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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第05話 桃源郷の誓い
68/169

ホロビ


その時、僕の脳裏に確信めいた答えと、疑問が浮かんだ。

もしかしてヴラド、僕の家の内蔵にある異界門[ゲイト]って……。


「そうじゃ。スルターン自らが作った異界門[ゲイト]じゃ。

 本来ならば、イプセプス⇔ラパ・ヌイ間を繋いでおるはずの……な」



以前に僕は、ヴラドにこの家の異界門[ゲイト]の事を聞いた事があった。

その時は、教えてくれると言っていたけど、結局、聞きそびれて今に至るのだが、まさか、そんな来歴とは……。


じゃあ、先程までの説明とあわせると、この異界門[ゲイト]が、現在どういう状況なのかスルターンは判っていると言う事なの?

「判らん。状況的に見て、それはないはずじゃ……。

 じゃが、あのスルターンが気づいてないと言う事が考えられん……。

 お主様、今暫く妾の昔話に付き合ってもらって良いかや?」



あ、ごめん。

どうにも、落ち着きが無くて……。

「気にしなくて良いぞ、お主様」



「さて、妾の話じゃが、妾がイプセプスを守護する理由はスルターンが壊そうとするからじゃ。

 単純な理由じゃな。

 そして、スルターンと戦う理由は奴が憎いからじゃ。

 八つ裂きにしても気が収まらん!」

声を荒げるヴラド。


「これがスルターンと戦う事が、趣味と実益を兼ねておるという事じゃな」

あれぇ?

確か、守護と復讐の話じゃなかったっけ?



ふぅ……。

ため息をつくヴラド。

「もしかしたら、逆なのかもしれぬがの。

 復讐する為の方便の1つにしたいのかも知れぬが」


そうなんだ……。


復讐……って何があったんだろう?

スルターンとヴラドの間に……。



「さて、妾の話じゃが……

 アレキサンドリア郊外の、あの場所から、妾は兄の手引きで逃げる事ができた。

 その足で、次元回廊[クレパス]の守護に向かったのじゃ」



兄?

あ、に……だと?


そう思った瞬間、僕の脳裏にあるイメージの本流が流れ込んでくる。

知識共有の時、深い階層まで潜り込んでしまった時と同じ感覚だ。

自分とヴラドとの境界が無くなる。

このままだと、自我が弱いと崩壊してしまう危険がある、とヴラドは言っていたっけ。


だけど、僕は引き返そうとは思わなかった。

自我が崩壊しないと言う自信があるわけじゃなく、好奇心に負けただけなんだけど。


この記憶は、ヴラドの隠したい事?

僕は見ても良いのだろうか?

おどおどしながら先に進む。


知りたい。

好きな人の事をもっと。




景色が見えてくる。



場所は、円形闘技場……コロッセオの様な感じの舞台だ。


辺りには、濃い血と死の臭いがたちこめ、幾人もの人間だった者達の四肢や臓腑が散らばっている。


ある者は焼けただれた肌をさらし、別の者は、(まなこ)の無い眼窩で空を見上げている。口から槍をはやした者、身体の表と裏がひっくり返っている者、皆、絶命していた。




周りを観客が取り囲み、次なる饗宴は、今か今かと待ち構えている。

この最高の見世物(ショー)に、酔いしれている。


観客達は、ヴラドを口々に「ツェペシュ!!」「エクスキューショナー、ツェペシュ!!」と讃えている。




そして、次なるヴラドの犠牲者が、反対側のゲイトより、引き立てられてくる。

ヴラドが今まで殺してきた人物は、全て体現者[ムジャーヒド]決死隊の面々だった。


そして、最後の1人も。




中央には2人の人物。

ヴラドと……もう1人は、僕の知らない男。


いや、まてよ。

そういえば、以前、ヴラドの記憶の奥底で見た覚えがある。

串刺しにされた人だ。


だんだんと僕の意識が、ヴラドと重なってくる。

僕はヴラドの記憶を追体験する。




記憶の中のヴラドが叫んでいる。

「このような事、お止め下さい、主ッ」


声は枯れ、憔悴しきった顔で、一縷の望みも無い状況で、それでも言わずにはいれなかった。


自らの死をもってしても、イプセプスを救おうとした忠義に対する、王の答えがコレか!

戦士でなく、捕虜でもなく、実験動物としての死!

観客を楽しませる為だけの死!!


血の涙を流す。

愛した人の裏切り、突然の豹変。

何故!?

何故!?

何故!?



「ヴォータン、お願いです、や、やめt」

しかし、ヴラドの口は非常にも自身の意思に関らず、別の人物であるかの様に語りだす。


「では、フィナーレだ。

 これも余が作りし新たな魔法と、アプローチの1つ」

ヴラドの右手が勝手に動き、空中にルーンを描く。


「このアプローチは、ルーンと言う。

 従来の魔法文字ロンゴロンゴとの相違点として、使用するだけで、結印[シンボル] と真言[パワーワード]の効果を得る事ができる」

おおお、と周りがざわめく。

空中に描かれたルーンの効果を見せる為、ゆっくりとヴラドは魔法を構築、発動準備に入っている。



「満足したか!ヴォータンよ!!

 自らの望むままに人々が手の平で踊るのが、そんなに滑稽か!?」

そんなヴラドを睨み、目の前の男は、話し出す。


目の前の男は、銀髪に赤い瞳とヴラドそっくりな顔つきの男性だ。

年齢は20代後半と言った所か、すらりとした上背に筋肉質な身体つきをしている。


「だが、いかなる術をもってしても、人の心は……信念は動かせぬと知れ!」


「ふむ。だがな、ミルチャよ。

 魔法なら、信念ですら動かせるぞ?

 素晴らしいとは思わぬか?」


「ははは、それが狙いか、ヴォータンッ!!」


突如、ミルチャと呼ばれた男は、笑い出す。

心底軽蔑しきった目でヴラドを見て。



「ぐ、クッ」

ヴラドは、思うように動かせない自分の身体を必死に止めようと抗う。

しかし、次々とルーンは完成し、発動へのアプローチは終了する。


そして、なに1つ逆らう事などできずに、無情にも魔法は完成する。


「完成。発動待機」

魔法を発動待機状態にして、ヴラドは再び観客席を見回す。


「さて、今宵、集まり頂いた人々よ。

 余の力は、今見てもらった通りだ。

 もちろん、これら魔法以外の術法についても、研究の対象としていく」

会場の人々は興奮冷めやらぬまま、ヴラドの言葉に耳をかたむけている。  


「余が王である限り、魔法の研究は、更に深まるであろう!

 その余が、求めるのは唯1つ!

 もっと万物構成物質[マナ]を!更なる万物構成物質[マナ]を!」



おおおおっと会場がどよめく。

―――戦争だ、戦争だ!

―――もっと万物構成物質[マナ]を!




「覚悟は良いか?ミルチャ」




「ははは、裏切り者よ!それで、滅亡から逃げおおせたつもりか!?

 お前は自ら、滅びへの車輪を廻し始めたのだ!!

 無駄だったな!

 イスラームへの宗派変えも、不滅存在[イモータル]化も!

 ヴォータン!滅びからは誰も逃れられぬぞ!!」



ヴラドが笑ったのが判る。

ぞくりとした。

ヴラドの記憶だから、ヴラド自身の顔は見る事はできない。


でも明らかに、今の笑顔はヴラド自身の笑顔ではない。

もっと醜悪な、奸知に長けた者がする、嘲りの笑顔だ。


「言いたい事はそれだけか?ミルチャよ。

 では、死ぬが良い。

 愛する家族の手でな……

 ふ、ふふ、ふはははははっ」


ヴラドの口から、この世のものとは思えない、しわがれ声が響く。



「魔法【ペトリファイ】発動」


大地より石柱が飛び出し、目の前の男を貫く。

顔がヴラドそっくりの男は、地面から、突如突き出した石柱に串刺しにされた。


ごぶうッ


股の間より腰骨を砕き、臓物を引き裂き、右肺を抜け肋骨を突き破って、石柱が顔を出す。


どす黒い血を吐き、ミルチャは切れ切れに話す。


「ヴラ……生き……ろ、必ず、しあわs」ごぷっ

次の瞬間、男は身体中から石の槍を生やして、四散する。

辺りを肉片が舞い、血煙と供に降り注ぐ。


一瞬、全ての音が消えた。

静寂が辺りを包んだ。

しかし、一泊の後には、おおおおっと歓声、歓声、歓声。

スタンティングオべーション。

拍手喝采。

周りから、「ブラボゥ!」「エクセレント!」「ビューティフル!」と賛辞が飛び交い、溢れんばかりの拍手が沸き起こる。



「余は約束しよう!

 更なるラパ・ヌイの繁栄を!」


おおおおおおおっ

割れんばかりの人々の歓声、熱気が会場を揺るがした。







な、なんだこれ?


これは殺戮ショー?


溢れこんできた記憶を処理しきれず、軽くパニックに陥るが、どこからかヴラドの声が聞こえる。


「この記憶は、妾がイプセプス⇔ラパ・ヌイ間の次元回廊[クレパス]を破壊して、生きる気力をなくし取った頃じゃな……。

 スルターンに捕まり、後は皆、処刑を待つだけじゃった。

 まぁ、体現者[ムジャーヒド]決死隊の処刑執行人は妾だったんじゃがの……。

 スルターンがイプセプスの魔術、呪法知識を元に魔法と融合した新しい魔法概念のお披露目を兼ねた処刑……。

 正に虐殺ショ−じゃ……」



何だろう。

反吐が出る、と言うのが一番あっているだろうか?

嫌悪感。

正義とか、殺戮はダメというつもりは無いけど……いや殺戮はダメだけど。


ラパ・ヌイも人達は、これを本気で“最高”とか“素晴らしい”“美しい”なんて思っているの?

スルターンへのおべっかでなくて。


「うむ、コレ以降、ラパ・ヌイ人に急速にヴォータンは慕われる王として名を残すぞ。

 魔法の開拓者、百戦百勝の無敗王、片目の賢王……とな。

 旧王族を抹殺せず、妻として王女を迎えたのも大きかったしのぅ」


うわぁ。

なんだそりゃ。

じゃ、このスルターンって、自分以外の全てを投げ出して、ラパ・ヌイに行ったって事?


「そうじゃな、どちらかと言えば、魔法の研究がしたかったんじゃろうが、それ以外にも何か秘めたる目的もあった様じゃ……

 妾には全く判らんかったし、今となっては知りたくも無いがの」

「……」


「さて、お主様よ。

 この記憶を閉じさしてもらうぞ。

 すまなんだな、この様な物まで見せるつまりはなかったんじゃが……

 どうにもお主様は、その、人の記憶というか、触れて欲しくない記憶を探り当てるのが上手いと言うか……

 トラウマを覗くのが趣味なのかや?」


えー!?

幾らなんでも、それは酷い。

この記憶はヴラドの方から勝手に流れ込んで来ただけなのにぃ

僕は口をパクパクと、声なき声で喋る。

「む、そうなのかや?」

そうだよ。



「……」

どうしたの?

「む?いや、何でもないんじゃ……」






「話を戻そうかの。まぁ、結論を先に言うとじゃ。

 スルターンの作った次元回廊[クレパス]は、妾が一度破壊しておる。

 じゃが、完全に破壊する事はできなんだ。

 そこで、アレキサンダー大王の力を借りて偽装を施しての。

 ラパ・ヌイの異界門[ゲイト]と次元回廊[ラビリンス]となっておる。

 スルターンの創った物で残っておるのは、八代家の異界門[ゲイト]だけじゃ」

 

と言う事は……?


「うむ、スルターンでも何らかの感知魔法を使わぬ限り、今のこの異界門[ゲイト]との状況は、判らんはずじゃ」

じゃあ、やっぱり一安心していいんじゃないの?


「それについてはの……

 じゃが、安心できぬ理由は、他にあっての……」

「?」

「まずはスルターンの連れておる4匹の従属魔じゃな。

 特に2匹の鴉じゃが、あれが情報収集に特化しておっての……

 奴らには、間違いなく、知られておるじゃろう」


従属魔って感覚共有してるんだよね?

あの赤スライムみたいに。

……それじゃあ、異界門[ゲイト]の事、知ってるのも同然じゃん。


「そうじゃ。だからこそ、どうしてスルターンが行動していないのかが、判らんのじゃ。

 妾の立てた予想では、明日には先遣隊はココに来る。

 じゃが、その素振りすらないというのはいささか不気味じゃろぅ?」

「……」

「まぁ、スルターンの事じゃからの。

 何か悪巧みをしている可能性もある。

 海千山千じゃし、ミミルがあるからのぅ」

「?」


じゃあ、何も変わらないの?


「まぁ、そうなる。

 最初に言ったじゃろ、4日間が勝負じゃと。

 実は、スルターンの異界門[ゲイト]には、イプセプス側の者に頼んで封印をしてもらっていたのじゃ。

 イプセプスの封印が解かれぬ限り、ラパ・ヌイとイプセプスは繋がらんはずじゃった……。

 当然、この封印がある限りは、スルターンとて、ラパ・ヌイの異界門[ゲイト]の場所を知る事は無かったんじゃろうがの。

 封印が解かれてしまっておる以上はのぅ……」

「……」

「そこで、ちと考えて欲しいのじゃが……。

 今回、ラパ・ヌイの異界門[ゲイト]と次元回廊[ラビリンス]が、スルターンの異界門[ゲイト]と繋がったのじゃ。

 繋がるとすれば、2つの要素しか考えられんじゃろう?

 1・ラパ・ヌイが、次元回廊[ラビリンス]を作り、再度イプセプスに侵攻した。

 2・イプセプス側に新たな不滅存在[イモータル]が誕生し、異界門[ゲイト]の封印を破壊した。

 ……どちらかじゃ」


えーと……?

再度イプセプスに侵攻?

「うむ、じゃが、地球はイプセプスではない……もし、イプセプスに侵攻したなら、次元回廊[ラビリンス]が2本存在する事になる」

あ、確かに。

じゃあ、封印が解かれる?

「うむ、じゃが前提条件であるイプセプス側の新たな不滅存在[イモータル]が、何故地球に居るのじゃ?」


あれ?

ちょっと待って。

どちらにも矛盾が発生してない?

「そうじゃな」


どういう事だろう?

「妾も、最初は悩んだのじゃ。

 じゃが、すぐに答えに行き着いた」


答え?

「しかし、その答えを認めたくないのでな、その答えが否定できる材料を探しておったのじゃ」

否定したい答え……?


ヴラドが少し震えている。

「じゃがの、見つかる物は全て、妾の答えを否定してくれなんだ……」

「……」

「雲雀と話をしての……十中八九、もう答えは出てしまったのじゃ……」

何の事?

僕はヴラドを抱きしめる。

強く。

僕の腕の中でヴラドは身体の向きを変える。

僕に抱きつき、胸に顔をうずめる。




「嫌じゃ、認めとうない、判りたくもない……

 不安で、不安で、堪らんのじゃ」

ヴラドは、何を恐れているんだ?


「目的の為に、今まで異郷の地で、旅をしてきた。戦ってきた」

「……」

「じゃがの、まさか、目的が消えるとまでは思っておらなんだのじゃ……」


どういう事……?


「もう守護の必要はないのじゃ……!!」

「?」


「イプセプスが滅んでおったなど、帰る場所が既に消えてしまっていたなど……」


――!!


「世界が滅んでおるのに、何を守護すると言うのじゃ!!」

今まで心情を吐露するのを我慢していた所為か、深紅の双眸より、とめどなく涙が溢れる。

嗚咽するヴラドを、ギュッと強く抱く。


僕はただ抱き続ける事しかできなかった。






泣いていたヴラドだが、暫くすると落ち着いてきた様だ。


ヴラドの怯える物は2つ。

故郷を失った事、同時に、存在理由でもある目的の1つを失った事。


ヴラドの言葉は、異世界に取り残された事の無い僕には、理解できなかったが、自分の帰る場所の無い辛さは、少しは判る。

記憶喪失と似た所があるからだ。

それに、皇國代理天で感じた世界法則[リアリティ]の強制力……“知っているはずなのに思い出せない”存在否定の辛さを、600年近く味わうのを考えたら気が狂いそうだ。

実際はヴラドは体現者[シュトゥルム]だからそんな事はないだろうけど、自分の生まれ育った世界の世界法則[リアリティ]が良いに決まっている。



人に話す事で、少しでも慰めになるかもしれない。

自分の住む世界が無くなっている、というヴラドに質問をする事にする。


ヴラド。

もう、それは確定なの?

まだ、調べていない事はないの?

「そうじゃ。

 ほぼ確定じゃ……」ぐすっ

しゃくりあげながら、ヴラドは答える。


「正確には、確証はまだないのじゃが、状況証拠が有り余るほどあるじゃ……」

「……」

でも、諦めるには、まだ早いんじゃ……。

「八代家の異界門[ゲイト]、お主様と妾の身体の変調、お主様の祖父殿の持ち物。

 ……そして、雲雀の話。これだけで、充分じゃ」


ヴラドは、涙を拭くと、ぎこちないが僕を見て笑う。

無理をしているのは判っている。


何とかして、ヴラドを元気付けたい。






ヴラドは僕の胸から、顔をあげる。


「はぁ……すまぬ、お主様。

 情けない姿を見せたのじゃ……」

そんな事無いッ!

それは絶対に無いよ、ヴラド。

悲しみ、苦しみを吐露するのは、情けない事だとは言わないよ。


出逢ったばかりの頃、と言っても4日前だけど、ヴラドが言ったじゃないか。

“妾とお主様な、良く似ておる……”って。

だったら、せめて、辛い事、悲しい事、苦しい事ぐらいは、僕に話してみてよ。

少しは力になれるから。

なってみせるから。


「ふふ、くふふ……」


な、何がおかしいんだよぅ。

人が大真面目に話しているのに……。


「うむ、うむ、頼りにしておるのじゃ。お主様」




うん。


僕は、人から頼られるのが嬉しいよ。

罵倒されるのは得意なんだけど、頼られた事なんて無いからね。

こんな経験なんて無いんだ。

「それは自慢にならんじゃろぅ?お主様よ。

 それでは頼る方も不安になる。

 せめて“泥舟に乗ったつもりで”とかエスプリの聞いた冗談をじゃな……」

全然エスプリ効いてないよ、それ!


「まぁ今度、罵倒されたなら、妾が相手を塵に変えてやろうぞ。

 忘れずに言うのじゃ」


だんだんとヴラドの調子が戻り始めたみたい。





「のぅ、お主様……」

ヴラドが少し躊躇いがちに話しかけてくる。

「?」

「妾はお主様が好きじゃ」


あ、改めて言われると、少し照れるね。

でも、うん、ありがとう。


「一目惚れじゃ」

あ、あはは。

実は、多分、僕も……。


「じゃがのぅ。

 その想いが、なんらかの意図の元、作られた想いだと知ったら、お主様はどうする?」

作られた想い?


「そうじゃ」

誰に、とか、どうやって、とかは聞いてもいいの?

「駄目じゃな」

じゃあ、別に何もしない、というか、渡りに船。

永続させる為に頑張りますよ?

今の所、僕にとってメリットしかないもの。


それとも、もしかして、ヴラドはこの状況は、やっぱり嫌だった?

まぁ、そうだよねぇ……。

デブのブサメンに一目惚れって、絶対におかしいでしょ。普通。

「む、しばし待つのじゃ、お主様。

 妾の一目惚れを“おかしな事”で片付けようとする気かや?」

うぇ?

怒ってる。

「今、お主様は妾を愚弄したぞ」


そ、そんな事ないよっ

「いや、妾の一目惚れを“絶対におかしい”と断じたではないかや?」

あ。

「愛しの君と言えど、許しがたいのぅ」


ええええ。


「まぁ、今回は次回のデ−トで許してやろうぞ。

 まだ前回のデートの報酬品であるカラマーチョとキノコの丘、タケノコの村、暗君ハバネロ、期間限定カラマーチョが、まだじゃしの」

「ううう」




「それにな、デメリットは既に出ておるじゃろう。

 お主様も、妾も異様な程、押さえが効かぬでは無いか。

 今、この瞬間にも、その、のぅ」

再びヴラドの目に、熱が帯び始めた。


あはは、そうだねぇ。

僕も自分が、こんなに匂いフェチだとは思わなかったよ。

「じゃが、妾限定じゃろぅ?

 匂いも興奮を覚えるのも」

ええと、実はそうでもないような……。


「む?お主様は、生粋の変態であったかや……

 妾もまだまだじゃな……」

うわぁ。

自分の事を棚に上げて、そこまで……。




ヴラドも調子が戻ってきた。

感情を吐露する事は、悪い事じゃない。

ニュートラルな状態に戻す手っ取り早い方法の1つだ。


「作られた想いでも構わぬ……か。ふふ、

 ならば、何も問題はないのじゃ、お主様」


「?」





ヴラドも調子が戻ってきたみたいだし、頃合だろうか?

僕はもう一度、気になっていた事を聞く事にする。



イプセプスと地球、八代の関係を。


ヴラド、聞いてもいい?



「判っておる……じゃがの、それは、妾の一存では決めれん……

 雲雀と祖父殿に聞く事じゃ。

 それに、その事を聞かれたら、と雲雀から言伝てがあるのじゃ」

言伝て?

ていうか、雲雀って、何でそんなに僕ん家の事情に詳しいんだ?


「聞きたければ、私に尋ねる事、だそうじゃ」にま


に、しても……

むぅ。

先手を打ってきたか。



「妾が答えられる事は、イプセプスが滅んだ原因ぐらいじゃ」


原因?


「簡単じゃ。イプセプスが、地球を侵略して自滅した、と言う事じゃな」



え?


「言った通りじゃ。

 さて、お主様、妾は充分、特別を堪能した。

 次は伊織か雲雀を、特別にしてやるが良いぞ」


ヴラドは僕から身体を離すと、いそいそと服を着る。

僕はヴラドの残り香を寂しく思いながらも、部屋を出る事にした。



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