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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第03話 駅前りゅうがくる
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そうだ。回ってみよう


「ヴラド!気をつけて!その刃は受けないように!!」

敵が高周波ブレードを使用している。


僕はヴラドにその事を伝えるが、ヴラドは、チラッと僕を見ると、親指を立てて、

「あ、あいる、びぃーばぁっく」ぐっ

どうやら、余裕であると言いたいらしいが……。



何だろう。

凄く違和感を感じる。

というか、違和感しか感じない。


何だ?

ヴラドに何があった?



…………。


……。


あ。


そうか。


脳内翻訳の魔法【トランスファコミュニケーション】が失効したから、翻訳が行われないんだ。

魔法を再度かけ直すか、性魔術【恋人達の抱擁】みたいな言葉を使用しない、心を繋げるタイプの物を使用しないと、言ってる事が判らないんだ……。


だから、英語か。

独語は嫌いみたいだし。



早い内に手を打たないと、店員さんにつけいる隙を与える事になる。

一太刀目だ。

初撃さえかわせれば、ヴラドの事だから自力で気づくことができる……と、思う。


どうする?



とりあえず、ヴラドの目との同調を強くする。

魔力素探知の魔法【ディティクトマジック】のかかった視界では、薄桃色に輝いていた霧は晴れ、敵の腐ったような甘い臭いの効果が切れていることがわかった。

周りにいる人間、買い物に来た主婦、駅前でアルバイトしている女性などはボーっと突っ立ったままだが、霧の向こう側、忙しそうに動いている通行人や、自主休講してきた気の早い学生さん達は、普通に動いている。

それどころか、今の今まで、僕達に気づいていなかったらしい3人連れの女子高生がこっちを指差し“グロいけどすご~い”とか“頑張れ子供!”とか応援をしている。


んんー、できれば大事にはしたくないんだけどなぁ。





僕が、考え事をしている間にも、事態は推移して行く。


しばらく睨み合いをしていた両者だが、共に静から動へ、一気に動き始める。

ヴラドは、翼を使って近寄る。

翼が羽ばたく度に、暴風にも似た風が巻き起こり、応援していた女子高生達がスカートを押さえる。

ヴラドは、鈎爪を開き、そのままの速度で、引き裂くつもりだ。

対する店員さんも、翅を震わせながら、宙を疾走して来る。

左手を大きく後ろに引き、大振りで切りかかるつもりなのだろう。


くそっ。

物を投げて、店員さんの気を引こうと考えたが、音波の射程は、相変わらず僕を捕らえ、身体を動かす事は出来ない。


店員さんの触角が先端部分を前に向け、コの字状に開いている。

やはり、なんらかの感覚器官のようだ。

アレを潰せば、距離とか空気の振動を感じなくなるとか……何とかなるだろうか?




「グギャイッ」

店員さんが、左腕のブレードを振りかぶる。


「おおおおっ!」

ヴラドは、左腕を振り上げ、更に爪を大きく広げる。

竜爪が光を反射して鈍く光る。

同時に、右腕で頭を庇う様に構えた。



まずい!


やっぱり、ファーブニルの竜鱗で防御するつもりだ。

確かに、地球の伝説でも邪竜ファーブニルの心臓を喰った人物は、鋼の身体を得たという……そんな逸話だったが、それをアテにしているのはまずい。

高周波ブレードには効かないだろう。多分。


どうすれば回避させる事ができる?


会話をするにはどうすれば良い?


アラビア語なんて無理。

日本語は通じない……。

英語か……それしかない。

とりあえず、知っている単語だけでも並べて!


「ドッジ!」

「アヴォイド!!」

「エビィド!!」

叫ぶ。

えーっと、えーっと、他には何があったっけ……

ファーマイドとか、デキリナーティオとか……。


「ああ、もう。何でも良いから避けろーッ」



――!

僕の言葉を聞いたヴラドは、一瞬、ぴくっと止まる。


しかし、その瞬間、ヴラドの左腕を、店員の鼻から出ている触角が掴む。

ギュルギュルギュルッと、さながら鞭のように、左腕に巻きつき、縛り上げる。



しまった!


やっぱり、あれは、攻撃に使用する物だったんだ。

僕の一言が、ヴラドを危機に追いやってしまった。


ヴラドは、振りほどこうともがくが、ギチギチッと縛り上げる音が、ここまで聞こえてくる。


「ギャギャッ」

店員さんは、そのままヴラドに向けて左腕のブレードを振り下ろす。


「避けろ!!」

もう、僕も無我夢中だ。

思いが通じたのか、ヴラドは、身体の前で構えていた右腕を引くが、敵の方が早かった。

ブレードは、ごっそりと右下腕部の筋肉を、竜鱗ごと切り裂く。

まるで紙の様に。



ぷしゃあああああっ


一瞬の間を置いて、ブラドの右腕から勢い良く鮮血が迸る。

骨まで達したみたいで、だらんと垂れる。


だが、ヴラドの目論みは上手くいったようだった。




ヴラドとの戦闘により、店員さんの低周波音の振動線から僕は抜け出す事ができた。

身体に自由が戻った。

これ以上、足を引っ張るつもりはない。

急いで、その場を離れる。


僕は、店員を右に見ながら、ヴラドの視界と同調、自分の走っている位置を確かめる。



何となくだが、この視界にもなれてきた。

少し変わったFPSファーストパーソンシューティングだと思えば、動きやすい。

メインの視点をヴラドにし、僕自身をヴラドの周りにいる雑兵やザコの扱いで見るわけだ。



僕は、チェ−ンデスマッチの様になっている2人を右に見ながら、店員の横を駆け抜ける。

店員の触角は武装でなく、攻撃にも使用できる感覚器官であるという疑いを捨てられない。


案の定、僕が店員の視覚外、真横を越えた辺りから、ヴラドの左腕に巻きついていた2本の触角のうち1本を外し、ユラユラと宙に漂わせ始めた。

多分、大気の振動、流れを読む……だとしたら、温度、湿度、臭いまで読む器官と考えて良いだろう。

実際は違うとしても、用心するに越したことはない。


すでに、店員の人間の目は、役に立たなくなっているのだろう。

左半分は骨が見えるほどの激しい損傷を受け、頭蓋骨の一部が陥没しているのが判る。

僕の次の行動は、触角を切る事……と見せかけて、胸部スリットだ。

今は、全開に開いているから、隙間から刃物を入れやすい。

硬そうなキチン質の内部に打撃を与えるにはあそこしかない。


「うぉおおおおおおお!」

僕は自分の位置が、店員より後方斜め後ろになった時点で、包丁を構えて店員に向かって突撃する。

わざとこちらに注意を向けるために、声まで出して。


店員の触角は、僕の突撃を逃さないはずだ。

狙い違わず、店員は、右の触手をヴラドに絡ませたまま、右後方に居る僕の方を向く。

また振動波の射程に、僕を捕まえる気だ。



次の振動波は、僕達から情報を取る必要がなくなった以上、確実に致死の物とするはずだ。

実際、先程の振動波は、本来の威力だったら、致死の物だったのだろう。

だが、先程の攻撃で、振動波の効果が、落ちている事に気づいているはずだ。

次に来る振動波はかなり音圧の高いものとなるはず。




問題は、僕の肉体がどれだけ機敏に動いてくれるか、だ。

ヴラドの眼から見ても、デブがのっそのっそ突撃しているようにしか見えない。

ううう。




全開だと思っていた店員の胸部スリットが、更にめいっぱい広がる。

胸から、ドバァっと青黒い体液が吐き出されると同時に、中が顕わになる。

人間の肺の代りに、まさにスピーカーみたいな形の穴ができていた。


音圧を高める為みたいだ。

やはり次の攻撃は必殺だ。





肺の中のスピーカーが振動で揺れ出す。

――――ヴヴ……


ここだ!

【プロテクト】展開!



だが、敵も馬鹿じゃなかった。

3度目だから、何らかの対抗手段を取ってくるとは、思っていたけど……。



店員は、振動波を途中で停止し、その場で半回転。

僕に背中を向ける。


「え?」


尻を突き出し。




ブボォッ!




放屁する。


ぐおっ。

放屁までは、物理防御が効かないらしい。

周囲に、腐ったような甘い臭いが拡散する。



「うう……」

頭に薄い膜が入ったかのように、ボーっとしてくる。


でも、あー。

これで、もう1つの謎が解けた。


人払いの香りではなく、香りの範囲に入った人物を、精神弱体化する事によって意識を朦朧とさせ、行動に制限をかけるのが、このガス状物質の仕掛けか……。

ある意味では、これも金縛りに一役買っていたわけだ。


意識が朦朧とした人物は、一時的なレム睡眠状態に追いやられてしまうのではないだろうか?

だとしたら、骨格筋が弛緩状態となる事で、睡眠麻痺を起こし、本当の意味での金縛り状態になる。

たまたま僕達には、それが効かず、精神弱体化と認識した、というだけなのでは……。



おおぅ。またしても、店員の謎を解いたので、このまま寝ても良いような気がしてきた……。



視界の中で、店員さんが、再び僕の方へと向く。

胸部のスリットが全開となって、翅が振動を始める。


あれが、最大攻撃かぁ……。

本来なら翅も使うんだなぁ。






そんな気分も。

「グギェヤァァァァァッ!」

という店員さんの叫びで、ハッと我に返る。


「まい、はにぃ!!うぇいくあっぷ!!」

どこからか、ジャパナイズされた英語が聞こえる。


ヴラドの声だ。


はっ!!

一瞬、ココがどこか忘れていたが、駅前ロータリーだ。


そうだ!

僕は、屁による攻撃を受けたのだ!

うあああ。

なんだろう、この萎える様な気持ちと、ふつふつと湧き上がる怒りは。





店員の目を引きつけておいた甲斐あって、ヴラドは、重度の外傷治癒魔法【リカバリィ】を右手に使用し、傷口を止血していた。

回復には時間が掛かるらしく、ジュワジュワと音をたててピンクの泡が傷口から出ている最中だ。


その右手で、僕へと気が散っている店員さんに攻撃したのだ。

狙いは、ヴラドの目の前に来ている高周波ブレード。

僕が店員さんの位置より右後方を選んだのは、ヴラドが高周波ブレードを狙いやすくする為。

その僕の考えを気づいてくれたのか、狙い違わず、ヴラドは高周波ブレードのついた左腕を引き裂いた。


だが、敵の低周波音は止まらない。

――――ヴォヴォヴヴォヴォヴヴォヴォヴヴォ



【プロテクト】展開!

間一髪、間に合う。


が、やはり最大の低周波音は、物理防御の魔法【プロテクト】だけでは防ぎきれなかった。

一気に不快感が高まり、手足が痺れる。

即死しななかっただけでも、たいした物だが、どちらにしろ、これでは5秒後には死んでしまう。

そう、魔法【プロテクト】が切れると、僕は電気ショックにより、死亡する。

あと使用できる回数は1回だ。


くそ。

何とかして逃げないといけないのだが……。

吐き気をもよおすし、手足が痺れていう事をきかない……。


いや、……手足は、痺れているだけだ。

麻痺ではない。

動かす事は出来るんだ。


ならば……。


よし!

僕は、まだやれる!





「とう!」

僕は、地面に行き成り倒れると、ゴロゴロゴロと横に転がり始める。

眼が回る?

そんな事、気にしていたら死んでしまう!


自分の目は使わずに、ヴラドの眼で位置を確認する。

店員から見て、僕は左へ、左前へと転がっている。

店員さんが、左脚を、引きずっているからだ。

体勢を安定させるのが難しい方向へと射線から逃亡を図る。



思ったより、早いぞ。

身体が丸くてよかった!!

ううう……溜息出そう。





しかし、そう幸運は長くは続かなかった。

ヴラドが再び、店員さんの香りによる、精神弱体化によってMP切れを起こしたのだ。


流石に、この状態になると、眼がうつろになるのか、視界が合わない、というかボケる。

やばっ。


こうなりゃ、仕方ない!


最後の【プロテクト】を展開、突撃を敢行する。


「うおおおおっ!!」


眼が回っているが、ココまで近づけば、ある程度は視認できる。

僕は、そのまま店員さんにぶつかる。


もみ合うように倒れ、僕は包丁を店員の胸部スリットの間から中を突き刺す。抉る。かき回す。

青黒い体液がドバッっと顔に掛かるが気にしない。


ココさえ壊せば、無力化はできる、というか死んでくれ!



ズン!!



右腹に何か凄く熱い、灼熱の杭を打ち込まれたかの様な衝撃が走る。


「ぐっ」


ぐるぐる廻る視界で、どうやら触角が、僕の腹を貫いたらしい事を悟る。


なんじゃこりゃぁあ!!!

ああ、僕って奴の脳ミソは……。

何でこんな時に、太陽で吼えろを思い浮かべて悦に浸っているんだ?



身体中を返り血だか、自分の血だか判らないが、べっとりと濡らしていく。


視界が返り血で、よく見えないので、一通り、突き刺し終えると、頭を手探りで探す。



あった。


僕は、店員さんの鼻からでている2本の触角を掴むと、包丁をあてる。


硬い。

包丁をのこぎりの様に、押したり引いたりしているが、ビクともしない。



ズン!!

もう一本の触角が、僕の左肩を貫いたらしく、先程と同じ灼熱の痛みが生じたが、堪える。



包丁を思いっきり振り上げ、鉈のように振るう。


「うわぁああああぁっ!!」


ごすっごすっ


2度3度と叩きつけ、そして。



ぶちぶちっ


やった!


切った感触が手に伝わる。

触角をまとめて握っていた左手が急に軽くなる。



切られた触角は、2本ともビチビチしていたが、最後にはダランと垂れた。




そして、店員は動かなくなった。




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