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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
60/169

真の臣ならば、主と一心同体じゃ


機嫌が良さそうにヴラドは僕の身体にペンキを塗っている。

「お主様に見世物になってもらおうと思ったのじゃ」

「……」

「まぁ、見ておくのじゃ。

 あの皇國代理天の者どもを、あっと言わしてやろうぞ」ふくく






プシュッと音がして、扉が横にスライドする。

ここは僕が、首を切られる前に居た部屋だ。

室内には、五十鈴さんだけで、他の人はいない。



僕とヴラドは中に入る。

「五十鈴殿、妾から主を奪おうとした不届き者は、どうしたのじゃ?」

「……」

五十鈴さんは、僕の姿を見て固まっている。

流石に僕も苦笑いを浮かべた。


「五十鈴殿?」

「あ、いえ、109ですか?」

「うむ」

「あの娘には、別命を出しました」

「む。そうかや……」

少し残念そうにヴラドは、言うと僕を前面に押し出す。


「ところで、どうじゃ!五十鈴殿。

 主様が随分と男前になったじゃろう!!」

「え?……ええ、まぁ……」

そうだよねぇ。

ココは笑いを堪えるよねぇ……。




今の僕の格好は、全身、真っ赤なタイツ。

少し正確に言うなら、日曜の朝のTV番組、スーパー戦隊シリーズのヒーロー達が着る様な、戦闘服と言えば良いだろうか?

赤を基調にした材質不明な、身体にフィットする、切れ目の無い服。


そう、身体にフィット!

どうしても、身体の線が出てしまうのである。

まぁ、裸と違って、毛深いのや、火傷痕が見られるわけじゃないから、幾分、気が楽だけど、それでもやっぱり、恥ずかしい。

でぶ~ん、というオノマトベが似合い様な、そんな体型が。


更に、戦隊戦闘服との相違点として、素肌が出ている事があげられる。

目と口、耳は真紅のタイツで覆われていない。

見た目は、覆面レスラーみたいな感じだ。


うう、余計に怪しく見える。





「えと……患者服は、どうしました?」

「ん?何の話じゃ?」

「おかしいですね、109に用意させたはずですが……」

「無かったのじゃ。

 あの女子(おなご)は、ペンキを用意して、露出プレイを強要しおったぞ?」

「え?」

そうだよねぇ。普通じゃ考えられないよ。

企業に契約に来て、帰りに服がないので○○○○プレイしろは……。

何の嫌がらせ?


その前のセクハラといい、108の攻撃といい、怒って良い場面なわけで。



「す、少しお待ち下さい」

五十鈴さんは、部屋の片隅に異動すると、急いで109と連絡を取っている。

ちょっと珍しく焦っている五十鈴さんを見れた。

「いったい、どういう事?」とか「嘘ではなく、真実を明かしなさい」とか、スマホモドキで話している。

坂崎医師や109、ソレに加えて、108の気の短さと言い……実は、けっこう苦労人か?五十鈴さん。




「これは明らかに109からの挑戦じゃ!!」ぐっ

「え?」

五十鈴さんは、109との情報を処理しながら、ヴラドの対応をしている。


「五十鈴殿には悪いが、この戦い、逃げる訳にはいかんのじゃっ!」

「は、はぁ、そ、それでは、いったい……?」


「うむ。そしてっ!

 我が主様が着ている、この服こそが答えじゃ!!」


だっせぇ。

なんて言う無かれ。

見た目も重要だが、性能の方が大事な時もある。

「その服は、皇國代理天では、かなり異色な服ですね。

 あ、と、その、表現に困ります」

「ふふん、あの女子(おなご)は、ペンキで服を作れと言っておったのでの。

 作ってみたのじゃ!」

「は、はぁ」

「丁度、赤、青、黄色、白、黒の五色が有ったでの。

 それぞれに、形状記憶能力と存在意義と自立防御機能を与えてみた」ふふん

「……それは、どういう事ですか?

 形状記憶、存在意義……?自立防御機能?」


うん。判らないだろうね、妙なオブラートに包んでいるから。








「まぁ、見ておくのじゃ。

 あの皇國代理天の者どもを、あっと言わしてやろうぞ」ふくく

そう言ったヴラドは、にんまりと笑う。


うわぁ、悪そうな顔。

「何を言うのじゃっ!

 こんな可憐で清楚な、妾に向かって!」


いや、可憐で清楚とは普通、自分で言わないよ?

「む?そうかや……」


僕はヴラドの些細な葛藤なぞ気にせずに、ホワイトボードを見せる。

『で、何やるの?

 あまり酷い事は無しだよ?』

僕はホワイトボードで、ヴラドの注意を引き、僕の心を覗かせる。



僕と知識共有しているなら判っていると思うけど、地球は今、やばい状況だからね?

今は情報が欲しい。


侵略者は、皇國代理天とラパ・ヌイ以外にも、コクーン:キハ1011、ニューエルサレムに、残り2つと総勢6勢力が、地球を狙っているみたい。

だから、言い方はおかしいけども、友好的な侵略者と仲違いする様な事をするワケにはいかないんだ。

間違っても、関係が悪化して敵対関係になる様な状況は、まずい。


今のうちは、そうしておかないと、首が回らなくなるから、お願いだよ?

我を忘れて、目の色が攻撃色になっていそうな、ヴラドに釘を刺す。

「ん。判っておる。お主様」

本当かなぁ。

「むぅ、この世界の世界法則[リアリティ]に染まったお主様は、ほんに疑り深いのぅ」

裏切りが日常茶飯事な世界なんだから、仕方が無いとは思うけどね。




「むぅ、奴らの身から出た錆びじゃが、救済措置でも残しておこうかの」

うわぁ。

何する気だったんだ。


ヴラドは、暫く考え事をしていたけど、マジックで床に変な文字を書き始める。

同時に、他のマジックも、誰も触っていないのに、独りでに動き始め、ヴラドの手伝いを開始する。



何らかの超常的な力が働いている。

その正体を、僕は知っているのに、今一歩で思い出せない。


いや、理解していたんだけど、それを妨害されて、理解できない。

今まで判っていた事が、たったほんの少しの事で、判らない。

この世界に来てから何度も味わった、この焦燥感にも似た感覚。


皇國代理天の世界法則[リアリティ]に阻まれているのが、こんなにもどかしいなんてっ!!




円の中のペンキを中心に、様々な色で描かれた幾何学模様が完成すると、ヴラドはおもむろに謳いだす。

身振り手振りを交え、且つ、リズミカルに。


「〜♪」

円の中心には、5色のペンキが置かれ、ヴラドはペンキに、何かを交ぜているようだ。


「〜♪」

何だろう?

前に僕は、コレと同じ物を見た。

一昨日、僕の家で。

凄く神秘的な光景だったのを覚えている。



そして、今の僕では、理解できない現象が起きた。


ペンキが動き出す。

自らの意思で。



「ふふん、成功じゃ。一時的な生物創造の魔法【クリエイトマジカルクリーチャー】粘体戦隊スライムファイブッ!!」

うわ、語呂悪っ!


「さてと、お主様は何色じゃ?」

「?」


「えーとじゃな、何色が好きじゃ?」

あ、そういう事か。

じゃあ、僕はきいr


「そうか、やはり赤が良いかや。

 さもありなん、リーダーなら赤じゃろう!!」

え?

いや僕は、きいr

「妾を率いるのじゃから、赤じゃろう!

 もしくは、白じゃな!」

は、はい……。

赤で良いです。


「うむ。では次にいくかや」

「?」

「このスライム達はのぅ、特殊能力【従属魔創造】によって、童の眷属となっておる。

 そこでじゃ、この赤色には、妾の下僕の統率者たるに相応しい、更なる強化を行おうと思っての」

えーと、具体的には何をするの?


「擬態能力の付加じゃな」

擬態?

蛸やカメレオンみたいな物かな?


じゃあ、他の色のペンキは、どうするんだろう?

「おお、それか、簡単じゃ」

「?」

ヴラドは、動くペンキの入った缶を持つと



「しまった、手が滑ったのじゃ」

ばしゃっ



今、投げたよね?

思いっきり投げて床一面に、ぶちまけたよね?



ぶちまけられた4色の粘体生物は混ざることなく、1匹1匹、うねうね、ずるずる、ぷるぷる、ぬるぬると床の上を蠢いている。

うわぁ、きもい。


しかし、しばらく蠢いていた、4種類の不気味な粘体生物は、床に開いた下水稿から、ずぞぞぞっと流れていく。


「ふふん。

 おおう、なんと恐ろしい事だ。

 奴等が解き放たれてしまった」

棒読みです。




何したの?

「うむ。奴らスライムはのぅ“貴方の迷宮の掃除屋さん”と言われておっての。

 色々な術者が、独自のデザインをして販売しておる」

はぁ?

えーと。

「まぁ、待つのじゃ、まずは説明を聞くのじゃ。

 どうせ、五十鈴殿も後からこの状況を、眼鏡と耳で知るのじゃから、ココで一気に説明しようぞ」



「で、このスライムじゃが、常温なら、有機物を体内に取り込み、強力な酸性の液体を分泌し、溶かす事で、ほぼ無限に行動できる」

えっと……ドラハイクエスト、略してドラクエ系の最弱生命体でなく、最終幻想や浪漫神具伝承の強敵タイプか。

「本来のスライムなら……の話じゃがの」

「?」

「今回のスライムは、妾がペンキから魔法で作り出した擬似生命じゃからの。

 言ってしまえば、一時的に妾が皇國代理天の世界法則[リアリティ]から、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]に鞍替えさせ、魔法で生命を与えた物じゃ。

 じゃから、魔法の有効距離、即ち、妾の認識外に行ったら、元の状態に戻ってしまう」


んーと……。

じゃあ、この謎の生命体は、ヴラドから見えなくなったら、ただのペンキに戻るって事なのかな?

「そうじゃ。

 ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]から、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に戻されるのじゃ」

「?」

何でそれが、ハオー来訪者みたいな言い方をしたわけ?

そいつに触れる事は死を意味するっ!

これだ!これがハオーだッ!!

みたいな。

皇國代理天の人に一泡吹かせるんじゃなかったっけ?


「もちろんじゃ。

 そこで、あのスライムには、構築時に触媒として、お主様の子種を仕掛けた。

 要は、皇國代理天の生物っぽく見せる為に、遺伝子を仕込んでみたんじゃ」

余計、判らなくなった。

何をしたいの、ヴラド?

「判らぬか……

 では、少し楽しみに見ておくと良いのじゃ。

 失敗する可能性もあるしの」

「?」

「それよりも、見るが良いのじゃ。

 丸々と太った、かわいいスライムじゃ」おーよしよし

おーい。


「お主様の子種と、妾の愛液で生まれた愛の結晶じゃな」ぽっ

何だろう?

確か、日本神話にあったよね。

伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)の国生み神話で、最初に生まれた子供が、水蛭子(ひるこ)って言う人外の生命体で「僕たち要らないから、ぽーいっ」ていう話。


「いや、冗談じゃ。

 そこまで高尚な話にされても困るのじゃが……」

あ、冗談だったんだ。

僕は、てっきり、ヴラドにそういった趣味がある物とばかり……。

「まぁ、取り合えず、お主様は、このレッドスライムを身体中に貼り付けてくれれば良いのじゃ」

は?


うりゃ。

べちゃ。







結局、ヴラドが何をしたかったのかは、教えてもらえなかった。

五十鈴ずさんにも説明するから一括でって言ったのに……。


先程、ヴラドが言っていた、形状記憶能力と存在意義と自立防御機能とは、ただ単に、生物にしてみました、というだけの事なんだと思う。



それだけでも充分に凄いが。

まぁ、もうヴラドの認識外になっているから、元のペンキに戻ってしまったんだろうけど。

本当に、何をしたかったんだろう?

判った事は、今、僕の身体に張り付いている紅い謎の生命体の性能だ。

非常に限定的ながらも、張り付いている僕に対してのみ、弱い治癒能力を持っている事。

僕の身体を酸で溶かさない割に、無機物でも溶かすほどの強酸を外に向けて出せる事。

ヴラドの使い魔なので、常に彼女と感覚共有しているという事だ。



さて、この治癒能力だが、僕の喉には何の効果も発揮していない。

と言うか、喉に入ってこられると、僕が窒息死するので、止めてもらった。


ヴラド自身が蘇生の超常能力が使えるから、問題はないようだけど、確かラパ・ヌイに行かないと無理なんじゃなかったっけ?






気づくと、五十鈴さんと109の会話は終わっていたようだった。




「申し訳ありません。

 時雨君、実は……」


五十鈴さんが、109のした行動を誤ると同時に、背景を説明してくれた。


結局、僕が本来着るはずだった服は、患者服だったらしい。

ただ、首を切られた時に鮮血まみれで、今まで着ていた物は、廃棄してしまった。

その為、現在、服を特注で作らせているのだそうな。


服を特注と言うのも、実は御国柄というか、皇國代理天の変わった常識が働いている。

皇國代理天において、デブという存在は、自己の健康管理すらまともにできない異端という事らしい。

地球の感覚で言うと、社会的に見て問題のある人物、何らかの問題行動を起こしている人間、要するに犯罪者と同等という扱いだ。

そのような非効率的な人物は、企業では使わない。

企業で使われない人間と言うのは、この世界ではゴミだ。

存在そのものを、必要としない。

だからこそ、僕みたいな体型の服がない。

需要が無い所には、供給も無いのだ。


一言、言ってくれれば良いのに、109という人は、ここぞとばかりに、自称“可愛い悪戯”をしたらしい。


うーん。

人、それを悪逆と呼ぶッ!!






五十鈴さんが、今までのペンキ騒動について語り終えると、ロム兄さん名言集に思いを馳せている僕に代わって、ヴラドが答える。

「五十鈴殿の話から、だいたいの概要は判ったのじゃ。

 服が無いのであらば、仕方が無かろうとは思うが、いささかペンキはやりすぎじゃろ?」



さっきまではヴラドは怒っていたけど、今では別段、怒っていない様だ。

あまり怒りは持続しないタイプみたいだ。

その分、怒ると時は烈火の如く……なんだろうなぁ。

実は僕もさほど、怒っているわけではない。

ずっと怒っているって、結構、疲れるんだ。

どうせ疲れるなら、心地よい疲れが良い。


まぁ今は、ヴラドとの行為の後で、物凄く疲れているわけですが。

できれば、眠りたい。

さっきまで、再生槽で爆睡していて言うのもなんだけど。



が、まだ五十鈴さんとの話が終わっていない。



「はい。それについても、重ね重ね申し訳ありません」

「ペンキについて、何か理由でもあるのかや?」

「いえ、それが……」

「あー、と言う事は、109殿の趣味から、予想はつくのじゃが、まさか……」

「はい。ホワイトボードのついでに思いついた様で……」


そうか、ペンキぬれという指示は、嘘でしたか。

まぎらわしい事をするなぁ。

半分、もう投げやりな感じだ。





でも、まぁ、チャンスはチャンスなわけで。


「109殿のペンキについては、仕方なかろう。

 不問にしようと思うのじゃが、お主様はいかがするのじゃ?」

『いいよ』

僕は、ホワイトボードを見せる。

「はい。そう言って頂けると助かります」

五十鈴さんは、僕の方にお辞儀をする。




「じゃが、それはソレ。これはコレじゃ」

「は?」

「我が主は、五十鈴殿の部下数名から、多大なる精神的苦痛を受けておる。

 主と五十鈴殿は、やり方はどうであれ、主従で無く、対等な契約を結んだにも関らずにのぅ」

「……」


「五十鈴殿は、何か含む所があるのじゃろうか?

 妾は浅学故に、その思いを知る事は叶わぬ。

 我が身の、不徳の致すところじゃ。

 もし、妾等に手落ちがあったなら、教えて頂けると良いのじゃが……」

「い、いえ、その様な事は……」


「ふむ、含む所も無いのに五十鈴殿の部下は、妾と我が主様を嘲ると……。

 それが皇國代理天流のもてなしと言うのじゃな?」

「違います。断じて」

「確か、不慮の事故が発生した場合について、契約を交わしていたはずじゃが……」

それは、ヴラドだけだよ?

つっこんでおく。


ここに入る前に五十鈴さんと交わした契約がある。

それは、再生槽に入るヴラドに人体実験や、遺伝子の採取などをさせない様にするための取り決めだった。

ヴラドは、その記憶を知識共有で探り当てて、五十鈴さんに言っているのだ。



「その契約については、ヴラド君のみで、時雨君は対象外です」

やはり五十鈴さんも、そう切り返すよね。


「しかしの、どこぞの世界に、主を差し置いてまで、我が身の安穏を願う臣がおるかや?

 真の臣ならば、主と一心同体じゃ。

 主が倒れるならば、それは我の死すべき時ぞ」

「……」

「故に、我が主様がこうむった被害は、妾がこうむったも同じ事ッ。

 それとも、五十鈴殿の部下は、契約があったから、妾ではなく、我が主を襲ったのかや?」

少し詰問調のヴラドは、妙に迫力がある。

扇子と和服なんか似合いそうだ。

今度、着せてみよう。


なんて事を思っていたら、ヴラドに睨まれました。

気を抜くなと言いたいらしい。




「こちらの不手際については、如何様にも謝罪しましょう。

 ですが、契約は契約です。

 そのように理を曲げられても、お受けする訳には参りません」

「……」


「……」ふぅ

「……」


「……のぅ、五十鈴殿。

 別に妾は、コレを利用して何かをしようと思っているわけではない。

 今後、皇國代理天、五十鈴殿とは何度も顔を会わせる事となろう」

「そうですね」


「ならば、双方で(いさか)いの元となる、遺恨を残さぬ方が良いと、判断しての事じゃ」

「……」

「今回の問題は、商取引に必要な“信用”という物が、全くかけている事から起こった事ではないのかと、妾は見ておる。

 相手の言葉の裏をかき、揚げ足を取り、契約を立てに侵略する。

 それが、皇國代理天流の商取引じゃというのも判るが、それを他の異世界でも行うのは、いささか問題じゃろぅ?」


「この世界において“信用”などと言うものは、署名されていない契約書と同じですよ」

五十鈴さんは静かに微笑んで、ヴラドをみる。

いや、もしかしたら、自嘲の笑みなのかもしれない。


「??……えと、どういう事じゃ?」

その言葉の意味が判らず訪ね返すヴラド。


誰も同意していない、実行もされない、何の効力も無い、要するに自分勝手な思い込み、という事だよ、ヴラド。

五十鈴さんは、僕が思った事と、同じ様な説明をヴラドに話す。



「しかしのぅ、本当に信用が無ければ、相手と契約すら取ろうと思わんじゃろ?

 かといって、毎回、相手の弱みを握って、ソレを使って追い詰める手法を取るのは、上策と思えんのじゃ。

 それでは、ますます信用を無くすだけじゃ」

「……」

「妾等としては、皇國代理天とは、ある程度の信頼関係を結んでおきたいと思っておる。

 お主等とて、背後から切りかかる様な者は、少なくした方が得策じゃろ?」

「そうですね」

「ならば、妾等との間に信用を築かねばなるまい?

 今のままでは、妾等は、契約そのものを疑う必要があるのじゃ」

「それが、契約と言うものですよ?」



「ぬ」

ヴラドが唖然としている。


「……」

「……」


「ふぅ……五十鈴殿、1つ言わせて貰うならば、契約などと言っても所詮は、紙に書かれた約定にすぎん。

 相手が守る意思が無いのであれば、契約不履行を立てに声高に叫んでも意味は無いのじゃ」

「ですが、契約こそが全てです。

 其処に書かれた一言一句こそが、至極の金言」

「だからこそじゃ。

 至極の金言だから、契約を守るのは、信用を無くさぬ為でもあろう。

 ならば、揚げ足取りに言葉を弄ぶのではなく、文間に込められた想いを、掬い上げてみてはどうじゃ?」

「それは、契約当事者としての甘さになります。

 命取りになりかねませんよ」

「妾は、そうは思わんのじゃ。

 少なくとも世界法則[リアリティ]の違う者と契約を結ぶ時は、やり方を変える事を薦める」

「……」


「武力や魔法をもってすれば、この世界の契約なぞいくらでも覆せるのじゃ。

 そうしないのは、相手への信用が根底にあるからじゃろう。

 信用と言うものは、武力や魔法、契約、どんな富でも得る事は出来ぬ。

 失うのは一瞬で、少しずつ積み上げるしか手段が無い、時間のかかる物じゃ」

おお、なんかヴラドが良い事を、言っている。

だけど、本当の所、どうなんだろう?

皇國代理天の契約は、信用が無い代わりに裏切りに対する制裁措置で、上手く回っている気がする。

何もかも地球のやり方を押し付けていたら、効率が悪くなるんじゃないかな。

それとも、こんな風に思考する時点で、ヴラドの言う通り、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に染まっているんだろうか?


「ですが……」

五十鈴さんが何か言おうとするのを、止めてヴラドは言葉を紡ぐ。

「契約が有効なのは、それは平時であるからじゃ。

 乱世においては権謀術数、武力が全て。

 侵略者の言を、約定を守ろうとする者なぞ、殆どいまい」

「……」

「そんな時でも、信用は価値ある物となる。

 乱世では、信用を担保にして契約を結ぶのじゃから、当然じゃ」

「―――!!」


「これは、信用を無くす行為をせぬ様にと、老婆心ながら告げておるのじゃ。

 どうするかは、五十鈴殿しだいじゃが、取り敢えずは、今後、この様な事は無い様にお願いしたい」


「はい。それh」


「今後、妾を怒らしてみろ。

 契約なぞ、妾の前には役に立たん事を教えてやろうぞ。

 お主等の侵略方法が、だまし討ち、計略や陰謀、暗殺ならば、妾が叩き潰すまで。

 軍隊を持たぬ世界なぞ、一夜で滅ぼしてくれるわッ」

いや、ちょっと待ってヴラド!

喧嘩売ってどうするんだよ!





実は、僕が行おうとしていたのは、皇國代理天で受けた数々の仕打ちを立てに、ラパ・ヌイとの戦争のバックアップを、お願いしようと思っていたのだ。


実際、僕が思っていた以上に、こちらで時間をかけすぎた。

地球に帰還したら、すぐにでもラパ・ヌイへの対策をしないと、日数が足りない。

その為にも、使えるものは何でも使いたかった。

今までの交渉で五十鈴さんには、こちらの手の内は、殆どばらしてしまっているのだ。

なら、いっそ全てをばらして協力してもらおう、というのが僕の考えだ。

だから、ヴラドには交渉を、そっちに持っていって欲しかったんだけど……。




「だまし討ち、計略や陰謀、暗殺……ですか。

 確かにそう取られても仕方がありませんね……」

流石に五十鈴さんも言葉を失っていた。


「取り敢えずは、お互いを知る所から始めてみるのはどうじゃ?」

「お互いを知る?」


「色々と話してみなければ判らぬし、信用もできまい?

 失礼じゃが、五十鈴殿は、部下に恵まれておらぬ様子じゃ。

 実力はあるのじゃが、性格的に難のある者が多そうじゃしの。

 話せば、見なかった事も見えるようになるはずじゃ、思慮を深める事にもなろう」

「……」

「そこでのぅ、1つ、五十鈴殿から言質を取っておきたくのじゃ」

「言質ですか?」


「うむ。簡単な事じゃ。

 一筆したためてくれるだけで良い」

「どのような?」


「地球と皇國代理天の関係は、常に対等であり、ビジネスパートナーとして協力関係にある……と」

「……」

「どうじゃろうか?」

「協力関係とは、どこまでを指しますか?

 もし、通商協定などをお望みでしたら、私の権限を越えていますし、一介の高校生である時雨君の言葉には、何の価値もありませんよ?」

「ふむぅ……適用が広すぎるのが問題かや?」

「はい」

そうか、国家規模の話となると駄目か。

僕は、自分の考えが浅はかだったと気づく。

とはいえ、まだやりようはある。




皇國代理天の侵略方法は、ラパ・ヌイとは違う。

実は、ココに来て五十鈴さんと話をして、少し判った。

ラパ・ヌイは侵略完了と同時に、万物構成物質[マナ]へと世界を変えて自分達の世界の力とする。

同様に、皇國代理天は侵略完了と同時に、歴史歪曲をして、その世界の人々を自分達の世界の力とするのではないだろうか?



皇國代理天の侵略目的は、貿易だ。

正確には富、貿易で企業に富をもたらす事だ。

その富は、様々に形を変え、流動し続ける事で価値を高める。

そして侵略完了は、市場としての魅力が無くなった時、即ち、富が1ヶ所に留まり流動する事が無くなった時だ。

多分、その時には、皇國代理天の世界法則[リアリティ]が、世界の全土を覆ってしまっているのだろう。




全てを万物構成物質[マナ]に還元するなら、侵略した異世界の全てを破壊しても気にならない。

それがラパ・ヌイ。

長期になればなるほど、自分達の万物構成物質[マナ]を失っていく事になるのだから、狙うのは短期決戦。


皇國代理天は、市場に活力がある事を望むから、全面戦争状態は、望まない。

どちらかと言えば、継続的な消費状態、泥沼化した地域紛争が理想の状態だろう。

最終的には、死の商人になるが、それでも活気があるならば、裏から投機してでも、侵略した世界をそのまま保とうとする。

富を絞りつくすまで。


短期決戦と長期的視野、破壊と継続。

このラパ・ヌイと皇國代理天の侵略方法の違いは、利害の不一致が確実に起きる。

いや、ラパ・ヌイと皇國代理天では、利害関係が成り立たないどころか、対立する事になる。



それを利用しよう。



皇國代理天の侵略は、まだ始まったばかりみたいだ。

戸隠さんが、翻訳機を作っていた事から考えると、初期調査が済んで本格的な侵攻準備の段階だ。

言葉が判らずに長期的侵略なんてありえないのだから。



更に付け加えるなら、その状態でニューエルサレムに出し抜かれている状態……なのだろう。

五十鈴さんの説明を真に受けるなら、だけど。

これが、真実なら、何らかの協力を取り付けておくのは、五十鈴さんにとっても悪い事ではないはずだ。

何しろ、ニューエルサレムとは、山を挟んで隣なんだから。




「妾が恐れておるのは、皇國代理天に基本的人権という思考が無い事を恐れておるのじゃ」

「企業が第一ですから、当然です」

「……」

「先程の文面の範囲ですが、ヴラド君と時雨君のみという事でしたら、ビジネスパートナーとして協力関係にある間は、基本的人権の自由権と平等権を尊重する事は可能です。

 もちろん、例外として、合意された契約に関しては、含めない事になりますが」


「ふむ……」ちら

ヴラドは僕を見る。

言いたい事は判る。

「今は、この言質だけで我慢するか?」という事だ。


うーん。

僕はヴラドに、後一押しをお願いする。


「判った。今後、五十鈴殿も様々な人物と契約をするであろうしの。

 ならば、その文面を、ビジネスパートナーとなった者を対象とする様にして欲しいのじゃ」

「……」

「妾達だけでなく、今後の関係にも関るので言質を頂きたいのじゃ。

 じゃが、それだけでは、なんじゃな。

 どうであろう、五十鈴殿の部下数名と、お互いを知る意味でも食事会……は、この世界では違う意味を持っておったな。

 そうじゃな、それぞれの異世界についての常識を知る為、定期的に会議をする場を設けたいのじゃが」


「定期的に……ですか?」

「そうじゃ。

 少なくとも、妾等には共通の敵がおるのじゃ。

 共有できる情報なら、しておいて損はあるまい?」

「……」



「ええと、何と言っておったかの?

 ……そうじゃ、バイブの様な関係じゃ!」

「バイブ?」

五十鈴さんが聞き返す。

「?」

僕も悩む。

ヴラドは何を言いたいんだ?



「うむ。ウィンウィンな関係じゃ」ふふん

「……」

「……」


「……そう、ですね……確かに、その通りです。

 良いでしょう、それで構いません」

五十鈴さん、スルースキル高いなぁ、大人だね。


それに引き換え……。

「な、なんじゃお主様ッ!」赤っ

いえ、何でも?




「で、では、五十鈴殿が、ビジネスパートナーとして協力関係にある者は、基本的人権の自由権と平等権を尊重するとの言葉、確かに承ったのじゃ」

「判りました、あとで署名にして御渡しします」


取り合えず、これで地球侵略の実働班からは、言質を取った。

すぐに裏切り者の出る皇國代理天では、あまり役立たないけど、108の牽制ぐらいには役立つだろうし、少なくとも敵と認識はされないですむ。





将来、皇國代理天は、非常に手強い敵になるだろう。

だけど、今の段階では、ラパ・ヌイの対処をしなければならない。

その為には人手が必要だけど、僕に友達は殆どいない。

頼れる大人は、お出かけ中、地球の軍隊はアテにならない。

となれば、ある所から借りるしかない。

という流れになるわけだが、この借りは、凄く高くつきそうだなぁ。

後から、何を言われるか判らない。



まぁ、皇國代理天の目的が貿易による富なら、防ぐには、やはり健全な商取引しか無い気がするけど……。

現在の所、皇國代理天との貿易は、通関していない。

関税どころか、輸出入規制すら無視して皇國代理天の物が入って来ている。

入り口は五十鈴マンションだ。

でも、実際の所、国外ではないから、規制のかけようが無い。

既存の法律では対応できないというべきだ。


要は、中国やロシア、北朝鮮の国境で行われている様な国境貿易の形だろう。

闇貿易なわけだけど。


だけど、流通させるつもりなら、日本国内は無意味だし、日本から輸出するなら関税は掛かる。

むしろ彼らのやり方で、より効率的な方法は、日本ではなく、もっと資源のある国に異界門[ゲイト]を設置した方が良い。

資源輸出国……例えば中近東や米国、豪州だ。

て、その資源を元に皇國代理天の技術力で、安く量産、付加価値をつけて輸出した方が理にかなっている。


では、何故、わざわざ資源の無い日本に、異界門[ゲイト]を設置したのだろう?



簡単だ。

物品を通した貿易ではないから。


国と国の間で商品を売買する、それが貿易だが、実はそれだけではない。


よくよく考えれば、特許、金融、旅行や保険、無形物だって取引できるのだ。

そう、僕は物品の貿易だけだと思い込んでいたが、サービスだって充分な貿易となりうる。

日本と皇國代理天でやりとりするなら、金融や特許だろう。



そうか、確か銀行も経営しているみたいだった。

五十鈴銀行だっけ。

色々と手広くやっているって、新田が言っていた。

となると、不動産とか証券会社とかやってそう……というか、やっているだろうな。

実際、マンション爆破の話で、物件が安く手に入るって、交渉後に言っていたし……。

地元密着型暴力組織ともコネがありそうだし、もしかして、今回の駅前の火事も五十鈴さんに美味しく料理されるんだろうか。


と、なると……。

皇國代理天の侵略で、最も気をつけないといけないのは、経済的な依存だ。

世界的不況の中でも日本は、破綻する可能性の低い国家だけど、ここ何十年と景気の低迷が続いている。

だけど、皇國代理天の侵略の過程で、もしかしたら一時的に活性化するんじゃないかと思っている。

その結果、景気が回復したと沸きあがって、無駄な投資や無意味な投機を再び行えば……皇國代理天の餌になるだけだ。

どちらにしろ、日本だけでは、星1つの企業体と、まともに遣り合えるはずがない。

皇國代理天の総資産がいくらかしらないけど、最終的に日本の企業は全て牛耳られてしまう。

残された時間は、五十鈴さんの資産運用額しだいだ。



あー、もう、僕如きじゃ手に終えない。

これは、個人でどうこうって話じゃないよね。

さっさと偉い人に丸投げしよう。



「さて、五十鈴殿、話は一区切りついたわけじゃが……」

ヴラドが意味ありげな視線を五十鈴さんに送る。

「あ、はい、そうですね」

どうしたんだろう?

ヴラドと五十鈴さんが僕を見ている。


「お主様、この話の前に話していた事、覚えているかや?」

話していた事?


「これから、お話しする事は、多分に推測の混じった物となりますが……時雨君自身に関係することです」

「暇乞いの前に、詳しく内容を聞いて置いた方が良かろうと思っての」

「?」

何の事だろう。


「地球の世界法則[リアリティ]の事じゃ」

あ、そういえば、さっきヴラドが言っていたっけ……。

再生槽を出る前に話していた事だ。

保存の法則という物が、僕に悪影響を与えるかもしれないって。



『聞かせて下さい』

僕は五十鈴さんにホワイトボートを見せるが、その時、ヴラドの声が僕の耳を打つ。



「もしかしたらお主様は、地球に帰還できぬやもしれぬ」

は?


えーと。

どういう事?





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