そうだ。分析しよう
ヴラドの渾身の魔法は、発動成功した。
しかし、その結果は予想外の物だった。
(目の前の男じゃが……既に死んでおる……)
え?
どーいう事?
お前はもう死んでいる。
そんな、北都の拳みたいな話?
いやいや、そう見せかけて、実は武論徒語の様な、どちらかというと大反対とか、確定的に明らかといった、独特なセンスによる言い回し?
(何の事か判らぬが、アンデットですらない……本当に只の屍じゃ)
御免、言っている意味が判らない。
(動いていてはならぬ者が動いておる……。
前にラパ・ヌイでのアンデットについて話したことがあろう?)
ん?
ああ、命、魂、意思とかいう話?
そういえば、アンデットには“不浄な命”という一手順があるって言ってたね。
(うむ……)
では、目の前のそれが、そのアンデットの定義にはまっていない、という事?
(いや、それもあるが、目の前のは死体じゃ。
生命活動を終了し、魂も還り、意志は消えた、ただの物体じゃ……)
うーん。
考えられる事を整理していこうか。
(その時間があれば良いのじゃが……)
作るよ。
(ん?……ふふ、頼もしいのぅ)
―――ヴヴヴヴヴヴヴ
「じゃ、次ネー」
「はいはい」
「マンションの管理人について話してもらえますカー?」
「五十鈴マンションの持主、五十鈴 各務乃さん。
河豚の調理師免許を持った凄腕の料理人です。
河豚と言う魚はご存知ですか?
この魚には、後天的に毒をもつ物があり……」
河豚料理と調理免許について、長い説明を続ける。
「ふむ。他には?」
「五十鈴マンションの持主、五十鈴各務乃さん。
戸隠さんの傷を治した凄腕の医師です。
僕達の世界、地球の日本国では、医師というのは国家資格であり、医師になるには長い道のりを必要とします。
義務教育に高校を加え、6年間、医学の正規の教育課程を修了すると、国家試験を受ける資格を得ます。
この難関と呼ばれる試験を合格すると、研修医という……」
医師について、長い説明を続ける。
五十鈴さんを紹介している間に、今のうちにいくよ、ヴラド。
8パターンは、これで稼げるから。
(鈴宮ハルヒの憂鬱作戦?
なんじゃ、それは?ま、まぁ、良いか、作戦名ぐらい)
まず、目の前の男は、何らかの結果、死体であると判断する、ではなくて、確実に“死体”という認識かい?
(その違いは大きいのぅ……
じゃが、間違いないぞぇ。
人間として全ての機能が終了しておる存在じゃ)
じゃ、パターンとしては、そんなにないね。
1・ラパ・ヌイの知識外のアンデット。
2・何かが、何処からか、死体を操作している。
どう?
(うむ……それぐらいか)
次に、相手が術法的な何かで動作している場合は、どうやって調査すれば良い?
(一番手っ取り早いのは、魔力素探知の感知魔法【ディティクトマジック】じゃな)
じゃ、それ、よろしく。
(先に攻撃した方が、早くないかの?)
それは、駄目だよ。
僕らは、この店員さんと、正当な取引をして、情報を渡しているんだから。
その際に、この店員さんが、なんらかの術法を使って、情報を引き出そうとしただけで……。
僕達も、魅了を使おうとか、心を覗こうとしていたじゃない?
5分5分だよ。
それに、デパートの中で話をしたじゃない。
(何をじゃ?)
被害者と加害者の話。
(うむ)
お客と言うのは、どんなに自分が悪くても、いつでも被害者面できるんだ。
(ん?という事は?)
今から、僕達は、被害者面した加害者になれるって事。
だから、向こうから、直接的な攻撃を受けるまでは、僕達は手を出さない。
(ふぅ、お主様……
馬鹿なのか、フェアなのか、判らんのぅ)
うーんとね、ヴラド。
僕の大好きな特撮の歌詞にこんなのがあるんだ。
“戦う時は戦士[ソルジャー]、俺の誇りさ”っていうのがあってね。
卑怯でも、勝利は勝利という考え方もあるだろうけど、僕は、卑怯な事は、したくないんだ。なるべく。
(なるべく……という所は、お主様の良心かや?)
いや?実力不足。
自分でも甘い事を言ってるのは判ってはいるからね……。
どんなに頑張っても、それが通用しない時ってのは、来るものだよ。
でも、理想は高い方がいいんだ。
だから、今回は、ギリギリのラインで被害者面した加害者に。
1対2なら何とかなるでしょ?
ヴラドもいるんだし。
(……ふぅ。全身麻痺は、充分な攻撃じゃぞ。
妾じゃったら攻撃開始するぞぇ……)
うう。
ヴラドが呆れている。
(いやいや、ご高説はあとでゆっくり聞かせてもらおうかの。
妾はその考えが悪いとも、愚かとも思ってはおらん。
むしろ、好ましい)
ヴラド……。
(じゃから、ラパ・ヌイとの戦に敗北してばかりなのじゃがな)
うわあああああ。
酷いオチ!
―――ヴヴヴヴヴヴヴ
店員さんと、僕の鈴宮ハルヒの憂鬱作戦は、まだ続いていた。
「確かに、一筋縄ではいかない人物ネ。他には?」
「五十鈴マンションの持主、五十鈴各務乃さん。
それもかなりのハイレベルな運転手です。
僕達の世界、地球の日本国には、運転免許証と言うのがあります。
これは、公式の書類であり、日本国内何処でも通用します。
運転免許には種類があり、大別すると、第一種と第二種……」
僕は、時間を稼ぐ為に、運転免許について、延々と長い説明を続ける。
とりあえず、先に金縛りを解こう。
金縛りの解除ができれば、取れる行動は増えるから。
だけど、この金縛りが、曲者だ。
飲み物か、臭いか、音か、それかもっと別の……。
ヴラド、どれが原因だと思う?
(妥当に考えるなら、麻痺の攻撃魔法【パラライズ】と考えるのじゃがな……。
正直、思いつかん。複合要素である可能性もあるしの……)
複合……。
ああ、何かを触媒にして魔法とか、何らかの条件下でのみ発動とか……か。
(実はの、麻痺を解決する方法としては、麻痺解除の魔法【ニュートライジングパラライズ】というのがあるのじゃが……)
じゃあ、それを使って、この状況を打破しy……
(それがの、妾は使えんのじゃ……。
新しく麻痺から回復する魔法を構築しようにも、元となる麻痺がどのようなものか判らねば、無駄な精神を削りかねなくての……)
……。
確かに、金縛り、正確には麻痺状態といっても、意識がはっきりしていると思っているだけで、後はまだ何も判っていない状態だからねぇ。
(実は精神的に少しきつい状況でのぅ。
思った以上に先ほどの魔法【リードパーパス】構築と発動に、精神を削ってしまっておる。
後は使えて、1つか2つじゃな……。
しかも構造式を、記憶領域に転写してある魔法だけじゃ)
そう……。
判った。
じゃあ、何とかこっちで対策を立ててみるよ。
うーん。
金縛りの要素が、毒か魔法による麻痺、幻覚による催眠術、睡眠麻痺、もっと他の……。
要素を絞り込まないと、判断すらできない……。
(ん?そういえば、お主様、この金縛りの原因が、いくつぐらい心当たりがあるのじゃ?)
うん、今の所、原因は飲み物か、臭いか、音の3つ。
要素は、毒か術法の2つが最も可能性が高いけど、何らかの幻覚による催眠、睡眠麻痺の可能性も捨てきれないんだ。
だから、原因と要素、それぞれで9パターンに、既存ではない、未知の可能性を入れて10パターン。
(多いのぅ……)
10個なら、まだ大丈夫。今から絞り込んでいくから、まだやり易いよ。
―――ヴヴヴヴヴヴヴ
「いつまでも同じ様な情報ですネ!!
判りましタ!
もう次に、いきまショウ!!」
(む?鈴宮ハルヒの憂鬱作戦は終了したのかや?)
いや、8回も同じ事をやったら、流石に怒ったらしい。
「五十鈴各務乃という人物が、料理人で、医師で、探偵で、占い師で、運転手で、武術家で、マンション管理人というのは判りましたが……
あといくつ、このネタで引っ張るつもりですカ?」
「その質問は、答える情報の規定外ですので、答えるつもりはありません。
強いて言うなら映画化まで」
「ハハハッ、凄いネー。
まだ、この状況でそこまで出来るんダ!
流石、ジャパニーズマフィア!」
「あはは、褒められても何も出ませんよ?」
状況が少し進展しそうだ。
主に悪い方に。
だけど、相手が少し怒ってくれれば、それだけ付け入る隙も出て来る。
「では、コレでいきましょうか!」
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
一気に音が力強くなる。
不快感も倍増する。
それどころか、身体がブルブルと震えだした。
もしかして、これは、低周波音を浴びせているんじゃ……。
うう……。
気持ち悪い。
吐いて気分よくなりたいぃ……。
だけど、今ので少し、コレが何か判った気がする……。
(本当か?お主様!)
うん。
多分、コレは、音響兵器の一種だと思う。
イスラエルやトルコに、米国の企業からLRADって言う長距離音響兵器が販売されていてね。
あれは、大音量を浴びせる物だったけど……。
(お主様、音響兵器というのは何じゃ?
スピーカー?の大きい物という、お主様の知識では、妾には判らんぞ)
えっと、要は、指向性を持たせた騒音……。
うーん。
大きな音を出して、それを拡大する……、それを特定の人に聞かせる……と言えば判る?
(ああ、暴走族か!)
え?
あるの?
ラパ・ヌイに、暴走族って……。
(貴族の若造どもが、改造した戦車に乗って、走り回っておるわ!
ご丁寧に、広範囲に馬蹄の響きが伝わるように、音源拡大魔法を使ってな!!)
うわぁ。
だけど、スピーカーの原理はそれです。
(あまりに五月蝿いので、万物構成物質[マナ]に変換してやったら、20年間、指名手配されたのじゃ!)
あ、ああ、そうなんだ……。
うん、殺しちゃ不味いよね、どんなクズでも。
(殺してなんぞおらん!!
殺しても、すぐに蘇るじゃろが!
万物構成物質[マナ]に還してやれば、2度と元には戻らん!!)
うわぁ、もっと酷かった……。
ラパ・ヌイの常識では、どうだか知らないけど……。
(まぁ、暴走族はよかろ!
それより、その騒音をどうすると音響兵器になるのじゃ?)
簡単に言うと、暴走族の出す音を、目の前の店員さんが、何らかの方法を使って、僕達だけに聞かせるようにしているんだ。
違う部分は、最初にヴラドが、言ってた低周波音って所。
僕達には聞き辛い音だけど、振動として認識されているんだ。
でも、振動だけでは、体が動けなくなるほどの麻痺はおこらない。
(そうか、では、音は金縛りの原因から削除じゃな!
妾は飲み物に毒と思うんじゃがのぅ)
いや、それがね。
ヴラドの言っていた複合要素の可能性があってね。
もしかしたら、この音と何かが噛みあって、金縛りを起している……。
その可能性を否定できないんだ。
むしろ、あがったくらいだよ。
(むう……)
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
身体の震えが止まらない。
ちょっとこれは、不味いかも。
ヴラド。
魔力素探知の魔法【ディティクトマジック】で、何か判った事はあるかい?
どこかに、スピーカー……、
ええと、音量増幅をさせる魔術、機械、それに類する物があるはずなんだけど……。
音の通り道さえ別れば、この音による攻撃の打破は、簡単なんだ!
店員さんは、先程、何も手を動かさなかったのに、音の効果が上がった。
だから、何らかの特殊能力、術法の可能性がある。
(う、うむ……魔力素探知の魔法【ディティクトマジック】は発動成功しておる。
もともと良く使う魔法での、構造式は、記憶領域に転写してあるのじゃ。
それよりも、視覚同調を少しあげよ)
ん?
ヴラドの言うとおりに、視覚同調を上げたら、周りが薄桃色に輝き始めた。
あれ?
これは?
(今、薄桃色に輝いている部分が、何らかの魔力素が働いている部分じゃ)
えと、視界全体が薄桃色なんですけど……。
(うむ。人払いの結界だと、壁が出来ているように見えるのじゃが……。
これは、空気中に魔力素を散布している状態じゃ。
じゃが、多分、人払いの臭い……みたいなものではないかや?)
これは、かなり見づらいね……。
(そうじゃ。しかしの、少し目を凝らせ。
色の濃淡が判る様になるはずじゃ)
ちょっと待ってね。
少しばかり、目が馴染むのを待つ。
(うむ。モヒカン店員より、糸の様な物が出ているならば、それが、遠隔操作の魔力素じゃ。
それを追跡すれば、死体を操っている術者の下へと行けるのじゃ)
出ていない場合は?
(出ていない場合は、ラパ・ヌイにとって未知の術法という事になるのぅ。
じゃが、そんな事があるとしたら、感知魔法に対して、存在を隠す魔法【アンチディビネーション】が使用されている可能性を考慮すべきじゃな)
僕は目を凝らす。
正確にはヴラドが目を凝らしているのだが。
んんー?
いや、店員さんは全然光ってないし、線なんて出てないよ?
(なんじゃとっ!?)
店員さんの身体からは、魔力素の腺は出ていないし、光ってもいなかった。
どうやら、未知の術法のようだ。
んん?
いや、本当に術法か?
店員さんの身体は、魔力素すら使ってない。
それなのに、死体。
動いている……。
アンデットでなく、文字通りのリビングデットか……。
どうやって……?
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
音が、だんだんと僕の意識を奪い始める。
既に意識が保てなくなりつつある……。
ん?
何か、今、脳裏に引っかかる事があった。
こういった時は、たいてい、僕が何か見逃している時だ……。
くそう、意識が……。
(お主様、聞こえるかや?)
ヴラド……?
―――!!
ヴラド!意識は大丈夫かいっ!?
(ん?ああ、少し不快じゃが、問題ない)
ヴラドの位置は、僕の左隣、距離としては、そんなに離れているわけではない。
それなのに、僕よりも、音の影響が少ない……。
そうか!!
音響兵器の攻撃幅は、そんなに広くはない!
ならば、身体さえ動かせれば、この状況は脱出できる。
よし、あとは意識を、保ち続けれれば!
何か……。
意識を保つ為に……。
あ。
僕は、左手に持ったままだった眼鏡のフレームを握り締める。
ヴラド、少しでいいから、手を動かせるかい?
(少しぐらいなら、できるが……
どうしようと言うのじゃ?お主様)
今、繋いでいる僕の左手だけど、その左手を握り締めて欲しいんだ。
(ん?別に構わぬぞ)
ギュッ
ぶしゅっ
と音がして、手の平に、眼鏡の壊れたフレームが突き刺さる。
痛い、痛い、痛いっ
うあぁ、痛い!
けど、凄い!
気持ち悪くなくなったどころか、視界がクリアー、涙が出てきた!!
(お主様!)
ん?
ヴラド。どうしたの?
(いや“どうしたの?”ではなくてじゃな……。
はぁ、あまり無茶はして下さるな、お主様)
御免。
(お主様の悪い所は、謝るわりに反省せぬ事じゃな)
あ、あははは……。
でも、やっぱり麻痺は治ってない。
とはいえ、また情報を入手できた。
今回のは大きい。
痛覚が残っている事から、完全麻痺や感覚麻痺でない事は判った。
と言う事は、運動麻痺という事……。
ヴラドは、少しは、身体が動かせるみたいだ。
個人差が出ている。
僕とヴラドの相違点は音量だが、飲み物の可能性を捨てるには早計だ。
吸血鬼と人間と言う人種の違いだってある。
麻痺が効きづらいのかもしれない。
でも、痛覚が機能したから、これで、金縛りの要素が、幻覚による催眠術や睡眠麻痺でない事も判明した。
残るは、毒か魔法による麻痺、だ。
一石二鳥だったな。
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
痛みで、無理矢理、覚醒している。
これが、魔法でないなら、僕だって耐えてみせる。
今までの事を総合する。
最初に解除すべきは、金縛り。
次に、自白強要。
人払いの結界や精神弱体化は直接的脅威じゃないので、後に回す。
(いや、お主様、そうとも言えんのじゃ。これがの)
え?
いったいどういう事だい?マイハニー。
まさか、この上、まだ問題デモ?
ハハハハ。
……はぁ。
で、どうしたの?ヴラド。
(……)
……。
(……)
ヴラド?
「ハニー」ほうぅ…
ぎゅっと腕をつかまれる。
「あ、いや、お主様、ハ、ハニーとは、また嬉しい事を言ってくれおるのぉ」くねくね
あ。
それは、アメーリカンなジョークでよく使われるネタの1つで……
―――!
しまった!
ギャグの説明は戸隠さんの十八番だ。
僕がやるわけには!!
この熱い状況を寒い話題で凍えさせるなんて!!
(聞こえておるわい!)
あ。
(それよりもお主様、重大な知らせじゃ)
重大?
どういう事?
(うむ。妾はもう、魔法が使えん)
え?
(うむ。使えん)
何で?
(精神弱体化が地味に効いてきておる。
どんどん削られておる。
お主様は、どうも大丈夫そうじゃが……。
脳内のもう1人の方は、無事ではあるまい?)
あ、確かに。
あまり声が聞こえない。
(……実はの、魔法の欠点に今、気づいたのじゃがな)
「……」
(ラパ・ヌイの魔法はのぅ、非常に効率が悪い。
万物構成物質[マナ]がない世界を考慮に入れてないから、色々と無駄が多いのじゃ。
その結果が、精神の削りすぎ、と言う状況じゃ)
魔法を、これ以上使うと、どうなるの……?
(まず会話翻訳の魔法【トランスファコミュニケーション】が失効する)
あ!
それは、まずい!!
(次に、妾は寝る、というか、意識が朦朧とした状態になる。
休息をすぐに必要とするのじゃ)
えっと……、扱いとしては、MP切れという状態か……?
どちらにしろ、こんな状況で眠るのは自殺行為だ。
判った。
質問だけど、僕の精神を代理に使用して、魔法を使う事って出来るの?
(無理じゃな)
精神回復薬、ポーションみたいな物ってある?
(ラパ・ヌイと言う世界はのぅ、全てを魔法が補っておる世界でな。
錬金術や薬草学、毒や鉱物などの知識は、他の異世界に比べて非常に遅れているんじゃ)
と言う事は?
(錬金術という物は、ラパ・ヌイには存在せんのじゃ……)
じゃあ、これ以上は、魔法は無理か……。
それどころか、時間制限もついたのか。
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
店員さんと、僕の質疑応答は、まだ続いていた。
僕は痛みで、無理矢理、覚醒している状態だ。
まずは、金縛り。
運動神経麻痺の状態を解除しなければならない。
効果を発揮している怪しい物は、音と、香りと、飲み物だ。
音については、ほぼ音響兵器と判明している。
ヴラドと僕の、音による被害状況の違いが、それを示している。
1つ問題点としてだが、金縛りの要素の複合原因ではないかと推測される。
そうでない場合は、金縛りとは関係ない要素だ。
あの甘ったるい臭いについては、未だに周りに停滞していると推測する。
僕達の鼻は、臭いに慣れてしまって、もう何も感じないけど。
周りが薄桃色って事から、何らかの術法の効果による物だ。
ヴラドは、人払いの何かだと言っていたけど、確証はない。
この術法は、風を起こす事で弱体化できる。
次に飲み物だが、現在の所は不明だ。
時間がかかると、どんどんチャンスを失っていく。
でも、まだ情報が足りない。
手持ちの装備で使えそうなのは……
ヴラドの服、財布は論外。
モデルガンは、準備に時間がかかるのと、体が動かないから無理。
携帯電話……、誰かに助けを求める事が可能だが、助けが来るまでの時間と、体が動かせる事が必須条項だ。
壊れた眼鏡、自転車の鍵、ヴラドのリボン……、
あ。
ヴラド!
(ん?何じゃ)
五十鈴マンションに行く時に言っていた、特殊能力【竜翼】は使用するのに、MPを使うかい?
(MPとは、お主様……あんまりな言い様じゃ。
でも、まぁ、良いか。微々たる量じゃ。
生やして風を起こす位は、ワケはないぞえ……)
あ、じゃあ……。
(ただ、問題が1つあるのじゃ)
問題?
どんな?
(せっかくのワンピースが破れてしまうのじゃ!!妾は嫌じゃ!!)
あ。
ああ。
そう、
そうですか……。
うん、それは、問題だよねぇ。
(お主様から送られた物じゃぞ?
それを壊せなどと……。
妾には無理に決まっておろう)
うーん。良い香り対策ができたと思ったんだけど……。
(そうじゃ!お主様!
お主様が魔法を使えば良いのじゃ!)
いや、ぶっつけ本番って無理でしょ。
(そんな事はない!お主様ならやれる!
自分を信じるんじゃ!
……単純じゃしな!)
うわぁ、ありがとー。
ヤル気めっちゃ出たワー。
ぐすん。
で、どうやればいいの?
構造式すら判らないんだけど?
(妾の記憶領域から、風の結界を作る魔法【エアシェルター】を見るのじゃ)
判った。ちょっと待って。
……。
僕の脳内に、不思議な図形が浮かび上がってきた。
いや、回路図に近い。
丸や四角を線で繋ぎ、それぞれに記号が複雑に絡み合っている幾何学模様……。
(理解なんぞせんでよいぞ。
その図形の開始地点と、終了地点のみに意識を集中するのじゃ)
ん?もしかして発動に入るつもり?
(そうじゃが?
なに、使えるかどうかも判らんが、物は試しじゃ。
使えなくて当然、使えたら儲け、程度に思っておけば良い)
ちょっと待って。
それなら、先に金縛り解除を行いたいんだけど?
(ふぅむ。
まず、一番良いのが、麻痺解除の魔法【ニュートライジングパラライズ】じゃが、先程言った通り、妾には無理じゃ)
うん。
今現在で、取れる手段だけでいいよ。
(金縛りを行っているものが毒なら、解毒の魔法【デトックス】じゃが……、同じ効果の魔法【ディスペルポイズン】の方が良いかのぅ)
何が違うの?
(移送魔法と創造魔法、種類が違うのじゃな。
まぁ、回復魔法と言ったら普通は変成魔法じゃが……)
ふぅん。
じゃあ、金縛りが魔法だった場合は?
(魔法なら発動中の魔法効果を打ち消す魔法【ディスペルマジック】じゃな。
魔法【ディスペルポイズン】同様に創造魔法で、ディスペル系と呼ばれる、効果を破壊するのを目的とした魔法じゃ。
ちなみに催眠術だった場合は、魔法【ディスペルヒュプノス】じゃな)
この中で、僕が使用できそうな魔法は?
(うむ。それについてじゃが……問題があってのぅ)
なに?
(問題となるのは、地球の世界法則[リアリティ]が、どれだけ魔法を許容しておるかじゃな……。
お主様の屋敷では、ラパ・ヌイの世界法則[リアリティ]が、混ざっていた様じゃから、少し反応しておったが……。
お主様は地球の世界法則[リアリティ]の持主じゃ。
体現者[シュトゥルム]でない以上は、それに従う事になる)
あ、そうか。
うわぁ、それだと、かなり難しいよ。
ラパ・ヌイで見るような、派手な魔法は存在しないからね。
それどころか、地球で魔法は見た事ないし、有ったとしても、多分、気づかないよ。
(やはりのぅ。ならば、毒中和の魔法【デトックス】ぐらいかのぅ。
移送魔法なので比較的簡単じゃし、自然の理を促進するパターンの魔法じゃから、地球の世界法則[リアリティ]にも受け入れられ易い……)
うーん、そっかぁ。
……ふぅ。
どうしよう。
これで、金縛りが魔法である場合、ヴラドに頼る以外、打つ手がなくなった。
毒か、魔法か……、それとも複合か……。
ヴラドを見る。
あれ?
ああ、そうか。
ヴラドと視覚同調していたから、自分の目だと、世の中が歪んで見えるんだった。
ん?
あ。
ヴラド。
横目でいいから、僕の事を見れるかい?
(愛しの君の姿を、視界に収める位、ワケないぞぇ?)
僕は、ヴラドと再び視覚同調して、僕自身を見る。
今、ヴラドの目には、魔力素探知の魔法【ディティクトマジック】がかかっており、何らかの魔力素が働いている部分は、薄桃色に輝いて見える。
だから、この金縛りが、魔法的な物なら、僕の身体が薄桃色に輝いて見えるはずだ。
結果は白。
金縛りは、魔法的なものではない。
これで、2つに絞れた。
毒か、複合タイプ……。
―――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ
不快な音の中、僕とヴラドは店員さんと相対している。
店員さんは、今は搦め手で情報を話させようとしている。
五十鈴各務乃の居場所、学校にいる戸隠と言う名前の人物について、エンゲル・パトリオットの正体など、多岐に渡る。
それらに対して僕は、ことごとく話す情報の内容を、少しばかりひねって答える。
本来なら、普通に答えていたであろう事も全部ひねる。
流石に、何らかの術法まで使用されているなら、対抗策を使用しないと。
答えている間に打開策を探る。
金縛りは、ほぼ毒によるものとして決定……なんだけどなぁ。
頭の片隅で、引っかかっている事がある。
それは、僕とヴラドに出ている、麻痺の差。
ヴラドは、少しは自由に身体を動かせる。
僕は、口以外を動かせない。
正確には、口は自分の意思とは関係なく、動いている。
これが、個人差による物か、それとも音響兵器による差が生んだ状況なのか……。
あと1つ、決め手があれば……。
うーん。
飲み物で経口摂取した毒、音響兵器……金縛り……攻撃……。
あ。
この手があったか!
ヴラド、家を出る前に圧縮封印[メモリー]してくれた、物理防御の魔法【プロテクト】ってどうやって使うの?
(使おうと、思うだけで良いぞ。
音波、振動なら、3秒は止める事ができるはずじゃ)
じゃあ、いったんそれでやってみようか。
(あ!ちょ、ちょっと待つのz)
【プロテクト】展開!
バズンッ!!
あ。
不快感が消えた。
音も消えた。
身体が動かせる!!
何故か、ヴラドも吹っ飛んでいる!!
あれ?
ヴラドとの痛覚共有によって、自分にも痛みが還ってくる。
ああ、そういう事か。
この【プロテクト】という魔法は、自身の身体を覆うように、物理防御の膜が発生するんだ。
当然、僕の腕を取っていたヴラドは吹っ飛ぶと……。
微妙に使いづらいな。
だけど、これで、敵の金縛りの方法が判明した。
複合型だ。
低周波を僕達の身体に浴びせかけ、それを、体内に入っている“何か”によって、電気信号に変換させている。
変換された電気信号は、神経を伝って筋肉を収縮させ、麻痺に見せかけたり、脳波に擬態して筋肉を動かすといった事ができる。
そういえば昔、EMS(Electrical Muscle Stimulation)という、筋肉に電極をつけて筋力トレーニングする機械が、流行った事があったらしいけど、この店員さんの麻痺攻撃は、あれの高性能版と考えればいいか。
厄介な敵だが、ここまで分析できれば、今までの疑問にほぼ、解答が出てくる。
そう、これで、店員さんの身体の秘密、リビングデッドの謎も解明できた。
死んでいるはずの亡骸が、何故動くのか?
それは、店員さんの内部で、何者かが電気信号を出して操っているからだ。
僕の身体と同じ状況なんだ。
要は、死体に寄生している。
どうやって腐敗防止をしているのかは判らないけど、十中八九、間違いはない。
次に僕の体内の“何か”だけど、これは、間違いなく、飲み物に仕掛けたはずだ。
もっと気をつけて飲むべきだった。
この“何か”は、毒中和の魔法【デトックス】で何とかできるのだろうか?
例えば、毒でない場合。
考えたくないが、寄生虫とか、ウィルスとか……ナノマシン……とか。
ヴラド!
毒中和の魔法【デトックス】で質問だけd……
ヴラドの心を覗いてみる。
あれ?
あ。
怒ってる。
めっちゃ、怒ってる。
今ので、ワンピースが破れていた。
引き裂いたかのような破れ方をしている。
目じりには涙を溜め、恨めしそうに僕を睨み、拳をギュッと握る。
ひ、ひいぃぃぃっ!!




