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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第02話 忘れられない夜になる
19/169

開幕前夜-戦闘-

「じゃあ……サヨナラ……」



携帯の向こうから、銃声が響く。


携帯が転がったのか、騒音を立てて、切れる。


まさか、月見里さんが、自殺!?

確かに、何か、追い詰められた雰囲気だった。

まさか、まさか、まさか!!


お願いだから、はやまった事はしないでくれ!!






そんな事を思っていた時期もありますた。






結論から言うと、捕まりました。



敵の方が1枚上手でした。



迫真の演技でしたよ。

ええ、そりゃ、もう。

タクシーに、幾らでも払うから、大急ぎで!!と注文したのも良い思い出です。




もう、女の子、信じない。

僕は、男の娘しか愛さない。

流石に、それはいきすぎか。




僕の寝室に入ると、女の子が倒れているんです。

血溜まりに。



気が動転していたんでしょうね。

壁一面のトマトケチャップ(+ソースによるコラボ)を血痕と勘違い。

あるはずの血の臭いが無い事に、気が尽きません。

抱き起こしたセーラー服は中学の時の物でした。

で、抱き起こして気付くんです。




離れにおいてある、等身大の人型民族工芸品だって。




「つーかまえた。ヤシロ」

で、その瞬間、後ろから……と。




ふぅ。完敗です。




それと、もうひとつの間違い。

月見里さん=教団と考えていた事が、失敗の2つ目でした。

きめつけるには早いかもしれないけど、十中八九、彼女は単独犯です。

屋敷には、最初から、彼女しかいないし、彼女以外に、荒らされた跡もありませんでした。



はぁ~~~~。






現在の僕の状況は、トマトケチャップの撒き散らされた、自分の寝室に居る。

意識を失っていたのは、20分ぐらいだろう。

その間に勉強机の前、椅子に座らさせられていた。

いや、正確に言うと、縛り付けられている最中だ。

両手の親指を針金で固定され、さらに両腕、脚を椅子に固定されている。

流石に、かなり痛い。


はぁ、やれやれだぜ……思わず、ジョジョりたくもなる。

が、望みがないわけではない。

有難い事に、携帯とスタンガンは取り上げられてない。

学生服のポケットに入ったままになっている。上手く脱出して隙をつければ……。

もしくは、新田がこの状況に気づいてくれれば……!






僕は、新田より先行してこの屋敷に来ている。


タクシーは、山の裏口で下りた。

屋敷まで走って15分ぐらい掛かる距離だが、村内に教団関係者がいると、タクシーは目立ちすぎるので、裏庭である山から家に向かう事になったのだ。

山の道は、私道なのだが、ハイキングコースとして一般人も入れる様になっているから、上手くすれば誤魔化せる。

ちなみに、このハイキングコースを30分逆方向に向かえば、教団の日本支部のある辺りに行ける筈だ。


で、ハイキングコースを走っていた訳だが、前方で3人組みの男女を発見した事から、新田と別行動するに至ったのだ。


3人組の内、2人は男性、1人は女性で、男性達と女性が、何か深刻そうな話をしているようなのだ。

僕は、無視して通り過ごすか、別ルートにするか、新田と話そうとしたんだけど、

「キチクン」

「?」

「ココより先は君1人で行って?」

「うぇ?」


戦力としてかなり期待しているのと、月見里さんの様子を一刻も早く知りたい気持ちが、顔に出たみたいだ。

「うん。言いたい事は判る。

 君はハイキングコースに忘れ物をした馬鹿な学生で、急いで登る必要がある。

 僕は、その付き添いで、もう疲れたから、ここで待つという怠惰な学生。いいね?」

うむを言わせない感じだ。

「わ、判った」


「お姉さん、どうしたのー?」

新田は3人近づくと、軽薄そうに話しかけ、

「おい、デブはさっさと忘れ物とって来いよ!

 俺、疲れたからココでだべってるからよ!」

いつもと違う口調で、僕に、酷いことを言う。

「ああ……うん」

僕はその先に走り出す。

ちらっと、横目で3人を見る。

この辺りでは見ない顔つきだ。村人ではない。


2人組みの男性は、20代前半ぐらい。大学生のような感じで、ジーンズにTシャツ、スニーカー、バックパックという、この季節では少し軽装備なハイキングスタイルだ。2人の首元には、目立つように外に出している、十字架のアクセサリーが見える。教団関係者だ。


女性は30代位で、山登りには不向きなクリーム色のビジネススーツ姿に、パンプス、バックパックという風体で、あからさまに妖しい。

新田は

「お姉さんに困り顔は似合わないって。力になるからさぁ」

と、いかにもなナンパです、という雰囲気で話しかけている

「うーん。学生さんには解決できない問題なんだけどねぇ……」


エンストが、どーのという女性と、車の轍を追跡していた、うんぬんを話している男性陣、それらを後ろに聞きながら、僕は自分の家に向かっていく。





新田と別れて、すでに40分以上が経過している。

月見里さんを捕まえたら、連絡を入れる事になっているので、まだ油断はしないはずだ。

……?

ココまでを思い出しながら、僕は何かに引っかかりを感じる。

「あ」

新田に自分の家の場所を、教えていない……。

何て、致命的、かつ、冗談みたいなミスを……!!



そんな僕の焦りを、勘違いしたのか、両足を針金で椅子にくくりつけている月見里さんが心配そうな顔で聞いてくる。

「あ、痛かった?御免ね、ヤシロ」

棒に針金を巻きつけて、くるくると回し、絞る。

「でも、もうちょっとだから、待って、ね?」

にっこり笑って、ニッパーをカチャカチャ……

怖いよ!!



目の前に居るのは、中学の時の級友、月見里さんだ。

厚手のピンクトレーナーとジーンズを着込み、その上に前を開けた白いコートを羽織っている。

わざと野暮ったい雰囲気にしているように見えるが、胸にある異性を圧倒する視覚的爆弾は「自分を見て!」と激しく自己主張している。

「やっぱり、月見里さんだったんだね?

 き、昨日、駅にいたのは……」

「やっぱり、気づいてたんだ?」

「う、うん。凄く雰囲気が変わっていたから、人違いかなって思ったけど」


「ね?ヤシロ、私が死んだって思った?」

くすくす


「あ、あんな風に言われたら、あたりまえだよ!!

 冗談でも止めてくれ!!本当に!本当に心配したんだ!!」

アレはかなり酷い。

怒る。


「良かった……」

後ろから抱き付いてくる。

「まだ、私は、ヤシロに、死んでは欲しくないと思われているんだよね?

 ザマァみろとか、早く死ねとか、思われていないんだよね?」ぎゅっ


後ろからだから、顔が見えないけど、声が震えてる?

泣いているのか?

「あ、あの月見里さん、ぼ、僕が君を嫌う事なんて、ありえないよ。

 僕が本当に苦しかった時、傍に居てくれたのは、君と爺さんだけじゃないか」

「うん。そう、だよね。

 ヤシロが一番苦しい時、一緒に居たのは私だよね?

 病気の時も、怪我した時も。泣いた時も!

 全部!全部、私!!!

 そう、私だよ!!

 戸隠なんて女じゃないよ!?」

「え、うん」

ココは戸隠さん、関係ないんじゃ……?

「じゃあ、なんで!?

 なんで私じゃないの?」

前に回りこんで、僕を揺さぶる。

あ、目付きがなんか、ヤバイ。

尋常じゃない気がする。

ただ、必死に、何かにしがみ付こうとしている様な……。

「うっ」

月見里さんの指が、僕の肩に食い込む。凄い力だ。

「そうよね。きっと、戸隠って女が、ヤシロを脅しているんだよね?

 そうでないと、ヤシロが私を裏切るはずないもんね?」


ズリズリ

椅子ごと、月見里さんが僕を連れて部屋を出る。

足に車輪が付いているとはいえ、僕の体重だ。とても重いはず。

ズリズリ

「ど、どこに行くつもり?月見里さん」


「うふふふふふ。

 公開処刑場。

 私からヤシロを奪うなんて……」





あ……

今になって、というか、やっとというか、

僕は理解できそうな、気がした。

もしかして……もしかしたら……

「月見里さん……」


「僕が、戸隠さんと付き合い始めたこと、怒っている?」

「怒ってない!!」


「僕が、月見里さんが告白した事、良くなかった?」

「タイミング悪すぎ!!もっと、ムード考えてよっ!!」


「僕を、振るつもりはなかった?」


ズリズリ


「ごめんね。全然、気づいてあげれなかった」


ズリズリ


「あの時は、月見里さんが、どんどん、昔の僕みたいになっていってたから、

 なんとか元気にしたくて……。

 それで、皆の前で僕が告白すれば、きっと笑われるだろうから……。

 月見里さんも笑顔になるかもって。

 だけど、それが、月見里さんを一番、苦しめてしまっていたんだね

 やっと、ついさっき、

 気づいたよ……

 気づけたよ……

 御免ね。ほんとに御免」


ズリ……

「月見里さん?」

ぎゅっ

「違うよ。悪いのは私。

 あの時、あいつらの言い成りになった、弱い私が悪い。

 だから、ヤシロは、謝らなくて良いよ」

「月見里さん……。ありがとう。

 僕みたいな人間を好きになってくれて」

「ねぇ、ヤシロ?」

「?」

「キスしていい?」

「う、うん。だ、大丈夫だよ。ばっちり。は、初めてだけど」

「え?そうなの?」

「そ、そりゃあ」てれっ

「……ふふ。いい事、聞いた。

 ヤシロ?初めてを捧げるなら、もっと綺麗な娘にしなくちゃ?

 私みたいな……汚れた女じゃ」

「ぼ、僕はっ、月見里さんとなら……」

「ふふふふふ。そっかぁ。初めてかぁ」


ズリズリズリズリ






再び引きずられ始め、僕達は仏間へとつく。

確かに板張りの仏間は、この家で一番広い場所だけど……

「えーと。処刑場ってココの事?」

「いえーす」

「ね、何でまだ、戸隠さん狙うの?

 僕と彼女が、付き合い始めたの、一昨日だよ」

「うふふふふ。時間は関係ない」

がちゃ、かちゃ

「それに、彼女がココに来るわけないでしょ?

 何の連絡もしてないのに」

「私だったら、携帯を拾われた時点で、この状況を想定するよ」


「取られたら、取り返す。幸せは義務なんだもの」

「それ、おかしいよね!?

 幸せになる、ではなく、幸せであるのが義務って!」

「そう?

 悪魔は滅びた。楽園は完成し、人々は幸せになった。

 でも世界は、不幸で満ちている。

 矛盾してるでしょ?

 じゃ、簡単。矛盾させている存在がまだいるのよ。

 異端者が!魔女が!背教徒が!

 そいつらを狩り出すのが私達、ユーベルメンヒュの仕事!!」

「それは、違うよ!独善的過ぎる!!

 そもそもキリスト教系の楽園って、人が無知であればあるほど良いっていう、植民地思考じゃないさ!!

 自分からわざわざ、奴隷になるっておかしいよ!!

 そもそも、その教義自体、理想論の押し付けで、ナンセンスな……」


「はいはーい。ヤシロは少し黙っててねー」

猿ぐつわを僕にして月見里さんが、ふと、外を見る。






既に夕方近く、室内へと1人の人物が入ってくる。



「来たわね。戸隠。私は、貴女に出し抜かれた月見里」


2,3歩、歩いて近づいてくる

床がぎしぎしとなる。


「うーん。残念、戸隠さんじゃないんだ。

 僕の名前は、新田小悟朗」


「ふーん。じゃ、死んで?」


バズンッ


「うわっ」

新田が飛びのいて、部屋の壁の向こうに隠れる。

「あんたみたいな、ちゃらい男を見ると殺したくてたまらない。

 反吐が出る……御免、言い直す。

 ヤシロ以外の男を見ると殺したくてたまらない」

「そりゃあ、深すぎる愛で。

 共感はできるよ。

 美幼女以外の女を見ると臭くてたまらない。

 ゲロが出る」

うわぁ、何処まで本気だよ、新田。


「ところで、質問なんだけどさー」

ちゃらい雰囲気を纏わせつつ、新田が質問する。

月見里さんは、銃の優位性があるためか、ゆっくりと慎重に、部屋の外へと歩いて行っている。

「そのトカレフ、いや、ヘイシンかな?

 何処で、誰から手に入れたのー?

 チンピラ風の金髪で、鼻リングしてる人?

 ちょっと前に取られたって話があってね?」

「ふーん。ただの学生じゃないんだ」

「色々とアルバイトで経験していてね」


新田?

世の中には、労働基準法という法律があってね?

僕達は、法律上は、どんなに頑張っても、まだ1ヶ月も労働経験をしてない事になっているんだよ?

あああ、脳内で戸隠さんの昨日の台詞「ちょろい」がリフレインしている。


「おっと、アルバイトじゃなかった。お手伝い、お手伝い、ね?」

ぽいっ、と何かを部屋に、正確には、月見里さんに向けて投げ入れる。


バズンッ


警戒していた、月見里さんが思わず反射的に撃ってしまう。

何というか、軽いトリガーだ。



バシュウウウウウッ



突然の閃光!


「!!!」


拳銃の事を考えている暇もなく、新田の投げ入れた、楕円形の金属球は激しく輝き、燃焼を起こす。



も、もしかしてお手製フラッシュグレネード!?



人の家だぞ!!!おい!!!



しかし、その閃光の中を、駆け抜ける影。

そこにはセーラー服の上から、革ジャンを羽織り、指抜き革手袋をはめた戸隠さんが。

美しい黒髪を白紐で括り、ポニーテイルにしている。

左手には、鞘ごと直刀を持ち、走りこむと右手を一閃。

反りのない抜身の日本刀が、月見里さんの身体を両断する……

かと思いきや、すんでのところで月見里さんは後ろに下がる。

閃光で、視界を奪われているらしく、めくらで拳銃を撃つ。


バズンッ


カチッ



ん?ジャムったのか?


その隙を逃さず、戸隠さんは、下から上に月見里さんを斬りつける。


「んんんー!!![ダメだ。戸隠さん!!月見里さんを殺さないで!斬らないで!洒落になんないよ!!それは!]」

猿ぐつわで、マトモに話せるわけがない。


僕の思いが通じたのか、戸隠さんが下手なのか、月見里さんが運が良いのか、ざっくり斬れたのは白いコート、のみ。


カチッカチッカチッ

「ちぃっ」


拳銃が使えないと見るや、戸隠さんに向けて拳銃を投げ捨て、月見里さんは僕の方、部屋の奥へと下がって来る。

その間に、戸隠さんは、激しく発光、燃焼しているお手製閃光弾を外に蹴り出し、月見里さんの後を追う。

新田は、備え付けの消火器で、室内から蹴りだされた閃光弾に、ぶしゅううううう―――!!とやっている。


既に、月見里さんは無力化された。

後は、捕まえるだ……いや、彼女は。ポケットから新たな拳銃、シグザウエルP230を取り出している。

一瞬、戸隠さんの動きが止まるが、セーフティ解除に戸惑った月見里さんを見ると、忍び刀を構え、再び接近する。



だが、その行為自体がブラフだったのか、接近する戸隠さんが忍び刀を振るう直前に、月見里さんは左手でニッパーを投げつける。

キィンッ

それを左の鞘で受けると、縮地。その一歩で刀の間合いに入り込む。


「んん―――――――[止めてくれ、戸隠さ―――ん]!!!」


刀の峰でシグザウエルを打ちつけ、人間の手の構造上あらぬ方向へと回転させると、月見里さんの右手の人差し指は、もう使い物にならなくなっていた。

「ふっ」

一息吐き、更に一歩踏み込み、鞘を突きの要領で腹にぶち込む。

信じられない一撃だった。

月見里さんは、戸隠さんの一撃を受け、縛り付けられた僕の横を通り、後ろへと飛ばされる。人間が、3m近く飛ばされた。

漫画じゃないいんだ!!今のは下手をすると、月見里さんは死んでいるぞ!!!

壁に激突する音。


「ごはぁっ」

それでも、月見里さんは、ビクビクッと痙攣する全身を押さえつけ、壁を背もたれに、懸命に立ち上がろうと足掻く。

しかし、予想以上のダメージか、うぐぅっと口物を押さえ、床に、涙と涎、胃液みたいな物を吐きながら、その中に倒れこむ。

既に、白目をむきかけていが、呪詛のように呟いている。


「わたさない、わだざない、ヤシロは……」



この間、戸隠さんも追い討ちを掛けれない状態だった。

肩で息をし、まるで自身の身体を別の物でも見るように、イラついた顔で見下ろしている。

あの顔は知っている。

自分も感じた事のある感覚だ。

何故、あの顔つきを戸隠さんがしているのかは判らない。でも、そのもどかしい思いは判る。

自分の身体が、自分の思い通りに動かないなんて、常人では、普通、味わうことのない感覚だ。

でも、飛行機事故のリハビリ時に、僕はあの感覚を味わっている。


「んんー!」

「あ、時雨」


僕の存在にやっと気づいてくれた戸隠さんが、猿ぐつわを外す。


ぷはぁっ


「戸隠さん、早く、月見里さんを病院に!!」

「ん……?

 そういえば、殺しきれていなかった……。

 鳩尾を狙ったはずなのに……。

 世界法則[リアリティ]所得が、こんなにも悪影響が出るとは……」


忍び刀を構えなおし、止めを刺すべく、月見里さんに近寄る。


「ちょ、違うって!!殺さないで、お願いだから!

「敵を殺さないのか?

 ……ああ、そういう事か!!

 確かに、自白剤なら持っている。

 さすが共犯者[コイビト]だ。

 私の足りない所を補ってくれる」

「違うよ!そんな事を言ってるんじゃない!!」


そんな事をやっている間に、死に体だった月見里さんが、立ち上がる。

「あ、アンタなんかに、

 アンタなんかに、

 絶対!

 絶対!!

 ヤシロは渡さないんだからぁ!!!」


叫ぶ。


「あああああああああ!!!!」

なんで。

なんで、そんなに執念を?

僕は、それだけに値する存在なの?月見里さん……。


「まだ、動くか!!体現者[ビジネスマン]!!!」


戸隠さんが忍び刀で斬り掛かろうとして、一歩を踏み出すが、急に力が抜け、ひざをつく。

スタミナ切れか、体調が悪いのか判らないが、縮地を失敗したようだ。


その間に、月見里さんの準備は整ったみたいで、左手にマッキー位の太さの10cm状の金属筒を持っている。

「まけない……まけないっ!!」

指の折れた右手で、器用に金属筒の蓋を取ると、注射針の様な物が幾つも並んだ物が出てくる。

「あああああああっ!!」

金属筒を首筋に突き立てると、中からドロリとした液体が、針を通して中に入っていく。




「変身[エンダーン]!!」




「天使受肉[エンゲルアインラード]!!」




圧倒的な光の奔流が月見里さんに凝縮していき、爆散する。


僕は、その爆発に巻き込まれ、吹っ飛ばされながらも、

この1秒以下、コンマ何秒の間に起こった変身プロセスを脳裏に焼き付けた。



月見里さんの着ていた服や腕時計、靴下まで、光に変換され、彼女の身を裸身にする。


しかし、次の瞬間には、光が凝縮を始め、彼女の全身を覆う鎧を形作る。


光の騎士鎧、フルプレートメイル姿へと、彼女は変身をとげる。


そして、爆誕。



ふっとばされ、朦朧とした意識の中でも、僕は2人を止めようと、あがく。

芋虫のように這いずる事すらできない身体を、床にこすりつけ、消えゆく意識を、血の痛みで繋ぎ止める。





アァ――レェ――ルゥ――ヤァ――――




これは、騎士の声か?




アァ――レェ――ルゥ――ヤァ――――




月見里さんの声ではない。まるで、ハスキーな男性の声



「顕現[アドヴェント]!!」

グッ!



「エンゲル・パトリオット!!!」

バッ!



キラキラキラ



月見里さんだった者は、すでに光り輝く鎧に身を包まれ、エンゲル・パトリオットと名乗った。


見得を切った。

僕には判る。

あれは、絶対、自分の名前を名乗るために、見得を切った。



光り輝く騎士、エンゲル・パトリオットとなった月見里さんは、右手を真横に上げる。

驚いた事に、折れた指が治っている。


「ゴットボーゲン!」


そこに光が凝縮されて、輝く拳銃[ルガーP08]が現れる。

ルガーP08

見間違いでなければ、だが。

祖父の改造エアガンの中にあったので覚えている。

今では、骨董品の部類に入れる人もいるだろう

無骨ながらも、洗練されたデザイン、ナチス将校が愛用し、死ぬ時も手放さないという一品。

弾丸には、9mmパラベラム弾を使用する。

-汝、平和を欲するなら、戦の準備をせよ- の一文から取られている名前、パラベラムだ。




エンゲル・パトリオットは、輝く拳銃[ルガーP08]を握りこむと、セーフティを解除。


「ブレッヒェン!」


トリガーを引く。弾丸は発射されない。

床に穴が開いただけだ。

角度を変えて、

「ブレッヒェン!」

焦げた。床板が、一直線に。

戸隠さんはすんでの所で、かわしているが、あれは、人間ではかわしきれない。

レーザーなんて、無理だろ?普通。

それを悟った戸隠さんは、部屋の中央にある柱の陰に隠れる。

「ブレッヒェン!」

あ、柱に穴が……。

「ブレッヒェン!」

柱に穴が……。

「ブレッヒェン!」

もう止めて!柱の耐久度は0よ!!


「はっ」

戸隠さんも一瞬で、息を整えると、柱から駆け出し、鉄片を2つ投擲する。


「ゴットシルト!」ぐっ


騎士の装甲が少し輝く。

クナイみたな形をした物体は、騎士の装甲に阻まれ、肉体にまでは届かない。

1本は装甲で落とされ、2本目はかすりもせず……

いや、戸隠さんの口元が笑ってる。

外れたように見えるが、クナイ同士の間に鋼線らしき物が張ってあり、一瞬の間を置いて、クナイには電流が流れたようだった。

形状記憶合金製の鋼線が元の形へと戻り、騎士の腕に絡みつく。

バリバリバリ!!


「おおおおお―――――――!!!」

その手から、輝く拳銃[ルガーP08]が落ちて、光の粒子に変わる。


その隙を逃さず、右の太ももに装備していた装飾のついたクナイを引き抜き、投擲。

右腕の装甲が薄い間接部に深々と突き刺さり、血が噴き出す。

クナイの中がストローの様に中空になっており、装飾の部分が、灯油ポンプの原理で血を吸い上げてるらしい。

次々と噴き出す血液。

ご丁寧にも先端部分には、返しがあり、無理に引き抜こうとすると、余計に傷を深くするみたいだ。

戸隠さんは、忍び刀を構えなおし、再び接近する。


まずい!このままだと、戸隠さんと月見里さん、どちらかが死ぬまで止めようとしない。

いや、そもそも、目の前の騎士は何なんだ?

月見里さんが鎧を纏っている様に感じるが、明らかにあの動きは違う。戦い慣れした人の動きだ。




きっと、僕は既に気絶していて、夢を見ている。

そんな言葉が浮かぶ。




でも、

それでも!

2人には殺し合いなんてして欲しくないし、

ましてや、

夢でも、死んでなんて欲しくない!!

笑って欲しい。

2人とも!!


何か、僕にも何かできる事はあるはず。2人の戦いを止めるために。

今の僕に動かす事ができるのは、手首、首より上、膝から下ぐらいだ。

後は全て椅子に縛り付けられている。


何か……

「!!」

床にニッパー!!

さっき、月見里さんが投擲したものだ。



既に戦いは新たな局面に入ろうとしている。


「ゴットキリンゲ!」


エンゲル・パトリオットは、左手に光り輝く剣を取り出した。



「シュトラールヴァッフェ!」



右手の人差し指と中指を剣の刀身の根元から刃先へと滑らせると、更に輝きが増す。

白熱化している。

同時に、エンゲル・パトリオットのフルフェイスの奥に宿る目が赤く輝きだす。


やばい、凄く嫌な予感だ。

あの光り輝く剣はヤバイ。

ダメ。絶対。


ニッパーは取れたけど、親指が針金で閉められていて握りこむ事ができない。

どうすれば!!

くそっ

取り合えず体勢が安定しないと!



「キチクン!」

足首だけで、椅子を立たせようとしていると、後ろから声が聞こえた。

「新田か?」

ナイスタイミング!

「ちょっと待ってて。今、外すから。

 武居の方の動きは無し。多分、彼女の単独犯だよ。

 親指は無理、時間が掛かる。先に腕と脚から!」

新田は僕からニッパーを取ると、針金を切ろうと悪戦苦闘を始める。

「2人を止める!!」

「どうやって!」

「やってから考える!」

今は行動!




2人の戦いは最終局面に入っていた。


ヴォン


エンゲル・パトリオットの光り輝く剣[ゴットキリンゲ]が一閃する。

それをギリギリの所でかわす、戸隠さん。

忍び刀は、一太刀目を反らそうと受けた時に、中程から溶かされた。


ヴォン


右腕をかすっただけで、革ジャンが焼け、縮む。


ヴォン


すでに何度か、戸隠さんは、光り輝く剣[ゴットキリンゲ]の攻撃を、その身に受けている。

掠っただけで、血も出ていない。一見すると軽傷のように見える。

しかし、状況はもっと酷い。

剣による傷を火傷が防ぎ、治さないようにしているのだ。

かなり深いレベルで火傷を負っているはずだ。


ブォブヴォン


なれない左手での攻撃はやはり難しいのか、エンゲル・パトリオットは、2段突きの要領で、突き、突き、払いとフェイントも雑ぜて、手数の多さで相手を翻弄する攻撃に出た。

右手が使えないというハンデは、すでにサウスポーという戦いづらい、相手の調子を狂わせる事で、長所として活きてきている。

現在の戸隠さんは、限りなく徒手空拳に近い。


ブォブォォン、ヴォン


あの一撃でも入れば、戸隠さんは死んでしまう。

戸隠さんは、何本ものクナイを投擲しているが、剣で溶かされたり、あらぬ方向に飛んでいったりしている。


不味い

早くしないと。

だが、未だに針金は僕の身体を椅子に縛り付けている。

「もう少し待って!」


ヴォン、ブォブォン、


大降りから、突き、払い。変幻自在な攻撃は、ついに戸隠さんを捕らえた。

攻撃を避ける時に、足を滑らせ、身体が硬直したところを切られたのだ。

ゴロゴロと床を転がっていく。


ガッ、ガッ、ガッ!!


追撃に入るエンゲル・パトリオット。

転がる戸隠さんに突きを見舞う。

床がジュッと音を立て焦げる。


今なら助けれるかも。

エンゲル・パトリオットは、戸隠さんに目がいっている。

左手をおさえる事が出切れば!!


椅子から解放されるやいなや、僕はエンゲル・パトリオットに向けて駆け出す。

両腕は使えないけど、止めるくらいなら。


「うおおおおおおおお」

「ちょ、キチクン、無謀すぎ!!」


突っ込む僕に気づいたのか、エンゲル・パトリオットは僕のほうを向く。

しかし、その隙を戸隠さんは逃さなかった。

後方に跳躍、間合いを一気に外す。

それで、エンゲル・パトリオットは、狙いを僕に定め直した。

その刹那。後方に跳躍中の戸隠さんが、忍び刀を投擲する。

刀は回転せずに、真っ直ぐ心臓に向けて飛ぶ。


「シャイセッ!」


エンゲル・パトリオットは、光り輝く剣[ゴットキリンゲ]で迎撃する。

忍び刀を弾き飛ばそうと刃を当てた瞬間、



ボゥン



忍び刀が爆発する。

ダメージを与えるような物ではないが、衝撃だけは伝わったようだ。


今の一瞬で、戸隠さんは、次の攻撃に移る準備を終えていた。

いつの間にか、片膝立ちで、シグザウエルP230を両手で構えている。


「!!」


それは不味い!!

敵のエモノを使うのは、悪手だ!

あのシグザウエルP230は、月見里さんが、持っていた物だ。

だが、元々は祖父の離れにあった物を、僕が拝借していた物で、実際は祖父の趣味の(改造)エアガンだ。

威力は高くても、鎧に対しての殺傷力は、無いに等しい。


エンゲル・パトリオットも最初から気づいていたようだ。

戸隠さんの、明らかな失敗に。

衝撃から立ち直ると、戸隠さんに向かって、光り輝く剣[ゴットキリンゲ]を構え、跳躍に近い一歩で、必殺の意思を込めた一撃を見舞う。



「パトリオット・ドゥナーミス!!」




「あぶないッ!!」


せめて、僕が盾に!!






「よっと」

新田が何かごつい手袋をして細いワイヤーみたいな物を引っ張る。


ガッ


脚をワイヤーに取られるエンゲル・パトリオット。

スローモーションのように、体勢を崩していく。

見ると、ワイヤーは、クナイごと柱に巻きつけられており、そこから、部屋を2分するように、新田の手元へと向かっていっている。


「はっ」

エンゲル・パトリオットが体勢を崩した、その瞬間を狙い済ましたかのように戸隠さんは、一足飛びに跳躍。

両足でパトリオット頭部側面を押さえると、自身の体重全てを使って、振り子の要領で縦に回転、頭を極めたまま、投げ落とす。

とても綺麗なフランケンシュタイナーだ。

鎧が綺麗に弧を描いて頭部が床に突き刺さる。

床板が割れるよな、首の骨が折れるような、嫌な音が聞こえた気がするけど……!!

大丈夫なのか!?





え……?

いや、待て。

戸隠さん!鎧をフランケンシュタイナーって、無茶振りも良い所だよ!人間にはできないよ、普通!

月見里さん!首は!?鎧の全重量が頭部に!!お願いだ!死なないでいてくれ!!



それは目の前で起こったとても信じられない光景だった。

人間ワザではない。

明らかに。

だが、今の僕には、そんな事なんてどーでも良くて。





ただ、2人には怪我して欲しくない。


それだけなんだ。


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