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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第01話 僕にこの手を怪我せぃというのか
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僕とヴラド

「うう……」


少しばかり、気絶していたみたいだ。

ハードカバー単行本だと思っていたが、重量級愛蔵本の類だった。

羅王の子供達COMPLETEの大質量攻撃を後頭部で受けたのは、流石に不味かった。

おかげで、走馬灯のように同級生の戸隠さんの事を思い出してしまった。

「あ」

そこで、ようやく我に返る。


目の前には、僕が押し倒した銀髪紅眼の少女がいる。


ううう……。

顔が紅潮してくる。

さっき、僕は、この少女と……。

急に先ほどの唇の感触を思い出し、自分の顔が赤くなってくるのを自覚する。


「ご、ごめんっ」

急いで身を離す。

自慢ではないが、異性と触れ合うなんて、今の生活では、ほとんどない。


正直、考えが纏まらない。

わたわたと両手を動かし、えーとえーと、どうしよう、ココは謝るべきか、それとも知らんフリの方が良いのか……。

すでにテンパってる。


しかし、次の行動を思案している、僕よりも先に少女の方が動いた。




まだ目元に涙の雫を残した少女は、涙を拭くと、やおら立ち上り、笑顔で僕の肩をポムポムと叩く。

その後、にまぁ~っいう擬音が似合いそうな笑顔に変わり、何か耳元に囁くように話しかけてくる。

何処の言葉か判らない。

意味も判らない。

しかし、

意図だけは判った。



どうだった……?



と子悪魔のような表情で、

感想を求めているのだ。

唇の感触を。



今まで可憐に泣いてたのは何だったのー?



愕然とする僕を見て、更に少女はゲラゲラと笑いながら、今度は、バシバシと、激しく肩を叩く。


ひとしきり笑った後、憮然とした表情の時雨に少女は自分自身を指差した。



「ヴラド」



「?」

それが何なのか、何をさすのかと訝しがる僕に、彼女は再び自分を指差し「ヴラド」と短く言う。

その後に、僕を指差してくる。

「あ」

自己紹介か!

僕は、その意図を把握した。


「あ、え、えと、シグレ。シグレ・ヤシロ」

自己紹介する。

それを聞くと少女はフムフムと頷き、僕を指差す。



「シグレ」



と言って微笑む。

「……」

僕は、暫く見ほれていたらしい。

急いで、コクコクと頷き返す。


すると、少女は、僕に向けていた指先を自分自身に向ける。

そして、期待のこもった眼で僕をジッと見つめる。

ああ、判っているよ。

自己紹介だもんね。

僕は、少女の名前を呼ぶ。



「ヴラド」



ちょっとドキドキする。

気恥ずかしくて、顔が紅潮してくる。


しかし、少女は違った。

再び、にまぁ~っいう小悪魔のような笑みを浮かべ、二言三言、何かをつぶやいた。


「ぐっ」

それは突然だった。


動けない!!


彼女の紅い眼が、妖しく、黄金に輝き、光を放ったように感じた瞬間、僕の身体は動けなくなった。


動かそう、という自らの意思に反して、動かさない、という意思を持ったかのように身体がピクリともしない。

いわゆる、金縛りという状況だ。


「う、あ……」

何をした……と話そうとするが、口からは息が漏れるばかり。


「ふふ……」

小悪魔な笑みの中に妖艶さを滲ませながら、ヴラドが近づいてくる。


僕に馬乗りになるヴラド。

手を動かそうにも動かせない。

ヴラドは、僕の右手の甲に左手を乗せ、右手は僕の左手と指を絡ませる。


そして、だんだんと顔が近づいてくる。

舌なめずりをしながら。

ゆっくりと。


そして、ヴラドは。


僕の唇に、唇を押し当てる。



「ん、ん~~~~~っ!」



僕は、抵抗を試みる。


しかし、ヴラドは、構わずに、そのまま、口を割って舌を中に挿れる。


耳には、ヴラドの、はぁ……ともらした熱い吐息が聞こえる。


舌は、まるで1匹の生物であるかのように、僕の口内を蹂躙する。


舌先は上顎をつつき、歯ぐきをなめる。


舌と舌をつつきあい、絡め、唾液を送り込む。


生臭い息が、嫌悪感よりも、全身を甘美な痺れに酔わせる。


じゅるるるるっと、濃密なドロリとした唾液を味わい、今度は僕の舌を唇でしごく。


唾液でベトベトになった口の周りを舐め回し、はむっと唇を甘噛み。


いつのまにか、僕も蕩けそうな快感に酔いしれていた。


段々と息が上がってくる。


はぁはぁと、僕とヴラドの吐息が、更に熱を帯びる。


もっと感じたい!!


身体を密着させ、口内を陵辱する。


口で口を犯し、僕とヴラドは軽い絶頂を迎えた。






(ふぅー。

 ひさしぶりに熱くなってしまったの。

 シグレ。良い初物をご馳走様じゃ)

「ちょ、おま、ヴラド……。

 いきなり、いや、それよりも、お前……」わなわな

(ふむ、意思疎通は大丈夫なようじゃな。上々。

 妾の思っている事が通じてるおるかや?シグレ?)

「あ!」


頭に直接、言葉が響くような感じだが、意思疎通が可能となっている。

(これは……)

(うむ、実はな。先程、魔術を使用したのじゃ)

(え?魔術?)

(うむ。本来の使い方とは違うがの。

 まぁ、簡単な意思疎通もできねば、話もままならん。

 お主の初物を奪ったのはすまなんだ。許せ)

(あ、いや。それは。き、気持ちよかったから別に……)

(しかしな、妾と逢瀬を重ねておる時に、他の女の事を考えているのは、どーゆー了見じゃ。感心せんぞ)

にやぁ

(え?)ギクッ

(ほら、黒髪の女子じゃ。

 シグレの想い人かや?)

(え、何で?そんな事……)

(この魔術の欠点でな。

 知られたくない事まで知られてしまう。

 まぁ、元々は寝屋で使うもので、円滑な会話向きの魔術ではなくての)

(あ、それで……)

(ん?なんじゃ)

(いや、ヴラドが泣いた理由。迷子の心境に似ていたけど、多分、望郷の念なのかな?

 大き過ぎる期待と、絶望みたいな落胆を感じたんだ)

(そんな事までっ!!!!)かぁっ


急に、ぐちゃぐちゃとした思考が流れ込んでくる。

だいぶ混乱しているようだ。

かわいいなぁ。


あ、そうだ。

……気になる事があったんだ。

「ねぇ、ヴラd……」

(そ、それより!シグレよ)

(ん?)

(こ、この性魔術【恋人達の抱擁】を足がかりに、ちゃんとした魔法【トランスファコミュニケーション】をかけ直すのじゃ!

 さっきも言ったが、この魔術は、円滑な会話に向かなくてな。

 本来は、寝屋で愛しい者の名を呼び合い、接吻することで発動させるものじゃ。

 今回の場合は、特殊能力【吸血鬼の魔眼】を合わせて使用したが、基本的にはパートナーとの相性を高め、より深い快楽を得る為の快楽強化の魔術じゃ)

「(快楽強化?)」

(うむ。この魔術の基本構造は、相手の感情や思考、五感を共有する事でな)

「えと、例えば……?」

(例えば……じゃ。感覚共有で性感帯をすぐに発見できる。

 “いやーやめてー”と言ってるのが、実は“もっともっとーっ”の意味と判る。

 演技の“もういっちゃうーっ”を見抜いて、真実の絶頂に導いてやる事もできる。

 とまぁ、非常に家庭円満な魔術じゃ)



何だろう、何か凄く、どーでも良い魔法のような気が……


「(ううーん。で、そんな魔法がなんで意思疎通?)」

(おう、そうじゃったな。ちなみに魔法でなく、魔術な。

 その家庭円満の力を、いくらか落としての。

 意思疎通効果のみ通常の効果にしておる。

 ただのう、妾は天才で美人で博学じゃろ。

 元々の効果が高いんじゃ。

 それで、まぁ、深層意識の知られたくない事も知られてしまう……というわけじゃ)

(あー。そこで、心が読まれすぎちゃう事をフォローするんだ。

 でも、ヴラドがデブ専だって事はばれてるよ)

(そこまで読まれるかやっ!!くぅ~……。 

 デブ専は仕方ないじゃろ。

 妾の初めてとなった殿方は敵国のスルターンじゃし、その後も色々と手ほどきを受けてな?)

(……)

(ん……?そうそう、調教というやつじゃ。

 なんじゃか、お主の世界はその、不思議な語彙が多いのぅ。

 とはいえ、妾も串刺す者[ツェペシュ]とも呼ばれた者よ!

 したい、されたい、ほーばりたいは基本じゃ)

(そこで、胸をはられても……ん?ヴラド・ツェペシュ?どこかで……聞いた気が)

(なんじゃ。この世界の妾は有名か?)

(そうだ!ドラキュラだ!吸血鬼のモデルになっt)


(誰がドラキュラじゃーーーーーーーっ!!!!!)ボグゥッ


光のごとく、右腕がっ!

これが若さか……

などと冗談言う暇もなく世界は再び暗転した。





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