第6話 そうして2人は真なる相棒になった
ようやく本当の冒険の幕開け
馬車が街の喧騒を離れる中、シヅキは考えた。
この先、どうすればいいのか。
さっきの経験で、一人で旅をするのは危険すぎると痛感した。
あの時のような悪意に直面したとき、自分一人で生き残れるのか?
知識も経験も圧倒的に足りない
そんな自分が、生き残る方法なんて――
(いや、一つだけ『ある』――誰よりも現実的で、知識と経験が豊富で、教えるのが上手そうな人に頼るという、方法が。)
迷う。信用できるのか?
師事を願えば、騙されるかもしれない。むしろ利用される可能性の方が高い。
それに、受け入れてもらえるだろうか……。
(……無理かもしれない)
だが、これしか方法はない。このままでは生き残れない。
駄目元で挑むしかない――
馬車が揺れる。
(やるしかない……!)
「……ねえ、フェイ」
隣で本を読んでいる少年に、シヅキは声をかけた。
「……何だい?シヅキ」
「僕に、この世界のことを教えてほしいんだ!」
精一杯の勇気を振り絞り、目をつむって叫ぶ。
(言っちゃった……膝の力が抜ける……)
「……」
「……」
『……』
フェイは何も言わず、ただシヅキを見つめる。
シヅキも言葉が出ず、泣きそうになりながら押し黙るしかなかった。
ひたすら気まずい。
(うわああ……何考えてるの、怖い……!)
「あのっ」
シヅキが何か言葉を発する前に、フェイが先に口を開いてシヅキの言葉を被せてきた。
「君はこう思っているんだろう――
『世界がどれほど過酷か身にしみた』
『何も知らない自分がたった1人で旅をするのは危険すぎる』
『だから、現実的で経験豊富そうな僕に師事しようと思った』
『どうせこのままではいずれ積むから、駄目元で教えを仰ごう』
まあ、こんなところか。」
(!? どうしてここまで正確にわかるの!? まさかエスっ)
「ちなみに、さっき言ったのは推測しただけ。エスパーじゃないからね。」
「心読むのやめて!?」
フェイは本から目をそらさず、クスクスと笑う。
「まあ、最初に会った時よりは成長したと言っていい。悪くない考えだ。」
「じゃあ!」
希望に満ちた目でシヅキが顔を上げた瞬間、フェイは言った。
「だが、断る」
盛大に上げて落とされた。
「何で!?」
シヅキは涙目になった。
「一つ、僕にメリットがない。
二つ、利用前提なのが気に入らない。
三つ、駄目元とか甘い。
四つ、信用も対価もなしで教われると思うな。
五つ……覚悟が足りない
『毒を食らわば皿まで』って言葉、知らないのか?」
一つ残らず正論で、シヅキを叩き潰すような言葉ばかりだった。
(……駄目だ。本当に僕が悪い……)
だが、その瞬間、シヅキは気づいた。
師匠が自分に旅をさせた理由に――。
(ああ、そうか。だから旅をしろって言ったんだ!……なら、やるしかない!!)
「それでも、僕は君に教わりたい。君と旅をしてみたいんだ」
声が震える。
情けないくらい、足も手も力が入らない。
怖い。
断られるのが怖い。
利用されるのも、捨てられるのも、全部怖い。
でも――
フェイは目を細めた。
「う〜ん?普通ならここで引くでしょ?
それでも君は僕と旅をする意味を見いだす、と?」
「……初めてだったんだ」
喉が詰まる。
「世界を旅するのも。
血の匂いも、人の裏切りも……全部、初めてで」
うまく言葉にならない。
それでも、止まれない。
「正直、怖かった。逃げたかった。
こんなの知らないままの方が、絶対に楽だった」
拳を握る。
「でも……それでも、諦めたくないんだ」
顔を上げる。
「知らないまま終わるのだけは、嫌なんだ」
息が荒れる。
胸が焼ける。
「だから――」
一歩、踏み出した。
「君と旅がしたい」
「君みたいに現実を知って、それでも平然としてる奴の隣で。
君の隣で、同じ景色を見て、それでも逃げない人間になりたい」
唇を噛む。
みっともなくてもいい。格好悪くても、嫌われても構わない。
それでも――
「僕は……!」
言葉が喉に詰まる。
それでも、止まらない。
「僕は君と旅をしたいんだよ!!」
馬車の中に、叫びが響く。
「僕を利用していい。捨ててもいい。
それでも――」
涙で視界が滲む。
「僕は、僕の意志で、君についていく!!!」
静寂。
馬車の軋む音だけが響く。
フェイは本を閉じ、初めて真正面からシヅキを見た。
(……なんて無茶苦茶な愚か者だ)
(でも――悪くない)
(この重さは、本物だ)
「ぷっ……くくっ……あははははは!」
フェイは突然、腹を抱えて、涙目になりながら笑い転げた
「あ〜もう、こんな熱烈なプロポーズをされたのは初めてだよ!」
「プロポーズ!? いや、違っ、そういう意味じゃ……!」
シヅキは赤面し、言葉を失う。
「面白い!だが、最低限の代償はもらうぞ?
君が一方的に受け取るだけじゃフェアじゃない。
何かを貰うなら、何かを渡す――最低限の礼儀だ。
君は僕に何を差し出す?」
フェイは悪魔のように笑い、シヅキに近づく。
「僕と旅をしてくれるなら、話し相手をしてあげる」
「ほ〜う?理由は?」
「旅は退屈だ。ひとりじゃ寂しいし、怖い。
だから話し相手をしてあげる。それだけで旅に彩りが出る。
今の僕が差し出せるのは、それくらいだ」
「ふ〜ん。いささかしょっぱいが、まあいいだろう。
退屈は嫌いだし、話し相手があるなら越したことはない。交渉成立だ」
「改めて自己紹介しよう。初めまして、僕の本当の名前は――」
フェイは一瞬だけ言葉を切り、シヅキを見た。
「ロキ。僕の名前はロキだ。これからよろしく、相棒さん?」
皮肉げに答えながらも、フェイ――いや、ロキは、ゆっくりと手を差し出した。
――それが、二人の最初の握手だった。
真の相棒が契約関係って珍しいと思う(笑)




