表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
61/169

もしかしたらお主様は、地球に帰還できぬやもしれぬ


「もしかしたらお主様は、地球に帰還できぬやもしれぬ」

え?


どういう事?




「今から、地球に帰る事になるんじゃがの……」

うん。

僕は、首を縦に振り、了解を示す。

「実は、1つ問題があるの」と五十鈴さん。

「これは、地球側の問題じゃ」とヴラド。


「地球の世界法則[リアリティ]の1つ、保存の法則がもしかしたら、変な動きを強いて来るかもしれません」

「?」

一瞬、強いられてるんだ!とやりそうになったが、自重する。

空気を呼んで、真面目にする。


どういう事?とヴラドに顔を向ける。


それに答えたのは、五十鈴さん。

「我々が呼称している、地球の世界法則[リアリティ]の1つです。

 保存の法則……、質量、エネルギー、運動量などといった全ての物理的な現象を、数値式で等分できる法則です」

あ、ああー、質量の総和が一定である……質量保存の法則とか、熱力学法則……物理学の事か。

「……」

いや、待てよ。

保存の法則……本当に物理的現象だけを保存?

生物学も含まれるんじゃ……、それどころか、物質だけの話ではないのかも……。

「……」

様々な思考法。

存在しない生命体や伝承なども、多種多様な……もしかしたら……概念の保存……。




「……」

あっとリアクション忘れていた。

えーと、ヴラド?

「……」

ヴラド?

呼びかけてもへんじがない。ただのしかとのようだ。

「?」

どうしたんだろう?

僕の通訳をしてくれているヴラドがさっきから黙ったままだ。

「……」

「え、えーと、お主様、急に難しい話をされても妾には判らぬ。

 すまぬが、ホワイトボードを使うのじゃ」

急に、ヴラドが通訳を放棄してしまった。

あー、そうか。

科学に関する事は、もしかして苦手なのかな?



僕は、ホワイトボードに皇國代理天の書式で書き込む。

『保存の法則とは、物理学の事ですか?』

「そうですね……。

 それも、多分、含まれます」


『だとしたら、量子学では、質量保存の法則は、短期間ではありますが、変動します。

 絶対の数値式ではありませんよ?』

「はい、それに期待したいのですが……」

「?」

「……」

黙ってしまう五十鈴さん。



『すいません。

 言っている意味が判りません』

「そうですね、簡単な話ではあるんですが……」

「?」

「地球と言う世界から、八代時雨94kg分の質量が消え去った。

 地球の世界法則[リアリティ]は、それを許さない。

 地球側は、それをどうやって解決するか、です。

 質量保存の法則……質量の総量は、常に“同じでなければならない”に対してどのような解決を示すか、です」

え、あれ?質量保存の法則って、なんか意味違うんじゃ……?


「いや、ニュアンスはあっておると思うのじゃ」とヴラド。

ニュアンスって……。

言葉尻を捕らえて、問答されても……。

「地球の世界法則[リアリティ]は巧妙に作られておると見るべきじゃ。

 防御に特化した、世界法則[リアリティ]なのかもしれん」


えーと、ちょっと待って。

僕はホワイトボードに時間くれと書く。

『まとめさせて』


保存の法則っていうのは何?

ヴラドに聞く。

「うむ、地球の世界法則[リアリティ]下において、質量の変動は、行う事は出来ない。

 どのように形質が変わろうとも、必ず総和は同じ、総量は一定である」

と、ヴラドが答え、五十鈴さんの方を見る。

「ええ、簡単に言うとそうなります」



うーん。質量保存の法則みたいな物で、良いのか?

より、マクロな視点って事だろうか?


いや、だけど、質量って物を語るなら、一番ミクロの視点、○○○○○の話になるわけで……。




質量が無くなるという事は、物理学的に見て、どういう事か?


そもそも質量というものは、○○○○○○が無ければ、存在できない。

質量を質量たらしめているのは、○○○○○が質量を持っているからだが、○○○○○が質量を獲得するに当たり、必要不可欠なのが、○○○○○○であり、○○○○場だ。

あー、ここら辺も存在否定されてる。

というか、だんだんと霞が……、この考え方も理解不能になっていく。

皇國代理天にも、○○○○○……、原初の大爆発の話は無いのか。

存在否定されている。


世界が「禁則事項です」ってやってるのは、仕方ないから置いておくとしても、ナノテクみたいな科学力があるのに○○○○○についての知識が無いと言うのはおかしく無いか?

まぁ、少しいびつな発展をしているのは、仕方が無いとしても……。




「お主様、お主様」

「?」

ん?

なに?ヴラド

「ちなみに、知識共有で知る限り、それはヒッグス粒子と素粒子じゃ。

 あと、ビッグバンとはなんぞや?」

そう、それ!

……だと思う。

「妾の知らない言葉ばかり使うでない。

 理解するのが難しいのじゃ」


でも、ヴラドは、僕が言いたい概念を指摘できるんだ。

今度から、存在否定された物がある時は、ヴラドに思い出してもらおう。

自動翻訳に外部記憶装置つきだ。

下手をするとサトラレくんだけど。


「お主様?話が明後日の方向に、飛んでいこうとしておるのじゃ。

 少し、五十鈴殿と話した内容を語っておくとするかの。

 それから話を纏めると良かろう」


そう言ってヴラドは五十鈴さんに話をするように促す。


「まず……体現者[シュトゥルム]でしたっけ?」

五十鈴さんがヴラドに尋ねる。

「うむ、地球に住む体現者は、全員、その名で呼ばれる。

 出身地は違えど……な。

 地球の守護者[ガーディアン]は、役職名みたいなモノじゃ」

ヴラドが、何か補足説明をしている。


皇國代理天の世界法則[リアリティ]に邪魔されても、僕と知識共有できてるヴラドは、昨日の五十鈴さんと、僕の話を踏まえたうえで、会話をしてくれているようだ。

地球の守護者[ガーディアン]は、役職名って……、よくも、まぁ、そんな大風呂敷を……。




「すまぬの、話の腰をおって。

 続けて欲しいのじゃ」

「では」

五十鈴さんは、再び話しはじめる。

「地球についた体現者[シュトゥルム]は、必ずといって良いほど、死の危険に晒されます」

「?」

「地球が存在否定を行うのです」

五十鈴さんが言うと、ヴラドが頷いた。



え?

あれ?

でも、一昨日の話だと、存在否定を起こすのは、概念が無い場合だけって、ヴラドは言っていた……。

「うむ。本来、体現者[シュトゥルム]は、そんな事は、起こらないのじゃがな……」


確か、体現者[シュトゥルム]は、異世界の世界法則[リアリティ]に存在否定をされても、自分の出身世界の世界法則[リアリティ]で守る事ができるんだよね?

僕は、ヴラドに目と心で窺う。

「そうじゃ」

ヴラドは答え、五十鈴さんを見る。



「はい、時雨君も知っての通り、体現者[シュトゥルム]は存在否定をされても、自らを世界法則[リアリティ]で守る事が出来ます」

僕の疑問に五十鈴さんは答える。

「それに時雨君も、地球の概念の多様さは、判っていると思いますが、本来なら地球で存在否定は起こりません」

これも一昨日、ヴラドに聞いた話だ。



だからこそ疑問が生まれる。

『じゃあ、何故?』

「出発点は、そこですね。

 皇國代理天もニューエルサレムも、地球を侵略した異世界は、必ず慎重にならざるを得ないんですよ」


「まぁ、そうじゃな。

 体現者[シュトゥルム]ですら、存在否定される。

 ではいったい、どのような世界法則[リアリティ]が、働いているのか、調査はしないといけない。

 ……となるのぅ」


「ええ、その為、地球に来た体現者[シュトゥルム]は、生き残る為にも、最初に地球の世界法則[リアリティ]の獲得を行います」

「そうじゃな。

 妾も最初は、攻撃的な世界法則[リアリティ]じゃのぅ……と思うておった」

ん?

あ、そうか。

僕は、ヴラドと会って、すぐに気絶しちゃってたんだ……。

だから、ヴラドを助けた後の事は、覚えて無くて当然か。




「昨日、時雨君にはお話したと思いますが、私達の研究では、地球の世界法則[リアリティ] には、寛容な面と容赦ない面の2面性を持ちます」

そういえば、言ってたなぁ。

「地球の容赦のない部分が、この保存の法則なのです」


「正直、妾も五十鈴殿に言われるまで、地球の世界法則[リアリティ]が、ココまで巧妙な物じゃとは知らなんだ」

ヴラドも妙に感心している。

というか“己を知り、相手を知れば、百戦危うからず”を字で行くなんて、皇國代理天……恐ろしい子!


『それで、保存の法則と言うのは、どういう物?』

「先程、ヴラド君が言った通りです」


『総量は常に一定……と言う事ですね?』


「そうじゃな。

 じゃが、何故かは判らぬが、地球の世界法則[リアリティ]を所得すると、地球はその質量を受け入れてくれる様じゃ」

そうなんだ……

ん、あれ?

でも、おかしくない?

「?」

地球の世界法則[リアリティ]、保存の法則は、総量は常に一定……と言う物だよね?

「うむ」

体現者[シュトゥルム]の分だけ、総量自体が変化するんだけど……?

「そうじゃな。それは、妾も判らぬ。五十鈴殿に聞くのが良かろう」

丸投げですか!


「五十鈴殿、我が主が、体現者[シュトゥルム]の分だけ、総量自体が変化すると言っておるが……」


「説明しましょう」

と五十鈴さんが、話し出す。

ああ、ここは月見里さんだったら、「説明しよう!!」とか言って、嬉々として分けの判らない事するか、「なぜなにひばり~」とか言って、人形劇をやりだすところだ。


「ヴラド君の言った事は、正確には、少し違います」

「……」


「正確には、質量を受け入れる……

 地球の質量として、加算されるわけではなく、保存の法則の計算外として放置されるわけです」

「まぁ、世界法則[リアリティ]を獲得する事で、存在消滅が起こらんのならば、体現者[シュトゥルム]なら、誰でもそうするじゃろ。

 問題は、体現者[シュトゥルム]でない者達じゃ」

「そうです。体現者[シュトゥルム]でない者は1人残らず、存在否定され、消滅をします……」

あ……

「妾も、最初は、攻撃的な世界法則[リアリティ]と思うておったが、話を聞くと、なるほど、防御的な世界法則[リアリティ]じゃと気づくのぅ」

「それは、人間以外の物にも当てはまります。

 質量を持つ物はすべからく、この法則からは逃れられません」


えーと……。

『じゃあ、地球の世界法則[リアリティ]がある内は、体現者[シュトゥルム]以外、侵略できないという事……?』

「そうです」

「最初のうちだけじゃがな」とヴラド。

今の言葉が真実なら、ラパ・ヌイからの防衛に、少しは光明が見えてきた。

そして、僕の帰り道に暗雲がたちこめ始めた。





今までの話を総合すると、こうだ。


地球という名の水を張った水槽がある。

水槽の中には、人形が入っていて、水は満杯だ。

水槽の外には、体現者[シュトゥルム]と名札のついた人形が置いてある。


この地球と言う名の水槽は、少し変わった癖がある。

何があろうと常に、水を満杯にしようとするのだ。

そして、この水が満杯の時は、水槽に何を入れようとも、入らない。拒否される。


さて、この水槽から、時雨と名のついた人形を取り出し、別の水槽に入れる。

すると、水槽の水は、人形の分だけ少なくなる。


これが、現在の状態とヴラドと五十鈴さんは言うわけだ。

「そういうわけじゃな」

ヴラドが答える。

五十鈴さんにも、まとめた事をホワイトボードに書いて確認する。

「はい。その通りです」



「で、問題はココからじゃ」

「はい、本題はココからです」

「体現者[シュトゥルム] は、保存の法則の計算外として放置じゃが、純粋な普通の地球人は、どうなるのかや?」

あ、やっぱり。


「……」

「考えられるのは2択じゃな。

 1、存在否定され消滅。

 2、何とも無い。

 のどちらかじゃが……」


『でも、最初に、僕の分の質量が地球から消えてるんだよね?』

「そうじゃ」

じゃあ……大丈夫なんじゃない?


「それに対して、地球がどのような対策をとっておるか、なんじゃ」

「?」

「つまり消えた質量を、地球が自前で用意すれば、時雨君という質量は必要ない、と言う事。

 つまり、リストラね」





さて、水槽の話だ。

問題となるのはこれから。

先程の水槽の説明の通り、今の水槽には、時雨人形分の空きがある。

そこで、水槽は水を追加注入して、水槽の水かさを満杯にしたかどうか。

それが争点となる。




うぇ?

ちょ、ちょっと待って。

『リストラは良いとしても、どうやって自前で用意するの?』

「そこじゃ」「そこね」

「?」


「別の世界に、質量を持っていかれたなら、どっかから同じだけ、持ってくれば良いじゃろ?」

「まぁ、そうなるわね」

「で、妾の勘じゃが、別の異世界から持ってくる、じゃ」

「そうね、そうして持ち込まれたのが、オーパーツではないかと私達は結論づけてます」

「それしか、なさそうじゃな……お主様だったら別の説はあるかや?」

ちょっと期待に満ちた目で僕を見ている。





さて、先程の水槽の話に戻ろう。


ヴラドや五十鈴さんの言いたかった事は、時雨人形94kg分の水かさが減ってしまった水槽が、自前で水を補給したか否か?という話だ。

2人の意見は「自前で補給した」という物。

水槽の外を見れば、体現者[シュトゥルム]人形が置いてあり、これを水槽に入れると、水かさが元通りに!

その状態で、時雨人形を水槽に戻そうとすると、不思議な事に水槽に入れない!

そんな感じ。




だけど、僕の考えついた水槽の話は、違う。

上手く、言葉にできないけど。


水槽は1つだけでなく、時雨人形のいた水槽、地球以外にも無限に水槽があり、水が容量いっぱいに入っている。

水槽の外に転がっていた体現者[シュトゥルム]人形は、実は、時雨人形94kgと同じ水槽、地球に入っている。

時雨人形が、隣の水槽の皇國代理天に移動しても、溢れ出た水は、時雨の居た水槽、地球に入るだけ。

逆もまた叱り。


だから、大丈夫。

と思うんだけど。


なんで、他の体現者[シュトゥルム]人形が移動しようとすると、水槽に入れないのかとかの説明ががが……



別に、水槽の話じゃなくても、全質量なんて判っている事は殆どない。

暗黒とか未知のエネルギーとか……。

そんな名前を与えて……、これも、存在否定された知識だ。

えーと、うーんと、やっぱり大丈夫なんじゃあ……。

「ん、何故、そう思うんじゃ?」

「どうしたの?」

と訝しげに五十鈴さん。

「うむ、我が主様は、別の考えのようじゃ」 

「そうなの!?何か知っているのかしら?」


えーと、何だっけ。

色々と、知っている事があったはずなんだけど……出ない……。

良くSFで材料にされるネタで……、えーとえーと、だから○○○○○○とか○○○とか。

実際問題として○○○○全体の質量は、殆ど判って無いんだ。

僕はホワイトボードに書こうとして、断念する。

「んー。妾にも判らぬ概念じゃ。

 地球の外?空の果て?ダークマター?反物質……ドッペルゲンガーかや?」

「それは、皇國代理天には無い概念だから、知識として存在否定されているのね……。

 異界門[ゲイト]を越えれば、思い出せるようになるわ」




「やはり、確かめてみるしかないのでは?」

五十鈴さんが、ヴラドに言う。

「しかし……」

「一旦、異界門[ゲイト]を越えて、次元回廊[エレベーター]内で様子を見ましょう。

 話し合いは重要ですが、推測に推測を重ねるだけでは非効率的です」


「ココでこうしておっても、埒が明かないのは確かじゃ。じゃがのぅ」ちら

ヴラドは僕を見る。


うーん。

大丈夫だと思うよ?

気楽に答える。


「そうかのぅ……お主様が言うんじゃ、信じたくはあるが……

 世界法則[リアリティ]ばかりは経験則だけがモノをいうからのぅ」

『根拠は無いけど大丈夫』

「うぅむ」



「確かめてみるしかないでしょう?」

再度、五十鈴さんは言う。

「その通りじゃ、判っておる、判ってはいるのじゃが……」

気軽なノリの五十鈴さんと違って、ヴラドは慎重だ。


実際の所は、考えていても仕方が無いよ。

誰もどうなるかなんて、判って無いんだ。

だから、やって見るしかない。




「話がまとまり次第、出発しますが、よろしいですか?」

五十鈴さんは、僕の姿を見て言う。


『出発の準備を、お願いします』

五十鈴さんにホワイトボードを見せた後、僕はヴラドの手を指先でトントンと叩く。

大丈夫だよ、との思いを込めて。



「お主様……」

ヴラドが僕の服の裾を、握ろうとして、その手を止める。



「なんじゃな、改めてみても、その格好は変態じゃな」ぷぷっ



この全身真っ赤なタイツは、貴女が用意したんですが!!

うう、くそぅ。

バトルフォークとでも名乗って戦刃旋風切りでもしようか。

「お主様が生まれる前の娯楽活劇の話をされてものぅ。

 仕方ない、お主様が行くのなら妾にも否やは無い、骨は拾うてやるのじゃ」






暫くすると、スマホモドキに連絡があり、僕とヴラドは、地下の駐車場へと五十鈴さんと共に向かう。


地下駐車場には、メタリックブルーなワゴンタイプの車が止まっていた。

僕とヴラドが、後部座席へと入ると、紙袋が置いてある。


あれ、これ……?

紙袋の中には、ヴラドに買った服やモデルガンなどが、そのまま置いてあった。

どうやら、この車は、細部が変わっているが、行きの時に乗った変な車だ。

内装がそのままでなければ、きっと気づかなかっただろう。



そういえば。

五十鈴さんより、そのままホワイトボードを貰った僕は、気になった事柄を急いで質問する。

『僕の携帯は?』

「あ、そうでした。こちらです」

そう言って五十鈴さんが携帯を渡してくる。

「貴重品だと思いましたので、預かっておきました」



……どうやら、中をチェックされたみたいだ。

戸隠さんの事で、何かやばいネタってあったっけ?


……。

ちょっと思い出してみるけど、無さそうだ。


ん?

あれ?

メールが来てる。


戸隠さんからだ。



『(#`Д´)ノゴルァ!連絡よこせ!』


あれ?

これ、絶対、戸隠さんじゃない……。

むしろ、月見里さん……。

連絡から1日以上すぎている。


怒ってる。

これは、怒っている。

何で、地球の携帯電話から、皇國代理天にまで、メールが出来たのか疑問だけど、急いで返信する。


『m(_ _)m<ゴメンなさい。謝罪と話したい事があるので、家で』メルメルッと


「地球と皇國代理天側に、中継局が置いてあるんですよ。

 其処で変換を行っています。

 当然、中身はチェックされますよ?」

五十鈴さんが、僕の疑問に答える。

まだ何も言って無いのに、僕の顔って、そんなに判りやすいかなぁ?



「世界が違うのに、連絡が取れるのかや?」

ヴラドが驚いている。

「はい、リアルタイムは無理ですが、メールの様な物なら、10分に1回、異界門[ゲイト]を開けて有線で」

「有線……」

ヴラドが何かを考え始めた様だが、僕が聞きたがっているのを感じたのか説明してくれる。


「通常ではの、魔法や呪術、電気といった物は、その世界内でしか効果を発揮せぬのじゃ。

 異世界から異世界へと世界を超えて繋がるという事はなくてのぅ」

ゴメン。

今の僕には理解できない。

電気なら判ったけど、後2つは、霞がかかったかの様にあやふやだ。


「む、そうであったの。ならば、聞き流すだけで良いのじゃ。

 要は異界門[ゲイト]を間に挟んで、その携帯電話やインターネットなる物をやり取りする事はできんと言うことじゃ」

あ、それなら判る。

空間が断裂している、と考えれば良い訳だね。

「うむ。それじゃ」




「デハ、コレヨリ地球二向ケテ出発スル」

僕達が話し終わるのをまっていたかの様に、ナビが出発を告げる。



車は音もたてずに、駐車場から地下道へと走り出る。

何か、お土産という名のご機嫌取りでも買っておこうか、と思ったけど、流石にそれは諦めた。


「放送ヲ開始スル」

五十鈴さんが苦虫を噛み潰した様な顔になる。

車内には、行きとは違って、五十鈴さんと僕、ヴラドしか居ない。



室内にドヴォルザークの新世界、第4楽章が鳴り始める。

銀河英雄伝承で御馴染みのクラシック曲だ。


同時に

「プハァ、旨イネ、コノ蕎麦ハ。

 ゴチソウサン、オイ、オ勘定ッ。16両カイ?チョット待ッテロ、今、払ウカラ。

 1ツ、2ツ、3ツ……8ツ、トコロデ今、何時ダイ?

 ヘェ、9ツデス。

 トォ、ジュウイーチ……」

今回は時蕎麦のようだ。



五十鈴さんも顔を真っ赤にして、運転している。

「そ、その話は、もう、いいわ。

 これ以上、車内で破廉恥な行いをしないで頂戴」

破廉恥?

落語が?

あ、何か引っかかった……。

なんだろう、何か重要な事……忘れている。



「ナ、ナント!落語ヲ破廉恥デストッ!!

 ソレハ聞キ捨テナリマセンッ!!

 芸術ノ域マデ高メラレタ話芸ヲッ、文化ヲッ!

 馬鹿ニスルノデスカッ!」

急に五十鈴さんと車のナビが口喧嘩を始めた。


「やるな、とは言いま……す。

 これ以上、その恥ずかしい放送を大音量で流すのは、止めなさい」

「ソレハ、オカシイッ!

 ソモソモ放送トハ、不特定多数ノ者ニ、一方的ニ情報ヲ与エ続ケル素晴ラシイ物ナノデス!

 取捨選択ナドサセマセン。

 ますごみトハ、己ノ信ジル事ヲ事実トシテ報道デキル権利ガアル。

 俺ノ落語ヲ聞ケェェェ!!」

ナビが壊れた。


更に大音量になって、饅頭怖いを放送するナビ。




ナビと五十鈴さん、2人のやり取りを聞いている僕は、何か違和感を感じていた。

それを探し当てようとして、悶々としているが、ヴラドの声で、我に返る。


「部下に恵まれているようで、心中、御察し申し上げるのじゃ」

ヴラドは。五十鈴さんを哀れみの目で見ていた。




部下が使えないから、使える部下に裏切られるわけには行かない。

しかし、優秀な部下は、裏切る時も優秀だ。

戦え!超ロボット戦隊トランスパフォーマーに出て来る、ディス・トロン航空参謀のスタースプリームみたいなのでなく、企業戦士ガソダムのガルア殺害を行った時のシャーみたいに絶妙なタイミングで、裏切る。


それで、監視か……。

戸隠さん、優秀そうだもんな。

結構、切実なんだな、五十鈴さん。

思わず、ほろりとしてしまいそうになる。


結局、僕は、この時の違和感は、判らずじまいだった。






巨大な鳥居が見えてくる。

皇國代理天側の異界門[ゲイト]だ。

地下道でありながら、そこだけが、何かが違うのが判る。

具体的に言えないのがもどかしいが、違和感というか、周りの景色に溶け込んで無いというか。





そして僕は、変質を感じる。


自分を支配している世界法則[リアリティ]が変わる。

皇國代理天から、地球に。

まだ異界門[ゲイト]を越えていないが、僕の全身が再構成されていく。

元の自分に戻っていく。


存在否定されていた、封印されていた、数々の知識が解放される。



なんて窮屈だったんだろう。

自分が持って生まれた世界法則[リアリティ]通りに生きられないなんて。



たった2日の事なのに、こんなにも地球が懐かしい。





車は、鳥居へぐんぐんと近づいていく。

すでに異界門[ゲイト]は、僕たちを向かい入れるかの様に開いており、辺りは、地球と皇國代理天の2つの世界法則[リアリティ]が、混ざり合っていた。


あ、そうだ。

少し気になる事があったので、ヴラドに心で訊ねる。


結局、あの不確定名スライムって何だったの?

最初に、僕の身体にペンキを5色全て塗った事と関係あるの?


あ。


あーあーあーっ!!


皇國代理天の世界法則[リアリティ]によって阻まれていた事が考える事ができるようになっている。

スライムという単語も思い出す事ができた!


思い出せるっ!

魔法とか呪術とか、スカトロとか露出プレイとか、基本的人権とかプライベートとか、漫画、アニメ、エロゲ!!


「いや、半分が青少年らしくない妄想じゃの。

 お主様、エロエロじゃ。若いのぅ」

同時に、もう1つの変化が起こる。

(聞こえるかや?

 お主様、そろそろ、地球の世界法則[リアリティに戻ったはずじゃが?

 妾の呪法【純潔の誓い】の効果も戻っておるかの?)

この感じ。

懐かしい。

そして、心安らぐ。

声の出せない今となっては、唯一に近い時間のかからないコミュニケーション手段だ。



今の僕の気持ちが伝わったみたいだ。

ヴラドが、返事を待ってくれているのが判ったので、急いで返事をする。


聞こえるよ、ヴラド。

相変わらず声は出せないけどね。




(ならば、このまま聞くのじゃ。あのスライムどもは、妾の眷属じゃ。

 要するに体現者[シュトゥルム]じゃが、妾等が地球に戻ると同時に特殊能力【従属魔創造】が効果を失う)

あれ?

既にペンキに戻っていたんじゃ?

(あれとは、感覚共有しておるから、見る事は適わなくとも、妾は常に認識しておるのじゃ。

 じゃから、どんなに離れていようとも、魔法の有効距離内という事じゃの)


あー、そういう事ね。

魔法というのは、永続化していなければ、術者の有効距離=認識範囲を過ぎると、効果は切れてしまうという話を聞いたが、こういった抜け道もあったらしい。

と言う事は、僕とヴラドは感覚共有しているので、魔法をかけてもらって別行動しても、魔法の効果は切れないって事なのか?

(その事については、また話すのじゃ。

 今はスライムの話じゃな)

あ、うん。

(それでの、妾等が地球に戻ると、あのスライムは変質する。

 間違いなく、皇國代理天に合わせた形となるじゃろう)

「?」

(この世界で言うと、えーと、ミュータントという化け物になるのじゃ)

え。

(命令系統の無いスライムどもは、この世界の人間を次々と襲うじゃろうの。

 まぁ、1ヶ月もあれば駆逐されようが、その間にどれだけの人間を殺せるかの?

 この都市に探りを入れたが、見た目程、人は多くないのでな。

 うまく使えば半分以上を殲滅ぐらいはできるじゃろ)


ちょ、ま。

それ、無差別テロ。


(妾の知った話ではないのぅ。あれは服じゃ。くふふ)


いや、まずいよ、それは。

せっかく、話もまとまったのに、それを蒸し返すような事は。




(むぅ。仕方あるまい。お主様がそう言うのなら、妾に否やはない。

 そのスーツは、赤スライムというのは判っておるかの?)

ああ、うん。

(最初に、妾がお主様の身体に5色のペンキを塗ったであろ?

 あれは、実はスライム同士の感覚共有用触媒として使用しておる。

 赤スライムは、それぞれのスライムの司令塔として簡単な指示を出す事ができるのじゃ)

あ、そうなの?

じゃあ……。

(お主様が、スライムに人間を襲うなと、指示を出せば、解除せぬ限り、人間は襲撃はせぬようになる)

へぇ。

じゃあ、個人を特定して襲撃とかはできるの?

(妾の直接支配[フルコントロール]下なら可能じゃが、通常は無理じゃな。

 ゴーレムより頭悪いしのぅ)




(さてと、お主様?どうするのじゃ?

 指示を出すなら早くせぬと、異界門[ゲイト]は、もうそこじゃぞ?)

あ、そっか。

異界門[ゲイト]を抜けると、殆どの物は接続が切れるんだっけ。


じゃあ。

命令を……。

(本当に良いのじゃな?

 あの建物に住む奴等は、将来、お主様の住む世界を侵略してくる敵じゃぞ?)


……。


それでも、今はまだ、無差別に攻撃するわけにはいかないよ。

(やれやれじゃのぅ。

 今回のスライムは、複雑な構築文を使用しておらぬから、赤スライムに接触して思うだけで指示できるはずじゃ)




「次ハ、一杯ノ茶ガ怖ェ。

 オ後ガヨロシイ様デ……コレヨリ異界門[ゲイト]に入る」

大音量で、饅頭怖いとワルキューレの騎行を放送していたナビが、本来の役目に戻る。

本当にナビか?

妙に人間臭いナビだけど。


おっと。

僕は急いで、人間を襲撃するのを禁止、と赤スライムに指示を出す。





とりあえず、やれる事はやった感じだ。

後は、戸隠さんと、月見里さんに事情説明と、ラパ・ヌイ侵略の防波堤となるべく五十鈴さん達を巻き込んで……。



めるめる、めるめる。

メールの着信音がした。

おや?


戸隠さんだ。


急いで見る。



『(^‐^)=p 首ィ、洗って待ってろ』


あ、これ、月見里さんだ。絶対。

という事は、一緒に行動してるんだ。





そして、車は異界門[ゲイト]へと入る。



ヴラドと五十鈴さんが言った事が脳裏をかける。

「もしかしたらお主様は、地球に帰還できぬやもしれぬ」

「体現者[シュトゥルム]でない者は1人残らず、存在否定され、消滅をします……」




ごくっ

喉がなる。

ヴラドや五十鈴さんには、大丈夫と言ったけど、流石に緊張ぐらいはする。


実際、宇宙の質量なんて計算し切れてないんだ。

だから、未だ判らない物に、ダークマターとダークエネルギーという名前をつけざるを得なかった。


大丈夫だ。

きっと。


「お主様……」

ヴラドが、僕の手を握ってくる。

そうか、不安なのも判るんだっけ。


ありがとう、ヴラド。

僕は感謝を込めて、手を握り返す。



ヴラドは僕を見つめてくる。

今、ヴラドの瞳には、僕が映っている。



ヴラド……。

1つ深呼吸する。


鼻孔をくすぐる、かすかな花の香り。

自然と、ヴラドと顔が近づく。



そして、僕は……。





「なんじゃな、やっぱり、その格好は変態じゃな」ぷぷっ


あー、もう。台無し。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ