彼女(病み)×彼女(追跡者)×彼女(♂の娘)
iPodで“真っ赤な誓い”視聴後のヴラドの第一声。
「こ、こ、こ、この、大うつけぇーっ!!」
「ぶげっ」
ついでに殴られた。
「お、お、お主様は、何と言う事を……」
「どうどう」
「落ち着きなさいよ、銀髪ロリ」
間に入ってくれる伊織と雲雀。
「まず何がどうなっているのか説明して?
事と次第によっては殴るの手伝うから」
雲雀は裏切る気満々だ。
「……適格な情報収集は、何ものにも勝る」
伊織の言うとおりです。
正論過ぎて涙出てきた。
「少し待つのじゃ。
いくつか確かめてから説明しようぞ」
「違う違う、そこは“説明しよう!”とか“説明ッ!!”で」
雲雀の教唆が始まった。
「何を言っておるのか判らんのじゃ……」
先程までヴラドがiPodで聞いていた “真っ赤な誓い”というのは、武装年金というアニメーションの主題歌だ。
昨今はタイアップでアニメの主題と関係ない主題歌が多いが、この歌はアニメ監督からの依頼で作成されたものだ。
歌の方向性と王道少年冒険物っぽい曲調ががっちりと僕の心を鷲掴みにした一品である。
まぁ、雲雀が「これ聞いて感動しろ」と言ったから聞いてハマっただけなんですが。
その歌を、突撃の際に思っていたのが、どうも問題となったらしい。
良くあるじゃない。
脳内で音楽が鳴り響く時って。
それですよ。
で、何が問題だったかというと、その歌詞だそうで。
ヴラド曰く、呪術という物は、根本的には願望達成装置なんだそうです。
どんなに理論をこねて法則を探り出し、規定に従った呪術を使用したとしても、強すぎる願いと言うのはそれだけで呪術を崩してしまうんだとか(この場合の規定法則に従った呪術というのが、ヴラドの言う呪法と言うものらしい)
“雨を止める為に軒先に白い紙や布で人型を作りつるしておく=てるてる坊主”が呪術。
そこから法則性を見つけ出す。
逆さに吊るすと、雨になる。
色は白で無いといけない。
“雨を止める為に、白くて顔の無いフィギュアを軒先に正立して吊るす=てるてる坊主?”が呪法。
願っている事は一緒なので、どちらも願いが叶う確立は一緒らしい。
ところが、その隣で雨降りを願う男が、倒立したてるてる坊主に、狂気の思いで「びっくりするほどユートピア!」と叫んで雨乞いをした。
これは、倒立したてるてる坊主以外は、呪術的には何の関連性も無い。
ところが雨が降った。
強く願った想いに反応した為だとヴラドは言う。
ここら辺が、呪と魔の違う点らしい。
魔術と言うのは、根源的にイメージ具現化能力だそうだ。
僕なんかは、イメージの具現化も一種の願望という気もするが、ヴラドの中では明確な線引きがなされているみたい。
呪の起点は願望。魔の起点はイメージ。
もしかしたら地球の世界法則[リアリティ]じゃ、理解できない話なのかも。
「ん~、例えばじゃな。
呪法【~の誓い】シリーズが、どんな願望を下敷きとして発動しているかと言うと“あの人の事を知りたい”という願望じゃ。
これを魔法で行おうとすると、とてつもない労力を必要とするのじゃ」
「労力?」
「うむ、妾とお主様の呪法【純潔の誓い】ならば同じ世界に存在すれば、どんなに離れていてもすぐにお互いの状況が判る」
「へぇ、そうなんだ」
それが本当なら、光の速度を越えた通信技術だけど。
宇宙開拓も楽々。
まさか、ね。
「?」
「どうしたの?」
「あ、いや、お主様が妾の判らない概念をまた考えておったので悩んだだけじゃ」
「あ、コメン」
「呪術に距離と言う概念はないんじゃ。
じゃが魔法は違う。
【純潔の誓い】と同じ効果の魔法を作ろうとするなら、距離、効果時間、範囲、五感共有など多岐に渡る項目を考えて構築しないといけないのじゃ。
しかも構築した結果、魔法を使った途端にバックラッシュで気絶じゃ」
「そんなに難しいの?」
「距離の問題じゃな。
モヒカン店員に使った魔法【リードパーパス】は距離3mじゃ。
拡大しても1kmぐらいが最高じゃろう」
「そうなんだ。
でもやっぱり、願望とイメージでは違いが判りにくいよ」
「むぅ、判った。
またいつか、この話の続きをしようぞ」
閑話休題。
で、“真っ赤な誓い”で問題となったのが歌詞だったみたい。
僕がそれを世界樹[ユグドラシル]に強く願ったと言う事になっている。
実際、ヴラドの作った呪法が書き換わって、世界樹[ユグドラシル]に新たに登録(?)されていました。
真っ赤な誓いの歌詞は、“大切な者を守る”“灼熱の戦いの中へ”“明日の勇気を追い続けるんだ”とか、“信じるこの道を進むだけ”など、少年の浪漫溢れる素敵な言葉が選り取りみどりな歌詞だ。
「だからと言ってっ!!」
ヴラドが泣きそうだ。
「ぶー」
雲雀は不機嫌。
「……」
伊織は木の幹を不思議そうに眺めている。
そう、世界樹[ユグドラシル]の相々傘の両隣に、コピペした様に伊織用、ヴラド用相々傘ができていました。
世界樹[ユグドラシル]の小粋な計らいだ。
ヴラドは、世界樹[ユグドラシル]を上位存在として、誓約[ヴァーラル]を行った。
誓約[ヴァーラル]対象は、今、この誓いに参加した者の居る儀式の“場”そのもの。
従ってヴラド、雲雀、伊織、そして途中乱入した僕が、効果の対象となった。
即ち、呪いの対象でもある。
しかも、僕が言った最後の言葉“僕は君達の主として~”により、僕を中心としたシステム構築になったらしい。
ヴラド曰く
「はぁ、名付けるなら呪法【桃源郷の誓い】じゃな」
ヴラドの呪法【純潔の誓い】は残っているが、それの上位効果として世界樹[ユグドラシル]の呪法【桃源郷の誓い】が働いているらしい。
その結果として、雲雀、伊織、ヴラドは僕を中継して相互意思疎通が可能となった。
もちろん記憶、知識、感覚共有も可能だ。
更に僕を中継していると言っても秘匿回線扱いで、直接、覗く事はできないらしい。
覗きたければ、間接的に話をしているどちらかの当事者に対して記憶共有して覗かなければならないらしい。
「だからって、覗いたらダメだかんね。御主人様」
雲雀。
君はもう少しメイドとしての心得をだね……。
せめて、御主人様を敬って下さい。お願い。
「妾はお主様に隠し立てする様な後ろ暗い事はない。
好きなだけ覗くが良いのじゃ」
しなだれかかってくるヴラド。
くんか、くんか。
好い匂い。
今日のは何の匂いだろう?
「ヴラド、心の隠し方は?」
伊織がヴラドに質問している。
「ん、そうじゃったな。
早速教えておいた方が良いじゃろうな」
ヴラドは僕から身体を離すと、伊織と雲雀に、心と記憶の隠蔽方法のレクチャーをし始める。
寂しいなぁ。
ん、待てよ?
相互意思疎通可能という事は、出力だけでなく入力も可能。
更に……感覚共有もしていると言う事は、前と違ってこちらから感覚を入力する事もできるんだ。
例えば……僕は脇の下をコチョコチョとくすぐる。
雲雀の苦手な部位だ。
「ん……ぁう、はぁ……ちょ、ナニコレ?」
妙に艶かしい声を雲雀が出し始める。
おおぅ。
効いてる、効いてる。
よし、マックス!!
「あはははははっ、やめ、やめてぇっ」
よっしゃ!
雲雀の痴態に、伊織が一歩、遠くに離れる。
ヴラドは汚物でも見るような目で突如笑い出した雲雀を見る。
素晴らしい。
この喜びを分かち合おうと雲雀を見たら、黄金の右手が僕に向かっt
「ぶぎゃっ」
ザッシャアァァァッ
と言う音と共に床に落ちる。
その一撃やペガサス彗星拳かギャラクティカマグナム。
「ア、アンタ、何してんのよっ!!」
「ご、ごめ、感覚共有・入力を試してみた」
雲雀に踏まれながら何とか説明を終える。
「ふむ、面白いのぅ」
僕の格好が?
「いや、その入力という行為じゃ」
僕の心での質問に、声で答えるヴラド。
うーん、心での会話……念話とかいうのが小説にでてきたりするけど、コレの構造は、基本はトランシーバーだから心話でいこうか。
普通の会話を、まぁ今までどおり会話として……。
あとは、手話とか肉体言語とか、ポージングってのも……。
(何の話よ)
あ、雲雀。
いらっしゃい、心話の世界にようこそ。
(嗚呼、妾と主様の蜜月が、終わりを迎えてしまった……。
このような下賎な輩に、心を土足で踏みにじられようとは……)さめざめ
「喧嘩売ってる?ヴラド」
僕の頭を踏みつけたまま、ヴラドを睨みつける伊織。
うわぁ、今まで以上に混沌とした会話が成立している。
(心話か……良い得て妙じゃが、そっちはどうかの?伊織)
(……ん)
(良好かや)
(心の隠蔽方法が難しい……。
早い内に虚実おりまぜた会話ができるようにならないといけない)
(嘘をつくぞ、と面と向かって言われると少々寂しいが、仕方あるまい。
円滑な人間関係には嘘も毒も必要じゃ。例え親しき仲にも、の)
(……ん)
次なる変化。
3人の内、誰か1人でも傷を負った時には、僕にも同じ影響が現れるらしい。
「そうなの?」と雲雀。
「ふむ」とヴラド。
「実験ね」
「実験じゃな」
僕にも同じ影響?
……って、ええっ!?
「ヴラド。私ね、アンタの事、会った時から気にくわないなって思っていたの」
「奇遇じゃな。
妾も御主の事はくびり殺したいと思っておったぞ」
「そう。気が合うわね」
「そうじゃな。
まるで宿命の様じゃな」
「あははははは」
「くふ、くふふふふ」
光った。
雲雀の右腕が空気を引き裂き、ヴラドの顔面へ。
消えた。
ヴラドの爪は、鋼より尚固い竜のそれとなり、人外の速さで雲雀の咽喉元に。
うぁう。
まずい。
このままだと、メイド服が、一昨日買ったばかりのおニューの服が!
入力っ!!
僕は右腕の感覚を3人に繋げる。
右腕の停止。
「う、う……」
「がぁぁっ」
雲雀とヴラドから猛烈な反発があったが、意思の力でねじ伏せる。
戦闘状態の解除。
僕の思い通り、雲雀とヴラドの腕の動きが止まる。
伊織まで腕の感覚を繋げてしまったのは、ご愛嬌と言う事で。
「な、なによー。良い所だったのに……」
「うむ、実験に代償はつきものじゃ」
そう、それ。
「いがみ合うな、攻撃するなとは言わないよ。
実験に代償はつきものというのは判ったけど……だけどね。
メイド服を破いたり、おニューの服を千切るのはダメ、絶対」
「「?」」
「戦う場は、ちゃんと用意するから」
「ちょっとまさか、それって……」
雲雀が睨む。
しまった!
心話の回線をブロックする、が、少し出遅れた。
「ほほぅ、泥レス……ね。
私は嬉しいなぁ。
ヤシロがキャットファイトまで趣味にしようとしてるなんて」
「え?いや……」
「うん、色々な事に興味を持つってのは、良い傾向だと思うんだ」
「あ、うん、調査に興味はつきものなんだ、うん」
弁明。
「ふぅん」
雲雀の絶対零度の視線を受ける。
「ちゃ、ちゃんと服も用意する、伝説のガーターベルト争奪戦みたいな……」
「ほっほーう」
ヴラド参戦。
「その上で独自色を……出す為に……」
「「出す為に?」」
やばい。
これ以上口に出すと……。
「……」
え?
口が勝手に!?
「下着剥ぎ取り……」
――!!
今の口調!
口を乗っ取ったのは……。
うわぁぁぁ。
最後の最後で伊織が裏切ったぁぁぁっ!!
ぐすん。
図らずも僕は、ヴラド、雲雀、伊織の3人が、ダメージを受けると自分にどんな事が起こるか、身を持って味わった。
その結果は2種類。
僕が選択できる。
怪我を受け入れるかどうか、だ。
受け入れない時は、僕は痛覚共有によって痛みを感じるだけ。
受け入れる時は、不思議な事が起こる。
全ての怪我を僕が肩代わりする。
3人は槍で貫かれようが、噛み千切られようが、くすぐられても、何も感じない。
全部、僕が肩代わり。
なに、そのゲームみたいな設定。
「ありがとう、ヤシロ。大好き」
雲雀が抱きつく。
あ。
なんかうれしい。
「じゃあ、1ヶ月に3日間だけで良いから肩代わりお願いね?
もう、そろそろだと思うんだけど……」
は?
何の話ですか?
「だから、痛みを肩代わり。
ついでに血も流してくれるって」
「?」
何を言っているんだ?
……?
「おお!そうかや……」
ヴラドは判ったみたい。
「?」
伊織は判らない。
僕も判らない。
「大丈夫、大丈夫、その日になったら教えるから」
その日?
どの日?
あの日……?
「ああー!!そういう事ね」
あの日、生理の事ですね。
……。
どうやって、痛みを肩代わりしろと?
降格機動隊曰くレズはナメクジの交尾みたいと言っていたから、ナメクジのオナニー?
いやいや、待て待て、前提条件がおかしい。
やっと意味が判ったのか、伊織も僕を見てる。
「大丈夫、私のはバッテリー。関係ない」
そうですか。
「んんっ。妾もじゃな、その、発育途上故に、何じゃ、まぁ……」
君、その前に性別が……その知識を隠匿。
「じゃあ、1ヶ月に3日だけか、良かったじゃん。
1週間もなくて。
最悪、3人で2週間近く続くかもしれないって思っていたから、良かったよ」ばんばん
うう。
雲雀、もう少しつつしみをだね……。
「じゃが、これは……」
「ん……」
「そうだね」
何故か急に深刻そうな3人。
「何の事?」
だけど、誰も僕の問いには答えてくれなかった。
そして、もう1つの変化。
利点もあれば、必ず欠点もあるのが呪法クオリティ。
上記の効果を得る為には、世界樹[ユグドラシル]と同じ世界にいなければならない。
コレを破った場合、呪いがかかる。
要するに地球で無いと駄目と言う事なのだが、これには抜け道があった。
それぞれの皮膚の一部を世界樹[ユグドラシル]の樹皮と交換する事により、異世界に行っても世界樹[ユグドラシル]と一緒にいると錯覚させる事による呪いの回避。
実際、ヴラドも僕と呪法【純潔の誓い】を使用した時に、やおい穴を作って、この呪い回避を行っている。
実は呪法ってチョロイのかも知れん。
そんな詐欺的な業を使って、呪い回避を行っているが、どうしても回避できない事があった。
それがグループ行動。
上記の“世界樹[ユグドラシル]と同じ世界にいないといけない”に関係するみたいだが、僕達は4人で1つとして扱われ、4人が同じ世界にいるなら、呪いは発動しない。
ただし、4人以下になった場合、呪いが発動する。
要は1人死んだ場合や1人だけ異世界に行った場合だ。
誰かが死んだ場合については検証をしていないから判らない。
「試しに僕が死のうか?」
死になれてるし。
「あとで、ヴラドが蘇生してくれれば大丈夫でしょ?」
「ふぅ、そうじゃな……。
痛い目見ても判らんと言うか、悪化してしまったと言うか……」
「……私のせい?ポンポン殴っているから?
コミュニケーションの一環で許してよ、睨まないでよ、2人とも」
「時雨、理解してくれていない……」
3人に殴られた。
皆、暴力的だ。
「やはり、あれじゃな」
「うん、そうだね」
「……」こくこく
何の話だよぅ。
「お主様」
「?」
「お主様は、一切、妾達の怪我を肩代わりしてはならぬ」
「そうね、怪我は自分の責任。ヤシロは手を出さないで」
「死んでも大丈夫。それは名誉」
「えーと?」
何で?
怪我の肩代わりって凄い能力だよ?
「お主様の悪癖が直らぬ限りはダメじゃ!」
「死にたがりに肩代わりの権利なんてあるわけ無いでしょ」
「ヴらえもんとやらがいるから、時雨は必要ない……」
あぅ。
みんな酷すぎる。
「で、でも、ほら。
僕が怪我を負う事でパーティーの回復役として……」
「妾がいるのじゃが?」
「変身すれば回復するよ?」
「プロテーゼ【自動修復】が活性化すれば問題なし」
あぅ。
要らん子ですか、そうですか。
よよよ。
仕方ない。
ここは粉骨砕身、雲雀の外部記憶装置として頑張ろう。
「それは名案じゃ」
「……」こくこく
「ちょ、なによ、それぇっ」
皆は心話の扱いに慣れてきているみたいだ。
「まぁ、誰かが死んだ場合については、呪いが必ず発動するもの、と言う認識でおればよいじゃろ」
「ま、それが結論よねぇ」
「時雨、気をつける」
「え、僕なの?」
「お主様が一番死に易い」
「……死にたがり」
「ヤシロ弱いじゃん」
3人一致ですか。
そしてもう1つの呪い発動条件。
誰か1人だけ異世界に行ってもらい4人以下になる。
(ここから一番近いのは、ラパ・ヌイじゃが……)
「検証は後で良いでしょ?」
鉄板で海老や肉を焼きながら雲雀。
じゅっという音と共に香ばしい匂いが辺りに漂う。
「まぁ、それもそうじゃのぅ。
今すぐでなくとも良いかや」
ヴラドは、それぞれに箸を配る。
「……ぁぅ」
僕は黙って席を離れようとした伊織を掴む。
次は、感覚共有・入力で止めるよ?
「がう」
アレだけ食べたのに、この獅子は、まだ食べたりないのか、涎を垂らしている。
「さ、今は早く食べてよ。
冷めちゃうじゃない。
せっかく腕によりをかけたんだからさ」
「そうじゃの」
「……ぅぅ」
「じゅる」
わざわざ1人だけラパ・ヌイに行ってもらうぐらいなら、後で全員で時間差で行けば良いやーと、こちらも検証していない。
「それではっ!」
「「「「頂きます」」」」「がお」
やっとありつけた焼肉を皆が頬張る。
鉄板では、じゅうぅぅっと肉以外にも海産物や野菜が焼かれ、炭火焼での網では、塩コショウのスペアリブがが焼かれている。
渾然一体となった香ばしい匂いが僕達の鼻孔をくすぐる。
「がお」
僕は、そこでもドラコニーに餌をやり続ける。
「おにくっ、おにくっ」
がつがつと白飯と味噌汁と一緒に雲雀が頬張る。
「ううう、久しぶりの白飯に味噌汁に焼肉だよぉぉぉ」
涙を流して食べている。
本当にニューエルサレムでの食事はひもじいんだなぁ。
流石にかわいそうになってきた。
ヴラドの箸の使い方は既に日本人と同レベルになっていた。
自前の箸で食材の載った大皿から生肉を取る。
あー、どうしよう。
キチンと采箸でとるように言うべきかな、一応マナーだし。
でも、それだと“他人”と言う感じがしてやだな……できれば、そんなの気にしないで欲しいし。
「なんじゃ?お主様……」
僕の視線に気づいたヴラドが肉を頬張りながら聞いてくる。
「ううん、何でもない」
結局、僕は言うのを止めた。
マナーも大事だけど……僕は、そんな事されても嬉しくない。
「?」
「……」
「あ、そういう事かや」
「?」
「お主様も言えば良いじゃろ、欲しいなら欲しいと」
「?」
「ほれ」
ヴラドは大皿から生肉を取ると、鉄板や網に載せず、そのまま僕の皿に乗せる。
「へ?」
「しっかりと血抜きがされておって、妾としてはかなり物足りんのじゃが、致し方あるまい」
ヴラドは、大皿から生肉をひょいぱくと直接食べている。
「お主様の知識では、和牛とやらは旨いらしいのじゃが、うぅむ、それほどでもないのぅ」
「食べ方、間違えてます。
それに生で食べてもおいしいです」
嗜好の問題です。
「あ、あの、私には基本栄養チューブがある。
それを……」
再び逃げ出そうとする伊織。
そうはさせない。
「ダメです。はい、あーん」
「時雨、凄く恥ずかしいのだが……」
「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」
雲雀が大声を上げる。
「?」
「時雨、伊織……2人して、な、何を……」
「ん?あーんの事?」
僕が問い返す暇無く
「ずるいっ」
「またかや」とヴラドは溜息。
「わ、私だって、やって貰った事無いのに……」
涙を浮かべる雲雀。
「そうか、雲雀はないのか……」
一瞬、伊織がニヤリとした気がする。
「時雨?
どうした、あーんの準備をしたぞ、あーん」
「あ、うん。はい、あーん」
ぱく、もぐ。
「ぐぎぎぎ……」
後で雲雀にもやるから、待っててよ?
心話でメッセ-ジを送る。
(お主様?妾の言った事、よもや忘れてはいまいな?
何事も平等にするのが良いぞ?)
うぃ。
もちろんです。
僕は暫く「あーん」をしている皆の口の中に食事を入れる、親鳥の役割を果たし続けた。
その後も次々と出て来る(もしくは僕が作る)料理は、皆の胃袋に入っていく。
雲雀は食事に関しては嫌いな物、苦手としている物はない。
好きな物は主に和食全般で濃い味を好む。
僕は赤味噌よりは、こうじ味噌を好むが、雲雀は祖父と同じ八丁味噌信奉者だ。
そこで、八丁味噌のもろきゅうを作っておいた。
やはり、好きな人が旨いと言いながら食べてくれる料理と言うのは、やりがいがある。
ところで、雲雀?
先程の純米大吟醸は、大アサリの酒焼き用だよね?
それとも酒蒸しにするの?
そのコップの液体は水だよね?
ヴラドは生ものを多く食べているが、刺身はダメみたい。
にんにく醤油も嫌いなのか、避けている。
実は、割と好き嫌いが多い。
スペアリブは良く食べている感じだ。
あとビーフウィンナーを食べている。
さっき牛まずいって言ってたのに、食べているの牛ばっかりだよ。
あと、それから純米大吟醸を抱え込まないで下さい。
最初は恥ずかしがって食べるのを躊躇っていた伊織も、今では黙々と食べている。
むしろ、がっついている。
普段の食事がゼリー飲料だしね。
薄味が好みみたいだけど、焼き肉を物凄い勢いで消費している。
ドラコニーと同じくらい。
がっつくのを止めたら、頬を赤く染めながら、とろんとした目で、ゲラゲラ笑っている。
スルメをかじったら似合いそう……。
何か嫌な予感が、ひしひしとするんだ。
今、感覚共有すると取り返しのつかない事が起こりそうな気がするんだ。
純米大吟醸、3本の内、1本が空になっている。
あれ、僕、いつの間に酒蒸し作ったんだろう。記憶にないや。
皆が飲むと思って買ってきた烏龍茶だけど減ってない。
コーラもね。
皆、紙コップに入った透明な液体……推定・水もしくは不確定名・水を飲んでいる、恐ろしい勢いで。
ふぅ、何か嫌な予感がするんだ。
火の元を確認する。
大事にならないように。
「ヤシロー、御主人様ぁ~。
料理も良いけど、こっちで飲もうよ~」
何をですか、コーラだよね!?
コーラを飲むんだよね!?
次点で烏龍茶だよね?
油物には緑茶よりもこっちだよ。
口の中をニュートラルな状態にしてくれるし。
「この純米大吟醸な、妾が後で世界樹[ユグドラシル]に飲ませてやろうと思うのじゃ。
仲間達と出会えた久しぶりの日じゃからの……じゃかr」
「……命の水」
「えぇい、触るな伊織っ!それは妾のじゃ!!」
「あはははは、怒った、怒った」
伊織が笑ってる。
馬鹿笑いしている。
あああ、ダメだ。
阿鼻叫喚としてきた。
僕が頭を抱えて、この収拾をどうやってつけようかと思い悩んだ時、その音は聞こえた。
ピンポーン
最初、聞き間違いかと思った。
何しろ、八代家は村八分状態だ。
この家を訪ねてくる人物なんて、僕の知る限り2人しかいない。
いや、正確に記そう。
インターホンを押して、キチンとこの家を訪ねてくる人物なんて、1人も知らない。
勝手に上がってくる人物なら、2人ほど知っているが。
ピンポーン
聴き間違いじゃない。
だけど、どこからの音だ?
ここは桜の庭園で、八代本宅ではない。
歩いて3分ぐらいかかる場所だ。
「すいませんが八代さんは、ご在宅でしょうか?」
男の声だ。
桜の庭園の入り口?
インターホンってあったっけ?
……いや、違う。
八代本邸のインターホンだろう。
そうか。
ここにある小屋にも子機が置いてあったから、それだ。
僕は急いで受話器を取って返答する。
「はい、八代ですが?」




