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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第02話 忘れられない夜になる
20/169

開幕前夜-暗中飛躍-



重厚な金属がぶつかる音と、硬い板が割れる音が同時に響く。


フランケンシュタイナーが、エンゲル・パトリオットに極まった。


両足が、天井に向けて、ゆら、ゆら、と立っているが、しばらくすると、ズズンと倒れる。




それは目の前で起こったとても信じられない光景だった。

鎧をフランケンシュタイナーって、人間ワザではない。

明らかに。

だが、今の僕には、そんな事なんて、どーでも良くて。




エンゲル・パトリオットの周囲から、光の粒子が宙に昇り消える。

光り輝く鎧は、次第に姿を消していき、後には、何も着ていない裸身の少女が倒れている。

月見里さんだ。

ピクリとも動かない。

当然だ。

鎧を着た自分の身体、全体重を、首と頭部にダメージとして受けたんだ。

首の骨折、脳内出血、嫌な事ばかりが言葉として浮かんでくる。





戸隠さんは、ゆらりと立ち上がる。

既に満身創痍。

左腕は、肘より下が、だらりと力なく垂れ下がっている。

血は出ていない。

全ての傷は、切られると同時に火傷になっている為、左腕の傷は、焼けた肌に革ジャンとセーラー服が張り付いて一体化し、皮膚か服か判らない状態になっている。

右足を引きずっている。

破れたセーラー服のスカートから見える、右脚の太ももに穿たれた穴は、黒く変色し、筋肉ごと炭になっている。

白刃がかすった、わき腹は赤くはれ上がり、その他の部位も概ね、切り裂かれて黒く変色しているところがほとんだ。


 




どちらも軽傷とは、言い難い。


だから。

「新田!戸隠さんに水!

 玄関出て右か、その廊下突き当たりに、台所!

 タオルがあったら、それも!」

僕以外の人間に頼ろう。

力を貸してもらおう、ココに来た時みたいに。

きっと、嫌がらずに力を貸してくれるはず……



「まかしといて!キチクン!

 それより、その娘の脈、測って!

 急いで。頭はヤバイ!!」

友達っていいなぁ……




まずは動かない月見里さんへ。

首に手を当て、脈を取る。


…………


大丈夫だ。死んでない。

外傷は無さそうだが、うかつに動かすのも不味い。




次は、戸隠さんの所へ。


見ればすぐ判るほどに、酷い火傷を負っている戸隠さんだが、意思はしっかりとしているみたいだ。

柱にもたれて息を整えている。

「戸隠さん、まだ大丈夫?意識は持つ!?

 今、傷の手当てをするから!」




「……」どや?


今は、どや顔なんていーから!相変わらず綺麗だけど!!



急いで、患部を冷やさないといけない。


「キチクン!」


新田が帰ってきた。

僕と新田は、濡らしたタオルを、次々と戸隠さんの傷にあてているが、数が足りない。

僕は急いで、バケツに水を入れて戻ってくる。

火傷は、全身8箇所。

酷いのは、左腕と右足だ。

完全に筋肉まで熱障害が起こっている。

これは、治すには時間が掛かる。

それどころか、下手をすると……。

どうする?

すぐに、医者に診せるべき怪我だ。これは。

しかし、彼女の特異な状況を考えると、医者に連絡を入れていいものか……

判断は一瞬で終わる。

重要なのは、彼女に生きていてもらう事。

僕は、携帯をとって緊急連絡番号を入れようとした。



「時雨。連絡はしなくていい。私は大丈夫」

僕の考えを呼んだ戸隠さんは、僕の手をそっと止める。


実際、戸隠さんは痛みを感じていないようだ。

だからこそ、僕はあせる。

深い火傷は、傷の痛みすら感じない。

戸隠さんは、そこまで酷い状態なのか!


「だけど!医者に診せないと、このままじゃ……!!」

「大丈夫。当てがある」

「え?」

「……新田、ジムニーの所で待機している管理人を呼んできて欲しい」

「え?……ああ、判った。

 呼んで来れば良いんだね?」

「……すまない」

「いいよ。

 じゃあ、キチクン、悪いけど、イッサの携帯と僕の携帯を交換して?

 ちなみに、僕の充電中だから。いいね?」

「は?いや、お前の携帯、まだ充電する必要ないだろ?これ?」

「キチクン、僕の携帯は充電中だから。

 どう見ても。いいね?」

「え?あ、ああ、うん。判った……?」

「じゃ、8分で戻ってくるから。

 何やりたいか知らないけど、戸隠さん、君、結構ヤバイ状態だからね?

 いい?無理しない事」

そのまま新田は屋敷を出て行く。




いったい、何が何だか……




やおら戸隠さんは動き出す。

今までの緩慢な動作が嘘のように、月見里さんの下へ。

「え、ちょっと!戸隠さん!?

 動いたら駄目だ!」



だけど、僕の声には、耳も貸さずに戸隠さんは


パンパンッ


月見里さんの両頬を叩く。


「うっ」

「……おきたか?」

うっすらと目を開ける月見里さん。

「!!……アンタはっ」

「話がある」


臨戦態勢をとろうとする月見里さんの首元にクナイをつきつける。

いや、それは話をする態度じゃないでしょ?


いや、その前に、ちょっと待って!!

月見里さんは、頭打ってるんだから、絶対安静に!!


だけど、そんな僕の話には戸隠さんは、一切、耳を貸さない。

「話がある。教団関係者。

 何故、教団にココの場所の事を教えていない?

 単独行動の理由は?」


「……」


「話すつもりがないなら、死んでもr」


「も、もう、止めてくれ!戸隠さん!!」



堪らなくなった僕は戸隠さんに叫ぶ。

月見里さんが、凶行に及んだのは、僕との2ヶ月前の行き違いが元だと。

何よりも、好きな娘達が、どうしてこんな非常識な、非日常的な事に顔を突っ込んでるんだ?

すでに、理性は働く事を止めている。

感情をぶつけるしかなかった。

だから、もう一度、

もう、止めてくれ……お願いだから、と嘆願する。



「だがな、時雨。

 この女は私ばかりか、新田も殺そうとしていたぞ?」

「きっと、何かワケがあるんだよ!

 こんな事をするような人じゃない!!」


「……」

戸隠さんは少し逡巡する。

「……単独行動の理由は、私を追っていたのではない……からなのか?」

月見里さんに尋ねる。

「そんなの、ヤシロに会うついでよ……

 私の幸せはヤシロと一緒に居る事だもの」

「――」

ちょっと面食らったような戸隠さんが面白かった。


「私を炙り出す為に、時雨を痛めつけていた訳ではない?」

「……ヤシロに腹がたったから、殴ろうとしただけ」


ええーっ!?

それで、アソコまで厳重に縛り上げるってどーよ?


「だって、ふってから、まだ、たった2ヶ月だよ!!

 まだ、2ヶ月しかたって無いのに、それなのに、私の事忘れて、次の女、作って!!

 私ばっかり辛くて惨めで、悲しくて慰めて欲しくて、でも、ふっちゃったし汚いし、もう、忘れようと思って忘れられなくてっ。

 そしたら、侵入者が、携帯落として、ヤシロが恋人だなんて見せびらかして!!

 もう、ぐちゃぐちゃだよ。頭ん中。

 ねぇ。

 なんで?

 なんでかなぁ……なんで、こんな事になったのかなぁ……」

すん


………………。


ぐすっ


…………。


「……御免なさいヤシロ、好きになって御免なさい……」


わあああああっ


「月見里さん……」

ぐすっ


「……言ってる意味が良く判らん。

 契約の合意すら取ってないのに、

 契約破棄したから、と怒っているのか?」



ううう、空気を読めとは、強要しないよ?

でも、今は、今だけは!!


戸隠さんの肩を叩いて、首をフルフル。




…………



「ふむ……えっと、そこの間女」

「え?」ぐすっ

「は?」


間女?間男ではなく?


「今一度、ヤシロと契約するというのはどうだ?

 コイビトの座が欲しいなら、くれてやろう」

は?……


ええ~っと

そんなに簡単にあげるの?

それはちょっとショック。

あー、だけど、しょうがないかぁ。

元々、恋愛感情なんて無い、弱味につけ込んだだけの関係だし。


がっくし



「は……はぁ?何言ってるの、アンタ」

「うん?交渉だ。

 我らの輝かしい未来の」


何か、今日の戸隠さんは饒舌だ。


「大丈夫?アンタ……

 変なとこ打ってないでしょうね?」


「いやいや、お前……えーと」


「やまなし……月見里(やまなし) 雲雀(ひばり)よ」


戸隠(とがくし) 伊織(いおり)だ」


「雲雀、お前は、ヤシロのコイビトでありたいと願っている。違うか?」


「いきなり呼び捨て?馴れ馴れしい」


「違うか?」


「う……そうよ。

 一緒にいたいわよ、ずっとココで2人、

 寄り添ってのんびりと歳をとって生きたいわよ!!

 悪い!?

 しょうがないじゃない!好きなんだもん!!

 私は、ヤシロの、恋人になりたいっ」




「……」


衝撃だった。

ココまで自分が思われていた事に。

デブでブサメンな自分は、もてないと勝手に思っていた事に。

少なくとも、ココに1人は自分に好意を持ってくれている人がいる。

胸が高鳴った。


ただ……


「うむ。判った。

 ならば、コイビトの座、譲ろう。

 貴女の熱意には負けた」


何故、貴女がこの場を仕切ってるんでしょう?

僕も当事者のはずだよね?

あ、月見里さんもポカーンとしてる。


「ちょ、ちょっと、あんた、何考えてるの?

 そんな、ヤシロの気持ちも考えずn」



「実は、困っている」


「は?」

「うん。雲雀は時雨とコイビトになる。

 それが願いで、幸せだろう?」

「ええ、そうよ」


「だが、時雨は教団に不利益を与える側の人間だ。

 教団はそれを許しはしない。

 そうだな?」


「!!」


「教団を立てれば、不幸になる。

 幸せになれば教団を裏切る。

 困ったな?」



「―――――!!!」




「さて、雲雀。教団内部の説法で言っていたな?」

「?」

「なんだ?まだ聞いたこと無いのか?

 普通にしつこいぐらい、礼拝で言っていなかったか?

『幸せは義務だ』から始まる有難い説法だが」

「えーと。あの長ったらしい説法の事?ヨーゼフ枢機卿の?

 アレ、嫌い。

 入る、入るって、腕あげて言わないといけないし。何が入るってのよ?もう」



「――こんな感じの説法だ」

戸隠さんは、演説しているかのように話し出す。

「幸せは義務だ。

 神によって統治されたるニューエルサレム。

 全ての不幸は消え、神の愛は、あまねく天地に届いたる。

 しかしながら、未だ不幸な者がいる。

 幸せを享受し、未だ不幸な者がいる。

 幸せでありながら、同時に不幸である者。

 神の慈愛に包まれながら、それを否とするもの。

 この者達は、何であろうか?

 今一度、神の慈愛を与えてみよう。

 幸せが義務たる我らにのみ、幸せを与える権利がある。

 さすれば、答えは見えよう。

 神の慈愛を否とするもの。

 即ち、悪魔、背教徒、異端者、魔女。

 幸せでない者は、神の敵です。

 討つのだ。幸せでない者を

 倒すのだ。我らの幸せで。

 そこにこそ、神の慈愛がある。

 で、あってるか?」


「よ、良く、知ってるわね?私だって、暗記なんてしてないのに!」




「この場合、どうしたら良いと思う?

 どちらを、立てれば良いのだろうな?

 幸せになろうとすれば、敵と通じ、

 敵を倒せば、幸せにはなれない」



「う……わ、私……ど、どうすれば……」



いったい、何なんだ?この状況は?

僕だけ、状況についていけない。いけてない。

僕が敵?

ああ、戸隠さんとの共犯者として教団には思われているんだ。やっぱり。

それにしても、月見里さん、何か情緒不安定だな。

戸隠さん、何がしたいんだろう……。



「どうしよう、どうしよう……

 帰れない、帰れないよ……!!」



月見里さんが、何か恐慌を起こし掛けているような気がする。

精神安定剤か何か……いったん、思考を中断させた方が……



そんな、月見里さんの耳元へと戸隠さんが囁く。



「何を躊躇う?

 教義に従えば良い。

 お前の幸せを壊そうとする物は、何だ?」

「か、神の敵……」

「幸せは?」

「私の幸せは義務……」

「そうだ。

 お前の幸せを壊そうとする教団は、

 神の敵だ。

 悪魔だ。

 邪教徒だ」


「―――――!!!」


「日本支部は、既に手遅れだ。

 敵の手に、悪魔の手に落ちている。

 それに気づいたのは君だけだ。雲雀」


「な、何で、アンタが……そんな事を、知っているのよ」


「世の中には“内部監査”という言葉がある……

 組織内の活動状況を監査し、独立した立場から、目標達成の為に活動する組織だ。

 判るな?」

「え?」


「雲雀、力を貸して欲しい。

 時雨と共犯者[コイビト]になった君は、他の人も幸せにできるはずだ」


「う、うん」

「敵は強大で、我々は非力だ。

 力を溜める為には、情報が必要だ。

 君は日本支部に戻り、私に情報を送って欲しい。

 それこそが、君の共犯者[コイビト]である時雨が幸せになる一番の近道だ。

 そうだろう?雲雀!」

「―――――!!」


「さぁ、シャワーをあびて、身体を清めて来なさい!

 貴女は、今、生まれ変わったのです!

 時雨というコイビトと供に!!」


「―――うん。判った。

 あ、あの、……戸隠さん……ありがと。

 酷い事、言って御免ね?」





全裸のまま、離れの風呂場へと向かう月見里さん。


えと、今、何が起こったんだ??

戸隠さんの横顔をそっと伺い見る。


笑ってる。

いつもの、どや顔……いや、もっと悪そうな笑顔だ。

うわぁ、こんな悪そうな笑顔、見た事無い。




「ちょろい」



「裏切り者1人、げっと」






わああああ。黒い、黒いよ!戸隠さん!!



そんな感想を抱いていると、

「きゃあああああああ、な、何で私、は、はだかっ!?」

月見里さんの叫び。

やっと気づいたみたいだ。


僕は、目のやり場に困っていて、口すら挟めなかったが、何をしたのか聞きたくて戸隠さんの方を見る


「ねぇ、ほんとに恋人の座とか……、ぼ、ぼくも当事者だから、そ、その」

「……ん?そうだ、時雨」

「?」

「大変だ。共犯者[コイビト]の座をあげてしまった」


「は?」


「このままでは、私が困る」

「あ、そうなの?

 じゃ、じゃあ、さっきまでの話は……」


「うむ。そこで、昨日のコレが役に立つ」


「はぁ?」

戸隠さんは、4つ折にした紙を取り出す。

どこかで、見た事あるような……?

あ、婚姻届!


「共犯者[コイビト]では無くなったが、時雨がコレに書き込めば、新たな関係を築く事ができる。

 共犯者[ツマ]の座だ。

 やはり、口約束より、キチンと書類にしてあった方が、安心できるだろう?

 時雨も」





えーと。

どこまで、本気なんだ?

戸隠さん。 


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