>殺してでも うばいとる
「復讐の相手はイプセプスのスルターン。
名前をヴォータンと言ってのぅ、あらゆる魔術を極めた……
我が最愛の主だった人物じゃ」
知識共有で、少しヴラドの心を覗いてみる。
僕の脳裏に、ヴォータンという人物の像が浮かぶ。
……。
イプセプスのスルターンというだけあって、種族はヴラド同様、真祖たる吸血鬼[ムロゥイ]だ。
身長は190cm、年齢は50代ぐらい、白銀の髪と髭をはやし、右目に眼帯をつけた老齢の男という印象を受ける。
少しばかり小太りだが、僕ほどではない。
ちょっと、羨ましい。
右手には2m程の長さの木製杖を持っており、着ている服は、豪華絢爛とは対極に位置した飾り気無しの、灰色のローブだ。
動物好きなのか、近くには鴉が2羽と、犬が2匹。
……なんか、王様と言うより、魔術師みたいな感じの人だ。
「復讐と守護は表裏一体での。
ヴォータンと戦う事は、そのままイプセプスを守る事にもなっておった。
そのわけは、おいおい語るとしてのぅ……」
「?」
「以前言ったと思うのじゃが、ラパ・ヌイとの戦争中、スルターンが不滅存在[イモータル]になったのじゃ。
それでイプセプス側から、次元回廊[クレパス]を作ってラパ・ヌイを侵略した。
そんな話を、覚えておるかや?」
それは以前、聞いた事がある。
「妾は、参謀として乞われ、体現者[ムジャーヒド]達と共に従軍した。
当時の妾は、邪竜ファーブニル退治の英雄として正に絶頂の時期だったからのぅ。
親衛隊[エインヘリアル]やヴァルキュリャの皆からも期待されたもんじゃ。
次元回廊[クレパス]を越え、ラパ・ヌイへ!!
首都アレキサンドリアへと電撃作戦じゃ、燃えるのぅ」
だけど、テンションが上がったと思った瞬間、ヴラドの声のトーンが落ちた。
ぽつぽつとヴラドは語る。
ヴラド達、イプセプス側は首都アレキサンドリアを急襲し、陥落させる。
なんでも首都陥落は、ムー帝国のヒラニプラを除けば、ラパ・ヌイ史上初めてだったらしい。
そこで大量の戦争捕虜……という言い方があってるかどうかは別として、王侯貴族から下層住民に至るまで、捕虜とした。
確かに、普通に考えれば、民間人を巻き込んだ戦争という事になる。
実際は、剣や弓、所々、魔術と言ったファンタジー世界の戦争だ。
だから限定戦争のように感じられるが、この戦争は世界の存亡をかけた世界法則[リアリティ]同士のぶつけ合い。
総力戦、世界の全てをかけた戦いだ。
傍観者、民間人などありえない。
全てが、侵略者であり、加害者であり、被害者だ。
国際法みたいな取り決めも無い。
だから……。
ヴォータンは、アレキサンドリアに住む人々全てに呪いをかけたという。
「掛けられた呪いは、反逆を許さず、自我を奪う、ありふれたものじゃ。
しかし、あの様な強力な大規模呪法を、妾はついぞ見た事なぞなくてな。
スルターン唯1人の力だけで、あのような事ができるなどと……
正直、不滅存在[イモータル]の力、恐ろしゅうて、その場から逃げ出そうとしたほどじゃ……」
ん?
んんー?
ヴラド、ちょっと待って?
スルターンは、そんな一歩間違えば全滅する様な作戦に自ら参加したのかい?
「うぅむ。実はこれには、事情があっての。
スルターンの件は、作戦には全く無かったイレギュラーな物なのじゃ」
スルターンが呪いを掛けたのも?
「呪いは作戦時からの案であったのじゃ。
じゃが、いささか規模が大きくなりすぎたのは確かじゃ。
これは後で話そうぞ……」
ヴラドの声のトーンが、更に下がる。
今は、聞かない方が良いだろうと判断した僕は、話を変える事にする。
ん。
判った。
じゃ、何故、呪いを掛けたんだろう?
反乱を防ぐ為かな?
「うむ、それはじゃな……
イレギュラーながらも勝率の高い賭けに打って出る為じゃ」
「?」
「……」
本来、この作戦は、術者の力量の問題でラパ・ヌイの王族だけを人質の対象にした作戦だった。
王城に立て篭もり、王族を人質として、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の目をこちらに向けさせる為の陽動だったと言う。
しかし、スルターンの力で、話が変わった。
アレキサンドリアの住民全てに呪いをかけた事で、作戦は陽動以上の効果を見込める物となったのだ。
ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との交渉に臨む為の布石だった人質は、直接的な戦闘要員の増加にも繋がった。
自我を奪った住民に簡単な指令を与え、敵兵士に心理的なダメージを与える兵士として使うも良し、イプセプス側の兵士と連携し、挟撃に使う事もできた。
「妾等はそれが非道な行いであると判っていながら、アレキサンドリアの住民全てを人質にして、侵攻を止めさせようとしたのじゃ。
とはいえ、残念ながら敵将は、歴戦の老将チャンドラグプタじゃ。
権謀術数にかけては、妾は手も足も出なかったというべきじゃな……」
ん?
チャンドラグプタ……どっかで聞いたなぁ
「ほら、竜をラパ・ヌイに呼び込んだ張本人じゃ。
ダークエルフの……」
あれ?
でも、その人、紀元前の人で……イプセプス侵略は確か、16世紀だっけ?
「うむ、あ奴は、長寿の特殊能力を持っているんじゃろうのぅ。
2千年間生きるなぞ、どんなエルフでも無理じゃ。
あれも化け物よな。
なんと言ったかの……
ああ、地球の言葉で、老害という奴じゃ」
でも、結構、その戦術ってアレだよね?
要は、人質立て篭もり犯のスケールを、でかくしただけの話だよね?
「うむ。痛いところじゃな。
事実、それを指摘されたくないからかのぅ。
妾達は、アレキサンドリアの住民を使ったラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]挟撃作戦を立案をしていたのじゃ。
……もし、やっていたら、確実に失敗しておったがの」
「……」
「まぁ、妾達の意見を、スルターンは笑って却下したから、事なきを得たのじゃが……」
「?」
ヴラドが言うには、2000年間前線で戦い続けていたというだけあって、歴戦の老将チャンドラグプタの戦術、戦略眼は、確かな様だ。
すでにラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、アレキサンドリア陥落と同時に行動を開始していた。
異界門[ゲイト]に精兵を残すと、すぐにアレキサンドリアへと後退、万物構成物質[マナ]貯蔵庫の確保に努めたと言う。
ああ、そうか。
万物構成物質[マナ]貯蔵庫を押さえれば、敵の戦闘継続力を奪う事になるんだ。
「そうじゃ。
挟撃が失敗した妾等は、1ヶ月ほど篭城戦で時間を稼ぐ腹積もりじゃった。
しかし、それもあっけなく潰されてしもうた。
万物構成物質[マナ]が枯渇すると、万物構成物質[マナ]に頼った軍団の機能低下は免れないからのぅ」
地球で言う、石油資源だねぇ。
完全に。
「……んむ。そう、じゃな……
確かに、その通りじゃ」
「……」
「仕方が無いから妾等は、会談場所を設けて、人質を盾としてラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との早期講和に持ち込もうとしたのじゃ。
まぁ、この意見も、スルターンは笑って却下されたのじゃがの。
あれは、最初から読んでいたのじゃな、講和が失敗に終わるであろう……と。
多分じゃが、もし講和をしていても、妾等主導の講和ではなかったであろうのぅ」
それで、結局、ヴラド達はどうしたの?
「スルターンは、アレキサンドリア郊外でラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との雌雄を決すると言って全面対決の構えに入っての。
正直、生きた心地はせんかったのじゃ」
僕にも、その時の様子が共有した記憶で伝わってくる。
えぇと、やっぱり、僕はファンタジー舐めてました。
すいません。
以前、ヴラドに見せてもらった、機械化した戦争のラブラドルVSラパ・ヌイは凄かった。
あの戦争だけが、特殊だと思っていた。
でも、実は違っていた。
いや、なんと言うか。
騎士や魔術師、幻想的な生物の血湧き肉踊る戦いを思い描いていると、足元をすくわれると言うか。
まずはリビングフォートレス。
巨大な昆虫の脚を生やした動く要塞。
前線基地として稼動し、侵略作戦序盤の中枢として活躍する。
後半になると浮遊城と言うのに取って代わられるけど。
やはり戦略指揮と戦術指揮では、違うんだろう。
ゴーレム。
様々な材質で作られた擬似生命体で、その材質により様々な環境下に適応した戦術を取る。
アンデット正規兵。
まぁ、ゾンビやスケルトンの事で、突撃要員だ。
ここまでで、マトモな生命体が介在していない。
ラパ・ヌイに侵略されると、最初に、こんなのを相手にしないといけないワケです。
ある程度の趨勢が決まった段階で、制圧戦に乗り出すわけだけど。
生命体が出て来るのは、これから。
要は、騎士とか、兵士とか、幻想生物とかが、戦場に敷設された簡易転移魔法陣から、出てきて武力制圧……と。
だいたいこんな感じで戦争は推移するみたい。
ある意味では、近未来的な戦争と言えなくも無い。
オートメーション化され、最後の制圧だけに人の血が流れる……。
あー。
こんなのが、家の中にある扉から出て来ると思うだけで、頭が痛くなるなぁ。
さて、閑話休題。
話を、ヴラドに戻そう。
アレキサンドリアを占拠し、住民の全てに呪いをかけたヴォータン。
アレキサンドリアが陥落した事で、リビングフォートレスや浮遊城、ゴーレム、アンデット正規兵といった戦力の拡充をした、ヴラド達、体現者[ムジャーヒド]の部隊は、次の一手として、呪いをかけ、自我を失った住民を人質兼戦力として、戦闘員として組み込んだ。
この段階で、戦力としては、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]を超えていたらしい。
もちろん、錬度は別だが。
「戦いが始まれば、敵味方入り乱れての総力戦じゃ。
この様な戦いでは、人間1人の力なぞ、たかが知れておる。
いかなラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]と言えども……
と、思っておったら、チャンドラグプタも応援を求めたらしくての」
応援?
「うむ、オルビドから来たドラゴン共じゃ。
あやつらは、ラパ・ヌイの……えぇと……地球で言う南米、中南米に領土を持っておって、独自の文化を築いとるのじゃ。
もちろん、好んで火山や、迷宮奥深くなどの辺鄙な所に巣を作る者もいるがの」
ドラゴンが援軍として駆けつけてきた……と。
じゃあ、数の有利は覆されたんだ?
「いや、五分五分じゃろうな……多分。
正直、妾もそこまで全軍を把握しておったわけではないのじゃ。
なにしろ、地平線まで続く妾達イプセプス軍と、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]……
アレキサンドリア郊外は、そんな状況下での睨み合いじゃ」
共有した記憶から当時の様子が、僕にも見えてくる。
ヴラドは、浮遊城にいたらしい。
モニター代わりの巨大水晶球には、次々と投下される自軍のゴーレムとアンデット正規兵が映し出されている。
まるで、大空の城ラピュタの1シーンを見ているようだった。
うん、元・人がゴミのようだ。
僕は、そんなのんきな事をいっているけど、その時のヴラドは、かなり忙しかったみたい。
ヴラドは、目の前の事よりも他に、やるべき事があった。
この無謀ともいえる作戦の本来の目的……
空前絶後の大規模な軍勢が睨み合いを続けている中、イプセプス本国と連絡を取り、次元回廊[ラビリンス]の破壊の為の作戦を実行していた。
侵略中のラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]をイプセプスからアレキサンドリアまで後退させた段階で、作戦は八割方、成功していた。
あとは、次元回廊[ラビリンス]を破壊、侵略を頓挫させる事と、無事にスルターンをイプセプスへと帰す事。
最初から、体現者[ムジャーヒド]達は“片道”のつもりだった。
生きて帰る事を前提とした作戦ではなかった。
決死隊どころか、カミカゼ、作戦成功の為の人柱だったのだ。
しかし、唯1人の存在が、この計画変更を余儀なくしていた。
スルターンである、ヴォータンその人である。
作戦を立案したのはヴラドだが、本来の作戦にはスルターンは従軍どころか、軍団の指揮を取る事すら考えられていなかった。
王宮でふんぞり返って親衛隊[エインヘリアル]からの報告を待っているはずだった。
しかし、あろう事かスルターンは、兵士に変装し、ヴラド達と共に行動していた。
発覚したのは、アレキサンドリア入城後、見た事のあるカラス2羽と犬2頭をつれた兵士が居るのを、ヴラドが目にとめたからだ。
ペットが居なければ、気づく事すらなかったのだから、変装の本気度が窺える。
ここに至って、ヴラドは、戦って討ち死にという作戦から“スルターンをラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]包囲網から脱出させる”事を前提とした作戦に変更を余儀なくされる。
だがスルターンの奇行は、ヴラド達を更に追い詰める。
アレキサンドリア郊外に陣取った両軍は、攻めあぐねていた。
ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、人質の安否を気にするどころか、意識を失い、操られるままに槍を向け、魔法を放つ家族に戸惑っていた。
上層部は人質になった経緯、何があったかは魔法で知る事が出来たが、解呪の為にも時間が必要だった。
体現者[ムジャーヒド]決死隊は、スルターンを逃がすため、敵軍の守りの薄い箇所、タイミングの検討と、更なる情報収集。
しかし、その為の人手が足りなかった、圧倒的に。
それは、両軍が睨みあって、数時間後。
「一触即発という状況じゃった。
そんな中、スルターンが舌戦を始めようとしてのぅ。
ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]には、そんな常識は無い、意味がないと言って下がってもらおうとしたのじゃが、コレも聞き入れてもらえなんだ」
舌戦って言うと……幾つかの三国志を題材にしたゲームに登場しているアレ……だろうか?
戦闘に入る前に、お互いの言い分、義を語り合うっていう……?
「おお、それじゃ」
イプセプスでは、それは普通だったの?
「うむ、まず最初に舌戦ありきじゃ。
不意打ちなぞはもってのほかじゃ」
でも、それって拙くない?
ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、スルターンがヴラド達と一緒に居る事を知らないんだよね?
舌戦なんてしようものなら、わざわざ敵に、総大将が死地にノコノコやって来てるって、ばらす様なものだよね?
「その通りじゃ……
じゃが、そう言っても聞き入れてくれなかったのぅ……」
何故なんだろう?
「まぁ、おいおい判るのじゃ。
話を進めるぞ?」
結局、ヴラド達の反対を押し切り、舌戦は行われた。
ヴォータンと対するは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]総司令・チャンドラグプタだった。
「話の内容は、まぁ五分五分じゃ。
スルターンが義を語れば、チャンドラグプタは人質を放せと言う。
チャンドラグプタが侵略を正当化すれば、スルターンは、人質を保護しているのだと言う。
じゃが、まぁ、たった1つだけ、決定的に違った事があっての」
「……」
「のぅ、お主様、戦争と言えど、やって良い事と悪い事がある。
もちろん、ここで道徳を出すつもりはないぞぇ。
異世界同士の戦争には、何の取り決めも無い。
そもそも、世界法則[リアリティ]が違うんじゃ。
常識そのものが通用するはずあるまい。
この場合の戦争においてやってはいけない事……
それは、味方の士気を下げる様な下策をせぬ事じゃ」
「……」
「その点でのみ、チャンドラグプタは愚昧であったな。
下々の兵士の事を判っていなかったんじゃ。
いや、それとも、あの時、無能な者どもを、ついでに一掃しようかと考えておったのかもしれんのぅ」
「?」
どういう事だろう?
「どうもイプセプス侵略作戦を立案したのは、人質となった貴族達のようでのぅ。
あまり、良い作戦ではなかったようじゃ。
まぁ、妾等の急襲を防げぬほど、王都の防備を疎かにしたのじゃ、その罪は万死に値するじゃろ」
文官と武官の対立みたいなものかな?
シビリアンコントロールも、作戦立案まで口を挟んで来る程、行き過ぎると“1匹の羊に率いられた100匹の狼”になりかねないと思うんだけどね。
「まぁ、あやつが愚昧で無い事は歴史が証明しておるが、あの時ばかりは助かったのぅ。
お主様の、知識にある通り、立て篭もり犯に対するのに必要なのは、時間と忍耐力じゃ。
場合によっては、犯人の要求を呑まざるを得ない時もあるじゃろうしの。
しかし、チャンドラグプタは妾等をテロリストと同様に処理した。
妾等の要求は全て呑まない。
その結果として、人質全てが死のうとも、クンガヌ・マヌイは敵と取引はしないと……な」
そういう事か。
要は兵士達の目の前で、人質となっている家族を殺しても、要求は呑まんと言った訳だ。
当然、家族を人質として取られている兵士達に動揺が走る。
誰もが次の報復は、体現者[ムジャーヒド]決死隊が、見せしめとして人質を殺すだろう。
そして戦闘へと流れ込む……。
そう思ったはずだ。
「普通なら、そうなる筈じゃった」ふぅ
「?」
「スルターンは、自分が注目を集めた、その瞬間を狙っておったのじゃな。
再び、呪いをかけたのじゃ。
今度はラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]全軍に」
は?
「何人かは抵抗した者もおったが、焼け石に水じゃ」
待って。
ナニソレ、そのチートっぷりは。
「うむ。
あれは、神算鬼謀、機知奇策、思わず投げ捨てたくなる瞬間であったな。
……恐ろしいワザじゃ」
ていうか、ヴォータン1人で、力押しできるんじゃ?
「その通りじゃ。
妾等もこれで、異郷の地で散る事無く、生きて再び祖国の地を踏む事ができると思ったものよ」
でも。
「そうじゃ。妾等の想いは裏切られた」
「……」
「妾等だけではない、配下の兵士、守るべき民草、世界を……
奴は……、あやつは、イプセプスそのものを裏切ったのじゃッ!!」
激昂するヴラド。
怒りよりも苦しみ、悔しさが見え隠れする。
いったい、何があったのだろう。
「呪いをかけられたのは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]だけではなかった。
妾等、体現者[ムジャーヒド]決死隊も同様にかけられておった。
幸いというか、残念ながらと言うか……妾は、スルターンと別の呪法による繋がりがあっての。
呪われる事は無かったのじゃ」
ヴォータンは、全ての人を自らの呪いの元に置くと宣言した。
「余が新たなるラパ・ヌイの支配者、ヴォータンである」と。
自らを、そう名乗ったヴォータンは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]に命令を下す。
「イプセプスを侵略せよ。完膚なきまでに破壊せよ」と。
……。
なんじゃ、そりゃ?
僕の思考は、一旦停止した。
は?
何故?
意味が判らない。
何故、自分が支配している世界を滅ぼそうとするのだろう?
何だ?
この奇行は?
ヴラドでなくとも、言うだろう。
何故?
「判らぬのじゃ……
何故、あのような奇行に走ったのか、妾には全く判らんのじゃ……」
ヴラドは、ヴォータンにワケを聴こうとするが、それを果たす事はできなかった。
ヴラドが震えていた。
僕はヴラドを抱きしめる。
強く。
この謎が解き明かされぬ限り、ヴラドは復讐を止める事などできないのだろう。
その後、ヴラドは、共に従軍していた兄の手をかり、その場からの脱出を図る。
ヴラド達に幸運だったのは、その時にはラパ・ヌイの次元回廊[ラビリンス]は異界門[ゲイト]ごと破壊されていたという事。
イプセプス側兵力にも、多大な犠牲が出たものの、2度と使用できない状態になったらしい。
問題は、イプセプス側の次元回廊[クレパス]で、作ったのがヴォータン自らなので、現在の活動状況や、場所が判るらしい。
「イプセプスを守る為には、妾が先回りし、次元回廊[クレパス]を破壊するしかなかったのじゃ」
あ。
その時、僕の脳裏に確信めいた答えが浮かんだ。
もしかして、ヴラド、僕の家の内蔵にある異界門[ゲイト]って……。
「そうじゃ。 ヴォータン自らが作った異界門[ゲイト]じゃ。
本来ならば、イプセプス⇔ラパ・ヌイ間を繋いでおるはずの……な」




