長はそうだよ」
僕をムスッと睨みながら雲雀は答える。
「では……?」
「うん、本国で一番偉い人は教皇様だって」
「いや、これは思わぬ収穫でした……」
汗を拭きつつ初老のロリコンは答える。
「どういう事よ?」
雲雀は、ちょっと不服そうだ。
そりゃ周りが何か深刻そうにしているのに自分だけ判らないってのは、嫌な感じかもね。
かいつまんで説明する。
僕がヴラドより聞いた事、体現者[シュトゥルム]と不滅存在[イモータル]の関係、そして異世界侵略の話。
次元回廊[コレダー]と異界門[ゲイト]の役割、そして……世界法則[リアリティ]の関係。
「その話は本当なのですか……?」
驚いているのは、初老のロリコンだけではなかった。
伊織も雲雀も驚いている。
それはそうだろう、異世界の侵略方法なんて、どこの世界でもトップシークレットだろうし、全てを関連付けて、考えた事なんてないだろうから。
「仮説じゃ、妾のな」
「しかし仮説でも、それは地球防衛の為の足がかりともなれます」
「地球防衛ですめば良いのじゃがな……?」
「それは……?」
「侵略方法も判ったって事。
これで、地球も異世界侵略が出来るってね……」
僕が答える。
「そういう事じゃな。
ふふふ、許される加害者になるには一度、被害者にならねばならぬ。
これは、もしかして地球の世界法則[リアリティ]かや?」
「それは、多分……違う」
何故か、伊織が答える。
「突き詰めれば、それは復讐の法則……
だけど、被害を他に拡散するから、意味がない。
それでは、全てが不幸になるだけ。
そんな世界法則[リアリティ]は、ココには似合わない……」
僕を見ながら伊織は答える。
「まぁ、そうじゃな」
少し微笑んでヴラドも答える。
「その考え方って歪ねぇ。
よほど、嫌な事ばっかりあったのね?
人間不信よ、それ」
ダメだし喰らいました。雲雀に。
話し込んでいた為か、いくつかの食材が焦げていた。
僕は、それを別の皿に別けると、新しく食材を追加する。
「女狐にニューエルサレムは侵略者だとは聞いていたけど……
そういったカラクリで異世界侵略ができたんだねぇ」へーへー
……へーへーへー「20へぇ」
「不滅存在[イモータル]ですか……」
初老のロリコンはヴラドに熱い視線を送っている。
「なんじゃ?」
「いえ、まさに貴女こそ不滅存在[イモータル]に相応しい。
いや、全世界の子供こそがッ」
「いや、最悪じゃろ。それ」
「子供は嫌。働けない」
「なに、その子供だけの国……最悪よ?」
「あははは、私は子供が嫌いだーッ♪」
僕は雲雀を揶揄する。
「がう」
判ってねぇなぁ、という顔をドラコニーにされた。
「でも、ニューエルサレムが侵略するとして、どうやって地球侵略するんだろうね?
今の所、授業内容は特殊工作兵ぐらいしか作れないと思うけど?」と雲雀。
「充分じゃん」
「あ、それならだいたい見当はつきますよ」
初老のロリコンが答える。
「ココまでヒントを得られましたので、だいたいは。
ヒトラーの予言を調査してみる必要が出てきました」
「そうなの?」
「ええ、有難うございます。
雲雀さんに、ヴラドさん、伊織さんに時雨君」
「がう」
「ああ、君もだよ。同士よ」
「がう」
「さすが地球の守護者[ガーディアン]ですね」
よっこらしょっと、と初老のロリコンは立ち上がる。
あ、そろそろ帰るのかな?
じゃあ……。
僕も立ち上がり、見送りの準備をしようとするが。
「次、この野菜入れますね?
ネギをただ焼いただけなのにおいしいですねぇ。
甘みがじわっと出てきていて……」
僕の近くの大皿を取ると、鉄板に入れ始める。
居座る気満々だ。
「ところで、御主、用件とはなんなのじゃ?」
「あ、そうでした。
秋霖さんは御在宅ではありませんか……?
実は連絡が取れなくなっているんですよ」
それだけかい!




