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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第03話 駅前りゅうがくる
44/169

ドラゴンブレスっ!


バズンッ


パイルバンカーによる一撃は、ヴラドの右肩を破砕する。

その勢いは、あらぬ方向へと、ヴラドの右腕を飛ばし、大量の血液が宙を舞う。



「ヴラドッ!!!」



僕は、ヴラドの元へと駆け出す。


脳内で、警鐘が鳴り響く。

行ってどうする?

今の僕には、何もできないのに。


それよりも、後ろの店員に対処する方が先だ。

胸は潰したとはいえ、まだ、何かを隠しているかもしれない。



でも、僕はそれを無視した。


この選択は間違っている。

ヴラドを救う可能性どころか、一緒に敵にやられる可能性のほうが大きい。

それでもっ!





「がああああっ!!」

ヴラドが吼える。

左腕で、店員の口から伸びている槍を掴むと、特殊能力【竜の咆哮】の準備に入る。



――!



しかし、


ゴホゴホッ


急に咳き込み、吐血する。


ガハッ

地面に、赤い血溜りができる。



まずい。

肺を傷つけたか?

「ヴラド!下がって【ヒール】を!」


流石に、この状態では、会話はできないかと思ったが、ヴラドの思念が伝わってくる。

(お主様?流石にコレで【ヒール】はまずい。

 今、ココで軽度の外傷治癒魔法【ヒール】を使うとじゃな、傷口に皮膚ができて、血は止まるが、腕をつける事ができなくなってしまってのぅ。

 使うなら、四肢欠損の再構成魔法【コンステテューション】が良いじゃろ)


「説明なんていーから!!早く、腕をつけて!」

涙声で叫ぶ。


(そうもいくまい。目の前のコレを倒さずに、どうして回復作業なぞできようか!)にやり

「しばらくの間ぐらいは、僕が盾になるから!」

(くふふっ、気持ちは嬉しいがの。

 お主様は、もう【プロテクト】は残っていまい)

「でも!」

(すまぬが、血が足りぬ。

 なんぞ、活きの良い血袋でも見繕って欲しいのじゃが?)


平気そうな顔をしているが、息が荒い。


……。


いつまでも問答していても始まらない。

色々な感情を押さえつける。


くそっ。

肝心な時に足手まといだっ!



……。


「判った。

 輸血要員を探すから。

 無茶は絶対にしないでね」


そうだ。

僕がいても邪魔になるだけだ。

ならば、今、僕ができる最大限の事を!



あのままだと、もう数分もヴラドは持たない。

出血性ショックによる死を迎えてしまう!


僕の血も、もうこれ以上は無理だ。

ならば僕以外の人間で、誰か、血を!!


「待ってて!!ヴラド!」


僕は、視覚、聴覚、その他の感覚同調、知識共有と、ありとあらゆる同調をヴラドと行う。

これで、ヴラドの状況を常に把握する。


今まで感じなかった感覚同調により、自分の感覚と、ヴラドの感覚との違いに戸惑い、錯覚さえ起こるが、そんな事よりもやらなければいけない事がある。


僕は、敵の放った甘ったるい臭いの効果圏外へと走る。

臭いの効果圏内は、移動販売車と噴水を囲み、デパートや駅は入っていないようだ。

僕は、デパートへと向かう。






一方、店員が放った屁の中のヴラドは、敵と対峙を続けているが、息をするのも辛いようだ。

正直、2分も持たないと思っていた。

しかし、以前、こういった状況に陥った事があるのか、ヴラドは何らかの血止めを行ったみたいだ。

それとも、特殊能力【不老】の追加要素か何かだろうか?

どちらにしても、状況は楽観できない。


「……さてと、下郎。

 良くも我が同胞を殺そうとしてくれたな?

 その罪、自らの命で、あがなって貰おうぞ!」

言うが早いか、ヴラドの眼が紅く輝きを増し、瞳が黄金に輝く。


「グギ、ギ、ギィッ」


あれは、昨日、僕の家で使っていた特殊能力【吸血鬼の魔眼】だ。

視線を合わせたものに対して、運動神経麻痺を起こさせる事と、一時的な催眠状態による魅了の効果を持っていて、今回は、運動神経麻痺だ。

相手は、蟲みたいだけど、触覚はちょん切ったし、眼に当たる器官は見当たらないけど、効果があるんだろうか?


「ギッ!」

……と思っていたら、少し効いているみたいだ。

不思議だ。

どーなってんだ?コレ?

ファンタジーな世界法則[リアリティ]に、言うだけ無駄なのかもしれないけど。


「ギ、ギ……」チキチキ

2対の翅がしばらく動かす事ができずに、店員さんは倒れそうになる。


ぐいっ

「くははははっ、頑張れ」


ヴラドは口吻を引っ張り、倒れようとした店員の身体を無理矢理立たせる。

ヴラドは笑っていると言うか……かなりハイな状態になっている。

「妾、自らが殺してやる。

 肉片1つ残さずにな!!」


「グギギ、ギ……」チキチキ

運動神経麻痺、金縛りの状態だった店員さんだが、しばらくすると、腹が膨れ上がる。


ぼひゅっ。

内部から破裂し、ピンク色の胃と腸が、血液と共に飛び出す。

中からは細く、しなやかな昆虫の足が1対、出て来る。


ぶちっ

そして、自らの口吻を千切ると、再び翅を動かしだす。

ブビビビビビ

危うげだが、ホバリングを再開した店員は体勢を直し、再びヴラドと対峙する。



「くふ、くははははっ!!

 妾の特殊能力【吸血鬼の魔眼】が効かぬか!

 流石、異界の者よ!!」


左手に残った店員の口吻を、ヴラドは投げ捨てると、足で踏みつけ潰す。


「お主が戦士ならば名乗れ!

 その名、覚えておこうぞ。

 我が名はヴラド。

 ドラコエドとかツェペシュと呼ぶ者もいる!!」






時間は少し戻るが、僕はヴラドの情報を所得しつつ、デパート前で先程から、血をもらえないか、叫んでいる。


ヴラドが特殊能力を使って、出血量を抑えているようだと判ったので、少し気が楽になったのもあった。

流石、吸血鬼だとしか言いようがない。


僕は周りの状況から、人の多い場所へと行けば、血が貰いやすいと考えるぐらいには、冷静になっていた。

でも、やっぱり僕はどこかで気が動顛していたんだと思う。





「誰か!誰か、血を下さい!!

 助けて下さい!!」



店員の放った屁の、効果圏内で行われている、死闘は判らないらしい。

多分、通行人には、僕が行き成り現れてように感じられたんだろう。


「血を下さい!!助けて下さい!!」


僕を見た通行人がビクッとした。

6時間目を、自主休校してきた気の早い高校生、買い物に来た主婦、デパートに荷物を届けに来た運送屋、駅前でアルバイトしている女性……。


「な、なに?あれ?」

「うわ、きしょっ」

「きゃあああああっ」

僕の姿を認識して、5秒でパニック寸前まで。


でも、僕は、助けを求める。



「お願いです!誰か、血を下さいっ!」


ひっ。

とか、うわぁとか、皆が僕を見て驚く。

それどころか逃げ始める。


何で?

顔か?

いや、サングラスしてないし、あー、顔の傷か?

ううぅ、そんなにデブでキモイですか?





「待って!話を、話だけでも聞いてくださいっ!」


「きゃあああああっ!」

OLは止まりもしないどころか、走って逃げて行った……。


駄目だ。

僕では、誰も話を聞いてくれそうにない。





くっ。

僕が、必死に為れば為るほど、怖がられる。

裸踊りでもすれば、笑って近づいてきてくれるだろうか?



いや、待て待て。

テンパッてるな、これは……。


深呼吸。

すー。

はぁ。


ふぅ。





確かに、今の自分の姿を思い浮かべると、逃げるかも知れない。

脇腹、肩、左手に血の跡をつけ、青黒い体液で身体から腐臭を放つ強面ブサメン……。

そんなのが血をよこせって……。

どんなB級スプラッタだ。



よし、状況把握。



「怪我人がいます!

 どなたか輸血をして下さる方はいらっしゃいませんか!?」


嘘も方便だ。

ヴラドが助けを必要としている。

可能な限り早く。


でも、心は焦っていても、頭まで焦ったら駄目だ。


誰か……!!

誰でもいい!


ヴラドを助けてっ!!






そんな折、ヴラドが僕に話かけてくる。

(お主様、一大事じゃ!)

なに!?ヴラド!

(日本語が判らんっ!!)



……は?




状況は、把握していたが、行き成りヴラドが言い出すから、何かと思った……。

敵に名乗りを上げたいらしい。


律儀にも。


死地に望んだ戦士と戦うには、当然の事だそうだ。



死地……。

それは、ヴラドも同じじゃないのか?

(ふふん。妾に秘策ありっ!!)


そうですか……。




結局、ヴラドが聞いた言葉を、一旦、聴覚同調している僕が翻訳。

逐一、僕が翻訳した言葉を、僕と性魔術【恋人達の抱擁】で意思疎通状態の、ヴラドが聞く事になったわけだが。


何てメンドクサイ……。


だが、結果はと言うと……。






ヴラドは名乗りを上げる。

自らの名と、渾名を。



「?」


ギ、ギ……

店員さんは、動かしていた翅を止める。


「……御免デェー。ワダチ、トルゴ人ヨ。

 トルゴ語、グルド語、ドイツ語、ジホン語ジカワギャラナイヨー」


どこからか、くぐもった声。

どーやって話してるんだろ?



「ふむ。お主、なかなか律義じゃな。

 やはり異世界でも名のある戦士か」くふふふ


ヴラドは、相手を見定めるように、油断無く構える。

「じゃが、その何処から話しているのか判らぬ。

 くぐもった声では聞き取りづらいぞ……ん?んん?」


「……御免デェー。ワダチ、トルゴ人ヨ。

 トルゴ語、グルド語、ドイツ語、ジホン語ジカワギャラナイヨー」


「おや?」



結果は、どうやらヴラドは、自分がアラビア語を話している事に気がついてなかったみたいで……。





(お主様、更なる一大事じゃ!

 日本語が判らんっ!!)

はいはい、判ってます。

テンパッてる僕の為に、ワザとやっているのか?

それとも、ヴラドも焦ってる?




会話したいんだね?

(そうじゃ!)



……で、僕の唇の動きに同調するので、発声と唇の形、舌の位置を作れと……と。

難しいことを……。

今朝、使っていた魔法は……うん、駄目だね。



でもね。ヴラド。

話している暇があれば、腕を直して欲しいのです。


(なに、お主様、直に終わる)

はぁ。



しかたない。

僕を介してしか、コミュニケーションが取れないんだ。

簡単に日本語のレクチャーする。

発声自体は言語学からみて楽な部類の言語だ。

母音は5つ。

「あ、い、う、え、お」とヴラドに発声させる。

では、いこうか。






「お主が戦士ならば名乗れ!その名、覚えておこうぞ。

 我が名はヴラド、ドラコエドとかツェペシュと呼ぶ者もいる!!」

僕が日本語の形にして、ヴラドの話したい事を翻訳し、発声の為に、口調を同調させるように指示する。


待ってくれていた相手に通じたようだ。

「ギギ……。コクーン:キハ1011の体現者[ヘイタイ]ダ」


「名は?」


「固体名ハ、明カシテハナラナイ決マリダ。

 我ラガ、クィーン、キハノ厳命ダ」


うーん。

昆虫とか、虫なのかな?

多分、人類発祥どころか、恐竜よりも前の3億年ぐらい前に別れた、凄く、遠いパラレルワールドなんだろうなぁ。




「ならば!コクーン:キハ1011の体現者[ヘイタイ]よ!!」

顔面が蒼白となってきているヴラドも最後の賭けに出る。


「褒めてやる!妾をココまで追い詰めたこと!!」


再び、ヴラドの眼が紅く輝きを増し、瞳が黄金に輝く。

一瞬、魔眼で店員の動きが止まる。


「じゃが、それもココまで!」


ヴラドが息を吸い込むと、特殊能力を発動させる。

それを知った店員も、2対の翅を動かし、ヴラドに突撃する。




「死ぬが良い!!」


「グギィギギギィ!!」






ヴラドが楽しく会話している最中も、僕は合間を縫って血液探しをしている。

あー、もう、拉致っちゃおうかな……。



「こんにちは」


―――!!


後ろから、僕に声をかけてくる人がいた。

聞いた事のない声だ。

そもそも、非常にくぐもっていて、聞き取りづらい。


「はいっ」


振り向くとそこには、ベージュのビジネススーツに、パンプス、バックパックを抱え、顔にごついガスマスクをつけた人物がいた。

「な、なにか……?」


「こんにちは、八代時雨くん」

はて?

どこかで……あった……け?


「大変そうね?」

「こ、こんにちは……?」

僕は、目の前にいるガスマスクの人物を見やる。

誰だっけ?

思い出せない……。



と見てると、懐から、名刺サイズの幾重にも折りたたまれたカード入れを取り出す。

パタ、運転免許証、大特二まで。

パタ、危険物取扱者免状。

パタ、認定薬剤師。

パタ、土地家屋調査士。

パタ、行政書士認票。

パタ、社会保険労務士認票。

パタ、司法書士会員証。

パタ、CAD利用技術者試験一級認定カード。

パタ、マンション管理士証。

パタ、情報処理技術者能力認定証ハイライセンス印。

パタ……。


―――!!

ふぐ調理師免許!!


思い出した!!

「五十鈴さん!!」


さっきまで、鈴宮ハルヒの憂鬱作戦で、延々と語っていた五十鈴マンションの持主、五十鈴各務乃さんだ。

あ、そういえば、金曜日は街角占い師をやってる事が多いって新田が言ってたっけ。






ヴラドと敵の戦闘は最終段階に入る。



ヴラドの髪が逆立つ。

瞳が、縦に細く、蛇の瞳に変わる。


体内に生まれる灼熱の塊。

残った魔力どころか、体力、気力を奪っていく。



荒ぶる灼熱の塊は、体内を焦がす。

外に出るのを、待ち望んでいる。

思わず、僕も叫んでいた。

「くらえっ!」





ドラゴンブレスっ!!


ゴォッ。





特殊能力【竜の焔】だ!!

ヴラドの口から、全てを溶かす灼熱の炎が吐かれる。


「ギギッ」



空気中の塵すら焦がし、店員にせまる。

ドラゴンブレスの周囲の熱だけで、翅が溶ける。

空気が焦げる。





「あっ!」


店員もこれは避けられないはずだった。

燃やされ、塵1つ残らずに、跡形なくなるはずだった。


だけど、結果的には、僕の一言は、この店員を救う事になってしまう。



ヴラド!左っ!!


ヴラドの顔を左に向けさせる。

店員さんの移動販売車がドラゴンブレスの巻き添えをくわない様にする為だ。

あそこには、僕達の成功報酬、ドネルケバブの肉がある。




店員は、ドラゴンブレスの直撃から逃れた。

しかし、それでも直撃は免れただけだ。

ドラゴンブレスは、店員の身体を焦がし、移動販売車の脇をかすめ、更にその先へとのびていった。


周囲の熱で店員の服が燃え出し、その炎で身体が燃え出す。

しかし、それを見越していたのか、偶然か、どちらにしろ、突撃した店員の身体に、変化が現れた。


背中がプクッと膨れたかと思うと、中から黒光りするキチン質の何かが現れる。

そう、1匹の巨大な蟲が、モヒカン店員という殻を脱ぎ捨て、脱皮したのだ。


ヴラドは、ドラゴンブレスが移動販売車に当たらないようにコントロールしながら、モヒカン店員を狙う。

狙い違わずドラゴンブレスは、今度こそ只の死体へと還ったモヒカンの男を一瞬にして墨に変え、次には蒸発させていた。

しかし、殻を脱ぎ捨て、身軽となった蟲は、残る1対の翅と硬い羽で、ヴラドの上を飛んで、逃走を図る。



(おのれ、戦士のくせに逃げるか!!)

ヴラドの想いが伝わってくる。



しかし、僕は、もっと重大な事に気づいた。






ヴラドの口から放たれたドラゴンブレスは、コーン状に広がり、更なる被害をもたらす。


じゅっ

モヒカン店員を焼くだけでは飽きたらず、ロータリーの中心にある噴水の水は蒸発する。


ごぎんっ!

安っぽいオブジェは捩れ、溶け、消える。



路傍の石は溶けてガラスへと変わり、ガラスは溶けて形を無くす。



可燃性の物は、近くにあるだけで燃え出す。


花壇の花が。

街路樹が。

旅行会社の店先にあるチラシが。





そう、道路のアスファルトさえも!



溶ける。

液体になり、蒸発する。


歩道にある石畳が溶ける。

マグマだまりみたいな物だ。




まてまて、摂氏1000度以上って!!



まずい!これは大惨事の予感っ!!





ヴラドが使った特殊能力【竜の焔】、コーン状に広がったドラゴンブレスは、全てを燃やし尽くす勢いで、ありとあらゆる物を飲み込んでいく。



あ。

車が……。


そしてついに、無断駐車していた車に火がつく。




ヴラド!逃げろ!!


「――!!」


一瞬の後。




ドゴオォォォンッ!!



爆発音が、駅前に響き渡る。



急激な熱気による空気の膨張と爆発による振動波は、駅前にある、全ての建物のガラスを粉砕する。





駅前は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていった。



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