俺のターン!
「口頭での契約?
何の事でしょう?」にや
コトッ
僕はスマホモドキをテーブルの上に戻す。
今、僕は、おもいっきり、悪そうな笑顔を浮かべている。
不本意ながら、恫喝や冷酷な笑顔、酷薄な態度は、得意分野になってしまっている。
何しろ、相手が勝手に間違えてくれる事もあるぐらいだ。
ぐすん。
今回、この作戦に必要だったのは、時間。
だが、ヘッドマウントディスプレイを使用できたので、非常にスムーズに事が運んだ。
仮想キーボードを使って、データを消去。
運の良い事に、そこから先の素材は、全部スマホモドキの中にあった。
ご丁寧に、データ完全抹消ツールまで。
落とした時に、なかなか頑丈そうだったから、どうやって物理破損させようかと、悩んだのも良い経験でした。
僕は、更に追い討ちを掛ける。
「お疑いとあれば、中を調べてもらっても結構です」
「まさか!」
ハッとした顔で五十鈴さんがスマホモドキを取る。
少し、罪悪感を覚える。
でも、これが汚いビジネスである以上は、騙し、騙されは、仕方ない事。
五十鈴さんは、スマホモドキの中を、色々と弄ったり、検索したりしている。
しかし。
「ふぅ。やられたわね」
諦めたように、スマホモドキを置く。
「皇國代理天も、ヴラドを無料で治療してくれるとは思っていません。
“ぷらいばし”を売る事は出来ません……
が、八代の情報を、いくらか流すぐらいなら出来ますよ?」
もちろん、ハッタリだ。
八代の情報って、僕が聞きたいぐらいだよ。
でも、五十鈴さんが、月50万の価値があると思った情報だ。
買ってくれる可能性は高いはず。
「契約はしないのではなかったの?」
「無料で、恩を受けるのは、後が怖いですから」
「そう」じっ
「この場限りのあ、新しい契約を……、
ぼ、僕の“ぷらいばし”を売らないような……」
五十鈴さんは、僕をじっと見詰めている。
な、何だ?
「ところで、時雨君は、メールの送信欄は見なかったのかしら?」
「え?」ぎく
まさか、いつ、どこで送ったんだ!?
僕が観察していた限りでは、送った様には見えなかったが……車内でか?
着信と違って送信履歴は、コピーをとっておく必要があったり、見れなかったり、手続きが面倒だったりするんだけど……それは地球の話。
もしかして、皇國代理天では、そんなに簡単に見れる様になっているのか?
他人に見られた場合、着信履歴よりも、ずっと危険なのに。
「送信、履歴……ですか?」
「ええ。もしもの場合を考えて、バックアップを取っておくのは基本よ?」
確かに、五十鈴さんみたいな立場ともなれば、情報を扱うのはかなり慎重にならざるを得ない。
当然、バックアップ専用回線なんかも持っているのだろう。
こんなところで躓くわけには……。
「バックアップですか……
でも、今回は送られていなかったようですが?」
「良く調査した方が良かったのにね?
詰めが甘かったわね」
誰が裏切るか判らない、この世界で、信頼できる人間なんていない。
と、なると、バックアップ専用回線は、無人のセキュリティーの高い場所で、スマホモドキや携帯電話で遠隔操作を受け付けれる場所……。
「履歴は……見ましたが、回収班の方の者が最後だった様なので……」
ハッタリだ。
「……」
「……」
あまり、賭け事は好きじゃない。
だが、ココはやるしかない。
「では、今ここで、提示してみて下さい」
多分、データのバックアップがあるとすれば、皇國代理天ではなく、地球だ。
今、僕がいる地下都市、海底都市、海上都市という3段構えの皇國代理天の首都は、無線通信には困難を伴う。
だから、アクセスポイントからは、ケーブルを使用した有線通信網が敷設されているはず。
このケーブルを押さえてしまえば、暗号化されていても、情報入手は可能だ。
実際、居るんじゃないだろうか?
そう言った、良くゲームとか○○○○……あーっと、想像活劇文学、想像活劇絵本に登場する、どんなデータにもアクセスできる凄腕のハッカーみたいな人が。
実際、情報の集結地点があるなら、そこを押さえるのが一番だし。
推測に推測を重ねた博打だが、そういった情報の集結地点が確実にある皇國代理天と、それと比較すれば、まだ分散している代わりにセキュリティーの甘い地球……。
僕だったら、地球の方が安全だと思う。
だからこそ、この皇國代理天にはデータのバックアップは無い。
通信しようにも、異界門[ゲイト]を挟んでいる以上は、無理だろう。
僕は、もう一度、五十鈴さんに言う。
「今、ここで、提示できなければ、無い物と考えますが……」
「……」
「……」
ジッと見詰め合う…というより、睨みあっている。
時間稼ぎはさせない。
たたみ掛けよう。
「そ、その、先程も言いましたよね?」
「?」
「五十鈴さんは“106を悲しませる者がいたら、許せない”って、言ったじゃないですか」
「はい、言いましたけど?」
「い、今、結ぼうとしている契約は、あ、明らかに、戸隠さんを悲しませます」
「……」
「ですから、この手術を受けるわけには行かないんです」
「……」
「ぼ、僕も戸隠さんを悲しませるつもりは……」
無かったんです。
ええ、はい。
まさか、ヴラドと獣性に支配されていた瞬間を見られているとは……。
なんというか、二股を見つかった男みたいだ……。
ん?
あ、いや、二股ならぬ、三股そのものか。
うぅ。
後でキチンと謝って、復讐の義務の放棄をお願いしよう……。
「106を悲しませる……ですか……」
「……」
「……」
そして、僕と五十鈴さんは押し黙る。
長い時間がたった様に感じられたが、実際は1分もかかっていないだろう。
ふぅ。
五十鈴さんは溜息をついた。
「仕方ありません。
契約は無かった事にしましょう」
やった!
体が歓喜に震える。
と、同時に、力が抜け、背もたれに倒れるように身体を預ける。
ああ、そっか。
血液をかなり失ってるのに、良くもったなぁ、僕。
流石に疲れた。
「お疲れ様です。
このような結果になってしまいましたが、今日は有意義な日になりそうです」にこり
「僕もです」
「あ、あのヴラドの治療ですが……」
「はい、現在、治療に当たっております。
もう一度、確認しますか?」
「あ、でも契約は……」
「ふふ」
「?」
「確か、時雨君に輸血しながら、ヴラド君に血を飲ませるという話でしたね?」
「え?はい」
「先程、108に準備するように指示しておきましたので……」
「でも……」
いつの間に?
いや、それより、契約破棄をしたんだ。
受けるわけには行かない。
「念を押すようで、申し訳ありませんが、
先程、確認した所、ヴラド君と時雨君の血液型は違う、という事も判っています。
血を飲ませる事に何の意味があるか判りませんが、その方法を実施して構いませんね?」
あれ、血液型が違うと拙かったっけ?
いや、そもそも、何で僕はヴラドに自分の血を飲ませようとしたんだ?
先程も同じ事を考えていたっけ。
血の中の○○○○○が、必要なんだ。
まりょ?
○○○くそ。
そう、老廃物が必要なんだ。
おや?
何で、うんこや糞を主体にした○○○○なんてマニアックな大人向け動画の話になるんだ。
昨日、武居と話していた、ニッチなAVとどっちが多いだろう。
いやいやいや。待て。
「あ、あの、その前に五十鈴さん」
「何か?」
「僕は契約を、は、破棄したから」
五十鈴さんは、このまま、医療行為をしてくれそうだが、流石に後ろめたすぎる。
「ふむ、では、そうですね……
私個人と、少し話をしませんか?」
「え?」どきっ
「皇國代理天は、関係ありません。
私と、時雨君との話です」
五十鈴さんが妖艶に微笑んでくる。
大人の色香がムンムンと漂ってくる。
「ど、どんな内容の話なんです?」
「ふふ。ちょっとした大人の会話です」
五十鈴さんは、席を立ち、テーブルを回って僕の方にまで来る。
な、何だ。
ドキドキしてきた。
「まずはコレを……」
五十鈴さんは、コトッとデジカメをテーブルに置く。
SOMY製のデジタルなビデオカメラだ。
動画が移っている。
暗い室内だが、かなり鮮明に移っている。
中では男女が2人、抱き合っている。
部屋は、何かの攻撃を受けたかのように焼け焦げ、見るも無残な姿を晒しているが、2人は気にせず乳繰り合って……。
男は、ただ欲望のままに、遮二無二ついている。
テクとかはなく、本能のままといった感じだ。
しかし、女もその男の求めに、歓喜の嬌声を挙げている。
あれ?
男は見たくも無いほど、醜く太っていている。
女はまだ幼く、少女といって良い年齢の、長い銀髪……。
おやぁ?
僕は、目をこすり、食い入る様に見る。
デブい男と、銀髪の幼女は、少し休憩を入れると、再び媾う。
精力絶倫というか、発情期真っ盛りといった感じだ。
いや、だけど。
「え、えーと……これは?」
五十鈴さんの方を向く。
「今日、私のマンションで、偶然、撮れた映像なんですが……」
「あ、やっぱり」
「コレを販売しようかと思っているんです」
「は?」
「月見里さんに聞いてみた所、時雨君は、こういった事には、造詣が深いとか」
「そ、そんな事ありませんっ!!」ぶんぶんっ
「106にも聞いた処、ベットの下に、獣性を刺激される漫画を、秘匿しているとか」
「うっ」
うああああ。バレテル。
「それで、まずは、時雨君に意見を聞いてみようかと……」
「えと、何の……意見デスカ?」
「より多くの人に見て貰う為の意見です」
「え?」
カメラを手にとって、画像を僕に見せてくる。
「良く撮れているでしょう?」
光度修正がされているのか、2人の顔、結合部が、非常に鮮明に、無修正で映されている。
視点は4……いや、5方向から、固定で撮っている様だ。
「え、ええ……あの」
「はい?」
「は、販売って、こ、これをですか?」
「はい、ですが、その前に……」
「……」
「月見里さんも、興味を持たれそうなので、後で意見を伺おうかと……」
「い!?」
「おや、凄い汗。どうしました?」
「あ、ああ、いやー」ごくっ
「……」
「しゅ、修正は入れたほうが……
よ、良いかなっと思いますが……
特に顔の辺り。
モザイクで。
声も変換で」
「ふむ。隠し撮りっぽさをアピールですか」
少しパニックを起こしかけている。
こ、これを販売する?
え?
何で?
五十鈴さんが、手取り足取り大人の世界を教えてくれるんじゃなかったの?
「題名は……
そうですね、淫乱バグベアなんて良いかなって思うんですけど……
時雨君は、どう思います?」
五十鈴さんが、ハンカチで僕の額の汗を拭いてくれる。
でも。
目が、笑ってない。
何か獲物を狙い定めた、鷹や豹の目だ。
「え?い、淫乱?何です?」
「淫乱バグベアなんて、どうです?」
うわぁ。
何だろう。
女郎蜘蛛……絡新婦っていう妖怪を思い出すよ。
網を張り巡らせて、絶対に逃がさない……。
……。
……。
じゃないっ!!
「あ、あの、少し待って下さい!!
こ、これは、いったい?」
「え?話し合いです」
「な、何のですか!?」
「いえ、時雨君はこういった物が、好きそうだったので、
“マスターデータを買いませんか?”という交渉です」
「こう、しょう……?」
「実は、私がマンションを壊した理由には、いくつかの理由がありまして……」
「……」ごくっ
「その情報と合わせて買いませんか?」
「い、いくらで……?」
「いえ、お代は要りません。
この紙に名前と血判、捺印、網膜の登録で、どうでしょう?」
そう言って、先程、清書された契約書を指差す。
「ぐっ」
やっと判った。
契約交渉は、終わってなんかいなかった!
「えっと、地球ではこんな時は……何て言ったかしら」
「え?」
「ああ、そう!」ぽむ
「?」
「俺のターン!淫乱バグベア!!」
そう言って五十鈴さんは、年甲斐も無く、戸隠さんそっくりなドヤ顔をした。
カードゲームなんてやらなさそうな顔して……。
ぐぬぬ。




