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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第05話 桃源郷の誓い
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>殺してでも うばいとる


「復讐の相手はイプセプスのスルターン。

 名前をヴォータンと言ってのぅ、あらゆる魔術を極めた……

 我が最愛の主だった人物じゃ」




知識共有で、少しヴラドの心を覗いてみる。

僕の脳裏に、ヴォータンという人物の像が浮かぶ。


……。

イプセプスのスルターンというだけあって、種族はヴラド同様、真祖たる吸血鬼[ムロゥイ]だ。

身長は190cm、年齢は50代ぐらい、白銀の髪と髭をはやし、右目に眼帯をつけた老齢の男という印象を受ける。

少しばかり小太りだが、僕ほどではない。

ちょっと、羨ましい。

右手には2m程の長さの木製杖を持っており、着ている服は、豪華絢爛とは対極に位置した飾り気無しの、灰色のローブだ。

動物好きなのか、近くには鴉が2羽と、犬が2匹。

……なんか、王様と言うより、魔術師みたいな感じの人だ。



「復讐と守護は表裏一体での。

 ヴォータンと戦う事は、そのままイプセプスを守る事にもなっておった。

 そのわけは、おいおい語るとしてのぅ……」

「?」

「以前言ったと思うのじゃが、ラパ・ヌイとの戦争中、スルターンが不滅存在[イモータル]になったのじゃ。

 それでイプセプス側から、次元回廊[クレパス]を作ってラパ・ヌイを侵略した。

 そんな話を、覚えておるかや?」

それは以前、聞いた事がある。


「妾は、参謀として乞われ、体現者[ムジャーヒド]達と共に従軍した。

 当時の妾は、邪竜ファーブニル退治の英雄として正に絶頂の時期だったからのぅ。

 親衛隊[エインヘリアル]やヴァルキュリャの皆からも期待されたもんじゃ。

 次元回廊[クレパス]を越え、ラパ・ヌイへ!!

 首都アレキサンドリアへと電撃作戦じゃ、燃えるのぅ」

だけど、テンションが上がったと思った瞬間、ヴラドの声のトーンが落ちた。


ぽつぽつとヴラドは語る。

ヴラド達、イプセプス側は首都アレキサンドリアを急襲し、陥落させる。

なんでも首都陥落は、ムー帝国のヒラニプラを除けば、ラパ・ヌイ史上初めてだったらしい。

そこで大量の戦争捕虜……という言い方があってるかどうかは別として、王侯貴族から下層住民に至るまで、捕虜とした。



確かに、普通に考えれば、民間人を巻き込んだ戦争という事になる。

実際は、剣や弓、所々、魔術と言ったファンタジー世界の戦争だ。

だから限定戦争のように感じられるが、この戦争は世界の存亡をかけた世界法則[リアリティ]同士のぶつけ合い。

総力戦、世界の全てをかけた戦いだ。

傍観者、民間人などありえない。

全てが、侵略者であり、加害者であり、被害者だ。

国際法みたいな取り決めも無い。


だから……。


ヴォータンは、アレキサンドリアに住む人々全てに呪いをかけたという。


「掛けられた呪いは、反逆を許さず、自我を奪う、ありふれたものじゃ。

 しかし、あの様な強力な大規模呪法を、妾はついぞ見た事なぞなくてな。

 スルターン唯1人の力だけで、あのような事ができるなどと……

 正直、不滅存在[イモータル]の力、恐ろしゅうて、その場から逃げ出そうとしたほどじゃ……」


ん?

んんー?


ヴラド、ちょっと待って?

スルターンは、そんな一歩間違えば全滅する様な作戦に自ら参加したのかい?


「うぅむ。実はこれには、事情があっての。

 スルターンの件は、作戦には全く無かったイレギュラーな物なのじゃ」


スルターンが呪いを掛けたのも?

「呪いは作戦時からの案であったのじゃ。

 じゃが、いささか規模が大きくなりすぎたのは確かじゃ。

 これは後で話そうぞ……」

ヴラドの声のトーンが、更に下がる。

今は、聞かない方が良いだろうと判断した僕は、話を変える事にする。


ん。

判った。

じゃ、何故、呪いを掛けたんだろう?

反乱を防ぐ為かな?

「うむ、それはじゃな……

 イレギュラーながらも勝率の高い賭けに打って出る為じゃ」

「?」

「……」


本来、この作戦は、術者の力量の問題でラパ・ヌイの王族だけを人質の対象にした作戦だった。

王城に立て篭もり、王族を人質として、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]の目をこちらに向けさせる為の陽動だったと言う。


しかし、スルターンの力で、話が変わった。

アレキサンドリアの住民全てに呪いをかけた事で、作戦は陽動以上の効果を見込める物となったのだ。


ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との交渉に臨む為の布石だった人質は、直接的な戦闘要員の増加にも繋がった。

自我を奪った住民に簡単な指令を与え、敵兵士に心理的なダメージを与える兵士として使うも良し、イプセプス側の兵士と連携し、挟撃に使う事もできた。



「妾等はそれが非道な行いであると判っていながら、アレキサンドリアの住民全てを人質にして、侵攻を止めさせようとしたのじゃ。

 とはいえ、残念ながら敵将は、歴戦の老将チャンドラグプタじゃ。

 権謀術数にかけては、妾は手も足も出なかったというべきじゃな……」

ん?

チャンドラグプタ……どっかで聞いたなぁ

「ほら、竜をラパ・ヌイに呼び込んだ張本人じゃ。

 ダークエルフの……」

あれ?

でも、その人、紀元前の人で……イプセプス侵略は確か、16世紀だっけ?

「うむ、あ奴は、長寿の特殊能力を持っているんじゃろうのぅ。

 2千年間生きるなぞ、どんなエルフでも無理じゃ。

 あれも化け物よな。

 なんと言ったかの……

 ああ、地球の言葉で、老害という奴じゃ」





でも、結構、その戦術ってアレだよね?

要は、人質立て篭もり犯のスケールを、でかくしただけの話だよね?


「うむ。痛いところじゃな。

 事実、それを指摘されたくないからかのぅ。

 妾達は、アレキサンドリアの住民を使ったラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]挟撃作戦を立案をしていたのじゃ。

 ……もし、やっていたら、確実に失敗しておったがの」

「……」

「まぁ、妾達の意見を、スルターンは笑って却下したから、事なきを得たのじゃが……」

「?」


ヴラドが言うには、2000年間前線で戦い続けていたというだけあって、歴戦の老将チャンドラグプタの戦術、戦略眼は、確かな様だ。

すでにラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、アレキサンドリア陥落と同時に行動を開始していた。

異界門[ゲイト]に精兵を残すと、すぐにアレキサンドリアへと後退、万物構成物質[マナ]貯蔵庫の確保に努めたと言う。


ああ、そうか。

万物構成物質[マナ]貯蔵庫を押さえれば、敵の戦闘継続力を奪う事になるんだ。


「そうじゃ。

 挟撃が失敗した妾等は、1ヶ月ほど篭城戦で時間を稼ぐ腹積もりじゃった。

 しかし、それもあっけなく潰されてしもうた。

 万物構成物質[マナ]が枯渇すると、万物構成物質[マナ]に頼った軍団の機能低下は免れないからのぅ」

地球で言う、石油資源だねぇ。

完全に。

「……んむ。そう、じゃな……

 確かに、その通りじゃ」

「……」

「仕方が無いから妾等は、会談場所を設けて、人質を盾としてラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との早期講和に持ち込もうとしたのじゃ。

 まぁ、この意見も、スルターンは笑って却下されたのじゃがの。

 あれは、最初から読んでいたのじゃな、講和が失敗に終わるであろう……と。

 多分じゃが、もし講和をしていても、妾等主導の講和ではなかったであろうのぅ」



それで、結局、ヴラド達はどうしたの?


「スルターンは、アレキサンドリア郊外でラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]との雌雄を決すると言って全面対決の構えに入っての。

 正直、生きた心地はせんかったのじゃ」


僕にも、その時の様子が共有した記憶で伝わってくる。

えぇと、やっぱり、僕はファンタジー舐めてました。

すいません。

以前、ヴラドに見せてもらった、機械化した戦争のラブラドルVSラパ・ヌイは凄かった。

あの戦争だけが、特殊だと思っていた。

でも、実は違っていた。


いや、なんと言うか。

騎士や魔術師、幻想的な生物の血湧き肉踊る戦いを思い描いていると、足元をすくわれると言うか。


まずはリビングフォートレス。

巨大な昆虫の脚を生やした動く要塞。

前線基地として稼動し、侵略作戦序盤の中枢として活躍する。

後半になると浮遊城と言うのに取って代わられるけど。

やはり戦略指揮と戦術指揮では、違うんだろう。

ゴーレム。

様々な材質で作られた擬似生命体で、その材質により様々な環境下に適応した戦術を取る。

アンデット正規兵。

まぁ、ゾンビやスケルトンの事で、突撃要員だ。




ここまでで、マトモな生命体が介在していない。

ラパ・ヌイに侵略されると、最初に、こんなのを相手にしないといけないワケです。



ある程度の趨勢が決まった段階で、制圧戦に乗り出すわけだけど。

生命体が出て来るのは、これから。

要は、騎士とか、兵士とか、幻想生物とかが、戦場に敷設された簡易転移魔法陣から、出てきて武力制圧……と。

だいたいこんな感じで戦争は推移するみたい。


ある意味では、近未来的な戦争と言えなくも無い。

オートメーション化され、最後の制圧だけに人の血が流れる……。


あー。

こんなのが、家の中にある扉から出て来ると思うだけで、頭が痛くなるなぁ。






さて、閑話休題。

話を、ヴラドに戻そう。


アレキサンドリアを占拠し、住民の全てに呪いをかけたヴォータン。

アレキサンドリアが陥落した事で、リビングフォートレスや浮遊城、ゴーレム、アンデット正規兵といった戦力の拡充をした、ヴラド達、体現者[ムジャーヒド]の部隊は、次の一手として、呪いをかけ、自我を失った住民を人質兼戦力として、戦闘員として組み込んだ。


この段階で、戦力としては、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]を超えていたらしい。

もちろん、錬度は別だが。

「戦いが始まれば、敵味方入り乱れての総力戦じゃ。

 この様な戦いでは、人間1人の力なぞ、たかが知れておる。

 いかなラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]と言えども……

 と、思っておったら、チャンドラグプタも応援を求めたらしくての」


応援?


「うむ、オルビドから来たドラゴン共じゃ。

 あやつらは、ラパ・ヌイの……えぇと……地球で言う南米、中南米に領土を持っておって、独自の文化を築いとるのじゃ。

 もちろん、好んで火山や、迷宮奥深くなどの辺鄙な所に巣を作る者もいるがの」




ドラゴンが援軍として駆けつけてきた……と。

じゃあ、数の有利は覆されたんだ?

「いや、五分五分じゃろうな……多分。

 正直、妾もそこまで全軍を把握しておったわけではないのじゃ。

 なにしろ、地平線まで続く妾達イプセプス軍と、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]……

 アレキサンドリア郊外は、そんな状況下での睨み合いじゃ」


共有した記憶から当時の様子が、僕にも見えてくる。

ヴラドは、浮遊城にいたらしい。

モニター代わりの巨大水晶球には、次々と投下される自軍のゴーレムとアンデット正規兵が映し出されている。


まるで、大空の城ラピュタの1シーンを見ているようだった。

うん、元・人がゴミのようだ。



僕は、そんなのんきな事をいっているけど、その時のヴラドは、かなり忙しかったみたい。


ヴラドは、目の前の事よりも他に、やるべき事があった。

この無謀ともいえる作戦の本来の目的……

空前絶後の大規模な軍勢が睨み合いを続けている中、イプセプス本国と連絡を取り、次元回廊[ラビリンス]の破壊の為の作戦を実行していた。



侵略中のラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]をイプセプスからアレキサンドリアまで後退させた段階で、作戦は八割方、成功していた。

あとは、次元回廊[ラビリンス]を破壊、侵略を頓挫させる事と、無事にスルターンをイプセプスへと帰す事。


最初から、体現者[ムジャーヒド]達は“片道”のつもりだった。

生きて帰る事を前提とした作戦ではなかった。

決死隊どころか、カミカゼ、作戦成功の為の人柱だったのだ。



しかし、唯1人の存在が、この計画変更を余儀なくしていた。

スルターンである、ヴォータンその人である。



作戦を立案したのはヴラドだが、本来の作戦にはスルターンは従軍どころか、軍団の指揮を取る事すら考えられていなかった。

王宮でふんぞり返って親衛隊[エインヘリアル]からの報告を待っているはずだった。


しかし、あろう事かスルターンは、兵士に変装し、ヴラド達と共に行動していた。

発覚したのは、アレキサンドリア入城後、見た事のあるカラス2羽と犬2頭をつれた兵士が居るのを、ヴラドが目にとめたからだ。

ペットが居なければ、気づく事すらなかったのだから、変装の本気度が窺える。


ここに至って、ヴラドは、戦って討ち死にという作戦から“スルターンをラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]包囲網から脱出させる”事を前提とした作戦に変更を余儀なくされる。





だがスルターンの奇行は、ヴラド達を更に追い詰める。




アレキサンドリア郊外に陣取った両軍は、攻めあぐねていた。


ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、人質の安否を気にするどころか、意識を失い、操られるままに槍を向け、魔法を放つ家族に戸惑っていた。

上層部は人質になった経緯、何があったかは魔法で知る事が出来たが、解呪の為にも時間が必要だった。


体現者[ムジャーヒド]決死隊は、スルターンを逃がすため、敵軍の守りの薄い箇所、タイミングの検討と、更なる情報収集。

しかし、その為の人手が足りなかった、圧倒的に。




それは、両軍が睨みあって、数時間後。

「一触即発という状況じゃった。

 そんな中、スルターンが舌戦を始めようとしてのぅ。

 ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]には、そんな常識は無い、意味がないと言って下がってもらおうとしたのじゃが、コレも聞き入れてもらえなんだ」


舌戦って言うと……幾つかの三国志を題材にしたゲームに登場しているアレ……だろうか?

戦闘に入る前に、お互いの言い分、義を語り合うっていう……?

「おお、それじゃ」

イプセプスでは、それは普通だったの?

「うむ、まず最初に舌戦ありきじゃ。

 不意打ちなぞはもってのほかじゃ」


でも、それって拙くない?

ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]は、スルターンがヴラド達と一緒に居る事を知らないんだよね?

舌戦なんてしようものなら、わざわざ敵に、総大将が死地にノコノコやって来てるって、ばらす様なものだよね?

「その通りじゃ……

 じゃが、そう言っても聞き入れてくれなかったのぅ……」


何故なんだろう?

「まぁ、おいおい判るのじゃ。

 話を進めるぞ?」



結局、ヴラド達の反対を押し切り、舌戦は行われた。

ヴォータンと対するは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]総司令・チャンドラグプタだった。

「話の内容は、まぁ五分五分じゃ。

 スルターンが義を語れば、チャンドラグプタは人質を放せと言う。

 チャンドラグプタが侵略を正当化すれば、スルターンは、人質を保護しているのだと言う。

 じゃが、まぁ、たった1つだけ、決定的に違った事があっての」

「……」


「のぅ、お主様、戦争と言えど、やって良い事と悪い事がある。

 もちろん、ここで道徳を出すつもりはないぞぇ。

 異世界同士の戦争には、何の取り決めも無い。

 そもそも、世界法則[リアリティ]が違うんじゃ。

 常識そのものが通用するはずあるまい。

 この場合の戦争においてやってはいけない事……

 それは、味方の士気を下げる様な下策をせぬ事じゃ」

「……」

「その点でのみ、チャンドラグプタは愚昧であったな。

 下々の兵士の事を判っていなかったんじゃ。

 いや、それとも、あの時、無能な者どもを、ついでに一掃しようかと考えておったのかもしれんのぅ」

「?」

どういう事だろう?


「どうもイプセプス侵略作戦を立案したのは、人質となった貴族達のようでのぅ。

 あまり、良い作戦ではなかったようじゃ。

 まぁ、妾等の急襲を防げぬほど、王都の防備を疎かにしたのじゃ、その罪は万死に値するじゃろ」

文官と武官の対立みたいなものかな?

シビリアンコントロールも、作戦立案まで口を挟んで来る程、行き過ぎると“1匹の羊に率いられた100匹の狼”になりかねないと思うんだけどね。




「まぁ、あやつが愚昧で無い事は歴史が証明しておるが、あの時ばかりは助かったのぅ。

 お主様の、知識にある通り、立て篭もり犯に対するのに必要なのは、時間と忍耐力じゃ。

 場合によっては、犯人の要求を呑まざるを得ない時もあるじゃろうしの。

 しかし、チャンドラグプタは妾等をテロリストと同様に処理した。

 妾等の要求は全て呑まない。

 その結果として、人質全てが死のうとも、クンガヌ・マヌイは敵と取引はしないと……な」


そういう事か。

要は兵士達の目の前で、人質となっている家族を殺しても、要求は呑まんと言った訳だ。

当然、家族を人質として取られている兵士達に動揺が走る。

誰もが次の報復は、体現者[ムジャーヒド]決死隊が、見せしめとして人質を殺すだろう。

そして戦闘へと流れ込む……。

そう思ったはずだ。

「普通なら、そうなる筈じゃった」ふぅ

「?」

「スルターンは、自分が注目を集めた、その瞬間を狙っておったのじゃな。

 再び、呪いをかけたのじゃ。

 今度はラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]全軍に」


は?


「何人かは抵抗した者もおったが、焼け石に水じゃ」


待って。

ナニソレ、そのチートっぷりは。


「うむ。

 あれは、神算鬼謀、機知奇策、思わず投げ捨てたくなる瞬間であったな。

 ……恐ろしいワザじゃ」


ていうか、ヴォータン1人で、力押しできるんじゃ?

「その通りじゃ。

 妾等もこれで、異郷の地で散る事無く、生きて再び祖国の地を踏む事ができると思ったものよ」


でも。

「そうじゃ。妾等の想いは裏切られた」

「……」



「妾等だけではない、配下の兵士、守るべき民草、世界を……

 奴は……、あやつは、イプセプスそのものを裏切ったのじゃッ!!」



激昂するヴラド。

怒りよりも苦しみ、悔しさが見え隠れする。

いったい、何があったのだろう。


「呪いをかけられたのは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]だけではなかった。

 妾等、体現者[ムジャーヒド]決死隊も同様にかけられておった。

 幸いというか、残念ながらと言うか……妾は、スルターンと別の呪法による繋がりがあっての。

 呪われる事は無かったのじゃ」




ヴォータンは、全ての人を自らの呪いの元に置くと宣言した。


「余が新たなるラパ・ヌイの支配者、ヴォータンである」と。




自らを、そう名乗ったヴォータンは、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]に命令を下す。




「イプセプスを侵略せよ。完膚なきまでに破壊せよ」と。




……。


なんじゃ、そりゃ?

僕の思考は、一旦停止した。

は?

何故?

意味が判らない。


何故、自分が支配している世界を滅ぼそうとするのだろう?


何だ?

この奇行は?

ヴラドでなくとも、言うだろう。


何故?




「判らぬのじゃ……

 何故、あのような奇行に走ったのか、妾には全く判らんのじゃ……」



ヴラドは、ヴォータンにワケを聴こうとするが、それを果たす事はできなかった。



ヴラドが震えていた。



僕はヴラドを抱きしめる。

強く。


この謎が解き明かされぬ限り、ヴラドは復讐を止める事などできないのだろう。






その後、ヴラドは、共に従軍していた兄の手をかり、その場からの脱出を図る。


ヴラド達に幸運だったのは、その時にはラパ・ヌイの次元回廊[ラビリンス]は異界門[ゲイト]ごと破壊されていたという事。

イプセプス側兵力にも、多大な犠牲が出たものの、2度と使用できない状態になったらしい。


問題は、イプセプス側の次元回廊[クレパス]で、作ったのがヴォータン自らなので、現在の活動状況や、場所が判るらしい。


「イプセプスを守る為には、妾が先回りし、次元回廊[クレパス]を破壊するしかなかったのじゃ」




あ。



その時、僕の脳裏に確信めいた答えが浮かんだ。

もしかして、ヴラド、僕の家の内蔵にある異界門[ゲイト]って……。



「そうじゃ。 ヴォータン自らが作った異界門[ゲイト]じゃ。

 本来ならば、イプセプス⇔ラパ・ヌイ間を繋いでおるはずの……な」



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