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セカンドパートナー 朝の徒花  作者: 八卦阿礼
第三章 閾値の崩壊

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3-13.計画開始

やってやるんだ!


穂花とあの元上司の会話を完全に捉える。

そのために、俺は盗聴をすることを決意した。


決意したからには、確実に、そして絶対に露見しない方法を考え抜かなければならない。


最初は、彼女のスマートフォンに遠隔操作や音声録音ができるアプリを忍び込ませることを考えた。

だが、不倫調査サイトを読み進めるうちにそれは不可能だと悟る。

こういったアプリは危険なものが多いため、信頼出来るものになると有料だ。

穂花のスマホでアプリストアからダウンロードする際にパスワードが必要となるが分からないし、万が一指定したメールアドレスに通知でも飛ばされれば一発で計画が水の泡になる。


ならば端末自体の改造か?

それも素人の俺には技術的に無理だ。


では、古典的な盗聴器を彼女の通勤鞄の底にでも仕込むか?

いや、それも現実的じゃない。

盗聴器のバッテリーが切れるたびに彼女の目を盗んで、あの神経質なまでに整頓された鞄の中身を何度も漁って電池を入れ替えるのか?

そんなのリスクが高すぎる。


何か、彼女自身が自発的に持ち歩き、自ら進んで充電器に挿してくれるような、そんな都合のいい道具はないか。


ネットの専門ショップや闇サイトの海を貪るように泳ぎ、何十種類もの機材を比較検討する中で、俺はついに「完璧な答え」を見つけた。

それは、ポケットWi-Fiルーターとモバイルバッテリーに擬装された盗聴器だった。


見た目はどこからどう見ても、大手メーカー製の最新のルーターとバッテリーそのものだ。

機能としても実際にWi-Fiを飛ばせるし、スマホの充電もできる。

だがその内部には、周囲の音声を鮮明に拾い、リアルタイムで俺の端末に転送する最新鋭の集音マイクが仕込まれていた。

これなら、電力が減れば穂花が自分自身でコンセントに挿して充電してくれる。

毎日肌身離さず持ち歩いても、一切の不自然さがない。


俺は万全を期すために、それぞれの擬装器を二つずつ、計四つの端末を購入した。

一つがバッテリー切れを起こしたときの予備、そして自宅用と職場用として確実に音を拾うためだ。


準備を整えた俺はリビングで寛ぐ穂花に向かって、極めて平穏な、いつもの冴えない夫の声を意識して話しかけた。


「穂花、ちょっとお願いがあるんだけど。

これ、一ヶ月ほど実際に使ってみて、使用感に関するアンケートを書いてくれないかな?

仕事で、新規事業のモニターサンプルを預かったんだよ。

提出したら結構いい額の謝礼も出るみたいだからさ、お願いできない?」


そう言って、箱に入ったWi-Fiルーターとモバイルバッテリーを差し出す。

ガジェットに詳しくない穂花は、俺の仕事での付き合いの一つだと思ったのだろう。


「いいよ~、明日から使ったらいい?」


何一つ疑うことなく二つ返事で受け取った。

翌日、罠はきちんと機能している。

完璧だ。


その日から、穂花が自分の部屋にいるときも、職場にいるときも、彼女が誰とどんな会話を交わしているのかが俺のイヤホンを通じて鮮明に聞こえるようになった。


盗聴器を渡してしばらくの間は、田舎の祖母の急な葬儀と重なったこともあり、これといった進捗はない。

ただ、一つだけ気になる点があった。

葬式の直前あたりから、穂花が誰もいない部屋で「はぁ……」と、重苦しい、焦れたような溜め息を何度もつく声を拾っていたことだ。

何か思い通りにいかないことがあって、酷くイライラしている。

その苛立ちの理由が例の男に関することだと、脳内の点と線はすでに繋がっていた。


そして、十月中旬のある日。

仕事の休憩中、俺がイヤホンを耳に押し当てて職場のデスクにいる穂花の声を聴いていたとき、ついにその瞬間が訪れた。


周囲の雑音に混じって、スピーカーから聞こえてきた穂花の声。

それは最初はなんとも落胆したような声だった。


「あ、懇親会も22日…。」


どうしたんだろう?

懇親会がそんなにも嫌だったのだろうか?

最初はそう思った。

しかし、しばらくした後、あの陰鬱な溜め息とは対極にある、あからさまな歓喜と喜色を孕んだ、弾んだトーンだった。



「22日♪22日♪」


愛おしい恋人の名前でも反芻するように、彼女は「22日」という日付を嬉しそうに口にしていた。


そのすぐ後だ。

俺のスマートフォンが震え、穂花からのメッセージが表示された。


「彰将さん、10月22日って何か予定あったかな?

友達と食事に行っていい?」


俺はすぐに気が付いた。

ついに。


タブレットの画面を見つめたまま、俺の唇がゆっくりと歪な弧を描いて吊り上がっていく。

友達と食事か。

本当に、健気なほど分かりやすい妻だ。

お前は元上司の男と会うために、懇親会を断ってまで行きたいんだな。

どれだけ待ち望んでいたのか、俺はすべて知っている。


「ううん、特に予定はないよ。

ゆっくり楽しんできてね。」


俺は淀みない優しさで返信を打った。

10月22日。

この日だ。

二人がすべての警戒を解いて密会する、決戦の日は。


舞台整えは、すべて完了した。

俺は手元のノートを開く。

さて、当日の計画を立て始めるか。

本作は第15回ネット小説大賞に応募致します。


もし少しでも面白い、スカッとしたと思ってくださったら、ページ下部の☆やフォローで応援していただけると、コンテストを戦う大きな力になります!


是非よろしくお願い致します!

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