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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第04話 スマイル0円、タダほど高いモノは無い
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ようこそ、皇國代理天へ


炎が駅前ロータリーを舐めつくす様に燃やしていく。

その手は、無断駐車していた車にも伸びる。


一瞬の後。


ドゴオォォォンッ!!


ドラゴンブレスによる灼熱地獄は、無断駐車していた車に火がつく事で、最高潮に達した。

爆発音が、駅前に響き渡る。

急激な熱気による空気の膨張と爆発による振動波は、駅前にある全ての建物にはめられたガラスを粉砕する。


ヴラドは、物理防御の魔法【プロテクト】を使って、爆風からはダメージを受けてはいないようだ。


だけど。




うわぁ……。

これは、まずい。


急いで、耳を塞いでいなかったら、耳が聞こえ無くなっていた所だ。


「凄いわねぇ……」

ガスマスクをつけたビジネススーツの女性、五十鈴さんも感心してる。

確かに、恐ろしいほどの力だ。





眼も当てられない惨状だ。


至る所から煙が上がっている。

ロータリー中央の噴水があった場所は、石材が溶けて、花壇は焼けた土だけに。

ドラゴンブレスが直撃したアスファルトや石畳は、既に跡かた無く、燃えカスとドロドロに解けたマグマのような物に成り果てている。


何もかも溶かして、蒸発させている。

1000℃、2000℃じゃすまない熱さだ。

これが、ファンタジー界の王者とも言うべき、ドラゴンの炎……。


ファンタジーには核爆弾いらないじゃん。

ドラゴンブレスがあるんだから。


何人か倒れている人を見かける。

血は出てなさそうだが、大丈夫だろうか?

ガラス片は外に落ちた物よりも、室内へと入っていっている物の方が多い。

ココからじゃ判らないが、デパートの中の人は無事だろうか?



流石に、僕も呆然としていた。





しかし、五十鈴さんは、何か全然違う方向を見ていた。

場慣れしているのか、自分のやるべき事をキチンと認識しているのかは、僕には判らない。


ただ、五十鈴さんの見ているものの先には、コクーン:キハ1011の体現者[ヘイタイ]がいた。

今の爆発で、コクーン:キハ1011の体現者[ヘイタイ]はって、めんどくさい名前だなぁ。

えーと、蟲人っ!

これでいいや。


元・店員の蟲人は、今の爆発に巻き込まれて、近くのコンクリート壁にぶつかった様だった。

青緑の体液が、白い壁にべっとりとついている。


それでも、蟲人は身体を、四肢を動かしている。

信じられない強靭さだ。

全身の形は、カマキリに似ているが、胸部はセミ、翅はコガネムシやクワガタムシに似ている。

大きさは、1mに満たない程度だ。

普通の昆虫から比べたら、遥かに大きいが、人間という絶対軸から考えると、小さい部類だ。


ビクビクッと立ち上がると、再び翅を広げて飛ぶ、逃亡を図る。

僕やヴラドよりも、酷い傷を負っている。

まさに満身創痍だ。




だが、




「逃がさない……」

五十鈴さんがボソリと呟く。


同時に、五十鈴さんの小指の先、第一関節より先が、音も無く、ずるんっと落ちる。

落ちた指先と指の間には、細い細い糸が張ってあり、光の加減で光らなければ、僕は気がつかなかっただろう。

まるで蜘蛛の糸みたいだ。


ひゅんっ!


手をしなやかに、波打つように上下させると、小指の先が錘となって、まるで鞭のように微細な糸は動く。

振動している様な、していないような……。


びゅんびゅんっ!


伸びた糸は、蟲人の翅に襲いかかる。


しかし、当たったかと思った瞬間、素通りする。

五十鈴さんは、蜘蛛の糸を巻き戻すと、僕の方を見る。

「さて、八代時雨君、御相談したい事があるのですが……」



ぐらっ

と蟲人の全身が傾く。


左の翅、左脚が分断され、飛行が困難になったからだ。


直後、どこからか銃声が響く。

2度、3度と蟲人の身体が、宙で跳ね、体液を撒き散らしながら落下した。



それが、モヒカン店員の中の人、しつこかった蟲人の最後だった。





蟲人が落下していくのをボーっと見ていた僕は、五十鈴さんに話しかけられた事で、マトモな思考状態になったようだ。

もう一度、辺りを見回す。


駅前は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていた。



やるべき事、やらなければいけない事を瞬時に判断し、行動に移る。

時間が足りない。



まずは、救急車だが、どうしよう。


正直、自分からは電話をかけるつもりはない。


ざっと見たところ、通りにいる人で、怪我人は出ているが、重傷、死人はいないようだ。

あえて言うなら、僕とヴラドだ。


もし、屋内で怪我をしている人がいるなら、そっちは自力で何とかしてもらおう。

僕は、逃げるつもりだ。

こうなっては、輸血どころではない。


今ではヴラドは、ドラゴンブレスを吐き終わり、その場でストンと尻餅をついている。

まだ生きている。

だが、急いで治療する必要がある。


仕方ない。

もう一回、ヴラドに僕の血を飲ませてよう。

僕はデブだから、少しぐらい人より多く血を吸われても大丈夫だ。

そう思いたい……。



なので、五十鈴さんに連絡をお願いする。


「五十鈴さん、救急車をお願いします!」


と言ったら、すでにどこかと連絡していた。


「回収班は、本国に。

 駅前には医療班と、本国で再生槽の用意を2人分」

携帯に五十鈴さんは指示を飛ばしている。


ガスマスク越しなので、くぐもった声になっている。

携帯電話だと、更に聞き取りづらい声になるのだろう、その為か、少し声を大きくしている。



だから、僕には良く聞こえた。


どことなく、イントネーションの違う日本語。

一昨日、戸隠さんのいっていた、翻訳ツールを使っているのだろう。



“時雨。今後、人とあった時、以前の私と同じイントネーションだったなら、注意して欲しい。それは敵”



戸隠さんの言葉が蘇る。

そして、五十鈴さんに対する注意も。



“私達が、共犯者[コイビト]であるという事を、管理人に悟られないようにして欲しい。あくまでもクラスメートとして振舞って欲しい”


“裏切りがばれると消される。あの女は、勘だけは良い”



僕とは、いや、僕達、日本人とはまるで異質なエキセントリックな思考、行動……。


そして、翻訳ツールの時の言葉……。



“私も、同じ世界の人間か、日本人か、見分けがつく。対処が楽”



同じ世界……。

反対の言葉は、違う世界、異世界。

一昨日までの僕は、それを裏の世界、表の世界と解釈していたが、ヴラドとあって、異世界、パラレルワールドの存在を知った。

そう、世界法則[リアリティ]の異なる世界。



戸隠さん達も……



侵略者だったんだ。






ヴラドの右腕を拾って助け起こす。

息が早い。

血が足りないんだ。


「ヴラド!しっかりして!」

僕はヴラドに血を捧げるべく、抱きかかえる。



早く、僕の血を飲んで!

性魔術【恋人達の抱擁】のおかげで、言葉よりも先に心が伝わる。

ヴラドの唇が弱弱しく動くが、言葉は出ない。

ただ、意思だけが伝わる。


(これ以上の失血は、拙いのじゃろ?

 ならば、貰うわけにはいかん。しばし待つが良い。

 特殊能力【血流操作】を行っておるから、しばらくは持つはずじゃ)

な、何でもありだな……。


(うむ?確かに今は血流を遅らせておるが、これは本来なら血の流れを遅らせる為でなく、早める為に使う能力じゃ。

 妾は使えんのじゃが、上位能力に特殊能力【狂戦士化】と言うのがあってのぅ……)

こんな時でも相変わらず、ヴラドは僕の突っ込みに懇切丁寧に答えてくれる。

僕の知識欲が満たされるから、凄く嬉しいけどっ!!


(すまんが、しばしの間、眠る。大丈夫じゃ。

 吸血鬼の身体能力は、こんな事ぐらいでは死にはせんよ)



あー、もう!!


誰か、血を!!

僕は声をあらん限りに叫ぼうとする。






「治療方法はありますよ?」


「え?」

五十鈴さんが僕の後ろから話しかける。

思わず後ろを振り返る。

しかし、ガスマスク越しなので、顔を窺う事はできない。


「先程、ご相談したい事があるといったのに……

 すたすたと行かれてしまっては、私も悲しくなりますよ」

「す、すいません」


「さて、治療ですね。

 一旦血止めをしてから、細胞再生を行います」

「本当ですか!?」

「はい」

「じゃ、じゃあ……」


「ですが、無料ではありません」

「え?……あ、いや、うん。

 お金なら幾らでも……」


「いえ、お金は必要ありません」

「?」


「口頭ですが簡易契約をしますか?

 必要なのは、あなたのプライバシ−です。

 もちろん、ある条件下以外においての他言はしません」

「プライバシー?……え?」

どういう事?

いや、悩んでいる暇はない。


「判りました。詳しい条件は後で聞かせて下さい。

 今は、一刻も早くヴラドを!」





僕は、五十鈴さんと契約してしまった。




「では、確かに」

彼女は、録音機らしき物のスイッチを切る。



彼女は無造作にヴラドの腕を、元の位置につける。

幾つかの細切れに飛んでいった肉片があるので、肩と腕の付け根が上手くかみ合わない。

「骨ごと吹き飛ばしているわね~。

 さすが振動兵器……治すのは時間かかるわよぉ……」


五十鈴さんは、僕に

「ちょっと持ってて」とヴラドの腕を渡す。

「え?あ、はい」

多分、この辺りが定位置だったんだろうなぁという場所に腕を浮かべている。

蟲人のパイルバンカーは、最初の振動により肩甲骨の一部を粉々に粉砕していた。

ただの杭打ち機じゃなかったんだ。


だけど、やっぱり吸血鬼は、杭には弱いんだなぁと馬鹿な事を考えていると、五十鈴さんはスプレーを取り出す。


「足りるかしら?」

ヴラドにスプレーを吹きかける。


ぷしゅううう


白い、ケフィアみたいなのが患部を覆い、見かけ上は、右腕がくっ付いた状態となる。

あ、これ、戸隠さんもやっていたのだ。


「安心して。これは、応急処置だから。

 患部に薄い皮膜をはり、これ以上の出血を防ぐと同時に、細胞の死滅を防ぐ物よ」


「でも、これ、世界法則[リアリティ]が違うから使えないんじゃ?

 少なくとも、ファンタジーとナノテクじゃ、科学技術からして違うでしょ?」

「……大丈夫です、使用者は私。

 少なくとも私が認識している間は、私の世界法則[リアリティ]下で機能するわ」


ああ、そうか。

五十鈴さんも体現者[シュトゥルム]か。

一昨日は、人に聞かれないようにしていたが、今日は、僕から“貴女の正体を知っている”と、少し鎌をかけてみたのだが、あっさりと肯定された。





「やっぱり……貴女や戸隠さんも侵略者なんですよね?」

何故、侵略者である彼女が、僕を助けてくれる様な事をするのだろう?


「侵略者……ですか。

 そうですね、侵略者が異世界人と同義語であるなら、私達は侵略者なのでしょう……」

答えは、謎を含んでいた。

いや、多分、彼女達の目的さえ聞けば、答えは判明するんだろう。


「ただ、我々は貴方達とは、積極的に敵対するつもりはありません。

 できれば契約を取り決め、平和的に双方の合意形成を図りたいと思います」







駅前に救急車が音も無く入ってくる。

救急班らしき人物達が、青い担架を出し、ヴラドを乗せる。


「乗って?貴方も重傷よ?」

五十鈴さんは、僕を促す。

「そうしたいんですが……」


僕は、ドネルケバブの肉の事を話す。

あれを家に持って帰る必要がある。

「それは、必要な物なんですね?」

「はい」

「判りました。そろそろ下校時間ですし、106……伊織に運ばせましょう」

「お願いします」






僕とヴラド、五十鈴さんは、救急車へと乗る。

流石に僕も気づいた。

この救急車が、本物の救急隊員の乗った救急車じゃない事に。


「出して頂戴」

五十鈴さんが指示を出す。

「了解。本国デ良イノカ?」

どこからか、機械的な声で返答がある。

「ええ、お願い」


音も出さずに発進する。

これは、車なんだろうか?

エンジンの音、振動がしない。

まさか、オール電動とか……?


「迷彩ヲ開始スル」

途中、車体の色が白から黒に変わった。


「放送ヲ開始スル」

室内にベートーヴェンの第9がハミングで鳴り始める。


同時に

「コンチコレマタ、良イオ天気デ。ドシタイ熊サン。イエネ、御隠居、聞イテ下サイヨ。隣ノ家ニ囲イガ出来タッテネェ。カッコイイ!ソレハ塀ジャナイノカイ、マイスゥイート?ヘイッ!……」


何じゃ?これ……。

永遠にも続くかのように駄洒落が流され始める。


あれ?良く見ると運転手さん。

人間じゃない。

ただのマネキンだ……。


あー。

いや、考えるのは止めだ。






ついた先は、五十鈴マンションの地下駐車場。

その奥にある、資材搬入用らしい大型のエレベーターだ。


シャッターをくぐり、両開きの扉を2回くぐると、高さ3m縦6m横10mの大きな空間にでる。

どうやら、これはエレベーターの個室の様だ。


以前来た時と同じ雰囲気の、不思議なエレベーターだった。

材質は、継ぎ目のない灰色のカーボンみたいな何かでできていて、電灯も無いのに、壁や床、天井がほのかに輝いている。


「えと……それで、何処に向かっているんです?」


「私達の世界、皇國代理天です」

「は?」

「そこで彼には、再生槽に入ってもらいます」

「再生槽っていうのは……」

途中まで言いかけて口をつぐむ。

この情報は、戸隠さんから得たものだ。

僕が知っているという情報を、与えてはいけない。


しかし、五十鈴さんは、途中で言いかけて止めた僕の台詞を、質問と判断したようだ。

「再生槽というのは……ええと、簡単に言うと……

 医療用ナノマシン入りの液体の入った培養槽の事よ」

「はぁ」

「問題は、彼のデータがないから、データ所得をしつつ治療行為を行うのだけど……」

「あ、そうですか……」

「ただ、再生槽を使う関係上、必要な栄養素を摂取する必要があります。

 時雨君は、彼が、何らかのアレルギーを持っている、とか聞いていますか?」

「あ、いいえ」

「血液型は?」

「知りません」

「そう、ですか……」


しばし、五十鈴さんは物思いにふけるが

「ならば検査しながら、肉体の蘇生を行う……

 という事で契約を果たすことはできると思いますが、いかがですか?」


少し考えて、僕は質問する。

「その、輸血される血に、魔力素って含まれてるんですか?」

それが、重要だ。

ヴラドならば魔力素が含まれていれば、魔法を使って自力回復するだろう。


「魔力素……?」

五十鈴さんは怪訝そうだ。



うむ。

多分、これから向かう所、何の冗談かと聞きたくなる、ふざけた名前の異世界、皇國代理天には、魔法に関する様な物はない。

どうしようか……。

んー。

「では、すいませんが五十鈴さん。

 僕の血をヴラドに飲ませて、その間、僕が死なない様に、輸血を行って下さい」

要は、僕をフィルター代わりにすれば良いわけで。


「仰る意味が判りませんが、それは、言葉通りで良いのです……か?」

「はい。ヴラドは特別なので」

「……判りました。そうしましょう」






ウーーーンと、物凄く静かな音と共に、エレベーターは下へ下へと降りていく。

「1つ質問ですが」

「はい」

「これって、次元回廊[コレダー]ですよね?」

「次元回廊[コレダー]?……ああ、そうですね。

 ですが我々はコレを次元回廊[エレベーター]と呼んでいます」

「へぇ。何故、エレベーターって名づけられたんですか?」

ちょっとした疑問だった。

しかし、僕の質問は、室内に妙な雰囲気を招いてしまった。

「……」

「……」

「……」

誰もが無言となった。

先程まで、鳴っていた放送も止まっている。

「……」

ガスマスクを外した五十鈴さんは、その質問に少し心苦しそうに答えた。

「申し訳ありません。

 それは、私達も知らないのですよ……」

「そうなんですか」


聞きたいけど、何故か聞くのが躊躇われた。

空気を読んだ。






エレベーターは下へ下へと降りていく。



そういえば、コレが僕の始めての異世界初体験という事になるのか。

皇國代理天は、ラパ・ヌイと、どう違うんだろう。


不謹慎かもしれないが、少しワクワクする自分がいる。

ただ単に自分の知識欲が満たされるだけなんだけど、他人の知らない事を知る事は面白い。


質量保存の法則とかって、自然の理[ベースリアリティ]なのかな?

地球固有の世界法則[リアリティ]かなぁ……。

ファンタジーに質量保存の法則ってなさそうだしなぁ。


つらつらと考える。





そして。





僕は、何かが変わっていくのを感じる。

それが何かは判らないけど、自分の大事にしている物、自分を形作っている物、それらが変質していくのを感じる。

決してなくなっていくわけではない。


ただ、変質していくんだ。

地球が遠ざかり、異質な何かに支配される。



愛とか、信頼よりも、

効率と復讐こそが大事で。


友達を作ったり、共に馬鹿やったり、

そんな、どうでも良い日々は、

企業で働く喜び、労働の素晴らしさ、

そんな、充実した毎日に取って代わる。


多様性溢れる趣味は、裏切りという名の悦楽に。


忠義と裏切り。

この2つを巧みに使い分けて、誰よりも、上に上がる。


僕の隣に並ぶ奴は、敵だ。

上の奴は、殺せ。

下の奴は、使え。


空気を読め。

場の流れを、見極めろ。

強い奴こそ、正義だ。





そして、皇國代理天の世界法則[リアリティ]が僕を支配する。

それは、僕が僕で無くなるという事。






チーン。



音が響く。



ヴーーーーン



両開きの扉が開き、薄明かりが差し込む。




「ようこそ、皇國代理天へ。

 地球の守護者[ガーディアン]さん」





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