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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第02話 忘れられない夜になる
30/169

開幕カウントダウン-赤だし欠乏症- そしてプロローグへ


「爆ぜろリア充!」

シスター・イルゼの拳が、僕の眼前に迫る。

しかし、その拳を月見里さんの手がやんわりと両手で包む。

「イルゼ、うらやましいからといって、他人を陥れるような言動、行動は駄目よ」

「はぁい。でも、流石オネーサマ。

 自分が殴るのは良くて、私が殴るのは許せないんですね?

 いいなぁ、殴り愛……」うっとり



「「……」」



「オネーサマは、私をもっと殴って良いんですぅ!

 むしろ叱って下さいぃ。

 私にも愛の鞭をぉ!」はぁはぁ

「えっと、奥が深い娘だね……」

「もっとマトモな娘だと思っていたのに……」

「あぁん、その蔑んだ目も、す・て・き」ぽっ


「とりあえず、殴っとくわね?」

「あひぃ」

あー。

喜んでる、真正だね。





「そういえば、雲雀が成績優秀だって話に戻るけど、

 それは、さっき言っていた、謎の特殊部隊エリート育成コースだからって事なの?」

「そうですよぉ。当たり前じゃないですかぁ。

 拳銃の整備に始まり、爆弾解体とか、危険物取り扱いに毒物知識、棹状武器や細剣、棍棒、スコップなんかの武具指導、隠密行動、精神修練、サバイバル訓練、入ったばかりなのに、先生も驚くほどの知識なんですぅ!

 拳銃なんて流れるように分解してぇ、組み立てを行うんですよぉ、素敵ぃ」

「ねぇ、雲雀。この学校、おかしくない?」

「んー。でも、外国に言ったら必要な知識かもしれないし、実践想定で良いんじゃない?」

何処の紛争地域に行くつもりなんだろう?



「で、ノンネ・イルゼは成績最下位……と」

「なんですかぁ、ブサメン。

 文句ありますかぁ?」

「うんにゃ?君がまともで良かったって言ってるんだよ」

「ちょ、それじゃ、私がまともじゃないみたいじゃない!!」

月見里さんが文句を言う。

「あー!オネーサマを馬鹿にしたなぁ!!許せませぇん!」

「よ……っと」

シスター・イルゼのパンチを軽くいなして月見里さんと話す。

「でも、まぁ、安心した。

 月見里さんの近くにいる人が、ノンネ・イルゼみたいな感じの人で」

「それは、毎晩、私にあんな事や、そんな事、あんあん、きゃっきゃ、うふふ~な事をされろと?御主人様?」

「そこまでは、言ってないよ。

 でも、されたら、動画送ってね?」じっぷで

ぼくぅ。

がはっ。

「言ってないなら、じゃあ、何よ」

うう、普通に殴って、話すんだもんなぁ。


「だって、昨日、僕と新田が話し合っている時に“1人だけで友達作っちゃって……”なんていうから、気になっちゃうよ。

 また、クラスで浮いているのかもしれないって。

 だから、怪しい宗教にはまったんじゃないのか……とか」

「あ……。御免、心配かけてたんだ……」

「ううん。ほんのちょっぴりだけど、気になっただけだから」

「そっか、ありがとう」



「で、一応、友達なの?ノンネ・イルゼって」

シスター・イルゼの方を見て、月見里さんへと問う。


「うぅん?ただのルームメイト以下」

「それ、酷い!あんまりですぅ、オネーサマ!

 あの日、あの晩、あんなに、激しく燃え上がった二人なのに……。

 オネーサマの手が、私の背中をそっとなぞり、あんな、イケナイ事まで……」

うわぁ、どきどきする。

「誤解する様な、話しぶりは止めなさい!

 あれは、アンタが酒の飲み過ぎで、気持ち悪いって言うからでしょーが!

 結局、最後は、ゲロぶちまけて、部屋中ゲロまみれにするし!」

うわぁ。ケチャップまみれより酷いや。

「いつ、見回りのノンネにばれるか判らなくて、ヒヤヒヤしてたんだから!」

「すいません……、で、でもでもぉ、あれで2人の絆は更に深まってぇ……」

「ゲロで絆が深まるなら、私はとっくにヤシロとゴールインしてるわよ……」はぁ

うう。良い話がゲロまみれに……。



「でも、まぁ。よかったじゃん。ノンネ・イルゼ」

「何がですかぁ?」

「雲雀は、友達以下とは一言も言ってないんだから」

「あ……」

月見里さんの方を向いて、嬉しそうに顔をほころばせるイルゼ。

「オネーサマっ!」

月見里さんに抱きつき、たわわんと揺れるふくよかな胸に顔をうずめる。


やっぱりいいよなぁ。

僕が、あれやったらセクハラ扱いになるのに……。

うらやましいなぁ、イルゼ。



「わ、私、頑張りますぅ、オネーサマの恋人と呼ばれるようになるまで、一所懸命!」

「頑張らんでいいわよ!

 友達以上になろうとするんなら、縁切るからね!」

「うわぁーん。それは酷いですぅ」

「でも、それ以外の事は頑張らないとね?ノンネ・イルゼ。」

「なんですかぁ、ブサメン。私とオネーサマの語らいに、何か文句でも?」

「ううん。雲雀の足を引っ張らなければ、何の文句もないよ」

「じゃあ、御主人様、いくらでも文句を言って良いぞ。

 すでに引っ張られている」

「あぁん。やっぱり、オネーサマは、いけずですぅ~」


あー。

でも、月見里さんが成績優秀なワケは判った。

教会と言うより、まるで軍隊みたいな内容だ。

だとしたら、月見里さんの大半のミリタリー知識は、祖父の仕込みだろう。

趣味の。

ふぅ。ジーちゃん、何を教えてるんだよ?





「雲雀、寄宿舎の生活ってどう?面白い?つらい?」

「うーん。別に辛いとは感じてないなぁ。

 色々と五月蝿いとは、昨日から感じるようになったけどね」

「何で昨日?」

「だって、ほら、色々としちゃ駄目ってさぁ。

 昨日までは、そんな事、気にならなかったんだけどね~。

 心境の変化だよ、御主人様?」

「ふーん。そんなもんか……」

「って、感動薄いなぁ!

 御主人様が、心境の変化を促したのに!」

「何で、僕?」

「だって、一生、私の面倒をみてくれるって、昨日……」ふふ

「どこをどう脳内翻訳したら“一生こき使ってやる”が“面倒をみてあげる”になるのか、僕は知りたいよ」

「そこはそれ、仲睦ましい2人の関係から導き出された、簡素かつ明瞭な未来予想図って奴で」

「未来予想図ねぇ……」

「嫌なの?」おど

「う、ううん?全然。

 だから、今にも飛びかかって腕を極めようとするのは止めようよ」


「ふふ、誰かに必要と思われるのは、とても気持ち好い事だよ。御主人様?」

「ああ、うん……それは、そうだね」じっ

「う……、えと、マジ返ししないでよ。ちょ、調子狂うじゃない……」

「……」


「……」ぽ

「雲雀……」

「時雨……」


「僕には、雲雀が必要だよ……」

「……」じわ


「うわぁん、私も、話に参加させてくださいよぅ。暴れますよぅ!」

「あ、御免、御免。ちょっと感動のあまり、泣きそうになってた」

はじかれた様に動き出す僕と月見里さん。


「でも、さっきの言葉、あれ、私を選んでくれたんじゃないんだよね?」

「え?」

「女狐にも同じ様な事、言ってるの?」

「戸隠さんに?いや、言ってないよ。何で?」

「むぅ……。よし、リードしたと言う事にしておこう!!」



「うわあああぁん!!ホントに暴れますよぅ!!」

「五月蝿い」ぼぐぅ。

腹に一撃。

うわぁ、容赦ないなぁ。

それでも幸せそうなシスター・イルゼが、大物に見えてくるよ。





「じゃあ、ノンネ・イルゼ。

 寄宿舎生活で色々と五月蝿いという事について何か、ご意見は?」

「仕切るなですぅ!ブサメン!」

あう。

ていうか、この娘、一回も名前で呼んでくれないのな。

きっと、ブサメンで名称登録決定済みだな、これは。


「ノンネ・イルゼは、規則が厳しいとか、五月蝿いとか思ったことは?」

月見里さんが問い返す。


「五月蝿いと思った事はないですぅ。

 代りに壁が薄いとは、いつも思っているですぅ」

「は?」


「あー。確かにね」と月見里さん。

「お風呂やトイレが共同だから、オネーサマとイチャイチャが難しいし、ベットのスプリングが、結構うるさい音出すんで、消灯時間過ぎてから、寝込みを襲うと、隣にまで聞こえるんですぅ!

 それに、隣部屋からローター音やスプリング音が聞こえてきた日には、もう、切なさが炸裂するですぅ」

「何で、そんな具体的なのさ」

「あー。以前からな……

 その、隣から、聞こえて来るんだ、その、えと、声やら音やら……

 精神衛生上、あまり好ましくない……な」

むう。

何て素敵な。

「あまりにも切なさが炸裂してしまったので、一度オネーサマを襲ってみたデス。

 あの時の、掌底は未だに忘れられませぇん」うっとり

「うわ。あの掌底喰らったんだ。

 あれは結構来るよね。

 意識を天国に持ってかれそうだよ」しみじみ

「ちょ、御主人様までっ」

「む。ブサメンのくせに、オネーサマの掌底を受けていたんですね?」むか

顔は関係ないでしょう?



「そういえば、雲雀、あの掌底とか、踵落しって誰に習ったの?」

「あー。昔、とある人に……

 えと、その、氷雨(ひさめ)さんに……」

氷雨(ひさめ)

 あれぇ……どっかで聞いたことあるなぁ……?

 誰だっけ……」

「そうか、判らないのか……」ぼそ

「……」

「でも、しょうがないのかもね……」


はぁ

「御主人様、御主人様」

「なに?」

びしっ

額にチョップされました。

「え?えと……な、何を雲雀さん?」

びしっ

びしっ

「お祖母様の名前ぐらい、覚えておきなさい」

「ひゃ、ひゃいぃ」

もひとつ、びしっ





額の痛みが引くのを待ってから、僕はシスター・イルゼに質問する。

「ね。ノンネ・イルゼから見て、雲雀ってどう?」

「何が、どぉゆぅ事ですぅ?」

「うん。学校での生活態度とか、寄宿舎の生活とか」

「ちょ、御主人様!それはっ!」

「いや、だって、もう半年以上、僕は雲雀と離れていたんだよ?

 知りたいと思うのは仕方ないじゃん」

「ま、前は、そんな事、絶対に思わなかったくせに!」

「そうだね。

 でも、日常ってのは、簡単に壊れるから。

 あの時に、思い知ったよ……」

「時雨……」ぽ

「むぅー。

 さっきから2人して世界を作るなですぅ!

 もいっかい暴れますよぅ」

怒るイルゼさん。

「ああ、御免。ノンネ・イルゼ」

「オネーサマが謝る必要はありませぇん。

 悪いのはこいつですぅ。

 ふふ、ブサメン。聞くがいいですわ!

 私とオネ−サマの愛の巣での営みを!」

この学園の案内に始まり、一日の生活などを語るシスター・イルゼ。





どうも、思っていたより凄い学園生活のようだ。

正確には、まだ月見里さん達はシスターではないらしい。

修業中の身で、2年間の修業の後に、正式なシスター見習いになるらしい。

更に、そのシスター見習いから2年後、やっと誓願を立ててシスターになる事ができるという。


その為に、今の段階で、シスター修業があるらしく、起床は朝6時だとか。

その時間帯に、寮のホールに集まって、朝の祈りを行うらしい。


「へぇ。何とも凄いね。

 雲雀っていつも7時まで寝ていたんじゃなかったっけ?

 辛くない?」

「え?そうなんですか?オネーサマ」

「え?いやー、まぁ、そ、そんな事もあったかなー。ははは」

少し焦っている月見里さん。


ん?


もしかして、この教団内では、品行方正で通しているのかな?

もうシスター・イルゼには、化けの皮が剥がれまくってるような気がするけど……。



「そういえば、雲雀は、朝早く出かけるんだっけ?

 さっき、ノンネ・イルゼが言ってた話だと……」

僕と月見里さんの関係は、どつき漫才みたいな感じだけど、ココでは優等生だって言ってたしなぁ。


「そうですぅ。オネーサマは、自己鍛錬も欠かさないですぅ」

「そうなのっ?」

「んー。

 自己鍛錬というか、これ以上太らない様にする為のダイエットというか……。

 朝、シャワーは使えるから、少し走って、基本動作を軽くするだけだよ」

「あ、もしかして、中学時代もそんな感じだった?

 もしかして、2度寝していたとか」

「あはは、実は……」

「それで、人を目覚まし代わりに使っていたんだ……

 1回目は自前で、2回目は僕のコールでかー」

「ふふん。

 今はお前が起こす代わりに、私が起こされているですぅ!

 うらやましいか。ブサメン!」えへん

「いや、そこは、頼むから自分で起きてくれ。

 毎朝、何であんなに苦労しないといけないんだ?」



何気に僕の周りの人間って武闘派が多いなぁ。

新田は昔、空手をやっていたらしいし、武居は、空手と抜刀術だ。

戸隠さんの不思議体術に、実は月見里さんもか。

うわ、交友関係全員だ。






「朝の祈りが終わると黙祷ですぅ。

 7時からは、自由時間で、これには食事も含まれるんですぅ」

「食事は、各自で用意するの?」

「うぅん。朝は、食堂に食べに行くですぅ」

「そうなんだ」


「ううう」


「どうしたの?雲雀」「オネーサマ?」


「もうパンは嫌、牛乳も嫌、スープ、フレークも、ジャガイモも飽きたっ!

 朝食は、御飯が好い、赤だしが好い、うううう、食べたい食べたいよぉ~」じたばた

「赤だし?何ですか……それは?

 でも、オネーサマが望むなら、例え、火の中、水の中、探してきますぅ。

 全てをオネーサマの責め苦だと思えば、ほら、気も狂う程の快楽に!!」

いやいや、そこまでしなくても。


「あ、明後日、食べさしてあげるから……

 ほら、じたばたしない」

「ううう。

 絶対だぞ、八丁味噌だぞ。

 その他の豆、米、麦、白、赤は認めないぞ」

「はいはい。贅沢だねぇ」


月見里さんの言っている赤だしというのは、この地方独特の、大豆を熟成させた味噌を使った味噌汁だ。

東海圏以外の赤出汁と違って、色が黒に近い。

この地方の人々は、この大豆を使った赤味噌を非常に好んでおり、朝の味噌汁は、これ以外は許さん!という狂気じみた思考回路を持っている人物が多い。


祖父も、月見里さんも、こんな感じで、僕が引っ越して来てから、朝はずっと同じ八丁味噌の味噌汁だ。

味が濃いから、その他の味噌を受け付けなくなるのだろうか?

だとしたら、残念だ。

味噌は地方色が強いから、色々な所の味噌を味わうのも面白いのに……。

合わせや麦も、おいしいのになぁ。




「質素なんて、クソ喰らえだ。赤だしが飲みたいぃ!」

「こんな、オネーサマ初めて見ますぅ。ワイルドで素敵……」ぽっ

きっと、この娘の目はふし穴だ。


食事は、ドイツ料理がメインとなっているようで、ジャガイモが主体の物が多いようだ。

和食が好きな月見里さんには、つらいかもね。

肉も駄目なんだっけ?


「特に金曜日は、質素なんだ。

 基本的にイエスが死んだ曜日だからとかって話だから!

 あの貼り付けマン、あんなになっても私を苦しめる!」

「いやいや、それは、言い過ぎでは?

 一応そっち関係の教団なんだし……」

何で、僕がフォローしないといけないんだ?


「でも、金曜日は質素なんだ……」

「そうですぅ。キリスト教とは、関係ない宗派なのにぃ」

「だから、御主人様っ!

 明日の夜は、肉!焼肉が好い!!

 絶対だ!」

「え?あ、うん……」

「何の話ですぅ?」

「あ、いや、明後日から、ゴールデンウィークだから、一旦帰るのよ」

「ええと、確か、そういった風習があるんでしたっけ?ココには……」

ちょっと悩むシスター・イルゼ。

ああ、確かに、外国人のシスター・イルゼには、馴染みのない風習だもんなぁ。



「1週間ほど、寮から離れている予定だ」

「うう、寂しくなるですぅ」

「いや、2週間前に戻るだけだろう?」

「もう、オネーサマのいない寮なんて考えられませぇん!

 私に一人寝の寂しさを教えたくせにぃ、オネーサマは、残酷ですぅ」

「いや、それはっ、ちがっ」

仲いいなぁ。

そろそろ、僕、妬いてもいいよね?

拳銃持って月見里さん家に押し入って、イルゼと仲良くしてたくせにぃっ!きーって、やっても……。

ああ、ブサメンじゃ駄目だ。

鏡見て、妄想するべきだった……。

はふぅ。





「学校の授業も、きついですぅ」

「そーなの?」

「うーん。必須が多すぎるんだよねー」

「カリキュラム次第ですけどぉ、高校の卒業資格を取ろうとすると、通常は6時まで授業ですぅ」

「ええっ」

「すぐ後に、夕飯だよ」

「10時には消灯ですぅ」

「何というか、ストレス溜まりそうだね……」


「たまりまくりだぁ」

「そんな事ないですぅ」

2人して別の意見。

雲雀を見る。

「今までは何ともなかったんだけど、昨日からきつくてきつくてね」

イルゼさんは

「オネーサマが横にいるんですよ?」

ああ、言わずもがな。





―――リーンゴーン




どこからか、鐘の音が聞こえてくる。


「あ、そろそろ、帰らないと……」

「えー?もう?御主人様……」

「早く帰るが良いですぅ!

 私はこのまま、オネーサマと礼拝堂でしっぽりとして行くですぅ」


「祖父が出かけてはいるけど、食事の用意だけは、しとこうかなと思って」

秋霖(しゅうりん)さん出かけてるんだ?

 相変わらず忙しそうだね。

 しょうがない!門まで送って行こう」

「オネーサマの、お勤めで疲れた身体と心を、私の愛撫ですっきりリフレッシュ!ですぅ」


「いや、そこまでは……」

「私が一緒にいたいの!!判れ!」

「何なら、秘蔵のアロマキャンドルも使うデス。

 どんな堅物でも一気にメロメロ、素敵な時間にぃ、ゴアンナ~イ」


「そっか、じゃあ、門まで送ってくれる?」

「うん……」

「うわぁ~~~~ん。

 無視するなですぅ!」





結局、僕と月見里さんは、シスター・イルゼを置いて礼拝堂を後にした。

シスター・イルゼは外を出歩いていると、サボリがばれるからだ。

なんでも、今日はアノ日で、一日中、寮で休んでいるという事になっているらしい。

「あの娘は……とに、もぉ」

「楽しそうで、良かったよ」

「?」

「本当はね、ココに来るまで気が気でなかったんだ」

「え?」

「もしかしたら、昨日の火事で死んじゃったんじゃないか、ココに来ても帰って来ていないとか、言われるんじゃないかって……」

「ヤシロ……」

「雲雀が無事でよかった。

 元気になってくれたみたいで、良かった。

 僕は、結局、何もできてないけど、それでも、雲雀と前みたいに話が出来るようになって、嬉しいよ……」


「時雨っ」がばぁ

「わっ」

急に月見里さんが抱きついてくる。

「ど、どうしたの?」

やっぱり、まだ情緒不安定っぽい感じだけど……。


「ごめん、ごめんね?

 ヤシロ。私が馬鹿なばっかりに……」

う、もしかして、成績優秀って所を疑いすぎたか?


「ヤシロが心配してくれていた事、知ってるよ。

 でも、あの時は……

 怖くて、ヤシロに知られたくなくて、どうしようもなくて……」

あの時?


「御免ね……せっかく告白してくれたのに、振っちゃうような馬鹿で……」

ああ、あの時の……まだ、気にしてるのか……。

いや、違うか?

12月から昨日までの一連の事か?



出来れば応えたい、その想いに。

でも……。


「雲雀、あのね?僕はもう、別に今までの事は何とも思ってないというか、雲雀とこうして話せるだけで、感無量というか……」

「違う、違うの……私は馬鹿だから、もう、何も上げられる物は残ってなくて……!」

「?」

「それどころか、いつか、絶対、比べちゃうようになる!

 それが、一番、嫌だ!自分が許せないの!

 好きな人と、どうでもいい様な奴を、比べるのが!!

 自分が醜くて、醜くて……!!」

比べる?何を?

ジーちゃんボイスで「ナニを」という返事が脳内で返ってきたが、とりあえず無視。

想像でも祖父は、しもい事しか言わないなぁ、ほんとに。


雲雀は、告白を続ける。

まるで、懺悔みたいに。

「大好きなの!大好きなのに、こんな事ばかり考える自分が嫌で!」


「一緒にいたい!ずっと一緒にいたいよっ!!でもっ!」




どうしよう、何といってやれば……。


多分、不安なんだ。

こんな時、どうやって声をかけてあげればいい?

どうすれば……。


いや、シスター・イルゼの前で誓ったじゃないか。

もう、2度と……!!




「僕も、雲雀が大好きだよ」

雲雀の腰を、ギュッと抱き寄せる。


「だから」

力を込める。


「比べればいい……!!

 ぼ、僕が常に勝ち続けるから!」


「え?」

「どこでも、誰とでも、比べて見られても、ぼ、僕が常に勝つ。

 雲雀の事で、僕が負けるワケにはいかない!」


更に、ぎゅうううっと腰に回した腕に力を込める。

「時雨……」

「だ、だから、安心して。

 どんな奴と、何を、比較しても、僕が負けるわけないんだから……」

「……」


雲雀は、首に手を回しギュッと僕を抱きしめ、

「うん。ありがと」

と耳元で囁いた。






僕と、月見里さんは、しばらく抱き合った後、身体を離す。

ちょっと名残惜しいけど、いつまでも抱き合ってると、教団の人に見つかるかもしれない。


「明日、楽しみにしてるからね?絶対来てね?」


月見里さんに、別れを述べる。

門まで一緒にいったら、今度は僕が別れが辛くなる。


「うん。行くよ、ヤシロ……」

「じゃ、雲雀。ココでお別れ」


「だから……」

「ん?」


「だから……」

「?」


「絶ぇっ対!!焼肉、用意しといてよね!!」


ああ、最後は食い気か……。

でも、まぁ、こっちの方が僕等らしいか。


「判ったよ!楽しみにしていてね!」

ドタドタと走って礼拝堂から離れていく。

うう、もう少し痩せていれば、少しは様になっていたかもしれない……。




門の所にいた守衛さんに挨拶して、帰路につく。

泥でぬかるんだ山道を、必死にペダルを踏みしめ、バランスを保ち、屋敷へ。





結局、会えた嬉しさと安堵から、僕は当初の目的である、焼死体の事をすっかり忘れてしまっていた。

更に、この後に起こる、僕の人生観を180°変えてしまうような出来事によって、焼死体の事を思い出すのは、明日になってしまう。



「ただいまー」

誰もいない屋敷へと帰りつく。


ただ、広いだけの屋敷。


それが嫌で、中学生の頃は、離れで寝泊りしていた。

でも、月見里さんとの事をきっかけに、1人で頑張ろうと思った。

離れから、本宅に寝室を変えたのは、高校入学を機に、今までの自分から生まれ変わる為の、儀式みたいなものだ。


車庫の隅に自転車を置く。

戸隠さんのジムニーがない事を確認する。


離れの玄関の鍵を明け、中へ。






そうだ。

着替えるより先に、漫画をしまって、新しいのを選別しておかないと。

戸隠さんに、少女漫画を読ませて、乙女チックな心意気を学んでもらおう!!


少女漫画は、面白い物、読み応えのある物が多い。


が、しかし……心根が漢じみた戸隠さんには、物足りなく、つまらないと思うかもしれない。

下手に少女漫画に対して、苦手意識や、忌避反応を持たせるわけにはいかない。


今日の分と、明日の分。

内蔵の少女漫画は、古いものが多く、その分、傑作ぞろいだが、少女漫画の入門としてのハードル、難易度は高い。

明日向きだ。

初心者にはお勧めできない。


今日の分の少女漫画は、父親の書斎だ。

そこで、難易度の低いものを、今日の夜、貸し出す。

そこで、忌避反応を無くして置いて、明日の本命だ!!


くっくっくっ

見てろぉ。

乙女の浪漫を、喰らいまくるが良い!!





そして、僕は、内蔵の扉を開ける。

古くなった紙の臭いが鼻孔をくすぐる。




奥には、開かずの扉。

昔は、外に繋がっていたらしいが、現在では壁と一体化して、只のオブジェと化している。




僕は、昨日、貸した漫画を片付け、明日、戸隠さんに貸す漫画を物色する。






そして、運命の輪は回り始めた。


この日、ヴラドと出逢った事をきっかけとして、僕は人としての道を、大きく踏み外す事になる。



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