開幕カウントダウン-知恵の実の現在-
傘を取りに戻ったら、大事件。
戸隠さん家で、身元不明の焼死体!!
しかも、偽装事故だってばれてるじゃん!!
しかし、身元不明の焼死体だって……?
ガス爆発は五十鈴さんがやった事だ。
じゃあ、焼死体ってのは何だ?
五十鈴さんに連絡を取って……は無理か。
そもそも、メアドも電話番号すら知らない
じゃあ、戸隠さんの携帯に……。
電話する。
何回もコールした後に、
―――おかけになった電話番g……
くそっ。
メールを出そうか……いや、着信履歴を見れば、向こうから連絡をしてくるだろうから、今はいいや。
どうする?
何か、嫌な感じだ。
まさかとは思うが月見里さんの身に何か起こったんじゃ?
そうだ。月見里さんと連絡をしよう。
昔の携帯番号で通じるかなぁ?
電話する。
何回もコールした後に、
―――おかけになった電話番g……
あうう。
メールを打つ。
ドネルケバブの屋台に近づいていく。
高校生の女の子達が、僕を見てギョッとしている。
あー。まぁ、そうだよね。
構うもんか。
「あー、すいません。傘、忘れちゃって」
「オー!1号さん!」
「1号?」
「お客さん1号ネー!」
「あ、ああ。そういう……」
―――そ、そろそろ行こっか?
―――うん。そーだねー。
「おじさん、ちょっと質問なんだけど、良いかな?」
「いいヨー?
“そのまま”で良いかい?
チャイは、まけとくヨー」
「ぐ……。じゃあ、それで」
しっかりしてやがる。
「“そのまま”は100円安いネ!
お買得。私の情報も、お買得!」
「さっきのガス爆発についての噂、どっから?」
「企業秘密ネー」
聞いた情報は、先程、女子高生に言っていた事と変わらなかった。
ガス爆発にしてはおかしい点がある。
都市ガスは通ってないので、プロパンガスだとしても、爆発場所がおかしい。
又、プロパンガスにしては、発生した火災、爆発範囲が小規模である事。
現場には、身元不明の焼死体が1人。
が、発生した規模の火災から考えると、焼死体の火傷跡が酷すぎる。
警察は、これを行方不明中の戸隠さおりさんと見ている。
これだけだ。
店主の推論は、何かの偽装工作、しかも、警察が取り込まれている。
との事。
あながち、間違っていないのが怖い。
五十鈴さんの工作は大丈夫なのか?
いや、
まさか、五十鈴さんが、月見里さんを……。
もしかしたら、戸隠さんを……。
嫌な想像が駆け巡る。
早く連絡を取りたい。
2人とも……!
ん?いや、ちょっと待て。
僕は、そうとう、気が動転してたんだな……。
ガス爆発があった時、戸隠さんは、僕の家に居た。
と言う事は、可能性として、月見里さん……。
そうだ!
ニューエルサレム教団の人に聞けば、何か判るかもしれない。
きょろきょろと辺りを見回すが、いつものビラ配りは居ない。
雨天決行じゃないのか……。
3つ目のドネルケバブは、さすがにきつかった。
もう腹がいっぱい。
うぇっぷ。
胸焼けがする。
どうしようか。
結局、やる事なんて決まってた。
場所は判ってるんだ。
じゃあ、会いに行けば良い!
電車を下りて、自転車に乗る。
運の良い事に、朝から降っていた雨は止んだ。
僕は、増水した川の土手沿いを、自転車で走る。
20分かけて、家前まで戻ると、そのまま、裏山へ。
しばらく進むと、ぬかるんだ泥道になる。
昨日、通った道を逆に走り、分かれ道へとでる。
昨日とは別方向の道へと、自転車を向け、泥に車輪をめり込ませながら、ひたすらペダルをこぐ。
山1つをこえて、しばらくすると、お隣さんが見えてくる。
アニメとかで良くある、尖がった屋根に十字架のついた建物を思い浮かべてたんだけど……。
全然違いました。
ぬかるんだ山道は、教団の敷地の裏側を通っているみたいで、表側にはキチンと舗装された道が、街の方へと続いている様だ。
僕は、山道から舗装道に出ると、教団施設へと向かう。
でけぇ。
むちゃくちゃ、でけぇ。
舗装道の突き当たりに門がある。
僕は、山の中に、教団の施設があると思っていたんだけど、そうじゃなかった。
山1つが、教団の施設だった。
門には、守衛所と案内板があり、敷地内の施設が簡単な説明と共に書かれている。
主な建築物は、大聖堂、3つの礼拝堂、男女別に別けられた学校と寄宿舎で、その他にも花壇とか、テニスコートみたいな広場、駐車場などがある。
何だ?
教団っていうより、全寮制ミッション系スクールと言えば良いのか?
いや、幾つかの親父のエロゲコレクションにあったぞ。
こういったの。
そっくりだ。
乙女は僕を愛してる、とか、花と乙女に幸福を、愛する乙女と守護の楯みたいな……。
ん?
るいは伴を呼ぶ、C×C-僕が女王-とか、女装山岳とか、GACE作品は全部あったな……。
そうか、親父、男の娘好きだったのか……。
いや、いやいや、たまたまだろう。
割合的には、そんなに多いわけではないし。
そもそも、作品としても面白かったし、内容だろう。きっと。
目の前の、教団、系列としてはカソリックなんだろうか?
それともプロテスタント系かな?
全くの新興宗教の可能性も高いなぁ……。
もう少し、キリスト教関係の本を読んでおけば良かったな。
カソリックとプロテスタントの違いすら、殆ど判んないや。
あー。でも、教義の内容からすると、新興宗教だろうな。
新興宗教って言うと、良いイメージ無いよなぁ。
ただでさえ、キリスト教って聞くと、僕は、悪いイメージしか浮かばないのに。
まぁ、いいか。
宗教的なタブーとかは気にしないで良いかな?
別に、学生服で行っても問題無いよね?
門につくと、守衛さんが近づいてくる。
「何か、御用でしょうか?」
「あ、あの……」
さて、どうしようか。
実は何も考えてこなかったぞ。
えーと。
僕の存在がばれたらまずいんだっけか?
いや、違うな。
携帯を拾ったのが……だ。
昨日の事件では、月見里さんに情報提供者がいる事は、知られても大丈夫だったはず。
「じ、実は僕、昨日、偶然、ココに居る幼馴染みと出会って、ちょっと話をしたんですけど……」
「幼馴染み?
名前はなんていうんだい?」
「月見里、雲雀さんです」
「ああ、あの子か」
知っているらしい。
なら話は早い。
「あの、彼女と話がしたくて、来たんです」
「話?アポはあるかい?」
「ええっ?」
しまった。
むう。
「電話連絡をしたかったんですが、彼女の携帯と繋がらないんです」
「ああ、それは仕方ない。
そういった物は、原則持ち込み禁止になっているからね」
「ええっ?」
「一旦、学園を通して連絡という手段を取ってもらう事になってるんだよ」
「そうなんですか」
困ったぞ。
「呼び出してもらう……という事は可能でしょうか?」
「ふむぅ。言伝でよければ、私が承ろうか?」
んんんむ。
「あ、いえ、昨日の事で少し話がありまして……」
「昨日の事?」じっ
ん?話に喰い付いて来た?
守衛は、少し目付きが鋭くなっている様だし、何とかコレで吊ってみるか?
「は、はい。プライベートな事なので、彼女に直接……」
「ふむ……」
守衛さんは、少し思案すると
「そこで、少し待っていなさい。
中と連絡を取ってみるから」
と奥に入っていく。
よし!
内心、ガッツポーズです。
後は、話の判る人が上にいてくれるのを、祈るだけ……。
まぁ、これで駄目だったら、柵を越えて進入するしかなくなるなぁ。
でも、そんな想いも杞憂に終わった。
しばらくすると、中から人が来る。
司祭風のゆったりとした、黒いローブみたいな服を着ている。
頭は河童みたいな感じ。
日本人ではないようだ。
精悍な顔つきの人物で、なんとなく雰囲気から、ドイツ人ではないかと思う。
うわぁ。会話が独語だったらどうしよう?
ケバブ屋のおっちゃんみたいな変な日本語でも良いから、日本語で会話できますように!
「ようこそ。ニューエルサレム教団へ」
黒ローブの河童は、流暢な日本語で、僕に話しかけてきた。
拍子抜けするほどに。
「あ、ど、どうも。こんにちは」
「私は、副助祭のアルトゥールと言います」
「これは、ご丁寧に。ぼ、僕は八代時雨と言います」
「シスター・ヒバリは昨日、初のお勤めに出ましてね」
「……」
「その穢れを落す為に、今日は身を清めています」
穢れとか、身を清めるって……日本風な発想だな。
キリスト教でもあるのか?
あ、でも新興宗教だしな。良いとこどりかも……。
どーなんだろ。
「えーっと、身を清めるっていうのは……?」
「はい。そうですね……。
どこからお話しましょうか?
現在、彼女が居る場所が、大聖堂でしてね。
道すがら、退屈凌ぎにでもなれば良いのですが……」
山を見上げる。
いくつもの大きな建築物が見えるが、山の頂上辺りから、天に届けとばかりに、2本の尖塔と、その間に挟まれたドーム状の屋根が見える。
「あれが、大聖堂ですか?」
「はい」
来た時みたいに、車で送ってくれれば良いのに……。
僕と副助祭さんは、歩いて向かう事になった。
「失礼ですが、時雨さんは、キリスト教をどう思いますか?」
「あ、はい、別になんとも……」
嫌いです、とは言えない。
自己主張のできない日本人の典型です。うう。
「キリスト教というのはですね……
知っているかと思いますが、コダヤ教より発展した一神教です」
「はぁ」
「キリストが生まれた年をAD元年として、それ以前をBC、ビフォーキリストと言い表すように、今から2000年ぐらい前に生まれた人間の下に集った人達が広めた宗教です」
「……」
「先程、身を清める、と言う事について質問していましたよね?」
「はい」
「キリスト教において、身を清めるという行為は、穢れに触れた事を意味します」
「あ、そうですね」
「では、穢れとは、何だと思います?」
「?」
「コダヤ教の原典でもある旧訳聖書だと、まぁ、色々と書かれています。
肉食動物や豚は食うな、穢れてるから。
女は穢れてる、生理中に至っては伝染するぞ、とか。
中々、壮絶ですよ?」
「は、はぁ」
貴方の、その砕けた言い方も壮絶です。
「旧訳聖書という物は徹頭徹尾、男尊女卑が貫かれた……
まぁ、時代遅れの狂人の書です」
えっと、なんか今、凄いこと言ったな……。
「そんなのを教典にしているコダヤ教やイスラームが、男女平等という思想に至るわけがないんです。
この時点で、時代遅れの狂人と一緒に踊るだけの、無価値で低俗な宗教に成り下がってしまっているんですよ」
うわぁ。
「で、キリスト教の教典である神約聖書で、旧訳聖書を否定しまくるワケです。
そりゃ、ちゃうねんでー……と」
何で大阪弁?
「さすが、キリストです。
良い事言います。でも……」
「?」
「時雨君、神約聖書、呼んだ事ありますか?」
「あ、いえ、恥ずかしながら……」
「そうですか。シスター・ヒバリから、貴方は乱読家だと、伺っていたものですから……」
「え?」
「小説に限らず、エッセイ、ビジネス、ルポ、歴史や学術書、写真集、持ってないゲームの攻略本まで読むそうですね?」
「あ、はい。友達が少ないので……」
うわーん。いーじゃないか、別に。
「では、一度、読んで見て下さい。
読みやすく面白い物ですよ」
「は、はぁ」
「その、読みやすいはずの神約聖書なんですが……
今の時代、解釈が必要なんですよ」
「解釈?」
「現代文の授業を思い出してみて下さい。
この文章で主人公は~~とか、この“それ”は何を指しているのか?とか」
「ああ!はい」
「それ以上に難解な解釈が必要で、それぞれの宗派で言ってる事が違うんですよ。
普通に読めば“説教臭いけど、面白かった”ですむ話が……です」
「はぁ」
「要は、神約聖書ですら、時代遅れのカビの生えた教典になってしまっているんですよ」
あー、そういう立ち位置の宗教なワケね。
こりゃ、確実にキリスト教じゃなくて、新興宗教だなぁ。
話は、副助祭さんの一方的な他宗教批判だったが、色々と相違点を話しながらだったので面白い。
正直、山の頂上付近まで歩いて来てるのを、失念するぐらいだった。
「あー、見えてきましたね。この坂の上が大聖堂です。
一般的にはカテドラルと言いますが、ココでは、ミュンスターと言っていますね」
「大きいですね」
「ええ、大聖堂は高さ137m、縦幅180m、横幅90mです。
とはいっても、大聖堂以外の設備も入っているので、本来の用途で言うと、大聖堂というのは、少し語弊がありますが……」
「御幣?」
「ええ、本来なら、入り口から入ってすぐに聖堂……
そうですね、礼拝施設、と言えば判りますか?」
「腰を屈めて、神に祈る……って所ですか?」
「ええ、それです。本来なら、その聖堂になるんですが、中にはロビーがあったりしますからね。
実際、大聖堂というのもおこがましいくらいですよ。
どこかの会社のビルみたいな感じです」
この人、大丈夫か?
自分の宗派を貶してどーするんだ?
「あはは、大聖堂本来の用途、礼拝施設はですね、ココより下に3箇所ほど用意してあります」
「はぁ」
「大聖堂は……
そうですね、大掛かりな式典用に用意された建物なんですよ。
だから、見栄え重視で荘厳になっているんです」
荘厳というより、成金趣味で金かかってんなーというのが正直な感想だ。
上から見ると「中」みたいな造りなんじゃないかな?
鉛筆みたいに先端が尖った、えーと、ゴシック様式っていうんだっけ?
そんな感じで創られた建物だ。
だけど、「中」の字の中央、上部の十字路の部分だけが、ドーム状になっている。
入り口に当たる「中」の字の下部は、2本の尖塔が両脇にあり、中央をアーチ状に色鮮やかなステンドグラスが飾っている。
僕と副助祭さんは、大聖堂へと坂を上って行く。
「時雨さんは、原罪って何だと思います?」
「現在?」
「いえ、原罪です。
人の祖であるアダムとイブが犯した罪です」
「ああ。あれですか……」
知恵をつけたからに決まってるじゃないですか。
ただの道具が、自我を持ったら、そりゃ五月蝿くて敵わない。
でも、そんな事言わない。
「神様の言いつけを守らずに、林檎を食べた事、即ち、約束を破った事では?」
自己主張のできない日本人の典型ですから。
「あはは、もっとズケズケと言って良いんですよ。時雨さん?」
「え?」
「原罪とは何か?
実はですね、この問いに答えようとすると、戦争がおきます。
各宗派で意見が食い違うんですよ。
とある宗派なんて、定義づけするとヤバイから、定義しない事にしちゃってますし……」
「そうなんですか?」
「そうなんです。
そもそも、おかしいと思いませんか?
“罪を憎んで、人を憎まず”って聞いた事ありますよね?
犯した罪と咎人を別けて考えよう、という自戒の言葉ですが、この場合でも、犯した罪によって罰を受けるのは、咎人ただ1人です」
「はぁ」
「どんなに酷い犯罪者でも、その人の息子だから同罪だとか、両親だから同罪だって思考法は、馬鹿馬鹿しいと思いませんか?」
「そりゃ、そうですね。
でも、江戸時代とかで、法律でそうなっているんだったら別かもしれませんが……」
「それです」
「え」
「それを、キリストも神も言うんです。
人類の祖先が、喰っちゃいけねーもん喰ったから、お前ら、未来永劫、咎人だって。
親兄弟親類縁者、一族郎党、子や孫どころか、関係ない人種にも、1000年たっても、2000年たっても、許さん。断じて許さん!
許して欲しけりゃ、未来永劫、神に従えって。
隣人を愛せという、その裏でコレですからね。
できれば、咎人はアダムとイブだけにして欲しいものです」
「あははは」
「こりゃ、ひでぇ!何処まで怒ってんだよ?ってなりますよね」
「ああ、それで、あの教義に繋がるんですね?」
「ええ、ヨハネの黙示録は終わり、我々は原罪より解き放たれ、神はただただ、愛を説く。
我らが永世教皇アドルフは、神の代理人として、人々を幸せにする権利を持ち、神が祝福した大地に住まう全ての人々は、幸せである義務を負う」
そこで、副助祭さんは一呼吸おく。
「さて、私の案内は、ココまでのようです」
「?」
「本来なら、大聖堂の中まで、案内して差し上げようと思ったんですが……」
「どうかしたんですか?」
「ええ、待ち切れなかったようですね」
―――シーロォー
「ん?」
誰か、呼んだ?
坂の上のほうから
「ヤーシーロォー」
と声がする。
月見里さんの声だ。
僕は、上を見る。
坂の上から、月見里さんが走ってくる。
「正直ね、彼女に笑顔を取り戻した貴方には嫉妬を覚えますよ。
シスター・ヒバリは、神に愛された百年に1人の逸材です」
「は?」
「ふふ、そうですよね。
そう思いますよね?」
「昨日までのシスター・ヒバリは、凛としたナイフの刃みたいな雰囲気だったんです」
「はぁ」
「それが、お勤めから帰ってきたら、まるで、恋する乙女そのもので……」
副助祭さんは、僕をジッと見る。
「何があったのか、一度、暇な時にでもお話ください。八代時雨君」
「は、はい」
何だろう、今、背筋が……。
あの目は、笑ってない。
まるで、僕を敵と認識したような……。
そうこうしているうちに、月見里さんは、もうすぐそこまで来ていた。
良かった。
マンションの焼死体は違ったんだ……。
シスターのコスプレをしている月見里さんは凄く走りづらそうで……。
それでも、裾を押さえ、はちきれんばかりの笑顔と胸で僕に向かって走ってくる。
「月見里さん、そのコスプレ、にあってr」
「コスプレじゃないっ!!」
ぶごわぁはっ
黄金の右腕が炸裂した。




