開幕前夜-LとS-
「私は、君がダイスキなんだ。時雨」
スタンガン持って突然の告白。
寝耳に水って奴です。
でも、スタンガンはヤメテ、止めて!
そんな、いちゃいちゃを繰り返してる間にも、ニュースは進展していた。
サイレンが鳴り響き、駅前に続々と消防車がやって来る。
映像は、一部始終を映し出していた。
―――マンションの室内からは、女性と思われる人物の焼死体が発見されており、
行方が判らなくなっている部屋の住居人である、戸隠さおりさんである可能性が高いと推定されます。
―――現場付近で怪しげな高校生を見かけたと言う話も出ており……
「え?今、なんて?」
ニュース番組の画面には、付近に住んでる商店の店主が映し出され、
―――グラサンに頬の傷だろ?
あれは、きっとヤクザがガクランを着ていたんだと思うぜ?
やっぱり。
確かに。
ここら辺では、そこそこ開けてるとはいえ、所詮は田舎だ。
駅前商店街+3階建てデパートの他には、学校と町工場、五十鈴マンションぐらいしかない。
そんな地域で水曜日の真昼間から、駅前をうろちょろしてれば、そうなるかも……。
明日はおとなしくしておこう……。
「戸隠さんは、明日は学校どうするの?」
「……どうする……とは?」
「セーラー服とかないでしょ?
さっき、車で寝泊りするって言ってたけど、それじゃ生活がままならないだろうから……。
それなら、次の家が見つかるまで、僕の家を使う?
部屋は余ってるし……」
「……明日は、学校を休む。
本国に一時帰還する」
「え?でも……」
「定期健診を行うだけ……すぐに戻る。
負傷に関するデータも提出する必要がある」
「あ、じゃあ、火傷の痕は……」
「再生槽の使用許可を得ている……完治する。
時雨は色々と気を使ってくれた……。ありがとう」
「いや、そんな」てれっ
「でも、今度からは、心配しなくていい……」
「え?」
「この世界の人間は、気を使いすぎると、髪の毛が抜け落ちて、ハゲになるのだろう?
そのような世界法則[リアリティ]だと聞いた」
「俗説だよ!そんな現実ないよ!多分!」
「そうなのか」
「そもそも、帰還って言ってるけど、どれぐらい?1週間ぐらい?」
再生槽については華麗にスルーする。
これは、スルーと、するという動詞をかけた非常に高度なg……はっ!今、戸隠さんの声が!
「日程は、1日ほどの予定……。
怪訝そうな顔をしているが、何かあるのか?時雨?」
「え?いや、何にも?」ふるふる
「そうか」
「でも、そんなに早く帰ってこれるの?」
どこかに、中継基地があるのかな?
セーフハウスじゃあ、帰還とは言わないし……。
それとも、ラノベのフルメタル狂乱!!みたいな潜水艦があるとか……。
中国の潜水艦って、日本の領海に良く入って来ていたって話だし。
「ああ、簡単だ。異界門[ゲイト]を潜るだけ……。
あとは、次元回廊[エレベーター]ですぐ……」
えーと、ゲイト?エレベーター?
ゲイト、門……。何かが変わる……。
あ、そうか!治外法権!!大使館か!!それなら、1日ですむなぁ。
蛇頭か法輪功か、中華マフィアかと思っていたら、実はやっぱり政府組織でしたー、みたいな。
それを裏切るって、彼女は言っていた……。
そのパートナーとして僕を選ぶ……と。
ぞくっ
ちょっと背筋に寒い物が走る。
でも……
「……それと時雨。
先程の部屋を貸してくれると言う話、非常にうれしい」
「うん。じゃあ、早速、部屋の用意をs」
「……だが、今日の件で判ったかと思うが、一緒にいるとそれだけ、危険度が増える。
今日は、……ケチャップ?……で良かったが、次回は血である可能性が高い」
「あ」
「……時雨はそれでも良い?」
はい、と即答はできない。
今日の事件では、僕は全くの足手まといだった。
でも。
それでも。
「僕は、戸隠さんと一緒にいたいよ。
何もできないかもしれない。
泣く事もあるかもしれない。
死ぬかもしれない。
でも、一緒にいることを後悔する事だけは、絶対に無いよ」
「……そうか」
戸隠さんは、居住いを正す。
綺麗な正座だ。
「判った。こちらの準備ができたら、居候させて欲しい」
一礼する。
あれ?話が変わってないか?
まぁ、いいか。
戸隠さんと一緒なら、きっと楽しい毎日だ。
「うん。これからも、よろしくね。戸隠さん」
「うむ。安心して欲しい、時雨。
どんな事があっても、必ず、君を守る」
「ちょ、それ、僕の台詞っ」
「?」
「あー、いや。その、僕も男だから、
その、一生に一度くらいは使ってみたい台詞というのがあるんですよ。
戸隠さん。男の浪漫なんです」よよよ。
「……必ず、君を守る?」
「そう、それ!」
「……現実問題として、私の方が強い」
うう、はい。その通りです。
「それに……男女の役割と言うものがある」
「?」
「男には、保存食生産能力、女には暗器収容能力がある……」
「??」
「だから、男は生産工場、守られるべきもの。
反対に女は攻撃力、破壊工作に順ずるべきもの」
「???」
「……攻撃は最大の防御。
女は男を守る為に散ってこそ価値がある」
うわぁ。何て漢らしい台詞だ。
僕も言いたいよ……。
でも、納得はできない。譲れない。
「そ、それでも、僕は、戸隠さんを守るつもりだよ。
何があっても、ぼ、僕を共犯者[コイビト]にした以上は……。
それに、僕の事を好きって言ってくれた人だからこそ、守りたいんだ。全力で」
「実力がついてこないようでは、ただの口先だけ……」
ぐっ。痛い所を!
「で、でも戸隠さんだって、エンゲル・パトリオットに2人がかりだったじゃん!」
「……時雨は私の能力を疑う?」
「いや、そうじゃないよ!」
えーと、どう言えば良いんだ?
「僕は、まだ未熟で、誰かの助けを必要としているけど、それは戸隠さんも一緒だろう?
その、戦いでは、戸隠さんには敵わないけど……
戸隠さんが、苦手としている事を、僕は助ける事ができるかもしれない」
「……それは、ある。
実際、時雨に借りている漫画は非常に役立ったし、会話もそう」
「?」
「……日本語翻訳ソフトの開発業務が、私の仕事。
訳すだけなら簡単。
でも、裏の意味、隠された意図まで、読めるようになる為には、それなりの知識が必要……」
「あ、もしかして休憩中に読書していたのって……」
「仕事だ。
普段は思考入力だが、例外的に入力したくない場合は、外部入力で消さねばならない。
その為の入力装置がコレ」
そう言って、携帯を出す。
「携帯電話?」
「その機能もあるが、本来の能力は偽装してある」
「え?」
「ちょろい」
やっぱり、時々、電波が入る。
どこまでが真実なんだろう?
「前任者は納期を守れなかった……だから、割腹した。
上半期の間に結果を出す事ができねば、私も企業に与えた負債の責任を取る」
え?割腹?
いや、まさか。
恰幅が良くなったと言う意味?
意味が通じないな……。
「時雨。すでに君は私を助けてくれている」
「あ、もしかして、漫画の事?」
「そうだ。漫画は、文章が短い。
会話が主なので、非常に実践的な訳となる。
表情がついているから、意図が判り易い。
オノマトペの使用方法例題が非常に多い。
絵があるので専門的な内容でも判り易い」
そんな意味があったんだ。
あの漫画好きの裏には……。
よかった。
僕は君の力になれていたんだ。
「だけど」
「?」
「時雨。君との会話が、一番有意義だ。
私の言葉は、今は不自然なく聞こえるだろう?
あの不自然な抑揚は、前任者も気づけなかった物だ。
私も時雨の表情の変化を見る事ができなかったら、気づかなかっただろう」
ああ、最初の頃のイントネーションの事か……
「私は、君に命を救われた」
「そ、そんな、大それた事は……」てへへ
「今回の、アップデートで、基本構築は、ほぼ終了。
あとは辞書の追加だけ」
「あ、そうなんだ。おめでとう」
「私はシステムに、毒を入れる事に成功した」
「は?」
「イントネーション……。
以前のまま、システムに残してある」
「……」
「時雨。今後、人とあった時、以前の私と同じイントネーションだったなら、注意して欲しい。それは敵」
「あ」
「私も、同じ世界の人間か、日本人か、見分けがつく。対処が楽」
同じ世界?
ああ、闇の世界とかエージェントとか、そういった意味か……。
でも、これで少し判った気がした。
あの大げさ過ぎるほどの、恩返しや、彼女が故国を裏切る本気度を。
もっと、もっと、力になりたい。
戸隠さんを守れるような、そんな力が欲しい……。
「ところで、時雨。」
「うん?」
「昨日借りた漫画なのだが、今日も貸して欲しい」
「いいけど、何で?」
「昨日、諜報業務中に読んでいたんだが、つい、声を出してしまった……」かぁぁ
おい!
「漫画は死守……代わりに携帯を落とした。
結果、忙しくて読めなかった」
あー、そうなんだ。
ん?
「今日も借りるって、泊まっていかないの?」
「ん。管理人に用事がある」
「そうなんだ。五十鈴さんと、戸隠さんの関係は聞いていいの?」
「ん?……実働部隊の上司と部下」
「管理人ってのは何?」
「……マンションの管理人、労働時間の管理人、私達の体調の管理人……など」
「ああ、そのまんまなんだ……」
「オリジナル体なので……遺伝的にも優秀」
「?」
「今回、時雨と良好な接触ができたので、多分、時雨を取り込む為に、何らかの計画を立てている」
「え?僕?何で?」
「そう。だから、先手を打っておく」
「あ、あまり無茶な事はしないでね?」
「大丈夫。管理人には、少し小細工をしてある」
「え?」
「昼間に管理人には、時雨を離間計にかけたと言っている」
「あれ?あれは、月見里さんに仕掛けた嘘の事じゃないの?」
「……私は嘘は言ってない。
相手が勝手に勘違いしているだけ。
管理人の場合も同じ」
「うわ……」
「管理人には、私が月見里という、無意識的な現地協力者を使っていると匂わせてある」
「うん」
「月見里を、ニューエルサレム教団からの、情報源として。
更に、時雨を離間計にかける駒として使っている。
そう思っている可能性が高い」
「……」
「で、今回、情報源としての手柄を、管理人に譲渡する」
「え?何で?」
「……この世界でも“出る杭は撃たれる”という諺がある……」
「ああ、納得。
恩を売る事で、覚えもめでたく……というやつだね」
「それもあるし、今回は、少し悪目立ちをしすぎている……。
隠れ蓑になってもらう」
なんだかエージェントというのも大変だなぁ
「そこで、時雨に1つ覚えておいて欲しい事がある」
「なに?」
「私達が、共犯者[コイビト]であるという事を、管理人に悟られないようにして欲しい。
あくまでもクラスメートとして振舞って欲しい」
「……それは、とても重要な事なんだね?」
「裏切りがばれると消される。
あの女は、勘だけは良い」
―――!!
「判った。必ず守るよ」
「ところで、漫画……今日も借りて良い?」
「あ!そうだったね。
話が変な方向に脱線していったもんだから、忘れていたよ。
んーと、じゃあ、途中まで読んだのを返して貰うから、代わりに新しいのを読む?」
「いいのか?」
「いいよー」
「判った。では、今日借りる分は、明日、新田に渡しておく」
相変わらずの速読だなぁ。
ん?
そうだ。
戸隠さんに貸す漫画に、少しだけ自分の好みの物を無理矢理、押し付けてみよう。
少しは、おかしな誤訳が減るかも。
幾らなんでも、口に物を入れるのがフェラっておかしいでしょ。
イラマの立場はどーなるの?
いかん、変な妄想が。
今日は、刺激的な事が多すぎた。
よし。料理関係を無理矢理、押し付けよう!
目指せ一緒にお弁当!!
こうして、今日も戸隠さんは、父親の書斎と、僕の寝室を行ったり来たりして、漫画をあさっている。
車は、最初から家の車庫に停めてあったみたいだ。
要は、この家に逃げ込んでいたワケだ……。
恐るべし、月見里さんの勘。
取り合えず、怒っておく。
「人の家の車庫に、勝手に車を停めない!!」
「判った。ところで、時雨。
もっと怒っていいぞ?」
喜ばれた。
実は、戸隠さん、M気質だ。
さて、僕はそれを横目に見つつ、仏間へと向かう。
その奥にある、内蔵に用があるからだ。
ココには、この家で最多数の蔵書を誇る漫画がある。
僕の寝室、離れの書斎、父の書斎、本宅2階の倉庫、内蔵の順に蔵書率は上がっていく。
漫画の使用頻度は逆である。
何度も読み返すお気に入りや、完結していない物は、書斎に多い。
反対に、完結した作品、読み切りはココに多い。
内蔵を空けて、中に入る。
さっそく、探し始める。
包丁人味兵、蟲毒のグルメ、大鍋のジャン、クッキングダディ途中まで。
寝室からは、高杉くん家のおべんとう、外道めしを持って行く。
戸隠さんは書斎にいた。
今日は、何を借りていくんだろ?
ジョジョの微妙な冒険、aLOVEる、aLOVEる-ダークネス-、からくり大道芸、まじめの一歩、地上最強の弟子ケンイチ、ブラックラー刀牙、赤騎士物語、運命/長き夜、その他角川系
現代もの少年漫画!なんて漢らしい物を!!
まずい、明日は少女漫画を貸そう!
これ以上、漢らしくなられたら、僕が困る。立つ瀬がない!
「この漫画は何だ?時雨」
僕の持ってきた漫画を見て戸隠さんは訝しがる。
「これは、僕のお勧め。
日本語が判り易く、日本文化も学べる一石二鳥な物だよ。
今の戸隠さんに必要な物だからね」
大嘘です。
食事を楽しむ漫画です。
「ありがとう」にこっ
僕から本を受け取り、
「さすが共犯者[コイビト]!
私にできない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれる!あこがれるゥ」
早速、ジョジョってる。
本格的にヤバイ。
影響されやすいんだ……。きっと。
「そういえば……時雨に聞きたい事があった」
「なに?」
「時雨、幾つかの漫画で見た疑問……。
何故、この者達は、関係ないのに人工呼吸しようとする?」
ジョジョの微妙な冒険第一部、ディオがキスするシーンだ。
ズキュウウウンのオノマトペも凄いが、これを人工呼吸と解釈する戸隠さんも凄い。
「いや、普通の口付けだけど……。
キス……戸隠さん、したいの?」
「え?いや、普通に疑問に思った……」
「?」
「キスするのは、とても危険」
「何が?」
「口内細菌による感染も考えられるが、毒娘とかによる暗殺の可能性が……。
抱いている人物が、短剣を持っていたら、回避できないだろう?」
「ないない。そんな事」
「そうか……。
……時雨は、私としてみたい?」
「え?」
「……人工呼吸……でなくて、キス?……口付け」
どき
「そ、それは、当然!
……してみたいに決まってる」
「私が毒を持っていても?」
さすが、戸隠さん。
一筋縄ではいかない。
本当にありそうだから困る。
でも、初キッスが戸隠さんなら……!
僕は、戸隠さんに近づく。
そっと、腰に手を回し、身体を密着させる。
戸隠さんが、少し微笑んでいる。
やっぱり綺麗だな。
戸隠さんの頬に手をあて、僕は戸隠さんと見詰め合う。
だが、そこまでだった。
圧倒的に、足りない!!
何がって、背が!
身長が足りない!!
爪先立ちになっても、だめだ。
届かない!!
これが、約15cmの差か!!
「時雨の覚悟の程、確かに受け取った」
戸隠さんが、微笑む。
「私の本名は、第7種乙型特殊工作員00106」
「は?」
「戸隠は生産工場名だ。
雲雀は時雨に名前で呼べといった」
「う、うん」
「では、私も名前で呼んで欲しい。
ただ、106(イチマルロク)は長いので、イオリと呼んで欲しい。
ある人物につけられたコードネームだが、存外気に入っている」
特大電波キター!
「あ、えと、戸隠さん?」
「違う」
「あ、えと、」
いきなり、伊織と呼べと言われても、心の準備が……!
「う、い、い」
「い、いお……り?」
「うん!」
ああ、この笑顔だ。
戸隠さん自身に、今のこの笑顔を見せたいよ。
そうすれば、きっと、笑顔が嫌いだなんて言わなくなる筈。




