開幕前夜-宣戦布告-
水曜日。
戸隠さんは、昨日に引き続き、登校してきていない。
また、帰りのHRになったら、来るんだろうか?
携帯を見る。
着信はない。
こちらから電話しようか?
メールだけでも入れておこうか?
「よう、キチーフ」
「やあ、キチクン」
赤いピアスに、赤いTシャツという武居と、何時も以上に高そうなテンションの新田の2人が話しかけてくる。
「ああ」
「生返事だね」
「恋わずらいかよ。先生」
「今日も、姫は来てないみたいだしね?」
「お前、何かしたんじゃねーか?」
「うーん」
何かした様な覚えは無いが……
そういえば、昨日、
「調査があるから、すぐ帰る」って言ってたっけ?
夜、家に来た時は、調査終了してだと思っていたけど、普通にセーラー服だったな。
む、家といえば、戸隠さんの、あの車……
あれは、犯罪だ。
多分、お姉さんの名義の免許証を勝手に使用しているんだろう。
戸隠さんの親は、この事を知っているんだろうか?
思ったより、フリーダムな性格してるしな。
ん?
戸隠さんの親はもしかして、何らかの悪い人?
ヤクザ……とか。
だとしたら、僕の顔を戸隠さんが怖がらない理由は、見慣れている様な顔だから……
「おーい。聞こえてるか?キチーフ」
「うーん」
「あはは。キチクンにシカトされてるよ?イッサ」
「心で通じあってる事が判らんとは……。
眼科に行ったほうが良いぜ?コゴロー」
「心と心でまぐわっているんだね?きもいなぁ」
「ちぇ、まぁ、いいや。
今日は何の漫画持ってきたんだ?勝手にあけるぜ?」
「返事が無ければ、許可、と判断するね」
がさがさ
武居と新田が、スポーツバックから、漫画を取り出している。
「おおっ、医蟲-team medical insect-じゃん。また、毛色の違う物を」
「全巻あるよ。こんな重い物を良くもって来たねー」
流石に、全巻を持ってくるのは疲れました。はい。
「あ、でも、方向性は、昨日と似てるかもね」
「ん、あ、そうだな。
ビジネスだ、医療だとジャンル別けして、気がつかなかったが」
うん。自分でも、良いとこどりっぽい物を選んだ。
「昨日の夜、医療系漫画、ごっそり持っていったから、
今度はコレかなーと思って……」
はぁ
でも、休みじゃね……。
窓の外を見る。
「「……」」
「あー。何だ、じゃ、昨日も戸隠は、お前の家に行ったのか?1人で?」
「漫画を、取りに来させたんだ?
でも、昨日は彼女、駅前で別れていたよねー?」
「コゴローさん。これはアレですね?」
「イッサくぅん。これはアレだよ!」
やおら、ペンライトを取り出し、武居は時雨の前の席を回転、時雨と向き合って座る。
「おい!!ネタはあがってんだ!!」パッ
「うわ!まぶしっ」
「寝るんじゃねぇ!!」がっ
教室中が何だ?と注目する。
「お前が、やったって事は割れてるんだよ!!いいかげん白状しろ!」
「え?」
「だんまりかよ……!!」
「な、何の話?」
「戸隠伊織休校事件の容疑者、八代時雨!!」パッ
「ええっ?」
「お前には、黙秘権がある!だがな!そんなもんは関係ねぇ!!
いいか、必ず、吐かせてやる!必ずだ!!」
「まぁまぁ、武居刑事」
「新田刑事。何故、ここに?」
「ココは私に任せてくれませんか?」
「はっ!判りました!」
「さて、八代君だったね?」がさごそ
ことっ
「少し、一息入れようか?」
それ、僕の弁当……
「食べながら、少し話を聞いてくれないか?」
「いや、まだ2時間目が終わっただけで、食事は……」
「彼女はね、少しおっとりした所があるけど、将来を期待されていたんだ」
「?」
「ところがね。そんな彼女を気にいったって男がいてね。
黒い噂の絶えない奴さ」
ふぅ。
「そいつがね、彼女に目をつけたんだ!!」ぐっ
「奴は、彼女が困っている隙に付け込んで、
助けてやるフリをして、自分の家に呼び込んだんだ!」
あああ、コントだと判っているけど……ぐさりとくるなぁ。泣きそうだ。
「え、えと、それで?」
「まだ、しらばっくれる気か!?てめぇ!」
と後ろから武居刑事。
「戸隠伊織が学校休校してんのは、
てめぇがやったからだろ!!さぁ、吐け!!」
新田と武居が場所を入れ替える。
「い、いや、昨日の夜、戸隠さんが漫画を借りに来て……その後は」
「それで、そのまま帰したってか?てめぇが!!」
「う、うん」
「はっ!!嘘吐くんじゃねぇ!!
いいか!!てめぇみたいな外道には……」
ああ、そうだ。僕は外道だ……。
人間じゃない。
女の子を、夜道を1人歩かせるような、外道だ。
人喰いの外道だ。
新田が武居の袖を引いて首を、フルフルと振っている。
武居が「しまった」みたいな顔をしているが、どうした?
あやまらないと。
罪には罰を。
声が聞こえてきた。
「気持ち悪い」「化け物」「あはは、死んじゃえ!」「畜生!畜生!」
ああ、クラス中が、僕を攻めている。
何故、戸隠さんが来てないんだって……
何故、僕が生きているんだって……
「両親喰って生き延びたんだって」「あさましいっ」「人肉喰らi[マンイーt]」
パチバチバチバチバチッ
「あ――――――――――っ!!!!!」
叫んだ。
「――――――――――!!!」
イタイイタイイタイ!!
背中が!!
何だ!?何が起こった?いや、イタイ!取り合えず、イタイ!!
涙を浮かべて、無理矢理、動く。
振り向くと新田が携帯電話みたいな物を持っている。
あれか!!
くそっ!
なにしやがる!!
痛い中、無理矢理、動く。
「おちつけ」
肩を押さえられ、席に座らされようとする。
「これが、落ち着いt」
「戸隠伊織は、登校していない」
少し、ドスの聞いた声で、武居が僕を睨む。
「まだ、取調べの最中だ」
「え?」
まだやるの?それ?
教室中、ドン引きしてるよ?今ので。
新手のイジメ?
「ふー。まぁ、コレでも喰って、落ち着け。俺のおごりだ」
机の上に出たままの弁当箱を差し出してくる。
「いや、ちょっと待って。コレ、僕の弁当だよね?」
「いいから喰え」
「いや、だから僕の弁当だって!」
「判った。お前が喰わないなら、俺が喰う」
「ちょっ!」
「戸隠さんのお手製弁当は、俺が喰う!!」
「え?」
「いただきます」
「僕のだって!!」
「ほーう。そんなに、戸隠さんのお手製弁当を、俺に取られるのが嫌か」
「いや、僕が作ったんだって」
「武居警部、今、ポリグラフ検査に反応が!!」
「なんだって!やはり、お手製弁当か!」
「嘘発見器かよ!!」
「開けてみよう。ソレで全てが判る。お手製かどうかが……!」
「それ、重要?話の趣旨g……」
「八代時雨。君が無実を証明するなら、それしかない。」
はぁ
「判った。あけますよ……」
仕方ないので、開けました。今日、5時起きで作ったやつです。
中には、玉子焼き、ウィンナー、ポテトサラダ&レタス、コロッケと彩りを考えて、紫蘇ふりかけとそぼろの2色ご飯。
「何だ。いつも通りだな」ひょい、ぱくっ
「流石に昨日の今日で、お手製はないよー。あはは」ひょい、ぱくっ
そうか、そーか。それが、
……それが、やりたいだけの、長々としたコントか……!
「ふふふふふふふふふh」
「キチーフ?顔が怖いぜ?
どうしたんだ?
ちなみに、やめようぜって言ったんだ。俺は。
だけど、コゴローに脅されて……」
「キチクン?話し合わないかい?
さっきのは謝るよ?
だけど、判って欲しい。
僕は、イッサの頼み事を断れないんだよ」
「それにしても、キチクンは、
入学当初に比べたら、つっこみが上手くなったねー」
「そりゃ、毎日、戸隠さんに、突っ込んでるからだろうさ!」
「なにを!?」
「「ナニを」」
はぁ。
下品です。
親父です。
こいつら。
「まぁ、メールぐらいしたら?
ナニを悩んでいるのか知らないけど。
付き合ってるんだから良いんじゃない?」
はぁ。
それがね。
君達が言った通り、弱味に漬け込んだ関係だから。
恋人同士じゃないから。
躊躇いますよ。
結局、3時間目の休憩にメール。
返事が無いので、昼放課に電話。
着信はするけど、出ません。
何だろう。
何か、凄い嫌な予感がする。
新田と武居に購買で奢らせた、パック緑茶を飲みながらもう一度、携帯を取り出す。
既に、予鈴は鳴っているが、リダイヤル。
「まだ、でないの?」と新田。
「ふられた?」と武居。
親がヤクザの構成員(仮)で。
偽名で車を使って。
調査……?
何を?
嫌な予感は、どんどん膨らむ。
何故、無口なフリをしていた?
それは、自分を隠すため。
切腹とか、貸しとか借りとか、一緒に食事をするのでさえ、あの恥じらい……
現在の日本では、あまり重んじられなくなった風習……
古風(?)な日本人?
いや、違う。
まるで……
勘違いした日本人。
「あ」
「どうした?キチーフ」
「一人の世界に入ってるね。コレは。きこえてるかーい?」
不自然な日本語のイントネーション……
コーコク……いや、あの時のイントネーションの悪さからすると、ココクじゃないのか?
ココク……故国か。
あの時、
「私に、故国を裏切れというのか?」とか言っていた……
民主主義国家では、あまり聞かない台詞のような気が……
そして、偽造。
「この国を騙すなんて、ちょろい」とか言っていた……。
21歳。束縛を受けない年齢。成人。
!!
偽造パスポートか!!
そうか!もっと簡単なことだった!!
彼女は、日本人じゃない!
脱北者か、中国人……だ。
密入国?ありえない話ではない。
だが、故国に忠誠を尽くすという思考法は、スパイか?
携帯電話の番号を、教えたら、危険になるって……!!
スパイ天国の日本だ。彼らをバックアップする組織は、色々と存在するだろう。
スパイが裏切った事が判ったら、それを国が放置するわけが無い!
必ず、組織に戸隠さんを消すのを依頼するだろう。
あの時、戸隠さんが言っていた意味って、戸隠さんの関係者を調査すると、僕の名前が……って事か。
敵って、言ってた。
明確に、駅前で、宗教団体の人を!
気をつけてって!!
今、判った!!
戸隠さんは、僕達を危険にさせないようにする為に、無口を装い、人と壁を作っていたんだ!
正に天啓。
全ての辻褄が、符合する。
気分はMMRという漫画本の主人公、キバヤシだ。
ガタッと席を立ち上がる。
「さっきからの百面相、笑えるぞ?キチーフ」
「何か、浮かんだかい?キチクン?」
じっとしていられない
きっと、戸隠さんの身に何かおこったんだ。
「早退する。気分が悪い。」
「お」
「やる気だね?」
そんな時だった。
リダイヤルしていた携帯が繋がったのは。
ガチャッ
「……もしもし?」
あれ?
何か声が違う気が……。
でも、携帯だと、声は判り辛いというはなしだし。
ま、いいや。
「あ、戸隠さん?
心配したんだよ。
今日は、どうしたの?」
「……………………」
「……どうしたの?」
「ふーん。戸隠さんっていうんだ……」
「!!」
「この、携帯の持ち主……」
「え、と……」
「ねぇ、やしろ・しぐれ、くん?」
な、何で僕の名前を!?
あ、携帯の画面か……
「ふふ、コイビトだって。そう、書いてあるよ。ふふふふ」
「えと、そ、それで貴女は、だ、誰ですか?」
「もぅ、忘れちゃったんだ……」
「え」
「ふふふ……当ててみて?……ヤ・シ・ロ」
「!!」
ひゅっ、と喉が鳴った。
背中に杭を打ち込まれた様な、そんな衝撃。
その呼び方に、覚えがあったからだ。
「あ、あ、」
月見里 雲雀
2ヶ月ほど前に、時雨は、彼女に告白して振られている。
自虐的で、話し下手な時雨とは違い、明るく、活発で、いつも周りに元気を振りまいてた彼女。
それが、卒業が近づくにつれ、塞ぎこむ事が多くなり、元気が無くなっていった。
元気を出して欲しかった。
笑っていて欲しかった。
だから、
駄目もとで、交際を申し込んだ。
惨敗だったわけだが。
それでも、こんな笑い方をする人ではなかった。
「月見里さん……」
そういえば、彼女、昨日、駅前の宗教団体と一緒に行動していた……
「ふふふ。あたりー。
流石だねー?
ヤシロ。
愛の力かな?」
「な、なんで……?」
「ん?」
「そ、そっちに戸隠さんはいるの……?」
「……」
「い、いま、何処にいるの……?」
ちっ
い、今、舌打ちされた?
「GPSで調べてみたらー?ヤシロ。
でも、ほんっと、ヤシロってば、タイミング悪いよね。
最悪。
いつも、
いつも!
いつも!!!」
わぁ、なんか、逆上されかかってる。
ふぅ
「ううん。
御免ね。ヤシロ。
びっくりした?」
「え、いや……」
「うふふふ、どうしたのー?」
何か背筋が寒いよ
「この携帯ね、落ちてたの。私はそれを拾っただけ。うふふふ」
「あ、ああ、迷惑をかけてすまない。
あ、あとは僕が引き受けるから、携帯を……」
「ふふふ、私ね、戸隠さんにあってみたいなー」
何だろう、どんどん不安になる。
「だけど、ほんっと、偶然。ヤシロと話せるなんて」
本当に偶然か?
「戸隠さんに、キチンと、お礼もいいたいな。
ヤシロと話せたお礼。何処にいるんだろうね?」
「そ、そうか。月見里さんも知らないのか……」
「ふふふふふふ。競争だね?ヤシロ。
どっちが先に、戸隠さんを見つけるか」
「えっ?」
「よ―――い」
響き渡る炸裂音
銃声が、携帯の向こうで、鳴った。
まるで、これからの日々を暗示するかのように。




