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セカンドパートナー 朝の徒花  作者: 八卦阿礼
第一章 関係の崩壊

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1-8.行動

電話を切った後、ボクはすぐに社内システムを立ち上げ、資材契約室の新しい室長である戸川さんのスケジュールを確認した。

カレンダーアプリに並ぶ予定を見ると、幸いにも今日の16時以降は空いているようだ。


明日からは世間一般で言うゴールデンウィークの5連休が始まる。

この連休が明けた後も宮本さんを仕事の不安で押し潰されたままにさせるわけにはいかない。

連休が明ける前に、必ず手を打つ必要があった。


ボクは自拠点の業務を急速に片付け、16時過ぎに戸川さんの携帯電話へ直接ダイヤルした。


「はい、戸川です」

「お疲れ様です、奈良です。

今、少しだけお時間よろしいでしょうか」

「おお、奈良くん!新天地はどうだい?」

「お陰様でなんとかやっています。

住めば都と言いますが、分からないなりに楽しく毎日過ごせてますよ。

ところで、実は戸川さん、前任者として少し、資材契約室の今の業務分担についてご相談がありましてお電話いたしました。」


世間話から一転してトーンを落とすと、受話器の向こうの戸川さんの空気がわずかに引き締まるのが分かった。


「宮本さんですが、彼女にOAトレーナーと働き方改革推進リーダーを任されたと聞きました。

戸川さん、率直に申し上げて、今の彼女にその二つの役割を上乗せするのは時期尚早です。

業務量が彼女のキャパを完全に超えています」


ボクの言葉に、戸川さんは少し戸惑ったような声を返してきた。


「いや、彼女は前職がシステム系だろう?

だから適任だと思ってね。

それに、引き継ぎの時にも君は彼女のことを『優秀でトラブルの心配はない』と太鼓判を押していたじゃないか」

「確かに彼女は優秀です。で

すが、優秀とはいえまだ入社して半年の人間なんです。

前職の経験があるからといって、製鉄業の複雑な資材契約の基礎が半年で完璧に身につくわけではありません。

しかも、今は4月の定期交渉と単価改定が重なる資材契約室にとって一番の繁忙期です。

本業の基礎すらまだ暗中模索の段階で、新規案件の重責まで背負わせるのは酷です」


ボクはあらかじめ手元に用意していた、資材契約室の年間業務スケジュールと、それぞれのタスクにかかる想定工数のデータを論理的に頭の中で組み立てながら、言葉を続けた。


「もっと育てるって視点からも、新しい業務をただ任せるだけじゃなく、今の業務量がこなせているかをしっかり見極めてあげて欲しいんです。

このまま負荷をかけ続ければ、彼女のような真面目なタイプは潰れてしまいますよ。

それは会社にとっても、優秀な人材を流出に繋がりかねません。」

「確かにね……。」



戸川さんが小さく唸った。

「優秀だから大丈夫」という甘い見立てが、どれほど危険な状態を招いているか。

ボクの「前任者としての苦言と提案」は、ロジカルに、そして確実に戸川さんの胸に刺さったようだった。


「分かった、奈良くんがそこまで言うなら、私の見極めが甘かったかもしれない。

連休が明けたらすぐに面談をして、OAトレーナーの兼務については他のベテランに振り分けるか、時期をずらす方向で調整するよ」

「ありがとうございます。

是非よろしくお願いいたします。」


戸川さんとの通話を終え、ボクは息を吐きながら、間髪入れずに今度は人事室のキャリア採用担当者の携帯番号へと指を動かしていた。

念には念を入れる。

戸川さんへのアプローチだけでなく、人事側からも「中途採用者の定着率」という観点でフォローを入れてもらうための根回しをしておくためだ。


夕方の事務所。

窓の外はすっかり茜色に染まっていた。


「よし……」


これで、連休明けから彼女の環境は少しずつでも変わるはずだ。

受話器を置き、机の上のスマホに目をやる。

画面は真っ黒だ。


ボクが今日したことは、あくまで「前任の管理職」としての正当なリスクマネジメントだ。

だけど、ここまで必死になって裏で動き回ったとしてきちんと結果に繋がらなければ彼女の置かれた状況が改善されたとは言えない。

今の彼女は精神的疲弊と孤立状態にある。

普段の業務についても文字だけのチャットではなく、言葉を交わしながらコミュニケーションを取った方がいいだろう。


(これで少しはマシになる、程度かな。

ちゃんと体制が整うまではボクもフォローをしよう。)


受話器を置き、机の上のスマホに目をやる。

画面は真っ黒だ。

ボクは彼女が今頃、少しでも穏やかな気持ちで連休を迎えられていることを、心の底から願っていた。

本作は第15回ネット小説大賞に応募致します。


もし少しでも面白い、スカッとしたと思ってくださったら、ページ下部の☆やフォローで応援していただけると、コンテストを戦う大きな力になります!


是非よろしくお願い致します!

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