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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
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―――笑うな

懐かしい夢を見ていた。

花見の夢だ。

家族と一緒だった気がするが、もう思い出すことはできない……。



僕は寝ていたらしい。


ぐっすりしていってね!!!

そんな感じ。



目覚めると、そこは知らない天井だった。


……なんて事は無く、白い天井どころか、目の前に白い壁。

その距離、約30cm。




「もごっ」ぽこぽこ……

知らない天井ならぬ、壁だ、と言おうとしたら、口に違和感。


「もご……」ぽこぽこ……


ん?


ぽこぽこ……


……。

ここ、水中じゃないか!



「もごっ!?」ぼこぼこっ……


「もごごごっ!!」ごぼごぼ……


駄目だ!息ができないっ!!


そして、僕の意識は闇に落ちる。

眠りへと誘われる。




……。




…………。




いや、普通に息ができました。

「もごぉ……」ぽこぽこ……

安堵のため息。



えーと、それで、ココは何処だ?

そもそも、何で液体の中で呼吸が……。


うーん。



悪質な冗談は止めてください。


ぼくは死ぬかもしれないのですよ。

ほら ぼくの顔はだんだん青褪めていくではないですか


ねッ おしえて下さい

イシャはどこだ!


ふぅ。

螺旋式をしたので、少し落ち着いた。




状況確認。


今、僕は液体が満たされた、円筒形の医療ポッド内にいる。

その中で、液体呼吸と呼ばれる状態で息をしている。


呼吸形態と、服を着ていない状態である事を除けば、CT(コンピュータ断層撮影と言うらしい)の中に入っている状況と酷似している。

五月蝿いんだ、あれ。


で、何で僕はこんな状況に?


えーと、ココは皇國代理天だ。

ヴラドを助ける為に、僕は五十鈴さんと取引をした。

取引内容は、僕の中に戸隠さんを監視する為の、バイオチップを埋め込む事。


と、言う事は、これが戸隠さんが言っていた、再生槽と呼ばれている物だろう。

CTと違って、再生槽は静かでいいね。



あれだ。

新造人間エヴァンゲルオンの操縦席、エントリープラグの中みたいな感じ。

横になって寝ている状態だけど。


この液体は、簡単に言うと代替血液なんだろう。

成分は不明だが、呼吸ができる以上は、間違い無い。


えーと、確か、パーフルオロカーボンだったか、リキベントだったかな?

そんな名前で、地球でも実用化されていたはずだけど……。

多分、成分的にも似たような物だと思う。


地球では、肺に重度の疾患がある患者や、未熟児の治療に使われる事の多い医療方法だ。

だけど、何で、僕に……?




あ、そうか。


これ、もしかして輸血の代わりかな?

左腕が、固定されてそこから血液がとられている。

コレで、ヴラドも大丈夫だろう。



えーと、自分が怪我した箇所は……

ヴラドに治療してもらっていたから、問題なし。


ん?

いや、他に何かあった様な……?

自分の手を見る。

指の骨を折られたり、千切られたりしなかったっけ?


どうも記憶が曖昧だ。




ん?

ヴラドに輸血?


違う。

ヴラドに血を飲ませているんだ。




何故、そんな事をしているのかは、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に阻まれて忘れている、もしくは、思い出せない。

その思考方法、もしくは概念が無いからだ。


確かヴラドは、世界法則[リアリティ]によって、存在が否定されると言っていた。

世界にとって都合の悪い、異世界の物を持ち込ませない為の、世界の措置。



存在否定……要は、世界の防御行動なんだろう。

ただ、僕は少し勘違いをしていた。

これは、物品だけでなく、思考や知識、社会通念まで含む物だったんだ。



……。


あー。

という事は、異世界モノ、歴史改変モノの醍醐味である、現代の知識を使って、敵と戦ったり、内政したり、思想革命したりは全滅かぁ。


ラパ・ヌイに行ったら、墨俣の一夜城みたいな事をやろうと思ってたのに。

残念無念、くそぅ。



僕が、体現者[シュトゥルム]だったら、世界法則[リアリティ]に翻弄されず、異世界革命できるんだろうけど、無い物ねだりをしても仕方が無い。

地球人として振る舞う事ができないのなら、ちょっと変わった皇國代理天の人として、行動するだけだ。





とり合えず、今は、思索に耽ろう。


皇國代理天に来てから、妙に疑り深くなったのは、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に染まったからだが、色々と思い出せないのは、多分、存在否定も関っていたに違いない。

思い出せない単語が出てきたら、存在否定の可能性が大きいな。



例えば、科学技術が発達している分、超常現象については壊滅的だ。

多分、おまじないの類も無いんじゃないかな?

だから、ヴラドと僕を同調していた、○○【純潔の誓い】も効果を表さない。


人よりも企業に重点を置いている為に、思考方法も、企業中心だ。

人間が人間らしくある為の、基本的○○○○なんて、影も形も無い。

“ぷらいばし”とか……えーと、私生活の権利とか訳せば良いかな?


効率を求めすぎている為なのか、どうかは判らないけど、趣味や芸術といった物には、あまり力を注いでいないようだ。

例えば、戸隠さんが、毎晩、僕の家の蔵から借りていっている○○○(英語で○○○○と言う)が存在しない。


結構、存在否定されているなぁ。



ん?


あ、でも。

少しおかしい事が……。


皇國代理天には○○○(英語で○○○○と言う)は存在しない。

それは、戸隠さんの態度からも明らかだし、存在否定されると言う事は、それを如実に語っている。


うーん。


そうだな、仮名称として、想像活劇絵本としよう。


想像活劇絵本は、皇國代理天に存在否定されている。

しかし、僕の頭の中にある、想像活劇絵本で得た知識は、皇國代理天に存在否定されていない。


僕は、新造人間エヴァンゲルオンや螺旋式といった、題名やその内容を思い出せる。


企業戦士Vガソダムのカテヅナさんについてだって5時間は語れる。


Dance with The Vampire Bund、東海奇皇も内容は思い出せる。


あ、だけど、ヘッドマウントディスプレイの時、電脳コインの内容は思い出せなかった。


おや?


あれ?

あれれ?


そうでもないな。

結構思い出せる。


そんな記憶で大丈夫か?

大丈夫だ、問題ない。



……。


どんな違いが?


あ、違う。


……。


今と、あの時の違い……。


あ、まさか。


NHKの電脳コイン……。

あー、やっぱり存在否定されてる。


あの時は、NHKがまずかったんだ。

多分、公共放送っていうのが、引っかかってるんだ。


まぁ、確かに、企業としては存在否定したくなるなぁ。






それにしても、おかしな話だ。


存在否定されている物の、内容を思い出せるなんて。


うぅむ。


癖とか、妄想の類だからだろうか?

それとも、記憶する時に絵として処理しているからだろうか?

根拠の無い話だが、これと似たような話で、こういった話がある。



確か前に読んだ本で、日本人(正確には、日本語を母語とする人)とポリネシア人は、虫の泣き声や雨音、川のせせらぎを左脳、言語脳で受け止めているという。

それは想像活劇絵本にも多種多様なオノマトベとして、恩恵を与えている。


対して他の民族は、右脳、音楽脳で受け止めている。

その為、虫の羽音や雨の音は雑音として処理されるとか。


それとは、逆のパターンで、絵として、内容を記憶している……とか?



うーん、違うかなぁ。

根拠も何もないからなぁ。


一旦、保留にしよう。




考えたいのは、この先。


呼んだ本の内容は、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に影響を受けないのだろうか?

受けないのだとしたら、これらの知識が重要となってくる。


今後、僕が様々な世界に行く度に、自分自身の世界法則[リアリティ]が変質するだろう。


その度に、性格が豹変していたら、僕と一緒に行動してくれる人に迷惑がかかる。

というか、もしかしたら戸隠さんや、ヴラドや、月見里さんに飽きられてしまう。

こっちの方が切実で重要だ。

好きな人3人、みんな体現者[シュトゥルム]なんだもの。

月見里さんは、確認して無いけど変身してたから、まぁ、十中八九、間違い無いだろう。


その中で、1人、パンピーですよ。

うう。

世界法則[リアリティ]が変わる度に、僕だけが変わってしまう。

だけど、何かを軸、思考法の基準に設定しておけば、自分自身が、ぶれるような事はなくなるのではないだろうか?

また、ぶれない視点を持つと言う事は、物事を観察する場合に重要な事だ。


今だって僕は、地球にいた頃と、自分自身が変化したつもりは無い。

しかし、五十鈴さんは、僕が変わった事を面白がっているようだったし、もしかしたら、ヴラドも同じ様に思うかもしれない。

自分自身の変化を知る為にも、物差しは必要なんだ。





そんな風に、取り留めなく思考していると、ピンポーンと音がした。

僕は一旦、この考えを中断する事にする。


「起きたかね、患者2号」

どこからか、男の声。

再生槽の中、僕の耳にある辺りから声は出ている。

多分、スピーカーみたいな物があるんだろうと、見当づける。


えーと。

誰だっけ?


少し記憶を探るが、全く思い出せない。


「すいません。えーと、どなたですか?」ぽこぽこ……

発声を、正確に一語一語、区切る様に話した。


しかし、僕の質問が気に入らなかったのか、向こうで話をしている人が、気を悪くしたみたいだ。

「ふん!僕の名を知らないとは、所詮は劣等遺伝子だな!」


うわぁ。

痛い人だ。


ん?

あ。


「思い出しました。

 確か、坂崎さんでしたよね」


空気を呼んで見た。

「優良遺伝子の」


「ん?何だ。判ってるじゃないか」うんうん

皮肉が効かない。

溜息が出そうになるのを堪える。

「すいませんが、現状がどうなっているのか、教えてもらえませんか?」




「それは、私からお話します」

今度は、五十鈴さんの声が聞こえた。

「はい、お願いします」


「現在、時雨君が再生槽に入ってから、20時間が経過しました。

 現在の時刻は、14時です」

「そんなにっ!?」

しまった!!

いつ、ラパ・ヌイの侵攻が始まるのか判らないのに、こんなに時間を失うなんて!


「手術は成功です。

 バイオチップは蝸牛に定着しました」


あ。

そうか。

これで、もう、戸隠さんとのイチャイチャでラブラブな日々は……。





出歯亀されてしまうんだ。


うん。

それはそれで、燃えるかも。






いやいや、待て待て。

脳内で、つっこみが入る。


1、戸隠さんを裏切ってしまった……。

2、このシチュ、燃える!

3、この状況を利用する方法として、五十鈴さんに偽情報を……


だいたい、この3つが同時に浮かんだ思考、想いの強い順。

最終的には、時間がたつにつれ、3番に落ち着くと思うけど。



実際、今は後悔よりも、行動が必要な時だから、とりあえず動く。



「五十鈴さん」

「はい」


「僕は、あと、どれぐらい、再生槽に入っていないといけませんか?」

「時雨君は、もう問題ないわよ。

 だから、起こしたんだもの」

「そうですか」

「何か、違和感とか、おかしな感覚はあるかしら?」

「液体呼吸なので、何とも……」



あ。


「それよりも、ヴラドは大丈夫ですか!?」

「ヴラド君は……」

珍しく、五十鈴さんは言いよどむ。


「な、何か、あったんですか?」

「え、ええ」

歯切れが悪い。

ヴラドは、僕よりも重傷だったから、僕より、再生が早く終わるという事は無いはず。

という事は、何らかのアクシデントがあったと考えて良いだろう。


再度、問う。

「何が、あったんです?」

少し声が震えた。

もし、もし、ヴラドが死んだとか、実験材料に使ったとか、データ取りの為のモルモットにしているなら!!



「血圧が上昇しておるな、そう怒るな。

 劣等遺伝子の考えるような事には、なっておらんぞ」ひひひ

坂崎さんの声が割って入ってくる。


「じゃ、じゃあ、いったい……」

「説明が難しいわね。

 いいわ、自分の目で見てもらった方が早いでしょう」

「は、はぁ」


「これから、一旦、ええっと……、液体の排出作業に掛かるわね。

 もう少し待っていて」

あ、今、液体の名前を隠した。

企業秘密か。

聞きたいけど、止めておこう。

空気を呼んだ。





再生槽の中の僕は、真っ裸だ。

相変わらず自分の身体は、気持ちの良い身体ではない。


毛深いし、ケロイドだし、肌色悪いし、脂肪の固まりだし。

あー、でも太っているのは、自業自得。

ケロイドと毛深いのも、本当に嫌なら、何とかできるよね。


ただ、単に、僕のわがままか。

両親の残してくれた体を弄りたくないと言う……。


それも、あれだ。

今回、バイオチップを入れたから……。


「はふぅ」

戸隠さんと月見里さん、怒っているだろうなぁ。

メールも何もして無いからなぁ。





取り留めの無い事を、考えていると、再生槽全体が動き出した。

斜めになっていく。

僕は身体を固定されているので、落ちることは無いが……あー、そうか、液体の排出ね。

肺からも出さないといけないからか。

これはきつそう。






ゲロとは違った新鮮さでした。

肺の物を吐くって。

何というか、咳に近い感じ?


もう嫌。

再生槽、2度と使わない。





あれから僕は、あちこちにファスナーがついた患者服を着込む。

もともとの服は何処かへといってしまっていた。

テクノネレイスの返り血がついていたから、情報収集用に持っていかれてんだと思う。


再生槽の外に出ると、108が待っていた。

「治ったようだな。

 流石、皇國代理天の技術だ。

 地球とは比べ物にならないだろう?」

108は僕の右手や、目を見ている。

「?」


「気にするな、こっちの事だ。

 主任が呼んでいる。案内しよう」

上機嫌で、108は僕を後ろに連れて歩き出す。


何だっけ……。

何かあったような気がするんだけど……。


ええと。



あ、そうだ!

殴られたんだ!!


「108っ」ぎりっ

「何だ?」


「さっきはよくもっ!!」

「治っただろ?」

「そーいう問題じゃないっ!!」

「じゃ、どういう問題だ?」

「え?」


何だろう。

どんな問題だろう?

えーと、えーと……



「心の問題だ!」

「ふむ」

「108に殴られて、痛かったし辛かったぞ!!

 何でそんな事をしたんだ!?」

「待ってくれ」

「?」

「僕が君を殴った?

 主任の大切な、ビジネスパートナーの君をかい?」

「え?」


「すまない。

 思い当たる節が無いよ。

 それはいつの話だい?」

「ぼ、僕が再生槽に入る前に……、

 つ、通路で……」

「ふーん。

 じゃあ、監視モニターをチェックしてみよう。

 僕が君を殴ったと言うのなら、それが映っているはずだ」

「え」


「だけど、もし、映っていなかったら……

 僕は恥をかかされたから、

 復讐の義務が生じるけど良いかい?」


「ええっ、そんな」

「人を疑うなら、自分の名誉と命を懸けないと」


「いいです。止めておきます」

監視モニターの映像外を狙ったり、監視モニターそのものに細工するぐらいやっていそう。


「そうか、疑いが晴れて何よりだよ。

 君は怖い夢を見たんだね」


にまぁ


108は笑う。

 

 

―――!!


何だろう。

急に殺意が湧いた。


一番、大事な物を汚された様な……。



“私は、笑顔は嫌いだ。あんな醜悪な顔の似合う人間なんて、死んだ方が世の為だ”


そうだ。

僕の好きな人が、嫌っていた表情だ。


だからこそ、本当の笑顔を見せたかったんだ。


それなのに、こいつは。

戸隠さんの顔をして、戸隠さんのもっとも嫌がる事をしている、こいつは―――!!




笑うな。

戸隠さんの、その声で、その目で、その表情で。


笑うな。

嘲りを、殺意を、憎しみを、企みを隠した、その顔で。



「―――笑うな」

僕は、今、はっきりと、認識した。


108


こいつは敵だ。


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