お勉強会 保健→現国
ふぅ。
少し困った事になった。
いや、私的には困ったどころか、有頂天なんですが。
内蔵で1回、風呂場で2回、食前に1回、食後に2回、離れから本宅に移動中に何となく1回、汚れたワイシャツを洗うために洗濯機の所に戻ったら1回。
計8回。
出しすぎじゃね?
おかしいでしょ。絶対。
普通の人間の出す回数は2?3回程度。
軽く3倍です。
あ、でも。
特殊な娯楽作品に出演した男優の最大は52回
ドイツの学生は36回だったか31回だったか。
あー。
それなら、いけるか?
まだ、大丈夫。
あと10回くらいはヴラドとできるでしょ。
……
あああああああああああああ
違う、そうじゃない!
理性、そうだ、理性 COME IN!!
ん?
COME IN……
そういえば、ヴラドは、抱かれている時は、殆ど声を出さないなぁ。
吐息を聞いているだけでも、興奮するけど、もう少しバリエーションを増やしても面白いかも……。
「んん?どうしたのかや?」
風呂場から戻ってきたヴラドは、大きめのバスタオルで、髪の毛を拭きながら、こっちに来る。
場所は、僕の寝室だ。
本宅の増築された部分、1階にあり12畳1間の大きい部屋だ。
室内は、衣装たんす、ベッド、書棚が北壁に並び、東は4枚窓、南側に勉強机&パソコンラック、TV、中央に炬燵という配置だ。
ベッドや炬燵の布団、いくつかの物品には、昨日の惨劇の跡が残っている。
昨日の事を思い出すと、気分が重くなる。
「!!」
ああ、そうだ。
何で忘れてたんだ?
僕は、あの2人に対して不誠実な行為をしている。
8回も!
いや、正確にはもっとですが!
今の僕は、ヴラドより、あの2人の事を真剣に考えなくちゃいけない。
こんな僕の事を真摯に慕ってくれる……あのふたr
「お主様!!」ギリギリ
「いてててててっ」
耳を引っ張られる。
「他の女子の事を考えるな、とは申さぬが、せめて睦言の時ぐらいは妾の事を見よ。
礼儀であろう?」
「あ、ごめ……」
「で、何を考えておった?
知識共有で見た、あの黒髪の女子の事か?」
そんな気分を払拭するようにヴラドに笑いかける。
「いや、何でもないよ」
「何でもないで済まさず、愚痴や弱音は妾に吐け……
と言ったはずなんじゃがのう。愛しの君?」
両手で頬を挟まれ、目と目を強制的に合わせられる。
今のヴラドは、ワイシャツではなく、僕の少し厚手のトレーナーを着ている。
あー、これも扇情的だ。
すでに、僕の中からは、2人に関する事は、罪悪感、自己嫌悪含めて消えている。
ただ、ただ、目の雨の人物、ヴラドを押し倒したくなる気持ちを、掻き集めた理性で、押し留める。
既に決壊寸前だ。
「あの、ヴラド、髪の毛、ドライヤーで乾かすよ。
反対側向いて?」
「話の逸らし方としては、あまり上手くないのぅ。
じゃが良かろ。
女子が口を挟まぬ事が、良い事もあろうて」
「さっきは御免ね」
「……どっちの事じゃ?」
「え?
もちろん、その、口で……。
き、気持ち悪くなかった?」
「良い。妾から頼んだのじゃ。
妾もツェペシュ“くしざし公”とも呼ばれた者よ!
したい、されたい、ほーばりたい、は基本じゃ!
……なんじゃが、流石に髪の毛にこびり付いたのは、落とすのに時間が掛かってしもうての」
「あー、ほんとに御免」
「ふふふ。良いのじゃ。
こうして全身を、お主様に染められていく。
お主様の物になっていく。
無上の喜びじゃ」
そう、真っ直ぐ言われて、さすがに、赤面する。
ブォォォォォ――――――――
ドライヤーでヴラドのボリュームのある銀髪を乾かす。
「あー、実はさっき、思ったんだけど、抱いている時に、ヴラドってあんまり声を出さないなって」
「うん?」
「あ、いや、ほら、特殊な娯楽作品の女優みたいに声を出したら、もう少し良いかなー、……なんて」
「ふむ」
にまぁ
「でもね?
お兄ちゃんのベッドの下にある書物に書かれた大半の女性は、声を殺したり、指をかんで耐えたりしているよ?」
「!!」
なんで、それを!!
あ、そうか、知識共有!
これって、もしかして、プライベート筒抜けなんじゃ?
「ふふふ、安心せい。
今のは知識共有ではなく、
その前の性魔術【恋人達の抱擁】で入手した知識じゃ」
初めて会って、まだ数時間しかたってない。
しかし、何故か時雨は、このヴラドという、自称、真祖たる吸血鬼[ムロゥイ]という男の娘を、全面的に信用していた。
深い所で繋がっていたからか、相手の事が何となく判ってしまうのだ。
色々と。
性魔術【恋人達の抱擁】の効果が切れた時、非常に辛かった。
現在の、このサルみたいな中毒症状が、性魔術【恋人達の抱擁】の影響下に戻りたいから行っている様な、そんな錯覚さえ起きてしまう。
まるで、媚薬、ないしは麻薬のような効果としか考えられない。
いや、媚薬を使うようなシチュエーションは、今までの人生で一度も無かったのだが……
今までの人生経験をひっくり返すような事件が起きた。
それは、これから起こる事の序章に過ぎず、目の前の、男の娘が、それを運んできた。
これから起こるであろう、災厄ともいえる出来事。
その事を、これからヴラドが話してくれるという。
虚実の判断をするのは、時雨自身だが、ヴラドが嘘を吐かない事は判っていた。
いや、知っている。
多分、これが、ヴラドの言っていた絆というモノなのだろう。
絆といえば、流石に呪法【純潔の誓い】はどうかと思うが。
知識、感覚共有の他には、女性が男性に一方的に、その力を与える類の呪いらしい。
似たようなので【騎士の誓い】があるので、そっちを使えば良かったのに、と思うんだが……
これは女性の代わりに騎士、対象の男性が王族に変更しただけの物で、儀式内容としては、騎士が剣を捧げるという良くある呪法だ。
わざわざ、あんな痛い思いしないでも……
他にも【英雄の誓い】【従属の誓い】【隷属の誓い】【夫婦の誓い】と色々あるらしく、関係と儀式方法だけが違うだけで、殆ど効果は似たり寄ったりだ。
そんな事を考えていると
「決まっておろう。
愛し人には、初物を捧げたいじゃろ?」
そーなのかー。
そこだけは、判らない。
その人の価値観しだいではないかな?
と僕なんかは思うわけですが……
「女子にはのぅ。
殿方には秘密にしておきたい事もあるんじゃ。
ふふ。判れ」
いや、貴方は男の娘ですから。
「知識共有しておるといっても、
肝心な事は話しておいた方が良いのでな。
イメージの誤認もあるし、
魔法の誤訳の可能性も無いとは言えん」
「う、うん。よろしくね」
「さて、まず、敵のことを話す前に、自己紹介からいこうかの?
今更じゃがな」
「はは、そうだね」
「お主様は、SEXから始まる恋愛譚は嫌いじゃからのぅ」
「じゅ、純愛物が好きなんだよ。
口付けしようとしたら邪魔が入り、手を握るのに数日も掛かる様な……」
「ふふふ、それに比べたら、トップスピードじゃな?妾等は」
僕に背中を預けて、髪の毛を乾かしているヴラドは、車のギアを握る様に、僕の益荒男に手を這わす。
そして、ローからトップにギアチェンジする。
たった、それだけで、僕の理性は崩壊する。
「ふふ、9回戦目かや?」
「いいね」
顔だけ振り向かせると、唇を奪う。
事後。
あああああああああああああ。
だから、僕はサルかぁぁぁっ!!
時間構わず!
場所構わず!
状況構わず!
自己紹介途中でコレだよ!?
敵はもう、侵略開始していて、僕らは迎撃準備どころか、敵の事すら知らない!!
「あー。すまなんだ。誘ったの妾だしの」
トイレから帰ってきたヴラドが謝る。
いや、悪いのは、僕。
正確には、僕の意思に逆らう特殊な筋肉!!
「あはは、こちらこそ御免ね?ヴラド」
「いや、妾もここまでの回数をこなした事はなくての?
流石に、ヒリヒリするんで、治癒の魔法【ヒール】を掛けてきた」
「まじごめん」
「いやいや、じゃから10回戦も大丈夫という話じゃ」
唇を舐める。
「それとも、前人未到の、喉の奥でも堪能するかや?
スルターンすら入れた事のない聖域ぞ?」
「……」ごくっ
「しかし、なんじゃの。
知識共有でなければ判らんかった事じゃが、喉の奥、脇の下は判らんでもないが、へそ、鼻は流石にどうかと思うのぉ。
目はやりすぎじゃろ、幾らなんでも」
「あはは……」
「それにNTR?
あの感覚は、この世界独特の物じゃな。
妾には判りとうない感情じゃ。
この世界、ほんに快楽追求に貪欲な世界じゃ」
「あはは」
もう苦笑いしか出ない。
「まるで、クルアーンにあった悪徳の町じゃな?
ふふ。そうじゃの。
このままお主様と供に、神の炎で塩の柱にされるのも一興かの?」
「ん?
コーランにも、その話あるの?
ソドムとゴモラ」
「ああ、妾の世界でスルターンが、
住民統制に使用していた宗教の聖典にはあったがの」
かちゃかちゃ
デスクトップPCを使って検索。
「あー、こっちの世界にもあるみたい」
「ん?お主様の名台詞集に面白い言葉があった。
この世界を端的に現す良い言葉じゃ」
「あったっけ?」
「んむ。
己の心と書いて忌わしいと読む。
己の心に従って堕ちてゆくのが忌わしいなら、
それもまた良いものじゃ。
という内容ぞ」
「あー。
それ、親父の遺品の中にあったDVDだ。
結構、気に入ったんだよね。退廃的な雰囲気がさ」
「ふふ、退廃的か。
ならば、お主様よ。
己の心に従って、未だ誰の進入も許していない聖域を、汚してみんかや?」
ごくり
「……口開けて?ヴラド」
到達しました、聖域。
そして10回戦突破。
おめでとう。
はい。
もうね。
自己嫌悪も通り越して、頭の中で、戸隠さんと月見里さんがさっきまで、怒っていたんですけどね。
あきられました。
うん。何というか、名誉返上、汚名挽回って感じ?
はあぁぁぁぁぁ
「なんじゃな、いちいち、汗を流す度に風呂場へと戻るのが億劫になってきたのぅ。
何か飲み物はあるかや?
流石に少し喉がイガイガするのでな」
「あ、うん。」
ペットボトルの水をコップに入れて渡す。
今度は2人、並んで炬燵に入る。
もう5月近いのに、最近は寒い日が続く。
「さてさて、お主様?」
「うん」
「自己紹介の続きじゃが……」
「ちょっと待って、お茶とお茶菓子を用意する。
でないと11回戦目に突入する。
絶対、自信ある」
「妾もじゃ。ふふ」
ガタ、ゴトゴト。ピィー。
お茶菓子ついでに、時雨はノートパソコンを起動する。
メモ用と、ある程度の知識を必要とするような内容があった場合に備えてだ。
「さて、妾の名は、ヴラド。苗字はない。
通常は、渾名をつけて呼ぶことが多いの。
妾だったら、祖竜喰らい[ドラコエド]や、串刺し[ツェペシュ]といった名じゃな」
かちゃかちゃ
僕は、こっちの世界のヴラド3世をノーパソに表示する
「こっちのはこんな感じだけど、どう?」
「ふむ、似ても似つかんのぅ。
ん、龍の子[ドラクロア]が、吸血鬼としてのイメージになっておる訳か。
家族構成も違っておるな。
妾には兄が1人じゃが、暗殺はされておらんし、弟もおらん。
種族そのものが違うしのぉ」
「そうだね。似てるのは名前だけ……かな」
「うむ、今、サラリとこっちの世界と流しておったようじゃが、まずは、基本的な事を知っておいた方が良いじゃろうな。
取り敢えずは、世界の生い立ちからでもいこうかの」
「うん」
「では、今から少しづつ様々な事を話していく事になるが、少し気をつけて欲しい事があるのじゃ」
「なに?」
「うむ。
今からする話は全て、妾が色々な世界を見て回ったり、特殊能力【龍の英知】で知りえた情報から判断したものじゃ。
専門の魔術師や賢者のような、機知、英知ある者の話とはかなり食い違う事もあろう。
じゃから、鵜呑みにはするでない。
何事もお主様自身が考え、判断するための材料の1つ、そうじゃな……ヴラド仮説とでも思っておくのじゃ」
「ああ、そういう事なら……うん。判った。
僕らの世界でもあるよ、本やネットで知った、耳障りの良い知識が、絶対に正しいと、頑なに信じてしまう人。
本や、ネットは最高の洗脳装置だから、全て疑う事が重要なのに……」
今では過去となっているが、あの飛行機事故の時、ハイジャック犯が時雨だという噂が流れ、それが真実であるという物的証拠を捏造した書物や、それをソース元に真実であると述べる識者が数多く現れた。
それは、人喰い[マンイーター]として罵られ、糾弾されている少年を、更なる窮地に立たせるものだった。
「ふむ、お主様の心に深く傷を負わせているようじゃな。
その、えーと、飛行機とかいう乗り物による事故とやらは。
そう、落ち込むでない」
ぎゅっ
ヴラドが僕を抱きしめてくれる。
「うん。ありがとう、ヴラド」
鼻孔をくすぐるヴラドの匂い。
同じシャンプーなのに、何故、こうも違うのか。
ヴラドも少し、熱のこもった瞳で、僕を見ている。
自然と段々、顔が近づき……
!!!
バッ
身体を離す。
やばかった。
もうあと一瞬、踏みとどまれなければ、11回戦目だった。
身体は既に、臨戦態勢に入っている。
ヴラドもそれは判っているみたいで、心なしか、不満そうだ。
きっと、今の僕も、未練たらたらの顔でいるんだろう。
「は、話の続きをしよう。ヴラド」
「う、うむ。11回戦目は、終わってから……
いや、中休みぐらいにでも、し、しようかの」
「う、うん、中休みぐらいまで、が、我慢しよう。
きっと、その方がもっと気持ち好いから」
「そ、そうじゃな」
僕は話を続ける為に、少し身体を離す。
相手の体温、匂い、肌触り、話し声、五感の全てが相手を求める事に直結している。
理性そのものに期待できない以上、離れるくらいしか方法はない。
「うぅ」
身を切られる以上に、とても切なく、胸が張り裂けそうだ。
ヴラドを見ると、凄く物欲しそうな顔だ。
……って、きっと僕もあんな顔をしているんだろう。
理性では判ってる。
普段の僕からすると状況自体がありえないのだが、それ以上に今の僕がおかしい。
欲望に歯止めが効かない、感情の制御が効かない。
そう、ヴラドとの行為の最中は、まるでドラッグをやっているかの様な……。
「まぁ、のぅ。
確かにおかしいやもしれぬが、今のお主様、妾もそうじゃが膨れ上がった欲望、生理的欲求の中でも3大欲求の1つとまで言われる色欲の前では、理性なぞ濁流の中の木の葉のようなものじゃ。
仕方あるまい。
ましてや、お主様は今日が初めてなのじゃろぅ?」
「う、まぁ、はいぃ」
「ならば欲望に抗う術など無かろ。
お主様が理性で色々と考えようとしても、今は無駄じゃ。
性欲の前では、理性なぞ時の彼方へと押しやられてしまうのじゃからな」
「うぅん、だけど、だからといっても……」
「妾と肌を重ね合わせるのは嫌かや?」
「そんな事、無いっ!」
絶対にありえない。
と言うか、今だって押し倒したいんだ!
「ならば、今はその欲望に身を任せても良いのでないかや?
妾も嫌ではないのじゃ」
うう。
そんな事言われたら、今すぐにでも11回戦目になってしまうじゃないか!
「判っておる。
だからこそ、こうして身体を離し、次までの準備期間としておるのではないかの?
じゃから、その様な熱い目で見られると、妾も身体が火照ってしまうのじゃ」
中休みまで今一時の辛抱じゃ」
「うん……判った。
さぁヴラド、話の続きをしよう」
「うむ……」
「世界は無数にある。これは良いか?」
「平行世界[パラレルワールド]とか、
多元宇宙[マルチバース]みたいなの?」
「ふむ、そういった概念はあるようじゃな……
では、根っこの部分、全ての世界の一番最初は、どのような状態であった考えられておる?
要は全ての世界の基本形となる、原初の世界[アスル]がどの様な世界だったかという事じゃな」
「うぅん~」
「この手の話はどの世界にもあっての。
ラパ・ヌイでは原初の世界[ティキ]とか言われておる。
お主達の所ではどうなっておる?」
「えーと……
あ、始原の大爆発[ビックバン]の事?」
「なんじゃ、それは。
変わった常識の世界じゃのう。
世界が爆発より出でし、とはの」
「えー?」
「まぁ、良い。
世界の概念は先ほど上げた2つで、間違いは無いじゃろ。
要は原初の世界が、単数か複数か、という事じゃな」
「単数であった場合は、そこから事象毎に木の枝のように世界が分化していくワケじゃ」
「原初の世界[オリジン]と考えればよいの?」
「うむ。複数の場合は、いくつかの世界の鋳型があって、
そこから、それを元に各世界が発展していった、という考えじゃ」
「原初の世界[テンプレート]でよいのかな?」
「飲み込み早いのぉ。
流石、我が愛しの君じゃ」
「いや、からかわなくて良いから……」てれっ
「さて、自己紹介の続きじゃが、妾の出身世界は、イプセプスといってな。
先程も言っておった、原初の世界[アスル]から、できた世界という事になっておる。
じゃが、少々、特殊な世界のようでの、同じ型の世界を見た事が無いのじゃ」
「同じ型?」
「うむ。
他の世界では氷河期と呼ばれておる時代が終わらずに、世界が寒いままじゃ。
多少は温暖になっておるようじゃが、
他の世界と比べても、地形や動植物の分布、種族が違うのぅ」
「んー。じゃあ、こっちの世界の、
氷河期の頃の世界地図を、ネットから拾ってこようか?」
「その魔法具でかの?いや、良い。
自己紹介は、さらっと終わらせるつもりじゃ。
それより、敵の事を早く聞きたいであろ?」
「あ、うん」
「妾の世界は、この世界で言うムスリム勢力が優勢でな。
この世界の暦で言うと、確か、西暦600年頃かの?
開祖のムハンマド亡き後、代理人[ハリファ]となったのが、
真祖たる吸血鬼[ムロゥイ]で、名前をウマルといってのぅ……」
「……」
「この者が、神権の代行者[ハリファ]と統治権の行使者[スルターン]に、
権威と権力を分散して、人間の支配を試みたのじゃが、これに反対する人間勢力が現れての。
彼らは自らを、シーア・アリーとして武力抵抗を起こして、周辺諸国を巻き込んで行くのじゃ」
「ちょと待ってね。
ワケ判んないので理解するから」
「まぁたいした話ではないしの。流すだけで良い。
そんなわけで、人間対吸血鬼の中、妾が生まれてのぅ。
で、西暦でよかったかの?1500年ぐらいに、ラパ・ヌイの侵略じゃ」
おや?
自分の事をぼかした……。
まぁ、触られたくない事もあるだろうしな……。
「それで、妾は戦争後、ラパ・ヌイに取り残される事となってな。
それ以後、冒険者として、ラパ・ヌイ各地や、侵略途中の世界を見て周り、見聞を広めておる」
「あれ、ここに来たのは……」
「うむ。別口での。
元々、ココにある異界門[ゲイト]は、少し特殊なんじゃ。
その事については、後で話す」
「判った」
「さて、お主が立ち向かうは、魔術を極限まで学問として研究し、生活の場、仕事の糧として国民全体に教育している世界ラパ・ヌイじゃ。
簡単に言うと、道行く人々が全員、魔法使いという事じゃな。
手ごわいぞ」
「教育制度が整っているんだね。
ファンタジーにしては妙に、
社会システムがしっかりしてそうだけど……」
「うむ、初等教育と兵役は義務化されておる。
その上で、それぞれの各種専門の機関に通う事ができるな」
「あー、こっちと、ほぼ似た様なシステムだね」
「なんじゃ、此方の世界も、教育さえ受ければ、騎士や高位魔法師になれるのかや?」
「あー、うん。それはない」
「では、次に世界の侵略方法じゃ」
「うん」
「世界と世界の間には見えない境界線がある。
この境界線が何らかの方法によって破壊されると、そこに割れ目ができる。
それが、迷宮[ラビリンス]じゃ」
「割れ目を迷宮[ラビリンス]っていうのは何で?」
「む、それは、後にしようかの。
その名称はラパ・ヌイ独特の物じゃ」
「……」
「他の世界では次元穴[フォラメン]とか穴[ガウル]、次元断層[フォルト]、割れ目[クレパス]とか色々じゃ。
お主も何か名づけてみるかや?
この世界ではお主が名付け親じゃ」
「んー。何でも良いけど……」
「名前を馬鹿にするでないぞ。
お主が、どのような名をつけるかで、全てが決定してしまう事もある。
名は体を表す……か?
良い諺じゃな。
それに、魔法にも真名[パワーワード]という発動法がある。
その物の真なる名前を発する事で、全てを支配下に置くという方法じゃな。」
「ん、真言や言霊といった物だね」
「おお、その概念もあるのかや」
「んー。じゃあ、次元回廊[コレダー]で」
「ふむ、では、これからは、それで統一して話す事にするかの」
「さて、世界と世界が、次元回廊[コレダー]で繋がるとじゃ、それぞれの世界が世界法則[リアリティ]の進入を阻むために防衛措置にでる。
それが、異界門[ゲイト]じゃ。
大きさや、色は様々じゃが、形には共通点があっての。
必ず両開きの扉で、内側、外側どちらにも開くようになっておる」
「ふーん。西部劇の扉……スィングドアみたいな造りだね。
でも、内蔵にあった扉は、形が違ったよ?
あれは、内から外へと開く造りだけど……」
「妾が出てきた瞬間を思い出すが良い」
「……あれ!?
飛び出してきてるね?」
「話を戻すぞ。もう1つ重要な事があるのじゃ」
「……おかしいなぁ、どういう造りなんだろ?
……蝶番を一度調べてみt」
「聞けい!重要なんじゃからっ!!」
「うわっ、ごめんっ!」
「むぅ……良いかや?」
「はい」
「うむ。ではの、次元回廊[コレダー]についてじゃが、世界は、次元回廊[コレダー]をいくつも創り出せる。
じゃがの、1つの世界に繋げる事のできる次元回廊[コレダー]は1つだけじゃ」
「え?」
「判るかや?」
「うん。じゃあ、侵略戦争っていうのは……」
「うむ、ほぼ序盤戦で決まる。次元回廊[コレダー]を制した世界が勝つ」
「さて、次に何故、侵略するかじゃな。侵略する以上、目的がある」
「ああ、うん、そうだね」
「ところがの、実際のところは、それぞれの世界で違う可能性があってな」
「?」
「能動的な侵略をした世界を、妾は2つしか知らぬ。
いくつも見ている訳ではなくての。故に判らんのじゃよ」
「ラパ・ヌイと、あと1つだね?」
「然り。
妾の知っている侵略世界は、ほぼ全てはラパ・ヌイじゃからの。
じゃから、他の世界がどのような理由で攻めてくるのかは知らん。
とはいえ、今回、敵はラパ・ヌイじゃからいつもと同じ理由じゃ」
「どのような理由?」
「うむ。
その敵の目的を話す前に、少し横道にそれて、ある仮説を聞いて欲しいのじゃ。
これは、侵略の根本に関ることでな。
立証はされておらんが、妾は侵略戦争の起こる直接原因じゃと思っておる」
「ーーー!!
それは、どーゆうの?」
「うむ、能動的な世界侵略を開始するには、とある条件が必要になる」
「条件?」
「そうじゃ。
結論を先に言うと、世界に不滅存在[イモータル]が、発生した時。
それが能動的世界侵略の開始条件じゃ」
「不死者[イモータル]?」
「うむ、どのような状態であれ自然の理[ベースリアリティ]から外れ、その世界において滅亡する事のない存在じゃ……」
「物は壊れる、人は死ぬ~♪」
「なんじゃ。
その詠唱[チャント]……いや、呪歌かや?」
「ただの歌だけど、
自然の理[ベースリアリティ]ってこんな感じの事?」
「むぅ、話の腰をおるでない」
「すいません」
「えーと……。
そう!不滅存在[イモータル]が発生すると、世界と世界を隔てている境界が急に脆くなり、穴が開きやすくなるのじゃ」
「んーと、その穴って次元回廊[コレダー]の事だよね。
世界侵略がしやすくなるって事は、次元回廊[コレダー]は自然発生する物ではないの?」
「色々じゃな。
何かのきっかけで開く事もあれば、魔法でこじ開ける事もできる」
「うわぁ。でも何で、不滅存在[イモータル]が現れるとなんだろ?」
「うむ、実は結構、あたりまえの話でな。
世界が意思を持っているとしたら、不滅存在[イモータル]は容認できんじゃろうて。
世界自身が決めた、基本法則である自然の理[ベースリアリティ]に反するんじゃからな。
先ほど歌っていたであろう。
物は壊れる、人は死ぬ……と。
それこそ基本となる世界法則、自然の理[ベースリアリティ]じゃ」
ごくり。
「そこで、不滅存在[イモータル]を滅ぼそうと世界が牙を剥く。
なに、己の世界の理[リアリティ]で、滅ぼせなくとも、
他の世界の理[リアリティ]なら、不滅存在[イモータル]を滅ぼせよう。
不滅存在[イモータル]が不死なのは、
あくまでも己の世界の理[リアリティ]においてのみなのじゃから」
「……という事は、世界の侵略行為ってのは、
他の世界に助けを求めて、世界自身が行っているというの?」
「然り。
とはいえ、不滅存在[イモータル]も馬鹿ではない。
世界が行うのは、次元回廊[コレダー]をつなぎ、迷い人が来るのを待つだけの消極的なものじゃ。
ならば、より、能動的に動いてしまえば良い。
殺される前に殺す。
即ち、その世界を侵略して、己と同じ世界の理[リアリティ]に変えてしまえばよい」
「筋は通ってるねぇ」
「いや、実は、スルターンの受け売りなのじゃがな」てれっ
「え?」
「うむ、妾の世界イプセプスじゃがの、ラパ・ヌイとの戦争中、
スルターンが不滅存在[イモータル]になった事で、状況が好転してな」
「両方の世界に、不滅存在[イモータル]がいる状態だったんだ」
「うむ、で、イプセプス側から、ラパ・ヌイを侵略した。
これで1本しかなかった次元回廊[コレダー]が2本になってな」
「ああ、そういう事か!
じゃ、最初に言っていた見た事のある能動的な侵略をした世界って、ラパ・ヌイと自分の世界か」
「うむ。で、じゃ。
そこで、最初の敵の目的に戻るわけじゃが、
不滅存在[イモータル]の戦争目的は自己防衛で良いとする。
では、侵略に加担しておる他の者達は、何が目的じゃと思う?
この場合は、ラパ・ヌイ軍[クンガヌ・マヌイ]じゃな」
「目的、領土を広げたいから?」
「実は、複数あっての。
第一は、万物構成物質[マナ]の補充、
第二に、新たな魔法知識、
第三に、名声じゃよ」
「富とか、奴隷じゃないんだ」
「いや、富であっておる。
じゃが、妾が見てきた中では、
あの世界の貨幣概念は、かなり変わっておっての。
殆どの世界の場合は、希少鉱物が通貨になるんじゃが……。
ああ、まぁ、その事は後に回すとするか」
「少し話を変えようかの。
お主達の世界は、何と呼ばれておる?」
「うーん。地球やガイア、アースとかが有名どころかなぁ」
「すまぬが、もう少し、語彙の違いを意識して話してくれんか?
翻訳されても違いが無いので“地球や地球、地球とかが……”と
翻訳されてしまっておる」
「んーちょっと待って。調べるから」カチャカチャ
ノーパソで検索をかける。
「日本語、ギリシャ神話、英語……で、
それぞれ世界という意味」カチャカチャ
「ところでの、シグレよ。
先程から使っておるソレは何じゃ?
教本の類の物と思っておったのじゃが」
「ん?ノーパソの事?それとも、画面の事?」
「よく判らんが、どっちもじゃ。
ここまで高度な技術じゃと、呪法【純潔の誓い】の知識共有では、なかなか追いつけぬようのじゃ。
知りたいと思うイメージで検索しても“電源”入れて“キーボード”ないしは“マウス”を操作するだけ、という知識だけで、お主様のやっているような使い方までは、理解できん。
感情の機微や、無意識下の行為、深層意識化に入るとお手上げじゃ」
「あー。そうだね、どういう説明をしようかね……
インターネットとかは……」
「知識共有のみでは、あまりあてにならんか……。
これはあれじゃな。
性魔術【恋人達の抱擁】を使った方が判りやすそうじゃな。
のう、お主様?」
「え?
いや、あれは、やばい。
特に下半身が。
ていうか、確実に11回戦です」
「そ、そろそろ、中休み前の準備運動も良いのではないかの?
いや、別に妾はそのような、
はしたない事を誘っているわけではないぞ?」
じゅる
離した身体をくっつけて来る。
もう、我慢できなくなったみたいだ。
いや、それを言ったら、さっきから僕も臨戦態勢!!
五感が歓喜をあげてる。
ヴラドは僕の手に手を這わせると、目を閉じ、顔を向ける。
「……シグレ」んっ
やばい、止めれない。
「ヴラド……」
「んっ」くちゅ。
啄ばむ様に、唇を合わせる。
性魔術【恋人達の抱擁】が発動する。
更に、肩を抱き寄せ、今度は、長く唇を合わせる。
ヴラドがトロンとした目で、舌を出す。
口の中に迎え入れてやり、粘液ごと愉しむ。
ちゅぷ、ちゅぱ、と淫猥な響きが辺りに響く。
ガタン!
それは、多分、小さな音だった。
廊下の方から聞こえた、何かがぶつかる音。
だけど、その音が、桃色に溶け掛けていた理性を元に戻した。
一瞬の思考で、戸隠さんと漫画と夜10時が浮かぶ。
そうだ、今、何時だっけ?
近頃、夜、勝手に家を訪ねてくる美少女、戸隠さん。
この前は、確か10時ぐらいに勝手に書斎を漁ってた。
唇を離し、時計を見る。
夜11時すぎ。
あ、もう来てる時間だ!
部屋の扉を開ける。
ヴラドから身を離すのは、死ぬより辛いけど、今はそれどころじゃない気がする。
「戸隠さん?」
暗闇に声をかける。
いないのかな?
書斎に向かう。
扉を開けたが、今日は荒らされていない。
「戸隠さ~ん」
再び、闇に声をかけ、玄関より外に出る。
そのまま、門の外に。
門の外には、この前の戸隠さんの車はなかった。
なんて名前だったっけ?
紺色の角ばった……
確か、ジムニー。
あれ、何で、僕、戸隠さんの車の車種名なんて知ってたんだっけ?
ああ、そうか、親父の遺品の中にあったヒーローデータか。
特撮ヒーローで、宇宙警察シリーズで使用されていたからだ。
そうだっけ?
まぁ、いいや。
今は、戸隠さんの事。
門に戸隠さんの車はなかった。
来てないのかな?
僕は、自分の寝室へと帰っていく。
そこには憤怒の形相で、僕を待ち構えていた吸血鬼がいた。




