花見と桃園の誓い ← 桃の木じゃないけど
今日は、花見だ。
バーベキューでも可。
僕は準備万端、皆を迎える。
既に食材は持ち込み済みだ。
後は焼くだけ、食べるだけ。
正直な所、祖父も呼びたかったが、連絡が取れない以上、仕方ない。
ここは、八代家の持つ裏山だ。
登山道は一般にも開放してあるが、裏山の一角、ポツンと唯1本だけ生えた桜の木。
ここだけは、50m四方を厳重に塀で囲い、俗世から隔離してあった。
入り口はたった1つ。
八代邸の裏から続く舗装道路(もちろん私有道だ)を通ってしか入れない。
今、入り口に3人+αが姿を見せた。
僕は急いで、そちらへと向かう。
ゆったりと歩く雲雀。
服は、黒と白の完璧なバランス、ヴィクトリアンメイドスタイル。
ぶらーぼぉう!!
下着はドロワース、見えないところまでのこだわりに僕は大興奮。
相変わらず可愛い。
しかし、雲雀はメイド服に一升瓶を抱えて来ている。
何故、お茶セットでなく一升瓶?
画竜点睛を欠くとはこの事だ。
だけど、あの一升瓶、純米大吟醸だ。
飲む気だろうか?
年齢を考えてください。
あ、それとも酒蒸し用?
何と豪勢な。
驚きの変身、伊織。
彼女は今、髪をアップにし着物を着ている。
びゅーちほー!!
春物らしい、薄桃色の下地に朱の花がアクセントとして入っている。
祖母の着物といっていたけど、まるで伊織の為にあつらえたかのように、似合うし大きさもあっている。
でも、左手の忍者刀は減点。
せめて日本刀にして欲しかった。
あの刀も、あれかな、柄の部分にバッテリーの入った電撃刀なんだろうか?
胸をはり2人に負けじ、と大股で歩くヴラド。
水色の明るいリボンで髪を結び、金曜日に買った浅黄色のキュロットと群青の巻きスカート、動きやすさ重視のスタイルでまとめている。
えくえくえくえくせれんとッ!
自分でコーディネイトしたんだろうか、それとも雲雀が手伝ったのかな?
子供が少し背伸びした格好をしているように見える、そんな感じがヴラドらしい。
まぁ、中身は見た目に反比例なんだけど。
今回のゲストを連れて来ている。
ゲスト、その名をドラコニー。
竜の下半身に獅子の上半身と言う合成生物[キメラ]だ。
大きさは体高130cm程で、全長は400cm程だ。
獅子にしては巨大、竜にしては小さいという微妙な大きさだ。
さて、この合成生物[キメラ]だけど、ここに来るまで、ちょっとしたイベントがあった。
「うわっ、ナニソレ!?」
雲雀が驚きの声をあげる。
場所は本宅、未だ雲雀と伊織の戦いの傷跡が残る仏間にて。
ヴラドとヴラドがラパ・ヌイから連れて来たドラコニーと、雲雀が遭遇。
この場に僕は居ない。
桜の近くでバーベキューの用意に四苦八苦している時だ。
ヴラドがラパ・ヌイから帰ってきたので、呪法【純潔の誓い】の感覚共有が復活したのだ。
で、それを使って状況を窺っていると言う状態。
しかし、この感覚、本当に自分と他人の垣根が消えていくな。
「ライオン……じゃないよねぇ……途中から爬虫類だし……」
竜の下半身を見て、おっかなびっくりヴラドに訊ねる。
「うむ。この者はドラコニーと言っての。
竜と獅子の合成生物[キメラ]じゃ」
「ふぅん。花見に?」
「うむ、異界門[ゲイト]の門番をさせておったのじゃが、約定があっての。
地球の肉を喰わせてやると……」
「お手」
はしっ
雲雀が、右手の平を上に出し命令すると、ドラコニーは、その考えを読んだかの様に、自らの左前足をのせる。
「うん、良く躾けてある」
「え、いや、妾は何も……」
ごろん。
ドラコニーは、腹を上に向け寝そべる。
「うぉおー!賢い、賢い」
つぶらな瞳で雲雀を見上げる。
雲雀がプルプル震えだす。
「もう、もう、我慢できんっ」
「え、な、何じゃ!?」
「かわい~っ♪」
ドラコニーにダイブ。
「お、おねぇさんが、好い事してあげるねぇ?」
雲雀は全身を使って、ワシャワシャとドラコニーを撫でる。
メイド服に、獅子の毛がつくが気にしない。
「うわ、すごっ。金毛って言うの?
これ、輝いてるよ」なでなで
「うむ、見事じゃろ。
妾の従属魔でも強さと美しさを兼ね備えt」
「この鱗、外向きで尖ってて攻撃的だねぇ、メイド服が引っかかるよ?
あ、判った。
破いて引き裂いて千切って脱がす気か?
マニアックさんめ!この、すーけーべー」
「いや、それは、武器の打撃力を逸らす為にs」
「あれ?……このこ、雌?」
「いや、戦闘用の人造生命じゃから、性別h」
「このタテガミなんて雄っぽくてカッコイイ……
そうかぁ。君は男装癖の持主かぁ、ぐっじょぶ」
「いや、男装癖ではなk」
「乙女の心を、男の身体に隠した戦闘用なんだ、君は。
確かに、この肉球の攻撃力は絶大ッ!」ぷにぷに
「いや、その……じゃな」
「尾に毒針は?
あ、あるじゃん♪ひゅーっ
可愛さの中に、刺1つ。そそるぅ」
「……」
ヴラドが唖然としている。
うん。
雲雀のこの状態は、確か、エロゲで好みのヒロインを見つけた時のハイテンションな状態だ。
もしくは祖父の収集した民芸品コレクションの中にあった、呪いのぬいぐるみを見て気に入った時の事とか……。
「ヴラド、このこ頂戴ッ!」
「ダメじゃ」
「ケチーッ!」
ふぅ。
(ああ、妾の従属魔が、この様な……威厳も何も)
それから暫く、ドラコニーの本来の主を前にした痴態は続いた。
そして、現在。
今、僕はドラコニーに押し倒されている。
顔面をペロペロされています。
親愛の情なんかじゃ無い。
腕を甘噛み。
決して親愛の情ではない。
ヴラドの従属魔であるドラコニーの想いはヴラドに伝わり、ヴラドと記憶共有をしている僕は、その感情が読む事ができる。
(食べていい?食べていい?
おにくっ、おにくっ♪)
味見。
そう、この一言に尽きる。
今は食べて良しの指示が無いだけだ。
助けてぇ。
一足先に、僕に飛び掛ってきたドラコニーの後から、3人は桜を囲った私有地へと入って来た。
桜を見た時の反応は、3人それぞれだ。
雲雀は懐かしそうに、穏やかな、それでいて少し寂しさをたたえて桜を見ているが、残り2人は違うようだった。
その桜を見た時、ヴラドに衝撃が走ったのを僕は感じた。
動揺と感動、そして諦観……だろうか……?
どうしたんだろう?
「ヴラド、どうしt」
「ふぅおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
だが、僕のその気持ちも伊織の奇声にかき消される。
流石に、雲雀もヴラドもどうしたの?という感じで伊織を見る。
伊織が、感極まった時に発する声だとは思うが……変わった癖だ。
そもそも、移動販売車をこの桜の園の中に入れた時に、伊織は見たでしょう?
「桃園結義ッ」
「?」
「は?」
「え?」
「がう」
どこから突っ込めば?
桃園結義、俗に言う桃園の誓いと呼ばれる三国志演義で有名なシーンだ。
だけど、コレは桃ではなく、桜です。
この場に居るのは3人ではなく4人です。
史実にはそんなの存在しません。
何を誓うの?
えーと……
多分、桜の木と僕が用意したバーベキュー用の鉄板や、ジュースのペットボトルなどを見て、宴会だと判断したんだろう。
皇國代理天だと無さそうだしなぁ、宴会とか花見みたいな大勢で食事をするって事は。
それで桃園の誓いと勘違いするってのも、伊織らしい。
「良く気づいたわね、伊織!」びしぃッ
「雲雀……」
「これは、この桜を桃に見立てた……誓いの場よ!」
「やはり!」
えー。
ヴラドと僕はついていけない。
ドラコニーは蚊帳の外。
「で、では今から行うのは、義兄弟の契り!
“我ら3人、うまれし日、時は違えども兄弟のちぎr”」
「しっっ!それ以上はダメよ」
多分、伊織は横山正輝三国志からの知識なんだろうけど、雲雀は何をしたいんだ?
雲雀は紙コップにコーラを注ぐ。
彼女の大好きな、何だったか忘れたけど何らかの治療薬として、消化酵素ペプシンを入れて発売されたコーラだ。
世界的に有名なコカインなドラッグ経由のコーラではない。
もちろん、どっちのコーラも今はただの炭酸飲料水だ。
どっちのコーラがいいかについて、雲雀と語りだすと言い負けるから止める(正直コーラごときどっちでも良い)が、なんで3人分?
雲雀の奇行はまだ続く。
今度は、それぞれの紙皿に焼きたての旨そうな焼肉をいれる。
ロースだ。塩と荒引き胡椒で味付けした、香ばしい匂いを放つ……。じゅる。
差し出す。
が、なんで3人分?
(のう、お主様……)
ヴラドが現状把握をしようとしているのを僕に尋ねているが、僕だって雲雀が何をしたいかなんて判らん。
雲雀は、伊織とヴラドにコーラを勧める。
あれ?
僕は?
ねぇ、僕は?
もしかして村八分?
いじめ?
「これを、八代時雨の肉と血と思って食しなさい」
「ええー!ちょっと待って、僕ココに居るよ!!」
あれか?
キリストの最後の晩餐とか、そういうオチですか?
……最後の晩餐であってたっけ?
「今から行うのは、私達3人の契り……」
「……」
「……」
あれ?
ねぇ、じゃあ、僕は?
ドラコニーも入れようよ。
「私は劉備、伊織は関羽、ヴラドは張飛よ!」
ぐす。
涙出て来る。
孔明、せめて趙雲……。
「待つのじゃッ!」
僕の記憶から三国志を探り当て、急いで知識共有したらしいヴラドから「待った」がかかる。
「納得できんのじゃ、妾は劉備、伊織は関羽、雲雀が張飛であろう!?」
「そうだよ!
そもそも僕だけ仲間外れなんて……
ドラコニーも……」
異議申し立て。
「五月蝿いッ!!コレは外史!」
「――!!」
「ドラコニー、お預け、ふせっ!」
「ガオッ」
矢継ぎ早に雲雀は命令する。
だけど、今の一言で判りました。
あー、もう、嫌なくらい判りました。
はい。
納得しました。
この構図……。
「御主人様は、あっち行ってなさい」
「え、でも……最後に僕も皆と一緒に誓いをするんじゃ……」
「乙女の誓いは神聖なのよ。
アンタはあっちでドネルケバブを焙ってなさい。
ドラコニーにかじれたくなければ」
うぃ。
僕はその場を離れる。ドネルケバブを焙る為に移動販売車の中に入る。
ある程度までは焙ってあるが、ドラコニーが食ったらすぐに無くなる。
(お主様?)
うん?
何、ヴラド?
(外史とは?)
あー、うん。
三国志ってのは、元々中国って言う国の歴史なんだけど、それを基にして色々と派生した物語があってね。
(ふむ)
その中に、登場者の大半を女性にした、恋姫†無限って言うシリーズ物エロゲに出て来る言葉だよ。
簡単に言うと、パラレルワールド。
今回の意味としては、雲雀は僕をその作品に出て来る主人公として扱うって意味。
伊織と雲雀とヴラドは義兄弟ならぬ義姉妹?
僕は感覚共有で、その場を覗く事にした。
で、雲雀は結局、何をしたいんだ?
「雲雀、桃園の誓いは判ったが、御主いったい何をしたいのじゃ?
まさか、ごっこ遊びではあるまいに」
「あはは」
「あやしいのぅ……何を企んでおる?」
「質問、私は関羽ポジなのか?」
「少し待っといて」
「少し待っておくのじゃ」
「ヴラド、さっき言ってた呪法ってのかけるんでしょ?」
「んむ?」
「八代が居ると、まずいんじゃない?」
「おお、そういう事じゃったか。
御主の事、馬鹿じゃと思っとったから判らなんだ」
「あはは、銀髪ロリは張飛ポジね」怒
「御主の思い描いた餅では、確かにロリはそうなるのぅ……くふふふふ」怒
「じゃ、みんな納得s」
「じゃが断る」
「おお」
伊織が驚いている。
多分、ジョジョの微妙な冒険を思い出しているんだろう。
「じゃあ、こうしましょう。
私は1号、伊織は2号、銀髪ロリはV3で」
「ふむ、それは知識共有で一度調べたのぅ……
確か御面ライダーであったか」
「私は2号さんなのか?
でも愛人はヴラドが……」
「そうか、雲雀。
御主、ついでに序列付けもしたいわけか。
このままだと奴隷だからの?」くふふっ
「う」
「じゃが、御主、御面ライダーで行くつもりなら、主様のハーレムを拡大させるつもりかや?
ZXまででもかなりの人数じゃが、平成まで入れると目も当てられんぞ」
「そっか、しまった……
八代のハーレム拡大の良い言い訳に使えるわね……」
ちょと待って。
人の好意を、そんな酷い扱いで……。
当たっていそうで怖いけど。
「主様は人の好意に弱い。
好きと言われたら“自分も~”と答える事、請け合いじゃ。
取捨選択なぞできん。増える一方じゃ」
「そっか。そうよね……それが、今の現状だし……
ちっ。ヘタレ」
あう。
今の言葉、ワザと聞かせる為に言ってるよね?
ホントに雲雀は、口が悪い。
るるる。
「ヴラド、雲雀?
今の話し合いは時雨の寵愛を受ける順番なのか?
それを誓うのか?
世界を正すとか、時雨を護るではなく?」
「少し待って」
「うむ、そうじゃ」
伊織の質問に簡潔に答える2人。
というより、雲雀、伊織、ヴラド……分けて考えようよ。
呪法と寵愛とごっこ遊び……。
「じゃが、このままでは埒があかんのは事実じゃ。
ここは妾が折れよう、雲雀、貸し1つじゃ」
「……判った」
「序列は、主様と出会った順、雲雀、伊織、妾じゃ」
「……ん」
「クラスは、奴隷、恋人、愛人じゃ」
「それは嫌」
「しかたないのぅ。くふふふ。
では、御主は新妻(NTR確定)でどうじゃ?」
「喧嘩売ってる?」
「判った。自称・婚約者でどうじゃ」
「自称じゃないんだけど、まぁいいわ。及第点」
今度は上手くまとまったみたい。
「さて、次は何を誓うのじゃ?」
「私は、時雨を護る……」ぼそ
「ふむ、伊織の言う事もっとも。
ここに居る者の総意じゃ。
それをもって妾等は姉妹になるのかや?
穴兄弟ならぬ、竿姉妹に」
ヴラド下品。
雲雀みたい。
「そういえば、何も考えてなかったなぁ。
でも、別に何でもいいんじゃない?」
「ならば、永遠に主様を愛し続ける……とでもしてみるかや?
まさに呪いじゃぞ?
永遠の呪縛じゃ、死ずら救いにならぬ」
「な、何よそれ」
雲雀が何か思ったのか顔が引きつっている。
「えと、死ぬ時は一緒……が良い」
伊織は三国志通りを望むけど、それを呪術でやると……。
「それはまずいのじゃ、伊織」
「?」
「その誓いで呪法を行うと、誰か1人が死んだ時に全員死ぬか、アンデット化のどちらかという嫌な呪いとなるのじゃ」
「ん、判った。
でも何故誓いにこだわる?」
「ふむ?そうであったか。
説明がまだであったな。
昨日言った監視の話、覚えておるかや?」
ヴラドは、昨日話した五十鈴さんの監視の事について、伊織に尋ねる。
また、その監視を逃れる為の方法として、皇國代理天の世界法則[リアリティ]では存在できない呪法というワザを使い、感覚、知識の共有ができる様にすると伝える。
「簡単に言うと、心が読める様になるという事じゃ。
まぁ少しナレが必要じゃが、読ませたく無い事があるなら、隠す事もできる」
「それは時雨限定?」
「む?いや、対象者は呪法しだいじゃな。
例えば妾ともできるし、雲雀でも良い。
ただ、複数は無理じゃ。
その場合は土地や家など別の物を対象とせねばならぬ」
「私はヤシロ1人だけでいいわ」
「雲雀には聞いておらんわ、って良いのかや?
もう結論を出してしまって。
心は覗かれたくないのじゃろぅ?」
「う、でも、私だけ覗けないのはズルイ!」
「御主、せせこましいまでの平等論者よのぉ。
それとも民主主義とやらか?
日本人には民主主義は早すぎると思うがの?」
「幸せは義務なのよ~!!」キーッ
「要するに、時雨をメインフレームとして、我々が端末と考えれば良いのか?」
「その例えは、妾が判らんのじゃ」
うん、あってると思うよ、ヴラド。
「……うむ、主様もあっていると言っておる」
「今、時雨と秘密の会話していた?」
「うむ。
会話と言うよりも、双方で勝手に独り言を思っているだけじゃ。
たまたま、意思疎通ができるだけでの」
「直接相手に入力はできず、どちらも出力のみと言う事?」
「……そうじゃ。
主様がこちらの事を勝手に覗き見ていて思った事を、妾が勝手に拾ってきていると言う事じゃな」
「判った。でも、時雨は3人分を常に監視している状態で無いと、相互交流が上手くできない?」
「そうなるの」
ええっ?
確かに、常に記憶や感覚同調してないと、相互交流は不可能だろうけど。
いや、そもそもそんな事やって、僕は自我を保つ事ができるの?
「まぁ、大丈夫じゃろぅ。なんて言ったかの?
主様が前に言っていた……
マルチタスクな思考法とか、分離思考じゃったかを駆使すれば良いのじゃ」
ああ、そういう事か。
同時に考えた事を、雲雀、伊織、ヴラド、それぞれ専用のフォルダに別けておけば良いのか。
んー。
何とかなるかも。
(そうかや、ならば、次に進むとしようかの)
「で、じゃ。もう1つ問題がある。
それは皇國代理天の世界法則[リアリティ]じゃ。
あの世界には、呪術が存在否定される。
多分、希望とか祈り、占い、願う事、そういった類の無い世界なのじゃろう。
営利で冷徹な計算式と、現状把握だけの様な……」
「ん。希望や占いは非現実的。
現状の把握と効率的な未来への取捨選択のみ」
「ますますもって、妾には理解しかねる」
「仕方ない。私にも魔法は理解不能。
心が直接、力を発揮するなんてナンセンス」
「ふふ、お互い様と言う事かや」
「ん」
「しかしの、それでは、ちと困る。
御主が、妾の呪法を受け入れるのなら、ラパ・ヌイかイプセプスの世界法則[リアリティ]を、その身に受け入れて欲しいのじゃ。
地球の世界法則[リアリティ]は持っておるじゃろうが、少しばかり弱いので、確実性の高い世界法則[リアリティ]にしたいのじゃ」
「……そうしないと、時雨と秘密の話ができない?」
「そうじゃ」
「判った。
ここの世界法則[リアリティ]は地球とイプセプス?」
「ふむ、気付いておったかや」
「ん。この中だけ、別の世界法則[リアリティ]が存在してる。
八代邸の世界法則[リアリティ]とは別物。
あっちがラパ・ヌイ?」
「そうじゃ」
「どっちが効率的?」
「今後の事を考えるなら、ラパ・ヌイじゃ。
魔法が使えるのでな。ただ……」
「ただ?」
「うむ、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]はどうも、短絡思考的というか粗暴と言うか……
口より先に手を出す、あまり文化的とは、言い難い部分もあるのじゃ……
皇國代理天の世界法則[リアリティ]は、熟考をする事が多そうじゃからの。
それが、御主に影響を与えるやもしれん」
「イプセプスは?」
「言いたくは無いが、思想文化、科学技術、精神熟成、どれをとってもあまりパッとしないのぅ。
イプセプスが、どの世界よりも優れておると自慢できる物が思い浮かばぬのじゃ……」
「じゃあ、そっちで」
「良いのかや?」
「私に悪影響を与えなさそうだから」
「ああ、何か嫌な利点じゃ」
「考え方の違い。
欠点は長所となる場合もある」
「それもそうじゃなぁ」
「ところで、私もそろそろ話に入って良い?」
「だが断る」
「何でよッ」
「冗談じゃ、そうカッカするで無い。で?」
「誓いの言葉は、時雨を守るで良いんじゃない?」
「ふむ、騎士の誓いみたいなものじゃな。
その呪いで良いかの?」
「ん」
「私も」
「主様を傷つける事できぬ様になるぞ。
良いか、雲雀?
御主の暴力的コミュニケーションが不可能となる、という事ぞ?」
「エエッ!?それは困るッ」
「困るのかや……」
そうですか、困るんですか。雲雀……。
「この呪いで一番簡単な誓いは、初物を捧げるという奴じゃが……」
「無理。前も後ろも、上も下も」
「そうかや」
「えー、じゃあ、どうしよう。
時雨に何を誓うのよ~」
「自分で考えるのじゃな?」
「うぇーん、ヴラえも~ん。
魔法で何とかしてよぉ~」
「えぇい!うっとうしっ!」
そんな時だった。
桜の木が光った気がする。
いや、気がするのではなく、実際に輝いている。
幻想的な光景。
薄桃色の花びらも、その色のままに周りがうっすらと光り輝く。
ほのかにだが、黄金に。
雲雀と伊織も、少し驚いたようだが、「綺麗ぇ~」とか「……ん」とやっている。
花より団子というが、今、この瞬間のみ、まさに花見だ。
残念ながら、それを僕の肉眼は捕らえていない。
肉の塊を前にして、焙った所を切り分けているだけだ。
それを旨そうに食べるドラコニー。
僕が、かじられないようにする為には、彼に僕が食料で無い事を判ってもらわねばならなかった。
僕が如何に有能で、彼にとって必要な存在かをアピールしなければならなかったのだ。
ドネルケバブを焙り、焼けた旨い場所を、そぎ落とし、喰いやすい形にして、提供する。延々と。
これで僕の有能さに感動して、ドラコニーはデザートとして食べる事を諦めようとするだろう。
完璧だ。
(お主様ッ)
なに、ヴラド?
桜が光っているけど、どうしたの?
(知らんフリをせよ!
そのままでいるのじゃ!)
……判った、何かあるんだね?
(すまなんだ、最初に伝えて置けばよかったのじゃが、その様な暇が無かった)
「?」
「この木は桜ではない。
世界樹[ユグドラシル]といっての……イプセプスの要じゃ」




