酷薄な告白
まぶしい。
陽の光が、僕を照らす。
良く見た天井、僕の部屋だ。
まぶしいのは太陽の光が、僕の顔に当たっているから。
ああ、カーテンを閉めてなかったからか。
陽の光は好きじゃない。
本が傷む。
「時雨……」
「ヤシロ」
「お主様……」
起きた時、伊織、雲雀、ヴラドの3人が、僕を見下ろしていた。
誰もが心配していた、という顔をしている。
それが嬉しいという事と共に、申し訳なく感じる。
おはよう、心配かけてゴメン。
「――――――――――」
僕の言いたかった事は、言葉にならなかった。
口からは、ヒュー、ヒューと息が出るだけ。
あれ?
治ってない……。
(おかしいのぅ、治っておらん……)
赤スライム、手を抜いた?
(いや、それはないはずじゃ……)
ヴラドが、皇國代理天で作った擬似生命体、無差別テロ用粘体戦隊スライムファイブ・リーダーの赤スライム(長いなこれ)の能力に、僕限定の治癒能力がある。
これは、スライムの作成に、僕の遺伝子を使っている為の恩恵だ。
要は、甚だ不本意だけど、粘体戦隊スライムファイブにとって僕は仲間という位置づけらしい。
だから、治癒と言っても傷口を治す程度だ。
「ん、ん」
咽喉が治ってない。何で?
「おかしいのぅ、再生槽で傷は塞いだはずじゃし、何が足らなんだのじゃ……」
「どうした?」
「傷を塞いだのに、喋れないの?」
伊織と雲雀が口々に聞いてくる。
ヴラドは、僕の現在の状況について話をする。
皇國代理天で首を切られた事、再生槽での中の事、赤スライムの治癒能力の事、109の診断結果の事。
「首を切られた?」
雲雀の顔が、驚愕で歪む。
「誰がやった?
殺しに行こう、今すぐ」
顔が、怒りで真っ赤に染まり、立ち上がった彼女を、僕とヴラドで止める。
「待て!落ち着くのじゃ!
既に犯人は逃亡しておる、無意味じゃ!」
「んー!んー!」
「……」
伊織は何か考えているみたい。
「質問」
僕とヴラドは伊織の方を見る。
雲雀は、すぐに冷静になったのか、座り直してくれる。
伊織は、コホンと咳払いし、話し始める。
「よほどの事がない限り、再生槽は確実に傷を治す。
不具合が出た場合、それ以前に原因がある可能性が高い。
咽喉を切られる前、何かあった?」
「ああ、それならば……」
僕とヴラドは、すぐに思い当たる事があった。
それは、108の事。
再生槽に入る前と、出た時の事。
「そう……、トーヤが……」
……誰さ、トーヤって。
僕の不満は顔に出たらしい。
「108のコードネームだ。
私は“伊織”と言う名前を、ある人から貰った。
その時の名前のつけ方と、同じ様にして108につけた」
ムカムカする。
ノートPCと液晶モニター2台は、仏間から僕の部屋に移動してあったので、僕は、108がした事を、ある事無い事話した。
その度に、ヴラドが訂正していたが。
くそぅ。
(あまり、人を貶める物言いは感心せんぞ、お主様。
話せば話す程、お主様を小さく見せる結果となる。
ただ事実のみを話すのじゃ)
うう、あいつは嫌いなんだよ。
(判らんでもない。
妾だって、今度あったら殺す。
間違いなく)
せめて、顔が伊織と同じでなければ良かったのに……。
でも、まぁ小さく見られるというなら、もう止めよう。
ああ、でもやっぱり、ムカムカする。
「時雨、すまなかった。まさかトーヤが、その様な事をするとは思わなかった……。
トーヤの行いは、明らかに部下としての行為を逸脱しているし、何よりも上司である五十鈴を裏切っている。
今度あったら、私が首をはねる」
「そうして欲しい物じゃな」
あはは。
伊織にしては、過激な冗談だった。
それが、冗談でなかったと知るのは、少し後の話だが。
「で、今の話は、何かヒントにはなったかや?」
「私、パス!」
雲雀はお手上げ。
「……入力装置……麻痺、原因は声帯の異常……」
伊織は、しばらく考え込んでいる。
「あ」
しかし、何を思う所があったのか、僕の首に両手を伸ばしてくる。
「?」
「動くな」
両手は、僕の首を絞め……
「おい、御主、何をしておるのじゃ!」
ヴラドが止めさせようとする。
「黙って見ておく」
伊織はヴラドに言い放つと両手で首を絞める。
「何か話す」
伊織が、僕の目を見て、手に力を入れる。
「いや、そんな事言われても……
お願い殺さないで、ぐらい?」
あ……。
話せれる……。
「凄い、喋れる……何で?」
「な、どういう事じゃ?
何故、首を絞めたら話せれるようになったのじゃ?」
ヴラドは納得いってないみたい。
「クララが立った!じゃなくて、時雨がたったッ!!」
「何がよ?」
「ナニが」
「あー、雲雀は、またオヤジ臭い事を……」
そう言って、僕は自分自身の姿を見ると、裸。
え?
下着も着てません。
ケロイド状の気持ち悪い皮膚、アマゾンの密林の様な毛深い剛毛、黄土色の死んだ肌。
それらの下、でかい腹の下から、更にでっかい奴が。
仕方ないよね。朝だし、寝起きだし。
男の子の証拠ですよ。
雲雀も、伊織も、ヴラドも。
3人がガン見していた。
「お願いです、恥じらいで顔を背けるとかして下さい」
「えー、だってそんな、ねぇ」ごくっ
「これが獣の本性……」
「うむ、いつ見ても立派じゃの」
僕は急いで、肌を隠す。
恥ずかしい、不気味だ。
「うう……見ないで。
それより、僕の作務依は?」
「洗ったよ」と雲雀。
「僕の下着は?」
「保存……」と伊織。
「お願い、返して、洗わせて」
「仕方ないでしょ。
いつまでも血をつけたままだと、固まって洗ってもなかなか落ちないし」
「証拠隠滅すべき。
体液からの情報流出は避けるべき」
「旨そうじゃったが、まぁ、TPOじゃったか?を考えるとな……」
三者三様の事を言う。
もう、下着は諦める。
話を変えよう。
「何で声が戻ったんだろう?」
僕の疑問に、雲雀とヴラドの視線が伊織に集まる。
「……」
伊織は、何を思ったのか、立ち上がると、僕のベッドに乗り、僕を後ろから抱きかかえるようにして、背後から首に手を回す。
「あ」
僕の背中に、伊織のスレンダーな胸が当たる。
僕の身体はいち早く反応し、更に硬直、天に向かって雄々しくそそり立つ一品が、タオルケットの上からも判る。
「……おぬs」
「……あn」
伊織は、雲雀とヴラドが、何か話しだそうとした瞬間を狙って話し出す。
「時雨が声を出せなかった理由は、単純な話」
「え、そうなの?」
「そう」
完全に出鼻をくじかれた雲雀とヴラドの2人は、口を噤み、聞く体勢に入った。
「時雨の咽喉に、トーヤが仕掛けた入力装置は、バッテリー内蔵型の物」
伊織は、そこで一呼吸を置いて、より僕と密着度を上げる。
あああ。
ヴラドと雲雀の額に青スジが……。
ちら、と横目で伊織を見ると、久しぶりの“どや顔”をしていた。
「木下藤吉郎の攻撃は、時雨の咽喉を斬った。
その時に、入力装置にも何らかのダメージがあったものと推測」
「ほぅ」
ヴラドは感心している様だ。
立ち上がり、やっぱり殺しに行こうと言っている雲雀の手を握り、放さずにいる。
「質問じゃが、その入力装置が壊れた事が原因で、時雨は声が出なくなったのじゃな?」
「そう。詳しく言うと、入力装置に附随したバッテリーの漏電が、神経に影響を与えている」
「あー!!判った、そういう事かぁ」
僕も声を挙げる。
何の事はない、モヒカン店員とやっている事は同じ、もしくは、108の仕掛けた麻痺トラップが永続していた様な物だ。
「ねぇ、原因は判ったけど、何で女狐がヤシロの首を絞めると、声が出るわけ?
ていうか、私も締めていい?締めさせて?」
「駄目です」
雲雀の意見は却下する。
「ちぇー。女狐、アンタ、ズルくない?」
「ズルくない。正当な報酬」
「キーッ!昨日はキスしてたし、今日はずっと寝顔、見てたじゃないッ……」
あ、だんだん雲雀のテンションが変な方向に。まずい。
「ひ、雲雀?
あとで、焼肉をしようと思うんだけど、ど、どうかな?
ほら、今まで花見なんてした事無かったから、花見も兼ねて」
「花見!?それ、ナイスアイデーアー♪
うん、いいよ、じゃあ、私、台所d」
「少し待つのじゃ、話を全て聞いてゆくが良い。
もしかしたら、花見どころでは無いやも知れぬぞ?」
え?
僕はヴラドの方を見る。
もしかして、ラパ・ヌイの侵攻はそこまで来てるのか?
昨日、帰って来てからのヴラドの様子だと、まだ時間はありそうだった。
僕が死に掛けていたという状態だったとはいえ、感覚同調や知識共有の結果、ラパ・ヌイ関連についての焦りや憤りは感じなかったけど……。
準備期間のタイムリミットは4日と言っていた。
今日、敵は来る。
(安心せい、お主様。
ラパ・ヌイについては後で話す。
ちと、奇妙な状況になっておるようでのぅ)
奇妙な状況?
(敵の侵略の兆しが見えんのじゃ。
かといって楽観視できるわけでなし。
一旦ラパ・ヌイで情報を集めようと思ってのぅ)
じゃ、じゃあ、もしかして侵略は……。
(まだ、早計じゃ。
来る筈の者が来ない、おかしいとは思わぬか?)
あ、ああ、うん。
(そこで、その者達の力を借りたいのじゃ)
え……雲雀と伊織?
(だから、必ず墜とすのじゃ。癪じゃが、認めよう。
お主様のハーレムに、この2人を加えるのを)
いや、別にヴラドの許可はいらないn
(五月蝿いのじゃ!
妾の心の平静の為にも、今は語りかけるでないっ!)
は、はひ……。
なんだろう。
気のせいかな?
今日のヴラド、何か微妙に元気がなさそうな……。
……。
あの日かな?
(妾に、そんな日は無いッ!!)
珍しくヒステリックな返事が返ってきた。
ヴラドに脅され、再び、座りなおした雲雀が、先を促す。
早くもったいぶらずに喋れ、焼肉が私を待っているんだYO!
そんな感じ。
「で、何で、首絞めると話せるようになるの?」
「企業秘密」
いつもの伊織だ。
「……」
「……」
「……」
「舐めトンのか、ボケェッッ!!」
「落ち着けッ!小娘ッ!!」
「どーどー、落ち着いて、雲雀はいい子だから、落ちつこーねー」
瞳を攻撃色に染めた雲雀を落ち着けさせる。
どうも、お腹が減っているみたいだ。
機嫌の悪さがそれを証明している。
「質問を変えるかのぅ、伊織。
どうすれば時雨は、普通に話せる状態になるのじゃ?」
「バッテリーの破壊」
「ならば、魔法d」
「それは駄目」
「何故じゃ?」
少し剣呑な雰囲気でヴラドが訊ねる。
「バッテリーには生体部品が使用されている。
ヴラドが使ったという肉体の組織再生で一体化している可能性を考慮すべき。
魔法と皇國代理天の技術の相性は悪い」
「はっ、何を馬鹿な事を」
失笑するヴラド。
「屈強な営業侍がいた。
しかし、異世界の魔術師に疲労回復の魔術をかけられ、死亡している」
「なんじゃ、それは?」
「死因は心臓発作」
「……疲労回復というと、栄養物質の補給か、血流操作かのぅ……」
「魔術師は、血流を操作する事で、疲労回復の速度をあげる魔術を掛けたと、その事例には記されていた」
「ふむ……心臓発作の間接的な原因はなんじゃ」
「魔術師が言うには“営業侍には心臓が無いから、魔術が正常に作用しなかった”そうだ」
「心臓が無い……?
どういう事じゃ?」
「24時間戦う為に、強化心臓に変えた結果。
人工物だったのが災いした」
ああ、そういう事か。
ここでやっと僕も、納得できた。
「確かに相性、悪いかもね。
ファンタジーとサイバーは……」
「良く判ったわね、ヤシロ。
私、意味が判んないんだけど」
「魔術や魔法での常識が、技術に追いついてないだけだと思うよ?
例えば、今の話だと、魔術師は回復魔法じゃなくて、機械式ポンプの性能を上げる魔術も同時に使わなければいけなかったんじゃないかな……」
「ナニソレ」
「使用された魔術で、心臓をどのように定義しているのか知らないけど、人工心臓は心臓として魔術では認識されなかったという話だね。
だから、そんな状態で血流操作を使用したら、心臓の中に過剰に血液が溜まったり、反対に無くなったり……」
「えーと……とりあえずメンドクサイのね?」
「あー、うん」
「だから、時雨のバッテリーを、魔法で破壊はさせない」
「む……仕方あるまい……ならば、他に手はあるのかや?」
「微弱な電流を咽喉元に流し続ける」
「えぇと、それは人工咽喉の原理と一緒かな?
それなら簡単そうだ。
買えばすむよね、いくらだろう?」
僕は、ノートPCで調べようとするが、伊織が止める。
「皇國代理天に行って再生槽に入るだけで戻る。
YENの無駄使い」
「咽喉に電流を?
ふむぅ、原理さえ判れば、魔法で何とでもなるのぅ。
魔法万能主義は嫌いじゃが、仕方あるまい」
「どうする?」
「なに、話は簡単じゃ。
要は電流が流れ続ければ良いのじゃろ?」
「そう」
「ならば、雷撃の攻撃魔法【ライトニングボルト】を咽喉元で永続化すれば……」
「言葉の意味は判んないけど、多分死ぬよ。それ」
僕は急いでダメだしする。
「あぁー、もう!!じゃあ、どうするのよ!
あれもダメぇ、コレもらめぇじゃ、結局、打つ手無しじゃない。
焼肉どうするのよ!私の味噌汁は!?」むきぃッ
「手はある」
「どんなのよ?」
「時雨に首輪をつける。
バッテリー内蔵型」
「そんなので良いの?」
「車の中に変声機がある。それを改造」
「じゃあ、もうそれで決まりで、いーじゃん。
どうせ、暫くしたら、女狐の故郷で治すんでしょ?」
「……」こく
「じゃあ、私とヤシロは焼肉と花見の準備、女狐は首輪作成、銀髪ロリは開かずの扉の監視!」
「あー、それなんじゃが、今はラパ・ヌイの侵略は考えんで良いのじゃ。
それより、焼肉なら、妾の知り合いを1人連れて来たいのじゃが……構わんかの?」
ヴラドは僕を見る。
「いいわ!連れて来なさい。
炭は買ってあるし、野菜は大丈夫!
それにケバブ肉も冷凍してあるから、今日は喰い放題よッ!!」
「いや、御主が仕切ってどうする。
家主の意向をじゃな……」
「う、あ、その、実は皆に話したい事が……」
僕は、この今しかないチャンスを活かす事にする。
「あによ?」ギロ
うう。
やばい、雲雀の機嫌が悪い。
「そ、その、話せる今のうちに、こ、告白の返事をしたいんだけど……」
「「返事……」」
雲雀と伊織に緊張が走ったのが見て取れた。
かく言う僕も、実は汗がダラダラと出始めている。
余裕なんて無い。
これから、楽しい焼肉の前にやるような話ではない。
でも、焼肉の後に「あの時は良かった」なんて思うような事はしたくないから。
幸せな気分に浸りたいから。
上手くいく可能性は低い。
雲雀は怒るだろう。
伊織は悲しむだろう。
ヴラドは、賛成してくれたけど、もう一度、正式に聞こう。
「い、今じゃないとダメ?」おど
「できれば、気持ちが固まっている時がいい」
「時雨、返事の前に、首を絞めていいか?」ぎゅっ
「やめて」
「せめて、焼肉と赤だし、たらふく喰うまで待って」
「妬け食いしないで」
「唐突過ぎるのは良くない。もっと考えるべき」
「コレでも考えて出した結論なんだよ」
「た、楽しい思い出は多い方が、良いと思わない?」
「これから作れるよ。多分、いや、きっと」
「私を好きと言えば、首を絞めるのを止める」
「うん。判った」
「雲雀が好き」
「――ッ」
「伊織が好きだよ」
「ふぇ」
「ヴラドも好き」
「……」
「3人が好きです。
選択できませんでした」
「最悪」と雲雀。
「それは2重契約では?」と伊織。
「……ふぅ」とヴラド。
三者三様の反応だった。
確かに、最低だなぁ。




