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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
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紙に署名された契約以外の物を信じる馬鹿なんていないよ


僕の目の前に巨大な鳥居がある。

見た目は、海の上に立つ厳島神社の鳥居。

あんな感じの鳥居が、次元回廊[エレベーター]から下りてすぐ、真ん中にデーンと。



脳裏に思い浮かぶ言葉がある。



異界門[ゲイト]だ。

異世界の世界法則[リアリティ]の進入を阻む為に、世界が構築するという次元の安全弁。

何もかもが灰色一色の世界の中で、それだけが、見事なまでに、紅く、紅く輝いている。



車は鳥居の下をくぐる。

その一瞬だが、僕には透明な扉が見えた。

西部劇の扉の様な、どちら側にも開く作りのドアだが、形は武家屋敷の門みたいだった。



ゴオオォォォォーーーン


お寺の鐘を叩いたような音が脳裏に響く。

音がイメージと違ったけど、何処となく和風テイストでかためた代物だ。




そして、世界は一変する。



目の中に、薄明かりが差し込む。


両開きの扉の先にあった物は、片側6車線の道路だった。

どこかのトンネル内の様だが、薄暗いわけではなく、天井から太陽光のような光が燦々と降り注いでいる。

多分、光ファイバーか、何かを使った集光システムを使っているんじゃないだろうか……と思う。





「ようこそ、皇國代理天へ。

 地球の守護者[ガーディアン]さん」

五十鈴さんが話しかけてくる。


「えーと、地球の守護者[ガーディアン]?

 いったい、どういう意味です?」

「文字通りの意味です……ん?おや?」

五十鈴さんが、じろじろと僕を窺っている。

なんだろう?


「失礼だけど、八代時雨君は……

 秋霖しゅうりん殿のご子息ですよね?」

「いえ、孫ですが……」


「そうですか……えっと、でも、遺伝的には繋がりがあるのですよね?」

「はい、そうですが……それが、何か……」

「お聞きしたいのですが、時雨君は体現者[ビジネスマン]なのですか?」


「え?」


少し逡巡する。

今から言う情報は、機密にした方が良いかどうかを。

いや、五十鈴さんの事だ。

僕の事は調査済みだろう。

ココは空気を読んで、答えておこう。

好感度も上げておくべきだ。


「違います。僕はまだ○○○○です」


おや?

何を言いたかったんだろう?


「えと、僕はまだ、新田や武居と同じ○○○○に通う○○○○で……

 ほら、一昨日も○○○○服を着てたじゃないですか」

違う。

知っている、知っている単語なんだ!

でも、判らない。ド忘れしている。

何だっけ?


「ああ、学生と言いたいのですか?」

「えっと、良く判りませんが、それのような気がします……」


「私が聞きたかったのは……

 ああ、まぁ、今ので判りましたが、

 何故、秋霖殿のお孫さんが世界法則体現者でないのかという事だったんですが……」


「え?」

今、ありえない単語と、まるで関係があるかのように、祖父の名が出たけど……?


「そうですか……体現者[ビジネスマン]ではない……」

僕をチラと見る五十鈴さん。

「ある程度、契約内容を変更しないといけないわね……」

「……」


「それとも……覚醒待ちかしら?」

いや、そんな、期待に満ちた目で僕を見られても……。

「僕にそんな素敵能力があれば、早く開花して欲しいのですが……

 先程の死闘辺りで」

「それもそうよね」くす

「はぁ~、才能が無いのが悔やまれます」



言いつつも、僕は辺りを伺う。


ココで、祖父についての情報は聞かない。

一旦、保留だ。

皇國代理天、僕にとっては始めて来た異世界だ。

ココに来るまでに、僕の世界法則[リアリティ]は変質したはずだ。


何が変わったのか、実感できない。

もしかして、さっきの僕の知っている単語のはずなのに、出てこないというのが、そうだろうか?

ド忘れしただけだと思っていたが……。


ヴラドを治す為とは言え、ココは敵地だ。

警戒を怠るわけにはいかない。

表面上は友好的に。

しかし、いつでも裏切れる様に準備だけはしておかないと。


まずは情報収集だ。

視界がおかしいのが悔やまれる。

眼鏡を直しておくべきだった。



「すいませんが、質問して良いですか?」

「どうぞ」

「えと、僕は、世界法則[リアリティ]が変わったと思うんですが、先程、ド忘れた単語は、皇國代理天にある単語なんでしょうか?」

「学生の事かしら?」

「はい。それです」

「ありませんよ。子供は、それぞれの遺伝子に従った教育を受けます。

 例えば、106……伊織なら8歳まで、成長促進剤と筋力向上、機械学習による詰め込み教育を行います。

 その後、2年間の身体訓練。実地投入されたのは3ヶ月前ですね」


「そうですか。ありがとうございます。

 でも……あ、あれ?」

「どうしました?」

「戸隠さん、15歳じゃ……」


「外見上はそれぐらいですね。実年齢は10歳ですよ?

 寿命も長くて40年ぐらいでしょう」

「そ、そうですか」

うう、聞きたくない事を聞いてしまった気分だ。


「先程、遺伝子的に……と、言っていましたが、地球の様な教育機関はないのですか?」

「ええ、無いわ。

 それぞれの遺伝子にあった教育を受けて、学習。

 10歳になると徒弟として仕事に就くわね」

うわぁ、就業年齢、早いなぁ。





「査察所ニ着イタ」

続けて質問しようとした僕に、無機質な室内音声が入る。

次元回廊[エレベーター]と異界門[ゲイト]を抜け、トンネル内を走っていた僕達の車は、査察所と呼ばれた場所に来た。


それは、無人の屋内駐車場にある、精算所のような場所だが、少し、異質な感じだった。


目の前には、のこぎり状の歯のかみ合ったシャッターが行く手を阻んでいる。

一旦、車は、その場で止まると、上下左右からスキャンニングされた。

その間、車の両脇にある精算所みたいな場所からは、カメラと銃器とおぼしき物が僕達を狙っている。




いつの間にか、誰もが無言になっていた。


ピー。

音がしたと思ったら、目の前のランプが、赤から青に変わった。


ゴオゥゥン。

シャッターが開く。



「本部ニ直行スル」

「お願い」


今、僕達の乗った車は、無人の屋内駐車場にある精算所のような査察所を抜け、片側4車線のトンネルの様な道を走っている。

相変わらずトンネル内は、まぶしい程に天井が輝き、側面の壁は、看板も何も無く、同じ光景が延々と続いている。

僕達の車以外には走っている車は存在せず、信号なども存在しない、高速道路の様な感じの道だ。


査察所を出ても、誰もが終止無言だった。

駄洒落だけの放送もなくなっていた。


「あの、さっきの放送は……」

思わず聞いてしまう。


「聞キタイノカ?」

どこからか機械的な音声で言葉が返ってくる。

どこかうれしそうな雰囲気だったのは気のせいだろうか?



しかし。


何だろう。

今、一瞬、車内が殺気立った気がした。

「その話題を口にするな」

「お前は黙っていろ」

「奴に思い出させるな」

そんな、負の感情がブワっと僕の肌を刺激する。


ここで「聞きたい」などと言ったら、僕は明日の朝日を拝む事は出来ない。

はっきりと認識できた。

まるで、空気が僕に伝えてくれたみたいだ。

皆の気持ちを空気が代弁している……。


「レパートリーハ数多イ。

 ナラバ次ハ、ワルキューレノ騎行デ、饅頭怖イヲ放送シヨウ」

「あ、いえ、別にそれほど……いえ、結構です」

僕は空気を読んだ。





体感時間だが5分もかからずに目的地に着いたみたいだ。


車は総合病院と書かれたプレートのついた脇道へと入っていく。

脇道は上り坂で、上がった先は駐車場だった。



余談だが、ココに来るまで、ずっとトンネル内だったが、いくつかの変化はあった。


まず、反対車線にコンビニの様な物がが見えた。

流行っては無さそうだったが、閉鎖はしていないらしい。

中が良く見なかったが、こちらの車線には、物々しい装備をした警察官の停留所みたいな物があった。


どれも見た施設は、全て新品同様か、良く手入れされていた非常に綺麗な物だった。

どうやら、今、僕達の車が走っている区画は、あまり使用されていない割には、重要な施設と言った所だろうか。


あまりキョロキョロとせず、目線を悟られないようにしておく。

眼鏡があれば良かったのだが、やはり、世界が歪んだ状態では、キチンとした把握が難しい。

この車内も監視されている。

数箇所、監視カメラではないか……と思われる器具があった。

違っていたとしても、用心するに越した事はない。

信じられるのは、己の身一つ。



はて?

僕は、こんなに用心深かったっけ?

まぁ、いいや。


ヴラドを見る。

心配だ。

腕が千切れるほどの怪我だ。


僕が、ヴラドを見ていると五十鈴さんが、僕に聞いてくる。

「彼とは何処であったの?」



―――!!


さて、どう答えよう。

そう、彼だ。

彼女ではない。

僕を騙しているんだ。いつもいつもヴラドは。


女性の格好をするから、いつも獣性に支配されてしまう。

僕は清い交際の方が好きなんだ。


隙です、隙だよ。ふははははー。みたいな酷薄に始まって、恋人同志という契約をとる。

そして始まる薔薇色の企業間闘争。騙し騙され、敵に寝返り、裏切る恋人。

重要データが取られ、僕、涙目。

社長に切腹を指令され、一縷の望みを復讐にかけ、僕は闇夜を走る。

ああ、素敵な青春だ。


いやいや、おかしい。

僕の望みは、もっと甘酸っぱいはずだ。


あ、あれ?

思い出せない……。




「どうしたの?時雨君?」

「あ、すいません。少しボーっとしていました」


ヴラドの事は言わない方が懸命だ。

どうしても、ラパ・ヌイの情報を言わなければいけなくなる。


五十鈴さんは、今は敵ではない。

だが、いつ敵になるか判らない。

裏切るのなんて日常茶飯事だ。

その時、ラパ・ヌイの情報を知っているか知らないかで、対応は変わる。

五十鈴さんには、言わない方が良い情報だ。


「ヴラドは親戚です。

 正直、僕も知りませんでした。

 まぁ、祖父なら色々と知っているかもしれませんが……」

「そう」

五十鈴さんはそれ以上の追求をしなかった。






病院の駐車場につくと、ヴラドは担架で運ばれる。

「時雨君はこちらに」

「え?」

急に不安になった。

このまま、ヴラドと別行動になったら、他の誰かが、ヴラドに対して何を行うのか監視ができない。


まずい。


今、別れると、ヴラドから大事な情報が抜かれる。

血や細胞は言うに及ばず、特殊能力や、発信機の埋め込み、実験材料……やりたい放題だ!


断らねば。


「申し訳ありませんが、僕はヴラドが心配なのでついて行きたいと思います」

「ん?……ああ、そうでした。大丈夫です、時雨君。

 我々は貴方達の世界で言う、人権を守るつもりです。

 ヴラド君に関する情報を医療以外には使いませんし、実験素体として扱うこともしません」




ジンケンって……?

……何だっけ?


僕が怪訝そうな顔をしているのを見て、五十鈴さんが説明してくれる。

プライバシ−とか、身体的自由とか生存権とか……。


ああ、そうだ。

しっかりと思い出せないけど、地球には、そんなのもあったなぁ。

でも、理解できない。


プライバシ−?

身体的自由?

生存権?

一人一人の人間に、とても重要な物だった気がするんだけど……。

そんなに大事な物だっけか?

企業よりも大事な物?

そんなの、存在しないよ。


プライバシ−なんて、監視しないと人間は、何をするか判らないじゃないか。

社会に対する裏切りなんて、カッコ良すぎるだろ。


身体的自由なんて必要か?

自由な人間が、何するかなんて判りきってるじゃん、楽しいから全てを裏切るんだよ。


生存権?

企業からドロップアウトしたら終わりだ。

いや、企業がドロップアウトした様な人材だ、死んで当然。


なんだか、ジンケンって馬鹿みたいだ。

犯罪を増長させる為の仕組みだな、これは。



まぁ、そんなワケの判らない物でも、守るって言うなら守らせてやる。

どうせ、口約束だ。

すぐに裏切るつもりだろう。




さて、どうする?


何が“大丈夫です”だ。

敵はヴラドを、実験素体にすると公言したような物だ。

こちらを信用させようとして言ったみたいだけど、

紙に署名された契約以外の物を信じる馬鹿なんて、この世界にはいないよ。


よし、目的は、ヴラドの治療と僕の生還。


どうやって、出し抜いてやるか?

裏切りに対して、更に裏切るなんて、楽しいなぁ。

まずは、口頭とはいえ、僕がしてしまった契約、あれを取り消さないと。

取り敢えず、今は信用したフリでもしておこう。



「ジンケンを守る……ですか?

 判りました。では、それで」にや



ふぅ。

五十鈴さんは、ため息を1つ。

「この病院で得る事のできる情報は、全て私の管轄下にあります。

 もし、ご不満なら、後で情報を開示しましょう」

おや?

空気を読まれたか……。


情報を開示するって事は、今の口約束を守るつもりか?

何の意図があって?

ただの馬鹿か?


……。


ふむ。


「裏切り者が出るなど、不慮の事故によりジンケンが守られない場合は、どうするんです?」

「復讐の義務が発生しますね。

 復讐局からのバックアップを受ける事ができますよ」


そうくるか。

確かに僕の体型では、復讐なんて返り討ちにあうのが基本だ。

それでも、復讐の義務が発生すると言っておけば、体面は守れる。


「残念ですが、僕の体型では、復讐の義務が発生しても果たせそうにありません。

 できれば、不慮の事故を未然に防ぎたいと思います」

「はい、それは、どういった……?」


「不慮の事故が発生してしまう確率は、どれぐらいですか?

 僕は、かなり高い確率で発生すると思っています。

 それに対する賠償と保障について、話し合いたいのですが……」

「私の遺伝子は、オリジナルです。

 その私の腹と名にかけて、発生させません」

「切腹ですか……ですが、それは、発生した事に対する保障になりません」

「発生した場合は、私の全権利を、その日から3日間、譲渡しましょう」



言ってる事は、大丈夫そうだがなぁ。

信用に足る要素がない。


「んー。まぁ、それなら……

 今すぐ紙の誓約書にして、頂く事はできますか?」


未だにヴラドは、担架に乗せられた状態で、1歩も動いていない。

時間ばかりがかかって、流石に僕にも焦りが出てきている。

僕とヴラドを分断しようという、敵の目論見を何とかして潰したいんだけど。

「ヴラド君を放っておくのですか?」

「実験素体として、生き恥を晒すぐらいなら、死んだ方が良いでしょう。

 きっとヴラドもそう思っています」

心にもない事を言っておく。



ふぅ。

五十鈴さんは、また、ため息を1つ。

「判りました。

 ですが、紙は高価ですので、一旦、上にあるスペースで署名します。

 そこまでついて来てもらって良いですか?」

ついて来い……か。

「構いませんが、その間、ヴラドは?」

「医療センターに運びます」

という事は、その間に何かを仕掛けるというわけか。

どちらにしろ、分断されるか。

拙いな。


どうする?


このまま、押し問答していてもヴラドは助からない。

かといって、みすみす敵の罠にハマリに言っても!

僕に何の能力もないのが悔やまれる。

ぎりっ

唇を噛みしめていたのに気づかなかったみたいだ。

いつのまにか口の中に、鉄錆びの味がする。



はぁ。

五十鈴さんは、3度目のため息を吐くと

「あまり使いたくは無かったのですが……」

やはり来たか。

僕は身構える。

五十鈴さんは、先程の僕の声を録音した機械を取り出し、僕に渡す。


「?」

「それに私の誓約を録音します。

 簡易契約となり、法的義務が発生します」

「……」

「それで、構いませんか?」


「本当にヴラドを、治療以外の、何かの要素に使うつもりはないのですね?」

「もちろんです」

信用できるか。


「判りました」

しかし、今は従うしかない。

何としても、ヴラドを助けたいんだ。




ん?

待てよ。

この録音機から、僕の言葉を消去すれば、ヴラドを人質にした無茶苦茶な契約だった場合の逃げ道が出来る。

いや、無茶苦茶な契約であると仮定して動くべきだ。

まずは、僕の言葉を消去しておく。


次に、すくなくとも五十鈴さんは、僕が契約するまでは、ヴラドの状態を現状維持に留めるだろう。

是非、僕の“ぷらいばし”を高く買ってもらわなければ。


あー、うん。

良い感じになった。


では、目標を設定完了、行動開始。




僕は、五十鈴さんの誓約を録音してもらうと、録音機を預かる。


さて、この録音機だが、僕の認識は、かなり間違っていたみたいだ。

形から見るに、スマートフォンに近い。

手の平サイズに収まる大きさに、片面には画面があり、側面や裏面はカメラや幾つかの拡張機能用のスロットがある。


五十鈴さんが行っていた操作は、タッチパネル及び、空中で何かキーを叩く動作をしていた。

うう。残念な事に、使い方までは、僕の視力では判らなかった。


くぅ~。





「では、ヴラドをお願いします」

僕は一礼して、五十鈴さんの部下と別れる。


「では、行きましょう」

五十鈴さんに促され、僕は後ろをついていく。


「信用できないのはわかりますが、契約書を書いて頂かないといけません。

 別行動してもらう理由もそれなんです」


契約書か……。

僕の“ぷらいばし”を売るという事だけど、そんな良く判らない物を、僕は彼女に売った。

それは、ヴラドを治す代わりになる取引だったんだろうか?

頭の片隅が、とんでもない契約をした気がすると警鐘を鳴らしている。




実際、あの時の僕は、何て愚かだったんだろう。


目の前に怪我人とか、倒れている人がいたんだ。

ヴラドに血を飲ませるだけなら、その人達の血を飲ませれば、非常に効率的だったのに……。

死ぬ寸前の人がいれば、尚の事、良かった。

どうせ死ぬんだから、ヴラドに、心ゆくまで血を提供してもらえる。


返す返すも勿体無い事をした。

まさに無駄に血が流れた。


ん?

はて?


何で血液が必要なんだっけ?


血の中のまりょくそが、必要なんだっけ。

あれ?

まりょ?

○○○くそ。


血の中の糞?

老廃物が必要って事?


…………。


……。


色々と考えながら、僕は、五十鈴さんの後ろをすごすごとついていく。


だけど、結局、色々と考えて思い浮かばないのは、保留する。

考えないといけない事が多すぎるんだ。


気をつけないといけない。

目の前の人物は、この若さで侵略作戦の大権を任されるだけの人物だ。

相応のやり手だろう。


そんな人物を出し抜くには、僕は経験値も、能力も、足りなさ過ぎる。




分厚い扉の前まで来ると、五十鈴さんの網膜パターンを感知し、扉が自動的に開く。

僕と五十鈴さんは、その扉の中に入る。


奥は、2m四方の小部屋だった。

どうやら、エレベーターの個室みたいだ。



「ところで、時雨君。」

「何ですか?」

「駅前で何があったのか知りたいのだけど、教えてもらえるかしら?」


「それが、僕も良く知らないんですよ」

「……」

「……」


ふぅ。

「106には、時雨君の家に肉を届けるように行っておいたんだけど……大丈夫かしら?

 偶然、突発的に、事故を起こしたりしないか……心配だわ」


そう来るか……。

今回は引き下がろう。

「あ、思い出した!!

 世界法則[リアリティ]が変わったせいか、ド忘れが激しくて。

 すいません」


「そう、ふふふ……」

「?」


「いえ、皇國代理天の世界法則[リアリティ]は、こうも貴方を変えてしまうのかと思って」


「変わったつもりはありませんが?」


「ふふ。御免なさいね。

 体現者[ビジネスマン]にならないと、この楽しみは味わえないから……」

五十鈴さんは、そう言って笑う。




その笑みは、僕に違和感を抱かせる。

この場に似合わない。

いや、この世界に、似合わない。




この女性は、この笑顔の裏で何を企んでいるんだろう。


読めない。


“笑い顔は全てを隠す。

 苦しみも、涙も、嘲りも、殺意も、憎しみも、怒りすら!”


戸隠さんの言葉だ。

だけど、目の前の女性は、まるで、笑う事だけを目的としているように感じる。


その笑い方は、あまりにも……

そう、地球的な笑い方といえば良いのだろうか?




うう、いくつか質問したい事があるが、まずい。

下手な質問は、敵に情報を与えてしまう……。


はぁ、ヴラド、大丈夫かなぁ……。




エレベーターは、静かに上昇を始める。

高速エレベーターの様で、階数を示す数値が、一桁多く、幾つかの数値を飛ばして、10階おきになっている。

それでも、3桁って始めて見た。


僕達は、かなり上に行くみたいで、200階近く上がる。

「えーと、ソラか何処かに、向かうのですか?」

「?」

「あ、今から向かう所ですけども……」

「ああ、海上です。

 重要な施設は、皆、地上にあるんですよ」


「地上?」


「紫外線がきついとか、砂嵐が酷いとか、波が荒れているなどの問題もありますけどね。

 地下は毒ガスによる無差別暗殺の危険性がありますから、都市毎に様々な対策を講じているんです」

「それって、無差別暗殺じゃなくて……えーと、えーと」

突っ込みたいけど、ド忘れした……。


「例えば、トーキョーみたいに、重要な施設はいくつかに分割したり、ココみたいに地上近くに持って行ったりするんです。」

「……」

「他にも区画ごとに別けて、セキュリティーを上げている所もありますね。

 そこらへんは都市毎にバラバラです」

「……」


「ああ、大丈夫ですよ、

 何も本気で地上に出るわけじゃありませんから」

「そうなんですか」

「だって、汚いじゃないですか」

「はぁ」

僕には良く判らない理由だった。


「緑がないのも少し寂しい気もしますけどね」

少し反論してみる。


「そうでしょうか?」

訝そうな五十鈴さん。

「緑についてはそうかもしれませんが、見たければホログラムや食料生産工場に行けば見れますし……。

 それ以上に、蚊や蠅、蜂なんかは嫌だと思いませんか?

 ゴキブリは最悪ですね」

「あ、そうですね……確かに」



とりあえず、僕と五十鈴さんはゴキブリが嫌い、触るのも駄目、見るのも嫌だ、もう駄目死ぬ、という合意が取れた。


上手く誤魔化せただろうか?

駅前の情報から逸らしてみたけども……。


「さて、時雨君」

「はい?」

「ゴキブリみたいにしつこい蟲の居た駅前で、何が起こったのか知りたいのだけど……教えてもらえる?」


うう、墓穴を掘ったか……。



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