開幕カウントダウン-哀妻弁当-
「い、いお……り?」
ドギマギしながら、名前を言う。
「うん……」
戸隠さんは、最高の笑顔を向け、屈むと、僕の頬に口付けする。
「あ」
「と、取り合えず、親愛の情とやらを、示してみた……。
きょ、今日はこれで……」
「あ、うん」
口付けはお預けです。
ぐすん。
今日ほど、背が低いのを呪った事は無い。
「では、そ、そろそろ、帰る」
「……」
そのまま、戸隠さんは、漫画の入ったダンボール箱を、持ち上げようとする。
―――!!
「あ、ちょっと待って!
漫画は僕が運ぶから!
怪我人は無理しないで!」
「いいの……?」
「これぐらいなら、僕も手伝えるよ。
もっと頼ってくれると、うれしいよ」
戸隠さんの車まで、漫画を運ぶ。
ダンボールで2箱分だった。
「そういえば、明日の夜は来れそうなの?」
「ん……、判らない。が、来るつもり……」
「じゃあ、せめて、携帯に連絡するか、玄関でインターホン押してね?
勝手に書斎に入ったら、駄目だからね?」
「そうか。連絡しないと怒るのか……」
何か今、変な事考えてなかったか?
木曜日。
朝からどんよりとした天気だ。
僕は、いつもの倍以上の弁当を作っている。
自分の、武居の、新田の、そして、もしかしたら……の為に戸隠さん用。
あー。
やっぱり、伊織と呼び捨ては、嬉しいような、恥ずかしいような……。
戸隠さん、だよなぁ。
そー言えば、武居達も、一茶、小悟郎と名前呼びだよなぁ。
少し羨ましい。
今日は、貸し出す漫画を持っていけない。
弁当が重いのもあるし、もし、戸隠さんが来ない場合、返却される漫画が溢れるからだ。
というか、まさか、全部、行き成り返却って無いだろうな。
いくらなんでも、昨日の量は無理だぞ。
出発しようとすると、玄関に人の気配がした。
ガラガラッ
勢いよく、玄関の扉を開け、誰かが入ってきたようだ。
ちなみに、今、僕が居る場所は、離れの台所。
離れの玄関からは、あがって真っ直ぐ、通路の行き止りに位置する。
ドタドタ
「たーでぇーまぁ。
時雨ぇー、ジーちゃんの朝飯は?」
離れの玄関から、台所へと陽気に入ってくた人物。
いかにも元気溌剌とした、黒の作務衣を着込んだ祖父の姿が、そこにあった。
作務衣の上からは、マントコートの様な、右腕のみ袖のついた肩掛けが、前後を覆うようにかけられている。
年齢はもう80を超えているはずなのだが、未だに40代にしか見えない。
なんという若作り。
髪の毛は流石に真っ白だが。
ここらへんが、ご近所さんに宇宙人といわれている所以だろう。
「時雨ぇー、朝飯ぃ……」
ジーちゃんは僕の顔を見るなり、再度、朝飯の事を言い出す。
はぁぁ。
「ないよ。
何時も連絡してくれって、言ってるじゃん」
「そんなぁぁぁぁ。
ジーちゃん、時雨ぇの、まったりとしていて、それでいてしつこくない、手料理を喰わんと死んでぇしまうぞ?」
「あー、はいはい」
御飯の代わり、何かあったかな?
全部、弁当に使っちゃったもんなぁ。
こんな事なら、昨日の内に菓子パンとかバナナぐらい買っておけば良かった。
「何処行ってたの、ジーちゃん?」
「うむ、実はなぁ、赤坂の料亭で美女とくんずほぐれつ、いちゃいちゃして来た」
腰を前後にピストン運動する。
手はキタキタおどりのような動きをしている。
「エロじじぃ。
せめて携帯ぐらい持って行ってくれると嬉しいんだけど」
「ひゅおっほっほっほ」
まぁ、ともあれ、下品だ。
シモい。
「昨日の残りは、ないんだよね。
お客さんが来て、土手煮はもうないし、残りも僕の弁当に使ったから。うーん」
「お客さん?」
ジーちゃんが食いつく。
「ほほーう、時雨ぇに、お客さん?
時雨に?
お客さん?
……時雨ぇに?」
「あー、もう。
月見里さんと、学校の友達!」
「んー?そうかぁ、嬢ちゃんが来たのか……」
「?」
何かひっかかる言いかt
―――そういえば、拳銃の事!!
「ジーty」
「おぉう、弁当がある!」
机の上を見たジーちゃんは、踊りながら弁当を取る。
あー、そういえば、戸隠さん用のが、余っていたな。
しかたない。
御免なさい、戸隠さん。
ジーちゃんにひもじい思いさせるわけにはいかないので、今日は勘弁してもらおう。
「あー、いいよ。
1つ持っていって。弁当」
「オー流石、我が孫だなっ!
ワシに似て、思いやりがぁ、あるッ」
「あーはいはい」
もう、こんな時間だ。
急いで、弁当を包むと、スポーツバックに突っ込む。
「あ、そうだ!ジーちゃん。
本宅の仏間が凄い事になってるけど、ワケは、帰ってきたら話すから!」
「そーなのかー」
「うん」
「あー。じゃが、すまんなぁ。
ワシ再度出撃するから、いないと思うぞぅ」
「ええー」しょんぼり
「今度は少し、遠い所だかんなぁ……。
早ければ夕方にぃは、戻れるんだけど、無理だぁろうなぁ。
そうだぁな、長ぁくて4日ぐらいは、かかるなぁ。
時雨ぇの手料理4日も食えんなんて、ワシ死にそう」
「そうなんだ……。うーん」
流石に今から、4日分の食事は無理だ。
缶詰でも持っていってもらうしか……
「なぁに、孫の手料理も喰えたので、大丈夫だぁろ。
よっしゃ!!
世界中の美女と、いちゃいちゃしてくるワイ!!」
「あーはいはい。気をつけてね」
「おう!」
「じゃ、僕は学校に行って来ます!」
「今度、嬢ちゃんを連れて、何処か遊びに行って来い!
時雨ぇも、たまには気晴らしをするんだな!」
「はいはーい」
ジーちゃんに挨拶をして、家を出る。
祖父は、かなり行動的な人間だ。
家を空ける事の方が多い。
できれば、携帯を持って、出かけて欲しいのだが、何故か持って行こうとしない。
ふぅ。
どんより曇った空は、今にも雨が降りそうだ。
傘を持って出かける事にした。
電車に揺られ、学校前の駅で降りる。
既に、雨が降り出していた。
ココからは、戸隠さんのマンションが良く見える。
10階建てという、この辺りでは、一際大きく、他を圧倒する建物だからだ。
その10階部分が、ガス爆発によって黒くなっている。
まるで、現実感が無い。
昨日、あの爆発が僕の家で企てられた計画だって事に。
悪い夢でも見ているのだろうか?
でも、夢だったら、月見里さんとの仲直りも、戸隠さんの告白も、無かった事になってしまう。
それは、嫌だ。
一昨日までの僕だったら、何かの間違いとか、ブサメンだから無理と思っていただろうけど。
昨日、月見里さんが、振ったけど、好きだって言ってくれたから……。
脅迫めいた関係が始まりで、何かの間違いかもしれないけど、それでも、戸隠さんが、僕を好きと言ってくれたから……。
2人と色々な話をしたい。
もっと仲良くなりたいし、一緒にいたい。
僕は、2人が大好きなんだ。
始業開始5分前。
教室につくと、武居がぶすっとしていた。
「おはよう、どうしたの?」
「よう。キチーフ」
「?」
「昨日はよくも、俺だけのけ者にしたなー」
「?」
「コゴローが言ってたぞ!
すげぇ面白い事やってたらしいな!?」
「え、えーと」
新田ぁー!!ぺらぺら喋り過ぎ!
「やぁ、おはよう!キチクン!」
元凶キター!
「新田ぁー!お前は、ぺらぺらと!」
「いやいや、一応、力を貸したんだから、当然でしょ?」
そりゃ、口止めはしてないし、手伝ってもらった以上は話すつもりだけど!!
でも、話すのは構わないにしても、僕にとっては、面白おかしい事じゃないんだよ!
「それで?三角関係が発覚して、どーなったんだよ」
ん?
「そこで、キチクンは言うのさ!
“物は壊れる、人は死ぬ。そういう事さ、ハニー”って」
あれ?
「当然、元恋人は、捨てられたくないから“そんな、もう、私達は終わりなの?”って。
そう聞くんだけど、キチクンは鬼畜だからねー……」
「すげぇドキワクな展開だな!」
え?いや、何それ?
「キチクンは、元恋人に“あきたんだよ。お前にも、お前に惚れてた自分にもな”って。
その後“使って欲しいなら股を開きな。奴隷の証を刻んでやるよ”って言って荒々しく印をつけるんだ」
はいぃ?
「さすが、キチーフだ!歩く不道徳!」武居、大興奮。
何か、違うくない?
「そんな時に戸隠さんが現れてね。
“私との契約を破棄するのか、時雨”って」
「燃える展開キター!」
「ええっと、そろそろ、殴っていい?新田?」
「いやいや、これからが良い所なのに、キチクン」
仕方なく、収拾つかなくなりそうな話を止めてくれました。
「で、真面目な話、終わったのか?」と武居。
「うん。おかげ様で。
詳しくは、次の休憩時間にでも話すよ」
「いや、いいよ。
聞きたくはあるが、かなりプライベートな事なんだろう?」
「うん。まぁ」
「じゃあ、笑い話になった頃に話してくれ」
「あー。それなら、現在進行形で笑い話」と新田
おい!
しかし、丁度そこで、朝の始業前、HRの時間となっていた。
担任の火元先生が来たので席につく。
先生は、僕をジロっと一瞥するけど、そのまま何も言わずに、連絡事項だけを言って教室を出た。
代りに、世界史の秋月先生が入ってくる。
セミショートのストレートヘアをした少し目付きの鋭い、やり手の女性といった感じの先生だ。
口調もハキハキとしていて、授業もユーモアを交えて教えるスタイルで、判り易い。
一つ難点があるとすれば、服装のセンスだろうか。
前を空けたトレンチコートに、おへそが見えそうな丈の短い服とミニスカ、黒の網目パンスト……。
毎回というわけではないが、時々、奇妙なセンスの服を着てくる。
今回なんかは、ラブホテル街に行くと凄く似合いそう。
前回はパンク1歩手前のボロボロのファッションだった。
似合っていたけど、下着が見えそうで見えないギリギリの際どいラインだった。
学校という閉鎖空間のドレスコード破壊を狙っているとしか思えない、奇抜な格好をする先生、それが秋月先生だ。
ちなみに、こんなんでも学年主任。
立場から考えると30代のはずだけど、未だ20代にしか見えない。
当然、男子からの人気の高い先生だ。
「八代―。お前、昨日早退して、駅前で遊んでたんじゃないだろーな?」
「ええ?してないですよ!?」
「お前のニュースで持ちきりだったぞ?」
「マンション爆破の犯人じゃないですってば!!」
あ
……。
「先生は、自販機の缶ジュース1本で時雨を信用するからなー?」
「ええっ、高っ!」
「さ、授業を始めるぞー」
こうして滞りなく、午前は終わり、昼食時にそれは起きた。
昼休憩のチャイムが鳴り、クラス内の生徒は三々五々、思い思いに動き始める。
ある者は、購買に食事を買いに。
ある者は先生の目を掻い潜り、御飯は大盛り、おかわり自由な定食を食いに校外へ脱出を試み。
ある者は適当に空いている席で、弁当を食べる。
武居が僕の前の席に座り、椅子だけ反転させる。
新田は、僕の隣の席だ。
僕の席は、窓際で、後ろから2番目だ。
この季節は、いつもなら、初夏の涼やかな風が入ってくるが、今年は、まだ少し肌寒い。
桜は日曜日辺りが、ピークだとか。
この時期までの遅咲きは珍しいだろう。
雨で、散らないで欲しいなぁ……。
新田が僕にスポーツバックを差し出してくる。
「キチクン。これ、戸隠さんからの預かり物ね」
ズシッと重い。
中身は、漫画の山だ。
「弁当箱とトレードって事で。洗って明日返すからさ」
「判った」
僕は、2人に約束の弁当を渡そうとスポーツバックを開く。
「ねー、いいんちょー。
一緒に御飯食べよー?」
新田が、髪の毛をお下げにした、如何にも、委員長な感じの眼鏡少女に声をかける。
彼女は、友人と向かい合わせに席をあわせて、食事を開始しようとしていたのだが、声をかけられると真っ赤になって、
「ええ、あ、えぅ……コゴロー君、わ、私は委員長じゃ……」
と返事をしている。
隣の友人らしき少女は、興味津々といった感じだ。
偽・委員長に、肘でつんつんとしている。
何となくだが、偽・委員長は新田に気があるんじゃないかな?と思わせるそぶりだ。
「あああ。来てくれないと、僕、悲しくて色々と話をして、気を惹こうとしちゃうよー?」
え?
「そう、あれは6年生、夏休みに入る前の事だっけー?」
「うあああああああ」
偽・委員長は涙を浮かべながら、走って来て新田の口を塞ぐ。
「こ、コゴロー君、そ、それは、あ、あの、い、言わないって約束で……」
それを無視して、新田は
「そっちのオマケの娘もどーお?
一緒に食べないー?」
「アタしゃ、オマケですかい」
苦笑いを浮かべながら、波打つような髪に、触覚が生えた髪型の女性が寄ってくる。
名前は知らない。
ウェービーヘアさんでいいや。
「武居、僕は鬼畜じゃないよね?
今、本当の鬼畜っぽい人を見たけど……」
「キチーフ、同病、相憐れむという諺を知っているか?」
む
「新田、君は鬼畜だが、僕はまっとうな人間だと思う」
「何言ってるんだい?
二股は鬼畜の所業だよー。キチクン」
ぐぐぐ
「実は、この前、委員長と話をしていてね。
そこで、委員長に質問されたんだ、キチクン?」
「ん?」
「い、いや、あ、あのその、それはっ!」
焦っている偽・委員長は、武居と話をしている時のような、凛とした態度が崩れ、あわあわしている。
武居は、彼女達2人が座れるスペースを作っている。
「はい、座って、座って。
広瀬もオマケじゃないからねー」
「うむ、苦しゅうない」と、ウェービーヘアさん。
どうやら、参加する気満々だ。
「委員長がね“へー。ヤクザ屋さんでも弁当作ってるんだ。どんなお弁当なんだろう?”ってね」
「ふぇぇ、ご、御免なさい!
だってクラスの人達、皆が八代くんの事、ヤクザの跡取りで若頭って呼んでいるもんだから……」
え?ヤクザ?若頭?
「そうそう、それで、アタイも思ったんや。
どれだけの男を垂らしこんだんだろうって」
男を垂らしこむ?
「それで、まぁ、キチクンの手料理を御馳走になりながら、キチクンの武勇伝でも僕が語ろうかと思ったんだよー」
やばい。何か今日の新田は飛ばしている。
武居を伺う。
何かいつものノリと違うだろ?とアイコンタクト。
「……」
目を瞑ってフルフル。
どういう事だ?
「ね?言った通りでしょ?」
新田が、女性2人と話をしている。
2人は「ほんとだー」とか「きゃああああっ」と黄色い悲鳴を上げている。
何だ?何が起きている?
こ、こんな時は話を変えよう。
「さ、あ、あの、とりあえず、弁当にしよう。弁当」
「そうだね。食べようか」
両手を差し出してくる新田。
「あー。約束どおり作っては来たけど、期待はするなよ」
新田と武居に弁当を渡す。
戸隠さん用の弁当以外は、中身は全て一緒だ。
ボリュームを第一にしてある。
ちなみに、新田と武居は、早弁して自分の菓子パンは食べてしまっている。
手を合わせる。
「では、頂きます」
「「「頂きます」」」
かぱっ
弁当の蓋を開ける。
運ぶ時に注意して持ってきたから、よってはいないはずだ。
御飯にそぼろ、昨日の残りの玉子焼きとサラダ+レタス。コロッケと肉団子。別容器にイチゴ。
うん。まぁまぁのデキだ。
あれ?
武居が固まっている。
「どうした?
何か変な物でも入ってた?」
「あ、いやー。これは……」
「さすが、キチクンだよ。手を抜かないね……」
「?」
なに?
なんなの?
女子2人は顔を赤くしている。
「「きゃあああああああっ」」
黄色い悲鳴。
抱き合う様に、凄い凄いと。
「へ?」
「あー、いや、うん。正直、お前を見直した。
ただ、付き合い方を、考え直した方が良い様な気がしてきた……」
「そうだね。本気度が違うね。
僕もココまでして、笑いを取りに来るとは思わなかったYO」
どうやら、原因は武居の弁当にあるらしい。
御飯にそぼろ、昨日の残りの玉子焼きとサラダ+レタス。コロッケと肉団子。別容器にイチゴ。
しかし、追加品として、御飯に桜でんぶのハートマーク。
あれ?
その弁当は、戸隠さんスペシャル。
何で?
ジーちゃんにあげたのに……。
「やっぱり、昨日言っていた事は本当だったんだ」どきどき
「2人で、愛の逃避行……」うっとり
「え?」
あー。
そういえば、偽・委員長に手伝って貰ったって言ってたっけ。
今日は、そのお返しで、キチクン×イッサで過さないといけないんだっけ?
どんな罰ゲームだよ。それ。
さすがに武居も引きつっている。
新田もだ。
いや、これは、これで珍しい光景なのか。
2人が引いている状態ってのは……。
「さ、さぁ、俺は弁当を喰うぜ」
「あ、ちょっと待って!」
偽・委員長が止める。
「こっち向いてーな」
ウェービーヘアさん。
「いくでー」しゃりーん。
携帯で、武居と戸隠さんスペシャルを撮る。
流石にこの頃になると、クラス内の何人かは、興味深げに、こっちを見てる。
「これが、愛妻弁当かー。
武居、ありがとーなぁ。
えぇもん見せてもろうたわぁ。邪魔したのは堪忍してや。
凄すぎて、子宮がキュンキュンしちゃう」
ウェービーヘアさんの方言の混ざり具合が凄いなぁ。
言ってる事も凄いけど。
「なーなー昨日は何があったん?」
ウェービーヘアさんが、興味津々で聞いてくる。
「えっと、昨日は、武居と一緒にいって、それで戸隠さんに……」
「紹介したんやな!?」
「ええっ?」
「きゃあああああ。一緒にイクッって、素敵!」
と偽・委員長。
どうにかして欲しくて、新田を見る。
1人黙々と、弁当頬張っている。
そうか、こいつ、自分の手に負えないと、投げ出すタイプか。
武居を見る。
ウェービーヘアさんがジッと見てるので、なかなか食べれないようだ。
目と目が合った瞬間、ウェービーヘアさんがにまーと笑みを浮かべて
「悪かったなぁ。
恋人同士の語らいを邪魔してしもうたなぁ」
と下がっていく。
「なぁなぁ、それ、トレードしてくれへん?」
ウェービーヘアさんのウィンナーと玉子焼きを交換する。
「へー。納豆入っているけど、臭くない……」
ウェービーヘアさんが、しげしげと見ている。
「あれ?ウェービーヘアさん、納豆、駄目なの?」
「若頭……名前呼んでーな。
アタイは広瀬やで。
ちなみに偽・委員長は田中やで」
「あ、うん」
「そっかー。
戸隠さんレベルにならんと目にも入らんかぁ……」
「でも、戸隠さん、かわいそう」
と偽・委員長。
「せやな、最初はとっつき悪くて、やーな感じーやったんやけど、最近はめっちゃラブラブで、見てて羨ましかったしなぁ」
えー?そうかぁ?
今までも、殆ど変わってない気がするぞ?
「放課後になると、ウキウキしてたもんね」
「あー。若頭がストーキングするのが嬉しかったんやろなぁ」
―――!!
今、なんと!?
「ストーキングって……」
「ストーキングされて喜ぶってのも、どーよ、って、俺も最初は思ったんだけどな」
「あはは、そうだねー」
「クラス中で噂になってたもんね」
と偽・委員長の爆弾発言。
「え?え?えーーー!?」
いや、待って?
アレはストーキングじゃなくて、ただ単に、行く場所が一緒ってだけの……
「や、八代君とバカスエの恋路を邪魔するつもりはないけど……」
「せやなー」
「あー。それなら大丈夫だよ。
キチクンが相手だからね」
「ん、どういう事なん?」
「ど、どういう、こ、事なのコゴローくん」
偽・委員長、どもってるよ?
「うん。昨日、キチクンが“俺が良いと言うまでは許さないぜ……?”とか
“お前は俺のものになれ”とか言ってたからね。
アソコまで、堂々と二股宣言されたら、もう従うしかないって感じだったよ」
待って?
その言い方は語弊あるよ?
きっと勘違いする言い方だよ?
「さ、さすがに鬼畜な眼鏡ね。若頭……」
「男も女も食べちゃう……」
「ごちそーさん」と武居。
1人、話に加わらず、黙々と食べていたらしい。
「味はどうだった?バカスエ」と偽・委員長
「素敵な恋の味だにゃー」うっとりとウェービーヘアさん。
「うん。キチーフの手料理は確かに、旨かった。
でも、お嬢さん方、忘れているぜ?」
「何よ。武居」
「んにゃ?何を?」
偽・委員長、新田と武居で態度が凄い変わるなぁ……。
「俺の弁当は、ハートマーク入りで、キチーフの心が篭っている様に見える」
「うんうん」
「ふむふむ」
「だけどな、秘めた想いってのも、世の中にはある」
「「?」」
「許されない恋、愛してはいけない人。
だけど、一緒にいたい、同じ時間を共有したい。
そんな気持ちだ」
「ああ、うん。判る」
「それは判るにゃー。
萌え萌えですねー。」
「お嬢さん方も知っていると思うが、世の中にはハーレムという言葉がある」
「それが、どーしたのよ、バカスエ」
「うんうん。続けて?」
「キチーフという男は、たいした男でな。
気にいった奴は、ストーキングしてでも落とすのは、周知の事実だ。
そして、ハーレムに加える」
いや、ちょっと待て。
「その手口の巧妙さは、味わったものでないと判らない。
気がついたら“もう、お前は俺のところに堕ちてくるしかないんだよ”と言われる始末だ。
見も心も虜になるという奴だな」
「あ、あんたにしちゃ、具体的ね」ごくっ
「うんうん」むふーっ
「さて、俺の弁当は特別だった。
しかし、本当の想いはどうなんだろうな?
一緒にいたい奴、
同じ時間を過したい奴に送る弁当ってのは……」
ごくり。
偽・委員長と、ウェービーヘアさんが喉を鳴らす。
武居は、新田の弁当を指差す。
「本当に好きな奴とは、ペアにしたいだろう?普通」
「え?」「あ、そうやな……」
2人の腐女子は、新田の弁当と、僕の弁当を見る。
「秘めた想いって奴だ」
にやりと武居。
「「きゃああああああ」」
黄色い声がクラス中に響き渡る。
そして、噂は千里をかける。
この日、クラス中に僕が男も女もいける人間であるという、根も葉もない噂が、周知の事実として受け入れられた。
「コゴロー、罰ゲームにしてはかなり酷いぜ?」
「新田、罰ゲームにしては悪質だ」
僕も文句を言う。
「御免、御免。
でも、キチクンの特別製は、僕のせいじゃないよね?
それに、イッサの意趣返しも酷くない?」
「毒喰らわば皿までだ」
武居も新田を道連れに、自爆って感じだったが。
「あー。取りあえず、2人とも、今日の帰りは何か奢れ」
僕の戸隠さんスペシャルの事は棚に上げよう。
「イッサ、部活は?」
「雨だから休む」
「あははは」
はぁ……×3。




