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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
51/169

切り札は、先に見せた方が負けるものなのですよ


「マスターデータの代金は要りません。

 その代わり、この紙に名前と捺印、血判、網膜の登録で、どうでしょう?」

そう言って、先程、清書された契約書を指差し、にこりと笑う。


「ぐっ」

やっと判った。

契約交渉は、終わってなんかいなかった!

「えっと、地球ではこんな時は……何て言ったかしら」

「?」


「俺のターン!淫乱バグベア!!」

そう言って五十鈴さんは、年甲斐も無く、戸隠さんそっくりなドヤ顔をした。

ぐぬぬ。




「切り札は、先に見せた方が負けるものなのですよ」にっこり


やられた!

上手く話が回ると思っていたら、相手はジョーカーを持っていたからか!

それで、僕がどう動くか、観察していたのか……。

くそ。

完全にしてやられた!!


「そ・れ・に・言いましたよね?

 “犯人は、真綿で首を絞めるように、ジワジワと追い詰めてやろう”と」



え、えー。

ここで、来ますかぁ……。


くっ。

でも、契約を受けるわけには、いかないっ!!



「で、ですが○○○○○○○の侵害に当たるのでは?」

「肖像権ですか?」

「は、はい。多分、そんな気がします」


「皇國代理天には、肖像権という物は存在しません」

「えっ?」

「日本でも肖像権については、明文化した法律はありません」

「うう」

「まぁ、民事上では幾つかの権利の侵害に当たる事もありますが。

 それでも、たまたま、自分の壊れたマンションを映していたら、不法侵入者が来て、勝手に映っただけです」にんまり

「くぅぅ……」ぐぐっ


そういえば、モヒカン店員さんが、現場は立ち入り禁止、監視カメラがあるって言っていたっけ。

その割に、色々と凄いアングルで編集してあるなぁ。

流石にコレは、他人に見せたくない。




どうする?


……。



五十鈴さんは、最初から脅迫と言う手段で、契約を結ぶつもりだった。

そして、僕は、全ての切り札を失って、相手の土俵に立ってしまっている。

駄目だ。

とれる手段が無い。

現時点では、契約を受けるしかない……。



「交渉内容は……先程の契約書に合意する事……で良いですね?」

「はい」

「そうする事で、マスターデータ及び、コピーされた全てのデータも、こっちが貰う。

 加えて、マンション破壊の裏事情なども話していただける」

「はい」

「くっ」ぎりっ

「ふふ」


「更に追加を。

 戸隠さんと僕の関係について、僕は現状を改善するつもりです。

 戸隠さんを悲しませるつもりが無いと言ったのは真実です」

「真綿で首を絞めるような行為を、止めろと言う事ですか?」

「はい」

「私の楽しみがなくなります」くすくす

「で、出歯亀の様に、ぼ、僕と戸隠さんの赤裸々な毎日を覗くんだから好いでしょう!?」


ぷっ

くすくす。


五十鈴さんは、人が悪い。

108さんも、きっと苦労しているんだろうなぁ



「判りました。出歯亀した結果、106が、私を納得させるような笑顔になったなら、他の嫌がらせに変えましょう」

「もっと嫌だよ!!」

「あらら」

「うー」


「では、嫌がらせ云々は置いときましょう。

 時雨君、106のコンディションを、元に戻しなさい」

「……」

「契約内容は、先程の条件で変更無しです。

 全てのデータの権利を譲渡します。

 それ以外は、此方からは何もしません。

 もちろん、先程の契約書の内容も変更しません。

 目的は、106の監視、入手した情報は使用しない」


「……」

「……」


「判りました……その条件を飲みます。

 監視契約を受けます。

 受けさせて下さいぃ……」くぅー


「では、こちらにサインと捺印、血判、網膜データを」

仕方ない。



そして、僕は契約に合意した。

完全な敗北だった。





「お疲れ様です。

 このような結果になってしまいましたが、今日は有意義な日になりそうです」にこり

さっきも、その台詞、言ったよな。


「僕もです」くぅぅ


「これが、控えになります」

「有難うございます」


でも、考えようによっては、1年間、毎月50万円の非公式な稼ぎがあるわけだ。

え?年収600万円って……。

うほ。


でも、その間、戸隠さんとイチャイチャできない。



はぁ。



「あ、それから」

思い出したかのように五十鈴さんが、僕に笑顔を向ける。

「?」

「銀行口座は、是非、五十鈴銀行に開設してくださいね。

 振込みはそこに行いますので」

は?銀行?


「体現者[シュトゥルム]の皆さんで、何かご入用でしたら、是非。

 種類も豊富で、安心、確実、便利に即日、御融資致しますよ?」

商談を始めました。


「では、駅前にオフィスなんてどうですか?

 今なら、爆破事故があったので、物件を安く手に入れる事g」

「あ、その前にヴラドの所に連れて行ってもらえませんか?」

「?」




「えと、融資の前に、ヴラドに会いたいんですけど……」

「あ、そうでしたね」

「すいません」

「構いませんよ。様子を見に行きますか?」

「はい」

「では……そうですね。

 マスターデータとコピー含む全データは、帰りにお渡しします。

 その中に、先程の契約書に関する事とマスターデータの消去コードを入れておきますので」

「うう、お願いします」



僕は、強引に話を捻じ曲げ、急いで立とうとした。

「あっ、と……」ふらっ


ぽすん

「大丈夫ですか?」


丁度、僕は五十鈴さんの胸に、後頭部を埋めるような形で、倒れこんだ。

月見里さん程では無いけど、五十鈴さんもボリュームあるなぁ。


ああ、いい気持ちだ。



カシャっ



「え?」



五十鈴さんが、自分に向けてスマホモドキで撮影している。

多分、僕のにやけた顔が、映っていることだろう。


「あ、あの~?」

「記念に」

「え?」

「後で、時雨君の携帯にも送りますね?」ふふっ


「うわぁあ、やめて、とめてぇ」


「冗談ですよ」



僕と五十鈴さんは立ち上がると、部屋の外に向かう。


冗談って言った割には、あのデータ、消去して無いぞ。五十鈴さん……。

うう……。

また、何か脅迫する気か?






プシュッ。

扉が横にスライドし、僕は五十鈴さんの後に続く。

「医療センターは、ココより下ですから、またエレベーターに乗りますね」

「あ、はい」

しばらく通路を歩いていると、反対側から108さんが五十鈴さんの元に来る。


「どうしたの?108」

「は、警護をと思い……」

「そう、ありがとう。今から医療センターに向かうわ。ついて来て」

「はい」


ギロっと、108さんに睨まれる。

なんだよう。


相変わらず、眼鏡がないので足元がおぼつかないが、エレベーター前まで歩いてきた。


「そういえば、時雨君は、眼鏡を壊していましたが、もしよろしければ、カメラを搭載するついでに直しましょうか?」

「いいんですか?」

「無料で行いますよ」にっこり

「え?」

「どうしたんですか?」

「あ、いやぁ、何かあるんじゃないかって……あはは」


「貴様っ!主任に恥を掻かせる気かっ!!」

刀に手をかけ、108さんが僕に詰め寄ってくる。


「うわぁっ!

 だ、だって、さっきみたいな美味しい話の後に、もう一段階あるんじゃないかって……」

「あらあら。大丈夫ですよ。

 本当だったらバイオチップ搭載時に、眼球に視力矯正をするつもりだったんです。

 その分の費用をまわすだけですから」

「あ、ああ、そうなんですか。

 あ、ありがとうございます」

ちょっとホッとした。



「ふん!命拾いしたな!!」

108さんが、ぞんざいに刀にかけていた手を下ろす。


「こら、108。彼は大切なビジネスパートナーよ。

 貴方こそ、その無礼な振る舞い、私に恥を掻かせる気?」

「え?ち、違います、主任ッ!!

 お、俺は別にっ!」


「ふぅ、先に解析班から時雨君の眼鏡を受け取り、特殊技術班の元に届けなさい、その後は医療センターで待機」

「し、しかしっ」

「……」ギロ


「―――くっ。判りました。

 では、くれぐれもお気をつけて」

ばっと身を翻すと、108はエレベーターの前から、僕達が居た通路とは別の通路へと向かう。


あれ?エレベーターは?

「ああ、忍者用の通路を使ったんですよ」

「は?」

「隠し通路ですね」

五十鈴さんは、先程の108さんの、あたふたした姿がよほど良かったのか、笑いをこらえている。

「申し訳ありません。

 時雨君をダシに使うような事をしてしまって」

「いえ、それは、別に構いませんが……」

人から嫌われるのは慣れていますので。






五十鈴さんは真顔になる。

「気付いているかと思いますが」

「?」

「現在、貴方の世界、地球は数多くの異世界の侵略対象となっています」

「……」

「我々の調査では、コクーン:キハ1011、ニューエルサレムしか判りませんでしたが、あと最低でも2つの世界が侵略しています」

「ええっ!?」


――!!


しまった!!

驚いた事で、情報を渡してしまった……

僕が、侵略している異世界の数を正確に掴んでいないと言う事を。


いや、それ以上に、ニューエルサレムって!!



「そう、緊張しないで下さい。

 ビジネスパートナーとなった以上は、ある程度の情報も、お渡しします」

「……」

皇國代理天は信用できないが、情報の真偽の判断なんて、自分ですれば良い事だ。

「……判りました。情報、有難うございます」

僕は、五十鈴さんの話を聞く事にする。




「まずは、ニューエルサレムについてですね」

「はい」

「目下の所、我々、皇國代理天とニューエルサレムは、水面下で争っています。

 本格的な闘争に発展しないのは、どちらもそれを望んでいないからです」

「そうなんですか?」

「はい。表向きは、ニューエルサレムは日本政府に対して、侵略をしないという声明を出しています。

 それは、ある特権を得る代わりに、不可侵条約を結んでいると、考えてもらって良いでしょう」

「不可侵条約……?」

「はい、地球の守護者[ガーディアン]の仲介で行われました」

ここでも、地球の守護者[ガーディアン]か。


「ですから、地球とニューエルサレムは、表向きは友好状態です」


僕が敵の事を知らないと言う情報はばれたし、ココは聞いておくか……。

「その、不可侵条約で得られる特権っていうのは、何なんです?」




「現在の侵略地域の、租界化」



「租界……」

言葉としては、歴史に関する言葉だろう。

私生活において、使用する様な言葉ではない。


大東亜戦争前の頃の話だ。

中国国内の幾つかの都市が、列強各国の租界として、開設された。

租界とは、簡単に言うと、行政自治権や治外法権が認められた、国の中にできた外国だ。

要するに半植民地。



日本政府が、そんな条件を飲んだのか?


あ、でも、幾つかの動画作品でそんな物があったな。

Dance with The Vampire Bundとか、東海奇皇もそうだ。

色々な条件を飲んで、最終的に日本政府が、租界を認めている。


と言う事は、何か?

僕の家の隣は外国ですっていう話?


でも、だからこその、あの授業内容だったのか。

まるで、工作員とか諜報員を育てているような感じだしなぁ。


まぁ、いいや。考えるのは後だ。

今は情報に集中しよう。




「租界という境界線があるので、その外で問題を起こさないように、非常に気を使っていますよ。彼らは」

「それが、本格的な闘争に発展しないニューエルサレム側の事情ですか」

「はい。そして、我々の事情ですが、皇國代理天は、軍事的な組織を持っていません」

「え?」

「ですから、我々も本格的な闘争は、望んでいないのです」

「ち、ちょっと待って下さい」

「はい?」


軍事的な組織を持っていない侵略者?

五十鈴さんは、貿易をしたいとは言っていたけど……。

でも、それじゃ……


「あの、攻め込まれたら、どうするんです?」

「負けます」

「は?」

「いえ、文字通り、敗北します」


「そ、それで良いんですか?」

「良くは無いですね」

「じゃ、じゃあ……」

「その為の、情報、根回し、暗殺です」


「あー」

「だいだい、軍隊なんて非効率的です。

 何の生産性も無い、消費するだけの物なんて」

「でも、顧客としては最高じゃないですか」

「ええ。ですから、商人である我々には、必要ありません」


「そーですか」




「不可侵条約は、日本政府にも損な取引では無いですよ。

 他の異世界からの侵略に関してのオブザーバー派遣など、我々のお株を奪うような事を、平気でやりますからね。

 日本政府としては、大使館でも開設した程度の認識だと思います」

「……と言う事は、皇國代理天は、ニューエルサレムに遅れをとった……と」

「う。仕方がありません。

 我々と彼らでは、3年の差があります。

 今は、その差を埋めている段階なのです」

苦しそうに五十鈴さんは言った。

これ以上聞くなと、五十鈴さんの周りの空気が言っている。

僕は空気を呼んだ。


自重して、次の質問へ。

「ニューエルサレムの目的は何でしょうね?信者の獲得?」

「それは、私にも判りません。

 あそこの教皇は非常にカリスマのある人物ですが、周りのブレーンも優秀な者が多いのです」

「へぇ」

「裏で何をしているのかは判りませんが、脅威度としては、皇國代理天の次に、地球に友好的な異世界でしょう」

いまいましい、という雰囲気をにおわせて五十鈴さんは話を締めくくる。




「じゃあ、当面の敵はコクーン:キハ1011という事ですか?」

「そうですね。

 我々はあの世界の知性体をテクノネレイスと呼んでいますが、我々の社会と非常に良く似た社会形態をとっているようです」

「昆虫の様な……蜂や蟻の社会ですね」

「そうです。ただ、生命体に寄生する関係上、敵対せざるを得ません」


「詳しいんですか?」

「いえ、一度、皇國代理天はコクーン:マロウ101という異世界より侵略を受けたのです」

「……」

「結果は、侵略された別の皇國代理天の生命体の死滅とコクーン:マロウ101の破壊です」

「破壊ですか……」

「はい」

「その、どうやって……」

「不滅存在[イモータル]であるクィーン・マロウの暗殺です」




「彼らの侵略方法は、だいたい10年から50年のサイクルをかけます」

10年なら短期的ですが、50年だと長期的だなぁ。

「その方法は、異世界の知性体に女王候補となる幼生体を寄生させる事から始まります」

「ええっ!?」

「ある異世界に似たような概念があったので、我々はその言葉を使用しています」

「?」

「妖精が自分の子供と、人間の子供を交換する……チェンジリングと呼んでいます」

「チェンジリング……」

「地球にも、似た概念はあるようですね」

あるにはあるが、寄生と違って、子供を交換する事だからなぁ……

ちょっと違う気がする。




要約すると、テクノネレイスは、女王候補体を侵略世界の知性体に寄生させ、成長を待つ。

成長した段階で、宿主と融合した寄生体は、帰巣本能に従ってフェロモンを撒き散らし、異世界の雄型テクノネレイスを誘う。

僕達が戦った、モヒカンの店員さんは、その雄型個体だという。

その後、女王体は巣をつくり、新たな侵略用テクノネレイスを生産するようになって、本格的な侵略を行うらしい。


「……と言う事は、あの近くに、女王候補体がいたって事ですか?」

「可能性としては……ただ、情報収集に来た可能性も否めません」


「表向きは、我々、皇國代理天とニューエルサレムは地球に対して、侵略をしないというスタンスです」

「……」


「ですが……」

「……」ごくっ

「一昨日のマンション爆破事故は、今までは水面下で行われていた、皇國代理天とニューエルサレムの争いが、表面化したと言う事。

 即ち、武力衝突が起こったという事を、他の異世界にも知らせるデモンストレーションだったのです」



「は?なんで、そんなまた、ワザワザ……」

「それが、真実か否か、調査の為に他の異世界は必ず諜報員を派遣します」

「あ」

「時雨君も、情報がいかに大切な物であるかは、承知していると思います。

 新鮮で正確な、信頼できる情報の価値は、全てに勝ります」

「……」


「我々は、何としても残り2つの異世界の情報を入手したいのです。

 我々も、ここまで酷い侵略が行われている異世界は初めて見ます」

「うう、地球はもしかしてもうダメポ……?」

「そうとは、限りません。

 相手を知る事です。

 敵の敵は味方にできます」

その為にも情報か……。


コクーン:キハ1011、ニューエルサレム、皇國代理天、ラパ・ヌイ、そして残り2つ。

そのうちの1つは、あの飛行機事故の犯人達の世界だ。


昨日から僕は信じられない、足元がぐらつくような情報ばかりで頭が麻痺してきている。





ティンッと音が鳴り、エレベーターが到着する。

僕と五十鈴さんは、エレベーターに乗って一路、医療センターへと向かう。



医療センターもやはり、何の飾り気もない白い壁で覆われていた。

ココに来てから、外の景色を見ていない。

少なくとも30階近い高さと、迷路のように入り組んだ、窓ガラス1つない、広大な建物……。

聞きたい……。

世界1つが、丸ごと企業というのも凄いけど、地球を遥かに越えた科学技術を持っている割に、思想が個人よりも社会に向けて発展している歴史……。

うう、面白そうな歴史だけど。

さっき“皇國代理天に支配された世界は、歴史を失います”って言っていたからなぁ。

あまり、聞かない方が良い話題なんだろうなぁ。

しかたない、空気を読んでおこう。




「こちらです」

五十鈴さんに案内され、僕は医療センターに着いた。

中は、扉が開くと受付になっており、五十鈴さんが用件を述べる。

ヴラドの面会と、僕のバイオチップ投与を行う事。


地球で言うと、かなり大きな総合病院という感じなのだろうか。

受付は5箇所あり、そのうちの1つに、五十鈴さんが向かったのだが、そこには人はいない。

受付といってもモニターのついた駅の切符自販機みたな感じだ。


そこで、五十鈴さんは網膜と指紋のチェックを受ける。

そして、僕を呼ぶ。

「時雨君、こちらで網膜と指紋の登録をお願いします。

 契約条項は、先程の契約時に行われています。

 特定条件下以外で、これによって得た情報を開示する事も利用する事もありません」

「はい」

僕は、網膜と指紋を登録する。


ピッ


画面に文字が現れる。

!ソコウヨ。テシマメ初


あれ?日本語だ。

ん?

んん?


あ、ああ。

初めまして、ようこそ!……ね。


大正時代の新聞みたいだ。

読みにくい。




受付機には、既に話が通っていたらしい。


データ通信を行う旨を告げるアナウンスが流れ、五十鈴さんは何かのデータのやり取りをしたようだった。

一瞬だったし、無線だったので殆ど判らなかったが。




五十鈴さんは、再び僕を誘うと先頭に立って案内する。

受付を抜け、奥の両開きの自動扉をぬける。

通路は広大で、幅5mほど。

ただ、白いまっさらな壁が延々と続き、通路からは、いくつもの細い通路が更に延び、奥地へと続いて行っている。

内科とか精神科といった様に、部署毎に別れているのだろうと、判断したが、良く判るなぁ。


僕には判らないが、五十鈴さんは、適格に迷う事無く、まるで迷路のような通路を進む。


先程の無線のデータ通信といい、どうも、脳内にデータチップか何かがあるみたいだけど……。


そこまで考えて、ふと、思い当たる事があった。

拡張現実……かな?

少し聞いてみる事にする。

「すいません、この世界の字は馴染みがないので、良く読めないのですが、どの看板に、何て書いてあるのか、教えてもらえませんか?」

「え?あ、ああ、構いませんよ?」

五十鈴さんは、行き成り、話しかけられて少し戸惑ったようだが、快く引き受けてくれた。


何だろう。

自己紹介の時の名刺パタパタといい、108のふざけ方といい、しっかりとしている様で、時々、抜けている。

そんな感じに見せているんだろうか?


五十鈴さんは、僕に何もない白い壁を指差す。

「あそこに書いてあるのが、トイレです。

便所・雄、雌と書いてあるので判ると思ったんですが……よって行きますか?」

「ええ、是非」


やはり、思った通りみたいだ。


現実では、張ってないけど、脳内で処理される時に、データとして投影されるようになっているんだ。

どんな風に見えるんだろう?

うーん。僕の眼鏡にも同じ様な機能、つけて貰えないかな?

地球に帰ったら、変質しちゃうかなぁ……。



トイレに入る。

流石に、トイレぐらいは地球と……、

うあ、良く似ていなかった……。


もう一度、外に出て、男性用か、女性用か看板を確認しようとする。

看板がない。

仮想現実上で見えるはずの看板は、僕には見えない。


「あ、あの、トイレはココで良いんですか?」

五十鈴さんに聞く。

「はい。やり方は地球と同じですよ?」


「え?ああ、はい。判りました」

どうやら、僕が入っている所は、男性用であっているらしい。


入った時、一瞬、女性用かと思ってしまった。

個室。

男性用でも、全員、個室。

座ってするみたいです。


外から声が聞こえる。

「皇國代理天には、男女に別けてある施設はありませんよ。

 効率悪いじゃないですか」くすくす


あ、からかわれていたのか……。


「大丈夫です。

 個室完全防音……ではありませんが……

 何しろココのトイレには余り予算を使ってませんので」

ぶっちゃけた。

「先程の階のは完全防音です。

 盗聴器が仕込まれていて、特定ランクの人以外は聞くことが出来ませんから」

は?

なに、そのぷれい??

「トイレの中だと安心するというのは、どこの世界でも共通の様ですしね。

 重要な商談の相談を良く上司と行うんですよ」

ああ、それを盗み聞きするのか……。





血の抜きすぎで少し疲れてるし、とりあえず座る。


実は、皇國代理天に来てから、ヴラドとの繋がりが薄くなっている。

世界法則[リアリティ]が変化した為に起こった事だと思うけど、今は取り合えず、ヴラドと感覚同調する事にする。

僕とヴラドが思念で会話できるのは、知られない方が良いと判断したからだ。


おや?


あれ?

感覚同調どころか、知識共有もできない……。



まさか。



ヴラドが……死んだ?



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