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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第03話 駅前りゅうがくる
38/169

そうだ。交渉しよう

「……う?」



気絶していたようだ。


あれ?ヴラドは?



「ここじゃ」

頭の上のほうから、声がする。



おや、視界が安定しない。

「めがね、めがね……」


起きようとした僕を、そっと、ヴラドの手が押さえる。

「もう少し、このままでいたらどうじゃ?」


今の状態は、どうやら、ヴラドの膝枕状態らしい。

なんとも気持ち好い。

こんな事されたのは、月見里さんぐらいだ。

しかもあの時は、膝枕したいからって、僕を殴って気絶させるという荒業までこなしていたっけ……。


「ふぅ、お主様……」

「あ……」

「反省はせぬと、人間は育たんぞ。今は妾だけを見よ」

「御免」

「まぁ、今は良い」

そう言って、ヴラドは僕の額を撫でる。

「その、お主様?気分はどうじゃ?」

「え?うん。気持ちいいよ。

 膝枕なんてされた事、人生で2回目だ」

「あ、いや、そうでなくてじゃな……。

 初物でないのは、残念なのじゃが……」

「?」

「どこか、痛い所はあるかや?」

「え?ないよ?気持ち好いぐらい」

「そうかや……」

「そういえば、僕、空腹で倒れたんだっけ?

 御免ね、ヴラド」

「空腹?……あ、ああ、そうじゃな。

 お主様は空腹で倒れたのじゃ……」

「そっか。情けない……」

「ええ?いやいや、そんな事ないぞ。

 キチンとやる事やっておったしのぅ」

「うあぅ」

「怪我は、軽度の外傷治癒魔法【ヒール】で治しておいたので大丈夫……とは、思うんじゃが……」

「そっか。ありがとう」



「のぅ。お主様……妾は、性急過ぎるのかのぅ?」

「んー、そうだね。焦ってはいるのかもね?

 何故かは判らないけど」

「そうじゃな……性急過ぎる……か。

 しかし、ゆっくりとしておれないのも事実じゃしのぅ……」

ふぅ、と溜息をつくヴラド。

「あ、あのね、ヴラド」

「なんじゃ?」

「た、溜息をつくと、その分だけ、幸せが逃げるというよ。

 性急過ぎても良いんじゃない?」

「そうは言うがの……」


「誰か、困る人がいるの?」

「ん?そりゃ、お主様が困るであろ?」

「僕が?そうなの?」

「ふむぅ。どうしたものかのぅ」



「じゃあ、やっちゃえ」

「は?」

「困るのは僕なんでしょ?」

「そうじゃ」

「じゃあ、いいじゃない」

「いや、良くないじゃろ」

「何でさ?」

うーん。

反対にヴラドが困った顔をしている。




「あのさ。ちょっと変な話するね」

「うむ?」


「さっきみたいに、ヴラドに心を読ませないように、別の事を表面上考えるとか、マルチタスクな思考法とか、分離思考って判る?」

「うむ。誰しもできる事じゃが、普通は2つ以上の物事を行えば、集中力が散漫になるぞぇ。

 お主様の言っている事は、何となく、ニュアンスだけならば、じゃが……。

 その集中力が散漫にならない思考法の事を言いたいのじゃろ?」

「うん」

「まだ、名付けられてはいないが、お主様は、それをやっておるのであろう?」

「うん。僕の中にね、ええと、ちょっと説明が難しいんだけど、僕を上から見下ろしている様な、そんな人格があってね」

「!!」

おや、何かヴラドが驚いている。

「そんなに驚く事なの?」

「あ、いや、そういう事ではないのじゃが……」

「?」

「それは、多重人格とか、別人格とは違うのかや?」

「うん。別人格ではないと思うよ。

 僕は、いつもそいつの言ってる事が判るし、自分自身だって言える」

「常に相互理解している……と言うのかや?」

「うーんと、こんな事言うと、今の自分を否定しているみたいで嫌なんだけど……

 言葉としては、自分の脳内上位人格みたいな感じなのかな?

 辛辣な事を言う時もあれば、僕のやる事に強制介入してくる時もある」

「強制介入をするじゃと……。

 すでにそれは別人格に近いではないか……」

「うん。いざという時に、どもらずに話せたり、ピンチの時に変な知恵を授けてくれたり……。

 昨日は、ヴラドと心置きなく、楽しめって言っていた」

「そうか!うむ。その人物は非常に頼もしい、素敵な人物のようじゃな」

「いや、だから、それも僕だってば。

 多分ね、弱かった僕が、閉じ篭る為に、欲しがった殻なんだ」

「閉じ篭る殻?」

「今は逆転しているけど、僕は、1年前、去年の夏休みより前の記憶があやふやで、飛行機事故よりも前になると、記憶がないんだ」

「ふむ」

「飛行機事故にあってからしばらくは、辛い事があったらしくてね」

「……」

「それで、外界からの接触に何の反応もしないですむ為の精神の殻が必要だった。

 僕とそいつは、その殻の外側と内側なんじゃないかなって思うんだ。」

「……」

「人見知りをせずに、どもらずに、理知的、打算的な外側と、幼稚で感情的、考え無しで常識知らずな内側の僕なんだけど、多分、夏休みに交代したんだと思う」

「交代をした?」

「表と裏……じゃないな、中と外が。

 うーん、もしかしたら、融合……かなぁ。

 良く判んないや。

 ただ、もう統合が始まってはいるんだ」

「ふむぅ……。まぁ、そういう事もあるのかもしれんのぅ」


「で、最初の話に戻るね」

「うむ」

「頭の中の僕が、きっと大丈夫。

 僕ならできると、舐めた事、言ってるから」

「舐めた事って、それも、お主様なのじゃろう?」

「うん」

「脳内で喧嘩して、どうするんじゃ?」

「いやいや、認めてくれたんだよ。きっと。この1週間で色々とあったんだ。

 ヴラドと出逢った事が1番大きいけど、それでも、僕に大きな影響を与えた女の子達がいて、その女の子達に対してどういう風に接するか、僕に決めさせて……」

「その答えが、ハーレムかや」

「うん。それで、脳内人格も認めたみたい。

 嗚呼、こいつ莫迦だって」

プッ。

ヴラドが噴き出した。

「ふふっ、そ、それは酷いのぅ!」あははは

「それでね、僕が困るぐらいなら、まだ大丈夫なんだよ。

 ヴラドも戸隠さんも月見里さんも……

 いや、ヴラドも伊織も雲雀も困っていない。

 だから、やれると思うんだ」

「それは、また、なんと単純な……」

「だから、ヴラドは性急にしてても、良いんじゃない?」

「そうか……そうじゃな。

 お主様が困っていたなら、妾が助ければ良いだけの事じゃしな……」

「まぁ、僕の言う事は、口先だけの事も多いし?」

「ココまで来て、そこで落すか、お主様……」

「あはは」






「服、汚れちゃったね」

「それは、お主様もじゃろ」

「あー、でも、ほっとくとガビガビになるよ?」

「そっちは大丈夫じゃ。魔術で落した」

「そうなの?」

「うむ。髪の毛と違って、見えるのでな」

「へぇ」

「問題はスス汚れでのぅ……。

 色が落ちてしまった……。

 少し、強度調節すればよかったかの」

ワンピースは、魔法をかけた部分だけ、色落ちし、濃淡のまだら模様がくっきりと現れていた。

「あー。これは仕方ないよ。

 あとで、全体的に直すしかないね」

どうも、原理的には、洗濯機と同じ原理のような魔法みたいだ。

「いや、少し違うぞ。ガビガビは、それを落すための専用の魔術を使ったのじゃ」

「そんなのあるの?」

「スルターンのハレムにいると、夜伽の後に必要となる便利な魔術を色々と覚えてのぅ」

「そうなの?」

「スルターン自らが惜しげもなく、その知識を披露してくれるのじゃ」

「へぇ。そんなに魔術が得意だったの?」

「オタクじゃしな。魔術オタク。

 若い頃は、かなり無茶をする破天荒な人物だったという話じゃ」



「少し、聞いていい?」

「なんじゃ?」

「ヴラドは、今でもスルターンを愛しているの?」


「……」

「……」


「……そうじゃな。正直、自分でも判らん」

「……」


「憎悪はしておる。

 殺してやりたいとは思う。

 じゃが……」

「……」

「いや、もしかしたら、裏返っておるだけなのかのもしれぬ。

 “愛しい程、憎い”“可愛さ余って憎さ100倍”とか言うじゃろ?」

「そっか……」

「お主様も好きじゃぞ?愛しておるぞ?」

「取ってつけたようにー」


「ふふ。あの御方はのぅ……

 最後の最後に、妾ら戦士[ムジャーヒド]を裏切った」

「えっ?」

「その理由を聞いた時にな、怒るより、納得してしまったんじゃ。

 “嗚呼、この御方ならば、この行動は当然じゃ”とな。

 むしろ、裏切らずに、妾らと共に行動していた、今までがおかしかったんじゃ……とな」

「えと、そ、そんなに変な人なの?」

「いや、あの御方はのぅ。

 その本質は、王、支配者ではなく、学究の徒、研究者なのじゃ。

 何故、王になったのかは知らぬが、妾らはスルターンの本質を忘れておった。

 それだけの話じゃ」

「……」

「あの時、魔法の全てを知りたい……と、その為ならば、全てを捨て去ると……。

 富も、権力も、後宮の女も、世界ですら、あの御方を留める事はできなんだ……」

ヴラドの頬を涙が伝う。



ああ、やっぱり、今でも……なんだ。

でも、僕も昨日までの僕じゃない。

誓ったんだ。

ハーレム作るって!


「ヴラド、ぼ、僕と一緒に居る時は、ほ、他の男の事、考えるのは止めようよ」

ヴラドの頬に軽く右手で触れる。


「んむ?」

そのまま、頭を下ろしてくるようにして、唇を求める。


「ぼ、僕と一緒に居る時は、僕を見て、ぼ、僕を愛さないと」

「……」ぷっ

あ、笑った、噴き出しましたね?

こっちの、なけなしの勇気を!

「ふ、ふふ、ふふふ、……言いよるわい。

 では、申し訳ありませぬ。

 我が愛しの君……」

今度は、ヴラドから口付けを交わしてくる。



激しかった行為の余韻に浸ってはいるものの、その奥で再びムクムクと新たな欲望が、頭をもたげている。

何ていうか、本当に四六時中発情しっぱなしだなぁ。

「さて、このままでいると、また、理性が消し飛ぶから、そろそろ行こうか?」

「あー」てれ

「?」

「最後にの、もう一回して行かぬかぇ?」

あー。

我慢できないのは、ヴラドもか。


「……そうだね」

いっきに回復する。


「ふふ、ほんに立派じゃ。

 誇ってよいぞ、お主様は」

「そこ見て話さないでよ。うう」






時間は、3時すぎ。

僕達は、服を魔法で綺麗にし、五十鈴マンションを後にした。


眼鏡は、僕が床に顔面激突をしたとかで、フレームがひしゃげて使い物にならない。

レンズは大丈夫なようなので、微妙に歪み、淀んだ世界を歩く事にする。


「お主様、その眼鏡を直す位は、魔法で出来るんじゃが……」

うーん。ついでに直してもらおうか……。

あー、でも先に、ドネルケバブの屋台が、そろそろ来てる頃だと思うんだよね。

「ん?いや、今は良いよ」

先に、肉の調達だ。

できれば、開店前に商談に持ち込みたい。





「ヴラド、ドネルケバブの屋台、見える?」

「ちょっと待っておれ。

 ふむ、感覚同調はできるかや?

 妾の視覚と同調するのじゃ」

「えーと」

僕は、右目を瞑り、左目だけにする。

あとは、ヴラドの中へと、潜って行く感覚で……。


視界が、クリアになる。

「ああ、できた」


「2つの視界を、使い分ける様にしておくと、今後、有効利用しやすくなるのでな」

「ふーん。でも、歩きながら使うと、ちょっと酔うね……」


ゲームで言うとFPSの感覚みたいだ。

幾つかのゲームにはドハマリしたが、そんなに数多くやった訳ではない。

どちらかというと、僕は、TPSの方が好きだ。


「ゲームは良いから、視界は大丈夫かや?」

「なんとかね。でも、なかなかこれは……。

 歩けないほど、酷い状況じゃなくなったけど……

 距離感が掴めないという意味では、乱視の状態とさほど変わらないよ?」

「ふむ、そうなのかや……?」

「何か、落ち着かない」

「ふむ。妾と視覚同調しておるのじゃから、なるべく近くに居た方が良かろ?」

ぎゅっ

「この視界なら、何とかやれるかのぅ?」

「あ、うん」てれ 

「とはいえ、どちらにしろ、今の状態では、戦闘はできなかろうしのぅ……」

「いやいや、ヴラドは僕に何をさせようとしているの?」

「もちろん、ラパ・ヌイとの戦争じゃが……」

「ちょっと待って。戦争を回避するのが、命題でしょ」

「そうじゃが、最初に力を見せねば、従う物も従わんぞ?」

「……」

「例えば、交渉するにしてもじゃな……おや?」

「ん?」

「あれかや?屋台は」

ヴラドの見た物を、僕も視覚同調で視る。

そこには、特徴的な長ったらしいうたい文句の看板“遥かアナトリアの回転グリルから、100万ドルの輸送費かけてやって来た!そうです、私がドネルケバブです!”が見えた。

「あ、うん。そうだね。丁度、今来た所みたいだ。さぁ、交渉に行こう」

「そうじゃな」

僕達は、営業準備中のドネルケバブの屋台に近づいていく。






「こんにちは」

モヒカンの店員さんに声をかける。

「ンー?ごめんネー、まだ営業準備中ヨー」

「いえ、そうではなくて、実は、おりいって、ご相談したい事がありまして……」

「何か用ですカ?」

「はい」



モヒカン店員さんは、準備する手を休めると、僕達の方を見た。

「オー!1号さん!」

あ、覚えてくれてたんだ。

「今日は、どうしたノー?」

「あ、はい。実は、ドネルケバブを売って欲しくて……」

「?……まだ、営業準b」

「あ、そうではなくてですね。その、ドネルケバブの肉本体、を売って欲しいんです」

「コレ?」

モヒカン店員さんは、心棒の通った重そうな冷凍肉を指差す。


「はい」

「無理ネ」

「そこを何とか」

「無理ヨ」

「そこを何とか」

「無理ったら無理ネ」はぁ

「そこを何とか」ペコリ

「何でそこまで欲しがるノー?」


「じ、実は」ぐいっ

「?」

ヴラドが、僕の袖を引っ張る。

ヴラドの思考を読む。

(お主様、今はまだ言わぬ方が良い。パーティとでも言っておけ)

おぅけー、ボス。

「実は、身内でパーティを開こうと思っているのですが、

 そこで、何か少し変わった趣向をしようかと思ったんです」

「オー。それで、ケバブ、ネー」

「はい」


「オーケーオーケー判ったヨ。でも駄目ネー」

うわぁ。

だが断る、かぁ。

「ココまで聞いといて、それは酷くないですかぁー?」

「ダメな物はダメヨー」

「うーん。では、どうすれば売って頂けますか?」

「売れないヨー」


「えっと、じゃあ、この肉で稼げる代金分を僕が払います。

 それでしたら、損する事にはならないと思いますが……」

「ダメネー」

うーん。頑なだなぁ。

まぁ無理を言ってるのはこっちだけど……。


ヴラドに相談するか。



どうする?ヴラド。

ヴラドに同調して、心を覗き見る。


少しタイムラグがあるが、ヴラドの思考が読めるようになる。

(どうするかのぅ。特殊能力【吸血鬼の魔眼】で魅了でもするかのぅ……)

あまり強引な手段は使いたくないなぁ……

でも、最終手段はそれでいこうか。

(そもそも、こやつ、今日の売り上げ分は払うと言っておるのに、何故拒むんじゃ?)

もしかしたら、雇われ店員で、時間給なのかも。

でも、普通は能力給だよなぁ。

(能力給かどうか、聞いてみてはどうじゃ?)

そうだね。ちょっと探ってみるよ。




「えっと、どうしても売って頂けないようですが、何かワケでもあるんですか?」

「ココはまだ2日目ネー。お客さんと顔なじみにならないと売れないネー」

ん?

「あ、それでしたら、日程を決めて、巡回した方が良いのでは?

 何時もそこにあるという安心感は、客足を遠ざけますよ?」

「そんなことないヨー。顔なじみは必須ヨー」

んん?

確かにそうだけど……。

でも、それだけでなさそうな……。


「店員さんは、ココ以外でもドネルケバブを売っているんですか?」

「いや、ココだけネー」


「そうなんですか。ここら辺で、あまり見かけない屋台だったので、他の所でも売っているのかと思っていました」

うーん。別の所に移動して売っているわけじゃないのか……。

これだけの肉の量、たかだか、こんな田舎の1箇所で捌ききれるものじゃないと思うんだけどなぁ。

何だろう。

この頑なさは……、まるで、別の……。

少し、雑談でもして探ってみようかな……。


「店員、1つ聞いても良いかの?」

ヴラドが話しかける。

「?」

「あ、そういえば、言葉が通じなかったのじゃったな……」

「……御免ネー。私、トルコ人よ。

 トルコ語、クルド語、独語、日本語しか判らないヨー」

凄いな。4ヶ国語……じゃないな。4種類の言語を使えるんだ。


「お主様、お主様」

「ん?何、ヴラド」

「妾の言葉を、通訳して欲しいのじゃが」

「交渉するかい?いいよ」


ヴラドが、交渉にまわる様だ。

そりゃ、強面ブサメンの話下手に比べれば、こっちの方が好いだろう。

僕は、ヴラドの言葉を通訳する。


『どこか、卸売りをしている所を、教えて戴けないでしょうか?』

「んー。それは駄目なのヨー。

 私もそこから買っているけど、一見さんお断りなのヨー」

買っている?

という事は、時間給ではなくて、自営業、独立した店舗の可能性が高いのか……?

「一見さんお断りなのは、その肉の下味に使われている材料を秘密にしたいから、といった事だからでしょうか?」

「それは、私にも判らないヨー」

『ふむ、しかし、この肉でかいのぉ。どれぐらいの重さなのじゃ?』

「10kgネー。コレでも小さい方ヨー」

やっぱり、ヴラドが話しかけると食い付きが違うなー。


『ほぅ。これだけで生活したら、どれぐらい持つかの。半月はいけるか?』

「はは、何食分かと言う事ネ?販売業者は80食分と考えているようネー」

と言う事は、全部買ったとして、約4万円か。

なんとか、デート資金を追加投入して、いけそうだな。

「でも売らないヨ」

あらら、釘を刺されたか。

『そこを何とか売って欲しいのじゃ』

「無理ネー」


でも、田舎駅の前で、1日で80食分は無理だろう。

仕入れはいくらか知らないけれど、安くて1万、高くて2万か……。

諸経費いれても、足がでるんじゃないか?

(お主様、確かに頑なじゃな。この者、何か、他の目的でもあるのかや?)


うーんと、ホソダの社長の名言に“こちらが望んでいる事、こうやりたいと欲している事をスムーズに受け入れてもらうためには、まず先方の心を知らねばならない”というのがあったなぁ。


正直に言って、僕には、交渉系の話は難しい。

マイナスとなる要因が多い。

もっと会話が得意で、機転と理知に長け、見目が良い、それでいて騙す事に何の躊躇いもない人……。

あー。

いるなぁ、身近に得意そうな人。

今から呼んで……って授業中か。




――――!!


あ。


そういえば……



ヴラド、魔法とか魔術、特殊能力、何でもいいけど、この店員さんの心を読む事って出来る?

(失敗すると、気配で心を読もうとした事が伝わるぞ。成功率も高くはないしの)


じゃあ、心を見ることはできるんだね?

(基本的には、違法じゃがの?まぁ、地球でなら構わんじゃろ)


大丈夫、相手は地球人だから、魔法なんて知らないよ。

バレないからやって?ヴラド

(ふむ。お主様が言うなら、やってみようかの)





1つ、閃いたと言うか、思い出したことがあった。

その一瞬で、僕の妄想回路が、盛大に変な方向に回転した。


そうだ。

昨日、五十鈴マンションの話をした時に、この店員は、何故か、五十鈴さんが女性だと知っていた。

“オー!凄い女傑ネー”って。

占い師と聞いて女性を連想した可能性もあるが、最初から知っていたという可能性もある。

それに、上客では無いのに、あのマンションに関する情報についてだけは、この店員は食い付きが良い。


いや、正直、外れている可能性の方が高い。

でも、もしかしたら、万に一つの可能性として……。






取り合えず、話を変えよう。

戸隠さんみたいに上手く話す事が出来ればいいな。


そういえば……写倫の国という、大人向けの恋愛ゲームのFDに“嘘をつくときは、嘘の中に本当のことを混ぜておくといいんだってな?”という台詞があったな……。

やってみるか。



「そういえば、店員さん」

「ンー?」

「昨日の話、面白そうだから、調べてみたよ」

「何のハナシー?」

「ほら、そこのマンションで火災が発生したけど、事件の臭いがするって言っていたじゃないですか」

「おー。その話ネー。どうだったノー」

「それが、凄く面白い結果が出てね」

「フムフム」

「で、僕ら、さっきまで爆発現場に入っていたんです」

「え?それは凄いヨー!未だに現場は立ち入り禁止ネ。

 監視カメラがあったりするヨ。どうだった?」

うわぁ、食いつきが良いなぁ。

だいたい、現場の状況まで知っているっておかしいでしょ?

……ん?

監視カメラ?

そんな物は無かった気がしたけど……。



「室内は、酷い壊れ方でしたよ。

 焼け跡よりも、ススが酷かったです。

 替えの服を持っていって正解でした」

「フーン……凄いネー」

何か、興味無さそうな振りをしているが、食い付き方が凄い。

一言一句逃さないと言う気配だ。


「内部は確かに、おかしな壊れ方でしたね。

 爆発の規模と被害が違う様でした」

「でしょ、でショー」

「隣室が火事で焼けていませんでしたからね」

「ふむふむ」

「ん?この話、興味あります?」

「んー?いや、それ程という事ではないヨー?」



一歩近づき、声を落す。

「結構、ヤバイネタも仕入れちゃって……」

「どんなノー」

「ああ、いえ、この話は出来ません」

「ええー?」

「いや、僕の実家って、ヤクザなんですよ。

 ヤクザ、えーとジャパニーズマフィア」

「おおー!マフィアなノー?」

「しー!あまり大声で言わないでもらえますか?」

「オー!御免ヨォ」

はぁ、こんな事で、僕のブサメンが役立つ日が来る事があろうとは……。

(泣くな、お主様。ぷぷっ)

はぁ……。


ゆっくりと話す。

「それで、まぁ、話の裏にありそうな情報も入手しやすくて……。

 で、今回も同じ様に情報を集めてみたら、凄い事になっていたワケです」

「……」

あー。

結構、僕の話に聞き入っている感じだ。

いけるかな?



「さて、どうです?もっと詳しい情報の代わりに、肉と交換するって言うのは?」

「……」


駄目か?

いや、ここはもう一押し。

何となくだが、自分の妄想があながち外れていない気がしてきた。

だから、押してみる。

この店員は、この情報を欲しがっているんじゃないかって。


「……」


そんな事を思っていると、先に店員さんが動いた。

「内容が判らないから、とても不利な話ネ」


「……」

駄目だったか……。

でも、まだ手はある。




「もう少しヒントはないノー?」



は?


え?

えええ?


「あ、じゃあ、ヒントと言うか……

 ズバリ、あのマンションの室内で何があったか、なんだけど」


「エエッ、ワカッタノー!?」



いや。

まさか。

僕ごときの口車にあっさりと乗ってきた……。



ヴラド……。聞こえる?

(聞こえておる。じゃが、今しばし待て。

 魔法を構築中じゃ。

 ふふ、お主様の読みは当たりの様じゃな。

 この者は、ココに居る事こそが、本来の役目のようじゃ……)



屋台は、カモフラージュ……。

そういう事か……。


(それが情報収集か、捜査の霍乱、煽動……

 何かは判らぬがの……。

 イプセプスでも乞食に扮する者達が、よく使った手よ)




うわ。


一気に、きな臭くなってきた……。



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