悪戯
妾の名前は、ヴラド。
串刺す者[ツェペシュ]、祖龍喰らい[ドラコエド]と二つ名を持つ、真祖たる吸血鬼[ムロゥイ]じゃ。
まぁ、今となっては、妾の同属なぞ見たことも無いので、妾が最後の1人じゃろう。
そんな事を思っていた時期もあったのじゃ。
今、妾は柔らかな布団で横になっておる。
信じられぬ事に、人肌の温もりを感じながらじゃ。
腕枕と言うらしい、小太りの男子に抱かれておる。
いや、正確には抱きつかれておる。
抱きついたまま、男子は泣いておる。
寝ながら。
器用じゃのう。
妾の胸で泣いておる男子の名は八代 時雨
今日見知ったばかりの人物じゃ。
行きずりの恋。
いやいやまさか、貞淑で、一途で、たおやかな、妾が一目ぼれとは……。
昨日一晩だけで、太き腕で抱きしめられ、荒々しく組み伏せられ、全身という全身を、肌と言う肌を舐められ、口付けされ、貫かれ。
あのように激しく求められる事なぞ久しく無かったので思わず、何度も、何度も肌を重ね合わせてしもうた。
ふふ。もうダメじゃ。
離れられん。
これは、あれか、地球の世界法則[リアリティ]でいう所のNTR、寝取られたというわけじゃな、妾が。
我が主様より。
我が主様……愛しくて、憎くて、引き裂いてやりたくて、血を飲み干してやりたくて、あの酷い裏切りですら快感な我が主様。
今宵より妾は、この者を新たな主として、ついて行きます。
御側近くに侍ります。
ふふ、次、出会った時は容赦はせぬぞ。
くびり殺して、その全身の血を飲み干して、敵討ちを終わりとしよう。
あの時、殺された全員に誓って必ずじゃ。
時雨の頭をかき抱く。
一人寝の寂しさを嫌がり、孤独に涙する、まだ幼き殿方を。
しかしの。
少し困った。
英雄、色を好むとは言うが……。
寝る前は、あんなに激しく燃えたというのにの。
今は、他の女子の事を夢見ておる。
ほんに気が多いの。
そんなに人から愛されたいかや?
愛の深さより、数かや?
ふぅ。
寝る前に散々、言ったんじゃがのぅ。
妾と褥を共にするならば、妾だけを見よと。
のう?お主様?
後悔、結構。
自分の行いを確認する事もたまには重要じゃ。
自己嫌悪、結構。
その分、妾が好きになってみせようぞ。
しかしの。
反省はしておるかの?
何より、重要じゃぞ。
同じ過ちを繰り返さないという意気込みだけでは駄目じゃ。
その方法論を、考える。
そうする事でしか、失敗から学び取った事にはならないのじゃ。
涙を舌でぬぐう。
お主様?
仏の顔も3度までといったじゃろうに、の?
ふふふ。
仕置きじゃ。
さてさて、レオナルド、我が友よ、お主の知恵を少々、拝借させてもらうぞ。鏡文字を。
愛しの君より知識共有で、日本文字を書けるようにする。
そして、最後に、地球文明の力の結晶。油性マジックペン!!
かきかきかき……。
もう、朝じゃな……。
あふぅ。
この異世界での一夜が明けようとしておる。
今、妾がいるのは地球と名づけられた異世界の、弓なりに連なる奇妙な島国じゃ。
主様の知識じゃと朝は少し寒く、日中は過ごしやすいらしい。
ぶるぶるっと身体が震えた。
流石に裸はこたえるのぅ、風邪を引くかもしれん。
布団をしっかりとかぶりなおし、殿方と抱き合いながら暖を取る。
のんびりとくつろげるのは何十年ぶりかのぅ。
昨晩の事を考えただけで身体が火照り、肌の温もりを求めてしまう。
少し別の事を考えねばの。
何故、イプセプスに繋がるはずの異界門[ゲイト]が地球に繋がっているのか?
答えは、ほぼ出ておる。
が、信じられん、信じたくない、何かの間違いじゃ。保留っと。
地球の世界法則[リアリティ]について。
正直、ここまで魔力素が希薄な世界も珍しい、というか、妾が初めてなだけなのじゃろうが……。
魔法も上手く使いこなせんし、体内の魔力素を使用しすぎるのもまずい。
ここまで希薄じゃと、体内魔力素の回復には時間がかかるじゃろう。
魔力素を糧としている生命体にとって、地球と言う戦場は、少々過酷じゃ。
それに加えて、地球の攻撃的な世界法則[リアリティ]じゃ。
今度の戦いは勝機があるやも知れぬ。
ラブラドルの魔導学に似ていながら、根本からして違う科学という名の技術体系。
錬金術から発達したらしいが、正直に言うと「冗談じゃろう?」と言わざるを得ない。
世界内の統一すらされておらず、未だに同じ世界の人間同士で争い、異世界からの侵略に何も備えていない。
異世界の存在を独自の不思議な理論で判っていながら、じゃ。
それどころか、異世界からの侵略は夢物語と思われているみたいだしのぅ。
暢気な。
楽観的というか地球に住む人類は皆、平和ボケしているようじゃな。
敵の存在を仮定しておきながら、それに備えようともしないのじゃ。
……もしかしたら、それすらも、この地球の世界法則[リアリティ]なのやもしれんが。
さて、ラパ・ヌイの先遣隊をどうやって滅ぼしてくれようか。
魔法は使えぬが、それは敵も同じ事じゃ……。
もう、1人でいるのは、いささか飽きた。
このぬくもりは、離しとうないのじゃ。
妾は、新たな主様の匂いに包まれながら、いつの間にか安らかな眠りについていた。




