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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第01話 僕にこの手を怪我せぃというのか
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出会い-ヴラド-


「あー……」


どうしよう、これ。

僕、八代(やしろ)時雨(しぐれ)は困っている。

いきなり目の前に、銀髪紅眼の美少女が現れて、涙を流せば、そりゃ焦る。


場所。自宅、内蔵。


時間。4月下旬。春うららかな夕方。


状況。開かずの扉から、美少女が転がり出てきた。僕を見て泣きだした←コレ重要。


もう一度。


僕を見て泣きだした。

↑コレ重要。




『どうしました、お嬢さん?』

などと気の利いた言葉をかけつつ、ニッコリさわやかスマイル笑顔で手を差し伸べる。


ああ、うん。

そんな事が出来れば良かった。

そんな事をしてみたかった。


いや、今までの漫画から得た知識が『やれ』と脳内で叫んでいる。

ついでに数か月前にフラれた幼なじみにも『やらないと殴る』と教育されてきた。


だが、僕は高校1年生になりたてほやほやの15歳。

しかも3年前の大事故のせいで、記憶喪失を患っており、しっかりと思い出せるのがここ半年の間のみ。

後は霞の様に朧で3年よりも前の記憶は思い出すこともできない。

まぁ覚えている事も大した話ではない。

フラれた幼なじみと一緒に観たアニメやゲーム、特撮等のオタクっぽい知識が主体だ。

しかも5年以上も昔のレトロな。場合によっては40年近く昔の代物だ。


そんなわけで、僕は人生経験なんて、禄につんでない。

イケメンな態度なんて、気恥ずかしい。


いや、そんな事よりも、もっと大きな問題がある。


毎朝、鏡を見ての感想。

妄想中、鏡の中の僕が語る。


『そんな事の出来る顔ではない』と。


僕は太っている。

身長は157cm、体重は90kgオーバー。

しかも「柔和な」とか「ふくよかな」とは無縁どころか、イケメンからは対極に位置する顔面だ。

鋭い目つきに四白眼。

ブラックジャックの偽物の様な、左頬から斜めに走る傷跡。

サングラスのように見える色覚補正眼鏡。

これらが合わさった結果、僕の顔はヤクザとか、ゴロツキとか、チンピラとか、三下とか、ヒャッハーみたいな、非常な外面、非情な強面となっている。

要するに360度、何処から見ても悪人顔だ。

もう少し目が垂れれば、悪人顔も和らぐのにねぇ……。


これらに加えて、少女に手を差し伸べるのに躊躇う理由がある。



僕の表情筋は、3年前の大事故による後遺症で、顔の左半分の筋肉と神経が上手く機能していない。

だから、笑うと「にちゃあ」とした、気持ち悪い顔になる。

幼なじみ曰く「如何わしくて不気味。笑顔のアンタ幻庵。わたしナコルル」

ちなみに「ナコルル?……覇王丸の間違いでh」と正したら殴られた。


自分で言うのも何だけど、性格は、陽気で爽やか、自発的とは無縁。

全くの逆位置、陰気で人見知りっぽい感じ。

人付き合いだって、上手くない。

話題は多いと思う。

だが、話す事が致命的に苦手だ。

トモダチ、ナニソレ、オイシーノ?ウマウマ。


運動は苦手。

器用ではあるけど、射撃とプラモ作成、弾幕回避にレイジングストームぐらいしか役に立たない。

とてもではないが、太鼓叩いたり、ムーンウォークはできない。


主に漫画を含む読書と、料理を作って食べる、プラモ作成が趣味。


外面と中身のアンバランスさが、人を寄せ付けない理由の一端と思われる。


何が言いたいかというと、要するに僕は、よほどの事が無ければ、第一印象で悪感情を持たれる人物だ。

泣けてくる。





正直に言うと、目の前の少女に困惑してるのもあるが、その美少女の行動に、何というか、凄く傷ついている自分がいるのだ。


いや、幾ら強面ブサメンでもねぇ。

人の顔見て、いきなり泣き始められたら、もう、何とも言えないわけで。

しかも、美女泣き。

眼を開けて、頬を涙がつつーっと流れる、アレ。


「うわ、コワッ」とか「キモッ」とギャンギャン泣かれり、「ヘンナカオ~」と嘲り笑われた方が、耐性がある分、ダメージが少ないんだよなぁ。

傷つくなぁ、ブサメンなのは承知してるよ?

再認識させないでも良いじゃないか。


……僕も泣いていいかなぁ?



自虐なポシティブ思考。

またメンタルが、おかしい方に行きそう。




さて、現在状況の確認だ。


今、僕は八代家本邸の内蔵(うちくら)にいる。


この、内蔵(うちくら)というのは、東北地方の一部で見られる昔ながらの建築様式で、簡単に言うと母屋の中に土蔵がある造りの事だ。

が、何故か、東海地方の片田舎、彼の家にも同じ造りの物がある。

八代家は江戸時代から続く家で、戦前はこの辺りでは有力な地主だったとか。

要するに、この家は田舎の金持ちだ。

多分、現在でも。

僕の知っている限り、家の持っている土地は、山付き三戸建て+防風林だ。


この八代家本邸は、武家屋敷の様な瓦屋根のある漆喰の白壁に覆われていて、ところどころ明治、大正風の雰囲気を残す家だ。

数ヶ月前までは、離れの方で暮らしていたけども、高校入学を機に本邸の方に生活の場を移動させた。



僕の父親は、漫画収集癖なるものがあったらしい。

この別邸の内蔵は言うに及ばず、別邸内に数か所、八代家本邸にある父親の書斎、寝室、2階倉庫と漫画の単行本が所狭しと並んでいる。

図書館、漫画喫茶もビックリだ。

種類も豊富で、有名どころは言うに及ばず、冒険活劇、恋愛、ビジネス、スポーツ、戦記もの、果ては成年物と種類も多岐に渡る。

ただ小説、アンソロジー系や同人誌はない、もしくは、僕が見つけていない。


もし、父が生きていたなら『どーゆう選定基準で買っていたの?』と聞いてみたかったなぁ。

案外、祖父と同じで「コレクションが楽しい」と言われそう。

血は争えんって奴だね。



で、何故、内蔵(うちくら)にいるかというと話は割と簡単だ。

この春、高校に合格した僕は、地元の人がメインで通う高校では無く、電車で少し行った場所の高校に進学した。

幼なじみもいない。

友達はゼロからスタートだ。

優しい人やイケメン、波長の合う人物とは是非とも仲良くしたい。


そんな中で出会ったクラスメイト、戸隠(とがくし)伊織(いおり)さんに、明日、貸し出す漫画の選抜に来ていたわけだ。




おおっと、現実逃避はココまで。




ふぅ。

吸ってー吐いてー。

良し、気分一新。


目の前の美少女、年齢は10~12歳ぐらいで、僕よりも若い。

銀髪紅眼、白い肌で北欧系の顔立ち……服装がおかしい。

少なくとも、洋服、和服、チャイナ服、シスター服、メイド服、ナース服、人民服、アオザイ、サリー、アバヤー…どれでもない。

しいてあげるとすれば、ファンタジー系ゲームのコスプレ。

しかも和製のDQやアトリエでなく、ダークソウルやスカイリム、ウィッチャーなど。

ガチムチとか硬派っぽいファンタジーに出て来るような安っぽい革製の胸あてに、麻の服、厚手のズボンと革ブーツという出で立ち。

全ての品が、汚れてはいないが、ほつれていたり、直した跡がある年季の入った物だ。




さて、今までの回想で1分立ってない。そう思いたい。


ココから本題。


実はあえて、美少女よりも目を逸らしていたことがある。

脳ミソが理解を拒む事ってあるよね。

それっぽい?


よっしゃ。

オッス!オラ時雨!いっちょやってみっか!

ノーミソコネコネ。






八代家の内蔵(うちくら)、その奥地には、開かずの扉という謎の両開きの扉がある。

鉄っぽい見た目で、飾り気のない武骨な扉だ。


まぁ、何の事はない。

あの両開きの扉は、ただの飾りだ。


元々は、外に出る為の扉だった。

それが蔵の老朽化に伴い、修繕する際に新しく外側に造った壁と一緒に埋めてしまった物だったはず。

僕はそう聞いている。

だから実は、本来は内蔵(うちくら)ではなくて、蔵の裏口が本邸とつながっていただけだった、とも言える。

気にしない、気にしない。


さて、その両開きの扉が開いている。

美少女はそこから出てきた。


本来なら扉は埋め立てられていて、開けると土壁があるだけだったはずだ。

だが、その先、美少女のむこう側には灰色の通路がある。

扉が開いているが、壁の向こう側が、僕の家の庭ではない。


あり得ない。

荒唐無稽すぎる。


『どこでもドア』と同じだなんて。



ゴオォォォォォォ……。


空気が吸い込まれる様な感じがしたと思ったら、灰色の通路のむこう側に、廻る球体が現れた。


あれだ。

レイダーズの罠。

大岩が転がって来るっての。アレ。


違いは、坂もないのに、灰色の廻る球体が自発的に速度を上げて、こっちに向かって来るっていう……。


まて、あわてるな。これはレイダーズトラップだ。


いや司馬懿さん、慌てるよ、これは。


泣いている美少女と、開かずの扉の関係は全く分からないけれど、今は退避だ。


僕は、一瞬のパニック状態から回復すると、今度は、この異常状態の対処へと動く。

通路の奥からやって来る球状物体は、明らかに僕と美少女、2人をペシャンコにする。


守らないと!!


何故か僕はそう判断していた。


だけど、ちょっと失敗したかも……。

雄叫びを上げて美少女に覆い被さるように飛びついたのは……。


多分、別の意図と勘違いしたのだろう。

美少女の顔が驚愕に歪み「ひっ」と口から悲鳴が漏れる。

うぅ、傷つくなぁ……。


見た目の派手さに驚くが、レイダーストラップは攻略が幾通りもある簡単な部類の罠だ。

美少女から腹に鈍い衝撃を受けながらも、ココなら球状物体の突進を避けることが出来ると、僕は四肢に力を込めて壁際へと押し倒す。



ドゴゴゴォォォ―――ン


別邸全体が激しくシェイクされる。


だけど、灰色の強大な球体は、両開きの扉を抜ける事は出来なかった。

扉よりも大きすぎた為、通路を塞いで止まった。



この別邸の基礎は、江戸時代に建築されたとの事だけど、それなりの地震対策をしてある。


しかし、蔵の中をシェイクする程の衝撃には敵わず、激しい衝撃に何冊もの歴史的に貴重な書物・漫画単行本がドサドサッと床に落ちる。

それらは、僕の背中にも大量の大判単行本を落とすが、美少女には当たってない。

よかった。

―――ゴンっ!!

安堵すると同時に鈍い音。

最後に、ハードカバー単行本の角が、僕の後頭部を直撃する。

「んん~~~っ!!」

後頭部への衝撃と、重力に抗うことなど出来るはずなく、段々と2人の顔が近づき、僕の唇が美少女の唇と接触するのを感じた。


お腹にズンっという鈍い痛みを感じる。

世界を取れる良いパンチだ。

そのまま気が遠くなる。


気絶する瞬間、僕は怒った美少女の顔を凝視していた。

綺麗だな……と。


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