名づけるなら……歴史歪曲の法則ですか?
「ふふ」
五十鈴さんが、僕を見て笑っている。
ち、ちくしょー!!
自爆を笑っているのか!?
「自爆乙wwwぷげらwww」m9(^Д^)
そんな妄想までが見えてくる。
くそぅ。
気分をリセットだ!リセット!
もう1回深呼吸して、話を進める事にする。
「どうしますか?
契約条項の確認から、再度行いますか?」
「いえ、構いません。このまま決めましょう」
「……」
「では、私達が違約した場合ですが、契約された条件以外で情報を使用した場合、違約金を払う……で、どうでしょう?」
「それで結構です……」うぅ
すぅ。
はぁ。
深呼吸。
おちつけー、おちつけー。
「次に僕が、違約を行った場合になりますが……
その前に違約の内容について、お尋ねします」
「?」
「どのような条件下で違約となりますか?」
僕が聞きたいのは、ラパ・ヌイに行った時の話だ。
バイオチップやカメラが、世界法則[リアリティ]によって、作動しなくなる可能性は非常に高い。
何しろ、一応、ファンタジーな世界っぽいからなぁ。
そんな状態の時にどうするか、だ。
「そうですね。
違約の場合は、故意に監視対象と距離を置く行為や、監視行為の妨害、長時間、眼鏡を取る、耳に情報が入らないようにする……などですね」
「えーと、ある程度の具体例を明示して違約条項に書いて置いてくれませんか?」
「判りました」
「例えば……戸隠さんが、お風呂やトイレに入っている場合、監視していないと対象と距離を置く行為になる……とか」ごくっ
「ふふ、大丈夫です、時雨君。
そんな事をすれば、私が貴方を殺しています」
「じょ、冗談ですよ……」
うわ、おっかない。
眼が笑ってないよぅ。
でも。
戸隠さんは、五十鈴さんを敵だと言っていたけど……。
何だろう、108さんの時もそうだったけど、この人は厳しい母親って感じで、悪い人には見えない。
監視にしたって、裏切りを未然に防ぐって事は、行為自体を無かった事にする為だろうし。
この人の行為こそ、企業に対する裏切りなんじゃ……。
おっと、黙ったら拙い。
「もう1つ、お尋ねします」
「はい」
「故意ではないにしろ、結果として、長期間に渡って監視行為の妨害をしてしまった場合について、です」
「そうですね……どういった状況でしょうか?」
さて、ラパ・ヌイの情報を渡して良い物か……?
目的はビジネスと言っていたが、現在、彼女が知っている、地球を侵略している異世界の情報は、コクーン:キハ1011と皇國代理天のみだと思われる。
地球を侵略しているのが、コクーン:キハ1011以外にラパ・ヌイもいると判った場合、便乗して侵略に参加する可能性が有る。
ビジネスと言う以上、最終的に求めるのは富。
2対1より3対1、滅びる世界からなら、火事場泥棒した方が良いに決まっている。
唯一の可能性は、地球側に勝算があり、自分達を高く売れる場合だ。
即ち2対1より2対2にして、武器の貿易を行う……。
あ、日本国内なら関税がかからない……。
ん?
関税……?
…………。
……。
――――!!!
そう、貿易するなら、関税は必須。
やっぱり、ビジネスと言う名の侵略じゃね?これ。
武力よりも始末におえない。
普通に侵略するよりも、生存させて富を吸い上げ続ける。
だからこそ、皇國代理天の世界法則[リアリティ]に地球を変質させるわけにもいかないって事か……。
対等ではなく、上下な関係による貿易……。
要するに、政府が皇國代理天の存在に気づかないと、明治時代みたいな話になるわけだ。
あー。
何だろうね。
既に、一介の高校生には話がでかすぎて、若干、尻込みというか、お手上げというか……。
でも、まぁ、ココって多分、最前線なんだよね。きっと。
……。
ふぅ。
さて、先程の話と絡めて、情報収集でもするか……。
「すいませんが、皇國代理天には、何社ぐらいの企業があるのでしょうか?」
「そうですね、多分6社以上だと思います」
何故に疑問系?
「……」
しまった、顔に出たらしい。
「我々の世界の名称は、皇國代理天と言いますが……」
「はい、それは先ほd……」
彼女は、僕の発言に、片手をあげて“待った”というジェスチャーをする。
こういった細かい所が、実は皇國代理天と、日本はそっくりだ。
「我々の世界を侵略した世界も、皇國代理天と言います」
「侵、略……?」
「皇國代理天に支配された世界は、歴史を失います。
全てが、皇國代理天の世界法則[リアリティ]によって歴史を塗り替えられます」
「?」
「目の前にある“鳥居”には何らかの歴史があるのは判っている……
しかし、それに関する文献はない、記憶もない、知識もない。
あったとしても皇國代理天にとって、扱いやすいようにプランニングされている……」
「は?」
「我々は、自分達が住んでいる世界の、本当の名前も知らないのです」
五十鈴さんは、サラリと、とんでもない事を言った。
若干、憂いを秘めていた気もするけど。
ま、さか……。
「私の知りうる限り、企業世界群・皇國代理天は6世界あります。
この中にオリジナルがあるのかもしれない、ないのかもしれない。
……それは判りません。
まぁ、皇國の代理と言うからには、無い様な気もしますが……」
これは真実か?
まだ会って間もない、僕みたいな人間に話す内容か?
普段から人に嫌悪されている僕みたいなのに……。
五十鈴さんが、僕を面白そうに見ている。
この情報をどのように扱うのか、試している……のか!?
「……」
「……」
……いや、間違いない。
くそっ。
入ってくる情報が多すぎる。
これは、いったん脇に置くべきだ……。
べきなんだけど……。
だけど、やっぱり、どうしても興味の方が勝ってしまう。
好奇心、猫を殺すというけど……、一度、興味を惹かれると止まらないんだよなぁ。
先程までの落ち込みが嘘の様に、僕は持ち直していた。
「そ、その、本当に、そんな事があるんですか?」
「何がですか?」
「侵略された途端、自分達の世界の歴史が改変されてしまうなんて……」
「別段、不思議な事ではありません。
地球でも同じ事が起こっています」
「え?」
「日本の隣国も、そういった事は、非常に得意です」
「あー、まぁ、確かに」
「シナという地域では、支配者が変わる度に、前の支配者の歴史書を書いていたという話です。
それによって、前の統治者の歴史改変を行っています」
「そういえば、そんな話も……」
「キリスト教の侵略により、科学技術が衰退、ロストテクノロジーとなった物も数多くあります。
そういった意味では、オーパーツなんかもあげられるでしょう」
「で、でも、それらは人間が行った侵略で……、統治の上の政策で……そんな、超常現象の様な……」
「侵略したのが、人間か世界法則[リアリティ]か……の違いです。
人間の手を煩わせることなく、皇國代理天という異世界が、勝手に都合良い様に、世界の歴史改変をするんです」
「そ、それが本当だとしたら……その、それは、困り物ですね」
「中には、俺に過去はいらねぇ、みたいな人もいますけど……ね?」
「そういった人は特別ですよ。
記憶は欲しいです、やっぱり。
失ってみると、妙に落ち着かないんですよ」
「?」
「?」
「もしかして……?」
「あ……そっか。すいません。
僕、記憶喪失なんですよ。
3年前の飛行機事故以前の事を思い出せませんし、半年前までの事も殆ど覚えていないんです」
「……」
「その上での話です。
歴史とか記憶って、自分の原点にもなる物じゃないですか。
趣味とか、好きな人、楽しい思い出が全く無いと、以前の自分と、今の自分に凄く違和感を感じてしまうんですよ」
「……」
「あ!」
「何か?」
「そういえば、五十鈴さん達は、えっと、僕の身元とか調査したんでは……?
だとしたら、何か、昔の僕に関する資料とか……」
五十鈴さんは、自分語りを始めた僕に驚いていたようだが、やさしく微笑む。
んー。
やっぱり、この人の笑顔には違和感がある。
皇國代理天っぽくない、地球っぽい笑顔だ。
えーと、そう、裏の無い笑顔だ。
「申し訳ありません。時雨君。
もし、資料があったとしても、御渡しするわけにはいきませんよ」
「そ、そうですか……」
「機密文書ですからね」
「そこまでですか……」
「でも、安心して下さいと言うのは、違う気がしますが、残念ながら、時雨君に関する資料はありません。
八代家そのものは調査しましたが……主に秋霖殿中心でしたからね」
「残念……」
んー。
やっぱり祖父からは色々と聞き出さないといけない事が多そうだ。
「でも、凄いですね。
歴史歪曲を……世界法則[リアリティ]が行うなんて……」
「世界法則[リアリティ]ですからね、なんでも有りです。
それに、通常は、体現者[ビジネスマン]以外は気づきません。
侵略されたという事実すら改変されますよ」
「それは、怖い……もし、地球がそうなったら……」
「まだ、マシな方ですよ」
「そうなんですか?」
「蟲に侵略されると、生態系から変わります。
脊椎動物は存在できません」
「は?」
「そういう世界法則[リアリティ]なんです」
「は、はぁ」
「歴史歪曲……世界法則[リアリティ]……うーん」
「どうしました?」
「名づけるなら……歴史歪曲の法則ですか?」
「まぁ、そうなりますね。
加えるなら、陰謀の法則、企業の法則など色々と思いつきますね」ふふっ
「何というか、信じるにもひと苦労しそう」
「質量保存の法則、熱力学第一法則と同じ様な物ですよ」
「でも、驚きました。
僕はてっきり、侵略された世界は、滅びる物だとばかり……」
「そういった世界もあるでしょう。
千差万別ですよ」
静かに微笑む五十鈴さん。
「その、事実を知った人達が、反乱とか起こさないんですか?」
「効率の問題です。
反乱は殆ど起こりませんね、割に合いませんから。
裏切りは日常茶飯事ですが」
「……」
「どうしました?」
「あ、いえ」
話が取り留めない方向に行っているが、僕はもっと聞きたかった。
それが判ったからか、五十鈴さんが、微笑んで先を促す。
「先に契約を決めましょう、話は後々にでも」
「そ、そうですね」
うう、見透かされているなぁ。
くそぅ。
「実は先程聞いた、企業が何社あるかという問いは、企業の相性問題が絡んでないかと思った訳で、それを聞きたかったんです」
「相性?」
「PCの組み立てなどで時々あるんですが、スペックだけでは判らない、企業ごとの相性ってのがあって、まれに誤動作を起こしたりするんです。
皇國代理天でも、そういったのがあって、視覚と聴覚を連動させた場合、誤動作によって壊れたりするかなぁ……と」
とりあえずラパ・ヌイの事は、話さないで、誤魔化す事にする。
「ああ、長期間に渡って、結果として監視行為の妨害をしてしまった場合というのは、故障などの場合についてですか……」
「はい。その他にも、僕が気絶をしていた場合や、敵に捕らわれていた場合など、色々あると思います」
「それについては、後で別の契約書にしようと思っていたのですが……」
「別の?」
「はい。貴方の身に何かあった場合、それは、我々にも損失を与えます」
「そうですね」
「護衛を雇いませんか?」
「護衛?」
「はい。我々の中でも非常に優秀な忍びの者です」
「忍者ぁ?」
「正確には企業忍者ですね」
「も、もしかして、それは戸隠さんというオチじゃあ……」
「話が早い」
「その話は無しで」
「ふふふ。判りました。そうですね。
長期間による違約の場合、違約金を払う、と言う事にしましょう。
どちらにしろ、貴方に何かあったら106は動くでしょうしね」
むぅ。
最初から断られる事を前提の話か。
というか、戸隠さんの事情を教える為の話だな、これは。
さて、残る問題が……
「内耳の方に埋め込むバイオチップについて質問です。
壊れる事によって僕への……
えーと、人体への影響はありますか?」
「ヒニンによる実験では、人体への影響はありません」
「ヒニン?」
避妊?いや、否認かな?
「はい。影響は無しとの結果です」
疑問は、横においておく。
今はそれよりも先に。
「もし、あった場合についての契約をしたいのですが?」
「ふむ、判りました。
では、医療費の全額負担に加えて、慰謝料として800万円では?」
もうちょっと欲しいけど、妥当な所だろうなぁ……。
「判りました。それで構いません。
ところで、先程おっしゃった、えっと……ヒニンとは?」
「人に非ず、と書きます」
「ああ、エドジダイ?の……」
「?」
今度は、五十鈴さんの方が判らなかったらしい。
僕もしっかりとは覚えていないんだけど。
あー、そうか、これが歴史歪曲の法則かぁ……。
「非人って、どういった物なんですか?」
「元々は労働用に開発された社蓄ですね。
豚の遺伝子を組み替えて作成されます。
幅広い用途に使用でき、ミュータント化も少ないので、売れ筋の商品なんですよ」
ああ、そっか、ジンケンが無いから、マウスを使った実験が必要なく、そのまま人体実験できるんだ。
色々と効率が良いなぁ。
「ちょっと質問ですが……」
「はい」
「実験に罪人やクローン体を使うとかは駄目なんですか?
死刑囚なら、どうせ死ぬんだから効率的ですし……」
「そうですね。
地球と違い、皇國代理天には基本的人権なんてありませんから、やっても良いでしょう。
ただし……」
「ただし……?」
「例え罪人やクローンでも、人間である以上は、恥をかかせた死は危険を伴います」
「……」
「もし、被験者と懇意にしている者がいたら、恥をかかせた以上は、復讐の義務が発生しますからね」
「ああ、そういうカラクリが……」
「ええ、角が立たずに実験をするなら、非人を使うのが一番良いのですよ」
「はぁ」
「106のマンション破壊の時も、1頭を中において爆破したんです」
あ。
「もしかして、死んだ戸隠さおりさんって……」
「そうです、非人ですよ。
人間を使うわけないじゃないですか。
効率が悪すぎます」
確かになぁ……育てるのに時間と金が掛かるしなぁ。
神風特攻隊が、男の浪漫だけど愚行の極みなのは、費用対効果を考えてないからだし……。
「では、契約内容が決定しましたので、清書しますが……
再度、確認します」
五十鈴さんは、僕に契約内容が箇条書きになった、草案データを僕に見せ、復唱する。
「以上ですが、構いませんか?」
「はい、構いません」
「では少々、お待ち下さい」
五十鈴さんは、契約書の清書作成に入る。
へぇ、契約書って、そんなに簡単に作れるものなんだ……。
「それとコレは、契約とは全く関係のない話ですが……」
少しの間、草案データに、何かしていた様だったが、しばらくすると顔を上げ、五十鈴さんは、僕に話しかけてきた。
「何でしょう?」
「実は……」
五十鈴さんは少し、言いよどむ。
「プライベートな話ですが……」
五十鈴さん自身は、何もしていない感じだが、右手が忙しなく空中でタップしている。
殆どはデジタル側で処理しているのかな?
両手を使わないですむのは、いいなぁ。
「私のスタンスを少し理解してもらう意味でも、聞いてもらえますか?」
五十鈴さんは、少し真剣な口調になって話し始める。
「え?あ、はい……」
「……」
再び五十鈴さんは、黙る。
話しずらそうだけど……何の話だろう?
「106の事なのですが……」
「戸隠さんの事?」
「はい」
何だろう?
「我々、体現者[ビジネスマン]は、皇國代理天からの出向という形で、地球の現地企業に派遣されます」
「……」
「体現者[ビジネスマン]は、1日に基本12時間の労働と、12時間の休息時間が与えられ、休息施設も支給されます」
「休息時間?」
「はい、要するに自由時間です。363日、コレを繰り返します」
休み無しか。労働条件が厳しいなぁ。
ん?
「あれ?2日足りない……」
「大晦日から、お正月はは休みになるんです」
「ああ、正にエドジダイだ……」
「休息時間中に、体現者[ビジネスマン]がどのように過ごそうとも基本的には自由ですが、反企業的行為だけは、禁止されています」
「反企業的行為?」
「情報漏洩や、超過勤務、販売の妨害行為などですね」
「ざ、残業も……ですか?」
「時間によっては」
うわぁ……
「でも、仕事が終わらない場合なんかはどうやって……」
「簡単です。奉仕業務にすれば良いのです」
「奉仕業務って……
あー。もしかしてサービス残業とか?」
「そうです。地球で言うボランティアですね」
いや、それ、ちがう。
「それで、当然、休息時間をどのように使用しようとも、106の自由です」
「はぁ」
「ただ、今の106には、休息施設がありません」
「あ、そう言えば、壊してしまいましたね」
「それで、昨日は、私の部屋を施設として使わせていたのですが……」
「……」
「それで昨日、あの娘が、夜中に帰ってきた時、非常に珍しいものを見たんですよ」
ん……はて?
昨日、真夜中?
「珍しいもの……ですか?」
「はい、あの無感情な娘が泣いていたんですよ。珍しく」
「いっ!?」
昨日の事……ヴラドと情事の最中に起こった出来事がフラッシュバックする。
「実際は、まだ10歳の子供で、社会経験も1年に満たないので、色々と苦労するだろうとは思っていましたが……
あの娘に翌日に響くほどのダメージを与えた人物は、誰だろうと思いまして……」
「は、はぁ」
ダラダラと背中を汗が流れる。
動悸が激しくなる。
まさか、まさか、まさか ――――!!
「そ、その……戸隠さんが泣いていたというのは……」
「時雨君なら、何か知っているかと思って」
もしかして五十鈴さん、判ってて聞いているのか!?
「心当たり……ですか?」
「はい」
「えーと……」
「……」
「うぅん。ちょっと判りません……」
嘘をついた。
「そうですか。
犯人は、真綿で首を絞めるように、ジワジワと追い詰めてやろうと思っていたのですが……」
こえぇ。
「その、こう言ってはなんですが、どうして、部下の1人にそこまで……?」
「部下……。
確かにそうですね。自分でも少し不思議なんですよ。
多分、地球の世界法則[リアリティ]にあてられたんだと思います」
「……」
「106を悲しませる者がいたら、許せないんですよ。
何故なんでしょう?」
冷酷な微笑を浮かべながら、五十鈴さんは僕を見る。
「へ、へぇ、そ、そうなんですか……
き、奇遇ですね。ぼ、僕もです」
緊張しすぎて、どもる。
五十鈴さんは、契約書を清書する手を止めて、僕をジッと見る。
うう。
ダラダラと冷や汗が、背中を流れる。
五十鈴さんの話と、僕がやっている内職がばれていないか……という2重の意味で。
話を、話を変えないと……。
ん?
ゴーグルにメッセージ。
内職が完了した。
「清書、完了です。
これより、本契約となりますg」
「すいません。ちょっと待って下さい」
「はい?」
「契約の前に、ヴラドの様子を教えて下さい」
「ヴラド君ですか?」
「はい。今、ヴラドは無事ですか?」
「ちょっと待って下さい。
連絡を入れてみます」
「108、坂崎医師を呼んで頂戴」
五十鈴さんは、どこかと通信をしている。
その間に、僕は最後の作業に入る。
「坂崎医師、ヴラド君の容態を聞きたいんだけど……」
「おぉう、主任ですかな?
すでに、医療行為に入っているんですがねぇ。
何の御用事で?」
―――!!
声が聞こえた!
やった!!
コレで勝つる!!
「そうですか。そんなに?
ええ、判りました。
此方の件が片付き次第、そちらに向かいます」
何だ?
もしかして、ヴラド、具合が悪くなったとか……?
逸る心を押さえつける。
ココからが、切り札の使いどころだ。
失敗は許されない。
連絡を終えた五十鈴さんが、僕の方を向く。
「先程、連絡をしたところ、ヴラド君の怪我は、かなり酷いようです。
医師の診断によれば、細胞再生でも後遺症を残すそうです」
「え?」
「急いで集中治療させた方がよろしいでしょう」
しばらくすると、僕の目の前にデジタルの契約書が浮かび上がる。
「その契約内容でよろしかったら、サインと血判、捺印、網膜をお願いします」
……。
もしかして、ヴラドの状況が、やばいと思わせておいて、契約書の内容を違う物にしたんじゃ……?
しっかりと契約書を読む。
五十鈴各務乃(以下甲という)と八代時雨(以下乙という)との間に、以下の労働契約を結ぶ……から始まる堅苦しい契約書。
今までの会話を、文章化した物だが、甲は乙に〜といった難しい形の書式に変わってしまっていた。
形式ばった書き方になると、途端に判りづらくなる。
日本語の悪癖というか、短所だろう。
しかし、こういったメリハリがあるからこそ、妹12人+1名が、兄を呼ぶ時の、様々なバリエーションを作れたんだろうと思うし、霞ヶ関の官僚さんが政治屋さんを操る事ができるのだから、一長一短ではある。
見方さえ変われば、短所は長所に、その逆も然り。
でも、文句は言う。
うわぁ、読むのメンドクサイ。
仕方ない、1つ1つをチェックしていく。
問題となりそうな箇所、判らない単語は聞いて説明を求め、再度見直す。
……。
問題は無かった。
誤魔化しや、設定すり替えなども、見た限りは無さそうだ。
更に見直す。
問題なし。
僕を焦らせて、契約内容を変更した清書に合意させる、というプランは無かったようだ。
という事は、先程のヴラドの話は、ブラフではない事になる。
さて。
「以上、問題はありませんか?」
五十鈴さんが、聞いてくる。
「少し質問ですが……」
「はい」
「五十鈴各務乃とは誰の事ですか?」
「え?」
もしかしなくても、僕は将来、クレーマーとかモンペになれるなぁ……。
「五十鈴各務乃というのは、地球における偽名ですよね?」
確証はない。
あくまでも思い付きだ。
「……」
「皇國代理天には、五十鈴各務乃という人物はいません。
いない人物とは、契約もできないと思いませんか?」
「……確かに、その通りですね。
では、甲の部分を皇國代理天に変更しましょう」
「申し訳ありませんが、それもできません」
「この契約内容で良いと言う話だったはずですが……
では、どの様にすれば契約に合意して頂けるのでしょうか?」
僕は契約を結ぶつもりはない。
そもそも片方が契約を結ぶのを嫌がっている時点で、契約としては意味のない行為だ。
ビジネスである以上、片方にメリットがない状態での契約など、いくらでも難癖をつける事が出来る。
合意に至るはずなど無い。
「いえ、前提条件が変わってしまったので、契約そのものに、合意できなくなりました」
「……どういう意味でしょうか?」
「僕が“ぷらいばし”を売るという契約は、ヴラドの怪我を治療する為であって、後遺症が残るのでは、意味がありません」
「……」
「一昨日の戸隠さんの怪我は、地球では重傷です。
それを1日で完治させるという、皇國代理天の医療技術に期待したのですが……」
「前提条件ですか……」
「はい」
「それならば、問題はないと思いますよ。
通常治療では、後遺症が残るのであって、集中治療を行えば話は別です」
「?」
「細胞再生ができないのであって、細胞蘇生は可能です」
「え?」
どーゆう違い?
いや、そんな事より。
「申し訳ありませんが、それでもできません」
「ふぅ。それでは、最初の口頭での契約を保護にする事になり、我々としてもヴラド君の治療を取りやめる事になってしまいます」
ここだ!!
「口頭での契約?
何の事でしょう?」にや




