この度は弊社の「人を傷つけないSFアンソロジー」が大変申し訳ございませんでした。
ジョークです。偉い人に怒られたら消します。
【記者会見】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、作中において登場人物が誰一人として傷つくことなく、互いを思いやり、穏やかで幸福な日々を送る姿を描いた作品集でございました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「登場人物が全員幸せなのを見せつけられて傷ついた」
「こちらには存在しない幸福を、執拗に提示された」
「幸せなSFを読んでいるうちに、自分の人生について考えさせられた」
「読者の家庭を想定していない。私たちは苦しんでいるのにどうしてこんなものを見せるのか」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
幸福を描けば、それによって誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
「それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「まずは幸福な描写を可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見2回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF2』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、作中において登場人物が誰一人として傷つけないよう、人間を登場させず、AIやロボットを主題とし、来るべき近未来の姿を描いた作品集でございました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「AIやロボットのみを取り上げ、人間を排斥したことによって結果的に人間を傷つける未来を暗示しているのではないか」
「人物がいないことに加え、特定の人種が登場していないのは差別ではないか」
「人間が出ないことによって深みがなく、またAIを推奨し人類の仕事を奪う行為を促す姿勢を感じられた」
「出版社としてAIを是とする本が出ることに憤りを覚える」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
人間を出さなければ、それによって誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF2」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「まずは人間を増やし、AI・ロボットを可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見3回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF3X3』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、作中において登場人物1名が穏やかな日々を送る姿を描いた作品集でございました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「男性が主人公の話を読み、非常に性差別的な思考を提示された。許すことができない」
「女性が主人公の話を読み、非常に性差別的な思考を提示された。許すことができない」
「性別が存在しない人類の存在は性別を持つ人間に対して否定的な考えで、許すことができない」
「性別を選べる人類の存在は医学上の課題を抱え、生命倫理に反していることで許すことができない」
「身体的欠損を抱えた人間の存在が無いため、五体が満足でなければ作品内に存在してはいけない気がするため、許すことができない」
「精神的疾患を持つ人間が存在しないため、私が傷ついた。許すことができない」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
登場する人物によって誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF3X3」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「出生の個性を可能な限り増やし、削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見4回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF 4u』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、全てのページを白紙で提出する作品集でございました。区分としては現代アートに分類されます。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「金を返せ」
「本ではない」
「日記帳の方が機能的」
「企業イメージを一番傷つけている」
「環境破壊は気持ちいいか?」
「作家の表現を認めない敗北企業」
「詐欺商品」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「何も書かない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
お金を払えば誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF4u」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「白紙を可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見5回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・配布いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF 5days』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、読者から寄せられたアイデアをすべて盛り込み、「誰も傷つかない」物語を描いた作品集であり、金銭を一切頂かない形で配布いたしました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「男であり女であり無性別であり性別が存在しないというのはどういう状況なのか理解できない」
「無料だから読んだけどこれなら自分もプロになれると思った」
「差別がないことで差別化されない。つまり何が何だかわからない」
「本当に良いものを作ろうとしているのか分からない」
「金のない仕事に責任なんてない」
「13歳です。難しい漢字や概念ばかりで読めませんでした」
「そもそも日本語で書かれていることで外国人読者を置き去りにしていることを検討していない」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
読者からの最高のアイデアであっても、それによって誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF5days」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「読者のご意見は今後可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見6回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・管理いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF 6sense』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、数多の言語、数多の民族、数多の性別、数多の病状・障害を考慮し、架空言語にて本文を記載、また、書籍は一冊のみの印刷を行い、社内に厳重に管理させていただきました。読者が存在しないことで、誰も傷つかないSFを実践しました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「せめて読ませろ」
「日本語で書け」
「なら告知するな。作るな」
「このシリーズが続いていること自体がもう人を傷つけているレベル」
「このシリーズ全部揃えているので早く売ってほしい」
「出版社に問題がありすぎる」
「読めない方が傷ついた」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
読めないことで、誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSF 6sense」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「改善点を改善しても苦情が来るので、改善すること自体を今後可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見7回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰かを傷つけるSF』につきまして、読者の皆様に多大なるご期待を頂き、無事100万部を突破することができました。
本作は、「誰か傷つけるSF」をコンセプトに掲げ、作中において過激な人体改造、異星人との空想科学、狂気的な倫理違反を肯定した社会、ディストピア世界における民族の在り方など、様々な「人を傷つける」作品集でございました。
しかしながら、その「人を傷つける」という表現そのものについて、
「面白かった」
と、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰かを傷つけない」ことが、必ずしも「面白い」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
面白ければ、それによって誰かの思い出になる可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つけ方」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「まずは我々の想像力が、差別のない社会に向かって進んでいくために、名作を生む作家を守っていきたいと考えております」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見8回目】
(深々と頭を下げる管理職たち。それに合わせてシャッター音が雨のように浴びせられる。出版社の代表取締役が顔を上げ、マイクを握った。握った手が震えている様子が伺える)
【代表】
――この度は、私どもが制作・販売いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSFlucky7』につきまして、読者の皆様に多大なるご不快と精神的苦痛を与えましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本作は、「誰も傷つかないSF」をコンセプトに掲げ、作中において文字を使用せず、様々な香り豊かなページを用意し、紙をめくるとドレミファソラシドが鳴るように工夫が凝らされた作品集でございました。
しかしながら、その「誰も傷つかない」という表現そのものについて、
「は?」
「電車内が臭い」
「絶対音感持ち以外楽しめない」
「指先が数多のにおいが混ざって地獄」
「楽器」
「何も学んでいない会社」
など、読者の皆様から多数のご意見を頂戴いたしました。
私どもといたしましては、「誰も傷つかない」ことが、必ずしも「誰も傷つけない」ことにはならないという点について、認識が不足しておりました。
匂いや音によって、誰かが傷つく可能性がある。
その当たり前のことに、私どもは気づくことができませんでした。
今回いただいたご意見を真摯に受け止め、今後は「傷つかない」という言葉の意味について、より慎重に検討してまいります。
次作以降につきましては、今回の反省を生かし、SFというジャンルをより一層盛り上げていけるよう、制作陣一同、誠心誠意努力してまいります。
最後になりますが、この度は「誰も傷つかないSFlucky7」によって傷つかれた皆様に、改めまして深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。
(深々と代表取締役が頭を下げる。再びシャッター音が鳴り響いた。)
【司会】
それでは質疑応答の時間とさせていただきます。そちらの方、どうぞ」
【記者】
「なろう新聞の記者です。次作では具体的にどのような改善を?」
【代表】
「まずは五感の使用を可能な限り削らせていただく所存です」
【司会】
「――以上をもちまして、会見を終了させていただきます」
【記者会見9回目】
(会場は静まり返っている。いつものように管理職たちが深々と頭を下げている。しかし、今回は誰もシャッターを切らない。代表取締役がゆっくりと顔を上げ、マイクを握る。その手は、もう震えていなかった)
【代表】
――この度は、私どもが制作いたしましたSFアンソロジー『誰も傷つかないSF ∞(インフィニティ)』につきまして、皆様にご説明させていただきます。
本作は、「誰も傷つかないSF」というコンセプトを掲げ、これまでの反省をすべて踏まえた上で制作された作品でございます。
第一作では、幸福を描くことで読者を傷つけました。
第二作では、人間を描かないことで読者を傷つけました。
第三作では、登場人物の属性によって読者を傷つけました。
第四作では、何も書かないことで読者を傷つけました。
第五作では、読者の意見を取り入れることで読者を傷つけました。
第六作では、誰にも読ませないことで読者を傷つけました。
途中で挟まった「人を傷つけるSF」では、誰かを傷つけることで、結果的に多くの方々に楽しんでいただきました。
第七作では、五感そのものを刺激することで、多くの方々を傷つけました。
そこで私どもは、ついに気づいたのでございます。
「誰も傷つかない作品」を作ることそのものが、間違いだったのではないか、と。
そこで本作では、物語を用意いたしませんでした。
文章はありません。
紙、電子データもありません。
設定も存在せず、登場人物も世界観もありません。
作者もおりません。
出版社も関与しておりません。
そもそも、本作は制作されておらず、販売も配布もしておりません。
皆様のお手元には何も届かず、もちろん、購入代金をいただくこともありませんでした。
したがいまして――
本作によって傷つく方は、誰一人として存在しないものと考えております。
(会場に沈黙が落ちる。)
【記者】
「……では、今回の会見の意図はなんですか?」
【代表】
「……」
【記者】
「……え?」
【代表】
「……その点につきまして、現在、社内で慎重に検討を――」
【記者】
「いや、なにこれ?」
【代表】
「……」
【記者】
「言葉を借りるのであれば、呼び出された我々は何のためにここに呼ばれたのでしょうか? 非常に傷ついておりますが、その点については?」
【代表】
「…………」
(代表取締役が青ざめる)
【記者】
「そもそも、こんな会見を開くことで今までの購入者も傷つき、株主も大いに荒れ狂うのでは?」
【代表】
「………………」
【記者】
「傷つく人は、間違いなくいますよ」
【代表】
「……仰る通りです。ーー弊社では、誰かを傷つけてしまう。したがって、弊社を解散させていただきます」
【司会】
「――え?」
【代表】
「これをもちまして、弊社は解散いたします。会社が存在しなければ、弊社によって傷つく人も存在しません。記者会見も、今後一切行いません。本シリーズも、これをもちまして終了とさせていただきます。長らくのご愛顧、誠に――」
(そこで代表取締役が言葉を止める)
【代表】
「……驚きました。私が一番、この事実に傷がついている。でも、これ以上他者を傷つける存在は、私以外にいなくていい」
【記者】
「……」
【代表】
「……ありがとうございました。」
(深々と頭を下げた)
【後日談】
会場には、誰もいない。
記者もいない。
カメラマンもいない。
そもそも、この会見を報道する媒体もない。
なぜなら、もうあの名物出版社は、もう存在しないからである。
――こうして、「誰も傷つかないSF」シリーズは、誰も傷つけることなく、静かに幕を閉じた。
ただ一つだけ。
後日、出版社跡地に貼られた解散公告を見た元読者から、
「こんなに好きだったシリーズを勝手に終わらせられて傷ついた」
という苦情が一件だけ寄せられた。
もちろん、その苦情を受け取る会社は既に存在しなかった。




