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世界の 法則が 乱れる!  作者: JR
第01話 僕にこの手を怪我せぃというのか
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僕と月見里雲雀

僕は、まどろみの中、夢を見ていた。

もう、取り戻すことはできない時間。

後悔だけが、胸を縛る。

それは、僕の記憶にある黒髪の少女、月見里(やまなし)雲雀(ひばり)の夢だ。




彼女は、僕の中学時代、唯一の友人として親しかった人物だ。

正確には立ち直るきっかけをくれた人物だ。




当時、中学校2年の僕は、飛行機事故の後遺症で精神的疾患を抱えていた。

それに加え、とかく暗く、その気持ち悪い風貌から、誰も話しかけないし、近寄りたがらなかった。


これには、八代家の問題もあったみたいだ。

閉鎖的な村で、村一番の土地持ちでありながら、地域の集まりにも参加せず、気味悪い猟奇的趣味に没頭する祖父と、それに付き添うようにいる祖母。

村では、そんな彼を宇宙人とあざ笑う事で良しとしていた。

そしてそこに帰って来た、飛行機事故唯一の生存者。






あれは小学校を卒業した時の、春休みの頃の話だ。


中国奥地に墜落した飛行機は、その場所が山間部であった事から救助が遅れ、更にその事故が、中国当局の派閥争いの駆け引きに使われた為に、初動が遅れに遅れた。


事故から5日後、僕が発見された時、全身を火傷と、付着した血液で茫然自失の状態で立っていたらしい。

医者いわく、死んでいないのが不思議な程の傷だったらしい。

何しろ僕はかなりの記憶を失っている。

この事故も殆ど覚えていない。






事故から半月後ぐらいに状況が変わった。


事故で亡くなった遺体には、周囲の獣に喰われた損傷の激しい物も多かった。


しかし、どこかのマスコミから、僕が遺体を喰って飢えを凌いでいたのではないか?という、そんなニュースが報道された。

最初は同情的だった中国民も、報道されるやいなや、愛国心に火がつき、猟奇的殺人者、食人鬼、と非難を殺到させる。

その声は飛行機事故を覆うように、どんどん大きくなった。


更に、その時期、大したニュースもなく、面白い報道に飢えていた日本側のマスコミも、それを大々的に捉えた。

生存者として名前が報道されていた僕は、特番を組まれ、今度は少年Aとして、食人をしたか否かの検証までされて報道された。

結果については、見た人にお任せするという内容だが、方向性は、しただろう、という事を含んだ意図を感じる造りだった。


その後にもう一度、討論番組として、「極限状態での食人は是か否か」という内容で、再び少年Aとして、状況を検証報道される。

大半の識者は「カルネアデスの板」論を出して、少年Aの行為の正当性を主張するが、それでも、殺人者である事には変わらないと言う意見が根強く残った。


問題は「一人だけ生き残って浅ましい」という信じられない意見が出て、これがアンダーグラウンド住民の琴線に触れたようだった。

この時点でアンダーグラウンドでは、事故に関する事は既に下火だったが、少年Aの実名は既に特定、晒されており、食人戦隊カニバリアンや、カニバる!といった面白おかしい動画やAAとして作られ、秀逸な物は住民の心に残った。


そして、トドメとして僕自身が、後のインタビューで両親を喰った事を言っている。

事実だから仕方がない。

だけど「それ以外は知らない」という僕の言葉は、届かなかったみたいだ。


これ以後、僕はどこに言っても罵声を浴びるようになった。

自称・常識人という人から、人喰いは「罪」だと。

関係の無い人に、笑われながら「罰」を受けろと。

事故にあった親族から「償え」と。






このままだったら、3ヶ月もあれば日本人は皆、事件の事を忘れ、今日の昼飯の方に話題は移っていったと思う。

だけど、更にマスコミを惹きつける面白いネタがあった。


中国当局は、事故発生当時から、頑なにブラックボックスを開示する事を拒否していた。


この為、陰謀論者達が、誤認迎撃したのではないか?と、様々な憶測を発生させていた。

そして、その中に、僕がハイジャック犯で、飛行機ともども心中しようとしたという稚拙な内容の推論があった。


ところが、それは結構、的を射ている。


犯人が違うだけなんだ。


最終的には、中国当局は拒否していた音声データを、開示した。

これは各国首脳にのみ、送られたデータで、本来なら一般人は聞く事すらできない代物だ。

それほど大事だったのだから。

しかし、何処からか情報が流出、ネット上で音声データが暴露された。




内容は恐るべき物だった。

当時、飛行機はミャンマーに向かう予定だったらしい。

しかし、何者かにハイジャックされ、中国国境を越えていた。

音声データから読み取れたのは、機内で殺人が起こった事、犯人が外に飛び降りたらしい事だ。

問題となったのは、機長達がすでに錯乱していたらしく、意味不明な事を叫んでいたのだ。

「犯人は、と、飛んでいる。グレムリンだ……」

「女が戦っている!どっちも化け物だっ!!」

「あ、悪夢だ。神よ」

結局、事故は機長達が薬物を投与、もしくは飲酒して、フライトしたのでは?

という事で落ち着いたが、確証は無かった。


これもまた、人喰い騒ぎが収まりかけ、新しいネタを欲していたマスコミが大々的に報道した。






当時の僕は、既に壊れていた。

自覚はなかったのだが、親を失い、失意の少年が、追い討ちを掛けられ、狂わない方がおかしいらしい。

複雑系PTSDという状態で、自罰的になり、本来なら自傷、自殺といった行動に出るはずが、信じられない執念でそれを止めていたという。

「自分の身体は自分の物ではない」

「ココには両親の願いが存在する」

狂喜の目付きで、笑いながらボソボソ言ってれば、誰もが、何らかの精神病と判断するが、それを自覚し、尚且つ抑制しているのは、何の冗談かと医者は思ったそうだ。


きっと、この頃に、僕自身を客観的に見る第三者視点の僕が生まれた気がする。

二重人格みたいなものだろう。

僕がパニくると冷静になれと指令を出し、浮かれてると、馬鹿な奴と水を差す。


ヴラドの時もそうだった。

一所懸命に、僕が欲望に耐えてるのに「やっちゃえやっちゃえ、本能の赴くままに」って。止める側だろ。お前!!


ただ、月見里さんの時は、上手く機能しなかった。

いや、月見里さんにふられた事で、すがる者が無くなった僕が、勝手に作り上げたのかもしれない。



しっかりとした、明確な記憶なんて、中学3年の夏休みからだ。



あとは、いつも霧の中なんだ。



だけど、霧の中の記憶でも、時折、鮮明に思い出す物もある。



今でも、壊れた頭で鮮明に思い出せれる。

ハイジャック犯の事で、僕が答えられる事は少ないが、5人組の東洋人に見せかけた、何か良く判らない者だとは判っている。


人間の姿の下に何か、凶悪な面が潜んでいる。

悪魔のような、青白い血の気のない顔だ。


単純に言えば、あれは人間ではない。

猿から進化した生命体ではない。

そんな話を誰が信じるんだ?


マスコミにも何回か話したが“事故による記憶の混濁が~”で片付けられた。

実際、僕も自分が間違っているって思うところだった。


昨日までは。


そう、今日、気がついた。

あれが何だったのか。



魔法【モンキーミミック】だ。



人間の幻覚を見せていたんだ。

あの、良く判らない奴等は。

あいつらは、明らかに僕達を狙っていた。



僕達を殺す。



ただ、それだけの、その為だけの、ハイジャックに見せかけた破壊工作。

機外へと、飛び去っていく化け物達。


許しはしない。


いつか、必ず……。





精神病の回復と火傷からのリハビリに半年以上をかけた。

身寄りのない僕を引き取ったのが、今の祖父と祖母だった。

僕は、この人達以外の親戚を知らない。


中学校1年の3学期に、この地方の片田舎の中学校に転校した。

中学校は、家から遠く、自転車で15分かかる距離だった。

それも仕方ない事。

少子化により、子供の数自体が減っているのだ。村に住む子供の数など片手で足りる。

そこで、広範囲から、子供を集め、何とか1クラスは作れるぐらいの数を確保する。

そんな所だろう。多分。




転校初日には既に僕が、両親を食べたというのは、知れ渡っていたらしい。

ある程度は覚悟していたが、流石に会う人、会う人、全てに言われ続けると、凹んだ。

そんな風に記憶している。

何度もトイレに駆け込んだ。


それを、面白がって、更に言われた。

良くアレで登校拒否にならなかったな、と、今は不思議に思える。


感情という物が無いに等しかったからだろうし、きっと彼女のおかげだろう。






次の日から、僕の家を訪ねてくる人がいた。



それが彼女、月見里(やまなし)雲雀(ひばり)だ。



何でも、委員長として、僕がキチンと登校する様に迎えに来ているらしい。

何か色々と話しかけられたけれど、この頃の事は殆ど覚えていない。

実際、月見里さんを特別視する様になったのは、中学3年、夏休みになってからだ。


だから、祖母が他界した時にも何があったのか思い出せないし、どういった人物であったのかも、両親ともども記憶の彼方だ。

今の僕は、中学校時代の祖父と月見里さん以外の人の顔を、思い出す事すらできない。






さて、それぐらい僕に影響を与えている月見里さんだけど、何時ぐらいからだったろうか、僕に料理の作り方を教えてくれるようになった。

それが、少しずつだけど、自我回復のきっかけになった気がする。


でも、やっぱり人と会話をする事は無かった。

学校に行っては、会話もせず、話したらトラウマ思い出してトイレで吐いて、帰宅後は、掃除し、料理し、勉強し、睡眠をとる事だった。

全てを機械的に行っていた。






それが劇的に変わったのは、中学3年夏休みだ。


この頃になると、高校受験に向けて夏期講習など、毎日塾に通う人も多くなる。

そんな中で毎日、月見里さんが僕の家を訪ねてくるのが、僕には不思議に思えた。

だから、質問をした。


「月見里さんは、学校の成績は悪いけど、塾に行かなくて良いの?

 人の世話よりも、まず自分の事をしっかりした方が良いのでは?」


多分、僕が能動的に言葉を発したのは、コレが初めてではないだろうか。

彼女は、驚いたようだった。

涙を浮かべていた。


だが、その涙は、笑い → 怒りに変わる。


「余計な、お世話だーっ!!」


そして、殴った。


「痛いよ」

「ちっがーう!!この場合は、『コレが若さか……』って言いなさい!!」

「な、何故?」

「決まりだから!……らしいのよ」


そして彼女は、僕を父の書斎へと案内する。

この中にある父の遺品全てを読め、読んで理解しろ、と。

ココにある物を全部呼んだら、他にも幾つか同じ様な場所があるから、祖父に場所を聞け……と。



僕は、彼女を離れの居間と台所以外、家にあげた事はないんだけど、何故か彼女は父の書斎の場所だけは知っていたみたいだ。

悩みながら本宅を案内してくれた。



この時期は、料理を作るのが楽しかったのと、漫画やアニメ、ゲームにハマッた状態だった。

寝る間を惜しんで漫画を、ゲームを、アニメを、特撮を、ラノベを色々と読んだ、視た。

月見里さんとは、普通に話す事が多くなった。

主に、漫画、ゲーム、アニメ、特撮、ラノベだが。

ようは父の遺品に関する内容だ。

(後で聞いた話だが、ラノベは月見里さんの物らしい。

 小説関係は、僕の物以外、家には無い)




夏休み中、僕はかなり感情を取り戻していた。


いや、取り戻すというよりは、大急ぎで作り直したに近いだろうか?

包丁で指を切って、大泣きしたし、風邪を引いて、不安なので、月見里さんに手を握ってもらっていた。

正直、自分自身の感情を持て余していた。


この当時の月見里さんは、僕にとって母親だった。






夏休みがあけてから、僕は初めて自分の周りの状況を客観的に見る事ができるようになった。


僕は、月見里さん以外の人からは、人肉喰らい[マンイーター]と呼ばれていた。

僕を取り巻く環境は、どうやらイジメに近い状態だった。


何かある度に罵声が飛び、暇を見ると罵詈雑言を浴びせる。

陰湿ではない分、感情がついてきて、罪の意識とやらに耐性がつくと、流石に、トイレに駆け込む回数は減った。




問題は、月見里さんの方だった。


僕が、感情を持て余し気味なのを悟って、今まで学校では無関心を装っていたのを、夏休み明けから急に僕を庇いだした。

これが、一部の女生徒に反感を持たれたらしい。

内申書を良くする為だとか、今更良い子ぶってとか、そういった陰口を何回か聞いた。

僕と一緒にいる事が、彼女にとってデメリットとなっていた。


僕は、月見里さんに今まで通り学校では、僕を無視する方が良い、と言ったが、聞き入れてはもらえなかった。


それどころか、殴られた。

「アンタが私の身を安じようなんて一生早い。

 黙って私について来い!」

と。

「それ、どんなプロポーズだよ」

って笑ったら、ボコボコにされた。


もしかしたら、僕は彼女に嫌われていたのか?



それでも、月見里さんは頑張っていた。

だけど、

更に陰口は酷くなっていったし、クラス内でも浮いている事が多くなった。






何かが決定的に変わったのは、12月の初め。

たいてい週末は、八代家に来るはずの月見里さんは、あの日、土曜日は用事があるからと、都会の方へ遊びに行った。


日曜日は遊びに来なかった。


月曜日は学校を休んだ。


僕は、携帯で連絡を試みたが、拒絶された。


火曜日、学校に来た時には、どこか疲れた感じだった。

目は真っ赤で、髪はボサボサだった。

「大丈夫?風邪?」

「え、うん。まぁ……」




今になって思うと、昔の僕を殴りたい。

何を見ていたんだと、ボコりたい。

何で、あの時、気づく事ができなかったのか。

何で、あの時、気づけなかったのか。






この日から、月見里さんは、おかしくなっていった。




僕とあまり顔を合わさなくなった。


一緒に帰宅しようとすると、用事があるからと、1人で先に帰るように勧められる事が多くなった。


週末、八代家に来る事が無くなった。


休憩中、どこかへ出かけて、そのまま教室に戻ってこない事が多くなった。


今まで仲の良くなかった、あまり良い噂の聞かない女生徒2人と行動する事が多くなった。


黒く長かった髪を切り、脱色した。


茶色い髪は意外と似合っていたけど、やっぱり違和感を感じる。

まるで、今までの自分を否定するかのような、別人になりたがっているかのような……。






でも当時の僕にとって、それは渡りに船だった。

僕と一緒にいる事が、彼女にとってデメリットとなっていたのだから、月見里さんが、僕から離れると言う事は、元の状態に戻る事。

つまりメリットだった。



世の中には、元に戻す事ができない物なんて数多くあるのに。

僕は、元に戻ると固く信じていた。






クリスマスが過ぎ、正月が過ぎ、受験も間近に迫っていた。


もう、月見里さんと話す事は無い。


教室でも、知らんぷりをされるようになった。






多分、僕にとって、この頃は母親離れに近い状態だったのではないかと推測する。

もしくは、月見里さんをはっきりと異性として認識し始めた頃だと思う。






月見里さんが、他の男の人と話をしているところを見ると、胸がいがらっぽく、少しモヤモヤする。


肩を抱かれた月見里さんを見て、むっとした。


月見里さんは、僕に内緒で何かを売っているらしい。




物凄く悔しかったけど、これで月見里さんが、笑えるなら。


今みたいに疲れた顔で、下を向いて歩かずにすむなら。


僕の顔を見て、怖がらないでくれるようになるなら。




僕と、一緒にいないで、他の人といるのは、彼女にとってもメリットなんだ。





でも、月見里さんは元には戻らなかった。



いや、それどころか、どんどん酷くなっていった。




僕の大好きな笑顔も、怒った顔も、心配そうに僕を見ていた顔も。

もう、過去の物となった。



今まで活発だったのが、嘘の様に暗く、笑わなくなった。

表情が消えた。

頬もこけている。

目には隈がある、いつも充血してる。

泣いている。





何だ?

何が起こってるんだ?


おかしいじゃないか。

月見里さんは、僕から離れた。

皆は、月見里さんを受け入れて、いつも通り、僕を罰していれば良いじゃないか!




判らない。

今の僕には、理解できない。


何故、月見里さんが元に戻らないんだ?




そうか。

きっと、まだ、足りないんだ。

まだ、怒りの矛先が、月見里さんに行ったままなんだ。


だからか――――!



ならば簡単だ。

クラス中の怒りを、僕の所に集め、月見里さんには同情が行く様にしよう。






数日、考え込んで、素晴らしい案がでた。

2月14日は、確かバレンタインデーといい、愛の告白をする日だったと聞いている。

チョコを送る風習や、女性に奴隷として仕えたり、贈り物をするんだっけ?



まぁ、いいや。






2月14日。

決戦の日だ。

運命の日だ。

エックスデイだ。




僕は今日、月見里さんに告白する。




そうすれば、教室中から、僕に罵声が飛んで来るはずだ。


「人肉喰らい[マンイーター]が人を喰おうとしている、月見里さん逃げて!!」

「外道が人に話しかけるな」

「あさましいブタめ!」


笑いながら、皆が口々に言うはずだ。

怒りながら、月見里さんに同情するだろう。



それでいい。

何も月見里さんが、僕の代わりに嫌われる必要は無い。


罪を犯したのは、僕。

罰せられるのは、僕。

すべて償うのは、僕。






席を立ち上がり、月見里さんの方へ向かう。

丁度良かった。

月見里さんは最近良くつるんでいる、あまり良い噂の聞かない2人の女生徒と一緒にいる。

きっと、僕が告白すれば、彼女達も月見里さんに同情的になってくれるだろう。

「何考えてるんだ、気持ち悪い奴!」と。




少しばかり緊張する。

心をしっかり持て。

これから、僕は教室中から罵詈雑言を浴びるんだから。




僕が近づいていくと、2人の女生徒が気づいた。

何のようだ?とばかりに僕をねめつける。



「あ、あの月見里さん」


びくっとして、月見里さんが僕を見る。



教室中が、僕に注目する。



うう、手足がプルプルしてる。

緊張しっぱなしだ。


さぁ、一世一代の大博打だ。

これで、月見里さんも元に戻れる。



月見里さんの目を見て。

どもらず、大きな声で。

深呼吸。



ゆくぞっ。




「あ、あの、月見里さん。

 好きです!

 僕と、つ、付き合って下さい!!」




教室中が静まり返る。


僕は、今までこんなに大きな声を、出した事も無かった。


月見里さんも、目を見開いて、かたまっている。

やっと、僕を見てくれた。

もう2ヶ月以上も、視線を合わせてくれなかったから、少し嬉しい。






ぷ、っぷ、くっふ。

最初に笑い声。

月見里さんの両脇の女生徒達。

赤メッシュさんとガングロさんが、笑ってた。


「なに?マンイーター、ヒバリンを喰いたいのwww」

「あははは、つつきあいたいって、あの噂、聞いたんだwww」


え、何?

何がおかしいの?



「ヒバリーン。マンイーターがやりたいってさ?どーする」

赤メッシュさんが月見里さんの肩を抱く。


「もしかしたら、食べられちゃうかもねー?」

ガングロさんが、月見里さんにもたれる様にして笑ってる。



「アンタの仲良し、マンイーターだ。

 今回は、アンタの好きな値段で許してやるよ」

「おら。ドーテー君がご指名だよ。

 キチンと値段を言ってヤンな」



何だ、何が起こっているんだ?

僕の想定していた状況でない事が起こっている。


クラス内はこの状況を静観している。

僕への罵詈雑言は?

月見里さんへの同情は?

予想していた事は起こらなかった。



それどころか、月見里さんが――――



ガタガタ震えてる。

笑ってるけど、笑ってない。

泣いてないけど、泣いてる。

何だ?

あんな表情、見たことない。

今まで一度も。

泣いていて、笑ってる?



「あ、はは、は。ヤシロ……し、知ったんだ。

 あははは、い、いつ、誰から、聞いた、の?」

「え?」

「し、しょうがないなぁ、や、ヤシロは」



「で、早く値段を言えよ。お客様がお待ちだぞ」



「あ、うう。に、2枚でいいよ。

 だ、大特価。サービス、サービスぅ」

何故か、僕にピースする月見里さん。



「ぷっ」

「おいおい、マジですかーwww」

「あははははは、何、ヒバリン。

 マジ?デブ専ってwwww」

「ちょーうけるwww」

「ヒバリンの趣味、さいってーwww」



良く判らないけど、うけてます。



だけど、

「今の態度はイケねーよなぁ?

 おら。ヤシロじゃねーだろ。

 お客様なんだから、キチンとマンイーターと本名で呼んでやれよ」

赤メッシュさんが、ゴッと脇腹にパンチを入れる。

「キチンと、名前を呼んでやれよ。マンイーターって」

ガングロさんが月見里さんの足を踏む。



「あ」



震えている。

月見里さんが。

血の気が引いて、顔が真っ白だ。

唇が震えて、

目に涙を貯めて、

ワナワナと。




「人肉喰らい[マンイーター]」





ひぐっ


今まで、彼女だけが言わなかった。

だから、僕にとって、彼女は特別だった。

彼女自身も、言わないという行動で、それを示していた。


だけど、今日、彼女はきっぱりと。

クラス全員の前で、僕に別れを告げた。


胸が痛い。

誰からも言われ慣れているじゃないか。

人肉喰らい[マンイーター]って。

彼女が、そっちに行っただけだ。


僕と供に歩んでくれていた人が、今日、僕を罰する側にまわった。




「あはははは、良かったな、人肉喰らい[マンイーター]www」ひーひー

「卒業記念にキチンと撮っておいてやるよ!ぎゃはははwww」可笑しくてシニソー




大丈夫。

僕はきっと笑える。



月見里さんに何といわれても、笑っていられる。



僕はもう大丈夫だよ。


1人でも立っていられるよ。


ありがとう。

精一杯の感謝と、貴女のこれからに幸、多からん事を。



御免。今はマトモに顔を見れないや。

でも、きっと笑ってるよね。月見里さん。



さぁ、退場しよう。

トイレに行って、いつものように吐いてこよう。






月見里さんは、次の日から、登校しなくなった。




そして卒業を迎え、僕は、今の高校に入学した。




そう、まだ、ほんの数週間前の話だ……


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